【播磨・姫路】 狂騒迷走

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:13 G 14 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月15日〜11月25日

リプレイ公開日:2009年12月02日

●オープニング

 己が持っていた竜の骨。そして出雲にて見つけた竜の鱗を持つ一族から摘出した骨を組み上げ、黄泉人・クシナダが作り上げたゴーレム。
 正確には作り上げようとしたゴーレムであり、もっと正確に言えばゴーレムともいえない粗悪品。
 足りない部分をまたおびただしいまでの骨で補った形骸は、負の命を得て暴走を始めた。

●京都
「ゴーレム作成用とはいえ、骨を集めた以上、アンデッド化するのも必然。死の国の者はその程度も考え付かぬほど膿んでおったか」
 播磨より知らせを受けた陰陽寮でも対処を迫られる。この忙しい時にと、冒険者ギルドに姿を現した陰陽師・蘆屋道満は悪態をつき通しだ。
 あるいは。自身が黄泉の国の住人であったからこそ、万一アンデッド化しても御せる自信でもあったのか。にしても、それは結局虚しい一人よがりでしかなかった。製作者である黄泉人は暴走に巻き込まれて死んだ命すら散らしてしまっている。
 その事にも呆れるしかないが、事態は笑って見過ごせる方向には進んでくれない。
「骨人形は、播磨の国北にて人里を襲いながらも京都に迫っておる。アンデッドとして動き出したが故に生気を求めたか、あるいは他に何かあるのか。まぁ、どっちでもよいわ。聞いた所で答える筈無し。こっちのやるべき事なんぞ決まっとる」
 すなわち、暴走するアンデッドの停止。
「本来なら播磨の国で対処すべき事柄だのに、動きがどうも鈍い。奴らの対処を待っておったら早々とこっちに入り込まれかねん。そうするとまたいろいろと面倒になる。かといって、イザナミ戦に備えた今、御所から余分な派兵をする訳にもいかん。なので、自由に動ける冒険者どもに対処を願う」
 ふんぞり返って告げる説明は、人に物を頼む態度ではない。こういうお人なのだと分かっていても、不快さは否めない。
 そもそも、播磨は長く黄泉人の侵攻に対処し続け疲弊しており、あまり余力が無い。要である姫路藩主も病床から動けず指揮に欠き、そこにこの暴走アンデッドは過剰な負担となろう。
 その事を考慮して物を言っているのかも怪しい。
 ‥‥とはいえ、その事態を差っ引いても、止めようとする動きがどうも鈍いようにも思われる。しかし、それを悠長に探る暇は京に無い。
「とにかく入った知らせによれば、骨人形には何やら古の竜の骨も組み込んであるとの事。その為か、幾つかの風魔法も使うそうだ。そもの巨体から繰り出す力に、アンデッドとしての桁外れの生命力も持ち合わせなかなか厄介。巨体が放つ瘴気に惹かれてか、周辺から死人憑きや骸骨侍、死霊なども大量に集まり、黄泉人もこの暴走に合わせて京に乗り込もうと取り巻いているという。だが、お前らにならどうとでも出来るだろう。
 他国で動く手筈はすでに済んでおる。速やかに現場に参じ、事の対処に当たって欲しい」
 信頼されてるのか、試されてるのか。‥‥微妙に馬鹿にされてる気にもなるのは何故だろう。
「それと、竜の骨とやらは回収できるようなら回収するように。そういう訳の分からんもんは陰陽寮で管理するに限る」
 言い置くと、さっさとギルドを後にする道満。
 話を聞いていたギルドの係員はさっそく冒険者へ話を通す。依頼を持ち込んだ人間の人柄はともあれ、京都に危機が迫っているのは間違いない。

