芋名月
 |
■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月15日〜09月20日
リプレイ公開日:2009年09月27日
|
●オープニング
「月だー!」
「「「「「「おーう!!」」」」」」
「餅だー!!」
「「「「「「おーう!!」」」」」」
「歌って、踊るぞーーー!!」
「「「「「「おーーーーーう!!!」」」」」」
「ってこらマテ」
月と兎は仲がいいのか。
陰陽師の小町宅にて。中秋の名月に向けて、やたら張り切るのは化け兎と呼ばれる妖怪。
小町宅に居座る兎は、うさと呼ばれる。人に化けるぐらいしか能が無く、率先して危害を加える事も少ない。温厚友好と呼ぶには人によって評価が分かれるが、まぁ総じて害が無いとみなされている。
「む。お婆、うさは忙しいから」
「いや、忙しいのは分かるけど‥‥。こちらの方々は?」
杵振り上げ、声を張り上げる子供(うさ・人化け中)に、小町は顔を引き攣らせながら庭を指す。
そこにずらりと並ぶのは見知らぬ方々。老若男女、着る服も様々。てんで統一性の無い人々に見えるが、それは全て化け兎が化けた姿。中にはまだ化け方を知らないのか、二本足でてちてち歩く兎の姿も見られる。
「うさの友達」
「いや、どこからこんなに出て来たのよ」
「江戸から」
あっさり言われて、小町は頭を抱える。
江戸から大挙してきた化け兎の群れ。‥‥確かに害は無さそうだし、人化けしてたら単なる旅人に見えただろうが、治安面とか警備体制などなど、それがいい状況とはとても言えず。
「向こうのお山の兎はちょおっと手際が悪ぅてのぉ。今年は落ち着いてやれるようにと、奴一人に任せる事にしたんぢゃ」
「しかし、それでは私達がお月様に祈れないでしょう。だからこちらを頼ってきましたの」
そんな小町の胸の内など露知らず。暢気に言い合う化け兎たち。
「むー、それは許せん。お山は大事だからちゃんと任せたのに。ちゃんとするようにちゃんと言わないと!!」
そして、うさもけっして気にする事無く、聞いた報告に腹を立てている。
地団太踏んで、杵を振り上げ。しかし、それもすぐに止めると、
「でも、その前に! お月見だーーー!!」
「「「「「「おーーーーーう!!!」」」」」」
別の意味で杵を振り上げる。応じて、兎たちも一斉に声を上げる。
結局、彼らは浮かれている。何を言っても聞く耳無いだろう。
「はいはい。準備に必要なものはちゃんと蔵に揃えてるから」
諦めて、そう指示する小町。何だかんだ言って、彼女もまたお祭り好きだ。
「そう言えば、来る途中聞いたが、この時期のお月様に芋を供える者もいるとか」
賑やかに行動し始めた化け兎たち。その内の一体が思い出した事を何の気なしにふと漏らす。
その一言で、化け兎たちが凍りついたように動きを止めた。
「邪道だ!」
「真ん丸いお月様には真ん丸いお餅だ! お団子だ!!」
「そんな不埒者は成敗だー!!」
「いや、待ちなさいって」
今にも勢いづいて飛び出そうとしてるのを見て、慌てて止める小町。
「芋が採れる時期なのよ? 採れた事を感謝して捧げるのって悪い事じゃないでしょ? それにほら、芋も剥いたら白くて丸っこくてお月様みたいじゃない?」
ちなみに芋は里芋である。
我ながら苦しいと思いつつも、後は笑顔で押し切ろうとする小町。
兎たちはその言い訳を神妙に聞き、黙って何かを考え込んでいたが。
「お芋をお供えするんだ!」
「そうだ! 真ん丸いお月様には真ん丸いお芋だ!」
「ようし!! お芋をたくさん作るぞー」
「いや、だから待ってってば」
いきなり方向転換。口々に褒め称える。
納得してくれるのはいいが、そのまま芋を調達しに飛び出そうとするのを見て、やっぱり慌てて止める小町。
とはいえ、彼らが納得しそうな量のお芋は用意して無い。
