猫になった犬
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月24日〜05月29日
リプレイ公開日:2005年06月01日
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●オープニング
「紗枝ちゃーん、遊ぼうー」
村中に響くかのような元気な呼び声に、呼ばれた紗枝は家の奥からバタバタと飛び出てきた。
年としては五つかそこら。姿を見せた少女に、同じ年ぐらいのその少年は顔を綻ばせたが、
「ごめんなさい。茶助の世話しなきゃいけないの」
「えー」
手を合わせて謝る少女に、すぐに泣きそうな顔を作った。
「だって、紗枝ちゃん。昨日も一昨日もその前もずーーーっと茶助の世話するって‥‥。たまには一緒に遊ぼうよー」
「あら、茶助はまだ小さいんだもん。あたしが面倒見てあげないと可哀想じゃない」
抗議する少年に、少し目を丸くする少女。言われた事がさも意外だというように。
「けど‥‥」
頬を膨らませる少年。その彼に、突如吠え掛かる声がする。
吼えたのは一匹の犬だった。全身茶色のまだ小さな子犬。精一杯少年に吼えているが、甲高い声はどこか迫力無い。
「こら、茶助! 太一は大事なお友達なんだから、吼えたりしちゃ駄目っ!」
驚いてしり込みした少年に気付き、少女が即座にたしなめる。さっと手を振り上げぶつようなまねをすると、途端に耳と尻尾を垂れさせて子犬は哀れな声を上げる。
とにかく吼えるのをやめた子犬に、少女はにっこりと微笑んで優しくその頭を撫でる。
「ごめんね、太一。びっくりしたでしょ?」
「ううん、平気だよ」
謝る少女に、太一は首を横に振ると、笑いながら子犬の頭を撫でる。二人から撫でられて、茶助は嬉しそうにぱたぱたと振り続けていた。
「それにしても。駄目じゃない、茶助。こんな所まで出てきちゃ。茶助にはまだお外は危ないんだから、おとなしく裏のお庭で遊んでようね」
言うが早いか、子犬を抱き上げるとさっさと家の奥へと引っ込んでしまう。
「あ、紗枝ちゃ〜ん」
太一が呼び止めるもすでに耳に入らない様子で。
去った少女にがっかりと肩を落としながら、少年は家を後にした。
「ねぇ、紗枝。茶助に構うのもいいけど、もっと他のお友達と遊んでもいいんじゃない?」
子供のやり取りを見ていた母親が心配げに告げる。
が、紗枝の方はじゃれる子犬をあやしながら、とんでもないと言いたげに母親を見上げた。
「だって、茶助はまだ子供なのよ。目を離して何かあったら大変だもの。紗枝がきちんと面倒見るからってお父さんと約束して、その上で茶助をもらってくれたんだもの。だから、紗枝がやらなきゃいけないの」
「いや、あの‥‥そだな」
ねぇ、と同意を求めるように父親を見る少女。父親は困ったように頷き、母親から凄い目で睨まれた。
そして、事件は起きた。
朝。目が覚めると紗枝は一番に茶助の小屋に向かう。
「茶助、おはよう。ご飯もって来たよ〜」
いきいきとした笑顔と共に小屋を覗く少女。そこにはいつもと変わらぬ茶色い小さな姿がある‥‥はずだった。
確かにそれも茶色い小さな姿だった。首輪も茶助がしていたもので、勝手にうろつかないように結んである綱も同じ。
そして、それは紗枝の持ってきたご飯を見て、嬉しそうに鳴いた。
「ニャーン♪」
「‥‥お父さん!! お母さん!! 茶助が猫になったーーーーっ」
そんな訳は無い。
で、冒険者ギルドにて。
「つまり、朝起きたら犬が猫になってたと‥‥」
「そうよ。茶助を元に戻して! ここはそういうお店でしょ!?」
「いや、お店っつうか、何つうか‥‥」
ずいっと猫を突きつけられて、弱り顔になるギルドの係員。少女はぼろぼろ泣きじゃくるし、猫は興味無さげに大あくびをしている。
