お化け鼠と猫神さま
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:02月06日〜02月11日
リプレイ公開日:2005年02月14日
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●オープニング
その昔。村を鼠が襲った。
それも普通の鼠でなく、身の丈が人の半分ほどあるお化け鼠。数も半端でなく、たちまち村は鼠に埋め尽くされた。
鼠たちの食欲は凄まじく。そのままでは村は草の根一つ、骨の欠片も残らぬ程に喰い尽されただろう。
だが、そこに現われたのは一匹の猫だった。
明らかに通常とは異なる大猫が颯爽と現われたかと思うや、鼠たちを食い散らし追い払い――そして、鼠たちは逃げ去っていった。
鼠たちが消えると同時に、猫もまた消え失せていた。だが、人々の記憶までは消せはしない。
村人たちは村を救った猫に深く感謝し、猫神さまとして村に神社をたて、長くこれを護った。
「そして、時は過ぎて現代。恐ろしい事にまたあの鼠たちが村を襲おうとしているのです」
冒険者ギルドに訪れた青年は、ギルドの係員に青ざめた顔を見せた。
村の傍にある山の中腹にて。長くうち捨てられた寺があるのだが、そこにお化け鼠たちが住み着き数を増やしていると言う。正確な数は分からないが、かなりの数になるらしい。
おりしも季節は冬、食料が乏しい季節。増えた鼠たちは餌を求めてあちこちと赴き、そして村を見つけた。
最初現われたのは一匹。そして、次に現われたのは二匹。その次は五匹‥‥。
いずれも何とか撃退できたが、これ以上増えては村人たちでは対処しきれない。いや、万一寺にいる鼠すべてが集団で村を襲って来たらひとたまりも無い。
この未曾有の危機にどう対処すべきか。村人たちはすぐに対応を考えようとした。
「しかし、その矢先の事です。村に猫神さまが現われたのです!!」
猫神は社のお供え物を齧っていたお化け鼠を叩きのめした。それだけならまだしも鼠に齧られても傷一つ負わず、そして、その姿は人のような猫のような不可思議な姿だったと言う。
「輝く金の毛並み、雄雄しき爪、鋭い牙。ああ、本当に伝説通りの素晴らしいお方でした」
涙流して感動する村人だが、反面、係員は首を傾げる。
果たして、そういう神さまがいただろうか、心当たりが無い。まぁ、ギルドに所属するとはいえ、広い日本全ての知識を網羅できる訳でなく、ま、そういうのがいてもいいのかもしれない。
「ありがたくも猫神さまは寺に鼠退治に向かわれるとの事。しかし、あれだけの数をお一人でとなると大変でしょう。手助けいたしたいのですが、我々では何分力不足。なので、冒険者の方にお供して付き添っていただきたいのです」
悪い依頼では無いだろう。万一、その猫神とやらが何らかの妖怪で村人を騙そうとしているのであっても、後に対処しやすくなる。
係員は一つ頷くと、依頼募集の書類を作成し始めた。
さて。江戸にて係員が冒険者募集の依頼を書いている頃。猫神がいる村はと言えば‥‥。
「だーかーら。人違いっつってんだろっ!! 俺は神さまなんかじゃねえ!!」
村長宅の大広間にて。上座に座布団重ねて座らされているのは一人の青年。目の前で平伏している村人らに対し、口汚く怒鳴りつけている。
「いやいや。その我々とは少々異なる顔立ちに神々しいお姿。まさしく猫神さまに間違いございますまい」
「出自が外国で、髪が茶髪なだけだろ。江戸に行きゃゴマンといるぞ」
「鼠に齧られてもびくともなさりませんでしたし」
「頑丈なだけでい」
「先程はまさしく猫のお姿でしたし」
「あれは‥‥‥‥手品だ手品、うんそうに違いない」
冷や汗たらりと垂らしながらも青年は告げる。きっぱり否定されて、村長始めとして村人たちは深く感心して頷く。
「そうですか。何やら事情がおありなのですね。それならば、我々もあなた様が猫神さまだとは秘密にしておきましょう」
「根本的な所を間違えたまんま納得してんじゃねぇ!! ‥‥あー、もう付き合ってられっか」
怒鳴り疲れて頭を抱えると、青年は一つ嘆息して立ち上がる。そのまま、部屋を出て行こうとしたのだが。
「危のうございます、猫神さま!!」
どごぉ!!
