【道敷大神】vs【黙示録】in播磨

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:20 G 63 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月25日〜04月08日

リプレイ公開日:2009年04月08日

●オープニング

 出雲より沸き出る死人の群れ。かの地で復活した黄泉人は、先の大和での戦を一笑するかのように着々と勢力を広める。
 発端出雲は元より、石見、安芸、伯耆、備後、備中、美作、因幡、但馬、丹波と、数多の国がすでに死の支配に飲まれていた。
 増える死人は国境を溢れ、さらに生者を求めて移動する。被害は拡大するばかり。
 長門、丹後、そして山城などなど。勿論、播磨も例外ではない。


 播磨は、都の西に位置し、街道・山陽道と播磨灘を用いた海路を有した西方への交通要所でもある。
 国は幾つかの藩からなるが、その中枢となるのが姫路藩。
 未曾有の危機にあたり、姫路藩主・池田輝政を頼るのは自然の流れだった。
 姫路藩指揮の下、空腹も疲労も知らず、食べる事も休む事も無くただひたすら行軍してくる相手と兵を交え、それを抑える。
 数では向こうが圧倒的有利。それでもどうにか抗してこれたのは、人以外の動きもあったからでもある。

 姫路藩中枢・白鷺城。そこでは黄泉人に対する対策も、昼夜を問わずに話し合われる。
「向かってくる死人のほとんどは単なる死人憑き――いわゆる雑魚だ。農民が鍬でぶっ叩いてもいい。慌てなきゃどうとでもできる。
 厄介なのは、国境越えて入り込んでくる黄泉人の奴らだが‥‥、なぁに、死の穢れふぜいにやられる俺様の手下じゃぁない。きっちり見つけて始末しているだろ?」
 精霊、鬼、妖怪――そしてデビル。人に比べれば些少ともいえる数だが、それでも彼らの力は侮れない。脳の無い死人では敵にすらならない者も多い。
 それらを現在統治するのは、今藩主の前にいる美女。
 かつて、播磨一帯は長壁姫という妖怪が他の妖を統治していたが、これを圧して成り代わった存在。長壁姫の姿を模してはいるが、その正体は別である。
 せせら笑う偽姫に、藩主はただ黙って睨みを入れる。
「国境で大半をお前たちの兵で押し留め、取りこぼし隙見て入り込んだ奴らは俺さまの手勢が始末する。それでどうにか侵略を食い止めている。‥‥で、それのどこが不満なのだ?」
「そうだな。強いていうなれば、貴様の正体か」
 不服そうにしている藩主に、偽姫がきょとんと目を丸くした後、豪快に笑う。
「ははっ、確かにな」
「長壁姫の姿で目を欺き、仕える者たちを死地に送り込む。妖怪たちとはいえ、騙される者たちは憐れだ」
 嫌味十分に嘆く輝政だが、それを偽姫は鼻で笑う。
「姿は同じとはいえ、前の奴とは違う。てめぇでも分かる事を奴らが気付かねぇと思うな。奴らも馬鹿じゃねぇんだ。むしろ、姫の安寧第一のつまらねぇ支配から逃れ、力を振るえる事に喜ぶ奴らは多いんだぜ」
 肩を竦めておどけてみせる偽姫。輝政は何も言わずただじっと睨むように見据える。

