それで一体どうするの?
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:4
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月29日〜08月01日
リプレイ公開日:2005年08月06日
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●オープニング
京の都。北に鬼の住処、南からは黄泉人と不穏な事には事欠かない都。
夜盗・辻斬りがうろつけば検非違使は徘徊し、偽志士あらば新撰組が血の雨降らし、妖怪跋扈に黒虎隊が刀を抜く。
そのせいなのか。都近隣には妖怪が住むと言う場所もよく耳にする。どこぞの山には火車が出て、そこの池には竜がいて、ある陰陽師は鬼を飼いならして使役している‥‥などなど。
そして噂ではなく、実際に物の怪が住み着き暮らす場所もあって‥‥。
「はははは〜、猫の兄さん。今日こそはあのにっくき糞ボケ兎に天誅をーーっ!!」
「乙女の家に来るなら服ぐらい着て来んかーーーーーっい!!」
けたたましく廊下を走る音がした。直後に姿を現した素っ裸の少年二人にすかさず几帳が飛んで、彼らを血に――もとい、地に沈める。
几帳を投げつけたのは、陰陽師の小町。ここは彼女の家である。続けて文机を構えたのを見て、少年たちは慌てて垣根に姿を隠す。しばらくしてそこからこそっと様子を伺いに顔を出したのは‥‥二匹の狸だった。
ただの狸ではなく、化け狸なのだ。化けると言ってもその他の化け妖怪同様、人に化けるぐらいしか能が無い(勿論衣服もついてこない)。名前は特に無い。ぽん某と呼べば適当に返事をするが、別の名でもやはり返事する。
その二匹の首根っこをむんずと掴むのは異国の青年。呆れてるような怒るような顔つきで狸らを見ている。
こちらも人でない。小町宅にて故あって居候中のワーリンクス、異国の獣人である。何故日本におるのかといえば、本人自身に記憶が無いので定かでない。名前も無いので、ただ猫とだけ呼ばれる。
そして、
「鋤アリーー!」
「でっ!!」
可愛い声と同時、猫の後頭部に鋤が飛んだ。見れば、立っているのは子供である。
一見、ただの子供に見えるがこれもまたまた人で無く、化け兎。人に化けられる兎で、口も悪いが態度も大きい。うさと名乗るこの化け兎は、今は眉を吊り上げ、口をへの字に曲げ、杵を構えて猫ごと狸を睨んでくる。
「出たな、チビ兎! 向こうじゃピーピー泣いてた癖に、ちょっと人の気を引けたらすぐにこれだ! 今日こそはその横暴面を三枚おろしちゃる!」
狸の一匹が人に化けると、びっしと音がせんばかりに胸をはって子供に指を突きつける。ちなみに、当たり前と言うか、素っ裸だ。前を隠しもしない堂々ぶり。
「ぴーぴーじゃないもん、えんえんと泣いてたんだもん。煩い事して騒ぐ狸が悪いんだもん!! 皆煩いって怒ってるもん。だから、成敗あるのみ!!」
片や、子供の方は些細な事を真面目に訂正すると、杵を振りかぶる。
そのまま睨みあった両者に、小町はじと目で猫を見遣る。
「どうするつもりよ、これ」
「俺が知るか」
何だか疲れきった表情で青年はただただ目を背けていた。
事の起こりは、つい先日。播磨の国・姫路藩より、いろいろあって化け狸二匹と化け兎一匹がこっそりと京都に連れてこられた。妖怪を引き取るのは難しいが、放置する訳にもいかず、冒険者ギルドのとある係員が個人的なツテを頼り、どうにか近くの小さな寺に置いてもらったという。
が、さすが妖怪というべきか。やはり犬猫と違っていたく扱いが難しい。
おまけにこの二種、ただひたすらに仲が悪い。
大人しかったのは初日のどれぐらいの時間だろう。すぐに牙向き合って口喧嘩に追い物、大立ち回りと派手に騒ぎ出し、寺の和尚が目を回す。
