【レミエラ】京都見廻組 〜鬼の動向〜
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:3人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月19日〜09月24日
リプレイ公開日:2009年09月30日
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●オープニング
京の都で人斬りが暴れた。小鬼の群れが悪戯に感けた。
その起因となったのが一つのレミエラ。ヒューマンスレイヤーの効果を持つそれに魅せられ人斬りは暴れ、取り返そうと小鬼が動く。
両者は捕まり、都は平穏を取り戻す。これでめでたく事件解決‥‥、と行きたいのだが。
背後で茨木童子が絡んでいるのは確認済み。彼女の動きが杳として知れない。
「‥‥で、なんで比叡山なんだよぉ」
弱りきった顔で泣き言を告げるのは京都見廻組の坂田金時。
「茨木が動いたなら、鉄の御所を警戒するのは当然だろう。それで無くても今の時期だしな」
占部季武は退屈そうに欠伸をする。
茨木は元々酒呑童子の片腕ともされる存在。離反したという話もあるが、何分鬼の出来事。密かに縁を戻しても不思議ではない。
それは不確定な情報ではあるが、その酒呑がイザナミと組んだのは明白な事実だ。推測と軽んじ何も手を打たないまま、それが当たっていたなら何がどうなるか分からない。
杞憂であるなら杞憂だったと判断するだけ。どの道鉄の御所に監視は必要。別にこの件が無くても、御所の動きを警戒し、山の周辺は黒虎部隊を始めとする都の兵が詰めている。
「あいつらに任せればいいのに」
「ただでさえ面倒な御所の監視に、無関係かもしれない事柄を乗っける訳にはいかんだろ。大体こっちの事件を向こうに持ってかれていいのか?」
「やだ」
「だったら、つべこべ言わずに見てろ」
厳しく言われて、金時が溜息をつく。
と、
「おい、季武あれ」
くいと引っ張ると一方を指す。
山の木々や闇に紛れ、比叡山から出て行こうとする鬼の姿が見えた。よく見えないが、一匹は大柄な熊鬼を先頭にして人喰鬼が従っているようだ。
「こそこそと怪しい。だが少人数で、行く先は‥‥南か? 京じゃないな。‥‥なら、他の連中は動かねぇ」
監視はするが、鬼を包囲している訳ではない。そこまでの人数は裂けない。下手に小競り合いを起こせば、そこから戦端を開きかねないのだ。
よって、監視はあくまで大規模な動きが無いかを見るだけ。不審な動きがあれば京に連絡は行くが、それぐらいだ。
「どうする?」
「どうする‥‥って」
尋ねる金時に、季武は首を傾げ、
「よし、お前追え」
「えー」
言われて金時が不満を漏らす。
「あんなこっそり出て行くなんざ何か企んでるようなもんだろ。かと言ってここの連中はおいそれと動けねぇ。状況伝えて、俺らで追うのが一番だろ」
「だったら、他の奴らに追わせて、おいらたちが監視しときゃいいじゃーん」
「いいからつべこべ言わずにさっさと行けって」
季武が追い立てる。不満を言った割には、金時は軽い足取りでそれに従い出したが、
「季武はどうすんの? 一緒に行かないの?」
「冒険者ギルドで援軍を頼んでくる。熊鬼が一体に、人喰鬼が四体‥‥。何かあった際には面倒になる」
「じゃあ、おいらがそっち行く」
「俺じゃ形がでかくて気付かれやすいだろうが。お前に任せるのも不安なんだぞ」
「あははは、違いない」
酷い言われ方をしたにも関わらず、拘らないのか気付いて無いのか、一つ笑って金時は鬼たちを追い始めた。
そして、季武はその状況を監視に伝えた後に、ギルドに顔を出す。
「まぁ実際の所どうかは分からないが、気になるので向こうの動向を確かめておきたいんだ。手を貸してくれ」
慌しく伝えられた申し出に、至急募集の声がかけられた。
●
山の中。道無き道を躊躇無く鬼たちは進む。
『星熊様、人間が付いて来ているようですが』
『分かっている』
低く唸るような鬼の言語で話される。話しかけられた熊鬼は振り返る事もせず、返す。
『殺りますか?』