 そこへ、ばたばたと廊下を走ってくる足音が聞こえてくる。
「申し上げます。ただいま戦線より早馬が! これまでを上回る数の死人が播磨に押し寄せてきております! 死人の数だけでおそらく数千を越え、さらに埴輪の群れ、死せし獣もまた蘇り従い、怨霊死霊が飛び交い‥‥。総数は恐らく万を越えると見られます!!」
「何と!!」
 報告を受け、輝政が気色ばみ立ち上がる。不自然に血色の悪いその体がふらりと傾いだが、幸い家臣に気付かれること無く体勢を整えると、表情を歪めて座りなおす。
「落ち着け。奴らがちょいと本気になったというだけさ。お前らがやる事は同じ。進軍を食い止めるべく、交戦あるのみ」
 その様子を冷たく見つめながら、偽姫が告げる。
「しかし、有象無象が大半とはいえ、それ程の数‥‥。播磨全土から兵をかき集めても半数に及ぶかどうか。出来たとしても、他の地が手薄となり、恐らくそこを突かれる」
「心配ねぇよ。兵ならそこら中にいる」
 あっさりと告げる偽姫に、輝政はいぶかしんだが。
「まさか! 民を戦わせる気ではあるまいな!」
 詰問すると、相手はあっさりと肯定の笑みを見せる。
「民を巻き込むなとか抜かすがな、向こうはそんな事構っちゃくれねぇんだよ! 守られるだけの命にどれだけの価値がある! てめぇの命ぐらい、てめぇで守れ! 生を望むなら戦って勝ち取れ!」
 ふとその笑みを消すと、恫喝。言葉に詰まる輝政に、さらに冷たい一瞥をくれる。
「ただな。今の戦い方では守り一辺倒。状況の悪化は防げても好転は望めねぇ。何より性じゃねぇ。奴らが撃ってきたなら逆に好都合だ。指揮官を潰せば、少しは楽にはなろうさ」
 かと思えば、おどけるように両手を上げる。
「元より死人どもは命令で動いてる訳ではないだろうが、黄泉人がいなくなれば数が増える事は無い。‥‥しかし、その相手をどう探す。おそらく奴らとて早々最前線には出て来まい」
 黄泉人にしてみたら死人憑きなどどうとでも作り出せる。そうして大量の手下を放ち、人間を疲弊させていけばいい。その方が楽なはずだ。わざわざ危険を冒しに出てくる必要は無く、後方に控えていると考えていいはず。
「出てこないなら探せばいい。死者の群れに突っ込んで探し物なんざ、てめぇら人間には危険だろうさ。が、あいにくこちとら奴等が欲しがるような命は持ってねぇ」
「では」
「てめぇらは全力で万の死兵を押さえにかかれ。その間に俺と精鋭少数で奴らの頭を探す」
 しばし、沈黙が流れた。睨み合うような二人に、報告に来た家臣はただ状況を見守るばかり。
 やがて目線を外したのは輝政だった。
「急ぎ、そのように手配しろ」
「はっ」
 短い命令に戸惑いながらも、家臣は来た時同じに慌しく去る。
「妖怪どもも警戒に当たらせてやる。‥‥楽しい宴の始まりだ!」
 豪快に偽姫が笑うと、その姿が掻き消えた。


 気配が去った事を確かめ、一息つくと輝政の身が崩れ落ちる。
「殿。御無事ですか」
「ああ、無事だ」
 元より輝政は呪詛で倒れた身。この危機に寝ていては士気に関わると、無理やり動いているに過ぎない。
 慌てて傍付の家臣が助けるも、容態は芳しく無い。
「殿の容態に奴が関わっているのは明らか。何故、お斬りにならない」
「正式ではないとはいえ、奴とは黄泉人に当たるに際し休戦の約定を結んでいる。それをこちらから反故する訳にはいかない。それに‥‥口惜しいが、奴の采配する物の怪たちの動きで、国が助かっているのは否めない」
 疲れたように息を吐く輝政。しかし、気力を振り絞ると、身を起こし家臣に通達する。
「だが。奴の事だ。ただ、黄泉人を退治したいだけでもあるまい。京の冒険者ギルドに使いを。黄泉人にせよ、妖怪たちにせよ。早々、好き勝手にさせてはおけぬ。我らでは動けぬが、彼らならどうにかしてくれよう」
 どの道、播磨の兵だけで事に当たるのも限界がある。たとえ少数だろうと、他からの手は必要だった。
 承諾した家臣が馬を走らせるのを、輝政は暗い表情で見送った。
 今回の黄泉軍の動きが、都を狙う大侵攻であると京より知らせが届いたのは、その直後の事である。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1630 神木 祥風(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb5009 マキリ(23歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●リプレイ本文


 黄泉人たちの攻勢。
 京都がイザナミ率いる五万以上の黄泉軍勢に対抗しようとする中で、播磨からの使者が冒険者ギルドに駆け込んできた。
 播磨に現れた死人もまた万を越す。ただ、その主力は圧倒的に死人憑きが多い。京に攻め入るに辺り、増援を阻む事もまた目的なのだろう。

