【対決 兎と亀!?】 カ‥‥さんの都合

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月26日〜01月29日

リプレイ公開日:2005年02月04日

●オープニング

 今は昔。
 兎は亀と戦った。
 死闘の末、勝ったのは亀だった。
 しかし、これを兎は不服として抗議、結果、今尚争いは続いている。

 のだが。

「そもそもの原因は、あの馬鹿兎が俺っちの事を『亀』と呼んだ事にあるんだな」
 冒険者ギルドを訪れたのは、いささか変わった客だった。よく見かける姿ではないが、珍しいと言える程でもない。パラ・ジャイアントと同じく、日本にいるデミヒューマンである事は間違いなかった。
 緑色の皮膚、背中に甲羅、手には水かき、とがった口、そして頭はつんつるハゲ。
 その正体はと言えば、
「亀!!」
「河童じゃい!!」
 びしっと指差し声をかけたのは、何故か先程からギルドで暴れている化け兎。自信満々に告げる化け兎に、亀ではない河童は即座に声を荒げる。
 確かに似てるかもしれない。そう思った係員だが、相手はお客。かろうじて口には出さない。向こうでは化け兎が何やら騒いでるが、まぁ、そっちは応対している同僚に任せてよしとする。
「‥‥とまぁ、あんな調子で奴は俺っちが亀だと言いはり続けるのだ! 放っといてもいいが、何かムカつくので、俺っちは脚の速さを証明すべく、かけっこ勝負を挑んだのだ!!」
 ぐっと拳を握る河童。聞こえる声からして、そこが問題点ではないと思ったが、係員はやはり黙っていた。
「俺っちは必死に頑張った。しかし、相手は妖怪。やはり正面きった勝負では勝てそうにない! そこで俺っちは頭を使い、化け兎の前に秘伝の眠り薬を入れた餌を放り投げた! するとだな、案の定、イヂ汚い奴は餌を食べて眠りこけ、その隙に俺っちは走り続けて、見事勝負に勝ったって訳よ!!」
 ‥‥胸を張って告げられる内容ではない気もする。ジト目で見つめつつも、やっぱり係員は黙っていた。
「しかし、だ。奴はその勝負をインチキと称して、いちゃもんをつけてきた」
 当然だろう。
「俺っちを亀と言い張り、態度を改めようとしない。そこでもう一度かけっこ勝負をする事にしたのだ!」
 ‥‥前回かなわないと思ったのなら、別の勝負を考えればいいのにと思った係員だが、もはや何かを告げる気力も失せて燃える河童をただ見つめる。 
「今度こそ、確実に勝利を手にする為に! 頼む、力を貸してくれ!! 俺っちが勝つ為なら手段は問わないし、例え俺っちが負けても報酬は払おう!!」
 ‥‥ズルする気満々。もう、何も言うまい。どうせ向こうも妖怪変化。むしろムキになってる依頼人も変わっている。
「ふふふ、化け兎めぇ! ちょっと姿が可愛いからと言って調子こいてるんじゃねぇぞー! 絶対に俺っちが亀ではないと認めさせてやるぅううう!!」
 ギルドの中で高笑いをする河童に、周囲から冷たい目線が飛ぶ。
 ちらりと化け兎の方を見れば、その可愛さに篭絡されたらしい同僚が依頼作成を進めている。
 係員は一つため息をつくと、とりあえず、河童からの依頼を受け取った。