「お金ならあるもん。お小遣い全部持ってきたもん。だから、お願いっ」
言って財布をひっくり返すが‥‥。まぁ、子供のお金なんてそんなある訳無い。
「あー、うん。そっちの方はいい。とにかくその茶助と家でお利口に待ってろ」
紗枝の頭を撫でると、金を財布に仕舞って渡し、そのまま彼女を送り出す。
そして、係員は冒険者を集める。
「実は、この件に関しては彼女のご両親から依頼が出てる」
曰く。何がどうなったのか原因を突き止めて欲しい。出来れば、茶助も元通りにと‥‥。
●リプレイ本文
「別に魔法の効果は見えませんね。やっぱりただの猫です。‥‥魔法以外で化けている可能性も無きにしもあらずですが」
リヴィールマジックで猫の茶助(?)を見た佐紀野緋緒(eb2245)が診断結果を皆に告げる。言いよどんだ言葉の先で、猫の茶助は丸い目で見つめている。とりあえず、どこから見ても普通に猫だ。
「犬が猫になる訳ない。魔法を使える犬なんて聞いた事も無いし、本物の茶助はどこか別の場所に居るのだろう」
「人に化ける猫の話なら、知ってるけどね」
「にゃー」
森山貴徳(eb1258)が当然と頷けば、眠そうに二条院無路渦(ea6844)が口を挟み、猫茶助も同意するように鳴いた。
「あた、あたしの茶助が〜〜〜」
で、その茶助を手にしてべそかいてるのは飼い主の紗枝である。真っ赤になった目をこする彼女の手をとり目線を合わせると、白河千里(ea0012)は安心するような笑顔を浮かべる。
「紗枝は茶助と遊んでいる時、犬になりたいと思った事はあるか? 強い願いは時として叶うもので、もしかすると茶助も猫になりたいと思ったかもしれぬぞ?」
「何で?」
千里の説明に、紗枝は素直に首を傾げる。
「そうだな。塀の上を歩く猫を見て、『楽しそうだなー、僕も外に出てみたいなー』とでも考えたのかもな。だったら、猫より犬の方が楽しいと思わせてあげないか? これからは、太一も誘って散歩にでも行くといい。一人より二人で行く方が楽しいだろう?」
そう諭すと、すねたように口を尖らせ、紗枝は黙り込む。
「ともあれ、元の子犬に戻す方法を考えましょうか」
占い用として両親から紗枝の持ち物を借り受け、紅桜深緋(ea4258)が告げる。
「戻るの?」
不安そうにする紗枝に、千里が頷く。
「私は魔法も使えるんだぞ」
詠唱しばし、見せた千里の手が炎に包まれると、猫の茶助が驚いて逃げようしたが、それを紗枝はしっかり捕まえる。
「茶助さんを元に戻せそうな陰陽師さんを皆さんで探してますの。だから、もう少し待って下さいね」
柚月由唯乃(eb1662)がお願いすると、紗枝は静かに頷き、少しだけ笑った。
「頑張って茶助さんを見つけますの」
言って由唯乃は拳握って奮起すると、子犬が隠れてそうな場所を幾つか指折り数えながら捜索に出かけた。
「猫の出所も気になるな。俺はそっちを当たってみる」
言うや貴徳はミミクリーで犬に変化する。猫の匂いを覚えると、服を銜え、どこから来たのかを探り出す。
千里と無路渦は紗枝と猫茶助の相手にしばし滞在。
そして、緋緒は太一の家の周辺を調べていた。
「最近、ここいらで子犬の鳴き声が聞こえるようになった場所はないでしょうか?」
ちょうど井戸端会議をしていた奥様連中を見つけ尋ねるも、彼女たちは一様に首を傾げた。
「さあねぇ? 犬を飼ってる家もあるけど、子犬はいたかねぇ」
「そうそう。ちょっと前だけど、夜中に鳴いてるのがいたよ。まぁ、私も眠かったし、放っといたどっか行ったみたいで、それからは聞かなくなったねぇ。ま、どこぞの野良が軒下で産んだんじゃないかい?」
女の一人がそう告げてゲラゲラ笑う。さらに詳しく聞いてみると、丁度茶助が猫になったのはその朝の出来事である。
「失礼。それでは、茶色の猫を見る事は無かっただろうか」