村人たちが一斉に立ち上がったかと思うと、全員が全力で青年を引き止めにかかる。青年は数に負けて押し倒され、したたかに頭を床に打ち付けた。その上に勢い余った村人たちが重なり山となる。
「一刻も早く鼠どもを退治せんとする猫神さまのお気持ち、ありがたく思いまする。しかし、御身に万一の事があってはなりません。今、江戸に若い者を走らせ腕の立つ者を用意させております。彼らが到着するまでしばし我慢の程を‥‥っ!!」
お山の天辺。苦渋に満ちた顔で村長が告げると、その下にいる村人たちも大きく頷く。
「ここが嫌で出て行こうとしただけだっつうの!! おら、重いぞ!! 大体神だって言うなら、いつまで下敷きにしてんだ、うぉらぁ! バチ当てられたいか!!」
「皆の衆、聞いたか!? やはり、この方は神さまだと認められたぞ!!」
「「「「「おおー! ありがたやありがたや!!」」」」」
「揚げ足を取るなーーーーーーッ!!」
青年は怒鳴りつけるも、その声は感涙に咽び手を合わせてありがたがってる村人たちの耳には届いていなかった。
●リプレイ本文
村の傍にある山の中、朽ち果てた寺がある。そこにお化け鼠たちが住み着き始めたのはいつの頃やらか。気が付いた時には結構な数になっており、最近は麓の村にまで顔を出すようになっていた。
食べ物の無い冬。小さな鼠に食料を食い荒らされるだけでもたまった物ではないのに、それが大きなお化け鼠となればまさしく村の危機となる。
だが、天は村人を見放さなかった。遥か昔、やはりお化け鼠の脅威に晒された際と同様、村を助ける猫神さまが現われたのだ。
猫神さまは、お化け鼠を退治せんと山に向かい、その供として冒険者たちが付き添う事になった。冒険者を引き連れ、いざ猫神はお化け鼠退治へと出発する。
「村の人から色々聞いたけど、変な神さまもいたもんだね」
暢気に歩きながら、二条院無路渦(ea6844)はその神さまとやらへ視線を送る。村人が聞けば気を悪くする事間違いない台詞だが、付き添う神様自身も同意したい所らしい。素直に頷かないのは、彼が無路渦自身にちょいとこだわりがあるからで。
「‥‥猫っていうから、そうじゃないかとは思ったが。やっぱりにゃんこ野郎か」
「にゃんこはやめろ。何か可愛いぞ」
猫神の正体見たりて何とやら。正体は以前化け猫芝居で顔を合わせた青年で、環連十郎(ea3363)はやれやれと肩を落とす。
「猫さんは‥‥猫さんですね?」
村の入り口に、涙流して見送ってくれた村人たちの姿がまだ見える。それを眺めた後に、彼らが実にありがたがっている猫神を見つめ、小都葵(ea7055)は小首を傾げる。
どっからどう見ても、よく見知った異国の青年でしかない。――まぁ、普通じゃないのは確かだろうが、神様にもちょっと見えない。
「ああ、そうだよ。俺は俺で俺なんであって、別に神様とかじゃねぇし、そういう手助けする気もさらさらねぇから、そういう訳で後はよろしく。それじゃあさよなら」
「早ッ!?」
不機嫌そうにそれだけ告げると、村から見えなくなった事に気付き、青年は早々とどこぞへ立ち去ろうとする。
「そんなぁ、待ってくださいよぉ〜。久しぶりに会えたのに酷いじゃないですか。会えなく寂しかったんですよぉ」
「そうだよぉ。噂には聞いてて会いたいと思ってたのに、会ってすぐにさよならじゃ寂しいよね」
「だー、寄るなすがるな、いいから離れろ!!」
歩きかけた青年にティーレリア・ユビキダス(ea0213)がすがりつくと、フィン・リル(ea9164)も襟首を掴んで引き止める。
「いろいろと大変な目に合ったようですが、これも何かの縁。我々に力を御貸し願えないでしょうか」
