蛙の歌

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月16日〜06月21日

リプレイ公開日:2004年06月28日

●オープニング

 ジャパンの自然はとても豊かだ。四季の変化に富み、それにあわせた生命の営み。
 春が来ればやがて夏となる。その前に梅雨。水の問題はとても大事で、この時期の雨は植物の成長を左右する。暑い夏に向けての貯水も必要で、降ってくれねば困のは確かだが、鬱陶しく思うのもまた事実。
 だが、雨が降れば元気になる奴らもいて‥‥。

「うっせーんだよ‥‥」
 冒険者達に囲まれて、その若者はうんざりと告げた。
 目の下にはばっちりとクマが出来ている。怒りと不満で苛立った表情をしているが、それを誰かにぶつける気力も無い。言葉を告げようとしてそのまま大あくびに変わるのは、すでに二桁の回数になる。
 睡眠不足なのは見るからに明らかだった。
「俺っちの村の溜め池に大蛙が二匹住み着きやがったんだ。こいつら、日が暮れて涼しくなってくるとゲコゲコゲコゲコうるさいのなんの。こちとら畑仕事で疲れてるっちゅうのに、夜通し鳴きやがるんだ。
 雨が降った日にゃ、さらに一日中元気一杯大音量って奴さ。‥‥ホント、勘弁してくれよ」
 本当に途方に暮れた様子で若者が頭を抱えて塞ぎこむ。
 そして、そのまま微動だにしなくなった。
 不審に思って誰かが肩を叩くと、はっと若者は顔を上げる。どうやら寝かけていたらしい。
「ワリィ、ワリィ。いや、気が抜けると何か睡魔がふーーーーっと。
 あーーと、どこまで話したっけか。そうそう、一日中うるせぇってトコだな」
 ぼりぼりと頭を掻いた後に、若者は自身の頬を叩く。
「とにかく大蛙の鳴き声が安眠妨害で村中眠れねぇんだ。そのせいで、体力の無い奴の中にゃ、体調崩して寝込んじまったのもいる。だが、寝込んじまって動けなくても、うるさくて眠れねぇんだ。だから一向に良くならねぇ」
 つらそうに顔を顰めた後に、若者はため息をつく。 
「結局、根本的な解決は大元の大蛙を始末するしかねぇんだ。だがよ、寝不足が祟って、慣れた農作業でも怪我するような奴が続出してる。これで慣れない刃物振り回して蛙を相手に大立ち回り、つーのは正直怖ぇ。仲間からうっかりばっさりが冗談にならねぇさ。
 だから、頼む。村の為に、俺たちに代わってこの蛙どもを成敗してくれねぇか?!」
 両手を合わせて若者が頼み込む。
 必死に拝み倒す姿勢を見せたのだが、そのままふーっと前倒れになると顔面から地面に激突。そのまま動かなくなる。
 大丈夫か、と覗き込むも、聞こえてくるのは高いびき。試しに二、三発小突いてみたがこれはもう起きる気配が無い。
 提示された額は悪くは無かった。村の場所はここから2日離れた辺り。蛙である以上、水陸両用で動くというのが厄介と言えば厄介だが‥‥。

