月道探索 その後 〜 迷子探索

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや易

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:06月03日〜06月08日

リプレイ公開日:2005年06月14日

●オープニング

 今年になってから始まった京都への月道探索は、多くの冒険者たちと共に長い探索の末、江戸城地下にその施設を発見した。
 十五日の満月の夜。唱えられたムーンロードは確かに京都への道を開き、その存在を示したのだった。
「それ見た事か。わしの考えは正しかったのだ。思い知ったか狐小僧めが」
 そう言って笑うのは計画推進者である陰陽師・蘆屋道満。この件で一番利を得たのは彼かもしれない。ま、見つけるまでの過程でいろいろあったりもしたので、そこら辺を突付かれてあんまり順風満帆とは言えない様だが。
「まー、そんな上の事。あたしらにはどーでもいいんだけどね」
 うんざりをため息つくのは、京からこの件で江戸へと呼ばれていた陰陽師・小町。その顔はかなりご機嫌斜めだ。
 月道探索で呼ばれた以上、月道を発見すればお役御免となるはずだった。
 が、その月道は江戸城地下にあった。それだけならまだしも、とにかく広大な迷宮の中にあったというのが問題だった。
 京への月道はいろいろあって、先人たる陰陽師たちが封じた場所でもある。そのせいか、周囲の迷宮には罠あり守護獣ありと陰険極まりなく。おまけに長い年月でほころびた外壁から、入り込んだ害獣やらそのまま抜け出せなくて果てて蘇った死人憑きやらがうようよしている。
 月道の使用は勿論の事、そも江戸城の地下というのが治安にも関わる為、現在月道整備と合わせて迷宮の調査も行われている。その過程で何が起こるかわからない以上、陰陽師である彼女もまた調査に駆り出されて江戸滞在を余儀なくされていた。
「っていってもさー。あたしこういう穴ん中で使えそうな術は覚えてないしー。巻物も汚すなとか言って貸してくんないし、一体何しろって言うのよ」
 ぶちぶちと文句たれながら、小町は迷宮の中をずかずかと進む。手にしてるのは筆記用具。要するに迷宮の図面を作ってる訳だ。‥‥それ以外役に立たないという意見もある。
「あー、もう。本当だったらとっくに京へ返り咲いてる頃なのに〜。どうせなら、向こうで整備の仕事をしたかったわ」
 情勢不安の影に隠れて目立たないものの、江戸での発見にあわせて京でもその月道整備が進められている。まぁ、向こうはこちらほど問題点は無いようだが。
「すぐに帰れると思って、猫送っといたのにまた会うの先になっちゃう。心配だわー。無事着いたって知らせはあったし、その後も何かお父様と気があってるらしいから平和らしいんだけど。不慣れな土地で迷子になってたりしないかしら。
 ねぇ、どう思う?」
 ひょいと後ろを向く小町。
 勿論そんな場所なので、彼女一人で活動するはずは無い。何人かの組になって迷宮を移動していた訳だが、
「あら?」
 その姿が消えていた。誰一人としていない。試しに名前を呼んだり、わき道を覗き込んだりしても影も形も見なかった。
「仕方ないわ。ここは一旦戻るべきね」
 早々にそう判断すると小町は来た道を戻りだす。
 地図は自分が手にしている。道しるべはつけて置いたし、念の為糸も垂らして来ている。
 が、
「はれ?」
 手始めに糸を手繰ると、手ごたえはすぐに消えた。さらに手繰ると切れている。ネズミにでも齧られたらしい。
「え、えと。大丈夫よ。道しるべはあるし、地図もあるし」
 一抹の不安を無理やり笑顔で捨て去ると、また歩き出す‥‥のだが。
「‥‥なんでここ横道があるのよ」
 地図の上では一本道なのだが、今は横道ができている。隠し通路の類を誰かが見つけたのかと思ったが、その向こうに誰かがいる気配は無い。
 とにかく今は帰還する事が大事、と(多分)正規と思われる道を進む小町。
 それもつかの間、すぐに道は行き止まってしまった。
「な、なんで〜。この通路はまだまっすぐなは‥‥」
 泣き言を言いそうになった小町だが、すぐに何かを思いつき、静かに息を吐く。
「‥‥えーい、もう! 邪魔なのよーーっ!!」
 げしげしげしげしっ。
 八つ当たりもいい所に目の前の壁を蹴り付けるが、そんな事で壁が動くはずも無い。行き止まりの壁を見ながら小町が唸る。
 がっくり肩を落とし、これからどうしようと延々悩み続けていると、ふと人の気配を感じた。
 逸れていた仲間か。そう思って振り返った小町だったが、目にしたのは腐りかけた人間だった。
 多分、元は盗賊かなんかだったのではなかろうかと、推測している場合でもない。
「うきゃあああああああーーーっ!!」
 悲鳴を上げて小町はその場から全力で走る。死人憑きの歩みは遅い。たちまちその姿は見えなくなる。
 十分引き離せたと確信してから小町は立ち止まる。息を整え、周囲を見やる。適当に走った為にもう自分がどこにいるのかも分からずにいる。
 おまけに、息を殺すとかさかさと何かが移動する音がする。暗闇からは光る目が向けられ、松明の炎を嫌って地底の虫がそこかしこを這いまわる。
「ちょっとこれは‥‥『ぴんち』って奴かも〜」
 さすがの小町も顔が引きつるのを止める事はできなかった。

