【対決 兎と亀!?】 ウサギさんの事情

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月26日〜01月29日

リプレイ公開日:2005年02月04日

●オープニング

 今は昔。
 兎は亀と戦った。
 死闘の末、勝ったのは亀だった。
 しかし、これを兎は不服として抗議、結果、今尚争いは続いている。

 そんな訳で。

「決戦だーーー!!」
 どかんと一発、杵で冒険者ギルドの扉を殴り倒して入ってきたのは愛らしいがきんちょ一人。突然の出来事に、その場にいた冒険者もギルドの者も唖然と立ち尽くした。
 そんな周囲に構いもせず、子供はギルドの中をぐるりと見渡す。と、その目をふと一点に留めた。
 視線の先にいたのは、依頼客を応対していたギルドの係員。ぱっと子供が笑ったのと、その係員が露骨に顔を引き攣らせたのはほぼ同時だった。
 そこに至ってようやく冒険者の中にも思い出す者ちらほら。入ってきたのは、一見ただのがきんちょに見えて、その正体は化け兎が人化けしているのだと。
 だが、正体に気付いた幾人かが身構えるより前に、化け兎は係員の方へと全力で駆け寄ると、その勢いのままに背中へと飛び乗る。
「亀と競争、競争♪ 手伝え、手伝え♪」
「どわあああああ〜っ!!」
 子泣き爺ぃよろしく背中にがっしりしがみついて来た化け兎に、為すすべなく地面に突っ伏した係員。
 それでも、気力を振り絞るように立ち上がると、ぎろりと化け兎を睨みつける。
「お前なァ‥‥。ここは! 妖怪変化の遊び場じゃないんだ! お前らみたいな悪たれ妖怪を退治するのに忙しいんだ!! 不本意ながらも知らぬ仲で無し、大盤振る舞いの太っ腹の特別出血大奮発の俺様首覚悟でああ何ていい奴なんだという温情を持って特別に見逃してやるからさっさとうちに帰れっ!! ぐずぐずしているとそこらの冒険者にやっつけてもらうぞ!!」
 二度と来るんじゃない!! と、顔を朱に染めて係員は怒鳴りつける。が、化け兎らは今一つ分かって無いのか、背中に乗ったままきょとんと係員の顔を見つめる。それがまた気に入らない係員がじたばたと声も無くもがき、それでようやく化け兎は一つ頷いた。
「あんねぇ、今度亀と競争すんの」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥お前、人の話聞く気無いな」
 その通り。じと目で見つめる係員や、周囲で手を出すべきか悩んではいるが得物にきっちり手をかけている冒険者らなど一切構いもせず、化け兎はべらべらと話し出す。
「んとね。前にね、うさは亀とかけっこして、負けたの。でも、それ亀がずるっこしたの。だから、ズル亀を負かして、亀を亀と認めさせなきゃいけないの。でも、亀はまたズルするかもしんないの。そんで、うさは何としても亀に勝たなきゃいけないの。亀は亀だから亀でなきゃいけないの! だから、手伝え手伝え♪」
「‥‥事情がさっぱり分からん。それをさておいても、とにかく化け物からの依頼なんて受け付けません」
 笑顔でてちてちと頭を叩いてくる化け兎に、不機嫌そのものの係員はそっぽを向いて即答したが、
「あー、悪ぃ。依頼頼まれてんだ」
 壊れた扉を潜り抜けると、申し訳なさそうに入ってきたシフールが係員に告げる。
「依頼主は化け兎と仲のいい老人連中。今度、そいつとその‥‥亀がかけっこ競争するんだけど、その相手がどうも人を雇って何かしでかす気らしい。だから、化け兎側にも手伝いをいれたいが、自分らじゃ力不足だから代わりに冒険者らに応援を頼みたいって」
 すまなそうに告げるシフールに、係員は嫌そうに顔を顰める。
「まぁ、ちゃんとした依頼とあれば受けてもいいが‥‥。しかし、化け兎と化け亀の競争にねぇ」
「あ、いや。相手は化け亀とかじゃなく‥‥」
 係員の呟きに、困ったようにシフールは頬を掻く。化け兎は首を傾げた後、きょろきょろと周囲を見遣り、はたと一点に目を留めた。
 そこにいたのはギルドに来ていた依頼人だった。よく見かける姿ではないが、珍しいと言える程でもない。
 緑色の皮膚、背中に甲羅、手には水かき、とがった口、そして頭はつんつるハゲ。
 その正体はと言えば、
「亀!!」
「河童じゃい!!」
 びしっと指差し声を揃える化け兎に、亀ではない河童が即座に声を荒げる。
「むぅ〜。甲羅、水かき、水すいすい。絶対に亀なの! 亀カメかめぇ〜〜!! 嘘ついちゃダメなんだぁ〜」
「だー、うるさい!!」
 手足をばたつかせて泣く化け兎に、係員が一喝。
「全く。そんなんじゃ依頼を出した所で味方しようという奴はいないぞ! 大体、この間言葉遣いを注意されたんだろ。ここは皆に助けて下さいときっちり頭を下げてお願いするのが筋‥‥」
 係員の言葉途中で。ふいに化け兎の姿が歪んだ。何をするかと思いきや、兎の姿に戻る。
 周囲が完全にざわつく中を、小さな兎はとてとてと係員の足元まで歩き、ひっしとその足にすがりついた。耳を垂れさせ、瞳を潤ませながら無言で――まぁ、人に化けてなければ話せないのだが‥‥――係員の顔をじっと見つめて訴えかける。
「お前、そんなに勝ちたい訳?」
 顔を引き攣らせたまま問う係員に、化け兎は泣きそうな目でしっかり頷く。
 しばし後、説得に負けた係員は化け兎の応援依頼募集を出していた。
「‥‥あくまで老人連中から依頼があって彼らが依頼主で、化け兎は関係無いからな!!」
 釘をさすのは忘れてなかったが。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4522 九印 雪人(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4759 零 亞璃紫阿(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8109 浦添 羽儀(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8896 鈴 苺華(24歳・♀・志士・シフール・華仙教大国)

