新撰組四番隊 〜祇園祭に吹く風〜

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:3人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月13日〜07月18日

リプレイ公開日:2009年07月22日

●オープニング

 京の文月は祇園祭につきる。
 一日の吉符入りから始まり、約一ヶ月にも渡る儀式の数々。
 戦乱の世に加え、妖の脅威がひしひしと迫り来る昨今。元は御霊会から始まったこの祭に少しでも神仏の加護を求めようと、むしろ殺気だった真剣さで粛々と進行している。

「そもが大きな祭りだ。この悪情勢の中、早々浮かれ立つ阿呆は少ないが、人の出入りも多くなり、いざこざが増えているのは確かだ」
 冒険者ギルドに顔を出すのは、左目の火傷の痕が特徴的な新撰組四番隊組長平山五郎。
 情勢悪かろうと、大勢の客で京は賑わう。不逞の輩がこの機に乗じて悪さをしないよう、新撰組始めとする各部隊は神経を尖らせている。
 しかし、そういう時に限って邪魔をしでかしてくる無粋な連中は出てくる。
 人であれば事態を察するだろうし、動物なら気配で察する。
 人でも動物でもないモノ。ようは物の怪だ。
「鎌鼬八体、右京で暴れまわっている。祇園祭は延暦寺の末寺、八坂神社が中心。賑わうのは左京でまだ距離はあるものの、何の気まぐれでやってくるか分からん」
 鎌鼬はつむじ風と共に現れ、いきなり斬りつけて来る精霊の一種。
 幸い死人や重傷者などは出ていないものの、そんなモノが祭の賑わいの中に紛れ込まれればどうなるか。
 山鉾や神輿が傷つけられでもしたら、この不穏な情勢最中に縁起でもない。
 なので、右京を彷徨っている今の内に、始末したいのだという。
「本来なら妖怪なんぞ黒虎の領分。奴らに任せようとしたら、祭の警備で手が足らぬほどだという」
 ちっ、と平山が吐き捨てる。
 黒虎部隊はいろいろあって人員が減っている。その上で祭の賑わいに同じく手を割かれるのだから、新撰組以上に大変になるのだろうが、そこら辺は考慮しない気だ。
「とはいえ、あれしきの相手にこっちの警備の手を裂けん。複数体で飛行し、行動範囲が広いのが厄介だが、移動さえ封じれば戦力としてはどうという事は無い。私と他隊士二名が出る。足りない分をこちらで補いたい」
 相変わらず頼まれがいの無い態度。
 とはいえ、依頼人どうあれ、放っておいては都が騒ぎになる。
 人が来るかは別として、ギルドの係員は冒険者募集の貼紙にとりかかった。

●今回の参加者

 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec5210 リンデンバウム・カイル・ウィーネ(47歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec6754 卯月 桜(24歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