 そして。冒険者ギルドに依頼が出される。
 曰く、月道迷宮にて迷子になっている陰陽師を探してきて欲しい、と。
 おそらくは探索区画からは出ておらず、そのどこかにいると思われる。戻ってきた者の話によれば、その区画に罠などは無いらしい。だが、一般的な獣や虫、死人憑きの他、塗坊の存在が複数確認されている為、厳重に注意して欲しいとの事。

●今回の参加者

 ea1244 バズ・バジェット(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8806 朱 蘭華(21歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

三笠 明信(ea1628)/ ルミリア・ザナックス(ea5298)/ 野乃宮 霞月(ea6388)/ 秤 都季(eb2614

●リプレイ本文

「へぇ、江戸城の下に迷宮があったとは初耳だ。しかも月道とはな」
 ぽかりと開いた迷宮の入り口。その広さを確認して、御神村茉織(ea4653)は感嘆の声を上げる。
 月道がもたらす利益は計り知れないが、滅多に見つかる物でも無い。だからこそ、月道を専門に探す山師がいたり、月道を発見した者には莫大な報奨金が支払われたりする。
 そんなものが、日々雑多な生活を送る足元に眠っていたなど、そうそう思いつく物でもなかろう。
「何を暢気な‥‥。小町さん、行方不明だなんて大変です。早く救出に行かないと」
 不安げにしているのはミィナ・コヅツミ(ea9128)。以前にも顔を合わせた事があるだけに、気が気でないと云った様子。
「そう簡単には死なないらしいし、大丈夫でしょう。ただ、探すのがかなり面倒みたいですが、調査はしているし、地図もあるのでしょう?」
 それでもあくまでのんびりと尋ねるバズ・バジェット(ea1244)だったが、迷宮調査をしていたという者たちからは何とも曖昧な返事が返ってきた。
「何分、迷宮全体が広いんですよ。未踏の地もまだありますし、今回の場所だって全体からすればほんの一部でしかないんですし、地図が書けたのはそのさらに一部。おまけに塗坊が出るとなると、その地図も騙された道が記されている危険があります。地図を正そうにも、今は迷宮自体の解析よりも月道までの道確保が優先ですからね」
 月道が発見されるや、源徳家康は一般人への解放ではなく京に向け兵を送る事を決めた。京を騒がす黄泉人を討伐する為だ。
 その兵や物資を運ぶだけの月道整備はしておかねばならない。だから人探しなどの時間は無いのにー、とぼやく。
「大丈夫。迷子の小町さんを捜して保護するだけだよね。ま、探す際に僕自身迷わないように気をつけなくちゃいけないけど」
「まぁ、探しに行って迷いましたじゃ笑えないな」
 軽く笑う所所楽石榴(eb1098)に、リフィーティア・レリス(ea4927)はそっと頭を抱える。
「そういや、小町はどんな外見なんだ?」
 尋ねる茉織にミィナが答える。
「年は私より若いです。髪は黒くて肌は黄色で目は黒くて‥‥」
「そんな事考えなくても。生きてる人間なら彼女ですよ。後、動いてる人型は死人憑きぐらいしかいないでしょうしー」
 はっはっはと、軽く笑ってる係員に、ミィナは嫌な顔をしている。
「にしても、若いって事は結局ガキって事じゃねーか。‥‥これは期待できねぇな」
 明らかにげんなりとやる気の失せた顔を見せる秋村朱漸(ea3513)。
「何か言ったか?」
「いや、別に」
 冷徹に問いかけてくる氷雨雹刃(ea7901)に、朱漸は慌てて頭を横に振る。と、皆の後ろから明かりを手に迷宮へと足を踏み入れた。