陰惨な唸りに喜悦が混じる。
『いや、子供のようだが監視組にいた以上、下手に手を出すと人間も騒ぐ。大事の前に騒ぎを起こしたくは無い。それは恐らく向こうも同じで手は出してこないだろう。‥‥しかし、このまま連れて行けばあの女が何と言うか分からんし、本当にアレを用意したなら万一横槍入れられてふいになるのも惜しい』
ちっと舌打ちする星熊。そのまま何か考え始める。
「鬼の言葉だと分からんと思って言いたい放題だなー。誰が子供だ。別にいいけど」
そして、鬼を追跡しながら、ぶいぶいと文句を垂れる金時。鬼の知り合いがいる分、ある程度なら言語に見当がついた。魔法のようにはっきりとは分からないが、まぁ大雑把になら間違って無いと思っている。
「ってか、熊鬼の星熊童子って四天王じゃーん。危ないよな〜。貧乏くじだよ、絶対貧乏くじ〜」
挙句に尾行にもしっかり気付かれている。向こうは気付かれている事に気付いてはいないので、素知らぬふりで付いているが、いい状況では無い。
幸い距離は開いている。一度、追跡をやめて後続を待つか。あるいはいっそ気付いているぞと乗り出して真意を問い質してみるか。
うだうだ考えながら歩いていた金時。だが、行動は鬼たちの方が早かった。
追っ手が金時一人しかいないと踏み、五体それぞれ別方向に走り出したのだ。
「あーー! ずりいいいいいぃーー!!」
叫んだ所で相手は立ち止まらない。そのまま、あっという間に山の闇に紛れてしまう。
追いかけようにも身体は一つ。仮に一体に目星をつけていった所でそいつが囮である可能性もある。下手に追い、見知らぬ所に振り回されるならまだしも、他の奴らに挟撃されれば本当に命が危うい。
これ以上は動けない。
「あーっ、たく。季武遅いよ。何やってんだー」
勿論、ここまでの道のり、ちゃんと目印を残している。やる事はやったぞと金時はぼやく。
以上。金時、撒かれました報告。
●
そして、鉄の御所。
『酒呑さま、星熊さまがお出かけになられたようですが‥‥』
部下からの報告に、酒呑童子は微動だにせず。
『構わん。お前たちはそのまま警備を務めよ』
『はっ』
命を受け、鬼たちはそのまま配置に戻る。
酒呑は並々と注いだ酒杯を一気に煽る。そのまま南の彼方を見つめ、ふと笑みを零すと、黙って杯を置いた。
●リプレイ本文
鉄の御所から密やかに抜け出した五体の鬼。
京都見廻組・占部季武が冒険者ギルドに応援を呼びに行き、坂田金時が彼らを追跡していたのだが。
「逃げられちゃった♪ てへっ」
合流するや軽い口調で舌を出す金時を、とりあえず殴る所から始まる。
それでも、幾ばくかの情報は手に入れているのはでかしたもので。
黙って聞いていた一同だが、徐々にその顔が曇り出す。
「鬼が言う『女』には、思い浮かぶ者がいる。そして、想像通りなら『アレ』にも心当たりがある」
苦虫を潰す備前響耶(eb3824)。考える事は同じようで、それは誰か、とは誰も問うてこない。
「‥‥人間の女ならただの『人間』って言うだろうからな。となると、相手は鬼。鬼女・茨木童子か」
鬼の動向は黒虎部隊としても気になる所。特に、先日、茨木童子は都の近くにて目撃されている。その時の事態を思い浮かべれば、クロウ・ブラックフェザー(ea2562)とて、同じ結論を導き出す。
「確か、京都見廻組で事件の追調査を行い、大坂方面を探っていたな」
「ああ、そっちは貞光たちが動いている」
尋ねられて、季武が頷く。
もし、女が茨木であるならば、星熊が手にしようとしているのは、最近の事件に絡んできたレミエラに違いない。
「鉄の御所に帰参する為の献上品って所か。人と組む酒呑は気に入らないが、イザナミと組む酒呑となると話も変わるか」
クロウが唸る。
比叡山の乱で延暦寺に迎合して動いた鉄の御所だが、その後、イザナミと同盟を結び同調した動きを見せている。
一体何を考えているのか。鬼王の思惑は掴み難い。
「繋がりがありそうだし、大坂の連中と連携が取れたらいいのだが‥‥連絡は事後になりそうだな」
白翼寺涼哉(ea9502)は周囲を見渡す。
うっそうと茂る木々。山の中。その奥へ鬼たちは消えた。