「やなこった」
超美人(ea2831)が頭を下げるも、返事は即答。取り付くしまも無い。
「依頼料はきちんと払うぜ。それに、上げ膳据え膳で悪い気はしなかっただろう? だったら、ちっとばかり手を貸してくれても‥‥」
連十郎が告げる途中、青年からぎりりと凄い目で睨まれる。
「あのなぁ。日がな一日、爪の先まで全ての行動に注目されてみろ。悪意があろうと無かろうと、ああまで監視されてちゃ窮屈以外の何物でもねぇ。それがいいと言うなら、今からでも猫耳つけて村で神様名乗ってみろ。すぐにいろいろとしてくれるぞ。あーそりゃもう、いろいろと!」
「‥‥いや、悪かった。悪かったから落ち着いてくれ」
据わった目で顔を近付けて来る青年に、連十郎、慌てて態度を取り繕う。どうやら、本気で村での待遇はお気に召さなかったらしい。行き過ぎた善意も困り物という訳だ。
「まぁまぁ、落ち着いてくれよ。そもそも、村人を助けたのは見捨てたくなかったからだろ。此処で見捨てたら後で気まずいと思うぜ」
それに、と、行木康永(ea7786)が言葉を続ける。
「実は、この依頼が終わったらノルマンに行くつもりなんだよ。異国の地に赴く俺への餞別って事で、一つ、頼まれてくれねぇかな?」
この通り、と康永は手を合わせる。ちなみに行きつけのお店でも挨拶したのだが、その際の一言に、「がめついとは何だー」と怒られた様子。それでも、買い物の量は少しおまけしてもらえたようだが。
渋い顔でそれを見ていた青年だが、やがてため息一つ。
「別にそういう気で村の奴を助けた訳じゃないけどな。ま、お前さんとは付き合い長いし、餞別という事なら仕方ないか」
でも、報酬はしっかりもらうとの事。がめつい奴だ。
「これで戦力も増えてめでたし、めでたし。‥‥なんだけど。少々気になってる事があるんだよねぇ。村のお供え物を齧ってた化け鼠を叩きのめしたって話。もしや、あんたもそのお供え物を狙ってたなんて事は無いよねぇ?」
「な〜に、言ってるんだよ。困ってる奴にほどこすのが、神さまの務めって奴だろ?」
ちらりと意味ありげに御堂鼎(ea2454)が青年に笑いかけると、青年もまた同じような顔つきで面白そうに鼎を見つめる。‥‥どうやら、そう言う事らしい。
山の中腹にある廃寺。至る道も草木に埋もれ、村人から聞いた道順を頼りにようやくたどり着いた時には結構な時間が経っていた。
「へぇ、本当に猫なんだね」
「耳で遊ぶな」
極普通に見えた青年だったが、今は変化し、人型の猫になっている。頭に腰掛けていたフィンが珍しげに耳を引っ張ると、うるさそうにパタパタと上下する。作り物ではありえない。
「干支の因縁今ここに、って奴かい? ますます面白くなってきたねぇ♪」
「どういう因縁かはよう分からんが。戦うなら爪が使える分だけ、こっちの格好のが便利なの。単にそれだけ」
楽しそうにくつくつと笑う鼎に、目を細めた猫が告げる。
「そう言えば。怪我はしないようですけど、噛み付かれて痛くないのですか」
小首を傾げる葵に、しっかり猫は首を横振る。
「いんや。穴が開かないだけ、しっかり痛い。だからってごてごてに着飾るのも何か馬鹿らしいし」
「おや、それはうちに対する当てつけかい?」
囲まれてもいいように重装備をしてきた鼎が皮肉気に返す。
「静かに。あそこにいるぞ」
軽口叩く彼らへ、美人が素早く静止を入れる。指し示すその先に、なるほど、鼠たちが動いている。棲家にしているボロ寺を中心に、ちょろちょろと縦横無尽に走り回っていた。
「手筈はすでに決めた通り‥‥でいいのだが。しかし、あんなデカイ鼠とは思わなかったしなぁ」
