【黄泉人決戦】 長い物には巻かれるな

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月22日〜06月27日

リプレイ公開日:2005年07月01日

●オープニング

「急げ! 我々だけが遅れてしまっている」
 とある山の中。隊列が道を行く。
 大和より来たる異形の群れ。黄泉人と云われる彼らが多数の死人と共に京へと攻め上ろうとして数ヶ月。
 単発的な紛争はこれまでも起きていたが、ついに、これを留めるべく大規模な攻勢がかけられる事となった。各地の藩主・有力者にも声がかけられ、久々の合戦となっている。
 さて。戦において必要なのは兵だけではない。
 兵を生かすに足りうる食料や薬、武器なども必要。現地で調達する事も出来ようが、それで全てを賄えるとも限らず。よってそれら物資を現地へと運ぶのも重要な役目だ。
 そして、彼らはそんな重要な役目を担い、大和へと向かっていた。だが、道中で運んでいた荷車が壊れてしまい、その代えを用意して荷を積み替えるのに相当な時間を費やしてしまっていたのだ。
 なので、急ぎ届けんと、足早に山を通り抜けようとする。黄泉人や死人が出ないとも限らないし、そうでなくとも他の狐狸妖怪・鬼の類が出るような世である。加えて、神皇の威信を軽んじる野党らが荷を奪いに来る事態も十二分に考えられる。
 隊列を組み、前後左右あらゆる場所に注意を向け‥‥、
「お、おい。あれは何だ!?」
 一人が空を指差す。一斉にそちらに目を向ければ、そこに白い布が飛んでいるのを見る。
 全部で五。いずれも一反ぐらいの長さの反物で、最初こそ風に飛ばされているのかと思っていた。すぐにそれが間違いだと気付いたけれど。
 なぜなら明確な意思を持って空をよぎると、それらはこちらへと向かって来たのだから。
「妖かしか!」
 全員が即座に抜刀する。
 翻る反物相手に睨みを聞かせていた彼らだったが、
「うわああ!!」
 悲鳴は予想外の方向から聞こえた。見れば、隊の一人が布に巻きつかれ、あるいは巻きつかれかけているのを振り払おうとしている。
 どうやら背後から忍び込まれてしまったらしいそれらは、単なる布ではない。そして、今飛来している反物でもなく、その姿はといえば実に見慣れたもので、
「ふ、褌?!」
 紛れもない六尺褌を、傍の一人が直ちに引き剥がす。褌は地に落ちずにふわりと宙を舞った。その数も五体。先の五体とは別の新手である。
「ちぃっ!!」
 苦々しく思いながら、とりあえず褌に刀を突きたてようとしたその時、
「やめるんだーーーっ!!」
 後ろから羽交い絞め! 見れば、先ほど褌に巻きつかれた隊員が滂沱の涙を流しながら訴えてくる。
「褌は悪くないんだ! あの純白で清らかで美しい褌が酷い事をするはず無いんだーーーっ!!」 
「わ、馬鹿、離せ! とち狂ったのかーーっ!?」
 抱きつく隊員を慌てて振りほどこうとするが、その時には目の前に反物があった。
 恐れ引きつるその者の足元に低く反物は近づくと
「ぎゃあああっ!!」
 するりと着物の下に入る込むとそのまま股に纏わり付き
「ふっ、そうか。そいつは褌になりたかったんだな‥‥」
「死ぬほど(ピー)を締め付けてくる褌なんぞいらんわーーっ」
 何やら感動している一人に突っ込むと、反物に巻きつかれた彼くん、あえなく気絶。口から泡吹いてるけど、まだ死んでは無い様子。
「撤退。ここは一時撤退するぞ!!」
 混乱する隊では、もはや負かせる事は不可能。そう判断した隊長は即座に指示を出したが、
「ぎゃああ、助けてくれー」
 さらに大きな悲鳴が上がる。何事かと目を向ければ、いつの間にやら、逃げ惑っていた一人の下半身に異様な異臭を放つ不定形の物が貼りつき、飲み込もうとしている。ふるふると体を震わせながら、そいつもやはり着物の下へと潜り込もうとしていた。またもや新手の出現である。
「そうか、あいつも褌仲間か‥‥」
「あんなぐちゃぐちゃなの纏いたくないやい」
 おまけに不定形妖怪は着物を溶かし、褌を溶かし、さらには皮膚も溶かしている。‥‥彼はこの先大丈夫なのだろうか。
 などと心配している間も無い。
 現場はもうむちゃくちゃだった。
 反物妖怪は下半身を締め上げる。不定形は同じく下半身に巻きついて溶かそうとする。褌妖怪は人に巻きつこうとするが、巻きつかれた相手は何だか褌好きになっているし、そうして褌好きになった隊員は、褌に執着して他人の褌を狙って追い掛け回す。
 早々に逃げねば、いろんな意味で危ない!
 そう判断した理性ある者は、仲間と荷物を引っ掴むと、必死の形相でその場から走り去っていた。

