【レミエラ】京都見廻組 〜鬼追い〜
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月03日〜09月08日
リプレイ公開日:2009年09月11日
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●オープニング
京都郊外、血の雨が降る。
何の意味も無く、躊躇いも無く、ただ斬る為だけに斬られた死体が積み重なった。
凶行を止めるべく、日夜調査に赴いていた京都見廻組は、事件現場に行き当たる。
「あれは鬼女――茨木童子!!」
そこにいたのは鬼だった。それも酒呑童子の腹心――いや、元腹心か? 離反したとの話も聞く。
ともあれ、長刀を抜いて立つ麗しの鬼は一人ではなかった。
熊鬼が一体、背後に黒装束の者が一人。
そして血の海の中、血塗られた野太刀をぶら下げる大男。
大男は同じ黒装束を纏っていた。凶行の原因を作ったのは誰か明らか。それに茨木が咬んでいたかと最初は思ったが。
立ち位置や茨木たちの雰囲気からして、両者は反目し合っていると気付く。
彼らの間で何があったのか。あいにくその時点で見廻組たちが推測付ける材料は揃ってなかった。
訳が分からないままも、放っておく訳にはいかない。
「そこまでだ! 大人しく縛に付け!!」
そこにいる全てが危険分子であり、排除するに足る。見廻組たちが刀を抜き、攻めかかったのは当然の判断だ。
「邪魔だ!!」
「あー。邪魔ですね」
敵の敵でも味方にはならない。犯人と鬼たちと見廻組と。三つ巴の混戦が繰り広げられた。
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「んでまぁ、結局二兎追う者は何とやらって奴で。茨木も犯人も逃がしちゃったって訳なんだよねー」
冒険者ギルドにて。状況を語った京都見廻組の坂田金時が、頬杖ついてため息を漏らす。
数では勝っていたが、戦闘中に負傷者も多く。両者が逃げ出した際に、どちらを優先して追うかで一瞬ためらいがあった。
それが油断になったのかもしれない。まぁ、今更言いようの無いことだが。
事が落ち着き、生存者を見つけて話を聞き、それでようやく事態を把握するに至った。
「ここん所の凶行は大男一人の単独犯。そっちは、綱たちがいっしょーけんめー追いかけてる。ただ、何か鬼から盗んだらしくて、狙って茨木も動き出しちゃったって感じなんだよね」
軽い口調でいい加減な金時に、話を聞いていた周囲から冷たい目線が飛ぶ。さすがにまずいと察知して、身を正す。
大男が盗んだのは、証言からレミエラらしいと分かった。それも、恐らくはヒューマンスレイヤーの能力を持つ。
「茨木も結局その時、男を逃がしちゃったわけで。再度捕まえようと京の都に小鬼を放して探させてる‥‥ようなんだけど‥‥」
腕を組み、首を傾げる金時。
「しょーじき、それが分からないんだよねー? 確かに探し物に人海戦術はよくある手だよ? でも、京の都に小鬼がうろついても目立つだけじゃない。おまけに小鬼たちは頭悪いから、いい加減探し物より目先の悪戯に力入れだしているし、その騒ぎに便乗して野良の小鬼まで入り込んで悪さするようになってきて、もうぐだぐだ何だよねー。
あんな悪目立ちしたら、追いかけられる方だって逃げやすいじゃない。で、当の茨木自身は姿を見せる気配無いしさー」
小鬼は知能が低く、あまり難しい行動は取らない。この結果はむしろ予測して当然。
むしろ、茨木の手の者には人間も多数いるのだ。彼らを動かす方が探索に向いている筈だが、幾ら注意を払ってもその気配が無い。
「ほんと何考えてんのか分からないけど、そういう難しい事は貞光に任せるとして。おいらたちはとにかく目先の問題。京で悪さしている小鬼たちをどうにかしないとって事になったの」
見廻組の詰め所にて。碓井貞光は情報整理に追われてるらしいが、そっちに構う気はどうやら無い。
小鬼たちは京のあちこちで、盗み、壊し、子を泣かして、大人を怒らせている。子供の悪戯のような行為がほとんどだが、度を知らぬ分性質が悪い。怪我をする者も出ていた。
ただでさえ、今の時期、新撰組が東に離脱し、京の警備は落ちている。そこに小鬼程度の蹂躙を許せば、都の尊厳に関わる。
「黒虎部隊も動いちゃいるけど、こんな雑魚だらけに手は裂けない。でも、手がかかってしょうがないってんで弱ってるんだよね。大男さえ捕まれば探索も止むはず‥‥なんて暢気にしてても、どうも悪ふざけやめるつもりなさそうだしさ。都を騒がせる悪童鬼を殴り倒していかなきゃ駄目みたい」
