木魂の森
|
■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月17日〜07月22日
リプレイ公開日:2004年07月23日
|
●オープニング
その森は、地元では木魂の森と呼ばれていた。
森の中心に樹齢百年を越えるような大樹があるのだが、それがその通り、普通の大樹ではなく森の名の由来となった木魂なのである。
だからと言って何が起こる訳でもない。
木魂は温厚な性質で、森を荒らさない限り危害を加える事は無い。
付近の住民もそれを心得ており、上手く森と共に生活をしていた。むしろ森を荒らすのは自分たちの生活にも影響してくるので、木魂の存在をとても頼もしく思っていたのだが‥‥。
「実は山賊達がこの森に入り込み、あろう事か腕試しと称して、木魂に一刀切りつけていったのです」
冒険者ギルドを訪れた老人は、意気消沈した表情でそう告げた。
攻撃され、怒った木魂は山賊たちを枝葉で打ち払い、あるいは森の獣を魅了してけしかけ激しく攻撃した。山賊たちは這這の体で逃げ延びた所を役人達に捕まえられて、これにて一件落着‥‥と思いきや。
以降、この森に入る者は例外なく攻撃を受けるようになってしまったのだ。
不審に思って山賊たちを問い詰めた所、切りつけた一刀が思いの他木魂に深く刺さっていた為、そのままにして逃げたのだという。
「おそらくはそれが不快で、木魂は怒りを鎮めないのでしょう。刀を引き抜いてやろうにも他者を寄せ付けない為叶わず‥‥。ですから、ここは冒険者の方に是非とも力をお借りしたいと」
刀を引き抜き、その傷が癒えれば恐らくはまた元通りの木魂に戻るだろうと思われ。
しかし、今の木魂はかなり危険だ。恐らくは魅了した動物を消し掛けてくるだろうし、近寄れば木魂自身も攻撃してくるのは想像に難くない。
「もし、危険なようなら木魂を倒す事も致し方ないでしょう。しかし、出来ましたらどうにか木魂を鎮めて下さるとありがたいです」
言って老人は頭を下げた。
●リプレイ本文
山賊が木魂に刺していった刀を抜いて欲しい。
この依頼を聞いた時、冒険者達の多くが怒りを通り越して呆れ返っていた。
「愚かな‥‥。自然を蔑ろにするからこの様な事になるのだ。山賊どもの性根を叩きなおしてやりたい所だが‥‥今は仕方ないか」
陰で呟いたつもりの風守嵐(ea0541)だったが、言葉の無い一同に思いの他声は響いていた。
「全く、腕試しに一刀とは。愚かしい奴らもいたものだ」
木賊真崎(ea3988)も開いた口が塞がらない一人。苦虫を潰したような表情を作ると、静かに頭を振った。
「ああ。木魂は別に精霊でなくただの植物ではあるが。精霊の木霊と同等に見ている者も多いのだぞ。全く何時の世も余計な事をする輩がいるものだな。操られている動物どもも良いとばっちりだ」
龍深城我斬(ea0031)が感じ入ったように大きく頷く。ちなみに木霊の西洋名はアースソウルという。
「とにかく、その木に刺さった刀を抜いて、木魂の怒りを鎮めれば良いのだな? ただ戦えば良いと言う訳で無いのが少々面倒だが、やって出来ん事でも無いか。武の道を行く者として、無用に他者を傷付ける事は本意ではなかろう」
と、李飛(ea4331)がにやりと笑って皆を見渡すと、他の冒険者も大きく答えた。
「よーし良い子だ、我導丸。ここで大人しく待ってろよ」
森の入り口。我斬は愛馬を適当な幹にくくりつけてそう語りかける。馬はしきりに耳を上下させ、蹄で地を軽く蹴りせわしない。それを何とか宥めるのを待ってから、冒険者達は森へと入った。
「何と言うか、森全体が殺気だった感じがするな。馬が落ち着かないのも仕方ないだろ」
森を見渡しながら阿武隈森(ea2657)が告げる。表立っては普通の森だが、不気味な静けさと緊張感が漂っていた。