目の当たりにするお化け鼠に、連十郎は渋い顔をする。普通の鼠はせいぜい掌程度だろうが、目の前の鼠たちは、小さな子供ぐらいはある。一体一体は弱そうに見えるが、それが何十匹といて、戦闘となれば集団でかかってくるだろう。それを告げると美人がしみじみと頷く。
「数の多さは侮れない。だが、自分を信じて刀を振るうだけだ」
村を護ったという猫神に会ってみたい――勿論本物がいれば、だ――とも思う美人だが、だからと言って期待している訳でも無い。元より伝説の真偽は分からない以上、頼りとなるとなるのは己の腕とばかりに、腰の日本刀を握り締める。
鼠たちを騒がさぬようさらに注意しながら移動し、程よい場所にて囮となる餌をばら撒く。携帯している保存食の他に、色々買い込んだ物も供える。また、手伝い二人が野菜屑などを集めるのに奔走してくれたおかげで、十分な量が確保できていた。
そのまま周囲に隠れて過ごす事しばし、餌に気付いたお化け鼠たちが一匹、二匹と姿を見せ始め、あっという間に辺りに集り出す。
がさがさと食い荒らしていた鼠たちだが、ふとその動きを止めると一点に注目する。
見ればボロ寺の方角、煙が立ち昇っている。立ち込める煙に燻されて、残るお化け鼠たちが慌てて逃げてきていた。
「じゃ。そろそろやっつけようか」
「それでは、行きまーす」
機を見計らい、無路渦がディストロイを、ティーレリアがアイスブリザードを放つ。突然の魔法攻撃に驚いたお化け鼠たちが逃げ惑う間に、リトルフライで浮かんでいた連十郎が空から網を投げ放ち、動きを留める。
とはいえ、それで全てを賄える訳で無い。撃ち漏らしたモノ、網から逃れた鼠たちへと順に冒険者は斬りかかる。また、捕えられてうろたえていた鼠たちも、逃げ出そうと網を食い破ると穴から流れ出てくる。
「やれやれ。これではもう使い物にならないな」
ボロボロになる網に、連十郎は小さく嘆息する。
「猫さんはティーさんが詠唱出来るよう護衛をお願いしますね。早く済めばその分早く開放されると思いますから」
「そんな事言ったら、何かゆっくりしたい気分です‥‥」
葵の一言に複雑な心境に陥りながらも、ティーレリアは再び詠唱を繰り返す。
「ま、言われなくても前には出ないさ。また撃たれるのは御免だし」
「‥‥先にごめんなさい言ったのに」
「それで済むと思ってんのかー!!」
いじけて告げる無路渦に、猫が怒鳴りつける。以前の依頼で、無路渦に芝居と言いつつ、ディストロイを振舞われたのは根に持っている模様。もっとも、猫が怒る声もどこにやら。無路渦は聞く耳無しでさっさと終わらせようと鼠の群れに飛び込み、鞭を振るっていたが。
葵もまた短刀・月露を抜いて自衛に務める。が、攻撃に殺気だったお化け鼠たちが手当たり次第に反撃を仕掛けてくる。
特に剣技に長けていない葵では捌ききれない。あわやの所で、横から伸びた剣がお化け鼠を叩き伏せる。
「友人の心配もいいが、回復役に倒れてもらっちゃ困るぜ」
「とはいえ。こうまで多いと魔法で治療する暇はありませんけどね」
リカバーは接触せねば治癒は出来ず、この混乱の中を突破して詠唱するのは至難だろう。苦笑する葵を後ろに、連十郎は盾となって明王彫の剣を振るう。
「予想通り厳しいな。もっと狙いを正確にせねば!」
数で押す敵には最近当たったばかり。その時の教訓を思い出しながら、顔を顰めて美人はリカバーポーションを飲み干す。確かに有効打は当てられているのだが、一体を刻んだ隙に別の一体が忍び寄り、鋭い牙で噛み付いてくるのだ。厄介としか言いようが無い。