そこへさらに口を挟んだのは、貴徳だった。勿論、今はきちんとした身なりの人間姿である。猫の特徴もしっかりと伝えると、やはり女の一人が声を上げた。
「しばらく前に太一くんがそういう猫と遊んでたねぇ。まぁ、野良なんてここいらじゃ珍しくもないよ」
「けど、猫は嫌だねぇ。勝手に家の物盗んで行っちまうじゃないか」
「おや、犬は吼えるし噛むし。猫の方がよーっぽど大人しいよ」
犬猫談義に花を咲かせだした奥様たちに礼を述べ、ひとまず二人はその場を後にする。
「怪しいな。やはり太一殿の仕業か。‥‥子供故の嫉妬心だろうな」
緋緒が難しい顔で告げる。依頼を聞いた時から、誰の仕業なのかはほぼ満場一致で推測ついていたが、どうやら本当にそうらしい。貴徳もまた大いに頷く。
「かなり薄れているものの、依頼主宅以外であの猫の匂いがするのはここぐらいだし」
が、肝心の茶助の行方はまだ知れない。
「やはり、太一殿に案内してもらいましょうか」
少し肩を落とすと、緋緒は太一の家へと向かった。
家で遊んでいた太一は、みるからに怪しかった。
「紗枝の哀しみの原因がこの近辺にある」
占い師に化けた緋緒がそう告げると、動揺も顕に泣きそうな顔していた。もっとも、五歳程度の子供に腹芸が出来る訳も無いが。
緋緒たちが立ち去り、しばらくすると太一は家から出てきた。
腕に食料らしき物を抱え、周囲を警戒し、太一はそのまま村の外に出る。それから、山の脇道を登り出した太一だが‥‥
「あーーー」
何の神様を祀っているのか、小さな祠があった。そこに人影を見つけて、太一が叫ぶ。
「あらら。本当に太一くんの仕業だったんですかぁ?」
落胆至極に見つめ返していたのは由唯乃だった。太一が怪しいと思えど証拠無しに疑うのも良くない。なので、敢えて地道に捜索した結果、祠の下で鳴いていた茶助を見つけたのである。
その茶助も、今は尻尾を振って由唯乃の手から餌の保存食を分けてもらっている。元気に鳴く声が、無事を告げる。
太一はと云えば、どうしたらいいのか分からずうろたえまくっている。由唯乃の顔と茶助とを見比べながら、あー、とも、うー、ともつかない声を漏らし、
「鳴き声が聞こえたけど‥‥。その犬はキミのかい? かわいいね」
入ってきた第三者にさらに驚いて、あからさまに震え上がる太一。
「何故こんな所でこっそり飼っているの? 親御さんにでも反対されているのかな?」
太一と目線を合わせて、深緋は問いかける。警戒を解いてもらえるよう人遁の術で同性の少年に変装し、さらに合わせて声音も変えている。
だが、効果はどうも薄かったのか。太一は追い詰められたネズミみたいな感じでおろおろとしていたのだが‥‥、
「ご‥‥ごめんあさ〜い」
我慢の限界が来たか、ぼろぼろと泣き崩れてしまった。
結局の所、皆の読みは当たっていた訳で。
最近遊んでくれない紗枝に構って欲しかったのと、茶助への腹立ちも相まって今回のような行動に出たそうだ。
ただ、ちょっと困ればいいや程度に考えてたのが、紗枝はすごく泣き出すし、知らない大人(冒険者たちの事である)がたくさん調査に来てしまったしで、予想以上の大事になってしまい、本人自身も怖かったらしい。落ち着くまで散々泣いて謝り、結構な時間を費やした。
その後、茶助を連れて紗枝の家まで戻る。
家では、千里が犬小屋の掃除をして待っていた。
そして。縁側では猫の茶助が丸くなっていて、傍では泣きつかれた紗枝も寝ていて、ついでに無路渦とその飼い犬である柴犬・真黒も気持ちよさげに寝ていた。
「‥‥えい、起きろ」
「イタッ」
猫茶助の手を取ると、千里は無路渦に猫パンチを繰り出す。驚いた猫茶助が爪まで出したものだから、無路渦の顔には小さな赤い筋が出来てたり。
「何〜」
