月より花 

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月04日〜04月07日

リプレイ公開日:2005年04月13日

●オープニング

 京都への月道探索。
 その京が何やら大変な事になっているせいで、裏では開通に絡んで何やら混乱もあるようだが、一応探索は変わらず続けられている。
「っていうか。あれって私の責任じゃないわよ。偶然偶発純然たる事故なのに、なーんで、怒られなきゃいけないのよ! 物は無事だったんだし、いいじゃないのさ!!」
 そして、冒険者ギルドにて。拳固めて大声で叫ぶ少女は、その月道探索の為に京から派遣されてきた陰陽師・小町である。
 何をそんなに怒ってるかといえば、事は十五日に遡る。
 その日は満月。彼女は月道の在りかに当たりをつけて、冒険者らと共に現場に赴いた。のはいいが、結局見つからずで終わる。おまけに、探索していた洞窟が崩落し、命からがら脱出したのだった。その際、携帯していたムーンロードのスクロールが少々汚れたらしい。
 小町はムーンロードの呪文を使えない。だが、月道探索の際にはこの呪文は不可欠となる。で、陰陽寮からムーンロードのスクロールを貸し出してもらっていた。
 ムーンロードの魔法は、覚えるのが難しい上に極めて限定された使い方をする為、冒険者たちを始め、普通に生活する庶民にとってはまさしく無用の長物。覚えていても使う事など果たして生涯にあるのか疑問になるような呪文である。
 が、国にとってはそうではない。月道のもたらす利益は計り知れない。それを扱うムーンロードの呪文は必須であり、また、覚える者が少ないからこそ逆に重宝される。さらには知識さえあれば扱う事の出来るスクロールともなれば、その価値たるや計り知れず。
 それは日本でも同じ事。故に、本来なら陰陽寮にて厳重に保管されている物だが、月道探索に絡んで今回特別に貸し出されていた。
 それを汚した訳である。勿論、埃を払えば元通りで破損も無かった訳だが、「もっと丁寧に扱わんかいっ、ボケがあああ!!」と、散々叱られた挙句に、現場捜索ではなく裏方の資料整理へと回されたらしい。
「来る日も来る日も黴臭い書庫で謎の石板とか木簡とか眺めてみたり他の陰陽師やらが調べた事柄纏めてみたり地形とか風水の流れの計算してみたり変な虫とか虫とか虫とか出てきて騒いでみたり古書は触るだけでぼろぼろになるから呼吸一つも気を使ったり重要書類もあるから破いちゃいけないしうっかり密書なんて見ちゃった日には厳重秘密を約束させられた上に誓約書まで書かされて違反すると首が飛ぶなんて言われて何でたかだか資料整理に命すり減らさなきゃいけないのとか悩んでみたりっ!! せっかく退屈な京都抜け出して花のお江戸で遊ぼうとか企んでたのにむさいおっさんと黙々と顔つき合わせてばかりだし、私とっても不満爆発!!!」
「‥‥とりあえず、どこかで息継ぎした方がよろしいかと思いました。まる。」
 顔を真っ赤にして肩で息する小町に、勢いに押されついでにどこか無機質に係員は告げる。
「で、今日の用件は何ですか? その資料整理でも手伝えと?」
「ううん。さっきも言ったけど秘密書類とかも扱うから外部の人間はなかなか入れられないの。だから、余計に人いなくて大変なんだけどー。
 でも、そんな事よりもっと重大な事よ」
 ため息一つ、用件を聞き出そうとした係員に小町はけろりとした顔で告げる。が、その顔が真剣な表情に変わったので、係員も気を引き締めて対応する。
「世の中は春よね」
「そうですね」
「梅や桜も綺麗になってきたわ」
「‥‥そうですね」
「お花見したいの」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥重大?」
 ジト目でポツリと告げた係員。途端にまた小町が身を捩って騒ぎ出す。
「だって〜、ようやくこぎつけた休暇なのよーーー。月道見つかるまでは資料整理から抜け出せそうに無いし、 今度はいつ遊べるかどうか分かったもんじゃないじゃなーい。それに見つかったら見つかったで京都の情勢は聞いてるでしょう? 絶対即行で帰らされるわよっ! それでなくとも花の季節は短いんだから終わっちゃうじゃない! 私だって息抜きしたーい、お花見したーい、遊びたーい! 団子とか団子とか団子とかーーーっ!! 江戸の名物だってほとんど食べてないしーーっ!」
「だーーっ、うるさい!! 三つや四つのガキじゃあるまいし、ここで駄々こねてどうするっ!」
 ばたばたと手足を動かす彼女に、係員が吼える。さすがに騒ぐのはやめたが、恨めしそうにじっと見ている小町。
「とにかく、依頼はお花見なんですね」
 諦めたように告げる係員に、小町は慌てて頷く。
「そ。一人でやってもつまらないし、江戸には詳しくないからどこらで花が見れるのかよく知らないし。時間もなかなか取れないから準備段階から冒険者さんにお任せする事になるわ。
 ま、贅沢は言わないわよ。綺麗な場所で美味しい物食べて息抜き出来ればそれでいいから」
 言って、小町はにっこりと笑った。