 播磨側の迎撃は整えてあるが、その中にはいろいろな問題が見え隠れする。
「いきなり、呼びつけて何のつもりだ。こっちも忙しいんだ。」
「そちらは城に自由に飛び込んでくるのに、呼ばれるのは嫌とは不公平と思わんか」
 白鷺城。謁見の間に姿を現した偽姫は、その美姫の姿のまま、醜く表情を歪ませる。
 ぞんざいな態度に、臣下たちは気色ばみ、城主・池田輝政もまた不快さを露わにする。
「ふん、まぁいい。そっちも悠長な事してる暇はねぇんだろ。さっさと用を述べろ」
 周囲をちらりと見下ろし、何か考えるようにした後、小さく偽姫は鼻で笑う。
 黄泉将軍を探そうとする偽姫に対し、播磨側の対応や動きや手はずなどを簡単に知らせると、それで話も終わり。
「くそつまんねぇ事考えてんじゃねぇよ。生きる為には戦え。それこそが生き物の本来の姿だ。そういう奴らに俺は幾らでも手を貸してやる。‥‥今回のようにな」
 くつくつと邪悪な笑みを漏らすその姿が浮かび上がり、空へ、北の黄泉人たちと消える。
 偽姫を睨みながら見送った後、深呼吸で気を静め、城主は隣の部屋に声をかける。
「これで間に合ったか? あまり長く留め置けなかったが‥‥」
「いいえ、十分です。ありがとうございます」
 控えていたゼルス・ウィンディ(ea1661)が、一礼を取る。
 ミラーオブトルース。ゼルスだけに見えている足元に出来た水鏡は映り込んだモノの正体も暴く。超越級の発動はまだまだ低いが、それでも一度発動すれば効果は長い。
「姫の姿は偽り。正体は筋骨たくましい男。アンデッドには見えず、似たデビルはいるものの、あれだけの強さを誇るというなら‥‥。つまりはあれが羅刹天ですか」
 その姿、これまで得ていた情報を加味してゼルスは見当付ける。
「どうも終始向こうの言う通りだね」
 その傍では、マキリ(eb5009)が渋面を作る。
 黄泉人が播磨に入ってきたのは半年ほど前からだが、播磨の中心姫路では混乱がそれ以前から起きている。
 混乱を起こしているのが偽姫と呼ばれる輩。今回、未曾有の危機に一時手を組む事としたが、信頼に足る相手ではない。
 が、それ以外の方策を打ち出せないのもまた現状か。
「さすがに状況が状況。気は進みませんが、今はこれが最善の方法でしょう」
「戦うのは文句ないけどね。流石に相手が多すぎるよ。でも、民の力も借りなきゃいけないのは事実だけど、民が戦い傷付くのは嫌だというのも良くわかる」
 現れた数が多すぎる。考えてる暇も無いのは確か。
 やはりゼルスも気は乗らない。
「だったら、普通の人たちは前線に出さず陣の構築や物資輸送とか手伝ってもらえれば、その分藩士の人も戦いに集中できるんじゃないかな。
 村との不和もあったけど、不死者と侍が戦ってる中で、なお侍を攻撃する程じゃないだろうし、偽姫の煽動役も今は藩への協力を促すはず。資材だけ持ってくるとか後方支援しやすい環境作ればやってくれるんじゃないかな?」
 マキリの申し出るが、城主の表情は晴れない。
「元より碌に戦えぬ者が戦場に出ても足手纏いになる。とはいえ、今回この人数差なれば、後ろばかり固めても意味が無い。それに民にも嗾ける輩がいるらしい。死人憑きを倒さんと血気ついている。それを押しとめてばかりでも不平も出よう」
 嗾ける不逞をけしかけているのが誰かは分かるが、今は実行犯をあぶり出し、探す間も惜しい。
「そのような事態なら、なお各所の守りを。何があろうと民の為という姿勢を貫く事が必要です」
 ゼルスに、城主は力強く頷く。その考えは変わっていない。
「ところで、桃の木はご用意しているでしょうか。黄泉人は桃の木を嫌うという習性が有るようです。幸いと言うべきか、今は丁度桃の花が咲く頃合ですね。民人にも協力頂いて、桃の花弁を集め、それを迎え撃つ戦場にばら撒いてみましょう」
 神木祥風(eb1630)が遠慮がちに口を挟む。
「一応、京での話は聞き及んでいる故、集めさせてはいる。しかし、死人憑きらが出現したあたりは山野の穢れも酷く、木々も根こそぎ破壊されているらしい。桃の細枝程度で本当に奴らが退けられるのだろうか」
 不安そうに告げる城主。話には聞けど、俄かには信じがたいようだ。無理も無い。
「先の戦にて、桃の枝を嫌うのは確実です。ただ、花弁にまで反応するかはあいにく‥‥。そちらは上手く行けば程度の気休めと考えて下さい。
 ただ、死人憑きや埴輪は桃に反応しませんから、人の姿であっても黄泉人であれば見分けられる筈。そうすれば、優先的に狙っていけるかと思います」
「兵も民も、魔除け代わりに持っておいて損はないだろう。あの枯れた鼻に、甘い花の香は我慢ならんのかもしれんな」
 霧島小夜(ea8703)も頷き、そっと懐に桃の枝を忍ばせる。
 古今東西、桃は邪気を祓う象徴。しかし、何故嫌うかはよく分からない。理屈でもないのだろう。有効であると分かれば、それで十分。
「ただし、いかに有効とはいえ、花や枝を取りすぎては木を害します。多数の桃の木を斬って利用するなどしては、後々には黄泉人に利する事になります。黄泉人たちが木々を枯らすのも、桃を恐れてと考えてます。なれば、なおさら絶やさぬように御注意下さい」
 念の為に注意を入れる祥風に、城主は分かっていると神妙に頷く。