もはや捜索という目的も覚えているのか非常に怪しい。
好き放題に都をうろつく小鬼にきつい灸を据える必要があった。
●リプレイ本文
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京の都に怪異が起こる。
今に始まった事ではないが、それを当然とする程懐は広くない。
送り込まれた小鬼の群れ。あちこちで性質の悪い悪戯の被害者が発生し、小さな騒動が頻繁に繰り広げられる。
「影牙、陰牙、逃がすな! そこの路地裏に追い立てろ!!」
備前響耶(eb3824)の指示で、柴犬二匹も巧みに小鬼を追い回す。
鳴らされる呼子笛が、四方から聞こえる。先を走る小鬼たちの元に、脇から出てきた別の小鬼の群れが合流。追い回す内に、さらに別の所からも逃げてきた小鬼たちが。
「ゴ、ゴブゴブ!?」
行く手に壁が立ちはだかり、小鬼たちが足を止める。来た道を戻ろうとするが、そこには京都見廻組たちが並ぶ。
自分たちが、追い立てられ集められ、逃げられぬよう袋小路に追い詰められたと、果たして彼らは理解できたかどうか。
響耶は名刀・獅子王を抜くと、素早く掠める動きで刃を振るう。小鬼風情に叶う動きではない。的確に四肢や首を狙えば、枝葉のように断ち切れていく。
瞬く間に反撃の余地も無く、小鬼の集団は血に沈む。
結構な数を斬り捨てにしたが、それでも入り込んだ小鬼はまだまだいる。
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「小鬼すら好き勝手に暴れられる。それが今の京の現状だ。本来、あったはずの力を発揮でき無くなったのは何時からだったか」
疲れた表情で響耶が嘆く。
仕留めても仕留めても、また沸いて出る小鬼の群れ。
新撰組が抜けた事で全体の体制も大きく変わり、警備が回らない。それをいい事に、連中は頭に乗り始めている。
いや、新撰組脱走以前から京都見廻組は精彩を欠く。本当に、如何なく力を発揮したのは何時だろう。響耶の記憶に無いのが、実に歯痒い。
だからといって、小鬼にまで舐められるなど冗談では無い。
「とにかく一掃あるのみね」
神木秋緒(ea9150)が告げる。
「しかし、数より質にも限度がある。人手不足は否めない」
なので響耶は見廻中の他隊士にも頼んで、小鬼を囲い込んで仕留めるようにしているが、それでも漏れる小鬼はいる。おまけに、後からのこのこやってくる小鬼も。
「襲撃場所に傾向が見られればと思ったけど、本当に気の向くままね。さすがに御所に近くなる程警備がきつくなるから、奴らも動けないのでしょうけど、人のいる所はどこも騒動だらけよ」
被害情報を確認して、秋緒は小さく舌打ち。小鬼の頭は子供とそう変わらない。単純な事しか考えられない分、目先に捕らわれがちと思えば、思いもよらぬ突拍子な発想にも辿り着く。
「小物相手とはいえ逃す気は無い。見せしめも込めて、情け無用で片付ける」
小鬼とはいえ、妖怪相手なら本来は黒虎部隊の仕事。クロウ・ブラックフェザー(ea2562)もまた小鬼退治に勤しむが、どこも人不足は変わらない。
ならばこそ、都で悪さなどする気も起こさせないよう、徹底して取り締まる。
「気になるのは、レミエラ狙いで送り込まれたはずの小鬼の動きよ。一体何を考えてるのか聞いてみたいわね。といって、普通に追っているだけじゃ他の小鬼と見分けがつかないし‥‥」
軽く考え込む秋緒に、クロウが告げる。
「やっぱ、囮をやるか」
「そうね。‥‥占部さんはどこにいるのかしら?」
同僚の占部季武の行方を聞かれて、首を傾げる坂田金時。
「季武なら、同じく仕事で出回ってるけど‥‥。何で、あいつなんだ? おいらじゃ駄目?」
「坂田さんじゃ、身長が違いすぎるからな」
にやりと笑って、クロウが金時の頭を叩く。何せ、彼の身長は下手すれば小鬼より低い。
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「いたぞ!! 人斬りだー!!」
隊士たちが、大声を張り上げる。慌しく駆けつける先には、昨今警備を翻弄し、小鬼の騒動のきっかけとなった人斬り犯人だ。
全身黒装束。加えて、顔も覆面でよく分からない。特徴的なのは、ジャイアントのような巨躯と手にした野太刀に付けられたレミエラ。
「見つけたぞ、この辻斬り野郎が!」
クロウが長弓・柊で矢を射掛ける。それを軽々躱すと大男は無言のまま背中を向けて逃げ出した。
「逃げたぞ! 追えーー!!」