●播磨
「我らの領地を動いているのだ。討伐に赴くべきであろう」
「しかし、その余力がどこにある! あの骨の化け物から近隣の村を守るのが精一杯。それとて、あの羅刹天の臣に下った怪異や信者の力を借りてようやくなのだぞ。幸いかな、あれは播磨を滅ぼすよりも別の目標がある様子。静観すれば被害は最少で済む」
「馬鹿な。あれを滅さずしておめおめと他国に流すなど。向かっているのは恐らく京都だぞ。下手をすれば、神皇さまへの叛逆とも取られかねない」
 姫路の白鷺城にて。臣下たちが対策を言い合うも纏まらない。纏めるべき城主・池田輝政とその妻は容態悪くすでにこの場に出てこれない。
 現城主に子供は無く、このまま二人亡くなればお家断絶、藩は取り潰しとなる。そうなる前に養子縁組でも組めればいいが、この混乱の中ではそれも早々と行かない。そういった事柄も含めて、重圧が家臣たちに重くのしかかっている。
 さらに。
「やめときな」
 唐突に口を挟んで来た声があった。とっさに幾人かが刀に手をかける。
 相手が誰かはすぐに推測ついた。故に抜かれた刀を、しかし、羅刹天は難無く受け止める。
「危ねぇな。俺だから良かったものを。俺に何かあったらこの後どうやって死の軍勢から国を守る気だ? 俺の手下たちも黙っちゃいないだろうし、大変だろうなぁ」
 言いながらもニヤニヤと笑い、その侍を捻り上げる。人質をとられた格好になり、他の侍は動けない。
「何の用だ。羅刹天よ。貴様が黄泉側につき、あの暴走を示唆しているのは聞き及んでおるぞ」
「それは誤解だな。俺はアレの動きが見てぇだけだ。黄泉人は関係ねぇ。大体、アレからしても、黄泉人なんぞ眼中にねぇよ」
 鼻で笑う羅刹天。確かに、ゴーレムの周辺で黄泉人を見る報告はあるが、羅刹天と連携をとったという話は無い。ともすれば双方共に争う姿も見られる。
「俺はアレに興味がある。なんで手出し無用だ。邪魔をするなら、その邪魔をさせてもらう。てめぇらは静観して、ただ黄泉人から播磨を守ってりゃいいんだよ」
「何を!!」
 激怒し、刀に力を込める侍たち。だが、動かない。そうした方がいいという気持ちもあるのは事実。その揺らぎが足を止めていた。
 それを見越して、羅刹天は更に笑う。
「念の為に言っておくが、お前たちとの休戦は黄泉人と対峙する間だからな」
 言い捨てると、捕らえていた羅刹天の姿は消えた。

●どことも知れぬ地、多分播磨
「我が地を我が物顔で荒らすとは‥‥。しかも、それを奴が守護しているだと」
 恨みの篭った陰湿な声。首を擡げる獣があった。
「姫様、動かれては」
「黙れ! 貴様らが不甲斐無いから」
 周囲の者が心配して制するも、相手は聞かず。しかし、激昂するだけで疲れるのかすぐにまた横たわった。
「こうして寝ておっても、死は避けられぬ。ならば、その前に奴にせめて一牙打ち込んでくれる。我が死んだと思うておるなら、油断もあろう」
 それでも気力を振り絞ると、それは四肢を持って立ち上がった。
 隠れていた闇の中から、光の元へ。五つの尾を持つ妖狐の姿が露わになる。
「御意に」
 言うても詮無いと、周囲の化け狐たちは頭を垂れる。
 それに見向きもせずに、長壁姫は狂気を孕んだ目を北へと向けた。

●滅びの地
 巨大なゴーレムアンデッドは突き進む。時折、生気に惹かれるか道を逸れ、村を襲う事もあるが、いずれ我に返った様にまた東へ進む。
「姫さまがいなくなった今、せめてその悲願を叶えよう。憎き都の阿鼻叫喚の悲鳴を持って、姫様の弔い歌としてくれる。羅刹天の思惑も気になるが‥‥しかし、何人だろうと邪魔はさせん」
 巨体が進む後を、黄泉人たちは引かれた死人憑きや死霊。動かせる埴輪や鉄埴輪もまた従えて‥‥。

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea3693 カイザード・フォーリア(37歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ec0128 マグナス・ダイモス(29歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文