 前線では、当に戦闘が始まっている。
 開戦の嚆矢も口上も必要無い。陣形など理解する頭も無い。死者たちはただ押し寄せ、そして襲い掛かるだけ。
 人同士の戦とはまるで違う。むしろ災害に対処する感覚だ。
「行きます!!」
 ゼルスがストームで先端を崩す。広範囲で荒れ狂った暴風は、死者たちを粗方後方へと吹き飛ばした。
「戦列も何も無し。所詮は脳の無い連中の集まりか。さて、抜け出せる知恵ぐらいは残ってるかな?」
 若いロック鳥の龍屠に乗り、同じく驚羽を従えて天城烈閃(ea0629)が上空から迫る。
 二羽の足元には事前に作り置き、束ねられた大網。空から大きく広げるとそれを死人たちの上に落す。
 動きを封じられ、死人たちが悶える。どうにか払おうとするがもがくばかりでどうにもならず、面倒そうに千切り出す。
「原始的な頭ぐらいは残っているか‥‥。痛みが無い分、どれだけ持つか」
 指がもげようと歯が折れようと、死人は怯まない。邪魔な障害も一度片付けてしまうと役には立たない。ただの縄をぶら下げて、のろりのろりと迫り来る。
 何より、網で捕らえられるのは極々一部に過ぎない。それらを回り込み、あるいは構わず踏み越えて後続の死者は続々押し寄せる。
 網の他に、粗忽人形による細工も作ってきたが、それもどこまで効果を出すか分からない。
「一班は三人一組。班同士で支援しあい、負傷時は後続の班が支援、負傷した班は下がって後方で治療を受けて下さい!」
 問題は、その災害は非情な悪意を持ち合わせている事。
 見渡す限りに広がる死の光景。立ち向かう手も震え、浮き足立つ播磨の兵に、ミラ・ダイモス(eb2064)の恫喝にも似た指示が響く。
 そうしながらも、自身、手にした斬魔刀で死人憑きの首を刎ね、胴を断ち切る。
 圧倒的多数を前に手数は足りない。囲い込まれて動けなくなる事もあったが、固めた防具が傷を阻み、アイギスの盾で押し返す。
「私たちはともかく。兵たちは囲まれない事、分断されない事が大事ですね。少人数になれば一溜まりも無い」
 小夜は名刀・村雨丸を両手でしっかり構えながら、死を斬り分ける。が、斬っても斬っても相手は出てくる。
 途方も無い大河の流れに立ち向かうよう。はぐれれば、たちまち飲み込まれ奴らの側に引きずり込まれる。
 オーラパワーやバーニングソードなどによる武器威力強化。エリベイションによる士気向上など。魔法を駆使する冒険者らにとっては対処も仕様があるが、寄せ集められた兵たちはやはり動きが鈍い。
 特に民たちは戦になれていない。
 怖気づいて退くならいいが、箍が外れてがむしゃらに攻撃に出ようとする者もいる。指示を聞かなくなるので、そっちの方が厄介だった。
 加えて、死人憑きであっても、元は何処かの藩士だったのか、それとも旅かあるいは偵察の途中だったか。体技に長けたり魔法を使う者も稀に出てくる。油断は禁物。
 遠方で上がる派手な精霊魔法は誰のものか。妖怪たちも藩士の動きに合わせ暴れているはずだが、そちらにまで目を配る暇も無い。
「ところで、偽姫とやらはどこに消えたのでしょう。まさか、この期に及んで逃げた訳ですかね」
 無表情な埴輪に、野太刀・物干し竿を脳天から叩き込む山王牙(ea1774)。
 黄泉将軍を探すとした偽姫だが、その動きは城から飛び立ったままふつりと途絶えている。
 将軍を探しているとしても、宛ても無く彷徨っているとは考えにくい。最悪、こちらが囮にされかねないと警戒していたが、混乱に紛れた相手を探すのは厳しかった。
「埴輪は単純な命令でしか動かないよね。なら、複雑な動きを見せる埴輪は、逐次状況に応じた命令を誰かが出している筈だよ」
 やって来る埴輪の群れに目をつけながら、マキリは告げる。
 それを指揮するのが誰かと言われれば、当然黄泉人と考えるべき。
 問題はこの数に合わせ、彼らも相当数入り込んできていると見る。そのどれが将軍の指揮する埴輪なのか‥‥。
「以前、播磨でゴーレム使いの黄泉人と当たった事があります。今回の指揮も同じ奴でしょう。でしたら、オーラセンサーで追えるかも‥‥きゃあ!!」
 硬い土塊も苦ともせず。埴輪を両断していたミラだが、その破片が不意に跳ね上がった。
 とっさに構えたアイギスの盾を構えれば、阻まれた土の腕が弾け飛ぶ。
「新型ですか?」
「いいえ、家鳴りです。砕けた破片に乗り移って動かしているんです!!」
 目を丸くするミラに、見ていた牙がその背の守りにつく。砕けた埴輪や砕けて落ちた刀や矢の破片を動かしながら、霧状の本体が飛び交っている。
 死人憑きに比べれば少ないが、死霊や怨霊なども飛び交っている。
 掠めた存在しない手に向かい、小夜は刀を繰り出す。
 霧を払うように霊の一部が欠けた所へ、祥風がピュアリファイをかける。浄化を受けた霊体は、憐れな声さえ残さず霧散し、消えた。
「大丈夫ですか? 治療が必要なら、リカバーをかけますが‥‥」
 他の仲間も見るも、さすがに怪我らしい怪我は無い。
 むしろ、播磨の兵たちの方が被害は酷い。
 実体の無い霊たちには、通常武器が効かない。奴らが前に出てこられては、一般の兵たちでは対処が出来ずに苦戦している。
 いや、そうでもない。
 見ている先で漆黒の炎が霊を包んだ。
――ヒギャアアアア!!
「死ぬものか、死ねるものか‥‥。せっかく神様が力を与えてくれたんだ。お前らなんかに負けるか!!」
 告げたのは、簡素な鎧を着た兵。いや、動きからして徴兵された村人か。
 怒りに充ちた目を死者たちに向けると詠唱。黒い霞のような靄に包まれるとその手元から黒炎が飛び、狙い違わず霊を射抜く。
 見れば、他にも似たような魔法を使う者がいる。そのほとんどが一般人と思われる。
 原因は分かるが、今は如何ともしがたい。
「今は敵将を討ち取り、戦を終わらせるべきでしょう。黄泉人は風魔法に長けています。姿を消している可能性もあるので、気をつけて」
 牙は告げると、周囲に目を走らせ、群がる死人たちを一息に叩き伏せる。