●リプレイ本文

 兎と亀(‥‥ではないが)の競争を手伝って欲しい。冒険者ギルドに持ち込まれたその依頼は、形式上こそ老人たちが出した依頼であるものの、実質の依頼主は妖怪である化け兎とも言える。
「これまた、面妖な依頼があったものですね」
 ため息一つ、競争会場となる道に目を向けていた御神楽澄華(ea6526)だが、その着物をつんつんと引かれる。何が? と思って目を向けると、そこに化け兎が立っている。着物を着こんでいるがその姿は兎そのもの。二本足で器用に立つと、そのまんまぺったりと澄華にすがり付いてくる。
「‥‥ま、人々から手助け依頼が出る程なら、悪い妖怪でもないでしょうし。いいですよね」
 息を詰まらせ目を泳がせながらも承諾した澄華に、化け兎、両手を挙げて喜ぶ。
「お久しぶり。私の事覚えてる?」
 浦添羽儀(ea8109)は、以前別の依頼で一緒に行動した事があった。じっと目を見つめて問いかけると、化け兎は困ったように耳を横倒しにさせる。が、やがてその耳がぴんと立ち上がると、目を細めて羽儀に擦り寄ってきた。思い出してもらえたのか単にゴマを擂られただけかは、今の状態では分からない。苦笑しながらも羽儀は化け兎の頭を撫でてやった。
 嬉しそうにしている化け兎の隣に、そろーっと鈴苺華(ea8896)が並び立つ。
「えへへ、どうだい♪ ボクの方が背は大きいんだから、苺華お姉さんって呼ぶように!」
「うさの勝ち〜。虫、負け〜」
「‥‥あ、こら。人に化けるな〜! それと、ボクは虫じゃないからね!!」
「これ、羽! 虫!」
「こら〜。協力しないぞ!!」
 ぴっとシフールの羽を指差して化け兎は告げるも、怒る苺華の一言に一応口を塞いだ。
「どうやら。兎さんにとっては、一部が似てたらそれが全部になるみたいね」
 困ったように告げる羽儀に、天城烈閃(ea0629)は笑う。
「その内、シフールに虫と認めろと競争でも言いだすんじゃないか? ま、差しあたってはあいつだな」
 烈閃が見遣るその先に、競争相手が立っている。
 緑の皮膚に、手には水かき、背中に甲羅。口は尖って、頭はハゲ。――どっからどう見ても、河童である。が、化け兎は亀と呼ぶ。向こうはそれが不服である。
 なので勝てば亀呼ばわり。負ければそれを止めろと言う事が出来る。
 思えばただそれだけの依頼。だが、面白そうだと言う理由から、烈閃は兎に協力する事にした。
 向こうも冒険者を集めている。しかも、河童の頼みは何が何でも勝たせてもらう事らしい。
 その結果、どういう動きで向こうが出てくるのか‥‥。
「何にせよ。こっちは妨害せずにうさぎの応援に専念。‥‥向こうから何かしてきたら別だがな」
「ええ。軽く燃えてもらいましょうか」
 何やら掛け声をかけて気合を入れている亀組。それを見ながら、九印雪人(ea4522)は軽く笑い、零亞璃紫阿(ea4759)もにっこりと微笑んでいた。
「ま、こちらがどうするまでも無く、燃えてるみたいだがな」
 綿入り半纏にしっかり包まった烈閃が、河童を見遣る。