どうしたものかと相談されたのが、小町だった。陰陽師という肩書きも聞いたが、何より実際に妖怪を飼っているというのが大きい。
もっとも、当の猫に言わせれば「仕方なく居ついてやってる」だけに過ぎないのだが。
ともあれ、まずは様子見とついでにその猫連れて赴いてみたのはいいのだが。
何をどうなったのか、猫が狸に慕われ、兎退治を頼まれる。狸と仲良くしている――ように見えるだけだが――ものだから、兎が敵視して攻撃してくる。
しまいにゃ家まで知られ、気付けば寺から小町の家に場所を広げて小規模な妖怪戦争が勃発している訳である。
「江戸に帰すまでの間だけだし、賑やかなのは別にいいけど。ちょっと騒々しすぎって気もするのよねー」
冒険者ギルドにて、眉間に皺寄せながら、係員に出されたお茶を啜る小町。
「おまけにあの黒尽くめがまだ解決してないし。まだ猫を狙って来ないと限らない以上、あまり家に出入りされても困るのよね」
悩む彼女から目をそらし、係員は重たげに「それなんだが‥‥」と、口を開く。
「どうも、当人たちは江戸帰還を望んでないようなんだな」
「何よ、それ」
少しだけ目を丸くして小町は湯飲みを置く。それを見て、係員は嫌そうに頭を掻いた。
「まず、狸。江戸ではやはり寺に住んでたようだが、ここでずいぶんとつらい目にあっていたそうだ」
とある事情で寺に住み着いていたが、その寺の和尚から殴る蹴る、魔法で成敗されるの拷問の如き日々を送っていたらしい。もっとも、その原因一切合財が奴ら自身の身の振り方にある訳だから、自業自得で同情の余地は無い。
その他、狸は元々四匹組で行動していた。それが、何者かに姫路へ連れて来られた際、二匹が行方知れずとなり、その所在が気にかかるとか、預けられた寺の和尚がとてもいぢめやすいのでこっちのが住みやすいとか(和尚は泣いているが)、そういった理由で江戸に舞い戻る気がさらさら無い。
「化け兎はどうなの? 江戸に戻りたがってたんでしょう?」
目を丸くする小町に、複雑そうな顔を作る係員。
「まぁな。だが、こっちに着て落ち着いてきたら姫路での事が相当頭に来たらしい」
何だか良く分からない内に見知らぬ所に連れて来られて、追い回された挙句に何者かから矢まで射掛けられた。善良に生きてたのにこの仕打ちは何なのだと、酷く腹を立ており、今やそいつに復讐をと考えてるらしい。
が、江戸の小山は化け兎にとって大事な場所で、長く留守にしているのがとても気がかり。なので、帰るべきかどうすべきかと延々と悩み、そこに狸がちょっかい出すのだから余計頭に来て追い掛け回している、という始末。
「話に聞く限り、江戸に帰す事には問題でないだろうが‥‥。さて、奴らをどうすべきなのかな」
頭を悩ます係員に、小町もまた首を傾ける。
「猫の兄さんや。あの底抜けたわけの糞馬鹿兎をどうにかしてもらえたら、兄さんの家出る手引きいたしやすぜ」
「まぁ、この家を出るという算段は悪かないんだが‥‥」
へっへっへ〜、と、揉み手して算段つけてくる狸に、猫は悩んで空を見上げた。それを目ざとく兎が見つける。
「わーるい事言ってるんだー。言いつけちゃおー」
「悪い事じゃないから言いつけなくていいんだ! えぇい、蹴るな殴るな噛み付くな!」
ひょいひょいとどこかへ駆け出す兎を、猫が慌てて捕まえ押さえつける。
「おっしゃ、やっちまえー。兎鍋の準備だー、ぽんの介」
「おうさ、いてまえいてまえ。んぎゃあああ!!」
兎から近くにあった石を投げられ、狸が悲鳴を上げる。
「けっ、この横暴兎! 絶対に鍋にしちゃる!!」
「馬鹿狸ー。お尻ぺんぺんされろ!!」
「低次元だよなぁ‥‥」
罵り合う狸と兎に、猫にうんざりと天を仰ぐ。
「さて、どうするかなぁ」