 負の命で動き回る骨の巨体は、生気に釣られて寄り道を繰り返しながらも、京へと近付いている。
 歪なトカゲのような骨の固まり。虚ろな眼孔で、何を見つめ思うのか。
「進行方向に、あれを嵌めれるだけの沼か湿地帯は無いかな」
 播磨の国姫路藩に赴き、ヒースクリフ・ムーア(ea0286)は地形を確認する。
「探せばあるであろうが‥‥、しかし、あの巨体を制限し、かつお主たちに戦いやすい場所となると‥‥」
 姫路藩にとっても、ゴーレムアンデッドは厄介。対応に頭を悩ませていた矢先の訪問を、渡りに船とばかりに協力姿勢を見せる。
 浅すぎては意味が無く、深すぎては潜られる。狭くては嵌めにくいし、広すぎてはこちらの近付く足場が心もとなくなる。
 ついでにいえば、領地内からは出ていってもらった方がいいとか、人里には近付かない距離がいいだとか。
 あれやこれやと考え出すと、限が無く。そうしている間にも、相手は移動し続けている。
 悠長していられず、幾つか候補を立てると後は現場での対応でとヒースクリフは仲間との合流を目指す。


「黄泉人たちも、厄介なものを作ったものですね」
 巨体から繰り出される力もさる事ながら、風魔法も操る。アンデッド故に生命力も未知数で、どれだけの破壊を加えねばならないのか。
 意識もどこまであるのか分からず、交渉など出来るとは思えない。会えば、交戦確実の相手。
 ソペリエ・メハイエ(ec5570)は率直に表情を歪めた。
「作った黄泉人たちの手にも余る代物ですからね。ただ暴走するだけの相手とは性質の悪い事です」
 立ち上がる様を、マグナス・ダイモス(ec0128)は見ていた。
 ゴーレムとして作られた形は、負の命に目覚めて動き出すや冒険者たちは勿論の事、製作者であるクシナダたちも潰し、工房を破壊した。
 命令を聞かず、恩も無く。生も死も関係なく目につく相手に襲い掛かっている。
 暴走したアンデッドは制御不能。黄泉人たちは共に動いているが、動きに巻き込まれぬよう距離は図っている。便乗しているに過ぎない。
 そして、羅刹天たちもまた‥‥。
「死してなお、欲望を捨てられぬ者が生んだ悪夢のなれの果て‥‥といったところですかね」
 夢なら何れ覚めるが、現実は放っておけばそのままだ。ゼルス・ウィンディ(ea1661)は改めて、眼前の躯を見つめる。
 距離を置いても、その姿は目立つ。身の隠しようも無く、また隠す気も無い。
 ふらふらと東に進んでいたが、冒険者たちの生気に気付いたか、やおら方向を変えると向かって来た。
 瘴気に惹かれ集った無数のアンデッドたちと共に。
「情勢は複雑だが、一度に全て解決も出来ないな。まずは、目の前の敵を散らそう」
 ヒースクリフは目標を定めると、呪文を詠唱。その姿が消えるや、ゴーレムアンデッドの鼻先へと出現する。パラスプリントだ。
 そのまま戦神の剣をむき出しの骨に叩き付ける。無論、魔法での強化は付与済みだ。刃は跳ね返る事無く、厚い骨に食い込む。
「うっ!!」
 軋む咆哮と共に、アンデッドゴーレムの身が淡い光に包まれるや、生み出された気流がヒースクリフの動きを阻む。
 そして、ゴーレムとは別方向から、稲妻や黒い炎が襲い掛かってきた。
「ったく、手出し無用と伝えといた筈だがな」
 言って、笑うは羅刹天。傍に浮かぶ羅刹女たちも、各々武器を身構え、詠唱の準備をしている。
 そして、さらに後方に蠢くのは埴輪を従えた黄泉人たち。実力の差か、羅刹天たちよりも距離を置いている。
「依頼者は播磨じゃない。こいつが迷惑なのは、どこも同じなんだよ」
 ヒースクリフが答える間にも風を打つ音が響く。とっさに転移すれば、元居た位置を骨の尾が薙いだ。
 羅刹天が居た空にも攻撃は及んでいたが、そちらもうまく逃げている。
「邪魔はさせねぇよ!!」
 誘いこもうとするヒースクリフに、羅刹天が笑いながら斬りかかる。
 そこに稲妻が落ちた。ヒースクリフの援護で羅刹天を撃っていた。黄泉人たちでは無い。
「貴方に色々利用価値があるのは認めますよ。ただ、そろそろ貴方の遊びに付き合うのも飽きてきましてね!!」
 ゼルス・ウィンディ(ea1661)がヘブンリィライトニングを放つ。轟く雷鳴は地をも震わし、羅刹天を直撃する。
「はっ、本気で付き合ってくれるのかい! いいだろう、相手してやるよ!!」
 それでも倒れないのはさすがというべきか。
 だが、効いているのは確実。次で決めようとして、不意にゼルスは目標を見失った。
「どこへ!?」
 視線を巡らすも、相手の姿は無い。
「目の前だよ」
 ゼルスの頭上にはレミエラ効果で小さな雨雲。しとしとと降り注ぐその滴が突如、割れた。
 とっさにディストロイを放つ。重い音を上げて弾けた刃が頬を裂く。
「透明化、ですか」
 目を凝らすも今は動きが見えない。足音までは消えないだろうが、空を飛ぶ相手に期待は出来ない。
 先程はどうやらうまく剣を砕いた模様。砕けた破片が地に散らばる。
 それに混じり。先程まで無かった物が落ちている。どこにでもありそうな小袋からは、白い小さな玉が姿を覗かせており、
「げっ」
 小さな声はどこから聞こえたか。
 居場所を突き止めるよりも前に、ゼルスはそれを拾いあげるのを優先した。
「返しやがれ!」
 声が酷く間近で聞こえた。殺気すらも感じる。
 横合いから衝撃を感じると、体が浮かぶのを感じた。ただ、それは敵の策略ではない。
 危険と悟ったムーンドラゴンのマイヤが主人を拾って一旦逃走に入ったのだ。
 勿論、大きくは逃げない。が、間合いを変えるだけでも状況は変わる。
「ったく、やってくれるねぇ」
 元居た位置では姿を見せた羅刹天が、面白そうに笑っている。
 魔法を叩き込もうと構えるより前に、横合いから黒い炎の邪魔が入る。いつの間にやら、羅刹女たちも取り囲んでいる。
 ヴォルケイドドラゴンのディブラは値踏みするような目でゼルスを見ていたが、不意に目を逸らすと羅刹女の囲みを払いに飛び上がった。


