【姫路】 何故に奴らはそこにいる

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月08日〜07月19日

リプレイ公開日:2005年07月16日

●オープニング

 播州・姫路藩。妖怪の跋扈はなはだしく、見かねた藩主・黒松鉄山は市井に触れを出し、これを狩らせる事を推奨した。
 腕に覚えがある者たちが妖怪を討ち取る日々が続く中で、それに絡み、一つの触れが出された。
 曰く
『虚偽流言をもって人身を惑わす化け兎と化け狸を捕まえられたし。生死は問わず、捕まえた者には一体につき、金五枚を支払う。化け兎はうさと名乗り子供に化け、虚栄を持って人に接する。化け狸は四匹。それぞれにぽん某と呼び合うも固定の名称は不明。二十歳前程の少年に化けるも着物などは着ず、風紀を乱す事を由とする。この妖怪たち、徒党を汲み、甘言を持って場を惑わす事、実に巧み。くれぐれも話など聞かず、至急役所に連れ来るように』
 
「‥‥助けてくんないかな」
 困った顔で姿を見せたのは姫路に住むという小銀太。先日、妖怪退治依頼にわざわざ京都まで出向いてくれた少年だった。
 彼は姫路の事情を話した上で、実は、と、重い口を開く。
「化け兎を見つけたんだけど‥‥。そんな触れに聞く程悪い奴とは思えないんだ」
 それは数日前の事。小銀太の家に、件の化け兎と化け狸が二匹、押し入ったらしい。怒鳴りつけた所、化け狸はそのまま逃げてしまったが、化け兎は腹をすかせてたらしくて、目を回して倒れこんだ。
 こうして何の苦労もなく捕らえる事が出来て万歳至極。しかし、触れは生死問わずとあったものの、これまでからして生きていた方が金をふんだくれる。そう考えた小銀太は化け兎を介抱した。
 すると、化け兎は小銀太に感謝して、身の上話を聞かせてくれたという。
「あいつら、元々遠い所に住んでて、そこで人間とも一緒に暮らしてたんだけど。何だか分かんない内にここに連れてこられて、挙句に追い回されるようになったってんだ」
 化け兎の言葉は幼くて、理解するのは難しかったがようするにそういう事らしい。
 化け狸たちも同じくで、元は近所に住んでたらしい。ただ、罵詈雑言がたまに混じるので仲は良くないようだ。
 ともあれ。化け兎としては追い回される生活にほとほと疲れ、困り果てているらしい。
「うさ、お庭に帰りたい。帰って、お友達や爺や婆や虫と遊びたい。小爺、助けろ」
「誰が、小爺だーーーっ!!」
 そう小銀太は怒鳴りつけたものの。言葉遣いはともかく、化け兎としては真剣そのもの。
 じっと見つめられながら泣かれると小銀太としては無碍にも出来ず。役所にも突き出せぬまま、とりあえず今は家の軒下に隠れてもらっているそうだ。
 化け狸は逃げたまま。しかも姿を見せたのは二匹だけで、残り二匹は端から行方が知れない。果たしてそれも探すべきなのか。
 それとも、彼らは触れ通りの悪妖怪なので、化け兎は役所に連れ出し、狸も放っとけばいいのか。だが、妙に信頼してくれている兎を裏切る事になる。いや、それも演技でやはり自分は騙されているのか?
「誰かに相談しようにも、触れがあるから迂闊に口に出来ないし。だから、家族にも内緒にしてるんだ。
 けど、だからっていつまでも隠しておく訳にもいかねぇし、そもそもあいつは帰りたがってるし、けど、もっかしたらそんなの全部嘘なのかもしんねぇしで、何か考える程、おいらどうしていいのか分かんねぇよ。
 だから、こういう事に詳しそうなここまで、おいら頑張って来たんだ。頼むよ、どうすりゃいいのか、力貸してくんねぇか。今回は少ないけど、がんばってお金持ってきたしー」
「って、金一枚ぽっきりか。これを雇った奴で分けたら一体どの程度になることやら‥‥」
「ガキの小遣いなんだから仕方ねぇだろ! それでもいっぱいいっぱいなんでぃ!! ‥‥頼むよー。困ってる奴を助けるのが人の道だろー」
 眉をたれさせ、小銀太は精一杯困った顔つきで手を合わせる。
 それを横目で見てから嘆息し、ギルドの係員はともかく書類の作成にかかった。

