マグロをご所望?

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月21日〜10月26日

リプレイ公開日:2009年10月31日

●オープニング

 源徳家康が、江戸を取り戻すべく起ち上がってから数ヶ月。戦火は衰える事を知らず、ますます広がっていく。
 住処を追われる者はまだ幸い。下手をすれば簡単に命を奪われるこのご時勢。
 今は平和でも、いつ火の粉が降りかかってくるか分からない。
 権力とは無縁な村でも、戦火に巻き込まれればあっという間に消し飛んでしまう。

 山の中にある小さな、小さな村。権力とは無縁のこの場所でも、今のご時勢ならばいつ何時戦に巻き込まれるか分からない。
 故に、その村では一日を平穏無事に過ごせたのは鎮守の神の御加護として熱心に拝んでいる。
「神様、今日もお守りいただきありがとうございます」
 御供え物は米と木の実。ささやかだが、この村では精一杯の供物だった。
 朝、お供えしたそれらを夕方には下げる。‥‥のだが、最近、確かに備えたはずの膳がきれいに平らげられる事が多くなった。
 きっと神様がお食べになったのだと、なおさらありがたがって村人達はよりいっそうの信仰をささげていた。

 そんなある日の事。

「聞くのじゃ、村人たちよ。我は神様であるぞ」
 いつも通り、神への感謝をささげていると、いきなり神社の中からそう声がした。
 神社の正面は格子になっており、御神体が祀られている空間が見渡せる。悪戯にしても、誰か人間が隠れていればすぐに分かるが、そんな気配はどこにもなかった。
「よいか、よく聞くのニャ」
「ニャ?」
 変な訛りに村人達は首を傾げる。
「あ、いや。よく聞くのじゃ。この村にとんでもない災厄が訪れようとしている! 我の力だけでは防ぐ事は叶わない。そこでお前達の力を借りたく、こうして参じたのじゃ!」
 災厄、と聞き、村人達はざわめいた。神の力でも防げぬならば、それはもう村の存亡に関わるに違いない。
「なんと、神様!! それで私達は何をすればよいのですか!?」
 慌てて平伏し、村人達は神へと問いただす。
「うむ、殊勝な心がけ。‥‥よいか、よーく聞け。災いを避ける為に、そなたたちはマグロを入手し、我にささげるのじゃ!!」
 神社はいつも通り古びている。御神体の木片は表情どころか姿も変えない。
 なので、どういうつもりで言ったのかは伺い知れないが、声はやけに自信満々だった。
「マグロ、でございますか?」
 村人達がまた首を傾げたのも無理は無い。
 この村は山奥に位置し、四方何処を見渡しても木・崖・空。
 魚は食べるが川魚ぐらい。海魚どころか、海を見た事がある村人すらこの村にはいない。
 村に至る道も険しく、行商人もなかなか訪れない。来ても売り物は乾物が基本。腐りやすい魚をこんな所で売ろうという物好きは皆無だ。
「そうニャ。マグロニャ。それも尾頭付きで尻尾付きで無ければならないのニャ。大きければ大きい程よいのニャ〜」
 自信満々というよりは、なんかこう嬉しそうというか、口調が浮ついているというか‥‥。ジュル、という水音は涎でも拭いたのか‥‥?
「じゃ、邪推してはならんぞ!! 山の神たる我の力だけは不十分ゆえ、海の神の力を呼び込むのニャ。我の予言によれば、その力はマグロに乗ってやってくると出たのニャ。そうすれば、災厄どころか我は天下無敵で末永く守ってやれると思うと嬉しくなったのじゃ!」
「は、はは〜」
 恐れ多くて口には出せない疑問を、ぴたりと答える。やはり神様はすごいのだと、村人達はさらにありがたがって頭を下げる。
「良いか。ニャーはマグロが欲しいのニャー。持って来なければ、大変な事が起き、フギャア!!!」 
 ボリン、と木の砕ける音がした。かと思うと、神社の下からごそごそ凄まじい音、ついで古ぼけた大きな猫が一匹慌てふためいて飛び出してくる。
「ああ、神社の床が抜けている。御神体の陰にあの猫が隠れていたのか。神様、どうぞ粗相をお許し下さい」
 しかし、猫に驚いたのか。神が語りかけてくる事はもう無かった。