●今回の参加者

 ea2319 貴藤 緋狩(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5298 ルミリア・ザナックス(27歳・♀・パラディン・ジャイアント・フランク王国)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)
 eb0569 小 道具(35歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0576 サウティ・マウンド(59歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb0804 キーパット・ターイム(25歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 兎との競争に勝たせて欲しい。
 それが冒険者ギルドに現われた河童の依頼だった。
 競争相手はただの兎ではなく、化け兎。その化け兎は河童を「亀」と呼ぶ。それが河童には気に入らなくて、競争と相成ったのだが。
 そもそも、化け兎が亀と呼ぶ理由はと言えば、
「確かにそう見えない事も無い立派な甲羅だな」
「そうだろ。俺っちの自慢でぃ」
 貴藤緋狩(ea2319)の言葉を都合よく解釈して、河童が胸を張る。当人、全く気付いて無い様子だ。
 河童が勝てば、化け兎に「亀と呼ぶな」と要求できる。ただそれだけの試合ではあるものの、走者互いに真剣である。
「我の名はルミリア・ザナックス。河童忍者の競技に参加している縁もあり、此度は河童殿に精進して頂くようお手伝いいたす。短い間とはいえ、共に戦う仲なれば、まずはお名前をお尋ねしたい」
 あちこちとうろついていた化け兎を呼び止め、ルミリア・ザナックス(ea5298)が挨拶をする。うまく呼び止めた化け兎を何となく緋狩が羨ましげに見ているようなのは気の精だろうか。
「おう、おいらは河童の‥‥」
 言い出した所で、化け兎がどかりと河童を蹴り倒す。小さい兎姿なので、わざわざ助走をつけての一撃である。
「何しやがるんでぃ。おぅ、まさか! 河童じゃなくて亀だと言いたいのかいっ!?」
 ぷんぷんと嫌がるように首を振っていた化け兎は、最後の言葉に大きく頷く。
 途端、早々に走者二人の口喧嘩が始まりだす。正確には化け兎は兎姿で話せぬ故、口論とも言い難いが、決して態度で河童に負けてない。少なくとも、挨拶どころでは無い。
「あたしは花の乙女、こんとーちゃんよ。今回は河童さんの味方をする訳だけど‥‥醜い争いなんてしないで仲良くすればいいのに」
 うるさく騒ぐ河童と兎を見ながら、昏倒勇花(ea9275)は胸を痛める。実に優しい彼――性別はそうである――だった。
 そうこうする内に化け兎は怒ったらしく、そのまんま自分の組へと走り去ってしまう。
「まぁ。かけっことはいえ、勝負は勝負。おまけに今回は冒険者同士の勝負でもある。――負ける訳には行かないよな」
 その後姿を見送りながら、緋狩は面白そうに告げる。
 河童が冒険者に頼んだように、化け兎も応援を冒険者に頼んでいる。と言っても、向こうの依頼主は審判も務める老人方だったりするのだが、ちゃんと勝負には中立を護ると言ってくれていた。
「なぁに。このレース、我ら裏方組が見事盛り上げて見せよう! なぁ? 小よ、キーパットよ!!」
『はいっす。自分たちの裏方魂で、河童さんを勝利に導くっす! 河童さん、任せておくれっす!!』
 サウティ・マウンド(eb0576)が密やかに告げると、小道具(eb0569)にキーパット・ターイム(eb0804)が重々しく頷く。
 実際は、道具は華国語しか出来ない為、サウティの言葉は通じてない。それでも、そこは同じ任侠裏方組に所属する仲間同士。雰囲気で分かれというもの。
 とはいえ、話しかけられた河童はさすがに首を傾げたようだが。
「それでは、任侠裏方組独自の掛け声ですが、皆様御唱和下され」
 全員の顔を見回すと、こほん、とキーパットが皆を集めて、音頭を取る。
「それでは行きます!!」
「「「「「「「カチコミじゃああああああーーーーー!!!」」」」」」」
 気合十分、迫力満点。亀‥‥ではない、河童組の掛け声は競争会場周辺に見事木霊した。