「皆は、ほらお月見の準備があるでしょう? だから代わりに私が用意してくるね」
幾らなんでも化け兎を大挙して都に放す訳にはいかない。
「分かった。じゃ、猫爺手伝え」
「へーへー」
あっさりと化け兎は納得すると、さっそく居候のワーリンクスも足蹴に、月見の準備を始める。
●
そして、小町は冒険者ギルドを訪れる。
「という訳で、お芋を仕入れてくれる人募集。それと、化け兎たちがあんだけいると私だけじゃ手に余るわ。一緒に月見を愉しみながら、あいつらが余所に行かないよう面倒見てくれる人もお願いできる?」
珍しくちょっと弱った様子で小町は頭を下げた。
●リプレイ本文
京の一角、陰陽師の小町邸では、兎たちが跳ね回る。
月見の準備に浮かれるのはいいが、のみならず、街の中まで飛び出そうとするのを、小町が必死に抑える。害の少ない妖怪とはいえ、ここまで数が揃えば見逃してもらえる分からない。特に今の京では。
「しかしだな。作ってもらった名簿とすでに名前と数が合わないのだ」
並ぶ兎たちの数を数え、ククノチ(ec0828)はしきりに首を傾げる。手持ちの帳簿は、手伝いに来た羽鳥助が各個体の特徴と共に兎たちについて書き記したのだが、明らかに数より名前の方が多い。
「大丈夫よ。適当に特徴を掴んで呼んだら、あっちも適当に返してくれるから」
「なるほど。狸らと同程度ゆう訳どすな」
「む。あんな馬鹿たちと一緒にしちゃ、めー、なの!!」
あっさりきっぱり答える小町に、その化け狸対策で柴犬の赤目に指示していたニキ・ラージャンヌ(ea1956)も納得する。
小町宅にも度々訪れる化け狸たちは、お世辞にも頭がいいとは言えない。四体出没するが、いずれも適当に名前を呼べば適当に返事をする。
そんな奴らと互角に勝負しようとするのは、確かに頭の程度が似たり寄ったりだからかもしれない。
ただ、それを認めるのは自尊心に関わるらしく、うさを始めとする化け兎たちは一斉抗議。もっとも、齋部玲瓏(ec4507)が抱き上げて頭を撫でて宥めると、あっという間に我も我もと押し寄せて列を作って順番待ちをする辺り‥‥やっぱり同程度と見る。
「お芋の買い付けは了解しました。けど、うささんたちがご満足いくお芋の量ってどのくらいなのでしょう?」
「あのね、いっぱいがいいの」
「いっぱいはたくさんなのですよ」
「たくさんがいっぱいでさぁ」
尋ねる玲瓏に、両手を振り回す兎たち。
人化けした老若男女も人化けしない小さいのも、揃って必死に表現する姿につい吹き出してしまう。
『まぁ、いいさ。交渉は無理だけど、運ぶ方は任せて。クロティルダがいるから、少々重くても何とかできるよ』
「と、申している」
一体どれだけ用意すれば満足するのか。めげずに明るい声を出すレオ・シュタイネル(ec5382)だが、あいにく日本語は不得手。故に、ククノチが通訳を入れる。
「私は、皆さんが飼い出しの間に他の準備を進めておきますわ。もう始まりかけみたいどすし」
ニキが告げると、玲瓏も苦笑する。
玲瓏の連れてきた三笠大蛇の三笠さまと月人の常若だが、月に関する精霊と分かるや屋敷中の布団やら着物やら山と詰まれて上位に座らされ、すでに接待が始まっている。
「イワンケも‥‥うん、がんばってくれ」
同じく、ククノチが遊び相手として連れてきたキムンカムイは、熊が怖いのか、微妙に距離を置かれている。
まぁ、怖がられているのはイワンケも理解し、なるべく驚かさないよう気を使っている。
兎たちも好奇心はあるのか、遠巻きながらも様子を見ている。後は時間に任せるしかない。
「楽しそうですよねぇ。兎さんには、これで何時もお世話になってますから、その恩返しも込めてお手伝い頑張りますよぉ」
「「「「「おー」」」」」