 黄泉将軍を探しに、さらに死者の群れに踏み込む冒険者たち。
 最初に攻撃を受けたのは、烈閃だった。
「――ぐわっ!!」
 死とそぐわぬ春先の空から。不意に雷が落ち、烈閃を撃った。
 体勢崩して地面へ。落ちた影は二つで、どちらも烈閃。一つはぴくりとも動かないので、一瞬皆で目を見張ったが、ようは粗忽人形で作っておいたまがい物の方だった。
「大丈夫で‥‥」
 慌てて祥風が駆け寄ろうとしたが、そこへ吹き荒れる風、そして雷。
「黄泉人!? どうやら複数はいるね」
 マキリが周囲を見渡す中で、祥風がレジストデビルをかけて回る。
 どうやら、冒険者らの動きに合わせて、放っておくと面倒と黄泉人側も集結したらしい。
 どこに潜んでいたか。埴輪たちが起き上がり、死人や霊たちが冒険者らを取り囲む。
「魔法が放たれた方向と数で、大体の位置と人数は分かっています。手早く行きましょう」
 言うが早いか。ゼルスがトルネードで、辺りを纏めて吹き飛ばす。
 黄泉人たちも同じ魔法を使うが、威力も範囲もまるで違う。すぐに黄泉人たちは浮き足立ち、そこに一同が攻め込む。
 そして、近くで落雷と同時に、大量の火炎が上がった。
「何が!?」
 黄泉人、冒険者、双方の動きではない。
 だが、少なくとも黄泉人の方が状況は読めたらしい。さっと顔を見合わせると何人かが、離脱する。
「奴ら側に何かあったようですね」
 そう判断するに十分な慌てぶり。軽く目を合わせるだけで、即座にその後を追う事が決まる。
 が、残った黄泉人がそれを阻みにかかる。呼び寄せた埴輪、死人、怨霊従え、どうにもここは通さない構えだ。
「万の敵が相手。無茶上等、犬死も覚悟の上だ。それでも‥‥僅かな希望があるなら、全力で足掻くまで!」
 手にしていた弓からミョルニルとアイギスの盾に持ち返ると、烈閃は黄泉人たちを打ち据えにかかる。