 小町がいる、という区画は石造りの壁が並んでいた。足元も石が敷かれてるのは歩きやすくてよいが、目を閉じてぐるりと回って見れば、さて、自分が先ほどまでどちらを向いていたのかなど分からなくなるだろう。――勿論、そんな馬鹿をする場合でも無いが。
 地図を確かめながら進み続け、手伝いに来た者も時間の都合で引き返してしまう頃になっても、特に何事も起こらず、せいぜいネズミやら地底の虫やら百足やら蚯蚓やらと目を合わせる程度。最初に異変が出たのはそれからさらに歩いてからだった。
「‥‥道が怪しくなってきてますね」
 曲がり角には先の調査隊がつけたのだろう印が今なおくっきりと見えていた。なので、それとは別に自身でも矢印と数字を記していたバズも、記そうとした角に先までの印が無い事に即座に気付いた。改めて地図を確認しても、ごちゃごちゃと道が書き足されていた。
「ここいらに罠の類は無いらしいし。となると、やはり塗坊の仕業だな」
 周囲を点検して、茉織が告げる。
 気配が無いか、ゆっくりと視線を巡らせていた朱蘭華(ea8806)は、何気に頬にかかった髪を払いのけようとし、
「‥‥今、風が動かなかったかしら?」
 その事実に気付く。
「そういえば、遠くで何か動く音がしたけど。多分、塗坊だろうね。結構あちこちで聞こえるけど‥‥」
 蝙蝠の術で聴覚を上げていた石榴は改めて教えてもらうと、気付いた事を告げる。
 周囲を見渡すが、異変は無い。風、というのも案外蘭華の気のせいなのか。彼女自身も少々自信を無くしてくる。
「そういう事なら、役に立つだろう」
 言って雹刃は線香を取り出す。意図した目的とは多少異なるが、風を見る分には便利な事は変わりない。
 火をつけると、細い煙が立ち昇る。息を殺して見ていると、ゆらりと大きくその煙が揺らいだ。
「流れを変える動きがあったという事ね。‥‥少し戻ってみましょう」
 蘭華の懸念に異を唱える必要も無く、一同は来た道をしばし戻る。
 果たして、戻って見ると取り立てて何事も無く、地図としては正常だった地点までたどり着いた。
「おかしいな。こっちから確かに聞こえたのに?」
 首を傾げる石榴。
「さらに戻ってみるか、それともとりあえず無視して捜索を続行するか」
 茉織が問うと、皆の視線が交わる。
 食料は十二分にあるので、潜り続ける事は可能。明かりも無駄に使わねば足りうる量は用意出来ているし、効果時間は短いがリフィーティアのライトもあるので何とかなる。
 結局はまた来た道を行き直す一同。
 なのだが、
「おい」
「ああ?」
 皆の後ろを歩く雹刃が、歩き続けながら隣の朱漸に話しかける。
「さっきから壁が動いてる気がするんだが」
 言って立ち止まる。無表情な顔つきからは、雹刃が呆れているのか怒ってるのか焦っているのかは分からない。
 ただ黙して見つめる視線の先には一つの壁。道幅も高さも見事なまでに統一されたこの内部にあって、その壁の部分だけが人二〜三人分だけ通路側に分厚くなっている。
 試しに歩くと、その部分だけが同じように動き出し‥‥、
「って、バレバレなんでしょうが!!」
 拳をしっかと握り締めると、蘭華が思い切り殴りつける。ばれたと気付いたのか何なのか、塗坊はさかさかと前に回り込むと、巨体でもって通路をぴっちりと塞いだ。そのまま通せんぼを決め込んでどっしりと動かない。
「手触りは普通に石だな」
 触れて見た茉織はしみじみとそう告げる。塗坊は通路に隙間なく綺麗に埋まっており、周囲に溶け込んでいる。明かりに乏しい事もあって、そこに妖怪がいるとは知らなければ気付けないだろう。
「さて、どうします? 塗坊は具体的な攻撃はしませんが、倒すとなると少々頑丈ですよ」
 バズが知識を披露する横、雹刃は松明を構えると、塗坊に突きつける。じりじりと表面に焦げ跡がつこうとさっぱり動かなかった塗坊だが、やがて、さすがに観念したのか、他に理由があるのか、ゆっくりと塗坊は動き出す。
「‥‥行ったな」
 冷たく鼻で笑って、松明を遠ざけた雹刃ではあったが。
 どんでん返しのように塗坊が体勢を変えた。その向こうから姿を現したのは、死人憑き。塗坊の巨体に阻まれていた彼らは、腐肉を撒き散らして生きている者へと近付いて来る。
「はっ! こいつらには容赦はいらねぇな。パキパキいくとすっかい!」
 にやりと笑うと朱漸が霞刀を抜き放つ。
「地下とはいえ、こうも暗いと今が昼か夜か判断つきかねるな。元より魔法は得意ではないのだが」
 顔を顰め、リフィーティアも取り合えずは鬼神ノ小柄を抜き放つ。
 実際、詠唱は必要なかった。数が少ない事もあって、掃討まで瞬く間だった。
 支援を考えていたバズもただ苦笑するだけだった。
「楽勝楽勝♪ でも、出来たらなるべく戦わないで、小町さんを見つけられたいいんだけどな」
 霞小太刀についた腐肉に顔をしかめながら、石榴は通路を見遣る。戦闘の騒ぎがあったにも関わらず、周囲に依然変化無し。耳を済ませど足音一つしない。
「はん! 所詮はど腐れ野郎どもが! てめぇらなん」
「うっせぇってば」
 何だか狂化して罵声を浴びせてるミィナの首筋に、朱漸が手刀を叩き込んで黙らせる。そのまま至極面倒臭そうに、気を失ったミィナを担ぎ上げて、
「って、どさくさにどこ触ってんのよーっ」
 どー考えても支えるには不自然な位置に置かれた手に、ミィナが顔を真っ赤にして朱漸を殴りつけていた。

