潜む狼の群れ
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 92 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月18日〜05月23日
リプレイ公開日:2005年05月28日
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●オープニング
「幼馴染を助けてほしいんだ」
冒険者ギルドに現れたその男は、血相変えて係員にそう詰め寄った。
「名前は吾平って言うんだけど。昔から要領の悪い奴で‥‥何の因果か、悪い連中の使い走りのような事をさせられているんだ。その連中ってのが、金品やらを巻き上げている盗賊紛いの奴らさ」
深くため息をつく依頼人。
表向きは用心棒という事で村に滞在し、適当に村を襲う小鬼を退治する。勿論、幾ら京が不穏でも都合よく鬼が出るはずが無い。ようするに、この鬼役が吾平の仕事でもある。
それで言い様に村を丸め込んで数日いい思いをし、頃合を見てまた別の村へと向かう。無論、本当に妖怪や盗賊退治を頼まれたりする羽目になる事もあるが、そういう時は手に負えるモノならきちんと退治し――それを恩にさらに村にたかれるという算段かららしい――、手に負えないなら出発したフリをして適当な所で逃げる。帰ってこないのは殺られたからだと落胆するだけで、村人は騙された事に気付きづらい。
何にせよ、ロクな連中ではないのだ。
「前々から俺は縁を切るように言ったんだが、あいつ『そんなはずは無い』って聞き入れてくれない‥‥。いいように丸め込まれてすーっかり騙されてんだよ」
不穏な話が多い昨今。村人たち自身も村を守らねばという危機意識を持たせねばならない。なので鬼騒ぎを起こし、村はいつも危ないのだと教える。それがやらせと分かったらまた緊張の糸も緩むので、村人たちには悟られてはならない。その後、確かに過大な報酬を要求するが、それは用心棒代にそうした人知れぬ努力を足した結果の要求であり、至極妥当なのだ。
とかなんとか。
「‥‥まさか。んな意見を信じてんのか、そいつ?」
「お人よしなんだよ、あいつ‥‥」
極めて馬鹿馬鹿しい話で目が点になっている係員に、依頼人はがっくりと肩を落とす。泣きそうな顔には疲労の色も濃い。
「とにかくあいつはそんな調子でいい事してると思い込んでいるし、聞く耳無いんだ。連中からは怖い顔して脅されるしで、俺ももう嫌んなって見捨てようかと思ったんだけど。
連中、何考えたんだか志士を騙るようになったんだ」
ま、ただの用心棒でいるより、志士と名乗る方が人々はありがたがるだろうし見入りも良いに違いない。だが、それは危険極まりない行為でもある。
偽志士を探してうろつく狼の集団が京には存在している。
「あいつらは、自分たちのような小物が相手にされる訳無いとか軽く考えているんだ。万一見つかっても、そん時は吾平を頭領という事にして責任擦り付けて、自分たちは助かろうって腹でいやがる!!
でも、俺は壬生の狼たちがそんな甘い奴らじゃないと思うんだ。あいつらが斬られるのは自業自得だ。けど、吾平は騙されてるだけなんだ。頼む、最悪の事態になる前にあの馬鹿の目を覚まさせてやってくれ」
言って、依頼人は精一杯に頭を下げた。
そして、冒険者を前に係員は依頼を説明した上に、渋い顔で告げる。
「現在、その偽志士連中は都から少し外れた村に留まっている。村長宅に件の手管で恩を売って遊び呆けているとの事だ。吾平とかいう奴も彼らと共におり、使い走りをさせられているんだとよ」
もっとも、本人にはパシリにされてる自覚は無いらしいが。
「そして」
言葉を区切り、そして、睨む様に冒険者たちを見つめた。
「少し裏から調べたが。すでに新撰組が動いているようだ。四番隊組長の平山五郎始め平隊士数名が、奴らの周辺に潜み、討つ機会を待ってやがる。
吾平は確かに同情の余地もあるが、偽志士の仲間である事も確かだ。接触すればお前らもまた偽志士の仲間と見られるかも知れんし、下手にかばいだてれば一緒に斬られるかもな。そうでなくとも新撰組の仕事に介入したと難癖つけられる可能性がある。そこらの事情。よっく考えて事にあたってくれ」