 風と雷が吹き荒れる。岩のような埴輪たちが追いすがる。
 ゴーレムアンデッドは気にかける事無く、目先の餌――冒険者たちに喰らい付いた。
「前は退きましたが、二度はありません。ここで撃たせてもらいます!!」
 フライで飛び回ると、ジャイアントクルセイダーソードで骨を砕くマグナス。即座に反撃が来、氷晶の小盾で防ぐが勢いで弾かれる。
 落ちた所を狙って黄泉人の雷が飛んでくるも、固めた防御でさほどの傷にはならない。
 鋭い牙を並べた口が迫る。空へと逃げると、もう一度剣を構えなおす。
 挑発しながら先導し、見つけた沼地に誘い込む。
 さすがに全面を覆い隠すのは無理だが、そもそも相手はそんな事を気にもしてないようで。
 ぬかるむ地面にゴーレムアンデッドは足を取られ、動きが鈍る。
「こちらの足場も悪くなるので、容易に近づけなくなるがな。‥‥後は任せる」
 カイザード・フォーリア(ea3693)は雑魚たちと向き合う。
 足はゴーレムアンデッドの方が速い。追いついてきた黄泉人たちは沼地でもがくゴーレムをどうにかしようと近付いてくる。
 ブレイブランスを構えると、まず追いついた死霊の類を一撃で薙ぐ。
 元から魔物と戦う為に作り出された品。オーラパワーもすでにかけてある。威力は十分。
 それでも、多勢ではいささか手を焼く。
「他の方に比べると、能力不足であまりお役に立たへんかもしれへんけど、やれる所までお付き合いいたしますえ。あんさんたちも、あんじょう気張ってや」
 ホーリーフィールドで結界を張り、アンデッドたちの動きを阻むニキ・ラージャンヌ(ea1956)。唱えるブラックホーリーも、負の命で動く死人たちには抵抗すら出来ない。
 とはいえ、絶対でもない。特に後方から鉄の埴輪が追いつくと、力任せの一撃で結界を破壊して回っている。そういう命令を受けたのだろう。
 黄泉人たちは、ゴーレムアンデッドと冒険者たちを警戒し、あまり近付いてこようとはしない。自分たちでは考え無い埴輪や死人ばかりが前線に出てきており、動きはどうしても単調になる。
 ニキはペガサスのカルキを飛び回ると、周辺を飛び回り、あちこちで死人たちを引っ掻き回す。

