【黒虎部隊】 黒馬
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月20日〜06月25日
リプレイ公開日:2009年06月28日
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●オープニング
京の都は騒がしいとはいえ、それでも民は生活している。
「きゃあ!」
洗濯物を干していた娘の肩に、何かが落ちてきた。振り払うより早く、その相手は見事に着地している。
それは前々からうろついていた一匹の野良猫だった。
口には櫛が一つ。はっとして娘が己の髪を触ると、そこに刺さっていた物が無い。
「こら! それは大事なのよ、返しなさい!」
娘が手を伸ばすと、猫はあっさり躱して逃げ出し‥‥数歩走るとまるで娘を覗うように振り返った。
「返しなさい! こら、逃げちゃダメって!!」
娘が追いかけると、また逃げる。逃げるが、娘を引き離すとまた立ち止まり、振り返る。追いつくのを待っているかのように。
「何なのよ、あんた」
まるで娘を誘ってるように猫は走る。そうこうする内に村の外にまで出てしまった。
さすがに慣れぬ場所にまで追いかけるには不審すぎる。櫛は惜しいが、諦めるべきか。
娘が迷い立ち止まっていると、
「にゃ?」
じっと座って娘の様子を覗っていた猫が不審な動きをする。ぽとりと口から櫛を落すと、きょろきょろと周囲を見渡し。
娘に気付くと警戒するように身を立てながら後じさり、脱兎の如くに逃げ出してしまう。
「何なのよ」
それこそ猫そのものの動きで。今までが何だったのかと、娘が首を傾げる。
『‥‥術が切れただけだ』
呆けている娘に、声がかけられた。見回しても誰もいない。が、木などの遮蔽物で視界は悪い。隠れているのだろう。
そんな相手がいると分かると、怖くなって娘は逃げ帰ろうとした。
『逃げるな』
声に一喝されるや、娘は立ち止まった。何故か、立ち止まってしまった。
がさりと茂みが揺れた。見れば三頭の二本角の生えた黒い馬が娘の元に歩いてくる。
「な、何だ!? 化け物がっ!!!」
大声を上げたのは第三者。たまたま通りすがったその誰かの声に、馬たちははっきりと不快な表情を露わにしていた。
『背に乗れ!!』
聞こえてきていたのは、その馬の声だった。娘は弾かれたようにその黒馬の背に乗る。
馬は鋭い嘶きと共に、娘を背にしたまま走り出す。娘の悲鳴がようやく響いた。
「た、大変だ! 誰ぎゃああああ!!!」
騒ぎ立てる目撃者。残る二頭の馬から黒い霞のようなものが立ち昇ると、生まれた黒い炎の塊が目撃者に炸裂した。
のたうち回る目撃者に向けて、さらに馬は角を突き出し全力で駆けた。避ける事も叶わず、相手は腹を深々と角で抉られていた。
「きゃああ、誰か、誰か来てくれ!」
だが、騒ぎすぎたのだろう。様子を見に更に新手が現れた。
さすがにまずいと感じたか。刺さった相手を振り払い、黒馬二頭も先の馬の後を追った。
●
「その後、すぐに馬が消えた方面にある山狩りが行われ、娘の亡骸が見付かった。外傷はほとんど無く、衰弱死の状態に近かったらしい。そして、辺りには馬の蹄の痕が残っていた」
冒険者ギルドを訪れた黒虎部隊隊長が、苦々しく顔を歪める。
「実はここの所、似た事件がその界隈で続いていてな。娘ばかりが攫われ、発見時周囲には馬の足跡しかなく。どこぞの野党の仕業かとも言われていたが、そうでは無かった訳だ」
何せ、心当たりが京には多すぎる。妖怪の仕業か人の仕業か。あるいはその両方か。
「二角馬。一角馬の変種とも言われてるそうだが、定かでは無い。滅多に見るものでは無いが、現れれば若い娘を騙して連れ去るという。
妖怪退治ならばこちらの本文。奴らを片付けさせてもらうが、知っての通り、こっちの内情はあまり宜しくない。なので、冒険者にも人手を借りたい」
妖怪退治として組織された黒虎部隊も、平織虎長に五条の宮と上司に恵まれず、肩身が何かと狭い。
職務とて新撰組に喰われている部分が大きいが、だからと言って放棄するのは言語道断な事だと隊長は告げた。
●リプレイ本文
乙女の連続誘拐殺人。犯行が人外の仕業と分かり、故に黒虎部隊が出張ってきた。
「二角馬か。初めて聞いたな。一角馬の上位種、となると少々厄介な」
一角馬もなかなかお目にかかれない物の怪だが、こちらはそれよりさらに目につく事は少ない。