●今回の参加者

 ea0213 ティーレリア・ユビキダス(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1585 リル・リル(17歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea2495 丙 鞘継(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4870 時羅 亮(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

「今の時間なら母ちゃんたち、畑でいないはずだから」
 そう言いおいて招かれた小銀太の家は、極々普通の民家‥‥なのだが、
「おーい、うさ公。大丈夫か? 助けてくれる人連れてきたぜ」
 だから出て来い。
 床下に向かって呼びかけると、奥でもそりと何かが動く。が、なかなか姿を現さない。
「うささん、私のこと覚えてますか? 江戸のお月見でご一緒して踊りを教えてもらいました。今日は人参もたくさん持ってきましたよ」
 ティーレリア・ユビキダス(ea0213)が床下に人参を振ると、ぴくりとそれは身を震わせ、のそのそと這い出てくる。
 暗がりから顔を出したのは一匹の兎だった。ただ、兎なので本当にうさなのか、他の化け兎なのか、あるいはただの兎なのかは判別つかない。
「えぇと、私の事も覚えてるかしら? 前に亀‥‥というか河童と競争した時にいたんだけど」
 困って御神楽澄華(ea6526)が尋ねるも、相手は石のように動かない。どうしたものかと一同顔を見合わせると同時、大きく兎の耳が下がった。
 突然の変化に驚く間も無く。瞳を潤ませて兎が飛びついてきた。そのままティーレリアと澄華をがっしりと捕まえ、懸命に頭をこすり付けてくる。なにやらむぅむぅと鳴いて縋るも、兎のままなので何と喋ってるのか分からない。
「えーと、『会えて嬉しい。お月さまと一緒で亀は亀で亀なんで‥‥』。何かすごく興奮してるみたいで思念もめちゃくちゃだよぉ。ちなみにあたしは虫じゃないよ‥‥って、言った傍から虫だと断定しないでよ!」
 テレパシーでリル・リル(ea1585)が通訳をするも、すぐに頭を押さえる。どうしたものかと迷いながらもまずは、虫じゃない、と言った途端にむっと睨んできた兎に抗議する。
「ああ。聞いた事あると思ったらキミか‥‥って、おいおい!」
 のんびりと時羅亮(ea4870)が挨拶するや、諸手をあげたうさ、ひょいと一飛びで亮の顔面に抱きつく。そのまま頭に擦り寄ってきて‥‥正直息苦しい。
 そんなうさだが、丙鞘継(ea2495)が近寄ると、途端に動きを止めて亮の後ろに隠れた。
「うさ、一緒に花見や蹴鞠をした寝汚い破戒僧を覚えてるか? お前達の事を心配していた」
「『本当に?』」
 その態度が疑っているのは一目瞭然。警戒を解く為、小豆味の保存食を差し出すが、少し匂いを嗅いだだけでそっぽを向く。‥‥ま、保存食よりも人参の方が嬉しいだけのようだが。
 ともあれ、落ち着いて話をしようと小銀太の家に上がり込む。うさは、まず亮を座らせると、その隣に澄華とティーレリアを座らせた。で、自分はちゃっかりと亮の膝の上。
 見知らぬ人を傍にしたくないのだ。以前の初対面でもあつかましく懐いてきた姿を思えば、酷く差がある。迂闊に変化もしたくないようだったが、話す事が必要と考えてか、今は人化けしている。
 まずはお近づきの印にリルがオカリナを演奏。ティーレリアもお月見した際の踊りを披露したりと一頻り和むと、改めて本題に入った。
「それで、何故ここにいるんだ?」
「小爺がここにいろ、言った」
 鞘継の質問にあっさりと答えたうさ。簡潔すぎる返答に、どう聞き直したものかと鞘継が頭を悩ませる。
「‥‥連れて来られたのなら、やはり逃げて来たのかの? その時の事、覚えておるか? お城に連れて行かれそうになったとか。他にも妖怪や人間が居たとか」
 マリス・エストレリータ(ea7246)が尋ねると、むーとさらにうさは首を傾ける。
「んーとね。お庭に帰ろうとしたらねむねむして、気がついたら箱に入れられてた。出せーって箱叩いたらまたねむねむして、次に起っきしたら周りがうるさくて。ぐらんぐらんしたら箱が壊れたから出てみたら馬鹿狸たちもいたの。馬鹿狸が言うには船に揺られて海の上で、何だか爺や婆が刃物持ってたから逃げたれってドンブラコ」
「??? もうちょっと詳しく話してよ」
 当時を思い出してか、段々興奮して怪しい日本語も飛び出して、リルでなくともひたすらに首を傾げる始末。質問と解説と茶々などを繰り返し、一応の顛末は理解する。
「つまり、小山に帰ろうと思ったら突然眠くなって、気がついたら箱に押し込められて船の中。化け狸たちもいたが捕まったのは別。やがて、船で争いが起き、どさくさに紛れて逃げ出し海に飛び込んだ、と‥‥」
 波にもまれて浜辺に辿り着いたのは、うさと先の化け狸二匹。それからは人に追い回される日々。
 鞘継が話をつなぎ合わせて纏めてみる。うさは首を傾げているが、そういう事で間違いないだろう。
「連れてきた人の事など分かりますか?」
「真っ黒なお爺や怖そうなお爺たち」
 ティーレリアが尋ねるも、詳しい人相などはあまり覚えていないようで。
「ちなみに‥‥彼もお爺?」
「うん」
「‥‥待て。おまえの基準はどこにある」
 澄華が試しに鞘継を指差すと、さも当然とばかりにうさは頷く。兎に角、うさの爺婆範囲は広い‥‥というより間違えている。
「この家で化け狸くんと別れたそうじゃけど。そいつらがその後どこに行ったかは知っておるか?」
 マリスの問いに、うさは多分と言いつつも窓から見えていた一つの山を指差す。
「だろうね。御近所に少々聞いて回ったら、狸らしきモノに畑荒されたり、素っ裸の変質者が出る話が聞けたよ」
 亮が頭を抱える。触書が出てて狙われてるというのに隠れる気などあるのだろうか。
「それでは、狸たちを探してきます。いいですか? 大人しくしていれば江戸に何とか帰してあげます。狸たちも一緒にね。だから江戸に帰るまでは休戦して下さいね」
 藍月花(ea8904)がきつく言い渡すと、うさは酷く嫌そうにしながら渋々と頷いていた。