 脳が無いのは、ゴーレムアンデッドも同じ。しかし、こちらはどうやらある程度状況を読んで動けるようだ。
「これでっ! シュトルム!!」
 グリフォンのスカイアを駆り、空から滑空するソペリエ。勢いのままに聖なる御手の剣で狙いを付けるも、ゴーレムアンデッドはそれを躱す。
 騎乗すると、どうしても手綱裁きに制限される。動きを鈍らせているとはいえ、全く動けない訳でない。危険とあれば機敏に避け、そして、苛立たしげに反撃もしてくる。
「酷いですね。髪まで泥だらけになります」
 巻き上げられる土砂が視界を阻む。それ自体に殺傷力は無くとも、隙を見せれば即座に襲い掛かってくる。弾き飛ばされそうになったのを巧みに躱し距離を置き。
 めげる事無くソペリエは攻撃を繰り返そうとする。
「させるな! 生者を落とすのだ、亡者ども」
 声を荒げるのは黄泉人か。自在に飛び回る亡霊がまとわり付くのを、ソペリエは柔らかな眼差しで見つめ、
「邪魔するなら‥‥お相手しますよ!!」
 声を固くすると、目標をそちらに向ける。妄執を吹き消されて消える亡霊たち。その最中にも次が集まる。
「大元を断たねば、呼び寄せられるばかりですか? ひとまずこちらを散らさせてもらいます!」
 高らかに宣言すると、ソペリエは纏まった相手にグリフォンを駆り、突っ込む。