 向かう先がどこかはすぐに知れた。
 継続的な戦闘が派手に行われている。上がる悲鳴に歓声。果たして、それは誰のものか。
「しつこいわねぇ。冠なんて何の話よ。アレとはとっくの昔に縁が切れてるし、大体どこでどうなったのかもよく知らないのよ。まぁ、縁だけはあったのか骨は拾わせてもらったけどね」
「その言葉が嘘だって保証はねぇが‥‥まぁ、こっちだって確証あって聞いてる訳でもねぇからあいこって所か」
「確証無しに、いきなり怒鳴りこんでこないでよ! 羅刹天って言ったっけ? 噂だけは大昔聞いた気もするけど、本当に短慮馬鹿ね!」
「グダグダ悩むより、行動する方が得意だって事だろうが、阿呆!」
 言い争っているのは、二人。一人は少女に見え、一人は筋骨たくましい男。ゼルス曰く、偽姫の正体だった。
「くっ!」
 押されているのは少女の方。倒れた所に、羅刹天が刀を振るうもその間に、鉄の埴輪が割り込む。
「クシナダ様、ここはお退きを! 我らが足止めいたします」
「させませんよ!」
 告げた黄泉人にかかったのは女のデビル。見れば、周辺で守りについたらしい黄泉人とデビルが争いあっていた。
 黄泉人に告げられ、クシナダと呼ばれた少女が身を退く。してみると、彼女が将軍、指揮する者か。
 そう判断すると、インビジビリティリングで姿を消し、烈閃は彼女に向かって間合いを詰めた。
「クシナダ様!」
 気付いたらしき黄泉人が声を上げる。それと同時に、偽姫らもまた状況の変化を知った。
 光の屈折による微妙な形はどうしても残る。
 はっと顔を上げたクシナダと目があったが、構わず烈閃はミョルニルを振り下ろす。
「ちっ!!」
 高速詠唱で唱えられたトルネードに巻き上げられる。体制を崩し、ミョルニルは叩きつけたが弱い。
 それでも、
「さらばだ、黄泉返りの生き損ない。手向けは桃で構わんな」
 出来た隙をついて、小夜が村雨丸を抜いた。
 隠身の勾玉を用いて気配は消していたとはいえ、姿は残る。しかし、本当に姿を消していた烈閃に対処した事で油断が生じていたのだろう。
 鞘からの一閃。掠めるように鋭く空を裂かれた刃は、過たずにクシナダを裂いた。
「むざとっ!! 倒れるものですか!!」
 裂かれながらも忌々しい目でクシナダが睨みつけてきた。
 どこで手に入れたか、身に着けたレミエラが輝くと、魔法の光と共にヘブンリィライトニングが小夜へと落ちた。 
「ヒメさま!」
「おのれ! 下賎めが!」
「それより、クシナダ様を早く!」
 だが、それで限界だったのだろう。がくり、とクシナダの姿が崩れる。
 畳み込む機会ではあったが、そうはさせぬと黄泉人たちが一斉に魔法を詠唱する。
 雷光、風圧、真空の刃。あらゆる風魔法が一息に打ち込まれ、さすがの冒険者たちも一瞬足が止まる。その隙に、倒れたクシナダを他の黄泉人が運び去ろうとする。
「ざけんじゃねぇぞ、てめぇら退きやがれ! ランバ、ビランバ! 逃がすな!」
 あらゆる魔法にも平然としている羅刹天。
 しかし、大量の死人憑きたちにしがみつかれては動きがままならない。黄泉人たちも意地でも奴だけは動かさない心意気が見える。
 足止めされる天の代わりに、女デビルが後を追った。
 勿論、冒険者たちとて黄泉人を見逃す気は無いが、こちらにも間に割り込んでくるのはやはり大量の死人憑きたち。
「ああ、もう。邪魔です!」
 力量など歴然の差。ミラが薙げば、ばたばたと死人憑きは倒れるが、その後から後から出て来る出て来る。尽きる事が無い。
「通すな! 攻撃だ、攻撃あるのみ!! ――うぇ!?」
「あははは。油断大敵って奴だね。‥‥って、人の事も言えないか」
 そして、埴輪たちを指揮するべく黄泉人が怒鳴り込んでいた円盤を、近寄ったマキリが素早く取り上げる。
 慌てる黄泉人を笑ったのも束の間、円盤が弾き飛ばされた。周囲を見渡せば、取り巻く怨霊が虚ろな眼差しを向けている。
「将が逃げた以上、あなたたちに勝機などありません! 観念して大人しく成仏したらどうですか!?」
 音を立てて埴輪が砕ける、死人憑きたちの骨が折れる。怨霊たちは霧散し消える。それでもなお戦闘を続けようとする黄泉人たちに、牙が告げる。
 将を射て、軍の離散か撤退を狙う。そうすれば、早期に戦闘は終結し被害も抑えられる筈。
 そのつもりでいたのだが、相手はせせら笑いで答えた。
「死人憑き如き、幾らでも連れて来れるし、人が居る限り幾らでも増やせる。大体、退けと命じたところで動かぬぞ。こいつらには生者に対する執着。ただ襲うだけだ。我らはここまで導いてきただけ。埴輪らとてまた作らせばいい」
「ふん、望みを叶える為に行動するってのは気に入った。大いに結構。だが、てめぇらだらけになって人間の魂がなくなるのはこっちも不都合が起きるんだよ。まぁ、程ほどにしといてもらおうか!」
 感心したように哂う羅刹天だったが、振るう得物に遠慮は無い。さも当然とばかりに死者たちを蹴散らしていた。
「将がいなくなっても、下はやりたい放題って訳ですか。少々当てが外れましたね」
 ちっと小さく牙が舌打ちする。今居る黄泉人たちも足止めでいるだけ。埴輪の指示はしているが撤退を呼びかける気はなさそうだ。