 出発地点は北斜面で日当たり悪く、雪も残る。河童は寒くないのかと不思議がっていたが、どうやら気合で吹き飛ばしているようだった。

「そいじゃまー。両者位置について。‥‥‥‥よーい」
 進行を務めるのは、依頼者である老人たち。声を上げると、ドン! と一発太鼓が鳴り響く。途端に走り出す化け兎と河童。そして、彼らをそれぞれに支援する冒険者たち。
 飛び出したのはやはり化け兎の方だった。小柄な兎姿で身軽に走る、というより飛び跳ねていたのだが。
――ずべっ! 
 勢いよくこけると、そのまま斜面を滑って元の場所へと戻ってしまう。
 最初の上り斜面には雪が多く、凍っている箇所もちらほら。亞璃紫阿がクリエイトファイヤーで凍った箇所を溶かす予定ではあったが、何分、火を生み出す魔法で、範囲自体も非常に狭い。亞璃紫阿の力量ではまだ長くは持たないし、この魔法単独で氷を溶かし続けるのはかなり大変な事だった。おまけに亀組の一人が水撒いて妨害――本来の意図は、こちらの氷を増やそうとしただけらしいが結果的にはそうなった――ものだから、そこで話がこじれて争いとなり、結果、ほとんど溶かしきれずにまだ凍った箇所の方が多くなっていた。
 化け兎の後ろからは羽儀が付いて来ていたが、堰を作ろうにも走りながらでは時間が無く。麓まで一気に滑り落ちる事は何とか免れたが、それでも結構な時間を無駄にしていた。
 その間に、河童は順当に先に行ってしまい、化け兎、悔しそうに足を踏み鳴らす。
「はいはい、怒ってないで走りましょうね」
 嘆息しつつ、亞璃紫阿が宥めて先を急がせる。
 が、頂上に来た所、先行していた河童がくるりと振り替えるや、
「はっはっは。お先に失礼!!」
 言うが早いか。下り斜面を甲羅で滑り降りてしまう。
「ああいうのもアリなの!?」
 さすがに併走する羽儀も目を丸くする。その間にも河童は凄い勢いで斜面を滑り降り、そのまま洞窟へと飛び込んでいって‥‥
   ゴン!! ガンガン、ガギ! バギッッ!!!
 薄暗い洞窟の奥から凄まじい音が響いてきた。あまりの音に化け兎も耳を垂らして震えている。その後、やけに洞窟内が静かになった。
「何か、騒がしかったようですけど‥‥。何があったのでしょう??」
 洞窟入り口にて、提灯を掲げて待っていた澄華。だが、その灯りでも洞窟の奥まで一気に見通す事はで気無い。
 ほてほてと走り、洞窟の中へと化け兎組は踏み込みだす。羽儀と澄華の提灯で周囲を照らしながら、進んでいくと音の正体が見えた。
「きうぅ」
 洞窟の隅、ぼろぼろになった河童が仲間を巻き込んで倒れていた。
 視界が悪い中を全速力以上で走りぬけたのだ。当然前方不注意になるだろうし、分かった所であの速度では自身、対処しきれまい。あちこちぶつかった挙句に壁に激突したと見た。
「‥‥今の内に進みましょうか」
 怪我はあるようだが、息もある。非情と思われようと、そも勝負に情けは無用なのである。
 嘆息交じりの澄華の一言で、あっさりと化け兎たちは河童を追い抜いていった。