 姫路藩主・黒松鉄山に会うという阿阪慎之介(ea3318)の行動は空振りに終わる。礼節を整えたとしても、一介の通りすがりに会ってもらえる程気安くなく、城の入り口にて門前払いをされる。
 その他高官にしても似た様なもので。結局、気安く会える重要人物は役所にいる紫暮老になるらしい。
 役所に赴こうとしていた他の冒険者らと合流し、一同は役所の門を叩く。
「触れの内容について、いささか確認したいのでござるが。悪戯程度の被害でも、良民の為に懸賞をかけて討伐を命ずる英断は御立派な事と存ずる。しかし、今回手配されたのが一匹の化け兎と四匹の化け狸と妙に具体的かつ、その内容も詳細に記されているのは何故でござるか?」
「その様な事を聞いてどうする?」
「勘違いなさらぬように。あくまで捕縛する為に情報が欲しいだけ‥‥です」
「名指しされる程の妖怪となれば、何をしたのか気になります」
 じろりと睨みつけてくる紫暮に、鞘継と澄華が内心の印象を表に出さずに口調を整えて弁護を入れる。
「あれらの存在が最初に報告されてから、あまり時はたっておらん」
 一瞥の後に、ふんと鼻を鳴らしながらも紫暮は言葉を紡ぎだす。
「それでもその僅かな時間の内に、奴らはかなり頻繁に人の前に現れては、通りを行く婦女子の前に素っ裸で立つわ、見目の良さで欺き人に媚び、暴言を吐いて食料を奪うとやりたい放題に、訴えが続出しておる。悪戯程度というが、そも悪戯以上の何かを企まぬ内にさっさと捕縛せねば、この地の治安が揺らぎかねん!」
 憤りを込めて吐き捨てる紫暮に、一同は少し目を逸らす。弁護もしたい所だが疑われかねず、今は口を閉ざすしかない。
「お触れの目的は、妖怪を手に入れ妖しげな目的に使うという危うい事でなく。純粋に領民の平穏を守る事にあるのでござろう?」
「無論、世の為、人の為。‥‥こう言うと何やらふざけて聞こえるがな」
 慎之介の問いかけに、苦笑する紫暮。 
「では、確実な排除さえ実現すれば引き渡しなど必要無いのでござらんか? 無論、引き渡し無しでござるから、恩賞は頂かぬし、捕獲し国外へ連れ去る事を確認して頂いて構わぬ、という事でも‥‥」
「一理あるな」
 あっさりと紫暮は頷く。
「だが、それで構わぬのは姫路のみよ。単に外へと厄介を押し付けただけに過ぎん。姫路を荒らした塵を他所の藩に捨てて片付けておいてくれとでも言うのか?」
 くつくつと一頻り笑うと、紫暮は表情をいきなり変えて一同を睨み据える。
「妖怪どもをどうするかはわしらが決める事。例えいかな罪人であろうと、まず捕らえ上からの裁き無くして放免すれば法が揺らぎ、国が荒れる。それと同じだ。国より出す出さぬも、まずは捕らえてからだ」
 だが、それを決めるのは誰であるのか。
 そこまでは言わず、ただ「善処させて頂く」とだけ告げ、丁重に頭を下げるに留めた。