 迷ったり戦ったり逃げたり‥‥。そうして結構迷宮の奥地へと進んできていた。途中、人のいた痕跡は見つかるが、一向に小町の姿が無い。
 ミィナは自分の犬に匂いをたどるよう申し付けるが、他の匂いにでも紛れているのかうまくいかない。
 休息は取っているが、どこか疲れが抜け切らない。変化に乏しい景色は、歩いても歩いても実は同じ場所にずっととどまっているだけなのかという錯覚に陥る。
「うぉーい、誰かいませんか、と」
 朱漸が声を張り上げるのも何度目か。その声も初めに比べると、ずいぶんおざなりになってきていた。
 どうせまた返事は無いだろう、と誰もがどこかでそう踏んでいたのだが、
「あ、いた?! 誰かの声が聞こえた!!」
 石榴が声を上げる。すかさずバズがバイブレーションセンサーの詠唱をし、
「走る音が聞こえるな‥‥?」
 顔を上げた先、長く伸びた通路がある。光も差さぬその暗がりの奥から一人の少女が走りこんで来る。
「小町さん! 無事で何より‥‥」
「挨拶はいいから! これ何とかしてぇ!!」
 喜色を浮かべるミィナに対し、涙目で小町が告げる。
 何が? と問う間も無かった。光に引かれたか羽虫――どうやら蛾らしい――が、雹刃の前をよぎる。と、思うや、その数を増やす。
「毒蛾では無いようですけど、こうも群れてくれると気持ち悪いですねぇ。‥‥小町さん、ワタルくんの荷物使って下さい!!」
「! ありがと」
 ミィナの指示で、柴犬の荷を探ると、中のスクロールを確認して小町が笑む。
 広げて祈る事しばし。途端に巻き起こった小さな竜巻に蛾が巻き込まれる。さすがに堪えたか、ふらふらと逃げ出す蛾の群れ。
 残った蛾も始末して、辺りが静かになると深く息を吐いて小町が座り込む。
「やっと助かったぁあ〜。これ、ありがと」
「よろしかったら差し上げます。いろいろ差し上げようと思って用意してたんですけど、異国の学生服でよければ着替えます?」
 泥だらけの疲れきった姿で、ミィナに頷く小町だが。 
「けっ、やっぱりただのガキか。おまけに胸もぺたんで。小町なんていうから、多少希望は持ってたのにくたびれもうけ。報酬があるだけまだマシってかよ」
「ガキで悪かったわね! 名前付けたのは親よ。結構気に入ってるんだからケチつけてんじゃないわよ!」
 あからさまに嘆息ついて嘆く朱漸にはまだまだ元気に吼えたてている。もっとも、朱漸の方はそっちには相手せず、ぶつくさと文句を言うのみだが。
「まぁまぁ、無事でよかった。ちっと遅くなったかもだが、ちゃんと迎えに来たぜ、お嬢」
 茉織が小町を諌める。軽く頭を叩くと、小町は肩をすくめ、改めて皆に礼と詫びを述べた。