青い空にそう問いかけても、雲は答えてくれない。答えてくれそうなのは‥‥。
かくて、何となく冒険者が呼ばれる。どうしたものか、一緒に考えて下さいませ。
●リプレイ本文
「あほ狸ー! おバカマヌケで迷惑至極。てんちゅーあるのみで、今日こそ覚悟」
「けっ、天誅の意味を知ってから使いやがれってんだ!」
「おうよ! って訳で、天誅返しだ! 猫の兄さん、頼んだぜ!!」
「てめぇら‥‥。いきがるなら自分で行けよ‥‥」
杵振り回して庭かける小童の正体は化け兎。追いかけられてる素っ裸の一見変質者の一種にしか見えない少年二人は化け狸。彼らに囲まれ、しかめ面で茶髪を掻いてるいかにも外国人な青年はワーリンクス。
「えーと、猫さんのお子さんですか?」
「違う!!」
目を点にしていた須美幸穂(eb2041)が思わず漏らした一言に、ワーリンクスこと猫、即座に否定を入れる。
「しかし、小町ちゃんちも獣臭くなったねぇ」
「まーね。でも、動物好きっていい人が多いって言うじゃなーい♪」
「でも、予想以上の暴れっぷりですね」
騒がしいだけの庭を見て、苦笑する環連十郎(ea3363)に、あくまで能天気に陰陽師・小町が相槌を打っている。何だかんだで気にはしてない風ながらも、狸と兎を京都まで連れてきた一人の御神楽澄華(ea6526)としては、恐悦至極で喜べたものではない。
「おうおう、江戸であった奴らばっかりじゃないか。袖振り合うも多生の縁というしね。‥‥ポン馬にポン鹿までいるのかい。久しいねぇ」
からからと剛毅に笑って化け狸を小突く御堂鼎(ea2454)。化け狸たちは警戒して一歩退き、二人顔を見合わせ、腕を組んで考え込み‥‥
「はっはっは、嫌でさぁ。姐さん。お元気そうで何よりでさあ」
「忘れてたんだね。まぁったく、名付け親のうちを忘れるなんてねぇ。悪戯指南もしてやったもんさね」
「へっへっへ、その節はどうもでさ」
呆れて声を上げる鼎だが、愉快そうににやりと笑う。含みのあるその笑みを組んで化け狸たちも邪悪顔になる。
「猫さん、うささん、こんにちはなのですー♪」
「むー。こにちはー♪」
ティーレリア・ユビキダス(ea0213)ががっぷりと化け兎・うさを抱きしめると、うさも喜んで抱き返す。ちなみに猫も抱きしめようとしたティーレリアだが、彼には寸前で逃げられている。
「うさ、久しぶりー。あ、猫もいた」
「おまけみたいに言うなよ」
猫がじろりと睨んでも、二条院無路渦(ea6844)は眠そうに目を瞬かせるだけ。
「お話聞きましたけど、うささんはお江戸に帰らないのですか?」
ティーレリアに問われてうさははっと顔を上げる。
「後悔はどうあってもすると思います。でも、やるだけはやったと思えない結果を迎えるくらいなら、お戻りになるのかをちゃんと決めた方が良いと思うのです。江戸へ戻って、皆さんの元で再び暮らすのか、兎に角仕返しなり、報復なりをしたいのか。ちゃんと決めた方がいいですよ?」
「現状の姫路を鑑みれば、報復など考えずに江戸に帰った方がいいけどね」
ね、と微笑みかけるティーレリアに無路渦が口を添えた。
諭されて、しょぼんとうなだれた化け兎だったが‥‥、
「け、バカ兎。とっとと江戸に帰れっちゅーんじゃ!」
「むーーっ! あのぼけ狸、成敗するまでは帰んないーーーっ!!!」
ケツを叩いて挑発する狸に、あっという間に杵を担いで追い回し始める。
「これでは話し合いにもなりませんね。まずはあの三匹を引き離さないと」
「そうみたいです〜」
呆れて嘆息する澄華に、ティーレリアもまた頭を抱えていた。
ひとまず化け兎は澄華と外へ。手に手をとって遊びに出かける二者を見送った後に、屋敷の中へとお邪魔する。
「使用人も親父さまの面倒見てもらう名目で出てもらってるから、手が無いのよね〜。まずい茶だけどよけりゃどうぞ」