「向こうで怪しげな物を見たそうじゃ」
 山を分け入り狸探し。テレパシーで鳥に尋ねてマリスが先導する。狸と言っても野生の狸だっている。うっかり狸の情報と思い進んでみれば熊だった、なんて事もあった。
「山、といっても広いからね」
 ため息をついて、亮が周囲を見渡す。麓に出てくる話が聞けた以上、そう遠くは無いはずだが。歩いてみれば結構広い。
「好物を撒いては来ているけど。釣られて出てこないかしら」
 月花が振り返るも反応無し。ちなみに好物は酒、らしい。
「テレパシーで呼びかけても返事ないしのぉ。おーい、たぬき〜、酒じゃ、酒〜」
 やる気なさげに適当に名を呼ぶ。時折、休憩代わりに横笛を吹く。
「うっせぇんじゃ、ぼけええええー!!」
 飛んできた木の枝が、かこんとマリスにぶつかる寸前、かろうじて避ける。
 飛んできた方を見れば、人がいた。二人組で、共に年の頃は十代後半。なかなかいい顔立ちをしている。そして、体は素っ裸。
「全く、さっきから下手糞な曲を聞かせおってからに。いいか、笛とはこう吹くんだ!!」
 それを恥じる事も無くずかずかと近寄り、マリスから横笛を奪うと、思いっきり息を吹き込む。
――ぴぎいいいいいいいー!!!
「ふ、さすがはポン三郎。見事な笛の音よ‥‥」
「嘘抜かすな、私より下手じゃ。というより、きちんと新品同様になるまで丁寧に手の皮が破れるまで洗って来い」
 感じ入って頷く一人だが、マリスは怒気を含んだ眼差しを向ける。
「化け狸さん‥‥だよね? 無事で良かったと言っていいのか、何とやら」
 ふてぶてしいまでに堂々としている狸二人に、女性二名、ちょっと困った顔をしている。
 亮が一通りの自己紹介と事情を説明し、どぶろくを渡すとそれであっさりと信用された。
「という訳なので、服を着て大人しくして欲しいの。でないと江戸に帰れないわよ」
「けっ、だーれがあんな所帰るかい」
 月花の言葉に、狸たちは鼻で笑う。
「修行と称して和尚には殴られっぱなし。やっとの思いで逃げ出した先でなんか怪しい奴らに捕まっちまったけど。こうしてまた逃げ出せたんだから、これからは自由に生かせてもらおうか。なぁ、ポン次よ」
「おうよ、ポン作。その通りさ。大体服なんて面倒なもん着てられっかよ。この糞暑い中、毛皮無くなって万々歳だってのに。‥‥人間ってな、何でわざわざ暑い事するんだ。分からないねぇ。脱ぎゃ涼しいのに」
 言うが早いか。月花の武道着を大きくめくり上げる。
 亮とマリスが目を瞠った刹那、月花の拳が狸を貫く。綺麗な放物線を描いて倒れた狸に、もう一体の方が早々と逃げ出そうとし、だが、動き出す前にさらに拳を叩き込まれ、
「こっちの苦労も知らずにいい気なものよね。こうなったら問答無用で強制的に追い返してあげるわ。ええ、もう覚悟してもらわないと‥‥」
「分かったから。ここはひとまず落ち着いてよ、ね?」
 目を血走らせ、髪を逆立て。ぶつぶつと独り言を繰り返す月花を亮は必死で止めていた。