●今回の参加者

 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3582 ゴルドワ・バルバリオン(41歳・♂・ウィザード・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0833 黒崎 流(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

利賀桐 真琴(ea3625)/ バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)/ 逢莉笛 舞(ea6780)/ マリス・エストレリータ(ea7246

●リプレイ本文

 春。梅も桜も美しく咲き誇る。
 長い冬で凍った身体を解きほぐし、ちょっと鬱屈した気分を吹き飛ばすにはいい季節。
 風もさわやか、空気も暖かく。それで美しい物を愛で美味しい物を食べられたならば、最高というもの。
 最も。それをするにはとても重要な事をしなければならない。
 すなわち。
「場所をどうするか、であるな!」
 豪腕組んで、仁王立ち。ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が告げる。
 春というより、すっ飛んで夏が似合いそうな彼である。気のせいか?
「そこら辺は任せた」
 リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)、あっさりと投げる。
「火を使いたいので、人の多くない所がよいでござるな」
 得意の料理を想定して、沖鷹又三郎(ea5927)は思案する。
「あたしも江戸に詳しくないですからお任せします。でも、体力続くなら昼から夜にかけてじっくりやりたいですね」
「今の時期なら南側、町から出て少し歩いたくらいの方が見ごろの桜が咲いてるかな? 自分は朝桜も見たいから‥‥早朝から結構だな」
 ミィナ・コヅツミ(ea9128)が朗らかに意見を述べると、じっくりいい場所探しを考える黒崎流(eb0833)。あわせると、花見決行一日中? そりゃ結構。
「日当たりの良い、小高い山の斜面とか。少し人から離れた静かな場所で楽しんで貰えればと思うのでね」
「海とか月が見えるといいでござるな」
「持ち込む料理はどうします?」
「体力ならあるぞ!」
「余興をやるなら、多少は広い空間も必要だな」
 わいわいがやがや。話は尽きない。
「ま、楽しめればいいですよね」
 にぎやかな雰囲気に、山本建一(ea3891)が楽しげに笑う。

 天下泰平‥‥とは言い難い箇所もあるが。とかく、空は晴れ、風は穏か。本日平穏な日取りで。
「お花見だーーーーっっ!」
 満面の笑顔で叫ぶのは、京都から来ている陰陽師・小町。仕事詰めの毎日にたまりまくった鬱憤を、ここで見事に晴らさんと、何だか妙に陽気な気配。
「本日は我侭にお付き合い下さいまして、どうもありがとうございますでーす」
「ちょっと気分転換に付き合うだけだ。気にするな」
 顔が緩みっぱなしの小町に、リーゼはひたすら苦笑する。浮かれて弾んで、早く花見に行こうと歩き出そうとしたのだが、
「‥‥そういえば。四人だけなの?」
 ひのふのみのよ、と、指折り数えても足りない。確か、もう少し人はいると聞いていたが。
「うむ、まず一人は手伝いと一緒に場所取りをしてもらっている!」
 問われて、堂々と答えるゴルドワ。ちなみに場所取りしているのは、流である。
「そして、もう一人はあそこだっ!」
 びっしと指差した先は、お馴染み冒険者ギルド。
 中をこっそり(じゃなくてもいいけど)覗いてみると、
「だから。お金は出しますってば!」
「いえ、ですからそういう問題でなく‥‥」
 詰め寄るミィナと、押されながらも説明を繰り返してるギルドの係員。ミィナの隣には大きな――というか、巨大な荷物。そして、彼女の馬がそれこそ馬耳東風とばかりに暢気に鬣を揺らしていた。
 お花見には邪魔――というより、歩けないので荷を預かって欲しいのだが、ギルド側では渋り顔。保管場所の問題に高価な品も多すぎて預かりきれないとの事。
「何か大変そうだねー」
 交渉は続けているけど、難航気味。小町はのんびりと告げる。 
「しかし、荷物が重いのは大変でござるしなー」
 自身の荷を見て、又三郎は眉間にシワを寄せる。彼の荷物も結構な量で。動けるだけマシってモンだが。
「では、預かってもらいます?」
 それは建一も同じ事。又三郎に尋ねて、ギルドの様子を覗いてみて。
 混迷を深める彼女たちの話し合いに、二人同時に肩を竦める。