頭上にラビットバンドを揺らすマルキア・セラン(ec5127)につられて、兎たちも声を上げる。
●
お芋求めて京の街へ。旬の食材で見つけるのは易いが、あの兎たちが満足する量となるとちょっとやそっとじゃすまない
買い占めもまた迷惑。なので冒険者たちは広く散る。
「大目に買うのでちょっとおまけしてもらえないでしょうかぁ」
「しょうがない。もう一籠おまけしようか」
「できればもう一声。こちらの籠の品ですと、形も歪で全体的に小粒ですしぃ。そちらの一盛りより価値は下がると思うのですよ」
何件も店舗を回って地道に交渉。引っ込み思案なマルキアだが、下がってばかりもいられない。
家事調理は得意とあって、目利き十分。いい品悪い品も的確に見分けて、見栄えの悪い売れにくそうな物も買う代わりにと、おっとり気長に話を進めていく。
品を買うのは店舗ばかりでなく。直接農家に赴けば安く出来る。
玲瓏は里芋を作る農家を調べて、交渉に赴く。駆け引きには見た目も大事と、予め辺津鏡を用いて身嗜みを整えておく事も忘れない。
「商売上の関係もあるでしょうが、大体このくらいの値段で譲っていただけませんか?」
「ふーむ。まぁ、お困りのようですし。うちのでいいのならどうぞ」
元々交渉に応じてくれそうな家を探してあるし、丁寧な口調や上品な物腰と合わせて、先方も無碍にはしない。なるべく形の丸い月に似た品種を探し、持ち帰れるように詰めてもらう。
「あの、あそこの草花などは戴いてもいいのでしょうか?」
秋の日差しに揺れる可憐な花に目を向ける玲瓏。念の為に近所の人から了承を取り付けると、幾つか切り分ける。
お供え用の萩や女郎花を芋の上に重ね、兎たちは喜ぶかと微笑む。いただけた農家の方にも礼を述べ、まずは荷を運ぶ。
同じく農家を中心に回ったククノチとレオだが、こちらはずいぶんと泥くたになっている。
『やれやれ。収穫を手伝うとは言うたが、まさか一日中畑仕事をさせられるとは思わなかった』
疲れた表情を隠せないククノチ。代金代わりに労働力を提供した所、これ幸いと手のかかる仕事を押し付けられた気がする。レオが連れる馬の背に座るも、うっかりすればそのまま舟を漕ぎそうだ。
『でも、他の野菜もおまけしてもらえたんだし、良かったよね』
一緒にいたレオもまた同じく。言葉が通じないのもお構いなし。むしろ、好都合とばかりに人手に借り出されてしまった。
その甲斐あってか、戴いた荷を運ぶクロティルダも戦闘馬ながら、若干重そうにも見える。
後は、受け取った品を屋敷に運ぶだけ‥‥なのだが。
『‥‥時間まだあるかな? 京の町をぶらっとしたいなー、なんて』
のんびり帰路を辿っていたが、途中でレオが軽く申し出る。
覗うレオを見つめ返し、束の間考え込むククノチ。待つ身がある事や、月見の支度を考えると早く帰る方がいいのだろうが‥‥。
『そうだな。片栗粉を探したいし。他にも買い漏らしが無いか、見て回ろうか』
口元を緩めると、レオも似た表情で笑みを浮かべる。
クロティルダの鼻先が進路を変えると、そのまま二人、しばし帰路から外れる。
●
「お芋ー」
「お月見ー」
「下ごしらえはすんどりますんや。遊んどらんではよ皮剥かな、お月見の料理も美味しくなくなりますえ」
運びこまれた里芋にはしゃぐ兎たちに、ニキは芋を握らせ剥き方を教える。
「お芋は金気を嫌うんで、こうやって布巾で擦って剥いてくんなまし」
ニキが見本を示すと、兎たちも揃って真似をする。手伝い半分、作業に没頭してくれればこれで外に遊びに出る危険も少なくなる。
「お芋はまだありますからねぇ。こちらはちょっと形が悪いですが」
形のいい物と悪い物をより分け、マルキアが芋を運び込む。
「む、お月様はまん丸じゃなきゃ駄目なの」
「でもほら、こうやって飛び出たところを整えたら、真ん丸くなりますよ」
