霧と共に

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月29日〜12月04日

リプレイ公開日:2009年12月09日

●オープニング

 山の形や川の流れ。地形の関係上、その辺り一帯ではこの時期の早朝、濃い霧が発生する。
 風も無いまま周囲に留まり、視界を閉ざし、音を奪う。
 長い時には、昼辺りまで晴れない事も。
「暮らす者には慣れっこだったから不都合無かったようだが‥‥。ただ、最近はただ面倒とは言えん事態が起きている」
 説明するギルドの係員の表情が暗くなる。
 朝、霧が発生する。閉ざされる視界に混じり、雪狼が村に入り込むようになった。
 村人たちは長くその土地に住むが、過去にそんなものの目撃例は無く。恐らく最近の騒動で棲家を移動し、流れてきた奴らだろう。
 雪のように真っ白な妖狼は、雪山や吹雪の夜に現れると言われる。霧の朝に出るとは珍しくもあるが、ここ最近の冷え込みを思えば動き出しても不思議ではない。
 雪狼はほとんど音も無く侵入すると、食料を荒らしまわる。気付いて倉庫を頑丈に封鎖すると、今度は村で襲い安そうな家に押し入るようになった。
「すでに何人かが食い殺された。調子に乗っているのか、だんだんと手口が大胆になっている」
 始めは入り安そうな家を狙っていたが、どの家も戸締りが厳重になってくると壁を蹴破ってでも襲撃にかかる。
 勿論、そんな事をすれば騒音も起き、居場所が一発で分かる。
 しかし、霧で視界は効かない。音や臭いで周囲を判断するなら、野生の雪狼の方が上だ。
 村人たちが助けに行こうものなら、相手の方が先に気付いて逃げられる。あるいは待ち伏せられ、助けに行ったつもりが逆に腹に納まる事になる。
「奴らがどこから来るのかは分からない。霧が晴れそうになると素早く撤退する。紛れて行動する上、そもそも雪狼は倒すに難しい相手だ。村人の手には余る」
 一気に倒してしまわないと、たちどころにその体は傷を癒してしまうのだ。
 ただ、雪狼と言われるだけあってか、火や熱の傷はなかなか治せないようだ。
 しかし、街中と比べて隣家まで適度な間があるような田舎の村でも、火のついた獣が走り回るような事態になっては危険極まりない。
 霧で湿気てるとはいえ、万一山にでも燃え移れば、妖怪騒ぎどころでもない。
「おまけに。踏み込まれた跡からして、どうやら群れで行動している。その数も正確に何匹いるかは不明。多く取り逃がす事になっては、またどこかで被害が起きる可能性が高い」
 殺るなら一気に殺る必要がある。
「難しいかもしれないが、やってくれる者はいないだろうか」
 居並ぶ冒険者たちを前に、係員からの説明は終わる。

●今回の参加者

 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea5594 ミスリル・オリハルコン(30歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文