「ともかく、災禍を祓うべく神様がマグロを所望しているのならば、私達はそれに答えねばなりません。それで私が参ったのですが、しかし、マグロの入手もなかなかに難しいのです。立派な物を買うには財布が心もとなく、ではいっそ自ら釣ろうと思えど我が腕前では到底と言われまして」
 冒険者ギルドを訪れたのは、神の使いで来たという村の青年。所持金を伺ったギルドの係員は、微妙な表情で返答するしかなかった。
 赤身魚は白身魚に比べ鮮度が落ちやすく、マグロも下手すれば肥料にしか使えないような捨てられる魚だった。
 ところが。
 月道を通して外国との行き来が盛んになるにつれ、食文化にも変化が生まれた。食べる側の味覚も変わり、調理法もいろいろと編み出されるにつれ、マグロも注目されるようになったのだ。
 さらに天界人の、特に向こうの日本人は「マグロ」と聞けば、目の色変えてありがたがるものだから、それまで下魚と卑下してきた江戸っ子も意識を改めだす。
 マグロの旬も大体今から。初物好きな江戸っ子相手に儲けようと、御値段もちと高めなのは仕方が無い。
 ではいっそ自力で入手と奮起しても。網だろうが竿だろうが、川魚しか釣った事が無い青年の手に負えるような相手では無い。
「保存の状態もあります。我が村までは徒歩で丸一日。今時分涼しくなってきたとはいえ、少々怪しい所。腐敗した物を神に捧げる訳には参りませんので、どうにか鮮度を保たねばなりません」
「おまけに大きい物になるとかなり重いですからねぇ」
 しみじみと係員が告げると、そうなんですと青年はうなだれる。そんな魚とは思ってなかったようで、用意はほとんど無いと言う。
「それで難儀してましたところ、だったらとこちらを紹介していただきました。神にマグロを供え、村の災禍を防ぐべく、お力をお貸し願いのです!」
「ええ、まぁ。それは構わないのですが‥‥。ところでそれは本当に神さまからのお告げだったので?」
 真摯に頼み込む青年。
 係員は依頼を了承しながらも、念の為に確認をとる。
「勿論ですとも。だって、神様がそう仰ったんですから!」
「しかし、それは‥‥いや、なんでもないです」
 疑う余地も無く断言する青年からそっと目を逸らす。

 さて、どうしたものか。そこらの事情と共に、係員は後を冒険者達に託した。

●今回の参加者

 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb4757 御陰 桜(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec0097 瀬崎 鐶(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec5385 桃代 龍牙(36歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ シャリン・シャラン(eb3232)/ ジュリアンヌ・ウェストゴースト(eb7142

●リプレイ本文

「マグロを所望とは、青年君の村の神様は面白いね〜。うむ、ここは一つ、大きなマグロを奉納しようではないか〜」
 けひゃひゃと、クラウンマスクをつけた男がけたたましく笑う。
 名はトマス・ウェスト(ea8714)だが、今は故あって西海と名乗る。
「はい、よろしくお願いします」
 その独特の風体に、山奥の村から出てきた青年は面食らっていた。が、ともあれ、協力してくれるというのだ。気を取り直すと、律儀に頭を下げる。
「マグロねぇ。こないだ『ふぃっしんぐ』で連れたのがあるけど、新鮮な奴のがいいのよねぇ?」
「ええまぁ。神様にお供えするのですから、なるべく新しくて大きい方がいいです。‥‥でも、そんなに簡単に釣れるのですか」
 小首を傾げる御陰桜(eb4757)に、期待を込めた眼差しで青年は身を乗り出す。
「うーん、どうかしら。釣っても何かよく分からない塵が多いのよね。狙う魚が食いつくとも限らないし。ま、どうしても駄目だったら、その時は家に寄って持っていけばいいかしら?」
「それでも駄目なら、市場で購入。資金が足りないなら、こちらからも援助しよう」
 桜と瀬崎鐶(ec0097)の申し出に、青年はありがたいと頭を下げながらも、申し訳無さそうにしている。
「それよりまずは奉納魚を釣り上げる事だね。釣り道具も用意済み。撒餌もこの通り。後はつれるかの腕ではないかね〜」
「それについては任せろ‥‥大声では言えないかな。まぁ、力は尽くさせてもらうよ」
 西海から差し出されたニョルズの釣竿を、桃代龍牙(ec5385)は妙に嬉しそうに受け取る。
 奉納マグロはひとまず吊り上げる方向で纏まっている。
 海に出る為の漁船を頼みに、冒険者たちは漁港に赴く。
「しかし、その『神様』は気になりますなぁ‥‥。猫妖精いうよりは、猫又とか化け猫の類ですやろなぁ」
 青年の話を聞くに、どうも胡散臭い話‥‥というより怪しすぎて何故気にしないのかが不思議でならず。
 ニキ・ラージャンヌ(ea1956)は、依頼人に気付かれないように首を傾げる。
「悪戯猫は少し懲らしめないといけないがな。でも、世界で一番旨いと豪語する魚を皆で食べるのも良いよなぁ。下魚の理由は知っていたが‥‥黒鮪や南鮪はいるかなぁ」
 うきうきと龍牙は港に併設されてる市場を覗いて回る。
 天界人にとって、マグロはやはり特別なようだ。