 とりあえず、若者が起きるのを待ってから、冒険者達はその村へと向かった。

●今回の参加者

 ea0023 風月 皇鬼(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea0295 蒲原 恭助(28歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ea1462 アオイ・ミコ(18歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea1598 秋山 主水(57歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1808 朝比奈 隆史(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea1891 三宝重 桐伏(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2740 狩野 龍巳(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3055 アーク・ウイング(22歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●道すがら
 睡眠不足の村を救う為、八人の冒険者が大蛙退治に向かう。
 たかだか蛙二匹。ではあるものの、一応に緊張しているのはやはり戦いがそこにあるから。
 なのだが、その中で少々憂い顔で気落ちしているのは蒲原恭助(ea0295)。その理由はと言えば。
「野郎ばっかですね‥‥」
 助けを告げに来た青年もさる事ながら、受けた冒険者も男性ばかり。唯一の女性としてアオイ・ミコ(ea1462)がいるのだが、言葉が通じぬとあって、話かけても今ひとつ手ごたえが無い。
 道中の出店などで可愛いお姉さんなどと話す楽しみはあるとは言え、ただ道を移動するだけの間は正直侘びしさ満載である。
 かくなる上は、村にいるだろうお姉さん方に期待しよう。
 そして、その紅一点・アオイはと言えば。
『おっも〜いよぉ。ショートボウも持てないなんてぇ〜〜〜』
 荷物を両手にぶら下げながら、泣き言を述べていた。
 シフールは他の種族に比べ、どうしても体力面で難が出る。町で揃えられる道具は概ね人間に合わせた大きさだから、荷を用意して持つのも一苦労。よろよろともたついて、ろくに飛べずにいる。
『おまけに、天気はいいのに蒸し暑くて嫌になるよね。今、貧血で倒れたら洒落にもならないよ』
「目の前をうろうろ飛ぶんじゃねーよ。うざったいし、大人しく座ってろ」
『?』 
 ぶちぶちと文句を垂れるアオイに、三宝重桐伏(ea1891)がうんざりとした口調で告げる。だが、あいにくアオイはジャパン語に精通して無い。何か言われたのは分かったが、ただ首を傾げるのみ。
 シフール通訳は店舗やギルドが好意で雇い入れているだけに過ぎず、その為冒険先までは同行しない。通訳を自分で探して雇うのもありだが、一般的な値は冒険報酬額の4倍程という。自分で習得する方が安上がりな上、勝手がいい。 
 が、今、覚えていないモノは仕方ない。言葉が通じぬ以上、身振り手振りで何とか会話を成立させようとする二人だが、
『馬に乗っていいってさ』
 その様子を端から見ていた風月皇鬼(ea0023)が苦笑しつつ、アオイに華国語で通訳した。
『そなの? じゃ、遠慮なく♪』
 馬に荷物を下ろすや、ひょいと桐伏の肩にアオイが飛び乗る。
『楽チン、楽チン。ありがとね〜』
「あ、コラッ。‥‥ま、視界を飛ばれるよりマシか」
 にっこりと笑うアオイに、桐伏が諦めて肩を貸す。

 かくて数日の道中を経て、冒険者達は問題の村へとたどり着いた。

●蛙の歌が
 旅程を調整し、村には午前中に入る。何せ、騒音で睡眠妨害されているのだ。下手に一泊すると疲れを取るどころか、逆に神経すり減らして退治に出なければならなくなる。
 用意された家で、作戦の最終確認と共に軽い休息を取ろうとする冒険者達。その時、軽快な大音響が盛大に村中に響き渡った。
「な、何だ!?」
「蛙の声ですよ。ちょっと日が蔭りましたから元気出たんじゃないですか?」
 慌てふためく冒険者に、疲れ切った様子の青年が説明する。その態度は落ち着いているというより、もはや諦めの境地にいたっているように見えた。
 蛙の声と聞き、冒険者達が目を丸くする。しばしの間、割れ鐘を叩きまくるような合唱を聞かせ続けると、大蛙達は鳴き始めと同じく唐突に鳴き止んだ。
「聞きしに勝る、ですね。これが一晩中なら、そりゃ眠れないでしょう。一泊しなかったのは正解ですね」
 耳に指で栓して朝比奈隆史(ea1808)がげんなりとした表情のまま嘯き、小さく息を吐く。
「仕事にあぶれたから来てみたものの‥‥、確かにこれは放っておけないな」
 言って、狩野龍巳(ea2740)が通りを見遣る。歩いている村人は疎ら。そもの人口が少ない上、野良仕事に出ている時間だ。だが、それらの事情を考慮しても活気が無いのは一目瞭然。しかも、その歩く人ですら顔色の悪さが目立つ。
 騒音公害、安眠妨害。寝込んだ者もいるとあっては、胸中にふつふつと義侠心だって沸き起ころう。
「だらけてる方が性分に合うんだ。‥‥さっさと済ませようか」
 頭を抱えながら、うんざりと告げる皇鬼。少なくとも今の状況では快適にだらけてなどいられない。だらける云々は置いておいても、その気鬱な表情は冒険者一同共通していた。
 打ち合わせの確認をとった後、機を見計らって冒険者達は蛙達のいる池へと赴いた。