「何ですが。彼らの移動もまた速く、我らは逃げるのに必死で、結局荷を置き去りにせざるを得ませんでした‥‥。運んでいた物資は薬の類も多いので、放置すると正直前線に響く可能性もあり。しかし、我々は今回の事で深く傷つきもはや移動もままならず。どうか、我らの代わりにあの物資を拾って届けてくれませんか?」
 それにはあの三種の妖怪をどうにかする必要があるのだけれども。
 ギルドを訪れた隊長は係員にそう頼む。
「おそらくは一反妖怪と六尺褌妖怪と白溶裔だろうな‥‥。ちと数が多いのと特殊能力が厄介だが、放っとく訳にはいかねぇよな」
 今回の決戦には冒険者ギルドも冒険者を募り、参戦を呼びかけている。それに物資が足らないというのは非常に困る。
 苦りきった表情で告げるも、係員は募集の貼り紙製作に乗り出す。
 それでほっとした表情を見せた隊長だったが、と、心配そうに目をまた別方向に向けた。
「それと‥‥、彼、治るんでしょうか?」
「ああ。褌妖怪の仕業だろう。だったら、何日かで正気に戻るから心配しなくてもいい」
 見遣った先にいるのは、褌に頬摺り寄せてぐふぐふ笑っている隊員の姿が。
「うふふふふ。この手触り、このか・ほ・り♪ ああ、もう最高〜♪♪」
 とはいえ。
「って事は。何日かはこのままなのですね」
 はらりと涙を落とす隊長。隊が負った傷は肉体よりむしろ心の方が深いのかもしれない。
 係員は、目を伏せ静かに隊長の落ちた肩を叩いた。

●今回の参加者

 ea2700 里見 夏沙(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5899 外橋 恒弥(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6877 天道 狛(40歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8968 堀田 小鉄(26歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

御影 涼(ea0352)/ カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)/ 哉生 孤丈(eb1067

●リプレイ本文

 世の中には、思うようにいかない事がままある。我ながら馬鹿な事をしていたり、全くの偶然から違う道に入り込んでしまったり。
 ふと過去を振り返っても、今とのつながりが希薄に見えてしまったり。
「俺、なにやってるんだっけ‥‥」
 何故に、褌にまみれて喜んでいる男衆を見学せねばならんのか。果たして一年前の自分はそんな事予測していただろうか。里見夏沙(ea2700)はとーすぎる空を眺めながら、そんな事を考えていた。
(「ま、いいがな‥‥」)
 そんな事を考えた所で、どうにもなる訳ではない。さっさと気持ちを切り替えるが‥‥目の前の光景を見てやっぱり頭が痛くなる。
「ふふふふ、褌〜」
「えーい、しわを作るな。しわを」
「まて、それは俺のだー!!」
 その正体は、黄泉人との決戦に備えて必要な物資を運んでいた兵士たちなのだが。運搬途中に無関係な妖怪の襲撃にあって撤退。問題はその中に六尺褌妖怪なる、ちょっと奇妙な妖怪がいた事である。
「つまり‥‥こうなるのね」
 妖怪のせいで褌に魅せられた男たち。今回の依頼は油断するとこうなるのだと、下着を手にしてにへらにへら笑ってる彼らの姿を天道狛(ea6877)は心内にしっかと焼き付けている。
「一週間ほどで治ると江戸の馬鹿弟子が言ってたけど‥‥経過を見るしかないわね」
 そら恐ろしいモノでも見るかのように、狛は目を細めて呻く。そんな狛の肩を白翼寺涼哉(ea9502)が優しく抱きしめる。
「褌依頼が来たー♪と、喜んどるヒマぢゃねぇな。京都の越後屋に褌が出回らんのも奴らのせい‥‥。褌妖怪どもをシメようかねぇ」
 妙に力の入っている涼哉だが‥‥越後屋に品が無いのは彼らのせいではない(と思う)。
「新春に鬼の褌拝んだばかりなんだけどなー。ま、他人様の褌見るのはたまにで良いよ、うん」
 外橋恒弥(ea5899)は神妙に頷いているが、やはりそれは自分への言い訳らしい。
「どうせなら胡瓜に襲われたかったけどさー」
 ついに本音が漏れて、がくりと恒弥が肩を落とす。
 ‥‥それもどうかと思うが、確かに男の下着まみれになるよりかは楽しいかもしれない。
 
