≪月道探索≫ 精霊召喚? 月夜の祭
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:6人
サポート参加人数:6人
冒険期間:04月13日〜04月18日
リプレイ公開日:2005年04月22日
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●オープニング
京都。
日本の首都であり、政治の中枢である都。貴族たちの華々しい文化の都の反面、魑魅魍魎の跋扈する魔都としても噂される。
特に現在は南方より謎の死人の進撃が続いており、その攻防は日に日に激化を見せているらしい。
そんな物々しい話が飛び交う中で、おなじく京に絡んだ話がある。
つまり、京都に至る月道を探し出し道を開こうというのだ。
多くの陰陽師が大昔に隠された月道を見つけるべく、今尚江戸にて探索を続けていた。
「もう一度、あの場所を調べる」
告げた相手はそんな陰陽師の一人。というより、探索を推し進めている張本人である。名は蘆屋道満。性格は一言で言えば‥‥よくない。
これまでに何度か冒険者ギルドを利用した事ある御仁だが、『不本意ながら』『仕方なく』『使ってやっている』と云う態度が諸見えである。
確かに依頼者にもいろんな人物がおり、その全てがいい人だとは言えない。が、ここまで露骨な相手というのも珍しい。
しばらく京に帰ったとかいう噂も耳にしたりしていたが、どうやらまだ江戸にいたようだ。ま、月道探索が続いてるなら当然か。
内密に依頼がある、との事でお忍びで訪れた道満。ギルドの奥の部屋へと招いた訳だが、これに一人で応対せねばならなくなった自分を嘆きたい係員であった。
「あの場所と言うと‥‥どの場所で?」
出来れば二度と会いたくなかったという思いをなるべく胸に秘め――それでも顔が引き攣るのは隠せなかった――ギルドの係員は応対する。
「化け兎が住んでいるというあの山だ」
当然だ、と言わんばかりの態度。馬鹿に仕切った目線に、係員の口元が更に引き攣る。
ちくしょー。んな事、いちいち覚えてられっか。こちとら一日に何件の依頼を相手にしてると思ってるんでぃ!!
そう怒鳴りたかったが、何とか堪える。客商売も楽じゃない。
「しかし。確かあの場所には月道は無かったと聞いておりますが?」
あくまで丁寧に尋ねる。自信満々で乗り込んだ癖に空振りだったんだろー、とは言わない。
だが、意図は伝わったらしい。途端に道満から凄まじい目で睨まれ竦み上がるが、少々溜飲は下がった係員。
「確かに、あそこに月道は無かった。だが、しかし‥‥」
不貞腐れたように告げる道満だったが、そこでふと難しい顔をする。周囲をそれとなく見渡すと、何やら思案した後に、係員を手招くと声を潜めて、告げる。
「わしの考えが正しければ、精霊を呼び出せるやもしれぬ」
「精霊を!? ‥‥ふぐぉおおお!!」
驚いて声を荒げた途端に、道満が係員の口を押さえてきつく睨み付ける。その上で、それとなく周囲を確認し、
「声が大きい。‥‥どうやら月道を先に手にして富を得んと、胡乱な山師が動き出している。また源徳に反する者を始め、そもこの月道探索をおもしろく思ってない手勢も本腰を入れて妨害を画策し出したという情報が入った。迂闊な情報漏洩は死をも招くと心得よ」
んな揉め事に巻き込むんじゃねぇええええっっーー!!
