黒虎部隊 〜盗まれる死体〜
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 65 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月20日〜11月25日
リプレイ公開日:2009年12月06日
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●オープニング
京の治安は悪い。
古くから鬼を始めとする怪異が横行していたが、近年相次ぐ政変と黄泉人の侵攻で政治もどこまで機能しているやら。
繰り返される破壊と復興は、物の価値を目まぐるしく変える。
安定しない生活に、まだ余裕のある者は少しでも安全を求めて去って行き、残る者もその余裕を求めてただ足掻く。
戦乱の世相と相まって人心は荒び、末端に行くほどその傾向は強くなる。
「働けど働けど暮らしは楽にならず。どころか、事が起きれば職など即座に失う世の中だ。気持ちは分かる」
しみじみと告げるは黒虎部隊隊長。
志士・侍を多数含み、京都守護職直属の精鋭部隊として期待された彼らであっても、平織虎長の死、五条の宮の叛旗と失脚が続き、隊の活動は大きく妨げられた。
隊は瓦解し、迷走のままに確たる目的も無く活動している所へ新撰組の裏切りが発覚。最大手の治安組織が消えた事で、黒虎部隊の価値がまた注目され出しても来ている。
宮に仕える組織であっても、周囲の思惑でかように振り回される。庶民の生活に至っては如何なるものか。
だからといって、その環境に負けて犯罪に走られてもまた困る。
「気持ちは分かるが、治安の悪化をさらに加速するだけだからな」
窃盗・恐喝言うに及ばず、ささいな小競り合いは日常事だ。
止むに止まれずとはいえ、悪行は悪行。しかし、少しでも治安をよくしようと罪を取り締まっても、生活自体が良くなる訳でもない。今の所は堂々巡りだ。
それに、この辺りは正直黒虎部隊としては管轄外になる。彼らの仕事は怪異への対処。人間への関与は別組織の仕事だ。
「という事は、何か動かれる理由が出来た訳で?」
ギルドの係員の問いかけに、隊長は苦い表情で頷く。
「実は最近、その死体を狙って火車が現れているのだ」
二本足で立つ人程ある猫の姿をした物の怪は、嵐と共に現れ、悪行を重ねた人間の死体を奪い去る。何もしなければそれだけだが、死体を奪い去る邪魔をすれば容赦の無い攻撃を仕掛けてくるという。
「生活苦から止むに止まれずでも、悪行を重ねて良いとは思わん。しかし、死んで妖怪に盗られるのは不憫であろう」
悪行に手を染めたからと言って、悪徳の限りを尽す訳ではない。親しい者たちは良き人間としての姿を見せるのが普通だ。
「何より妖怪跋扈など許していては、治安の悪さを露呈しているだけだからな」
残された家族や友人などから連日のように訴えてくる者もいる。
急ぎ調査し、火車が根城にしている場所を発見した。
京都から離れた山の中。瘴気渦巻く朽ち果てた寺に、火車は奪った死体を溜め込んでいた。困ったことに、その連れ去られた死体たちも死人憑きとして起き上がり、さらに多数の死食鬼や死霊侍もいるらしい。
「イザナミの影響か、起き上がる死者には事欠かんからな。雑魚とはいえ多数で手がかかる。だが、多数で手がかかるからと言って雑魚程度にあまり手を裂ける程の余裕もこちらに無い。なので、こちらからは隊士数名を出し、残りを冒険者たちにお願いしたい」
頷くと、係員は冒険者たちへの連絡を始める。
「それと‥‥これは出来れば、でいいのだが。死人憑きたちの持ち物はなるべく持ち帰れるようにして欲しい。アンデッドとなれば倒しづらく、場合によっては完膚無きまで破壊する必要もある。だが、遺品の一つでも返せるなら遺族も喜ぼう」
勿論、あくまでも出来ればの話だ。死者の事情を優先して、生者が食われるのでは意味が無い。
●リプレイ本文
元々治安に不安のある都ではあったが、跋扈する妖怪に死体まで盗まれる世とあっては、民の嘆きも深まろう。