「お構いなく。こっちにはコレがあるんでね。あんたらも飲むだろ。せっかく暴力和尚から逃げ出せたようだし。めでたいってもんだ」
「あ‥‥ありがとうございやすっ!! 御相伴、預からせていただきやすっ!」
小町が茶を出すものの、鼎はどぶろくを取り出して振ってみせる。声かけると、狸たち、涙浮かべて頭を下げる。
「にゃんこ野郎は酒は嫌いなんだったか? 肴でも買ってこっちも酒盛りといくか」
「にゃんこ言うなっ! ま、酒は嫌いじゃないけどな」
手首を捻って飲むふりをしてみせる連十郎に、突っ込みいれながらも猫はにやりと笑う。
その様を見た小町はちょっと嘆息している。
「酒も肴も親父さまたちが置いてた分がまだあるはずだから、何ならそれをとってくるわよ。でも、今回来てもらったのってそういう事じゃないでしょ」
じろりと冒険者を睨んだ後に、妖怪たちの顔を見渡す。
「そうですね。そこの狸たちはじめとする今後について、でしょうか。まず狸と兎は別れて暮らすべきだとは思いますが。さて、どうしたものでしょう」
幸穂が他の面々を見遣る。
兎と狸が一緒にいるとどうなるのかは先程で十分知れている。
「うささんは江戸に帰るようしますけど、狸さんはどうしましょ?」
ティーレリアが狸を見る。その狸らは素っ裸ですでに出来上がりぎみだったが。
「狸は、江戸に帰った方がいいんじゃないかな? 元の寺に戻らずとも京都よりマシでは」
「そうだな。その方がいいよな」
首を傾げる無路渦に連十郎は頷く。何せ、京の都はもののけの温床。それに対する組織もあり、物騒なのは江戸の比ではない。何の弾みで成敗されるかは分からないし、こいつらの性格なら無礼打ちでいつ果てるやら。
が、それを鼎が鼻で笑う。
「なぁに言ってるんだい。こんな悪戯しか出来ないような奴ら、どこに行っても同じさ。それにさ、まだ二匹いるんだろ。いいのかい、きっと今頃美味い物たらふく喰って楽しんでるんだろうねぇ」
最後は狸らに向けると、彼らは目を剥き、顔を上げる。
「二匹だけに美味しい目にあわせるなんて許せないさね。だから京で探して見たらどうだい?」
すっと目を細めて鼎が告げるや、俄然、狸が張り切りだす。
「おうさ、姐さんの言うとおりさ」
「ああ、ぽん太夫! 急ぎ兄弟を探すぞ! 早くしないとご馳走が無くなるー!」
「まだ話は終わってないわよ! それに出て行くなら服を着るかせめて狸に戻りなさい!!」
勢い込んで表に飛び出そうとする狸らに、小町がすばやく手近な碁盤を投げつける。頭に直撃したせいか、狸はきゅうと倒れこみ、鼎が声を上げて笑う。
「あっはっは。ま、京に留め置くには今の和尚じゃ手に負えないようだけど。そっちはあたしが助言入れといてやるよ。な〜に、江戸から暴力和尚が遊びに来たがってると脅せば少しは悪戯も控えるだろうよ」
笑いを押し込むかのように、そう言って楽しげに鼎は酒盃を傾ける。
「ちなみに江戸に戻すとして、輸送はギルドが請け負うのか?」
「ギルドがそんなまねしてくれるわけ無いじゃない。ま、そこらはあたしが何とかするわ。とはいえ、あいつらだけを移動させるわけにはいかないから、道中の付き添いを誰かに頼む事にはなるでしょうけど」
言って杯を傾ける小町に、連十郎は納得したと頷きかけ‥‥目を見張る。ふと気付けば小町の周囲に酒瓶が転がってたり。
ふと気付けば急須の回りにはやたらに酒瓶やらつまみやらが溢れており‥‥、まぁ、いいかと肴に手を伸ばす。
「でも残っても大変ですよね。猫さんと黒服さんの話はお伺いしましたですけど。もしかすると、うささんやたぬきさん、巻き添えになる可能性がありますし」
心配そうに首を傾けるティーレリア。
「その猫さまを襲ったのとうささまを襲ったのは同じなのでしょうか?」