明王院 未楡(eb2404)/ 明王院 月与(eb3600)/ リンカ・ティニーブルー(ec1850

●リプレイ本文

「二人か。まぁいい」
 都西部を騒がす鎌鼬。その討伐の助っ人として冒険者を雇うも、現れたのは十野間修(eb4840)とリンデンバウム・カイル・ウィーネ(ec5210)の二名のみ。
 討伐に赴くのは、依頼主である新撰組四番隊組長・平山五郎と平隊士二名を合わせた計五名。
 対して、鎌鼬は八体出没している。
 数では不利となるが、それを気にする様子も無く、時間が惜しいと平山は話を切り出す。
「京の西に出るという妖は、派手に騒いでいるようですね」
 広げた地図を前に眉を潜める修。明王院未楡と明王院月与がもたらした情報によれば、あちこちで屋根を飛ばしたり、着物が刻まれたりと悪行甚だしい。
 幸い死者は無い。後に残るような大きな傷を負わされた者も無い。が、軽傷者や物の破損は数多い。
 調子に乗ってきたか、最近では鎌鼬たちも真ッ昼間堂々、人の多い通りを一気に駆け抜け、多数の人や物を切り裂いている。
 驚いた馬が暴れて怪我するなどの二次被害も聞かれるようになり、このままではどうなるか分からない。
 これまで運がよかっただけ、とも言える。
 まして、祭で賑わう東側に入られたら‥‥。
 情報収集がてら明王院たちは、事態の収拾を約束して不安を払拭させてきたが、対する期待は大きいようだ。
「しかし、居場所を掴もうにもあちこちに飛び回り、まさしくどこ吹く風、のようだ」
 リンデンバウムの表情が僅かに曇る。
 リンカ・ティニーブルーが五感を頼りに、暴風たちを追いかけていた。
 騒ぎを知るのは割と簡単だった。しかし、その現場までが遠いと、辿り着くまでに相手がさっさと移動してしまっている。
 いかにして、鎌鼬を捕らえるか。
「だからこそ、お前たちに頼んだんだろう」
 考え込む冒険者たちを、平山が冷たく一瞥する。
「一応、策は持ち合わせている。大丈夫だ」
 それをリンデンバウムは軽く受け流した。
「ただ、私たちは術主体です。誰の功か、はっきり知らしめる為にも、隊長たちが前衛で対峙。私たちは後衛でその輔佐、という事でいかがでしょう」
 新撰組の立場は、実に微妙だ。
 数々の戦績を挙げ、都の治安部隊最大手であるにも関わらず、その後ろ盾である源徳家康は失脚中で政治的立場は危うい。
 その源徳に絡んで敵も多く、いつ新撰組にまで危難が及ぶか分からないのだ。
 だからこそ、平時から功を上げて、少しでも体裁を良くしておくべき、と考えるのだが。
「我らを盾にするか?」
「滅相も無い!」
 修の提案に、じろりと平山が睨みを効かす。
 目を丸くして否定すると、その様を見てくつくつと笑い出した。
「冗談だ。確かに、それぞれの得意や役割を考えても、それが妥当だろう」
 笑う姿に他意は無い。とすると、本当に冗談のつもりだったか。
 あまり笑えない冗談だと思いつつも、この場はとりあえず黙っている。
 誰かと違い、波風立たせる二人ではないのだ。


 気ままな風の行方。
 掴む為には、風より先に動く必要がある。
「幸いというべきか。奴らの情報は十分。必ず導いてくれよう」
 派手に騒いでるのが運の尽き。手伝いの方々がもたらした情報を頼りに、リンデンバウムがバーニングマップで所在を炙り出す。
 隊長に頼み、都の地図は入手しているし、その写しも取った。あくまで条件に合う場所に行く為の魔法なので、探索には難しいところもあるが、今回は目撃情報も多く特定しやすい筈。
 加えて、修のサンワードで大雑把な距離だけとはいえ現在位置も把握できる。
 あてもなく見回るより確実。一度でダメなら、何度でも探るまでだ。
「行くぞ」
 灰に描かれる道筋。鎌鼬たちがいると思しき場所に、五人が走る。
「大丈夫。かなり近くにいるようです」
 金貨握り締めて、修が告げる。
 どこだ、と探す間も無く。悲鳴と騒ぎが風に乗って聞こえてきた。
「でかした」
 短い言葉だけ言い捨てると、平山たちは騒ぎへと赴く。