係員、心で叫ぶも口は道満に押さえられている。何だか泣きたくなった。
「あの後、どうしても納得のいかんわしは、さらに文献を調べた。そして、先の月道を封鎖した陰陽師は、どうやらあの山からしばしば精霊を召喚していたらしい記述を見つけ、その方法も分かった。前にあの場を調べた時、かぐやが降臨したという話もあった。その時は月道の事を示すと踏んだが、どうやらその事を伝えていたのかも知れぬ。
月道自体はあの場に無いが、もしかすると精霊たちが月道のありかを知る可能性がある。よって試してみたい」
言って、道満は頷く。
「方法はほぼムーンロードの時と同じだ。満月の夜にあの山の上で必要な呪文を唱える。だが、そこにどうやらあの兎たちが必要らしい」
「はぁ」
渋面を作る。
「召喚の際に必要な踊りを奴らが今に伝えているらしい。――ああ。忌々しい事だが、以前やつらを始末しろと言ったのは間違いだった。それは認める。謝ろう」
‥‥胸を張って言われても、謝られてる気がしないんだが。
「どうせ祭りとやらで化け兎どもは集まっているだろう。だが、奴らがきちんと踊ってくれるかははなはだ疑問だ。むしろ、物の怪に期待はせん方がいいだろ。なので、少人数でいい。奴らから踊りを聞き出して習い、月が頂上にある時必ず踊っていてもらいたい。
どの道、奴らはふざけすぎる。本当に必要かどうかは未だ判断つかんが邪魔にはならんだろうし、もし必要なら無いと困る」
言って、道満はぐっと声を潜める。
「そしてだ。先も言うたが、月道探索に邪魔が入りだした。そいつらに情報が漏れぬよう不審者を警戒し、あればすぐに取り押さえられるよう警備して欲しい。
今回の件も、表向きは化け兎の祭りの警備と言う事にしておく。だが、何が起こるか分からんから、口が堅くて信のおける者がいい。頼んだぞ」
係員は呆れるやら何やら。だが、用件は済んだとばかりに、何やらぶちぶちと言いながら道満はギルドから帰っていく。
「狐の小童め。何が、月道探しに現を抜かしている場合ではないということかな、だ。このような大事だからこそ、月道の確保がより重要になる事も分からんのか」
肩を怒らせて歩く姿を見送り、係員は嘆息する。
そして、依頼は出されたのだった。
●リプレイ本文
京都への月道。遥か昔に封鎖されたというその月道は、今年に入って俄に探索の動きが出ていた。冒険者ギルドにも関連した依頼が出る事はあったのだが、依然としてその場所については不明な事の方が多い。
そして。
「さてさて、今回は予想通りになるかな」
今回の月道探索依頼。時羅亮(ea4870)の一言がどこか皮肉に聞こえるのは仕方あるまい。
何せ、今回依頼された場所はつい一ヶ月前に捜索し、そしてまるきりの成果無し‥‥いや、そこに月道は無い、という確認を得ただけの場所なのである。
依頼主もその時と同じく陰陽師・蘆屋道満。これでは不信に思うのも当然である。
もっとも、今回の目的は月道探索ではあるものの、月道そのものを探すのではない。その手がかりを知りそうな精霊を呼び出してみようと云うもの。
とはいえ。精霊が呼び出せるかどうかはやってみないと分からない。呼び出せても、その精霊が何かを知っているとも限らない。
よくよく考えずとも、何ともあやふやな話である。が、当の道満にしてみればやけに自身ありげなのである。
‥‥ま、普段から意味なく偉そうではあるが。
「本当に、依頼人さんは嫌な感じの人だね」
陰でこそりと告げるのは鈴苺華(ea8896)に、アウレリア・リュジィス(eb0573)が大いに同意。
「まーた、いばりんぼ陰陽師なんだよね。でもま、化け兎たちは妙に見捨てておけないから、今回も頑張ろうっと」
それに月の精霊に会ってみたいしー、とアウレリアがはしゃぐ。
「結果はどうあれ。拙者は、兎さん達のお祭りが滞りなく行われ、月の精霊殿に逢えれば十分でござる。さて、どんな精霊殿が参られるのやら。ここいらに伝わる伝承からすれば、かぐやが有力そうでござるが‥‥」
久方歳三(ea6381)も何やら嬉しそうである。
「しかし、依頼人はかぐやと断定しない口ぶりでしたね。何か他があるのかもしれません」