「はぁ〜。やっと出れた〜」
 それから後も、すんなりと出口までたどり着けた訳で無く。塗坊の通せんぼだとか、死人憑きの追いかけっことか、結構な紆余曲折で経て、どうにか迷宮を抜け出した一同。
「運が良くないのは自覚してたのだが。予想以上に抜けるのに手間取ったな」
 一体どのくらい潜っていたのか。美味そうに空気を取り入れている小町の横では、やはり似たような表情でリフィーティアが座り込む。それに習うように、他の面々もほっと息をついていた。
「あの。色々と酷い事いったかもしれません。やっぱり混血って嫌ですか?」
 その小町の袖を引きながら、すまなそうにミィナが告げる。寂しげに笑う彼女に、小町は少しだけ首を傾ける。
「そうね。正直少しは考えるけど。でも、そうして考えた上で一緒にいるんだから、気にしない気にしない。お土産ありがとうね、遠慮なくもらっとく」
 からからと明るく告げながらミィナの背を叩く小町。悪びれもせずに笑う彼女に、ミィナは少し涙ぐんで睨む。
「さて。ここでへたっててもしょうがないし。さっさと江戸の町でゆっくり休みたいわ。水ではなく、お茶が飲みたいわね」
 大きく息を吸って蘭華が告げると、小町の顔がほころんだ。
「いいわね。迷惑かけたし、あたしがおごるわよ。松之屋さんでいいわよね」
「って、松之屋の茶はタダじゃねぇか!」
「ほっほっほ♪」 
 そんなこんなでがやがやと。実ににぎやかにしながらも、ひとまずは無事に江戸へと戻っていく。