暴れる熊鬼
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:3人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月13日〜08月18日
リプレイ公開日:2009年08月23日
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●オープニング
西はイザナミ、東は源徳。
兎角この世は騒がしい。
それでも、江戸の戦禍は地を選ぶ。無差別な西に比べればまだまだ平和とも言える。
もっとも、対岸の火事で笑っていると、いらぬ所からしっぺ返しが訪れる。
「戦禍は広がってますが、戦地となりえる場所は限られてます。とはいえ、そこから逃げ出す奴も多いですからね」
冒険者ギルドにて。報告された依頼に、やれやれとギルドの係員は頭を掻く。
戦の気配に勘付いて、逃げ出すのは何も人間だけでは無い。
鳥や獣、そして鬼や妖怪たちも不穏な気配を恐れ、あるいは血の匂いに狂喜してこれまで以上に活発な動きを見せる。
「で、世間の騒ぎに浮かれて暴れまわっていた鬼が、流れ流れて江戸近郊までやってきたそうです。熊鬼が四体。死者から奪った装備で身を固め、あちこちで略奪を働いています」
何処かの武士が身に着けていたのだろう武者鎧と太刀を装備している。
目に付いた村を襲撃し、目ぼしい物は奪い取る。行動は野盗と変わらないが、盗賊なら人を喰ったりしない。
「すでに幾つかの村が襲われています。ただその行動から見て、彼らの今の拠点に検討がつきました」
係員は地図を取り出すと、山の谷間、何も無い場所に印をつける。
「この谷間にはかつて村がありました。今は誰もいない廃村になってますけどね。家自体は幾つか朽ちずに残っていますから、隠れるには都合がいいでしょう」
ただし、確証は無い。
山の方に逃げた、という話は生き延びた者から聞いている。そして、山には洞窟のような場所は無く、生活をするなら恐らくここだろうという推測だ。
ただ、鬼のやる事。
もしかすると、山のどこかで野宿している可能性もある。
「そこに留まるのか。あるいはまたどこかに行くのかは分かりません。ですが、放っておいては被害が増すばかりです」
正確な居場所が不明なので、移動時にも注意を払う必要はある。
それでも、何とかこの熊鬼たちを仕留めてきて欲しい。
●リプレイ本文
源徳の攻勢が始まった。
各地で激しい戦闘が繰り広げられ、戦況は刻々と変化する。
戦禍に巻き込まれまいと、恐々と身を縮こませる者もいれば、安住求めて移動する者もいる。
それは人でも獣でも‥‥魑魅魍魎でも同じ事。
「熊鬼って始めて戦うわねー」
西洋でいえばバグベア。珍しいモンスターではないが、会わないに越した事無し。
不幸な事に熊鬼と出くわしてしまった村は惨憺たる現状。
襲撃の痕跡が残る村で、なるべく多くの情報を、サラ・クリストファ(ec4647)は尋ねて回る。
「世の中の乱れは、要らんモノを呼び寄せるんだな。‥‥にしても、相手は鎧を着込んでいるのか。厄介だな」
聞いた情報に、高千穂梓(ec4014)は柳眉を潜める。
熊鬼は四体。駆け出し冒険者ではやや梃子摺る相手となるが、そこらは心配ない。ただ、武装した相手というのは例え誰であれ手がかかる。
村人の話では、最初は落ち武者が来たと思ったらしい。まぁ、暴れ回って去る輩など、人間であっても鬼であってもただ迷惑なだけだが。
一通り略奪を行うと、熊鬼たちは戦利品と共に逃げて行った。証言を集めてみれば、それはいつでも一つの山に向かっている事が分かる。
「そこはさすがに人間と違いますね。小賢しい知恵が回らない分、読み易い」