聖津亜玲(ea1472)が嘆息する。
手伝い何名かが関係資料の翻訳を試みようとしていたが、結局京の文献や重要書簡などから類推した結果であり、おいそれと見せる訳にはいかなかったらしい。呼び出される精霊や儀式の詳細も、今一つ判然としないままで終わる。
「ま、かぐや殿でなくとも会えればよいでござるよ。月の滴殿とか月精龍殿とか三笠大蛇殿とかが来られても、面白そうでござる」
「最終目的は月道なのですしね。一体どんなもんなんでしょうねぇ」
憂いの顔もどこへやら、歳三も亜玲も二人して何だかうきうきとし出している。
「ともあれ、まずは化け兎君から宴の参加と踊りの稽古を承諾してもらわないとね」
言って荷を手にするアウレリアだったが‥‥。
「それも預けた方がよかったんじゃないですか?」
ペット装備はギルドに何とか預かってはもらえたが。荷物からして重くて動けずひっくり返るアウレリアに、ティーレリア・ユビキダス(ea0213)が静かに告げた。
「久しぶり〜。ボクの事覚えてる?」
「うん、虫むし〜♪」
陽気に尋ねる苺華に、全く悪びれもせずににこやかに笑う化け兎・うさ。性格は相変わらずのようである。
アウレリアが宴の参加を尋ねると、皆に聞かねば分からないとやっぱり首を傾げる。その他の兎は宴の夕方に来るとの事。
今はうさ一匹だけ。しかも人化けしてて兎っぽくないので、ちょっと寂しいティーレリア。ま、仕方ない。
踊りの方は了承受ける。
「じゃ、コレ着て。大事なの〜」
にこやかに渡された兎耳と兎尻尾に肉球手袋。手作りの布製だが良く出来ている。人化けしたままで踊れるように、近所の老人に作ってもらったのだとか。
踊る面々が装着すると、歓声上げてはしゃぎ回っている。
ちなみにお持ち帰りは駄目と言われた。
警備をする者も、手伝い含めて異常ないか、今の内から走り回る。今の所は平穏無事だった。
そして迎えた、満月の日の夕暮れ。月見の宴にあわせて、方々から化け兎が集まってくる。
「きゃああああああ! うさぎさん!! うさぎさんがいっぱいです!!」
二本足でえっちらおっちら歩いてるうさぎたちに、ティーレリアが目を輝かせた。がっしり抱きしめと、化け兎たちはきょとんとしていたが、嫌がる気配は無い。むしろ、うさの方がムッとした表情で変身を解くとその他兎に混じり、頭撫でろと擦り寄ってたり。
「今回も宴会、一緒させてね! 私達もお月様に会いたいの」
アウレリアがお願いしてみると、化け兎一同顔を見合わせた後、快く快諾する。
「しかし、何故餅つきの道具などが必要になる。儀式の邪魔だ」
祭りのお山に月見の準備。それは当然だが、道満は快く思わないらしい。
「でも、化け兎たちにとっては単なる月見の宴会だし」
アウレリアが告げると、大きく化け兎たちも頷く。
「むー。お餅は大事なのー。邪魔なのはお爺っ!」
馬鹿に仕切った目で餅つき道具を見つめる道満。一応考慮して宴会は簡素にしてもらっている。それでさらに不満を漏らされては怒るのも当然だろう。化け兎たちが足を踏み鳴らして抗議する。
「まぁまぁ。せっかくのお月身に免じて、許してくれないかな?」
険悪になる前に亮が仲裁に入る。言われて場は静まったが、化け兎はどことなく不服そうにしている。
「道満殿は才能もあり努力家なのでござろうが、真面目すぎなのが玉に傷でござるな。押さえて頂きたいでござるよ」
歳三が宥めると、ふんと鼻をならしてそっぽを向く道満。が、それ以上何も言わない所を見るとどうやら了承らしい。
「時に。邪魔が入るとして、どんな相手が現われるのでしょう」
化け兎たちに警備するから来ないよう言い含めていた亮は、ふと告げる。道満もこれには至極真面目に表情を強張らせた。
「分からぬ。ただの山師程度ならせいぜいゴロツキを雇う程度だろうが。もし、源徳殿と対する藩が此度の件を察したならば、手勢の手練を召しだしてくるやもしれん。事によれば死闘もありうるやも」
真剣に告げられた内容に、冒険者たちからも笑みが消える。ただ化け兎たちだけが事情も分からず、首を傾げているのみだった。