「邪魔だ!!」
 カイザードを中心にオーラが爆発する。効果範囲は広く。すでに傷を負っていた死者たちはばたばたと躯に還る。
 本来、敵味方の区別もなく攻撃するのだが、レミエラの効果で仲間を対象から外せる。気兼ねは無い。
 軋む音を上げて鉄の巨大埴輪が見合った刃を振り下ろしてくる。
 ただ、一撃でとはいかず。ひしゃげた体になった鉄の埴輪が見合った巨大な刃を振り下ろす。ランスで裁くと、即座に反撃。その体に風穴を開けた。
 そうして、群がる追っかけを捌いている間にも、ゴーレムアンデッドの対処は確実に進む。
「これで!!」
 背後に回りこんだヒースクリフが、丸太のような背骨に刃を落とす。
 破壊を目的とした一撃は、鋭く食い込み、破片を撒き散らした。
 軋みを上げてゴーレムアンデッドが仰け反る。
 ばらばらと至る場所から骨片が落ちる。最早動く度にむしろ体を痛め、崩壊を進めるのみ。
「勝負あったようですね、まだやりますか!?」
 ちらりと横目だけで確認すると、ソペリエは群がる命無き者たちに告げる。
「くぅ」
 悔しそうに顔を歪ませるのは黄泉人たち。対し、羅刹天たちは割と平然としている。
「まぁ、大体は分かったさ。‥‥その程度の力じゃあ、どの道何かの役にも立たなかっただろうしな」
「何を!!」
 崩れ行くゴーレムを鼻で笑う羅刹天に、侮蔑されたと黄泉人が声を荒げた。
「羅刹女たちも数を減らされ‥‥。まぁ戦いに散ったなら本望だろうさ」
 配下が消えても笑みは変わらない。まるで何事も無いかのように帰ろうとする。
「行かせると思いですか!!」
 ゼルスが詠唱しようとするが、その前に銀の矢が羅刹天を撃った。
「化け狐たちかいな!? いつの間に」
 見れば、いつ近付いていたのか。化け狐たちが二股尻尾を振り上げ魔法詠唱。各々がムーンアローを放つ。
 しかし、威力が弱いのか。効いていない。
「これなら!!」
 ゼルスがウィンドスラッシュを放つ。わずか顔を歪めた羅刹天の体を黒い光が包んだ。
 直撃する魔法。されど、やはり相手に変化は無い。
「‥‥レジストマジックまでもっとんたんどすか。厄介どすなぁ」
 ニキが顔を歪める。
 その矢先にも、次の動きが出る。いつの間にやら昇り始めていた月の影。戦場のど真ん中、羅刹天のほぼ真下から長壁姫が飛び上がる。
 手にした長刀を躊躇わず、羅刹天に向ける。
 羅刹天はあっさりそれを裁くと、飛び退ろうとした長壁姫を簡単に捕まえた。
「寺でやりあった古狐か。死んだと思って気にも留めてなかったが‥‥。手下が陽動で奇襲結構だが、ただの狐がそもそも俺たちに叶う訳が無いだろう!!」
 羅刹天が不快も露わに長壁姫を捻り上げる。
「させませんよ!!」
 マグナスが転移して羅刹天に迫る。振り下ろした刃を、しかし、羅刹天は長壁姫を盾にしようとする。
 止まった一瞬を見過ごさず、羅刹天からの反撃が入る。
「頑丈だなぁ。面白そうだが、今回は塵の始末を優先するか」
 無傷のマグナスに喜ぶも、その姿が消えた。
「おかげでいろいろ楽させてもらったが、とっくに用済みなんだよ」
 静かな声が告げると、堕ちる長壁姫の姿が炎に包まれた。


 死人憑きや死霊たちは状況の変化を理解しない。生気があれば襲い掛かる、本能だけの存在。
 残されたそれらの処理に追われる隙に、黄泉人たちも何処かへと逃走した。
「結構な数を仕留めたはずだ。逃がしたのがいるのは口惜しいが、あの辺りの戦力は削げた筈」
 自身の手ごたえから、カイザードはそう判断する。
 そして、冒険者ギルドにて。一応依頼主である陰陽師の蘆屋道満への報告となったのだが、
「御苦労。だが、貴重な竜骨をもっと大事に扱ってくれればよかったのだがな」
 ありがたみもさっぱり無い口調で労いをかけてくる。
 倒したゴーレムアンデッドの素材は、沼の泥に沈んだ。また拾われても困るので一応攫えたが、その作業もまた大変だった。
「京を守ったという事で、此度使った補填も折り合いついた。まったく面倒な事ばかりさせおって。感謝せい」
 殴り倒してやろうと思う者もいたが、どうにか留まる。相手と同じ程度に堕ちる必要は無い。
 事の次第を聞いた礼もそこそこ。報酬を渡すとさっさと立ち去ろうとしたが、 
「そうそう、播磨から礼状が届いている。存分な計らいは出来ぬが感謝しておるそうだぞ」
 羅刹天の落とした物は、デスハートンの魂だった。数は三。思い当たって、帰る際に姫路に寄った所、内二つが姫路藩主とその奥方に収まった。
 残る一つは、恐らく亡くなった圓教寺の住職のだろう、と意見が纏まった。
 藩主は魂を戻した事で病床も快癒に向かいだした。黄泉人も司令であるクシナダが消え、残りも散り散り。
「そいでも、羅刹天や羅刹女たちもいつの間にやら姿を晦ませているし。藩主さんたちかてそんなすぐ元気になるんか分かりまへんしなぁ」
 ニキはそっと頭を抱える。
 京はとりあえず平和らしいが、それもいつまで続くか分からない。