「そいじゃまー。両者位置について。‥‥‥‥よーい」
 進行を務めるのは、老人たち。声を上げると、ドン! と一発太鼓が鳴り響く。途端に走り出す河童と化け兎。そして、彼らをそれぞれに支援する冒険者たち。
 飛び出したのはやはり化け兎の方だった。が、雪に滑って派手に転んでいる。
(「好機です! 焦らずに確実に走り続けて下さい!」)
 河童と同じ速度で飛びながら、キーパットがテレパシーで状況を伝える。河童からの返答は無かった。すでに走る事だけで頭が一杯のようだ。
 最初の上り斜面には雪が多く、凍っている箇所もちらほら。勿論、河童も凍った地面に足を取られる事がままあった。が、勇花が用意した滑り止め用の綱を足に巻いていたり、ルミリアが事前に氷を叩き割ったり、掴る縄を張っておいたりした為に、その回数も格段に少ない。
 おまけに化け兎側は、サウティが水を撒いて氷を増やし――氷を溶かしていた化け兎組と接触し、争いになったのでそれ自体の効果はあまり無かった。が、結果的には向こうの作業を遅らせ、整備阻止となる――たものだから、路上具合にも差があった。
「はっはっは。お先に失礼!!」
 頂上に先についたのは河童。しかも振り返る余裕まであった。
 えっちらおっちら走ってる化け兎たちにそう笑いかけると、河童は自らの甲羅を使い山の斜面を滑り降りていった。これもやっぱりサウティらの助言である。
 傾斜は緩やかでも徐々に加速が付く。一気に化け兎との距離を引き離し、見事先に洞窟へ到着! 洞窟の入り口で提灯持って立っていた化け兎組の女性を横目に、洞窟内へと突入して行ったのだが。
「うわわ! こっち来るなー!! 河童の道はあっちだろ!?」
「だーーー、止ーまーらーんー!!」
 洞窟内にて、化け兎を驚かそうと待ち構えていたサウティに、滑る河童が突撃してくる。何せ薄暗いから気付くのが遅れ。おまけに向こうは加速がついた為に舵が取れなくて。折角走りやすい道を探して印まで付けてくれていたと言うのに、道をはみ出しても修正出来ず。挙句、わずかな石につまずいて、不規則にくるくる回転なんかしたりして‥‥。
   ゴン!! ガンガン、ガギ! バギッッ!!!
「「きうぅ」」
 河童、サウティを巻き込んであちこちぶつかって壁に激突。二人衝突、仲良く目を回す。 どうやら、今回ちょっと一休みしたのは亀さんの方らしい。
『早く気付いてくれないッスかね〜』
 河童の皿渇き防止で水を用意していた道具は手ぬぐいを二人の額に乗せる。手当ての甲斐あってか、程無く二人は目を覚ます。が、目を回しているの間に、さっさと化け兎は追い抜いて先へと進んでしまっていた。
「おのれ! 寝てる隙をつくなど、何と卑劣な奴だ!!」
 河童の雄たけびが洞窟内に木霊する。‥‥自分が以前にやった事は棚上げらしい。

 洞窟を抜けると川に出る。対岸の旗をも視野に納め、後はその川を越えるだけ。
 が、化け兎の方が先行している。泳ぎが得意な河童と言えど、このままでは巻き返せるか不安な距離だ。
 なので。
「ウサギ!! これを見るがいい!!」
 河童は懐から人参取り出すと、ひょいとあらぬ方向へと投げつけた。途端に、化け兎は人参の方へ走りだそうとし、仲間の一人に引き止められている。
 その隙に道具は河童より全力で先行すると、飛び石に油を撒き始める。また、サウティも化け兎が飛びやすいように埋めていた飛び石の隙間などを壊しにかかる。
 さすが裏方家業は仕事が早い。これで、飛び石は滑って走りづらくなった。
 だが、敵もさる者。
「仕方が無い。こうなったら!!」
 気合を込めると、化け兎組の幾人かが川の中に飛び込む。川の水は冷たいだろうに、たいしたものである。だからと言って、感心して見ている訳にもいかない。
「そうはさせるか! 頼むぞ!!」
「ほーっほっほ。任せてちょうだい。乙女の業、全て使って差し上げるわね♪
 河童が渡されていた呼ぶ子笛を吹く。と、その音を聞きつけ、勇花が川へと飛び込んだ。
 笑顔で告げるや、飛び石を壊し、飛び石代わりに川に入った化け兎組に組み付いたりと奮闘する。乙女の恥じらいとなる大きな胸――というか単に胸囲――は手拭いでキッチリ隠しているので、まさしく容赦無しだ。
 数では化け兎組の方が多いが、纏まってしまっては飛び石代わりにならない。格闘の腕に加えて、どうやら泳ぎもわずかながら勇花に分があり、化け兎組は窮地に追い込まれる。
「構わずに早く行け。そして、必ず勝て! 全ては、奴を亀だと認めさ‥‥ぶっ!!」
 抱きしめていた男が、化け兎にそう叫ぶ。が、その間も無く、化け兎はあっさりとその男を踏みつけにし、あまつさえ勇花すらも飛び石代わりに踏み越して先に進む。
「コラ、待ちなさいってば〜」
 締め上げていた男を手放し――男はそのまま流れてしまったが、この際は無視――、慌てて化け兎を追おうとしたが、さすがに他の化け兎組が先へと行かせようとしない。
 まぁ、さほどの心配は無用だろう。すでに河童も川へと飛び込んでいたのだから。
「なるべく水の底を泳がれよ。その方が速い!」
 走る速度にあわせて、滑り止め用の綱を斬ったルミリアがそう助言している。その間にも河童は潜行、順当に進む。
 化け兎と違い、泳ぎが達者な河童にとって、水辺の飛び石はむしろ障害物だ。だが、それらは緋狩たちがすでに砕いて道を広げている。また、上空からはキーパットが変らずテレパシーで周囲の状況を伝え続けている。
 その為、予想よりも早く河童は岸に着いた。化け兎は岸まで後少しの所でもたもたとしている。
――勝った!! 
 誰もがそう思った。河童も安堵で旗までの残りわずかを全力で走る。
「えーい。こうなったら!!」
 その時聞こえたのが、半ばヤケ気味な化け兎組の声。何をするのかと思いきや、飛び上がった化け兎に合わせて、飛んでいたシフールが思い切り蹴りを入れた。その反動も含めて、化け兎は高く距離を稼ぐと岸辺に着地。後は猛然と駆け込んでくる。
 陸上においては化け兎の方が早い。両者の距離は見る間に縮むが、同時に旗までの距離もさほど無い。
 敵味方含めて、はらはらしながら見守るその前で両者はもつれ込むように旗へと手を伸ばし‥‥。