熊鬼の痕跡を探っていたファング・ダイモス(ea7482)がからかう様に笑う。
「大体の場所は分かった。後は探してみるしかない。さっさと見つけて終わらせるか」
「見つけに行くのはいいけど‥‥、本当にこの格好で?」
サラが顔を隠す頬被りを指差す。あまり気に入ってはない様子。ま、人目にいい格好ではない。
「先制とられるならともかく、逃げられたりしたら最悪だからな。金気のモノにも布を被せて見付かり難くしておく必要はある」
「そうよねー。鬼相手に、見た目気にしてらん無いもんね」
梓に言われて、サラも頷く。ただ、頭で分かっていても感情が付いていかない時もある。落胆は隠せない。
暗がりに肌は意外に目立つ。隠す為に頬被りをし、衣服もなるべく暗めのものを選んだ。得物も反射しないよう布を巻いている。
ファングも体に泥までを塗って、準備は万全だ。
かくなる上は、熊鬼を倒して胸の靄ごと晴らすのみだ。
「さあ、探すわよー」
気合引き締め、サラが歩き出す。
●
山に入れば、自然ファングが先頭に、二人が後ろから着く形になった。
山に入ってからの痕跡は、足跡で消される心配は少ないが、草木や土の状態、川などで遮断されたりとやはり一筋縄ではいかない。
それをファングは注意深く見落とす事無く、確実に足跡を拾って追跡する。
「この山に帰る、というのだけは確定みたいだけど、どこにいるかは分からない。‥‥もうすでに近くにいる可能性もあるのよね」
「そうだな。ただ、今の所は留まっている痕跡は見付からないが‥‥」
小さな痕跡も逃すまいと、サラと梓も周囲に気を配る。
その内に、熊鬼がいると言われた廃村まで辿り着く。
「つい最近、立ち寄ったのは確実でしょう。問題は、まだいるのか、あるいはもう他に出て行ったか、ですが‥‥」
崩れた家屋を調べ、ファングが村の中を見入る。
打ち捨てられた家が崩れ、無残な姿を晒しているのは当然。だがその中に明らかに真新しい傷跡がある。獣の爪痕とも見えぬそれは、間違いなく道具を用いたもの。
熊鬼たちが、家と見て誰かいると思い込んで踏み込んだのだろう。
そこから目を凝らすも、動くモノは無い。耳をすましても何も気になる音は無い。
「ここに住み着いているのか。あるいは他にいるにしても、手がかりがある筈。家捜ししてみるか」
さらに手がかりが無いか。梓は壊された扉の家を覗き込むと、物音を建てないよう中へと忍び込む。
気配無くとも、熊鬼が隠れてる危険はある。これまでと変わらず、陰に隠れながら慎重に行動。
「あそこ、ちょっと他と様子が違わない?」
各々で村中を調べて回る。
と、声を潜めてサラが手招いた。
指したのは木造の倉庫だった。何かあっても大丈夫なように、家より頑丈に作られていたのだろう、あまり崩れが少ない。
だが、そういう外見だけで無く、サラがそう告げた理由が他の二人にも分かった。
「出入りする足跡が多い。中を片付けた痕もあるし、周囲の土も他に比べて乱れてます」
目を凝らして、ファングが告げると、二人を待機させて偵察に出る。
村で共有して使っていたのか、倉庫はかなり大きい。熊鬼四体ぐらい、寝泊りするには十分な広さだ。
油断無く、ファングが隙間から中を覗うと、喰い散らかされた骨や血の痕、ガラクタ同然にされた真新しい道具が散乱していた。
「裏手を見たけど、酷い血の痕が染み付いている。雨風も防げるし、近くに水場もある。奴らが棲むには都合いい場所だ」
顔を歪めて、梓が告げる。
棲家は分かったが、肝心の熊鬼たちがいない。
今、どこに出ているのか。
不安は募るが、焦って事を仕損じてはいけない。
時期に帰る時を待ち、三人は迎え撃つ準備を始める。
●
鳥たちが一時に空へと羽ばたく。俄かに騒々しくなった山から、さらに異質な声が聞こえてきた。