係員の言葉に、冒険者たちはただ顔を見合わせていた。
●リプレイ本文
その村に滞在しているという志士たちは、村長宅で大騒ぎをしていた。村の金で女を呼び、酒を飲み、料理を食い散らす。
わりかし小綺麗な格好をしていたのが少し意外な気もしたが、それも『志士』である事を思えば当然かもしれない。どの道、にじみ出る品性やら行動やらがすべてを裏切っている。
少し考えれば誰にでも分かりそうな気もする。が、村人たちは『志士』という身分と鬼から村を救ってくれたという所業にずいぶんと感謝している。
その彼らの元に三人の人物が訪れる。
「俺たちにお願いだぁ?」
志士の数は五名。その傍らには何だか緊張している田舎っぽい少年がいる。彼が吾平なのだろう。
いかにも頭悪そうに告げる志士に、一言言いたくなるのを我慢して、御神楽澄華(ea6526)は告げる。
「はい。私たちは物騒な京都から離れてきた旅人です。けど、来る途中山賊に襲われ荷をとられてしまいました。何とかしていただけないかと」
「自分の村が鬼に襲われ、とても困っているから助けて欲しいのです」
そこに十六夜桜花(ea4173)の声が被る。言った後で、二人、顔を見合わせて押し黙る。
「おいおい、幾ら俺らといえども複数は相手にできねぇ。‥‥ここは一旦都に戻り、体制を整える必要があるな」
仲間に目配せした後に志士の一人はそう告げる。どうやらこの機に乗じて逃亡する気でいるらしい。焦る二人の後ろから、旅の僧侶だと云う秋月雨雀(ea2517)が一つ咳払いする。
「拙僧は旅の途中で通りかかったのですが。村の近くで小鬼をお見かけいたしました。賊というのもあるいは奴らと関わりがあるかもしれません」
何食わぬ顔で言い放つと、傍で聞いていた村の者たちが不安そうに志士たちを見る。
「相手は二人ほどでしたが、非力な私たちでは到底太刀打ちできません」
「噂に名高い志士さまが頼りなのです。報酬は十二分にお支払いしますし、志士さま方の良きように万事取り計らいましょう」
それに加えて、女性二人の必死の訴えに志士たちも折れたらしい。面倒くさそうに手を振り、黙らせる。
「あー、分かった。分かった。一応その現場とやらを見ておこう。ただ、我らもまだ修行の身。たかが鬼や野党相手といえど、悔しいが歯が立たぬ恐れもある」
聞こえよがしの声は、むしろ周囲に説明をしている。
「それでは、僭越ながら現場までご案内しましょう。口で申すだけでは間違いがあるやも知れませんからね。いえいえ礼には及びません」
相手が何かを言う前に、すばやく雨雀が口を挟む。志士らは渋面を作ったがそれ以上は何も言えない。
「おい、吾平。荷物まとめておけ」
「は、はい」
志士に言われて、慌てて少年が返事をする。奥へと走る吾平を、志士たちが歪んだ顔で見ているのが酷く印象に残った。
村を出て。先導する三名に、従う志士たち五名。その後を大荷物抱えた吾平がえっちらおっちら着いてきていた。
「おい、現場とやらはまだか?」
「もう少しです。今しばしのご辛抱を」
苛立つ顔の志士たちににこやかに雨雀は案内する。が、それを聞いた志士たちは突然立ち止まった。
「ま、ここらが頃合だろ。吾平、お前ちっと偵察に行ってこい」
「ええ?!」
声を上げる吾平。だが志士たちは吾平を睨み付けて抗議を許さず、戸惑いながらも吾平は先の道へと走り出す。
「いいのですか? 危険では?」
少々戸惑って尋ねる澄華にあっさりと志士たちは言い返す。
「いいんだよ。あいつがいると邪魔だからな」
吾平がいなくなったのを確認するや、志士たちはすらりと刀を抜く。その刃は雨雀を捕らえかけたが、そこは力量の差、難なく錫杖で裁いた。
「そういう事か」
五人が広がり三人を取り囲む。雨雀が錫杖を構え、女性二名も丸腰ながら抵抗の構えを見せた。
「ふん。あの村で十分稼がせてもらったし、わざわざやりあう必要はねぇやな。‥‥てめぇらは不運にも鬼だか賊だかに出会って死んじまうって訳だ。女たちは言う事聞くなら、もうちょっと生き延びられるけどな」