「死人程しぶとくないだろうし。布とフンドシとジェルごとき、俺のオーラで吹き飛ばしてやらぁ」
 気合十分に笑うバーク・ダンロック(ea7871)は、他の冒険者よりやや手前を率先して歩いている。六尺褌を晒して歩く姿はどこか勇ましげでもある。
 彼らがついに置き捨てざるを得なかった荷というのは、比較的楽に回収できた。‥‥最初の一つは。
「何と言うか、彼らの慌てぶりが分かるようでござるな」
 荷物を回収しながら、阿阪慎之介(ea3318)が小さく呻く。
 大事な荷というのは重々承知していた為か。どうやら逃げる途中で優先順位の低い物から置き去りにしていたらしい。結構広範囲に散らばっていた。
 街道に沿って転々と転がる荷物。一応軍の品であるのだから、後で回収できるよう、目を離しても盗まれぬよう隠されてはいたが。ちょいと草で覆っただけだったり、祠に乱雑に詰まれていたりするのは、隠した時の時間の無さが窺い知れる。おまけに少し街道を外れたり、妙な道の奥にあったりするのは‥‥逃げ惑った結果だろう。
「しっかし、いい薬使っとるやん。コレ運ばんのはもったいねぇなぁ」
 ちょろっと荷物を覗き見し、涼哉が顔を顰める。勿論安値の薬草なども多いが、魔法薬もかなりの数が揃えられている。
 手伝いに来た者たちにも手伝ってもらい、荷物を一つに纏めて運ぶ。あいにくと彼らは時間の都合で中途で帰らざるを得なかったにしても、結構な量をそれまでに回収できていた。
「依頼主の言葉からしてあれが最後の荷か。そして、そもの襲撃現場が近いという事に‥‥ややっ!!」
 落ちていた荷を拾おうとして、バークが近寄った所、陰からいきなり何かが飛び掛ってきた。それには気付けたが、飛び掛る動きまでは避けきれず、にゅるりとそいつは足元に絡みついてくる。
 白く粘つくそいつは白溶裔。次々とバークの褌に目をつけ、纏わりついてくる。
「おらおら、どうした? まっさらのフンドシはこっちだぜ!!」
 だが、それを恐れるどころかむしろ挑発し、バークは荷物との距離を開ける。ひらりと飛び掛ってくる白溶裔を避けきれぬ事もあったが、オーラボディがその攻撃を軽微なものとしている。
 十分な距離、と踏んだ地点でバークは足を止めた。と、同時、視界の隅でひらりと白い物が舞う。
 白溶裔のとろけた白でない、間違う事なき六尺褌!! さらには一反妖怪も姿を見せ、襲い掛からんとしている。皆から離れていた為、絶好の獲物とでも思われたか。
「好都合だ!」
 豪快に笑うと、その身が淡い桃色に輝き、――オーラアルファーの光が爆発した。
 バークに纏わり着いていた白溶裔は勿論、周回していた六尺褌妖怪や一反妖怪すらもその被害に巻き込まれる。
 冒険者たちは無傷。もとよりそれを使用すると聞いていたのだ。だからこそバークは巻き込まぬよう先だって歩いていた。
 とはいえ、それだけで倒せる訳ではない。白溶裔はまだ元気だし、むしろ六尺褌妖怪や一反妖怪の方がぼろ布になり出してはいるが、それでも動いている。そも、爆発に巻き込まれなかった妖怪もいる。
 彼らはバークが危険と判断したか、少し離れた場所にいる冒険者たちに改めて向きを変え、襲い掛かる。が、
「隙あり!!」
 潜んでいたミュール・マードリック(ea9285)がすかさず白溶裔にノーマルソードを叩きつける。武器の重さを十二分に乗せての一撃はその分躱され易くもなるのだが、それでもなおミュールの剣は白溶裔を捕らえていた。
「どんな敵かは存じませんが。‥‥守ってみせます! 僕と、僕の操と、この褌を!」
 堀田小鉄(ea8968)は短刀を抜き払うと、その切っ先を六尺褌妖怪へと指し示す。ただの短刀だが、自身のも含め仲間にも慎之介と共にオーラパワーを付与した後だ。
「やあやあ! 我こそは義侠塾壱号生、堀田小鉄。義を見て為さざるは勇なきなり!! いざいざー!」