 ながーい交渉の末、荷物はなんとか預かってもらえたようだ。


 手伝いの方数名交えて、条件に合う場所を冒険者一同、方々探索。条件に合う場所を見つけたら、今度は場所の確保。うっかり誰かに取られて使えませんじゃ、泣くにも泣けない。
 そうやって苦労して見つけた場所を、手伝いたちと流が残って、一足御先の桜見物を決め込んでいたが‥‥。
「ZZZZZZZZZZ〜」
「寝てますがな」
 場所取りしてくれた手伝い方にお礼を言って別れた後、敷布に横になってる流を、小町、素直に状況説明。
「いや、ごろ寝。伴奏聞いてたら、ついね」
 何事も無く身を起こす流。はらりと頭から花びらが舞い落ちる辺り、結構な時間を休んでた模様。
「花は咲くべき時に咲くし、その前に散ってしまう事は無い。園芸種も良いが、野生種もまた良し。それに、可愛いお嬢さん方ともご一緒出来るわけだ。まさしく両手に花だな!
 ‥‥一部むさくるしいのも居るが」
「むっ?! そこで何故我が輩を見るのだ!?」
 不思議そうにしているゴルドワに、流は黙って目線を外す。別にゴルドワだけがむさくるしい訳でも無いし。
「馬鹿な事言わずに、料理を並べて欲しいでござる。小町さん御執心の団子もたっくさん用意したでござるよ。まだ少し寒いでござるから、暖かい物も作るでござる」
「わーい、ありがとう♪」
 竈から作り出す又三郎に、小町は諸手を上げる。団子団子と騒いだだけあってか、団子を用意する者も多し。工夫を凝らした手作り品から店で購入した物まで様々な団子がずらりと並ぶ。その他、桜餅や差し入れのお弁当やら、食べる物には事欠かない。
「飲む物はどぶろくならこちらも用意しましたよ。ただし、飲みすぎには注意してくださいね」
「桜、綺麗ですねー、お団子おいしいー♪ 欧州のお酒、おひとついかがですか〜♪」
 建一が荷から酒を取り出すと、ミィナも酒をついで回る。ワイン、ベルモット、発泡酒。ついでに甘酒も。その最中にも、ミィナの傍から食べ物が消えていくのは大した物で。
「ふむ、西洋の酒とは珍しいでござるな。‥‥おっと、こちらは熱燗も出来たでござるよ」
 料理の手をちょいと休めて又三郎も味見。この酒を料理に使うと耳にして、さてどんな物が出来るのだろうと、考え出すのは料理人の性か。
 桜舞い散り、梅の香が漂い。どこかで小鳥も鳴いている。
 和やかな雰囲気の中、お食事がてらに話も弾む。
「聞けば、小町殿は頭を使うのが苦手との事だがっ!?」
「あら、だからってお馬鹿さんだなーとかって思わないでよ。単に、頭でっかちな会議繰り返すよりも、実戦で動く方が好き、ってだけなんだから」
 物は言い様である。
「仮にも術士が頭を使うのが苦手では日ごろさぞ苦労しているであろう! 我輩も頭を使うのは大の苦手だ!! よ〜っく分かるぞっ!!」
「そうよね。世の中適材適所って言葉があるし、得手不得手だってあるわよ。‥‥なのに、何であたしが毎日毎日資料整理しなきゃならないのよおおおおおー」
「うむうむ。愚痴なら幾らでも付き合ってやるぞ! 思う存分こぼして行くが良い!!」
 大きく頷いてゴルドワが酒を差し出すと、瓶ごと奪ってたぱたぱと自分の杯に酒を注いでる小町。危険である。
 ちなみに、ゴルドワ自身は酒を飲めない。何で、小町の飲みっぷりを至極当然に見守っている。
「大丈夫なんでしょうか? 解毒剤は用意してますけど‥‥」
 心配して見つめるミィナ。が、その肩をぽんと流が叩く。
 振り返ると、黙って流が目で訴えている。いーじゃないか。放っとこう。面白そうだから、と。
 ‥‥酷いです。でも、流は気にせず静かに酒杯を傾けている。
「宮仕えはどこも大変だな。私も故郷にいた時はいろいろと大変だった」