「♪ 蛙がお池でゲコゲコ鳴いてる〜 それをみんなでひっ捕まえ〜て 煮てさ 焼いてさ 食ってさ‥‥」
「そろそろ池が近い。ただの動物が相手なれば、そろそろ気配に気を配った方が‥‥」
 鼻歌を歌いながら歩くアーク・ウイング(ea3055)に、秋山主水(ea1598)が注意をしようとした時。
 どぼん、と水音が池の方から聞こえてきた。
 動物は気配に敏感だ。恐らくは近付く冒険者らを警戒したのだろう。同時に、その不穏な空気を感じ取り、連れていた馬達が落ちつかなげに身を震わせる。
「よしよし。いい子だからもう少し我慢していて下さいね」
 訓練を受けていない馬は大変臆病だ。恐怖が連鎖して暴れださぬよう、馬の首筋を撫でて宥める隆史達を見遣った後に、まず、馬を持たない徒歩組が池へと近付いた。
 池はどうやら人工的に作られたらしく、人の手が入った後がある。が、生い茂る水草に、せり出した木などで自然に溶け込んでいる。そうして出来た木陰がちょうど蛙達にとって絶好の所在になったのだろう。
 水面にはわずかに揺れた後。水に隠れたか、それとも?
『どこに行ったんだろうね?』
 重い荷物は預けたまま、身軽になったアオイはきょろきょろと見渡して辺りを飛ぶ。アークは蛙の居場所を突き止めようと、ブレスセンサーの詠唱をして‥‥。
「池の傍と‥‥。おい! そこら辺に何かいるぞ!!」
 大きな息遣いを感じてすぐに警告を発するも、アオイは分からずただ振り返る。
 くるり、とアオイの身体に長い蔓のようなものが巻きついた。かと思うと、次の瞬間には水面へと引き込まれる。
 否。そこにあったのは大きな口。水面からわずか顔を覗かせていた大蛙が、がぱりと口を開けてアオイを飲み、
 
――もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅもぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ‥‥‥‥‥ぺっ。

 蛙面が奇妙に歪む。と、勢いよくアオイが水面に吐き出され、ぽちゃん、と、水音を立てた。
『ひっどおおおおぉぉぉおおおおおーーーーいっ!! これが乙女への仕打ちなのぉぉおおお??!』
『食われなかっただけマシだろ。いいから、さっさとどきなって』
 一応、水浴びした事にはなるが、蛙に食われた気持ち悪さまでは消えない。泣き言を告げるアオイに、皇鬼が急いで指示する。その間にもアークは詠唱を続け、
「くらえ!」
 大蛙に向けてライトニングサンダーボルトを放つ。
「ゲゲゲゲゲゲ!!!」
 飛んだ電光が大蛙を直撃した。蛙は身を引き攣らせると、それから立ち直るや一目散に逃げ出す。
「逃がすか!」
 手裏剣を取り出すと、皇鬼は逃げる大蛙に投げつける。動く相手、多少距離もあったけれども、何せ的がバカでかい。
 痛みのあまりに逃げるのを忘れて暴れる大蛙。アークがサイレンスをかけているが、そうでなければ辺りに悲鳴が響いていただろう。
「大人しく眠らせろ! 我流・疾風斬!!」
 龍巳が研鑚した我流の技による真空の刃が、大蛙の身を刻む。大蛙はたまらず池に逃げ込んでしばしもがくと、池へと沈んで二度と浮かび上がる事はなかった。
「もう一匹いるという話だった。どこだ!」
『あそこ!!』
 辺りを見渡す龍巳に、上空からアオイが一方を指し示す。
 見れば、池の対岸に蛙の姿。すたころと逃げようとする。だが、その前に馬に乗って回り込んだ冒険者達が立ち塞がる。騒ぐ馬を宥めすかして先回りをすると、その馬から下りて大蛙と向き合った。
「やぁやぁ。我こそは神皇様に‥‥って、うわぁ!?」
 抜刀し、声を高く名乗りを上げようとした恭助だったが、蛙はそれに構わず恭助に飛び掛ってきた。宙を舞った巨体を恭助が素早く回避すると、それに構う事無く、大蛙はひょこんひょこんとさらに逃亡し始めていた。
「さすがに獣相手では名乗りも無意味か」
 同じく名乗りを上げようとしていた主水が苦笑して、蛙の後を追う。馬はさすがに暴れて危ない。降りて自身の足で追いかけたが、さほどの手間もかけずに追いつく。
 通常、主水は後の先を取る戦法を取るも、逃げている動物相手にそれも無意味。
(「誰かを守る為には、こちらから攻める事も時には必要という訳か」)
 そう考えるや、裂帛の気合と共に切りつける。切りつけられ動転し、蛙はさらなる速さでその場から離脱を図ろうとしていた。
「ちょろちょろと逃げてんじゃねぇよ!!」
 そこへ、桐伏が足に向けて渾身の一撃を放つ。まともに喰らった蛙の脚だけが天へと飛ぶと、凄まじい大声で大蛙は断末魔の悲鳴を上げる。
「これが最後の声にして欲しいですね」
「神皇に仇を為す輩は、塵になりなさい」
 三本足で転げまわる大蛙に、隆史が日本刀を付きたてて、恭助が留めに小柄を脳天に差し込む。
 大蛙は喉を引き攣らせるように口を開けると、そのまま息の根を止めた。