歪な芋に機嫌を損ねかけた兎たちに、マルキアは形の整えた芋を差し出す。
「その歪な芋を茹で潰し、片栗粉を混ぜて練れば里芋餅が出来る。‥‥ほら、これでどうだ?」
ククノチも焼いた物を見せれば、それで納得して嬉しそうに頷いている。
料理に興味が無い兎たちには、レオが相手をする。
『ほら、こっちだ。余所見している暇は無いよ』
小町に頼んで鞠や丸めた布を用意してもらい、転がしたり蹴ったり。他所に行こうとする兎たちには敢えてぶつけて興味を引いたりと、賑やかに走り回る。
その頃にはイワンケにも警戒が取れていて、巨体が走り回る傍を小さな兎たちが一緒になって跳ね回っている。
『楽しむのはいいですが、勢い余って宴の席を台無しにしないで下さいね』
頂いた草花を飾り、料理を盛り付け。準備に勤しむ玲瓏は気が気でない。
『大丈夫、そちらには行かないようにするから』
ゲルマン語で告げる玲瓏に、レオは心得ていると頷く。
兎たちは言葉通じずとも関係無く、レオの身振り手振りに頷くと、自身らも真似して身振りで返している。
夕暮れが迫ってくると、兎たちもさすがにふざけてはおられず。宴の準備に熱を入れだす。
「お月見だー♪!!」
「「「「「おーーーーーー♪♪」」」」」
やがて陽が沈み。
綺麗な満月が姿を現すと、兎たちが歓声を上げる。
うさが杵を振るって鼓舞すると、残る兎たちも拳を振り上げる。
『これが、ジャパンの月かぁ』
感慨深げにレオもまた夜空を仰ぐ。
それからは歌って踊って餅ついて。月光の下で跳ね回る兎たちは実に楽しそうにしていた。
「お月様はいいですよねぇ。大きくて明るくって、夜中に外に出る時は本当に助かりますぅ」
マルキアが告げると、同意を示して兎たちが揃って大きく首を縦に振る。実際、陽が完全に沈んだ今になっても屋敷の庭は不都合無く歩ける。松明などを灯す方が無粋な上に、余計な影を作って暗く感じてしまう。
「火が無い方が目も慣れて動きやすなりますけど。さすがにまだ竈の火は落とさん方がええどすしなぁ」
「どさくさに砂糖を塗さないで。薄口でいいの、チョー薄口!」
「味の無いもん食べても楽しない思いますけどなぁ」
煮炊きするお芋の鍋を味見するニキに、小町が厳重注意。任していては、恐ろしく濃厚な甘口鍋が出来上がってしまう。
目を光らせる小町に、首を傾げるニキ。そんな二人を火霊のアグニーニは見比べつつ、ニキの言う通りに火加減を操る。
「偉大なお月様の為に、乾杯ですぅ。その後は、踊りを教えて下さい」
呑んで呑んで騒いで呑んで。お餅をついて供えて手を合わせると、そのまま外にまで出ようとする兎たち。目ざとく見つけ、マルキアは酒を振舞い、踊りをねだる。
「門は一応閂を下ろしましたけどね。三笠さまも外に出ないよう、注意して下さいね」
歌と踊りで上機嫌の三笠大蛇に、兎たちも喜んでいる。一緒に踊っている内はいいが、三笠がどこかに行くようなら間違いなく兎たちもついて行ってしまう。何かに驚いて逃げ出したりしないよう、玲瓏は重々釘を刺す。
「あんたも苦労するねぇ。ここは気を落ち着いて一杯いこうぜ」
「‥‥そのお酒は私が用意したのですが」
「細かい事は気にするなっ♪ ささ、どんどんいこー」
その玲瓏に絡むのが猫。小町宅で居候しているワーリンクスで、何かとうさの手伝いに振り回されている。労いこめて、珍酒「化け猫冥利」を差し入れるも、酔った猫は癖が強い。杯を無理やり持たせると、並々と酒を注いでくる。
「苦労もいろいろだが‥‥。そうそう、小町殿の父上の事聞いているぞ。知人が、胃を痛めたり頭髪に問題が‥‥あ、いや何、とにかくいろいろと問題が無いか案じておられた。どうか心身を労わられる様」
「まだ夜は長いわっ。歌って踊って、さあ、呑みましょう。うん、呑みましょう!!」
ククノチがふと口に出した事を、最後まで聞かずに小町は兎たちの輪の中に飛び込む。‥‥どう見てもはぐらかした。