その騒ぎで起き上がる紗枝。千里に犬談義を披露したり、無路渦の真黒の躾に付き合ったり(こっちは紗枝が勝手に口出ししてきただけだが)で、機嫌は大方直っている。が、それでも傍の茶助が猫なのを見てまた泣きそうになっており‥‥
「あー、悪いけど、厠はどこかな? 案内してくれないだろうか」
泣き出す前に、千里は紗枝を連れ出す。
「いいよ、行ったよ〜」
二人が居なくなったのを確認して無路渦が貴徳たちを呼び寄せる。互いの腕には犬と猫。こっそり交換する予定だったが、
「ワンワン、ワンワン」
久しぶりの我が家が嬉しいのか、茶助が盛大に吠え出す。途端、厠の方からバタバタバタと凄まじい足音が聞こえて来る。
それを聞きつけ、慌てて猫を押しやると、犬の茶助を小屋に入れる。
「あーーーっ、茶助だーー。戻ってる〜〜」
綺麗になった小屋が気になるのか、必死に匂いをかいでいた茶助を抱き上げると、紗枝は嬉しそうに頬摺りする。あまりに力一杯抱きしめるので茶助が目を白黒させており、慌ててそれを引き剥がしたり。
「でも、どうして? どうして茶助は猫になってたの?」
「それは、皆でかくれんぼをすると分かりますよ」
にっこりと笑って告げる深緋に、ますます訳が分からないと云った様子で紗枝が首を傾げていた。
「いーち、にー、さーん、しー」
幼い声が辺りに響く。
鬼は満場一致で太一であり、紗枝は勿論や他の冒険者たちはとっとと隠れる。
「がんばれよ」
隠れ際に、貴徳は小さくそう言い残す。
「くー、じゅー」
数え終わって目隠し取る。が、しばらく太一は気鬱そうに俯き、やがて気重そうに顔を上げて‥‥。
「お姉さん、見つけた」
「ふに?」
至極簡単な場所に、無路渦を見つける。暢気に欠伸をする無路渦を太一は黙って見ている。他の者を探しにいこうとしない。
「あのね。自分の気持ちを素直に言う事は‥‥別に難しくない、と思うよ」
「うん‥‥」
告げる無路渦に、やはり気重に返事をして、太一は紗枝を探す。
かくれんぼ、というのも、冒険者が出した案だった。これは太一と紗枝が二人だけになってきちんと事の顛末を話せるようにとの心遣いである。
それを分かっているから余計に太一の足取りは重い。が、やがて、意を決したように顔を上げると真っ先に紗枝を探す。元々子供の隠れる場所など知れている。すぐに彼女は見つかった。
「あのね、紗枝ちゃん。あのね‥‥」
「?」
鬼に見つかったのをがっかりしていた紗枝だが、その鬼の態度が変な事にきょとんとしている。
「あのね、ごめんなさいっ!!」
精一杯に頭を下げると、太一はこれまでの事を一気に話し出す。喋っている内に、また泣き出していた太一だが、それを紗枝は黙って聞いていて、
「太一の馬鹿ーーーっ!! あたしがどんだけ茶助の心配したと思ってんのよーーっっ」
ばちん、と痛烈な平手が太一の頬を打つ。
そのまま揃って大泣きしだした二人を、さすがに黙っても見ていられずに、冒険者たちは飛び出す。
「うーん、猫の茶助さんも連れてきたんですけど‥‥。ちょっと冗談言ってる場合じゃないですね」
猫茶助を抱きながら、困り顔で由唯乃は二人を見遣る。
「お前も災難だな。行く当ても無いなら私が貰って帰ろうかな」
ふにふにと、猫の肉球で遊んでいる千里だったが。
「あら駄目よ」
ぐしぐしと涙を拭き取ると、紗枝はその横から猫茶助を強引に奪い取り、太一に押し付ける。
「この猫は太一が拾ったんでしょう? だったら、太一がちゃんと面倒見ないと。で、あたしと太一と茶助とこの子で遊ぶの」
けろりと吐いた言葉に、思わず吹き出した者幾人か。
太一は言われた事が良く分かってないのか、きょとんとした顔で猫を抱いたまま突っ立ってる。が、事情をようやく飲み込むと、今度は嬉し泣きで涙を零しながら何度も頷く。
「もう大丈夫ですね」
それを見て、緋緒は満足そうに頷く。
すれ違いを重ねて成長していく子供たち。それでも、今はもう二人の気持ちは一緒なのだから‥‥。