少しでも憂いを掃う為に各組織が奔走するも、何せ事件に事欠かないのが今の京。
「お手間を取らせて申し訳ありません」
黒虎部隊から二名。この件の解決を任されたという彼らは、律儀に頭を下げる。
「お気になさらず。けれど、困りました。この人数でどう致しましょう?」
見回すミスリル・オリハルコン(ea5594)が、おっとりとした口調ながらも困惑する。集まった冒険者は三名。隊士含めて五名で事に当たる訳だ。
勿論、腕には各自覚えがある。
しかし、死体を盗む火車も油断のならない相手。並びに、周辺のアンデッドたちも集まり、盗まれた死体たちも起き上がっているとか。
多勢を相手にするには、少々心許なく感じる数ではある。
「とりあえず、人数の不備は彼らも動員して補いましょうか」
ラピス・ブリューナク(ec4459)が睨みを効かす先には、ドラゴンのドラドラがじっと主を見据えている。本来、場の雰囲気を気にしないはずの陽精霊・ピカピカすら、その剣呑さが気になるのか、ラピスの周囲から離れない。
それでも、戦力としては申し分ない。
「やはりそうなりますね。折角の戦力を置いていくのは油断になるかもしれませんし‥‥。不甲斐無い主でごめんなさい」
危険な目に合わせるのは不本意なのか。ミスリルは自身のペットに丁重に詫びを告げる。
「それで。居場所や状況が分かっているという事は、ある程度は周辺の地形なども分かっていると見ていいのだな?」
雀尾嵐淡(ec0843)が尋ねると、隊士たちは一つ頷き、用意していた地図を広げる。
まずは紙面で確認を取りながら、大まかな作戦を決める。
●
場所は京から離れた山の中。所在が近くになる連れ、向こうに気取られる危険も高く、移動にも気を使う。
「冬は嫌いなんですけどね。出かけるにも荷物が重くなって叶いません」
京の盆地はまさしく底冷え。ラピスは白い息を吐き出す。雪が無いだけまだマシか。
冷たく吹きすさぶ風に、少しずつ異臭が混じり出す。
隊士の話では、京を出る際には火車が現れたという報告は入っておらず。故に、拠点にいるはずという。
しかし、京にいないだけで火車が拠点で待ってるとも限らず、また集ったアンデッドの動きも無視出来ない。
なので、まずは嵐淡がペガサスの黎明で乗り込み、デティクトアンデットで状況を確認する。
「似た大きさのものがうろつき回って数えにくいが、大体三十を相手にすると見ていい。今ならこっちに気付いた様子も無い」
嵐淡の力量なら距離も開けて感知できる。
「だったら、ここでグダグダ話しあうより、さっさとケリをつけましょう」
告げるや、ラピスはドラドラの背に跨る。移動の為というより、不意に襲われたりしないようにという安全性からだ。
「さあ、行きますか!」
ラピスの指示に、不承不承といった風情でドラゴンはアンデッドに向かっていく。
朽ち果てた寺の周囲はアンデッドが屯している。何とも言えない表情でふらふらと彷徨っていた亡者たちは、近付く生気に気付くや、一斉に惹かれて集まってくる。
死人憑きは血の気が失せた以外は普通の人のように思える。まだ新しい‥‥最近死んだ者がほとんどだからか。
死食鬼は見た目は死人憑きのようだが、鳴らす歯は鋭く尖り、獲物を見る目で迫ってくる。
死霊侍などすでに骨だけの身でありながら、戦意をどこに覚えているのか。さび付いた剣を力強く握り締め、向かってくる。
「薙ぎ払え!!」
十分ひきつけると、ラピスは躊躇無く命じる。応えて、不満を晴らすようにドラゴンが息を吹き出す。
火炎にも近い熱風が周囲を吹き荒れ、間近で浴びたアンデッドたちは干物の体からより一層水分を失い、四肢が砕け飛ぶ。
「ビャクヤ、回復役はお願いしますね」
ペガサスを空中で待機させると、ミスリルは戦乙女の斧を構える。
「シャアア!!」
死食鬼が奇怪な音を上げ、牙を向ける。
肉を食い千切ろうとするその動きを、しかし、ミスリルは敢えて体で受ける。
急所は逸らし、さらに嵐淡が事前にレジストデビルもかけていたので、傷は僅か。
むしろ、近付きすぎて相手が身動きできぬその好機に、戦斧を容赦なく叩きつける。