「グォ、グォオオ! グォオオ!!」
「バグバ、バベ」
姿を現したのは、確かに遠目では落ち武者四名に見える。近付くにつれ、その頭が猪の異形と知れるが。
歌っているような陽気さも感じる。
肩に担ぎ上げているのは大きな鹿。大きな獲物を捕らえたからか、気配からして機嫌は良い。人間を捕まえた訳じゃないと知り、冒険者たちはひとまず胸を撫で下ろす。
「ゴフッ! バグ!」
「グバグバ! バグゥ」
そこが、台所という訳か。血の痕が広がる大地に鹿を投げ捨てると、乱暴に四肢を折る。
さっそく手を出そうとした一体を別の一体が止める。仲裁に入った別の一体が残る一体に声をかけると、神妙そうに二体もそいつに向き合った。とすると、その四体目が頭的な役目と見る。
大まかな立場を把握すると、まずはファングが動いた。
伸び放題の草むら。その一角がざっと動いた。
「フゴ?」
何気にそっちを向いた熊鬼に、青龍偃月刀が伸びる。身の丈と同じ大きさの得物を軽々操り、ファングが熊鬼一隊を押さえる。
潜んでいる事に、全く気付いてなかった熊鬼たちはそれでようやく事態を知る。鹿肉を捨て、血だらけの手で各々武器を取る。
「騎士。サラ・クリストファ、いきます!!」
クルセイダーソードを掲げ、高らかに叫ぶとサラが一気に地を蹴った。
迎え撃とうと、太刀を振り回す熊鬼。だが、その動きはなっちゃいない。サラたちから見れば、子供の児戯だ。
それでも、無用な怪我は負いたくない。振り下ろされた刃を、氷晶の小盾で受け止めると、サラは逆に熊鬼へと刃を尽き立てていた。
「グルオオオオ!!」
数の上では四対二。さらに一体がサラに迫る。先の熊鬼と組み合ったサラはとっさに対応出来ない。
思わず、身を硬く仕掛けたサラの前に、ファングが出る。
「遠い所から此処まで来たのだろうが。熊鬼たちよ、ここで覚悟してもらいましょう」
軽々と動く青龍偃月刀は、鎧を纏う意味も無く、あっさりと命を絶つ。
そして残る一体は、鹿肉を掴むとこそこそと後退している。恐れを為したのか、食欲を優先させたのか。
「何にせよ、褒められた事じゃないな」
上手く戦火を逃れてしめしめとほくそ笑んでいた熊鬼は後方にも敵がいるのに気付いて驚く。その様子に、梓はただ呆れる。
「フギ、グギャア!!」
欲張った肉を捨て去り、腰の太刀を引き抜く熊鬼。退路は梓が塞いでいる。殺るしかない。
「遅い!!」
梓の霞小太刀が一瞬にして引き抜かれ、熊鬼を裂いた。避ける暇など無い。が、刃は鎧と分厚い毛皮を滑り、致命傷とまではいかない。
「やはり威力不足か‥‥。ならば、これは!!」
傷を受け、怒った熊鬼が、我武者羅に太刀を振り回す。
その軌道一つ一つを丁寧に見極め、躱しながら、梓は体勢を立て直すと、素早く掠めるように刃を振るう。
熊鬼は、ぎりぎりで躱せない。捕らえた切っ先が、肉を裂き、血の滴で地面を濡らした。
●
「二人とも、怪我は無いわね」
サラの言葉に、二人は頷く。
辺りは血の海に沈んでいるが、それは過去に屠られた犠牲者や、今斬られた熊鬼たちのもの。冒険者たちにはさしたる怪我は無い。
そうと分かると、サラは血糊を拭って剣を戻した。
ファングは、手ごろな場所を見つけると、捨てられていた道具を使って穴を掘る。
熊鬼四体。ついでに狩られた鹿や、残骸として放られていた骨も集めて、手厚く葬る。
「戦が長く続けば、何処かに警備の穴が出来る。この熊鬼達も、其処に惹かれて来たのでしょう。戦は避けるべきだ」
手を合わせながら、ファングが静かに、けれど言葉も強く告げた。
こうしている間にも戦は進む。
変わる日常、得られる利権。
熊鬼たちですら、見ようによっては犠牲者であったのかもしれない。
望まず巻き込まれた犠牲の上に、誰が何を掴むのか。それはまだ分かりそうに無かった。