「同着両成敗とは、何とも納得いかん結果だな‥‥」
 長い協議の末に、審判役の御老人から伝えられた結果にサウティは顔を顰める。
 旗にもつれ込んだのはほぼ同時。審判役でも見極めが付かず、それならば、というこの結果。口惜しさを感じているのは何もサウティ一人ではなかった。
「やっぱり、無理してでもキュウリを持つべきでしたか」
 がっくりと肩を落とすキーパット。ただ重量の問題以上に、この冬場に夏野菜を手に入れる方が至難である。
 おまけに、勝った所で向こうに要求拒否されたらそれで終わりと聞くに及び、がっかりがぐったりに変って、皆、ひっくり返る。骨折り代わりに、使った道具は補充しようと言ってくれたのはせめてもの救いか?
「さて、まぁ。川に入ったりでいろいろ大変じゃったろ? 汁粉をこしらえたけぇ、温まるぞ」
 からからと悪気無く笑う老人たちに、やれやれと身を起こす冒険者。
「汁粉! お餅! うさ、ついたの! 食〜べろ食べろ。亀の仲間もご一緒、どうぞ♪」
「だから、亀じゃねぇェ!!」
 運ばれてきた椀に入った餅を見て、化け兎がいきなり人化けして騒ぎ立てる。
「まーったく。今回はこんな結果になったが。次は負けねぇ。絶対に亀ではないと認めさせてやる!!」
「亀は亀だもん。何と言われようと亀だもん。亀カメかめ〜」 
 汁粉を食べながらも、力強く言い放つ河童。負けじと言い返す化け兎。
 ‥‥競争の前に、拒否権を持つのはやめろと言いたい冒険者たち。というか、気付け。特に河童。
「どんな結果だろうと恨みっこ無しが基本よ。いい加減、仲直りしないなら、こうしちゃうんだから♪」
 相変わらず、喧嘩を止めない両者に嘆息一つ。勇花は両者纏めてぎゅーーーーっと抱きしめる。
「「きううううう」」
 力強い抱擁に、両者纏めて目を回してひっくり返る。びっくりしたのか、化け兎も元の姿にまた戻ってしまっていた。
「さて、腹も膨れたし。荒らした飛び石など、片付けに行こうか」
「やれやれ。それが一番大変なのかもしれないな」
 立ち上がったルミリアに、ため息一つ緋狩が告げると、サウティも後に続く。
 まぁ、川へと向かう前に。気絶している化け兎をルミリアが抱きかかえて告げると、緋狩も何と無しに化け兎の頭を撫でていた。