 洞窟を抜けると川に出る。すでに対岸の旗を視野に納め、後は飛び石渡って川を越えるだけ。
 なのだが、
「ウサギ!! これを見るがいい!!」
 後ろから追いついてきた河童が叫ぶや懐から、何かを取り出す。何かと思えば人参だった。
「前と同じ事をやるつもり? いくら何でも二度も引っかからな‥‥って、食べちゃダメってばぁ!」
 ひょいとあらぬ方向へ放り出された人参。それを目を輝かせて拾いに行こうとする化け兎を苺華は必死に食い止める。
 その間に、河童と併走していた一人が全力で追い抜くと、飛び石に到達。いきなり油を撒きだした。
「こら、そこ! 何しますの!!」
 亞璃紫阿が声を荒げるも、すでに飛び石は油で濡れて光っている。折角、烈閃が飛び石の隙間も埋めるよう工作したが、それもまた別の亀組が壊しにかかっている。このままでは石を飛ぼうにも滑るし落ちるし大変危ない。
 川の手前まで来ながら、化け兎はおろおろとうろたえている。そうこうしている内にも河童はどんどん距離を縮めてきていた。
「こうなったら、僕が運ぶしかないのかな」
 とはいえ、苺華の顔は困惑顔。
 違反になるかどうかは事前に聞いている。答えは「緊急事態ならえぇじゃろー」と実に曖昧な物。
 ただ、それ以上に。化け兎を連れて飛べるかどうかが非常に不安。身長差からして自分と同じと考えていたが、結構化け兎重いのだ。油断して川にでも落としたらどうなるか分からない。
「仕方が無い。こうなったら!!」
 気合を込めて、烈閃が川の中に飛び込む。
「それしか無いみたいね」
 泣きながら、澄華もそれに習う。
「あー、冷てぇ!! ‥‥ちくしょう。耐えるんだ、俺!! 全てはウサ公の為だ!!」
 水の冷たさにたちまち唇を紫にしながらも、雪人もまた川に入る。ちなみに馬は水の冷たさに嫌がって逃げた。
「そうはさせるか! 頼むぞ!!」
「ほーっほっほ。任せてちょうだい。乙女の業、全て使って差し上げるわね♪」
 冒険者らの動きを見て、河童が呼子笛を高らかに吹いた。途端、川に飛び込む胸をしっかり手拭いで隠した大きなオカマが一人。
 笑顔で告げられるや、抱き付かれる烈閃。陸上であっても技術に差のある相手。ましてやここは水の中で、相手の方が多少なりとも泳ぎの心得があった。数では勝れど、あまり纏まってしまっては飛び石代わりにならない。
「構わずに早く行け。そして、必ず勝て! 全ては、奴を亀だと認めさ‥‥ぶっ!!」
 それでも組み付かれている内は、相手も他に手出し出来ない。烈閃が組み付かれながらも、化け兎に叫ぶ。が、化け兎はそんな言葉を聞くまでも無く、烈閃の顔を踏みつけ、ついでに組み付いている相手すら踏み台にして、ひょいひょいと川を渡る。
 組み付いていた相手は慌てて烈閃を投げ捨てて後を追おうとしたが、それを雪人らが懸命に阻み、間に合わない。ちなみに、烈閃は締められてた打撃と踏まれた衝撃に泳ぐ体勢を崩して、そのまま溺れて川を流れていった。さようなら、また会う日まで、である。
「やれやれ。兎姿でいてくれただけマシなんでしょうけど」
 踏まれて沈みかけた澄華は体勢を立て直したが、水面に顔を出すと盛大に水を吐き出す。
 化け兎はもうそんな冒険者に構わず、残りの距離を必死に駆けている。
「がんばれ、うさくん。後もう少し!」
 さすが河童は川に入った途端に、凄い勢いで追いついてくる。
 飛び石代わりは後ちょっとで足らず。残りの距離を油に注意しながら飛び石を進む化け兎。足を取られてはそれを苺華が支えて、先へと送る。
 その間に河童が追い抜き、先に岸についた。しかし、旗まではまだわずかに距離がある。
「えーい。こうなったら!!」
 川の上を飛ぶ苺華が、化け兎に合図。彼女の蹴りに合わせて、大きく化け兎は飛んだ。
 えっちらおっちら走る河童がそれに気付き、速度を上げる。その後ろから距離をかせいで降りた化け兎がまさしく矢のように走りこみ、両者、もつれ込むように旗へと手をかけた。