備前響耶(eb3824)は同じく京の治安を守る京都見廻組に所属しているが、こちらは本来無法者相手が基本。妖怪については早々必要な知識でも無い。
そう察したか、依頼主である黒虎部隊の隊長が軽く訂正を入れてくる。
「いや、上位とは言いがたい。確かに、オーラの他にも妙な魔法を得ている分厄介ではあるが‥‥。そうだな、一角馬が優等生ならさしずめ二角馬は人生踏み外してやさぐれた任侠者が刃物を手に入れた程度の違いではないだろうか」
「分かりやすいんだか、にくいんだか。微妙な例えね」
妙に悦に入っている隊長に、ステラ・デュナミス(eb2099)は苦笑を禁じえない。
「まぁ、上位というより亜種ってところかしら。一角馬――ユニコーンは乙女にしか身を触らせないけれど、奴らが若い娘さんばかり狙うのもさすがに亜種って訳?」
言いながらも、ステラの瞳に厳しい物が浮かぶ。
あるいは、デビル魔法を使うという事からして、崇拝の贄にでもしているのか。
「似た存在がとある魔王の手下にもいたか‥‥」
あるいは同一種族だったか。アンドリー・フィルス(ec0129)は考えるが、何にせよ、為すべき事は一つだ。
「罪無き乙女を騙し毒牙にかける所業、断じて許されるべきではない」
「ああ。黒虎部隊隊士として、こんな卑劣な魔物に容赦は無いぜ」
すでに犠牲者は出ている。
クロウ・ブラックフェザー(ea2562)としても、放っておける相手ではなく、軽い口調ながらも語気は荒い。
「スケジュールは合ったからな。仕事を選り好みする気は無い。受けた以上はやらせてもらう」
オラース・カノーヴァ(ea3486)は酷く素っ気無く告げる。
おかげで、仕事に意気込む平隊士たちから睨まれているが、当人はさほど気にしない。外に見せる顔が内にある想いを語っていないのはよくある事だ。
「さて、人も揃ったしな。――さっそく討伐に出る」
隊長が告げると、場が引き締まる。
険しい目と共に、一同は対策を始めた。
●
討伐に出る、とは言ってもすぐに狩り出せる相手では無い。
目撃されたのは三体。その気になれば結構な範囲を移動できる。
「もっとも、その範囲が仇って所か。娘さんたちの住居や姿を消した場所を洗い出してみれば、定期的にゆっくりとだが移動している。同じ場所で繰り返しての犯行で警戒されだすと少し警戒の薄い場所に移動。日に間が開くのは場所の調査と獲物の吟味の時間って所だろうぜ」
治安部隊である以上、黒虎部隊にも多くの情報が入ってくる。それら情報を調べて整理しなおし、クロウは広げた地図を笑って叩く。
「次に出るとしたら、恐らくこの辺り。‥‥ただ、奴ら、目撃情報を出した以上、かなり警戒してるだろうな。もう少し離れた地域に出るか?」
「構わん。そこいら一帯は広く、害が無いよう娘たちの外出は自粛させる」
考え込むクロウに、響耶は当然とばかりに言ってのける。
「自分たちが安心して事を起こし、かつ寝床には直接踏み入らせない。それぐらいの場所で遺体を放っているはずだわ。そうすると、移動距離にも自ずと制限を入れてしまってる筈」
ステラも地図を覗き込み、情報をなぞる。
出現場所におおよその当たりを付けると、次は誘き寄せ。
京の治安は物騒で、若い女性が気軽に出歩くには難が多い。さらに実際に被害が出る事件が起きていて、新たに自分の身近で起こるとなれば、それが根拠の無い噂であっても笑い飛ばす者は少ないに違いない。
安全を図って娘たちは身を潜め、逆にステラは歩き回る。
「囮作戦はベタだけどね。警戒されないよう装備は外していくわ。エウルスの事もお願い」
「任されよう。若いというには微妙な線とはいえ、奴らの目が節穴である事を祈っておくよ」
「言ってくれるじゃないの」
翼を広げ、心配そうにしているペガサス。その手綱をオラースに渡すと、ステラは軽く笑って歩き出す。
市女笠に巫女装束。武器も持たない格好は実に頼りない。別に物の怪じゃなくとも、野盗からでも狙われかねない。
もっとも、武器が無くともステラには呪文で十分。いざという時は身を守れる。
勢い込んで外をうろつくが、さすがにそれですぐに出てきてくれる程甘い相手では無い。
あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。
さすがに村の中までは入ってこないだろうと、主に村の周囲を歩き続けていた。
巫女の姿に合わせて、人のいない神社に詣でて祈りを捧げたりなどもしてみる。
そんな彼女を離れた所から残りの面々が見守っている。