「「誰がっっ」」
下卑た目線が胸元にあるのを見て、澄華と桜花の声が揃う。志士たちは笑いを一頻りした後、その笑みのままで切りかかってきた。
が、最初の一人が一歩を踏み出すと同時。飛んできた矢が、一番行動が遅かった志士の足を射抜く。悲鳴を上げてもんどりうった志士に驚き、全員が歩みを止めた。
「やほ〜い、小鬼くん参上で〜す♪ 賊でももういいけど。‥‥いやぁ、吾平くん一人来るもんだからちょっと寂しかったんだよー」
間に合ってよかったと、何とも場違いな程のんきに告げながら、外橋恒弥(ea5899)は被っていた鬼面を外す。
「何だ、てめぇは? ここの縄張りの奴か?!」
「違いますよぉ、『志士』の方々。君らが活躍してるとこちらとしても鼻が高く、是非その活躍を見せてもらえないかと思いましてねぇ。で、ちょいとそこに鬼の大群がいてなぁ‥‥というのは、ま、冗談やけど」
言って、笑う山内峰城(ea3192)。
「てめぇら‥‥俺らを志士と知っての狼藉か」
「ええ。そして、こちらも志士です。もっとも、あなた達みたいな下賎な輩に志士を名乗られるなど、こちらとしては非常に不愉快ですけどね」
「何ぃ!?」
不快も顕わに雨雀が睨みつける。その豹変振りに、偽志士たちの顔色が変わった。さらに桜花と澄華も預けていた自身の武器を受け取り、身構えている。
「人々を騙し、暴利を貪るも赦し難い上、さらに志士を騙ろうとは。吾平様の件がなくとも捨て置けません!」
澄華が告げると志士たちが息を詰まらせる。
いずれにせよ、多勢無勢で分が悪い。刀を向けたまま、後方にいる何人かは後じさり逃亡しようとしたが、
「逃がしません‥‥」
退路は回りこんだ幽桜哀音(ea2246)が塞いでいる。
「と、言うわけで、悪い奴は誰や。やってる事はばれてるんや。もしあくまで自分らが志士だと言いはるんなら実力を見せてもらおうか」
同じく退路に回りこみ、峰城が告げる。
すっかり周囲を包囲され、苦渋の顔に偽志士たちの顔が歪む。と、破れかぶれになったか、一人が志士が切りかかってきたが、その足元に矢が飛来し、牽制する。
「動くなよ。さっきの一本が終わりじゃないだぜ」
高みから一同を見下ろしながら、ウィルマ・ハートマン(ea8545)がきりりと弓を引き絞る。どうにも逃げようが無い事を悟り、偽志士たちの顔色はさらに青くなり‥‥
「待って下さい!」
静止の声が入った。見れば、小都葵(ea7055)に支えられ吾平がいた。足を引きずっているのは、動けないように哀音が斬り付けたから。それでも痛みを堪えて葵から離れると、偽志士と皆の前に吾平は割って入る。
「お願いします! 見逃してくれませんか!! その‥‥すべて人々の為を思っての行動なんです。お金が必要ならここにあります!!」
頭をこすりつけんばかりにいきなり土下座した吾平に、冒険者たちは一瞬目を丸くする。
懇願の目を向けてくる吾平に葵は静かに首を横に振る。
「あなた方の悪評は京まで届いており、既に壬生狼も動き始めていると聞き及んでおります。彼らの手に掛かれば人誅とされるは必須。大人しく相応の罰をお受けになられては如何でしょうか」
壬生狼。葵が告げるその一言で吾平は勿論、偽志士たちの顔が一気に蒼白になる。
「お‥‥俺は関係ねぇ!! 志士なんて真似、やりたくなかったんだ!」
「そうだ。関係無いんだ。こ、こいつが言い出した事なんだ」
叩き伏せるまでもなく、刀を投げ捨てるや、口々に吾平を指差すと責任をなすりつける偽者たち。
「何つーかなぁ。嘘は感心しないよな〜」
そんな偽者たちにやや呆れつつ、ウィルマはもう一本お見舞いしようとしたが。
「待って下さい。彼らの言う通りなんです。僕が言い出した事で彼らは関係ないんです」
慌てて告げる吾平に、冒険者たちは失意のため息を漏らす。
「私たちは幼馴染の方から依頼をされてきました。騙されている吾平様の目を覚まさせるようにと」
「騙すだなんて、そんな。‥‥あいつの方こそ誤解しているんです!」
桜花が事情を説明するも、この期に及んでまだかばいだてようとする吾平。