連絡手段は乏しく、大坂調査の行動もよく分からない。密に話を詰めるのは無理そうだ
「難儀だな。知人が鬼とレミエラの行方を捜してくれはしたが。‥‥あいつらが上手く手がかりを見つけてくれればいいが」
涼哉が呟きを聞こえたかのように、放っていた犬たちが帰ってきた。
出立前にジュディス・ティラナが、サンワードで星熊の行方、そして茨木の動きをサンワードで調べてくれた。太陽の見る情報なので、大きな熊鬼、あるいはヒューマンスレーヤーや純度の高い硝子を持った鬼といった他に彼らに関する分かるだけの情報を足して尋ねた所、大まかに星熊は北から南、茨木は南から北に向けて移動しているらしい。
後、頼りになるのは飼い犬たちの嗅覚だが、どうやら糸口を掴んだようだ。
「占部殿と坂田殿はまずこれを。鬼より早く動けねば追いつけもせんからな」
響耶が季武と金時に韋駄天の草履を渡す。
もっとも、長距離を移動する為の道具であって、追跡しつつとなると手がかりを見落とす。また、クロウに用意が無いので移動に差が開いたりと、聊か難も大きい。
それでも、相手の居場所が判明できれば迅速に駆けつけられよう。
「それと、本当に今回件のレミエラが絡み、鉄の御所に持ち込まれるのであれば、その前に奪取か破壊する」
了承を求める響耶に、季武は眉根を寄せた。が、異は唱えず、ただ頷く。
鉄の御所の動きに口を挟めば、戦端を開くきっかけにもなりかねない。しかし、鬼たちの手に渡っていい品でもなさそうだ。
「もし戦闘になれば、こちらも相応に動くが‥‥。そういえば、金‥‥坂田殿も僧兵ならば魔法で援護できると思うが、どんな魔法を持っているんだ?」
相手が相手だ。連携できるなら事前に話し合っておくべきと涼哉が金時に尋ねるが、
「何だっけ? 今思い出す」
至極真剣に首を傾げると、荷物の手帳を取り出してめくりだす。
「‥‥坂田殿に期待した俺が馬鹿か。子龍行くぞ」
「小源太はきちんと役目を果たしたな。どっかの役立たずとは大違いだ」
「時間が惜しい。無駄な事はせずにさっさと動くべきだ」
一同一斉に背を向けると、先導する柴犬について歩き出す
「冗談だって! ちゃんと覚えてるってばさー」
真っ向真剣に肩を叩いて慰める季武に、金時は声を荒げる。
●
五体の鬼は五方向に散った。一人一体ずつ追えなくも無いが、分散して危険を増やすよりかはと、最初から星熊のみを追う。
道無き道。流れる川に、鬼の体力に任せた崖越えなど、追っ手を撒く為の難所は幾つもあったが、地道に作業を重ねて足跡を捉えていく。
やがては、相手ももう追っ手は無いと油断してか、足取りも読みやすくなって来た。そうなると今度は追いつき気付かれないよう気を引き締めて動かねばならない。
「いたぞ、奴だ」
目標を見つけ、季武が頭を下げるよう低く告げる。
まだどこかに向うのか。いつの間にやらまた合流した五体の人喰鬼と共に先を急ぐ熊鬼たち。
「本当に行く先に茨木がいるとしたら、不用意には近付けん。鬼といえども、奴ら位になると勘も感覚も尋常で無いからな」
近付きたいが近付けない。響耶とてもどかしいが、無茶出来ない。
撒いたはずの相手がまだ付いてきていると分かれば、向こうももう容赦無いだろう。手がかりが何も無い内に、有耶無耶に事を済ませていいような事態ではない。
「俺が先行する。合図をしたら来てくれ」
隠密行動に長けたクロウが前に出る。荷物を渡すと、身軽な格好で星熊たちに迫っていった。
やがて、彼らの行く先に複数の気配が生まれる。星熊たちは躊躇う事無くそちらへと向かっている。
これと言って特徴の無い山中。人などけして入り込まぬほど深い場所にて、鬼たちを待っていた者は、
(「やはり、茨木か」)
涼哉から貰った透明人間の飴を口に放り込むと、注意深く風下から回り込み、クロウは彼らの姿を認める。
絶世の美女として称されてもおかしくは無い端麗な容姿でありながら、その頭上には鬼の角が見える。このような鬼はそうはいない。
茨木童子の他、彼女の供だろう。同じく新たに四体の人喰鬼までいる。
風に乗って声も届く。鬼の言語だったが、響耶から借りたインタプリティングリングで不自由は無い。