ことさらに大声を上げて、周囲に聞こえるように大男を追わせる。
「都を騒がす不届き者、大人しくお縄につきなさい!」
回りこんだ秋緒が、日本刀・無明を抜く。
「ふん!!」
酷く大きく振り下ろされた太刀を、秋緒は弾き飛ばす。
刀は大男の手からすっぽ抜け、乾いた音を立てて地面を転がる。
「ゴブ!!」
その時、物陰に隠れていた小鬼が野太刀に飛びついた。そのまま抱え込んで走り去ろうとする。
「させるか!」
クロウの一矢が飛んだ。的確に足を射抜き、地面に縫いとめる。
「ゴブブブブブ!!」
移動を殺がれた小鬼は、悲鳴を上げて転がった。その様子に、ぎょっとして周囲に隠れていた小鬼たちが顔を出す。
小鬼の手から再び野太刀が落ちる。それを拾いに行くべきか、それとも逃げるべきか。小鬼たちは判断しかね、立ち止まったその一瞬すら命取り。
秋緒が小鬼に走り寄ると、容赦なく一刀を叩き付ける。強靭な刃は、見事小鬼の体を命ごと断ち切る。
「都に住む人たちを人外から護るのが俺たち黒虎部隊の仕事だ。小源太、逃がすな!!」
怯えて逃げようとした小鬼の先に、柴犬が回り込み、退路を断つ。
小鬼数体を強く睨み付けると、クロウが長弓・柊に矢を番え、放つ。まずは足を狙い、動きを止めた所で矢を二本同時に番えて素早く射抜いていく。
邪気を祓う神聖な弓は、鬼により深い傷を与える。見る間に小鬼たちは矢衾にされる。
他の追いかけていた見廻組たちもまた黙ってはいず、彼らに加勢する。のみならず、追われていたはずの大男もまた転がった野太刀を拾い上げると、小鬼に斬りかかる。
「うえ。やっぱり邪魔だ。全く外回りから帰って一息つけると思った早々、面倒な仕事回してくれるなー」
覆面を脱ぎ捨てると、露わになった顔は占部季武。勿論、京都見廻組の所属で、人斬りに転職した訳では無い。
様は、近くで目的の大男が暴れていれば、茨木から命を受けている小鬼なら幾らなんでも様子を身に来る筈。幸い、犯人は全身黒尽くめと分かりやすい上、覆面で顔まで隠している。背格好が似ていれば簡単に騙され出て来ると踏んだが、本当にその通りだった。
「さあて、残るはあなた一体。冥途に行く前に教えてもらおうかしら? 何故、こんなに小鬼たちが都で暴れているのかしら?」
足を射抜かれ、ひぃひぃ泣いていた小鬼に、秋緒は刀を突き付ける。
「シ、シラナイ。何モ聞イテナイ。タダ、刀ノギヤマン取リ返ス、言ワレタダケ。本当」
「言われた事をやらずに、皆で遊んでた訳?」
「‥‥ダッテ、大勢デヤレバ遊ンデテモ簡単、言ワレタ」
助けてくれ、と小鬼が目で訴える。
「遊んでても出来ると言われて本当に遊び出すとはね。――まったく質が悪い」
呆れて肩を竦めるクロウ。その表情が不意に締まると、番えた一矢が小鬼の頭を射抜いた。
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それからも何度か繰り返し、捕まえた小鬼から動向を確かめる。
だが、結果は同じ。どの小鬼も詳しい事は知らず、ただレミエラを取り返すようけしかけられていただけ。
「大男を追えば死に繋がる。都に留まっても無論同じ。奴らも大分それが分かってきたようだぜ」
小鬼被害の報告件数を確認して、クロウは笑みを作る。
報告件数は確実に減っている。いきなり零にはならないが、遠からず終息するのは目に見えた。
もっとも、今の体勢を取り続けていれば、の話だ。気を抜けば、また増長しかねない。
「早くに蹴りを付けるに越した事は無い。まして、何かの布石とも取れる行動なのだからな」
小鬼事件の目処は立ったが、それでも響耶の表情は険しいまま。
「レミエラの価値の割に小鬼たちは何も知らなさ過ぎる。唆せば、都に入れば浮かれて騒ぐのは分かってたろうし、この騒ぎを作るのは割りと簡単だったんじゃないか? とすれば、その狙いは‥‥」
クロウの言葉に秋緒も頷く。
「恐らく陽動。彼らは端から捨て駒だったのでしょうね」
捨てるモノだから詳細は教えないのは分かる。だが、十中八九死ぬかそれに値する程酷い目に合わされるのが確実な場所に、躊躇も無く騒ぎを起こすよう遠慮も無く大勢を差し向けるやり口に背筋を寒くする。
「問題は、この隙に何をしようとしてるのかよね」
手がかりは一応あるが、そこから糸口を掴むまでにどのくらいかかるか。その時間もあるかどうか。
「考えすぎだと思うなー」
「お前は黙ってろ」
暢気に口を尖らせる金時の頭を季武が叩く。
騒動が一つ静まる気配を見せても、全く安心できない。
京の安寧はまだ遠かった。