●騒ぎ
 静寂が戻った村に、別の騒音が沸き起こる。村人達の歓声だった。冒険者達が蛙退治の報告を終えると、寝不足故の高潮があいまって、異様な陽気が村中に広がっていった。
「ありがとうございました。これで農作業に専念できます」
 手を叩いて喜ぶ村人達。村で溜め込んでいた酒も持ち出され、あちらこちらでどんちゃん騒ぎが繰り広げられる。
『よっぽど困ってたのね。頑張ったかい、あったかな?』
 あっという間に村全体がお祭騒ぎになったのを、アオイは宙を舞いながら確認する。誰もかれもが笑顔でいる様は、危険を冒して取り戻したのだと思うとちょっと誇らしくなる。
「はー。終わった、終わった。酒が美味い!! ほれ、あんたも一杯やんねぇ」
 村人に囲まれながら、桐伏は出された酒を飲み干す。決して空にならない酒杯――飲んでも横からすぐに注ぎ足されるのだ――に上機嫌になりながら、傍にいた主水にも杯を差し出す。
「うむ。酒はありがたいが‥‥。しかし、目上の者にはきちんと礼節を持って接せねば、それではいつまでも浪人のままだぞ」
「まぁまぁ、ここは一つ無礼講という事でもいいんじゃないでしょうか」
 難しい顔つきで説教しだす主水に、隆史は苦笑して横から宥める。
「睡眠不足は肌に大敵だからな。キレイな顔に何事もなくてよかったな」
「やぁねぇ。褒めても何も出ませんよ」
 その一方で、恭助は給仕でせわしなく出入りする女性たちに片っ端から声をかけている。悪い気はしないのか、声をかけられた方もまんざらではない様子。自然、隆史の周りに酒やら肴やらが集まりだしていた。
「ま、記念にはなるか?」
「というか、保存食の足し程度だろうね」
 騒乱の片隅、皇鬼とアークが持ち帰った大蛙の手足をしげしげと見つめていた。皇鬼は、何なら魚拓ならぬ蛙拓でも取ろうかと考えていたが、紙は貴重で概ね高価だし、木で取ると重くて嵩張って持ち歩きが大変になる。その手足にしても、ナマモノだしそのまま置いておくにはいささか難がある。適当に加工して保存食として記念に味を覚える程度が、今回は精一杯ではなかろうか。

 そして、村を冒険者は後にする。今回かかった旅費などは報酬金とは別に用意する、と約束して村人達は頭を下げた。
 だが、喜ばれた割に見送りに出てきた村人の数は意外に少ない。それを不満に思う冒険者もいなかったが。
「やれやれ。一騒動も済んだ事だし、これでようやくゆっくりと村人も眠れるようになったな」
 龍巳の言葉に、他の冒険者達も笑顔で頷く。
 蛙の歌はもはや聞こえず。久方ぶりの安眠が、村全体を包んでいた。