『レオ殿も楽しんでおられるだろうか。月見‥‥と言っても、ずいぶん賑やかなのだが。こうして何時もより明るく感じるのは、月も笑っているからかも知れない』
月下に跳ねる兎たち。その姿に目を向けるレオに、ククノチは里芋を取って渡す。
芋を受け取るも口に運ぶでなくじっと考えていたレオが、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
『何だかんだで、あんまり一緒に居られなくてごめんな。‥‥でも、こうやって一緒に来られてホント良かった。こうゆう時間、少しずつ、重ねていこう、な』
ありがとうという感謝と、大好きという思いと共に。
黙って、その言葉を受け止めていたククノチ。
『うさたちの踊りは拍を捕らえれコツを掴めば割と容易そうだ。一緒にどうだろう?』
やがて、にこりと笑うとレオにその手を差し伸べた。
●
厳かに、けれど賑やかに月見の宴は夜通し続く。小さい兎たちもどこにそんな体力あるのかと思うほど、夜通し動きっぱなし。宴がお開きになったのは月が沈み、日が昇って朝の青空が広がる頃だった。
「いい月見だった。久々に楽しかったぞ」
「手伝ってくれてありがとう。これはほんのお礼代わりに」
喜色満面に餅やら芋やらを手渡す兎たち。何やら拾った物も混じっているようだが、それだけ嬉しかったという事か。
『日本の宴も良かったけど、外国には月の都ってのがあるんだぜ? ま、自称だけどな。月道渡って遊びに行ったら街の連中も喜ぶだろな』
「‥‥それ、言っちゃ駄目よ。本当に月道に行きかねないから」
レオの言葉を、ククノチの通訳挟んで、小町が頭を抱える。
地獄の影響か、今や恒常で諸外国とも行き来できる月道だが、その便利さ故に誰でも通れるほど易く無い。モンスターが大挙して渡ったとなれば、外交問題で下手すれば戦争にも発展しかねない。
そうならぬよう、こちら側でも向こう側でも利用する人々は厳しく管理されるが、兎たちはそんなのきっと気にせず大混乱必須。この際、知らぬが仏だ。
「それで、皆さんはお月見が終わってどうされるのですか? よければお江戸での暮らしをお聞かせ戴きたいです」
「うむ。わしらはそれぞれの家に帰るだけじゃ」
「あまり長く空けて鼬どもに居座られてはかなわん」
玲瓏が尋ねると、あっさりと返事する。とはいえ帰る棲家も江戸の筈。また大挙して謎の兎が移動するのかと思うと、小町が頭をますます抱えている。
「お江戸のうーちゃんさんも気の毒におすなあ。そういえば、十三夜のお月見もせんと芋名月だけ見るんは、片見月言うて、あんまりようないんどすえ」
手際が悪いと、一匹置いてけぼりにされたお江戸の兎に思いを馳せるニキ。ついでに思い出した事を告げると、途端、兎たちが凍りついた。
「そう言えば、来る途中聞いたが、お月様は二回見ないといけないとか」
さらに別の兎が、ぽつりと呟いた事で騒然となる。
「十三夜のお月見って何ー?」
「十三夜はまん丸になるちょっと前ぐらいの月ね」
「まん丸じゃないなら、欠けてるお月様ではないか」
「欠けたお月様はやっぱり綺麗なんだ」
「綺麗なんだから、お月見してもいいんだ!」
がやがやと。顔を見合わせ口々に言い合っていた兎たちだが、
「ようし。うーちゃんの様子見に、も一回お月見だー」
「「「「「おー♪」」」」」
「だから待ってって」
そのまま江戸まで突っ走りそうな兎集団を、小町は治安の面から押しとめる。
「盛り上がってる所なんですが、朝ごはんいかがですかぁ? 夜通し飲み食いしてましたけどぉ、軽いの作りましたよぉ」
そこへマルキアがお供えした餅と芋を使った料理を運んでくる。
兎たちはやはり互いに顔を見合わせると、おもむろにマルキアの前に列を作り出した。