 何故か半死に状態で見つかった狸に、うさが大喜びして飛び回る中、一向は京都へと帰還を決める。
「とりあえずここは危険だから、京都の方に連れて行くね」
 亮が説得するまでも無く、ただ決めた事を伝えると小銀太はあっさりと頷いた。
「分かった。俺もその方がいいと思うし。‥‥おまえ、元気でやれよ」
「うん、小爺ありがとう」
「小爺じゃなくて、小銀太だーーっ!!」
 頭撫でられて嬉しそうにしているうさに、小銀太が律儀に訂正する。
 報酬は結局突き出すのは止めにしたので、小銀太の用意したわずかな金だけ。月花が受け取らず――どころか協力の報酬として小銀太に姫路までの食料を用意したり――、その分額が増えたが‥‥とはいえ、微々たる物。マリスでなくとも、生業の方が稼ぎがいいだろうし、道中を思えば押しなべて赤字傾向。
 帰る際には役所に立ち寄り鞘継が捕まえ損ねた旨を簡潔に説明だけする。紫暮の顔色を窺ったが、相手はただ目を細めて頷いただけで、何とも言い様が無い。だが、うさたちに良い所でないのは確かで早々と立ち去る。
「そういえば。あのお城に覚えはありますか? あの中で、長壁姫‥‥年長の妖怪姫に会った事は?」
 変装にとうさの髪に櫛を挿しながら、澄華が問いかける。うさは首を横に振り、答えたのは狸だった。
「名前だけなら関西からの狸に聞いた事あるさ。力の強い奴でそこいらの妖怪を仕切ってるって話だったけどな」
 しかし、会った事は無いという。まぁ、江戸中心に生きてきたので当然といえば当然か。
「姫路の殿様は妖怪を集めて何をする気でしょうな。捕まえて戦わせて勝利を競うとかでもしてるのじゃろうか」
 重くて飛べなくなる荷は人に預けて、マリスが首を捻っている。ちなみに行きは小銀太が持っていた。
 色々と意見を交わしてみるが明確な答えは出ない。ともかくは京都に戻ろうと足を急がせ、姫路から出るか出ないかの時だった。
 山を通る街道にて。唐突に、弓弦の撓る音が響いた。
「ぎゃう!!」 
 途端に、うさの身を馬から転げ落ちる。続けて二の矢、三の矢が降り注ぐ。いずれもうさと狸を狙っていた。
「何者!!」
 怯えて暴れる馬を宥めて、皆を庇いながら慎之介は矢を注ぐ方へと誰何する。
 射手は一人。黒尽くめの衣装で身を覆い、街道横の木の陰からまっすぐにこちらを射抜いて来ていた。距離からして鉄弓だろうか。マリスがムーンアローを唱えて放つと、相手は僅かに身をよじり、そして瞬く間に逃げ去った。
「大丈夫です。急所は外れてます」
 泣きそうな顔でティーレリアがうさたちの手当てをする。
「何が目的かは分かりませんが。どうやら姫路付近は心休まることがなさそうですね」
 苦々しい口調で澄華が周囲を見渡す。今は、取り立てての変化は無い。
 うさたちの傷を薬で癒すと、さらに急いで京へと帰り着く。それ以降、襲撃のようなものは無く何とか無事にたどり着いた。
 化け兎たちの身柄は、さすがに妖怪を長屋に入れる事は大家が許さず。ギルドの方でどうにかする、という事になった。