「ば、化け物〜!!」
「じゃなくて、我輩の斑越具試獲留丸弐式だね〜。落ち着いて、操舵してくれたまえ」
 姿を見せた水神亀甲竜に船の準備をしていた漁師たちは一時騒然となる。西海に説明されるも、どこか胡散臭げに見ている。
「漁師さん、ありがとう♪ いい釣り場までよろしくね」
「へへへ。そう言われちゃ、張り切らせてもらおうじゃないか」
 しかし、桜がにっこり笑うと、漁師たちは気を取り直し、漁船を巧みに操り海に出る。
 さすがはナンパ超越。腕のいい女好きの漁師を見つけると、そこに付け込んで巧みに交渉。気付けば、船代も安くなっている。
 依頼主は、その手腕に驚きを通り越して呆れ返っている。
 ともあれ、無事船出となったのだ。釣り場まで出れば、竿を仕掛け糸を垂らし、後は釣れるのを待つだけ。
「なんか、気配は確かにするんやけど。深く潜られたらさすがに届かへんわ」
 ペガサスのカルキに跨り、デティクトライフフォースで気配を探るニキ。
 大きな魚なのでかかれば気付くが、海も広い。こうなると魔法の範囲も十分と言い難く、海面近くを飛んで距離を稼ぐしかない。
 単なる海辺の散歩にペガサスは若干不服そうにしているが、暴れる事も無くニキの指示に従い波を蹴るような高さを駆けている。
「何も無い所では向こうも寄って来ないのだね。少し撒餌をするとするか〜」
 言って、西海は持って来たゴールドフレークや魔女の煮汁を海にばら撒く。
 海風に負けない強烈な臭いに、皆、閉口したが、効果はさすが。たちまち魚が集まってくる。
 そして、ニキからも声が上がる。
「何や船の下辺りを泳いでますえ」
 言うが早いか。垂らした竿の一つに当たりが入る。手ごたえからしてかなり大物だ。
「ふむ、逃がさないように気をつけてくれたまえよ」
 力任せに糸を切って逃げようとする魚もいる。そうならないよう、追い込む意味で西海は水神亀甲竜を連れてきたのだ。
 船について泳いできていた水神亀甲竜も今は姿が見えない。下に潜り、追い上げているのだろう。
「おいおい。これは本当に大きいぞ。船をひっくり返されんよう、気をつけろ」
 代わって格闘していた漁師が仲間に声をかける。だが、それも心配無用と西海が笑う。
「姿が分かれば、大人しくさせるのは訳無いのだね〜。コ・ア・ギュレイト〜!!」
 西海が、姿を見せたマグロを即座に魔法で縛る。
「今の内だ!!」
 動きを止めた魚を急いで引き上げる。
「ここからは時間の勝負。冷蔵処理しないと身が焼ける」
 龍牙がフリーズフィールドを唱える。空中に散っていた水飛沫が、空間に入るや氷の結晶となりキラキラと輝いた。
 続けて名剣・スニュルティルを構えると、頚椎目掛けて突き立てさらに尾側の処理も済ませる。
 西海が腐敗防止でアンチセプシスをかけた後に、アイスコフィンで凍結。‥‥まぁ、アイスコフィンで凍らせている間は時間もほぼ動かないので腐敗も無く生魚のままなのだが、その点はさておき。
「これで大丈夫の筈だよ」
 マグロの冷蔵処理など、ジ・アース日本の漁師が知るはずも無く。
 不可思議な天界の技に、思わず周囲から拍手が起きた。