「木魂の不機嫌が森全部に広がっているようだな。‥‥その木魂までの道筋は分かってるのか?」
問う大嵐反道(ea1378)に飛が頷く。
「大丈夫だ、猟師からちゃんと聞いている。本当に森の中心なのだな」
「真崎のにーちゃんが書いてもらった地図もあるし。早々迷う事は無いじゃん」
その真崎から渡されたどぶろく片手に、伊珪小弥太(ea0452)がからからと笑う。
と、その真崎の表情が強張った。
「振動が大きい。来るぞ!」
「ああ、聞こえてる」
バイブレーションセンサーで周囲の情報を得ていた真崎が告げる間も無く、藪を掻き分ける音を聞きつけ、嵐が金属拳を握って構えていた。
揺れる葉音に交じる荒れた息。警告を発するように鳴いた声が近付いてくる。六匹の犬が藪からその姿を現すや、即座に飛び掛ってきた。
唸りを上げて牙を剥く相手に、冒険者達は素早く戦闘態勢に入る。
「素直に逃げるなら追いはしない。が、かかってくるなら容赦はしない!」
飛び掛ってきた犬の牙を肩に受けながら、即座に飛はカウンターで拳を放つ。至近距離からの一撃に、犬はたまらず悲鳴を上げると、地面へと転がった。
が、体制を立て直すとさらに激しく威嚇の声を上げ、飛び掛ってくる。
「あんまり手荒にするなよ。まぁ、そうも言ってられないが。‥‥お前らも本当、災難だな。ちっと痛いかも知れんが勘弁な」
前半は飛に向けて、後半は犬達に詫びながら我斬は日本刀で犬を振り払う。峰撃ちで殴りつけてはいるが、時として打撃の方が傷が重い。なるべく殺したくは無いのだが、力加減が難しい上に、犬達の戦意は衰える様子は無い。
「倒す訳にはいかないか。ま、木魂が元通りになればこいつらだって早々襲い掛かっては来ないだろうし。今は引きつけて置くだけで十分か?」
犬の攻撃をなるべく躱して避け、その注意を自身へと惹き付けるように刀を振り回しながら反道も告げる。仲間からつかず離れずの場所を絶えず移動し、おかげで反道に気を取られた犬達はやや分散気味になっていた。
「そういう事だ。‥‥ここは心配するな。行け!」
秩序もなく入り乱れて飛び掛ってくる犬達。だが、どの犬もそれは概ね一方向を背にしている。そちらに木魂がいるのはすでに見当付いていた。
振り払われて悲鳴を上げ、それでもなお挑みかかってくる犬達目掛けて、嵐はわざと大振りに手裏剣を投げる。飛来物に犬達はとっさに反応して左右に割れた。
「すまない、後は頼んだ」
犬が怯んで避けた場所を、西中島導仁(ea2741)達が素早く駆け抜けていった。彼らの行く先は木魂の元。いかせまいと犬達がその後を追いかけたが、
「お前達はここに残ってもらわないとな」
真崎がプラントコントロールを使用すると、犬達の足に枝葉を絡ませる。驚いた犬達が騒ぎ立ち、うろたえている。
「倒しちまわねぇようにするのが難儀だが、ま、何とかならぁな」
反道がにやりと笑うと、刀を振りかざす。
犬達の爪や牙が襲い来る中を捌きながら、冒険者達は彼らをその場に留めさせていた。
真崎から渡された木片の地図を手に、小弥太たちは森の中心まで辿りつく。犬の鳴く声は聞こえない。どうやら引きとめに成功しているようだが、他にも魅了された動物がいるとも限らない。
立ちそびえる木魂は太い幹に広がる枝葉で、森の主たる姿を堂々と晒している。が、その枝葉を良く見れば葉先が垂れ下がっているのが分かる。‥‥元気を無くしているのだ。
そして幹にはきらりと光る刀が一振り。
「あれだな、可哀想に。さっそく引き抜いてやるとしようか」
告げるや、森はグットラックを詠唱する。外見上変化が無いのが心もとなくも感じるが、元々行動してから考える質だ。祝福を信じて、今は刀を引き抜く事だけを考える。
「行くぜ!」