「ふふふふふふ。事前に用意しておいてよかったと言うものだな‥‥」
 歯の根を鳴らしながら、烈閃(戻ってきた)は焚き火にあたる。赤々と燃える炎がこうも暖かく感じるのは早々無い。
「でも。結局、同着両成敗‥‥ですか」
 川に入った人の為に、亞璃紫阿が用意しておいた布を手渡して回る。その声ががっかりと気落ちしているのは当然とも言えた。
 旗にもつれ込んだのはほぼ同着。審判役のご老人でも見極めが付かず、それならば、というこの結果。がんばっただけに口惜しいのも当然だ。
 勿論、不満は冒険者たちだけに限らず、化け兎もである。さっきから焚き火の傍でずっと悶えっぱなしだった。
「よいじゃないのかい? どの道、勝って敗者に要求を言い渡せるが、敗者がそれに従う取り決めでは無いんじゃしのぉ」
「‥‥‥‥マジ?」
「マジマジじゃ。前からそんな感じでのぉ。故にまーったく進歩が無い」
「わしらは楽しいけぇ。黙っちょるけどな」
 ふぉふぉと軽く笑うご老人たちに、雪人は天を仰ぐ。他の面々にしてもぐったりと気落ちして寝そべる。そんな彼らを見ながら、骨折り代わりに使った道具は補充しようと言ってくれたのはせめてもの救いか?
 よく分かって無い化け兎だけはきょとんとしたまま、取り合えず、肩を落とした面子の頭を撫でて回っていたが。
「さて、まぁ。川に入ったりでいろいろ大変じゃったろ? 汁粉をこしらえたけぇ、温まるぞ」
「汁粉! お餅! うさついたの! 食〜べろ食べろ。亀の仲間もご一緒、どうぞ♪」
「だから、亀じゃねぇェ!!」
 運ばれてきた椀に入った餅を見て、化け兎がいきなり人化けして騒ぎ立てる。
「今日は本当にありがとう。また、遊んでね〜」
「えと。遊ぶのはまぁ良いとしても。出来れば、余計な争いは止めにしてちょうだい。ね?」
「ちゃんと亀と河童の違いを覚えてもらわないと。他の河童さんと競争になっても大変でしょうし」
 にぱ、と笑顔で告げる化け兎に、苦笑しながら澄華と羽儀が返す。その言葉をどこまで理解したかは不明だった。