月が昇ると宴が始まる。兎が餅つき、踊りを踊る。
だが、そこで何だか問題発生。
「んとねぇ。そこは右手を上げるんだよ」
「ふむふむ」
「違うよ。耳を上げて〜下げて〜」
「えとえと? こんな感じですか?」
「お尻ふりふり♪」
「そんな事したっけ??」
本番前に、集まった兎の前で、事前にうさから習った踊りを披露‥‥はいいが、その際てんでバラバラな指導が入る。
「両手挙げて〜〜」
「こう?」
「脇腹こちょこちょ」
「きゃははははは」
あまつさえ。油断すると何されるかも分からず。
真面目に指導してもらっていたティーレリアたちだが段々と時間も無くなり、焦りも出る。
「こら〜、真面目にやんないとだめだよ」
苺華が怖い顔すると、何だか拗ねたように化け兎たちはそっぽ向く。ようするに飽きてきているのだ。
「このお祭りは、大事なものではなかったでござるか?」
警備に出ていた歳三だったが、さすがに見かねて口を挟む。この一言は堪えたようで、しょぼくれる化け兎たち。
「と言ってもただ教えるだけでは味気ないのでしょうね。‥‥では、こういうのはどうでしょう? お姉さんたちに一番上手く教えられた人にいい物をあげましょう」
言って、亜玲が荷の中から幾つかの品物を取り出す。差し出された品を繁々と見ていた化け兎たちだが、
「てぃっ。てぃっ」
「‥‥碁石投げちゃ駄目ですって」
「これいい匂い。美味しいの?」
「香木は食べ物じゃないですよぉ〜」
興味津々に触りまくる化け兎に、ちょっとだけ困惑して亜玲が窘める。
「お礼でしたら、人参を用意してますよ。まーさんに積んでますから、後で差し上げ‥‥きゃあああああっ!!」
人参、の一言で化け兎たちが一斉にティーレリアに群がり身体検査を始める。何だか見た事ある光景をアウレリアはちょっと遠い目をして見つめる。
「でも、ま。もう指導は必要ないかもね♪」
意地悪く告げると、苺華が踊りを披露する。踊りが得意なだけあって、下手な指導もものともせずに、兎たちの踊りを綺麗に踊る。
「どう? もうボクの方が上手だしょう♪」
くるりと宙で一回転して、苺華が胸を張る。
「むー。負けないもんっ。皆、お礼もらう為に頑張るぞー」
地団太踏んでうさが叫ぶと、他の化け兎が呼応して拳を振り上げる。
むっとした表情ながら、教える手つきは真剣そのもの。それを苺華はしてやったりと笑う。思惑通り、どうやら競争心を煽るのが動かしやすい模様?
そうこうする内に月は天高くに昇る。
儀式の時間となって、道満は宴の中心部へと歩を進めた。
その頭には踊り手たち同様、兎耳が揺れている。兎尻尾に肉球もしっかり。およそ似合わない格好を、勧めたのは亮である。
「成功率が上がるかもしれない」
そう言われれば従うしかない。もっとも、これで失敗しようものならどんな八つ当たりが来るのか分かったものではないが‥‥。
伴奏は「あると楽しい」との事。踊るかどうするかを悩んだ末、アウレリアは音楽を奏でる事にする。
ティーレリアと苺華が踊りだす中、道満は鏡を取りだすと天に掲げて祈りだす。詳しくは暗くて良く分からないが、鏡には何やら文字が彫られている。それが、どうやらそれが呪文らしい。
真剣に祈りを奉げる道満。
踊り手たちは勿論、化け兎たちですら感じるものがあるのだろう。冒険者にならって必死に踊りだし始めた。
しかし、どれだけ時が立とうと何も変化が起きない。
その内、まずは化け兎たちが飽いて各々餅ついたり、もらった道具で遊んだりと好き勝手にしだす。苺華たちは踊りを続けているが、それでも不安になるのは隠せない。
(「やれやれ。結局ですか」)
警備をしながら様子を見ていた亮。何とも動かしようの無い結果に、失望ではなくただ苦笑する。
「ん〜、警備の方も異常なし。すばらしい♪ 儀式に変化無しなのは残念ですが、このまま平穏に終わればそれで‥‥」
言いかけた言葉を亜玲は飲み込む。
地表に影が落ちていた。見上げれば春霞の月を何かが遮っている。
「あれは‥‥?」
最初は雲かとも思った。が、それは雲よりも確かな存在を持って、こちらへと向かってくる。いつでも忍法を唱えられるよう緊張した亜玲だったが、それが何かを認めた時には、自然、目を見開いた。