 気温もまだ上がらぬ早朝。
 霧が発生すると聞いた通りに、周囲はあっという間に白く閉ざされた。昇ったばかりの太陽がぼんやりと霞んで見える。
「本当に酷い霧。冷えますねぇ」
 村の外。焚き火を起こして料理中。
 纏わり突く水滴に、ミスリル・オリハルコン(ea5594)は身を震わせ鍋をかき回す。
 ニキ・ラージャンヌ(ea1956)の用意した強烈な匂いの保存食のおかげで(せいで?)、何とも言い難い臭いが立ち込めている。
 霧にも負けないその芳香は、お客を間違いなく呼び寄せてくれるだろう。
「問題はいつ来て下さるか。そろそろの筈ですが‥‥」
 持ち込んだ食材も美味しく仕上がっている。あまり煮込みすぎて焦げでもしたら勿体無い。
 事が済んだら皆で食べようと腕によりをかけた品。
 自分一人で食べる気にはなれず。暖を取る傍ら、火加減を調節していたが、
「来ましたえ。合計八匹。ミスリルさんの周囲を取り囲んどります」
 上から、ニキの声が届く。ペガサスで空から索敵を行っているのだ。
 ちらりと居そうな場所を見るが、姿は霧に阻まれ見えない。
 それでも、ミスリルは慎重に手にしていた調理器具と武具を持ち返る。
「来ますえ!!」
 声と同時に、霧が動いた。
 割って出てきたのは雪狼。食いつかんと飛び掛ってくる。
 村に入り込み、多大な被害を出してきた輩。
 これ以上は自由にさせぬと、ミスリルが囮となり、村へと注意が行かぬよう誘き寄せたのだ。
「どうやらこちらに注意が向いとるようどす。今の内に!」
「ええ。一撃で仕留めます!!」
 雪狼の治癒能力は恐ろしく高い。倒すには炎で焼いて傷を再生させないか、一度に死亡まで持っていくかだ。
 鋭い牙を躱さず、急所だけは庇ってミスリルは攻撃を受ける。僅かな傷程度では防御は揺るがない。
 寧ろ、接近の機を狙ってすかさず戦乙女の斧を叩き込む。重い一撃で、見事に白い毛皮が真っ二つに裂かれた。
 だが、現れる雪狼すべてにまで対処しきれない。
 餌を狙い、別方向からも一斉に飛び掛ってくる雪狼。しかし、ミスリルに噛み付く前に、気塊に阻まれる。オーラショットだ。
 鼻先を掠めたそれに驚き、雪狼が退く。
 一匹がやられ、また別の得たいの知れない攻撃を受けた。
 どうやらいつもと勝手が違うと悟ったか、他の雪狼も身を退いた。
 その僅かな動きだけで、あっという間に霧に飲まれ、見えなくなる。
「逃しましたか」
 尋ねるようなコルリス・フェネストラ(eb9459)の声は、上空から羽音共に聞こえた。
「でも、まだ囲んどります。油断したらあきまへん」
 ニキの声は揺るがない。正解を告げるように、低い唸り声が霧の奥から届く。


「村の方の様子は?」
「私の把握できる範囲では、変わりおへん」
 耳を澄ますが、そちらから騒動らしき気配は無い。
 村民たちは被害が及ばぬよう、避難してもらっている。家屋の補強はコルリスも手伝った。市場で木材を仕入れて持ち込んでまで、雪狼に対抗できるよう強化したのだ。
 なるべく頑丈になるように作ったので、まず大丈夫と踏んでいるが、過信もまた禁物。
「大丈夫そうなら、さっさと片を付けるに限りますね。位置の詳細は?」
「近くにいる順から、西に二匹、北西に一匹、東南東に三匹、南南東に一匹ってとこどすな。群れの主を叩けたら楽そうどすけど、大きさからでは推測つきまへんなぁ」
 霧に紛れても、デティクトライフフォースには関係ない。
 とはいえ、分かるのは大きさや数、位置関係。群れの中でどういう力関係があるのかまでは、今の所よく分からない。
 動きがあれば、何か分かるかもしれないが、とりあえず今は分かる範囲の情報を伝える。
 そのニキの言葉に従い、コルリスが動く。
「行きますよ、ティシュトリヤ!」
 手綱をしっかり掴むと、コルリスは霧の中を上空から飛び込む。
 先は見えない。下手に降りれば、地面に激突するがそこは腕前でどうにか凌ぐ。
 グリフォンの羽ばたきに霧が動く。動かぬ白い影を見、コルリスは火尖槍を叩きこむ。深紅の槍はバーニングソードの魔力を宿している。
 刃先に纏う炎は狙い違わず雪狼を襲った。
「ギャイーーン!!」
 槍に貫かれ、雪狼の憐れな悲鳴が響く。とどめは誰かに任そうと考えていたが、その必要も無い。
「もう一匹!!」
 続けて、槍を投げつけたが、相手はさっと霧に消えた。
「上昇!!」
 追わずに空へと逃げる。
「足元や!!」
 ニキの声が届き、とっさに槍を突き下ろした。
「ギャウ!!」
 先端は霧に埋まる。だが、手ごたえと叫びで確信する。
「ミスリルさん、東北から三匹!」
「多いですわね!!」
 言うが早いか、迎え撃つミスリル。
 空の敵は狙えないので、ミスリルに雪狼たちの動きが集中している。さすがにミスリルにも荷が重い。
 ミスリルに飛び掛る、一体、二体。
 その三体目に向けて、ニキはブラックホーリーを放つ。
「キャン!!」
 悲鳴は聞こえ、気配が遠ざかった。しかし、生命反応は途絶えない。
「強化しても仕留められまへんかぁ‥‥となると、傷も塞がれてしもてますなぁ」
 粉々に砕けた落ちたる星の欠片を捨て去ると、ペガサスのカルキを操り、位置の把握に努める。