 港に戻ってからは、さらに大騒ぎだった。
 吊り上げた魚は立派な物で。さらに、使われた魔法の技に周囲の注目が集まる。撒餌で寄った魚も吊り上げており、大漁だと漁師たちはご満悦だ。
「車、用意してきた」
 その人ごみを掻き分けて、鐶は大八車を引いてくる。
 魚を入れる箱に、氷が溶けないよう外気を遮断すべくおがくずを詰めてある。さらに布をかけたり、途中で車自体が壊れたりしないよう、念入りに点検して強化出来る所は強度を上げる。
「立派なマグロです。これなら神様もお喜びになるでしょう」
 青年もご満悦で、冒険者に礼を告げると村までの帰路につく。
 村までは丸々一日歩き通し。山奥とはよく言ったもので、進むに連れて道などどこだと言うような場所も進む。
 荷車は馬に引かせるも、しょっちゅう嵌まって動かなくなったりで、さらに労力も時間も喰う。
 それでも、村に辿り着くとその苦労は吹き飛ぶ。
 待ちかねていた村人たちから入手したマグロに驚かれ、手を貸してくれた事を心からの感謝を述べられる。
 途中、龍牙が気にしながらアイスコフィンもかけ直していたので、マグロの鮮度も十分。
 さっそく神様に納めようと、小さな神社へと運び込まれた。
 これにて、依頼は無事完了。報酬を受け取り、冒険者は無事江戸への帰路につく‥‥。

 ‥‥でも、いいのだが。

 折角なのでと理由をつけて、冒険者たちはもう少し村に残り、奉納まで付き合う。
 話に聞いた通り、小さな小さな村だ。納められた神社というのも簡単に知れた。
「神様。仰せのマグロをお納めします。どうぞお受け取り下さい」
 マグロの方が断然立派な神社に、村人たちは恭しく頭を下げる。
「おお、よくやった。では我はさっそくこれから災厄を払うべく儀式を執り行う。この儀式は人間が見ると神々しすぎて目が潰れる恐れがある。明日の朝までこの場には誰も立ち入ってはならぬ!! 見てはならぬ!!」
「はは〜」
 どこからともなく、ごろごろと喉に絡むような声がする。
 村人たちは下げていた頭をさらに地面にこすらんばかりに落すと、真剣な表情でその場から立ち去って行った。