 告げられた通り、黄泉人が退き、残党も始末した後も死人憑きたちは居座り続け、進攻を止めない。
 また、最後の嫌がらせとばかりに埴輪も人を襲う命令のまま残され、ただ指示のままに単調な攻撃で続ける。
 残されたのは殲滅。
 一つ一つを葬り去り、少しずつ数を削っていく。
 戦闘はいつ始まり、そしていつ終わるのか。死人憑きたちが全て消えた後でも油断出来ない。厳戒態勢がなおも続く。
 大元の黄泉人たちが駆逐出来ない以上、悔しいかな、確かに死人憑きたちは人の数だけ増やされていく。纏まった数が今回いなくなりはしたが、今回連れてこられなかった死者たちなど出雲方面には山と居る筈。
 それでも。これで後は藩士だけでもどうにかできるぐらいに減らした所で、一般人たちから順に少しずつ報酬と共に村へと帰されていく。
「大丈夫でしたか? 気をつけて下さいね」
 手当てが必要な者も、祥風が治療の為に奔走している。
「これだけ死体があれば、さぞ見事な桜が咲くだろう。妖にならなければ良いが」
「桜より、桃だね。邪気払いでいいんじゃない?」
 荒野に倒れる死者の群れ。腐臭も最早嗅ぎ慣れ、その事に渋面を作る小夜。
 瘴気や戦闘の余波、進行の邪魔と木々が倒され枯れた山も多い。春とは遠ざかった光景にマキリも目を細める。