対処としては数を減らせばいいだけの話だ。そう思い、美人は懸命に刀を振るう。
「ったく、ちょろちょろと。数が多くて鬱陶しいったらありゃしない!!」
鼎が大斧の重みを乗せた一撃は、確実に鼠を屠る。だが大振りとなってしまう攻撃は、避けられる事もままある。腹いせに噛み付かれた所で、大鎧が鼠の牙を防ぎ鼎の身に届く事は無いものの、絡まれて動きづらくなるのは否めない。
一匹のお化け鼠が鼎に圧し掛かる。踏ん張って転倒は免れたが、崩れた体制にさらにお化け鼠たちが群がってこようとする。
「こら! キミたち離れなさい!!」
顔を歪めた鼎だったが、迫るお化け鼠にフィンの投げた雪球がぶつかる。チィッ、と小さく鳴いて顔を背けた鼠に、鼎は一撃を食い込ませた。
腕力は心もとなくとも、立派にがんばるフィンだった。
「ほら、お前らこっちだぜ!!」
康永が群れの中に飛び込み、鼠たちの注意を惹き付ける。フレイムエリベイションで高めた動きは、鼠たちの攻撃を軽々と躱していく。素早く動いて鼠たちを翻弄させると、そちらに注意を惹かれた鼠たちが別の冒険者らに屠られていく。いつもの戦法と康永は自嘲するも、少なくとも今時分有効である事は変わり無い。
「でも、時間かけすぎると逃げられちゃいそうだね。後を考えると一匹たりとも逃したく無いけど」
ひょいひょいと身軽に鼠を避けながら、無路渦は懸念を述べる。言ってる間にも逃亡しようとする鼠が後を立たず、鞭を振るって目を潰そうとするも限界がある。
「確かに、ちまちまやるのも面倒だよな。‥‥という訳で、やったれ!!」
「はいです。皆さん、避けて下さいね♪」
噛み付いて来た一匹を蹴倒し、猫が勢い込んで告げると、ティーレリアの身が青い光に包まれる。
扇状に広がる吹雪に範囲内にいた冒険者らは慌てて避け、避け切れなかった鼠らが一斉に甲高い悲鳴を上げた。
「そうですか。神さまは行ってしまわれましたか」
「ああ。猫神さまはあんたらみたいに鼠に困っている村を救う為、次の村へと向かうってさ」
冒険者らが村へと報告に戻った際、そこに猫の姿は無かった。これ以上の係わり合いは御免とばかりに鼠退治が終わるやとっとと消え失せていた。――その際、しっかり報酬というか手土産というかは容赦なく全部持って行ったりする。
神さまが消え失せて村人たちはがっかりしていたものの、鼎の一言に気を取り直し、あさっての方角に揃って手を合わせている。
「鼠退治は無事に済んだが。今後を考えて各家庭で猫を飼う事を勧める。この村では猫は幸運を呼ぶし、飼っていて損は無いだろう」
「だからと言って、お社の手入れも忘れないように。きちんと供え物をしてたらまた帰ってくるかもしれないしね」
美人が告げると、鼎もにやりと笑って付け加える。もっとも、懲りたようなので寄り付かない可能性も大きいが。
「ついでに、神さまに奉げる舞とか踊りとかも作ってくれると嬉しいな?」
フィンが告げると、得たりと村人も笑う。
「ええ、それはもう。‥‥にしても、神さまの供とはいえ、皆様もさぞかし大変でしたでしょう。お召し物も何やらくたびれた様子で」
「あ、えーと。これは‥‥」
村人の言葉に、困ったように冒険者らは顔を見合わせる。
薬を消費したり、終わってからも葵がリカバーをかけたりで今でこそ怪我は無いが、確かに戦闘は激しかった。逃げた鼠も結局何匹かは出てしまったが、それが村の脅威となるのは取り合えず当分先の事。依頼自体は成功と言える。
ただまぁ、さらに大変だったのは火の始末。燻りだしに使った火がいつの間にやらボロ寺に燃え移り、消火活動に大わらわだったり。何とか小火程度で済んだが、火の用心は大切である。