「マジマジでござるか」
同じく空を見上げた歳三もぽかんと口を開けて、自身の冗談混じりが本当になった事を知る。
夜空をよぎる巨大な影。それは普通の動物とは全く異なる姿を持っていた。
三対の翼を生やした、赤紫色の鱗を閃かせる巨大な蛇。
月精龍と呼ばれるそれは、静かに宙を舞い続けると、やがて兎たちの祭りの場へと降り立つ。
「いやん、蛇ヘビへびっっー!」
「食べられるよぉ、怖いよぉっ!」
月精龍の出現に、祭りの場は騒然となる。特に慌てたのは化け兎たちだ。泣きながらティーレリアたちにしがみつき大仰に震える。頭にまでよじ登ってこようとする彼らを後ろに止め、道満と冒険者一同は月精龍と対峙した。
『何とも懐かしい事をしているな。何の用があって呼び出そうと言うのだ?』
おごそかに、月精龍は告げる。だが、どこか不機嫌そうにしている事を感じ、一同、身を強張らせる。
「わ‥‥私たちは月道を探してるの。京都へ一瞬で行ける月の道を知らないかな?」
道満が何かを言う前に、アウレリアが尋ねる。途端、蛇眼に睨まれ少々臆しながらも態度は崩さない。
『‥‥知っている』
ちろりと舌を見せながら、月精龍はあっさりとそう認めた。
『その月道ならば、現在お前たちが江戸城と呼ぶ建物の地下にある』
「何と? 江戸城の地下だと!」
驚嘆したのは道満だった。さもありなん。江戸城ならば目と鼻の先だ。月道探索に絡んで登城した事もあるだろう。なのに道満始め――いや、その城に住む源徳ですら知らなかったのだ。
『もっともたやすく手に入れられるとは思うな』
口惜しそうに顔を歪ませる道満を嗤いながら、さらに月精龍は続ける。
『その昔、この地を人間たちの戦が覆った。時の陰陽師はその月道を封鎖し、なおかつ、そこに至る道を迷宮に作り上げて人の出入りを妨げ、入念に隠蔽した。
お前たちがもう一度月道を求めるならば、その迷宮を踏破せねばならないだろう。そこが一体どの様な所なのか。我は知らぬが、たやすくはないだろうな』
「‥‥いや、いい。場所さえ分かれば後はどうとでもなろう」
くつくつと嗤う月精龍。だが、よほど悔しかったのか、道満はそれに構わず、ただ唇を噛み締めて頭を振る。
『そうか。‥‥では‥‥‥‥』
月精龍の目がすっと凍ったように見えた。尻尾が振り上げられるや、器用に道満が手にしていた鏡だけを弾き飛ばす。
声を上げる間も無かった。転がった鏡に再度月精龍は尾を振り上げ、木っ端に打ち砕く。
「何をするんですか!?」
突然の行動に、ティーレリアが詰問する。そのまま月精龍が暴れるかと緊張して構えるが、
『その鏡は当時の陰陽師が我等を呼ぶのに作り上げたもの。その時は気にしなかったが、こうして久しぶりに呼ばれればやはり何やら虫が好かぬ。故に、おいそれと呼び出してもらわぬよう、情報の対価として壊させてもらう』
暢気に月精龍は告げるだけ。ある意味ほっとしたが、
「‥‥じゃあ、お月様も来ないの?」
寂しそうに告げたのは他でもないうさだった。見れば、他の化け兎もへたりと耳を垂らしている。
『呼びかける事は出来んだろうが。だが、気まぐれで立ち寄る精霊もおらんとは限らんな』
言って、月精龍はとぐろを巻く。
『さて。これで用は無くなった。が、このまま立ち去るのは惜しい。お前たちは冒険者なのだろう? 夜明けまでの短い一時、何か冒険譚をしてもらおうか』
「‥‥何かこの横柄さ。どこぞの誰かを思い出すよねぇ」
ちらりと某陰陽師を見つめる苺華。
その陰陽師は兎衣装を脱ぎ捨てて、何やら不貞腐れた様子で壊れた鏡を集めなおしていた。
東の空が白む頃。鱗を閃かせて再び空へと飛び立つ月精龍。散々喋って化け兎も打ち解けた様子。冒険者と共に両手を振ってその姿を見送る。
「結局、妨害は来なかったね」
ほっとした様子で告げる亮。
「良いでござる。目的である月精龍と出会えたでござるし」
特に気にせず、歳三は笑う。
「にしても、迷宮ですか‥‥」
小さく肩を竦めて、亜玲は道満を見遣る。京への月道への道はまだ険しそうだった。