 時を前後して、京でも黄泉人防衛も成功したとの話が早駆けで伝わってきた。
 都が守られた事に安堵し、歓声を上げる者も少なくは無く、それを励みにまた奴らの攻勢に立ち向かおうと士気も高まる。
 退いた奴等が、すぐに動く事はあるまい。
 まだ当面は警戒が必要だが、一時の休息ぐらいは出来よう。


 ゼルスと烈閃は戦線にある程度の目処をつけると、早々と姫路に戻っていた。
「以前に偽姫が『譲れるか』などと告げていたのだが、それが気になります。白狼天狗らは『信念』とか言ったが、何か形のあるものなのではないでしょうか」
 首を傾げるゼルスに、烈閃は護衛として付き合い、偽姫が拠点してる場を調査する事にした。
 気になる事はもう一つ。
 圓教寺の住職逝去の報を聞き、本当の長壁姫の容態が気になったのだが、そちらと連絡がつかない。
 偽姫たちは長壁姫が死んだと思ってるし、ばれて消されたにしてもその気配すら無い。黄泉人たちの侵入もあり、どこかへ逃げたと考えるべきか?
 拠点と言っても、大した物でない。様は妖怪たちが集まり、適当に指図したり伝達したりの連絡所程度の役割でしかないが‥‥。
(「あれは!」)
 山になって詰まれていた物にゼルスが目を見張る。
 三寸ほどの白い玉。ゼルスの知識ではそれがデスハートンで奪われた人々の魂と分かる。
(「おい」)
 烈閃が気配に気付き、慌てて二人隠れる。
 羅刹天及び、その配下のデビルたちもまた帰ってきていた。
「じゃ、本当に奴ら逃げ帰っただけだってのか」
 呆れる羅刹天に頷いたのは、黄泉人を追った女デビルたちだった。
「京の様子も聞き及んでますが、奴等が仰るモノを使っていた形跡はありません。‥‥本当に冠なのですか?」
「知るか。俺の知る中から他には思いつかなかったんだよ」
 報告する女デビルが首を傾げると、羅刹天は実にあっさり胸を張る。
「アレには人形遣いが関わってたとか聞いた気がする。口ぶりからしてそう外れてもいなかったようだが‥‥今回の攻勢に出し惜しみしてどうなるもんでもなし。今は無関係ってのも外れてないか。そもそも冠かは知ったこっちゃないし‥‥」
 ぶつぶつと呟きながら、辺りをあちこち歩き回っていた羅刹天だが。
「まぁ、冠に関しちゃ他の奴が見つけてるかもな。黄泉人どもを逃したのは痛いが、奴らのおかげで人間どもに活力も出たし。その礼と思えばまぁ今回はいいか」
 もう興味を失ったようで、ぶっきらぼうに告げると積まれた魂を一つ取る。
「戦の庭こそ我が世界。戦いこそが生の証。真に生きるとはどういう事か。理解する奴には、力を貸そうじゃないか」
 哂う羅刹天は邪悪に満ちて。
 女デビルたちも静かに微笑む。