 同情半分、リーゼが告げると、興味を持ったらしく小町が身を乗り出してくる。
「へー。故国ってどこなのかしら?」
「ノルマンだ。城で勤めていた事があってだな‥‥」
 懐かしい目をしながらリーゼが語りだす。遠い異国の話に、小町は興味深く聞き入っている。が、団子はそんな時でも手放す様子無し。時折、又三郎に料理の注文までつけてたり。
「私は今月でイギリスに帰るのですが、今まで世界を旅して体験してきましたねぇ。イギリスではエロスカリバーなんて危険な物を手に入れたり、大地の精霊さんと一緒に楽しく踊ったりもしました。そうそう、ノルマンではジャパンの品物が倍の値段で売れるのですとか」
「‥‥知ってる。向こうって全然文化が違うから物珍しいんだろうし、値が張るのも分かるけど。たまに訳わかんないのが流行ってるって話聞くねー」
 ミィナを受けて、小町は首を傾げる。
「京都の様子はどうなんでしょう?」
「暢気で陰気、なんだろうね。ずっといたから、あんまり気にしなかったけど」
 返されて、困ったように眉を寄せる小町。
「宮中じゃ貴族たちが優雅に歌を詠んだりしてるみたいだけど。市井の治安は悪化してるし、おまけに死人憑きなんて騒ぎも起きてるって話しだし。いい所は勿論いっぱいあるけど、今はちょっと悪い所しか見えないかなー」
「気にするなっ! 愚痴は溜め込まない方がいいぞ! ここだけの話、我が輩は日々ストレスたまらない生活しているので、こぼすような事は何一つ無い!!」
 硬く拳を握り締め、力強くゴルドワは断言する。にやりと笑ったその顔は、なんともすがすがしいばかり。
「あたしだって溜め込みたくなんてないわよー。でも、仕事は今一つ遣り甲斐ないし、進まないし、上司はうるさいし、京の状勢は嫌な話ばっかり聞こえてくるしー。繊細な乙女が抱えるには荷が重過ぎるのよ」
「それで、自棄食いって訳でござるか?」
 又三郎が茶々を入れると、小町は喉を詰まらせて慌てて水を飲んでいる。顔が赤いのは何も息が詰ったからだけでは無い。
 ま、作った側としては、美味しくたくさん食べてくれるならそれで良しだし、気が晴れてくれたらなおも良し。腐った気分を吹き飛ばしてくれるなら、作りがいもあろうと云うもの。
「さて。和んできた所で、一つ。剣舞でもどうだろう?」
 リーゼが合図をすると、建一も立ち上がる。
 両手に日本刀を持つ建一に、リーゼは槌を持って構える。
 剣舞と言っても、実際は殺陣に近い。桜吹雪の下、オーラエリベイションも使ってリーゼは繰り出される刃を的確に弾き、そして一撃を寸止めにして加える。
 事前に打ち合わせもしており、型通りの運びは危なげなく、巧みな足運びに体さばきで。
 最後にリーゼが建一の刀を弾き飛ばすと、自然、見ている者から拍手が起きた。
 その後もミィナが神楽舞に挑戦したり、モンスターに関しての討論会を開いたりとやる事は尽きず。
 時間が流れても、夜を明かしての大賑わいとなる。

 朝の光。桜舞い散る中を、遠く、陽光に照らされた海がきらきらしく輝く。
 この上ない、上等な光景を黙って見つめながら、今回の花見はお開きとなる。 
「楽しんでくれましたか?」
「うん、ありがとう。久々に気が晴れたわ!」
 建一に問われて、大きく伸びをしながら至極満足した表情で小町が頷く。
「これ、よろしければ記念にどうぞ」
 ミィナが手渡したのはとんがり帽子。
「いいの? ありがとう」
 思いがけない贈り物で、小町、飛び跳ねて喜んでいる。
「それじゃ、今日はご馳走様♪」
 至極満足した表情で、小町はぴょこんと頭を下げた。
 それを見て、冒険者一同も満足げに微笑み‥‥一様に大あくび。
 やはり貫徹は大変だったようだ。