 視界を阻まれ状況は悪い。ニキの指示で動くも、やはり見える見えないでは勝手が違う。
 多少手間取りながらも、確実に仕留めていく。
 そして、コルリスは雪狼を仕留める。
「これで! 残りは!?」
 声で数が減ったのは分かる。おそらく後一匹か二匹と思うが、この霧ではその把握さえ難しい。
「山の方角に二匹、逃走しよります! それらが最後どす」
「分かりました」
 そして、ニキの切羽詰った声が響く。
 コルリスはティシュトリヤの鼻先をそちらに向けると、後を追う。 
「ビャクヤ、お願い!!」
 ざっと霧を分ける様に、上空で待機していたミスリルのペガサスが舞い降り、背に飛び乗る。
「どこに!?」
「方角あっとります。真っ直ぐ」
 ニキの言葉に迷わず駆ける。
 山手に行けば当然木々も増える。視界を閉ざされたままで飛ぶのは危ないが、この際仕方無い。
「真下に!」
 言われて、コルリスが急降下する。
 見えた影を的確に槍で貫く。
「ギャオ!?」
 追いついた敵に驚いたか、残る一匹はさらに方向を変えて走り去ろうとする。
 が、その上に油が降り注いだ。小さな火種が放り込まれると、瞬く間に毛皮が火で包まれる。
「ギャオオオン!!」
 憐れな雪狼の鳴き声が木霊し、火を振り払おうと滅茶苦茶に暴れ出す。
「無理はせんでええんどすえ」
「でもいい目安です」
 ニキの元に、火霊アグニーニが慌てて戻ってくる。
 油を撒いたのも彼女の仕業。火は鍋の焚き火から失敬し、ファイヤーコントロールで操ったようだ。
 仕出かした結果に驚いている火霊にニキは呆れ、コルリスは霧の中に灯った灯りに苦笑する。
「残すとまた悪さをしますから‥‥逃がす訳には行かないのです!」
 油を撒いたとはいえ、致死に至らせるほどの火力でもない。
 混乱し、騒ぐ相手にミスリルは地上に降り立つ。戦斧を構えると助走をつけ、一気にその威力を喰らわせた。


 その日、霧が晴れたのは結局昼近くになった頃。
 ニキを中心に周囲を見回り、取りこぼしが無かったかを確認。危険は無いと判断したものの、霧が晴れるまではまだ気を抜かなかった。
 辺りの景色がゆっくりと浮かび始め、動きまわる分にはようやく村人たちも外へと出てくる。
「異常無し、どすな」
 目でも確認した後で、ニキはほっと胸を撫で下ろす。
「でも、後で食べようと思っていたお鍋は引っくり返ってましたわ。保存食も台無し」
 ミスリルが残念そうに空になった鍋を持つ。
 それを見た村民たちが笑顔を向ける。
「霧で濡れたままでは冷えるでしょう。温かい物もご用意しますのでいかがですか?」
 せめてもの礼に招かれる。
 村を襲っていた脅威。
 霧が収まると共に、その憂いもまた晴れたようだ。