鳥の翼のように優雅な外見とは裏腹に、その威力も隊士たちの魔法やらで強化されている。重さによる威力増加も手伝って、死食鬼の身が真っ二つに裂けて地面に落ちた。
「やはり、斧は無骨ですわねぇ。普段は剣か槍が多いのですが‥‥。斧に合わせて兜も揃えてみましたの。いかが?」
「いや、それを聞かれても‥‥」
戦乙女の兜に、隊士が苦笑する。その様に、ミスリルも柔らかい笑みを浮かべる。
「大丈夫。状況はちゃんと分かってます。斧にしたのも、こういう突きが効かない相手に対処する為です」
かちゃりと軽い音を立てて近付いてきた死霊侍に、一撃。
骨ばかりの相手は下手に突くと、刃が隙間に素通りするだけ。なので、斧なのだ。叩きつけられた刃は小枝の如く肋骨を砕いていく。
嵐淡はホーリーライトでアンデッドたちの動きを阻む。聖なる光を嫌い、アンデッドたちの動きも乱れる。なるべく一箇所にアンデッドを纏め、行動範囲を制限。戦いやすいよう、仕向けていたが、
「気をつけて! 寺の中に動きが!!」
言うが早いか。
寺の襤褸戸が内側から蹴り飛ばされるや、暴風が吹き荒れた。近くにいた屍たちが煽られ、転ぶ中、冒険者たちは踏みとどまる。
「フニャアアアア!!」
猫が喚いた。人のような大きさをしており、二本足で歩き回る。恨みに充ちた目で冒険者らを睨むと、爪を立て斬りかかってきた。
「つっ!!」
躱す隊士だが、その空を斬った爪先は炎を生み出している。掻き傷に加え、火傷まで負わされるのはたまったものではない。
「退いて下さい!!」
隊士に合図すると、ミスリルが斧を振るう。
さすがにそれは厄介と思ったか、火車は間合いを詰められる前に大きく空へと逃れてしまった。
「そちらに行ったのでしたら、むしろ好都合ですよ」
味方を巻き込む心配も無く。
空中で威嚇していた火車に向けて、ラピスがアイスブリザードを放つ。
凍える吹雪が火車を直撃。しかし、思ったよりも傷は浅い。
「風魔法‥‥レジストコールドを使ってるのでしょうか」
冷静にそう判断すると、次の手を考える。
「空からいられると面倒ですね。地面に落としてもらう方が手が増えます」
群がる屍を押しとめながら、ラピスが告げる。
「分かってる」
ペガサスで上がった嵐淡が、火車のさらに上空からホーリーライトで照らし出す。
「ニャニャ!!」
外見猫でもアンデッド。聖なる光を嫌い、とっさに逆方向に――地上へと飛び退く。
「逃がすか!!」
そこを隊士の一人が捕まえ、地上へと引き釣り下ろす。
「フニャ!! ウニャ‥‥ニャア!?」
体勢崩して転がった火車は素早く置きあがろうとしたが、途中でその動きが止まる。嵐淡がコアギュレイトを仕掛けたのだ。
「止まっているなら、逃げようが無いですねぇ?」
哀れみの眼差しでミスリルは、素早く祈りを捧げ、火車へと斧を振り下ろした。
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残る死人たちの始末も、ラピスの吹雪で大半を始末すると、残りも個々がさしたる苦もなく元の屍に戻していく。
「いい加減気を静めなさい。あなたも氷漬けになりたいのですか?」
倒れた死体はもはや蠢く事もなく。
戦闘の興奮が冷めないのか、唸り続けるドラドラに、ラピスは冷たい眼差しを贈る。思えば、これが一番厄介だったかもしれない。
念の為、残ったアンデッドがいないかを確かめてから、隊士の一人は先に京に戻った。
散らばった屍たちを放置しっぱなしには出来ない。死肉に惹かれて、またどんな奴が群がるか。
返せる遺体は遺族に、そうでないならやはり一応どこかの寺に引き取ってもらった方がいい。
やがて帰ってきた隊士は、人手も連れていた。
戦闘で散らばった体も一つ一つ丁寧に拾い集め、寺の中にも残った遺品が無いか、入念に調べている。
「起き上がったのは彼らとて不本意だろう。この先、もう化けて出たりせぬようにな」
山になった遺体に向けて、嵐淡が読経する。
静かな祈りを邪魔するものはいない。遺体もただ荷車に揺られ、冒険者らと共に帰路についた。