「心配して足抜けを依頼する幼馴染みよりも、使い走りに使うような奴等を信じるってのは悲しい話だね〜。大体、志士がそんな事するはず無いってのは此処にいる志士さん達が証明してくれるだろうし。俺ら冒険者も、いろんな事件を依頼されるけど、報酬以上ましてや吹っ掛けるヤツなんてあんまいないっしょ」
恒弥も渡世人である。使い走りの気持ちはよっく分かれど、さすがにここまでいくと理解も超える。
「優しさは大事。でも‥‥その為に、命捨てたら‥‥貴方のコト、大事に想ってる人が悲しむ」
訥々と語る哀音。そして眼前から問いかける。
「あの偽志士達と‥‥貴方の家族や友達。‥‥どっちが‥‥大事?」
静かな言葉に吾平ははっと顔を強張らせると、そのまま黙って俯く。
「やっぱり‥‥僕が間違ってたんでしょうか‥‥」
苦しげに告げる声と共に、吾平の伏せた顔から涙がこぼれる。嗚咽し震えている肩を、恒弥が労わる様に叩く。
「へ、へへ。だったら、こういうのはどうだい。あんたらはそいつらを連れてけばいいさ。その代わり‥‥」
下卑た笑いを見せながら、手を揉み揉み偽志士が告げる。が、皆まで言わさず峰城がじろりと睨む。
「見逃せ言うんか? ご冗談。自分らに責任が無いなら、新撰組に引き渡されても平気やろ。連れてってやるから一緒に取調べを受けな」
「その必要は無い」
返答は早かった。が、応えたのは勿論偽志士ではない。
森の茂みを掻き分け現れたのは二人の人物。顔に見覚えなかろうとも、浅黄色に白地の段だら羽織、背中の誠の文字を見れば誰でも正体を悟る。
「新撰組四番隊組長、平山五郎だ。その者たちの罪はすでに明白。身柄をこちらに渡してもらおう」
言い放った男は30代半ば。左目に傷があったが、その眼光も鋭く偽志士含め冒険者たちを睨みすえる。
「ひ‥‥ひゃあああ!!」
居竦まれた一瞬の隙。恐怖に駆られたか、偽志士たちが逃げ出す。街道をそれると藪の中へとあっという間に消え去った。
「待て! ‥‥?!」
即座に弓を引き絞ったウィルマを、もう一人の隊士が止めた。驚きながらも、逃がしていいのか、と問いただそうとしたその時、
「ぎゃああああああー!!!!」
「ひぃ! ひぎいいいーー!!」
逃げた先から悲鳴が聞こえた。争いあう激しい物音を打ち消す程の断末魔。しかし、それもすぐに止んだ。
静寂の森からは、風に乗り、鉄錆びた香り――血の匂いが届く。
「何を!」
「神皇の威信を軽んじ、偽志士を語る不埒者を討ったまでだ。‥‥そして、残るは一人」
平山が吾平を見据える。腰を抜かした吾平が後じさりをすると、同じ分だけ葵が前に進み出る。
「吾平さんは、秘密裏に潜入捜査を行っていただいただけです。不可抗力ながら、仕事の邪魔をしてしまい申し訳ありません」
誰かが何かを言う前に、すばやくそう告げると頭を下げる。
「庇い立てするか。仲間と見なしていいのだな」
「ええ、どうぞ。ただし、生憎と俺は本物の志士ですよ。‥‥それとも偽者も本物も神皇派の我々は敵ですか?」
からかう口調でも、雨雀の目は真剣である。真っ向から受けた平山は面白くなさげに鼻を鳴らす。
「‥‥ご丁寧に、ここに来るまでの道に罠を仕掛けていたのもお前たちの仕業か」
「まぁ、それは。仕事の邪魔をされたくなかったし」
ウィルマが軽く肩をすくめる。
「いいだろう。そういう事にしておいてやる。が、仕事の邪魔をされたくないのはこちらも同じ事」
言うが早いが、平山は腰の刀を抜き放つ。その切っ先を冒険者らへと向ける。
「余計な手出しは控えてもらおうか!」
強く言い放たった後、平山は踵を返すとその場を立ち去っていった。
何とか罪は免れたものの、やはり行動同じくしていた者が狼の牙にかかったとあって、その後の吾平はすっかり憔悴してしまっていた。その為、彼の行動に少々お説教したい者もいたが、意を汲んで軽い忠告程度に押し留める。
「なんとも妙な仕事と思っていたが。‥‥お人よしっていうのも大変だな」
故郷へと帰る吾平を見届けながら、ウィルマは呟く。
何度も頭を下げた幼馴染に連れられて、肩を落としながら帰る吾平の後姿は非常に悲しそうだった。