 悲鳴を聞いて、道行く人が立ち止まる。そこを鎌鼬たちが駆け抜けると、たちまち肌が破れて血が滲む。
 まさに一瞬の出来事。
 大きな怪我が無く、また鎌鼬たちもすぐに通り過ぎてしまうので酷い騒ぎにはならず。
 であるが故に、先んじて逃げる人も少ないので被害は拡散するばかり。
「あ!」
 と、小さく声を上げて傷口を押さえる人たちを、鎌鼬たちはほくそ笑んでいたが。
 横合いから飛び出してきた影が、一匹を捉えると、あっという間に両断した。
「ナンダ!?」
 事態を把握できず、動きを止める鎌鼬。
 その間にも、また別の一匹が白刃に落ちた。
「妖相手に、名乗る必要は無いな」
 先頭を走る平山に迷いは無い。付いた平隊士も同様、こんな作業はさっさと終わらせるに限るとばかりに、躊躇い無く、鎌鼬を刻む。 
 早々と二匹が殺られ、ようやく、何が起きたか理解出来たらしい。
「オノレ!」
 恨みの声を上げる鎌鼬。
 殺気とともに敵を排除しようと応戦するが、何匹かは動かない。いや、動けない。
 修のシャドウバインディングだ。
 さらに、低く飛んで来る鎌鼬をシャドゥボムで牽制。体勢を崩した所で、新撰組がさらに畳み掛ける。
「悪戯ばかりで、戦闘は苦手か? このまま仕留める」
 鎌鼬たちは遠い間合いからも一瞬で懐に入ってくる。振るう両刀もなかなかのキレを見せる。
 それでも、新撰組の腕前にはかなわない。
「しかし、こんな露天では敵も逃亡しやすいです。風の精霊なら吹き溜まりに追い込めば逃亡し難いのでは?」
 鎌鼬の移動は速い。
 駿馬に乗り全力で駆けて、ようやく追いつけるかどうかだ。
 勿論、街中で馬を走らせる訳にはいかず、空を駆ける筈も無いので、馬を用意しても追いかけるのは難いだろう。
 今は報復として襲ってきてはいるが、分の悪さを知って逃げに入られれば、取り逃がす可能性は高い。
 そう修は、危惧を口にする。
「ならば、室内にでも連れ込むか?」
「それは勘弁してくれ。今でも類焼しないよう気を使っているのに」
 揶揄するように笑う平山に、リンデンバウムが身を震わせる。
 一撃入れると、あっという間に距離を置く鎌鼬。刀では届かぬ先で安堵している相手に、ファイヤーボム。
 破壊力の高い魔法だ。爆発に飲み込まれれば、建物も壊れる。
 火が付けば、木造建築の多い京都。どこまで火災が広がるやら。
 レミエラで効果を絞ろうとは考えたが、初級と専門では変わらない。結局、距離を測って気をつけて唱えるしかない。
 おあつらえ向きに奴等が操るのは風魔法。ストームで後方に飛ばされ痛い目を見るが、その風に煽られ火が燃え盛ればと思うと、ぞっとする。
 上がられた家も迷惑するに違いない。
 室内以外でも風の凪ぐ場所はあるが、そこに追い込む為の手立ては乏しい。
 追い込む間に逃げられる事を考えると、修も無理にとは言わない。
「奴らの注意は今こちらに向いている。逃げられる前に叩けばいいだけだ」
 さっと抜かれた白刃が、また鎌鼬を斬り捨てる。


 自分たちが叶う力量かどうか。獣の勘で、鎌鼬たちにも分かったらしい。
 だが、逃がして報復にでも出られればたまらない。
 ファイヤーボムとシャドゥボムで牽制し、近寄れば影で縛る。何も言わずとも、隊士たちは冒険者らに合わせて動き、好機を作れば素早く対処した。
 最後の一匹。逃走しかけていた鎌鼬を爆発で叩き落すと、平山が躊躇い無く頭を刎ねる。
「八体。これで終いだな。‥‥ご苦労だった。約束の礼だ」
 何の感慨も無く告げると、平山は刀を納めた。
 二人に礼金を支払うと、別の仕事があるとさっさと立ち去る。
「素っ気無いですねぇ。何か声でもかければいいですのに」
 この騒ぎを、遠巻きに都人たちが眺めている。鎌鼬騒ぎを不安そうに見ている人々に、何の説明も無いまま、新撰組は持ち場に戻る。
「アフターサービスも必要だな。彼らの影に日向に、都に住む人々を守る剣として戦う、志ある行動。人心を掴めば、お偉方とて無視も出来んだろう」
 軽く肩を竦めると、リンデンバウムは京の人たちに説明を始めた。