言うが早いか、まずは小弥太と導仁が先に出る。近付く者を気取ったか、風も無いのに木魂の枝葉がざわめくや、軽やかにしなると鞭のように打ち付けてきた。
「ちぃ!」
導仁が両手に日本刀と短刀それぞれ構えると、枝葉を捌き押し返す。小弥太も六尺棒を振り回し、周囲でざわめく枝葉を振り払う。
二人が枝葉に応戦している隙に、森は刀に駆け寄るとその柄にしっかりと手をかけた。長い年月で自然に裂けた箇所に突っ込んだらしく、刀はその半ば近くまで幹に埋もれている。少し引いてみたが、簡単には抜けそうに無い。
「ったく、どんな馬鹿力野郎だったんだ?! ‥‥ちっと我慢してくれよな。こんなもんすぐ抜いてやるからよ」
木魂に語りかけると、森は刀を抜く手に力を込めた。
すぐに、と言ってもそのまま力任せに引き抜く訳にはいかない。刀身を途中で折って中に残すような真似をすれば元も子も無いからだ。慎重に、その上で迅速に行う必要があった。
「結構厄介だな。まだか!?」
森が刀を抜く間にも、木魂の攻撃は止む事を知らない。導仁が両手の武器で枝葉を払い落とすも、こちらが手加減しているせいもあってか、相手の勢いは衰える様子は無く、そして攻撃に手加減無い。自然、導仁の顔に焦りが浮かぶ。
「もうちょいだ。‥‥ったく、お人好し揃いばっかりだと苦労するな」
言いながらも、森の顔には笑みが浮かぶ。
小弥太と導仁が木魂の攻撃を防いではいるが、それでも完全ではなく、森の身体もまた、枝葉が打ち刺している。打たれた傷は赤くはれ上がり皮膚を裂くが、にも関わらず、刀を引き抜く事のみにこだわる辺り、やはり森もそんなお人好しの一人である。
「馬鹿な奴らのちっぽけな感情で傷つけちまってごめんな。何言ってもその痛みは消えねーが、せめて俺達で詫び入れさせてくれ。俺達はあんたを助けたい!」
小弥太が木魂に思いの限りを叫ぶ。心からの声は、されど、通じて無いのか木魂の攻撃がただ小弥太へと向けられる。結果として、森への攻撃が手薄になったのだからそれはそれでよしなのだが‥‥。
「ぐぐぐ‥‥」
幹に足をかけて最後のふんばりで森は刀を引く。
ず、ず、と擦れながらも刀は徐々にその刀身を顕わにしていき‥‥、いきなり一気に引き抜けた。不意の事に、森がもんどりうって倒れ、その手から刀がすっぽ抜ける。抜けた刀は宙を舞うと、近くにあった岩にぶつかり澄んだ音をたてて折れた。
それが合図であったかのように、木魂の動きが止まった。その隙に小弥太と導仁が森を引き摺りながら木魂から離れる。
木魂は、まだ怒りが残っているかのようにざわめいていたが、三人が見守る前で徐々にその動きを鎮め、やがて見たままの大樹として落ち着いていた。
犬達を追い払った反道達と合流すると、思いの他負った傷を治す為に一旦村まで戻る。
木魂を無事に鎮めたと、折れた刀を差し出すと、村の者はほっと安堵の息をついた。近場から傷を治せる者を呼び寄せ(費用は村の方が負担してくれた)癒されると、冒険者達は再び森の中心部へと向かう。
木魂はすっかり落ち着いた様子。近付いても動こうとしない木魂に、用意してもらっていた注連縄を張り、榊を添える。
「で、どぶろく。お神酒ぐらい用意できなかったのかよ」
「無いよりマシだろ」
小弥太の一言に用意した真崎が憮然となり、我斬はくつくつと笑う。
「ま、確かに清めの酒って程上等なもんでもねぇか」
二人からそのどぶろくを受け取ると、小弥太はやはり木魂にささげる。
「森の主として今後も頑張ってもらいたいものだ。‥‥村の方でも、今回の事が起きないように重々注意しておいて欲しい」
「ええ、それはもう」
嵐が告げると、ついてきていた村の者が丁重に頭を下げる。
微笑をもって見上げる人の目線を受けながら、木魂はただ風に吹かれてそよいでいた。