『あいにくそう数は揃えられなかったけれど、有用な物も幾つか出来ているわ』
『これがか。ただの硝子玉に見えるがな』
手渡された袋から一つを取り出すと、星熊は玩具のように転がして見る。
『疑うなら結構よ。別に貴方の許可が無ければ帰参出来ない訳でも無し』
『無法の鬼といえども、示しを付ける必要はある。それはお前も分かっていよう』
『だから、こんな茶番にも付き合って上げたんじゃない』
気分を害してさっさと歩き出す茨木に、星熊は鼻息荒く笑いたてるとその後に続く。
共に、鉄の御所に向けて。
(「まずいな」)
茨木が帰る気配は無いし、星熊も別れる気配が無い。
山の道中は難所も多く、仕掛ける場所は限られる。さらに鉄の御所へ近付く程に、向こうの鬼たちに事が気付かれ、救援にこられる危険が高くなっていく。
後方に控える仲間らと相談の後に、覚悟を決めてクロウは合図を送った。
途端に、控えていた小源太が鬼たちに向けて走り出す。
星熊の手にあるレミエラを奪おうと近寄るが、その前に、護衛の人喰鬼が太い金棒で打ち据えた。ぎゃん、と甲高い悲鳴と共に柴犬は宙を飛び、地に叩きつけられる。
「クロウ殿!」
すれ違い様、預かっていた荷物をクロウに放り、響耶はそのまま抜き放った太刀・鬼切丸で鬼に迫る。狙いは星熊の周囲を固める人喰鬼たち。
オーガスレイヤーの能力で組み合う鬼を切り刻むも、さすがは人喰鬼。深手にはなるが、一太刀では致命傷に至らない。
『ここまで追いかけてくるとは!』
部下と殺り合う人間たちに、星熊が唸る。
『失態ね、星熊。これは私が届けるから、早く終わらせて着いてきなさい』
まるで楽しい見世物を見たかのように、茨木は艶然と微笑む。星熊の手からレミエラを入れた袋を取り上げるとそのまま歩き去る。
「行かせるか!!」
人喰鬼たちは響耶たちが食い止めている。金時と涼哉がコアギュレイトで縛り上げた横をすり抜け、クロウはカラミティバイパーを振るった。
長い蛇の皮の鞭がしなやかに動くと、茨木の手からレミエラの袋を弾き飛ばす。
「ノーザンライト! それを持って帰れ!!」
さっと空から鷹が舞い降りると、袋を掴んでまた舞い上がる。射られないか危惧したが、鷹はまっすぐ京へと羽ばたいていく。
そもの狙いはレミエラ。その願いが叶った今、長居は無用。この数を相手に殲滅は難しく、速やかに撤退せねばならない。
「危ない!!」
季武の声が響いた。
クロウの視線は鷹を追い、上を向いていた。その僅かな間に、茨木が眼前まで迫っていた。
抜き放たれた刃が、クロウの身に易々と突き刺さる!
「嫌ぁね、あれで全てだと思ったの?」
艶然と微笑む茨木。手にした刀にはレミエラの輝きがあった。そして、茨木が動いた事により、追随を見せる彼女の護衛たちの装備にも。
的確に急所を射抜かれ、クロウが倒れる。かろうじて息はあった。止めを刺そうとする茨木を、しかし、横から季武が制する。
「俺じゃ無理! 頼んだ!」
「分かった。こっちへ!!」
暴れる鬼たちを掻い潜り、金時がクロウを涼哉の元まで引き摺る。もちろん、鬼たちも逃がすまいと響耶の制止を振りきり追ったが、何も無い空間で動きを阻まれた。
「聖女の祈りで強化したホーリーフィールドだが‥‥どれだけ持つか」
詠唱の間も惜しく、涼哉は高速詠唱でリカバーを唱える。魔力は余分に使うが、仕方が無い。その準備も出来ている。
「ったく、だからああいう女は苦手なんだ」
一瞬で傷が癒されると、クロウは長弓・柊に武器を持ち替え、そこから響耶たちの援護に回ろうとした。
「ウォオオオオオオオーーーー!!!」
轟音にも似た雄叫びと共に、星熊が見えない壁に向けて斧を振るう。風を斬る重い一撃で、不可視の空間は砕け散った。
「まずい!!」
涼哉はもう一度張りなおそうとするが、範囲内に効果を嫌う者がいると魔法抵抗が発生する。
怒りと共に突進してくる相手に、金時とクロウが身構える。
しかし、横槍はまさしく横から唐突に入った。
突然の暴風が戦場に吹き荒れたのだ。
「な、ナンダァ?」
堪えきれずに、クロウと涼哉と金時が吹き飛ばされる。結果、星熊と大きく距離が開いた。鬼たちや響耶と季武はそのままだが、戦闘どころではない。