 村人たちは神様の言いつけをキチンと守り、誰もいなくなった。万一を考えて近所に住む者は別の遠くの家に泊めてもらう徹底振り。
 誰もいなくなった神社には、小さな祠ととても立派なマグロが一匹。
 そして。
 おもむろに社の下から、古ぼけた大きな猫が這い出てくる。
 周囲を警戒しながら、ゆっくりとマグロに近付く。
 しばしマグロの大きさに圧倒され、ぽかんと口を開けて見ていたが、気を取り直すとマグロに噛み付こうとする。
 食べるのではなく、どこかにまず運ぼうというのか。
 しかし、マグロが大きすぎて猫の身では咥えきれない。あちこち試すがどうにも駄目。
 小さく猫は唸ると、なんと、ひょいと立ち上がりその前脚で尾を抱えて引き摺っていこうとする。
 それでも、マグロは動かない。座り込み、ぜえぜえと息をついた猫だが。
「ニャ?」
 何かに気付いて、辺りを見回す。
「ニャーーーー!!♪」
 いつの間にやら、落ちていたマタタビ一つ。目を輝かせて猫はマタタビに飛びつこうとしたが、寸前でマタタビが逃げた。
 訝り、もう一度飛びつくがまた動いて逃げる。
「ニャ? 待つニャー!!」
 もう一度、飛びつこうとすると、今度は凄い勢いでマタタビが逃げ出した。その後を全力で追いかける猫。
「捕まえたニャー♪」
 動きが止まった所を飛び掛ろうとした所を燐光が横切った。驚き、止まった所をひょいと襟首を捕まえ持ち上げられた。
「おや、マグロの次は猫が釣れましたえ」
 笑うニキが手にしている釣竿の先にはマタタビ。逃げたのは曳いていただけである。
 そして、捕まえた猫を桜は抱きしめる。
「ふふ、猫ちゃん駄目よぉ。あれは神様へのお供え物なんだからね♪」
 いるのは彼らだけではなく。西海に龍牙、鐶も揃っている。
「ニャ? ニャ? ‥‥‥‥ニャ〜ン☆」
 冒険者一同から見つめられ、慌ててただの猫のふりをするが、
「今さら猫を被っても遅いのだよ。それより神様君? 活きのいい所を食べて見たくは無いかね」
 仮面の下。不気味に笑うと西海がマグロを超越リカバーで蘇生させる。
 途端、息を吹き返したマグロが尾を叩いて暴れ出す。
「ウニャー!! 化け物ーー!!」
 驚いた猫は桜に爪を立てて、しがみつく。
「だから、体温が上がると身焼けして良くないんだって」
「けひゃひゃひゃ。これは申し訳無い」
 呆れながら龍牙がマグロを再処理。再び凍結させる。
「どうやらただの化け猫のようどすなぁ。人化けもようせん所見ると、そう強くも無いんどすやろ」
「ニャ、ニャンだと〜! 失礼な」
「ほな、化けたり妖力が使えたりするんどすか?」
「‥‥‥‥」
 ニキに指摘されて憤慨する化け猫だが、さらに追及されるとふてくされてそっぽを向いた。
「本当に小物だな。成敗する程でも無し。‥‥でも、神様になって要求するのはいただけないね。そこは反省して欲しい。口に入れた分は働いてもらおうか。夜の畑や田んぼの見廻りとかなら出来るよね?」
 素っ気無く告げる鐶に、猫は毛を逆立てて抗議する。
「ニャ? 口にしたって咥えただけニャ!! なのにそれは酷いニャ。夜は狼が出るニャ! 猪が出るニャ! 危ないニャ!! これから冬で寒くなるし、それから‥‥」
 尻尾をふりふり、身を乗り出し必死に訴えるも、
「出・来・る・よ・ね?」
「‥‥ニャい」
 氷より冷たい冷ややかな目で睨みつけられ、強張った表情で快諾する化け猫。
「御飯が欲しいなら、村の人たちにお願いしてあげるから、もう人を騙しちゃ駄目よ」
 桜が猫の頭を撫でる。
 その腕の中で化け猫は体を丸めると、観念した様に頭を埋めた。


 翌朝。神社の前に神のお告げとしてまた村人たちが集められる。
「儀式は無事に終わったのじゃ。力をつけた我輩はもうお前たちの前に出る事は無いだろう。しかし、それはお前たちを末永く見守る為。けっして悲観する事無く、精進忘れるでないぞ」
「「「「ははー」」」」
 また社に隠れて化け猫が告げる神の言葉に、村人たちが頭を下げる。
 村人たちに真相は告げていない。告げた所で落胆させるだけで、誰にも何の得にもならない。
「そのマグロはもう用は無い。村人全員で分け合うがよい。では」
 そして、神の言葉は消える。
「分け合うと言っても‥‥」
 一晩、外に放置されていた生魚。普通なら口にしようとは思わない。村人は戸惑うが、
「けひゃひゃ。心配いらんよ。腐敗防止はお祈り済みだからね〜」
「ずっとアイスコフィンで固めてもいたしね。十分いけるよ」
 西海が笑うと、龍牙も頷く。
 それでも納得してない村人たちに頼んでマグロを運び出すと、龍牙は、今度はすべてを切り捌く。
 解体された魚をさらに調理。握りに刺身にと振舞えば、最初こそ恐る恐るだった村人たちも警戒が解けて、マグロの食事会になる。
 川魚と違う魚の味に、村人たちの顔にも笑顔が浮かぶ。
「猫さんも仲良ういただいたらよろしおす」
 下処理を聞きながら包丁を振るっていたニキも、肉片を斬りおとすと集まっていた猫に振舞う。
「美味しい?」
 桜の問いかけにも答えず、ちゃっかり紛れていた化け猫は小さく切られた刺身に被りついている。
「‥‥食べたんだから、夜廻りの件ちゃんとお願いするよ。神さま?」
「ウニー」
 釘を刺す鐶に、嫌そうに鳴きながらも。化け猫はマグロを堪能していた。