 名乗りを上げるや、果敢に六尺褌妖怪へと挑みかかる。振りかざした短刀は六尺褌妖怪を捕らえたかに見えたが、直前でするりと逃げられる。が、とっさに伸ばした左手が妖怪を掴んだ。逃げられぬと悟るや、六尺褌妖怪は小鉄を絡めとるが、
「ふっふふふふふ。元々褌スキーな僕がこの上褌好きになるなど矛盾はなはだしですよ。この布触りは名残惜しいですが‥‥!!」
 巻いた六尺褌妖怪を刃で切り裂く。
「さあ、来るなら来い!! 絶対に真っ当なまま帰ってやる」
 夏沙のワスプ・レイピアに付与されている炎を見てか、どこか六尺褌妖怪たちは及び腰になっている。いや、夏沙の並々ならぬ気迫を受けての事かもしれない。壮絶な過去の記憶が彼をそう駆り立ている(一部誇張)。
 その隙に、涼哉がコアギュレイトを唱えている。
 六尺褌妖怪の一体がついにその呪縛に捕らえられるや、
「取った!!」
 夏沙がヒートハンドを詠唱するや、六尺褌妖怪に掴みにかかる。しっかり握り締めると焦げ臭い匂いが立ち、瞬く間に炎が上がる。褌はばたばたと慌てふためきながら火を消した。
「触ると魅了されるのは厄介だからな。ここは任せるが‥‥。周りは可燃物だらけだ。気をつけろよ」
 そんな褌を呆れ顔で見ながら、バークは告げる。
「六尺褌妖怪たちは向こうで応戦してくれてるようだねぇい。良かった良かった」
「とはいえ、こちらも大変ですけどね」
 どこかほっとする恒弥に、ミュールが嘆息交じりの声を漏らす。
 ミュールの剣が一反妖怪を捕らえる。ひらりへろりと避けている一反妖怪もミュールの腕前には適わず確実にその身を裂かれている。
「まだ大事な物は失いたくないし、とにかく今回は真面目にいかせてもらいますよー」
 脳裏に浮かぶは長屋でぐーぐー寝て待っているだろうシロの姿。ともあれ、恒弥はその元へ清い体で帰るべく、奮起する。背後からかかってきた白溶裔をとっさに躱すと、次の行動で白溶裔に日本刀を突き立てる。
「結構しぶといでござるな」
「そうね、数が多かったから。でも後少しだわ」
 息をついている慎之介に狛が頷く。オーラパワーの効果が切れるほどではないが、それでもたやすくはない。
 その死角から、六尺褌妖怪の姿が見えた。とっさに慎之介がオーラシールドを掲げるも、その手前で、六尺褌妖怪は見えない壁に阻まれたようにべちゃりと途中で止まった。
 狛のホーリーフィールドである。敵対者を阻む神聖な結界が展開されている事を苦笑しながら思い出す。
 敵にのみ効果を発する結界は味方には何の影響も無い。難なく不可視の壁を通して、狛が錫杖で突き、慎之介は日本刀を刻む。
「はっはっはっはっはー」
 ぐるぐるぐると小鉄は六尺褌妖怪の周りを回っている。それで褌の目を惑わそうというのだが、敵もさるもの。高度を上げると小鉄を俯瞰する。
「ずるいですぞ! 降りて来なさい!」
 小鉄が叫ぶも効果無く、小馬鹿にしたようにひらひら動く。が、その動きが突然止まる。涼哉のコアギュレイトであり、
「は! どんとこーい!!」
 バークがオーラアルファーを撃ち放つ。巻き込まれた妖怪たちがそれで多数ばたばたと落ちた。
 数こそ勝っていたが、もはや勝ち目が無いのは明らか。
 一反、褌は勿論白溶裔も宙に舞うや、一目散に逃亡にかかる。
「ちぃ!」
 すかさず一反妖怪に向かい、ミュールがシルバーナイフを投げる。が、剣を振り回すようにはいかず、するりと一反妖怪は天へと昇っていった。
「任せろ、逃がすものか!!」
 だが、夏沙がファイヤーバードを唱えると追撃にかかる。
 これには妖怪たちも驚いたらしい。何体かが跳ね飛ばされ、そして射程にいなかったモノすらも狙い撃ちを恐れて高度を下げて山に入ろうとする。
 そこを冒険者たちは、追い詰める。