風上に、また新たな人影があった。いや、人ではない。
人に似た端麗な容姿。都にいれば多くの女性の目を惹く外見ながら、その頭上には鬼の角がある。このような鬼はそういない‥‥。
「酒呑、さま!」
茨木の声が弾んだ。星熊は心底驚いたようで冒険者たちに目もくれずに固まり、他の鬼たちは続けて騒いでいいか惑っている。
そして、冒険者たちは思いも寄らない相手に身を硬くしていたが。
「お引取り願おうか、人間たちよ」
あっさりと告げる酒呑童子の言葉に、戸惑いを隠せない。
「お待ち下さい、酒呑さま! 人間を庇うのですか!?」
自分たちの優位を疑わない茨木には腹が立ったが、実際、これ以上戦い続けても犠牲が出るだけだ。
「久しぶりの逢瀬となるな。礼を込めて出向いてみれば‥‥土産としてはおもしろい見世物だったな」
喉を鳴らして、酒呑が笑う。
「しかし、これ以上はどちらにも理は無い。‥‥どうせ盗られた品は、お前にとってもさして痛く無いものなのだろう」
告げられ、ついと茨木はそっぽを向く。
それを認めると、酒呑はまた一同らに向き直る。
「このような事で遺恨を作り、都と戦になるのはこちらとて不本意だ。一応、望みの品は手に入れられたのだろう。それで満足されよ」
一応は手に入れた。だが、まだ残っているのなら見過ごす訳にはいかない。しかし、今度はそれこそ真っ向勝負からの戦利品として奪わねばなるまい。恐らくそれはもう不可能と見ていい。
同族を連れ、何事も無かったように鉄の御所に帰る鬼王を、皆は黙って見送るしかなかった。
●
京都見廻組の詰所に戻れば、クロウの鷹が出迎えた。
持ち帰った品は陰陽寮に任され、鑑定が行われる。
「硝子はやはり全てレミエラだったそうだ」
「れも、なんれ、こんにゃの作ったんだろーねー」
へべれけに酔ってる金時が歩き回る度に、きゅっきゅ♪と軽やかな足音が鳴る。試しに付けてみたレミエラの効果だ。
「まぁ、そんなのでも何かの役に立つと思ったんだろう。戦場で鬼たちが千鳥足で可愛い音立ててたら、それはそれで軽い嫌がらせだよなぁ」
はしゃぐ金時から想像し、季武は軽く震えた。
レミエラは結構な数があった。それぞれ人間の動きを制限したり、単純に装備の威力を増したりと効果はいろいろで、中には良く分からない物も混じっていた。
「ただ‥‥ヒューマンスレイヤーが含まれる物は無かったそうだ」
「それは別口にして持ち、鉄の御所に運ばれたという訳か‥‥」
響耶が舌打ちする。仕方が無かったとはいえ、やはり見逃したのは惜しかった。
「碓井殿たちの調べで、作っていた工房を発見し硝子職人たちは解放したとの事。しかし、一からやり直しなだけでもう作れない訳ではない」
硝子作りも易くは無い。特別な設備に高価な原料、相当の技術など条件はたくさんある。相当の資金が無ければ出来ないが、鬼ならば非合法な手段で掻き集めるのはむしろ容易かろう。
「ひぇ〜き、ひぇ〜き。どんな相手らって、をぃらひゃちがひから合わせりゃひゅうびゅんひゃ〜〜〜〜〜。矢でも魔法でも、ろんとこ〜〜〜い」
へらへらと、赤ら顔の金時が笑う。
「多分、金時なりにいい事を言っているとは思うんだがな」
敬意を払う気力も失せる。痛む頭を押さえると、涼哉は金時を摘みあげ、布団に放り込んだ。
●
そして、冒険者たちが与り知らぬ、鉄の御所の内部では。
「申し訳ありません、酒呑さま。準備が整い次第、また新たに作らせます」
「急くな。道具の良し悪しで変わる状況など、たかが知れている」
酒呑は頭を下げる茨木には目もくれず、それでも労わりの言葉を投げかける。
その手の中には一つのレミエラ。茨木によってもたらされた物だ。
「人と神を殺す硝子か‥‥。それで、茨木。この力でお前の刀は何を殺す気だ? 人を殺すだけではあるまい」
「これは‥‥」
はっとして茨木が顔を上げると、面白そうに笑う酒呑と目が合った。
「まぁいい。折角花の顔が戻ったのだ。ゆっくりするがいい」
言って、笑みと共に場を去る酒呑。
その後姿を見送っていた茨木童子。やがて刀を引き寄せると、祈るような表情で抱きしめた。