冒険者たちに隊士たち含め計七名。人気が少ない場所でそれだけが固まっているのも不自然で、各々が自分たちの間合いで警戒していた。
「ステラ殿の位置は把握している。今の所は大丈夫そうだ」
隊長はオーラセンサーでステラの位置を探る。対象一人の大まかな位置しか把握できないが、それでも無いよりはいい。
近すぎては気付かれるが、距離を開ければ物陰などに阻まれ見失いかねない。
「そうか。このまま何事も無く‥‥も困るのだがな」
その傍にいるのはアンドリー。視力を生かし、上空や周辺を警戒していたが。
「む?」
蒼空を飛ぶ一羽の鳥を見つける。ただのカラスのようだ。
空を旋回していたカラスは狙い定めると急降下してきた。
「きゃあ?!」
そのままステラの頭に降りる。もちろん、獲物として彼女は大きすぎる。
狙われたのは市女笠で、しっかり掴んで離さない。ばさばさと暴れる相手を振りほどこうとすると、笠が落ちてしまった。
笠が外れた事で体勢を崩し、カラスは地面でもんどりうつ。だが、身を起こすと笠を掴んでそのまま飛び立ちやや離れた木の上に止まってしまう。
「何するのよ、まった‥‥。!!」
憤りながら、ステラは取り戻しに走ろうとしたが、そこではたと気付く。
物が盗られ、人気の無い目に付きにくい場所へと追いかけさせられる。
この状況は、すでに聞いていた状況と似ている事を。
勘付かれないよう態度は変えず、それでも注意しながらカラスへと近付く。十分に近付いた所で、カラスは笠を落とした。
拾おうとさらに近付けば、眼前に現れる三つの影。漆黒の夜のような馬にはねじれた角が二本突き出していた。
『多少年食ってるが、まぁいい。一緒に来い』
黒い靄が上がるや、告げられる思念による強制。ステラはふらりと前に踏み出したが‥‥。
「‥‥全く年だとか簡単に言ってくれるけど! 私はまだ八十二年しか生きて無いんだからね!!」
至近距離から睨むと、黒馬たちは影のような顔にはっきりと驚きを見せていた。
『効いていない!? ならばもう一度!!』
「うるさいわよ!!」
同一の魔法は重ねがけできない。おかげで達人級でのフレイムエリベイションをかけるのに手間取ったが、何とか事前にかけられ、功を奏した。
しかし、動きを阻むべく唱えたアグライベイションには変化が見られない。
黒馬も、一角馬と同じく魔法抵抗も高いと見える。
『ただの小娘ではないな!』
詠唱時の魔法光で、二角馬たちはさらに驚きを深める。
「逃がさねぇよ、これはどうだ!」
危険を感じたか、身を翻し逃げにかかった三頭。
だが、上空からペガサスのワールウィンドに跨り、クロウが弓を引く。
神仏の加護を得た破魔弓に、ジーザスの祝福を受けたホーリーアローを番え、僅かな一点を狙った一矢。神の威光は外れる事無く、細い足を射抜く。
撃たれた二角馬が跳ね上がる。高い嘶きに残る二頭が注目した時間に、響耶は素早くステラの前に回りこむと、名刀・獅子王を抜いた。
緋色の半首につけられたレミエラ効果で紋様が輝く。封じられていた力により感覚が攻撃に特化する。鞘を走り、抜かれた俊足の刃はそのまま衝撃波として、離れていた二角馬の脚一つを斬り飛ばしていた。
『ああああああああああ!!』
オーラテレパスで放たれる悲鳴が、脳を直接揺さぶる。
「不自然な鳥の接近があったからな。隊長のオーラセンサー、隊士たちのバイブレーションセンサー、ミスラのサンワード。アンドリーのパラスプリントで情報伝達も早かったしな」
グリフォンのグレコに跨り、オラースが浮かぶ陽霊を見つめる。褒められ、陽霊は嬉しそうにしていた。
「ステラを誘き寄せる間に、こちらも布陣を敷くのは容易だった。‥‥獣なら獣らしく、妙な欲望を抱かず野山でくたばってろ!!」
怒気で大気を震わせオラースはグリフォンを駆る。空を斬る速さで迫るや、繰り出す轟乱戟。突撃の刃は加速の勢いのままに二角馬の身体を深々と食い込み、貫く。
二頭が血に塗れ、残る一頭は慌てて別の方向へと頭を巡らす。
「つるむ仲間を見捨て、一人逃げるか‥‥。実に不義な輩だ」
だが、その前にもすでにアンドリーが回りこんでいる。携えるはパラディンの証であるシャクティ。スライシングで威力も上げ、邪悪を阻む。
跳ね除けようとした二角馬の角を、それが届く寸前でアンドリーの姿が消える。
パラスプリントで瞬間移動すると、背の上に現れる。フライの効果で安定して浮いたまま、その刃を振り落とした。
――ヒヒヒヒヒィイイイイイ!!!