 妖怪たちを退治し終えたのはそれからしばらくしての事。
 布くずと化した一反妖怪を見て、ミュールは複雑な心境となる。
「お前達は‥‥褌になりたかったのか?」
 静かに問いかけるも、相手はもはや答えない。そも動いた所で彼には意を汲む術もなし。
 だから、その心情をただ思い描いて見る。ハーフエルフである自分と重ねあわせ‥‥、流石に何かが違う気がした。
「‥‥。
 えー。
 半端モノが悲しいのではない、半端モノと呼ばれるのが哀しいのだ。お前たちが理想とする己の姿があるのなら、自ら手を伸ばし、星を掴まなければならない。もし敵対せずにいたら‥‥その願いかなえてやれたのかもな」
 何となく言葉を言いつくろって、一反妖怪に話しかける。哀れな布きれは、風に吹かれて去っていった。
 とはいえ、妖怪全部は殲滅はしていなかったり。
 六尺褌妖怪一体。哀れにもコアギュレイトっで縛られ地べたに転がされてた。
 それに涼哉がピュアリファイをかける。浄化された六尺褌妖怪は‥‥ちょっぴり綺麗になったような気もする。
「まったく。貴様に漢の生き様てぇのを叩き込んでやる。いいか、漢ってのはな、惚れた相手を守る為にいるんだ。
 強引に押し倒したりしちゃあ、捨てられるぞ? もっと長生きして気持ちよくなりたきゃあ、俺の下僕になりな。イイ女を抱かせてやる」 
 六尺褌妖怪捕まえてとくと説教(?)している涼哉だが‥‥
「そのイイ女って誰の事なのかしらねー?」
 その背後でにっこり笑う狛が、なーんか怖いのも気のせいか?
「君はあの子達に追われていたの? 悪さをしなければ助けてあげるけど‥‥どう、一緒に来ない?」
 気を取り直して、狛が話しかけるも相手の心分からず。なのでリードシンキングでその思考を読み取ろうと手を伸ばした時。
 最後の抵抗とばかりに、いきなり身を起すと六尺褌が狛に巻きつく。
 驚いた狛が抵抗しようにも、口をふさがれては詠唱も出来ず。
「これは大変、救出しなくては!!」
 俄然張り切って小鉄が六尺褌妖怪に手をかける。さすがは必殺褌脱がせ人と称されるだけあって、褌捌きの手つきも鮮やか。
「あーーれーー??」
 狛が独楽のように回されて、褌巻きから解放される。
「って、狛に妙な事させてんじゃない! 大丈夫か?」
「大丈夫よ。けど‥‥」
 涼哉に支えられ、狛が目をまわしながらも空を見上げる。
 そこには六尺褌妖怪がほんの隙をついて逃げ出す姿があった。言葉が伝わったのか、何なのか。結局分からずじまいなのが歯がゆい。
「まぁよいさ。あんたの言葉が伝わって無くても、アレ一体ぐらいではさほどの脅威ともならんだろ。後は無事荷を送り届ければ、めでたしめでたし、だな」
 しんみりとした雰囲気を吹き飛ばすかの如く、バークが明るい声を出す。
「だな。幸い魅了された者もいないようだし。あと少しだ、がんばろう」
「どんちゃんも。お手伝いしてくれると嬉しいです。あのように細切れでは、褌お持ち帰りも無理ですが、荷のお持ち帰りは忘れてはいけません」
 夏沙と小鉄が、それぞれ自身の馬と驢馬に労いをかける。
「馬も無事で何よりだね。ま、これで後の戦が楽勝となればよいのだけれどねぃ」
 荷と馬を繋げながら、恒弥が笑う。どこか緊張した笑いなのは‥‥これから始まる黄泉人の戦を思うてか。

 そして、無事に荷を届ける事がで出来た冒険者たち。
 それをもって、無事に必要物資の収集に成功。黄泉人の戦にも大きな痛手を出すことなく望む事が出来た。
 肝心の戦の勝敗は。
 それはこの時点では、まだ見通せぬ話となる。