悲鳴のような嘶きが二角馬から漏れた。が、アンドリーは攻撃の手を緩めない。オーラマックスで増えた手数の分だけ瞬く間に二角馬を刻んでいく。
数の上でもこのまま畳めると思いきや、僅かな邪魔が横から入る。
「うあ?!」
戟を構えたオラースの目の前を黒いものが飛び込む。
先程のカラスだ。
「まだ操られているのか。いいから退け!」
振り払うと、やはりただのカラス。簡単に退けられた。
体勢を崩して落ちたところを、隊士がプラントコントロールで絡め取り、御用となる。
『オオオオ!!』
しかし、今度はカラスの作ったその僅かな隙に、倒れた二角馬がオーラアルファーを放った。
全方位に放たれた爆発は、何だかんだで防具で止めた者の方が多かったが、とっさに防御をとったその間に、他の二角馬はオーラリカバーで傷の回復を図った。
『おのれえええ! こんな所で!!』
もっとも、斬られた足は生えないし、深く抉られた傷も痛々しいまま。回復が追いついていないのは明らかだ。
「‥‥だが、魔法を使われるのは厄介だ。カラスのようになるのも御免だな」
「そうね。逃げられる前に、こちらの一頭は仕留めましょう」
エリベイションをかけている者も多いが、そうで無い者もいる。操られての同士討ちを避けるべく、気合を入れるも、確実とは言い難い。
敵の手に乗る前に一掃する。詰め寄った響耶に、エウルスに騎乗してステラが魔法で援護に入る。
「こちらの手は足りているな」
「いいや、隊長殿。油断は禁物。援護はありがたい」
素早く動き回るアンドリーに相手にされた二角馬は翻弄され通し。碌に動けぬ間に、傷を増やされ地に伏せる。
その様子に隊長は苦笑するが、アンドリーの動きやすいよう二角馬の注意を逸らしたり、逆に一撃を加えたりと巧みに動く。
何せオーラマックスは手数を増やすが、反作用で後に傷を負う。アンドリーはレミエラでその作用を抑えるが、下手に傷を負っていては死に兼ねないのも確かだ。
『降りてくるがいい! 我らと対峙するのがそんなに恐ろしいか!!』
「見え見えの挑発をされても、動く気にはなれないね。わざわざ痛い目にも合う気もないって」
クロウが鼻で笑うと、空から容赦の無く矢を降らせる。
傷付きながらも二角馬オーラショットを放つが、クロウの目の前で不可視の壁を打ち砕くだけ。ペガサスのホーリーフィールドだ。
「向ってきて欲しいなら、向ってやる。受け止めてみろ」
オラースがグリフォンで突っ込む。刺さった刃そのまま、そのまま押し込み戦闘中だった別の一体にまで押し込む。
勢い押され倒れた二角馬たちを、素早く戟を抜き去り上空に駆け上がると、そこから得物を振るい込み、纏めて衝撃波を放った。
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馬たちの抵抗は激しかったが、漏らす事無く二角馬を屠る。
戦闘中の怪我は皆さほどでもなかった。オーラマックスの効果が切れたアンドリーが死に掛けたが、そちらも用意していた憤怒の盾を使って事なきを得る。
「此度の御助勢、真に感謝いたす。これで、娘たちも静かに眠れよう」
隊長が一同に深々と頭を下げると、約束の依頼料を手渡す。
「京の治安に関わる案件なららば、既に見廻組から給金を貰い済み‥‥と何時もは断る所だがな。今回は見廻組ではなく、一冒険者としての手助けだ。ありがたく頂戴しておく」
皆と同様に、響耶も礼金を手に取り懐に入れる。
何かと口に上がるは新撰組だが、他の組織も役目を果たしている。
全体から見れば小さな事件だったかもしれない。だが、そうした事も確実に始末する事で京の治安は守られていく。