考え込んで幸穂が告げる。両者の格好は良く似ていると報告があった。とはいえ、賊が目立たない衣装として黒を選ぶのは結構ありきたりなので、今の段階では何とも言いがたい。
「仲間じゃないといいんですけど‥‥。残るんでしたらそういうリスクを考慮して残って欲しいです」
不安になりながら、狸らに告げるティーレリア。
「そういうの面倒だしなー。やっぱ江戸に行くか〜」
お銚子片手にからからと笑った猫だったが、
「バカいうな、にゃんこ野郎! ここは本音で勝負だ。俺が寂しいんだからいかないでくれええ」
「そうですよぉ。今の所帰る場所が無いんだし、そこに行けば会えるって場所が必要ですよ」
拳握り締めて連十郎が立ち上がると、いきなり猫に抱きつく。それ見てティーレリアも抱きつき、倒れた猫がつぶれている。
「うぉら!! 重いぞ!!」
「ほーら、皆そう言ってんだから、ここにいなさいよ。今ならまたたび喰い放題」
がなりたてる猫に、小町が勝ち誇ったように胸はって、またたびをちらつかせる。
「名前や過去、縛られるものが無いのは猫と言う生き物に似合うなんて思ったけど、今は小町にぐるぐる巻きだね」
「うっせぇ!」
「マタタビ握り締めながらじゃ、迫力無いよ」
がなりたてる猫にのほほんと突っ込みを入れる無路渦だったが、
「‥‥そういえば、前から不思議だったけど名前は無いの?」
「つーか、覚えてないって」
「だったら。ちょっと付き合っていただけませんか? レシーブメモリーが記憶喪失に使えるかどうか、試してみたいですの」
渡りに船と喜ぶ幸穂だが、猫は嫌な顔をしている。ま、特に理由なく内面覗かれるのはあまり気のいい話でもない。とはいえ、断るほど大げさでもないようで、渋々という態度ながらも承諾する。
で、結果はと云うと。
「あまり良く分かりませんわね。放浪して戦ったり追われたりしているような?」
「じゃ、今の生活と変わらんじゃん」
「指定が広すぎるんじゃないかしら? もうちょっと具体的に絞ってみるとか、といってもどう絞ればいいのか分かんないけど」
悩む幸穂に、あっさりと猫が告げ、小町が軽く指摘。
「ま、放浪癖は昔からといっても、今はここの家にお泊りしてるんだし。‥‥その間に犯人探ってみたら?」
それを見ながら、無路渦、あくび交じりでそう告げる。
「そだな。姫路の方も関係あるとしたら‥‥。妖怪を集めてるとして一体そんなに集めてどうするんだ? にゃんこ野郎は手伝って欲しいな」
「えーい、だからにゃんこ言うないっ」
据わった目で睨みながらも、猫、連十郎の杯に酒を流し込んでたり。
で、外に出かけた澄華とうさはといえば。実にのんびりと周囲を散策している。気分転換に山に連れ出したのは良かったようで、うさは大はしゃぎであちこちを走り回っている。
「それで、うさ様は結局江戸に帰るのですか?」
散々遊び回った後。頃合を見計らい、切り出す。遊び浮かれてすっかり忘れてたのか、意表を衝かれた表情でうさは立ち止まった。
「ご老体方を心配させるのは、うさ様にとっても本意では無いでしょう? 復讐したい気持ちも分かりますが、やはり危険過ぎますし。勿論私も心配です。もし、どうしてもうさ様が納得できかねるなら、その時は私にも相談して下さい」
悩むように顔を伏せるうさ。その間も、澄華は辺りに気を配る。
(「前の依頼‥‥明らかに姫路から出る直前を狙っていた」)
京では騒ぎを起したくない。そういう事なのだろうが‥‥ならばその狙いはどこにあるのだろう。
(「もう無用な騒乱で誰も傷つく事が無いように」)
うさを撫でながら脳裏に浮かぶのは黄泉人に滅ぼされた村の数々。
戦いでいつも割りを喰うのは、一般人ばかりである。
その後、考える為か押し黙ってしまったうさを連れて、屋敷に戻ったわけだが‥‥。
「な‥‥何なんですか、これはーーーーっ!!」
惨状を一目見て、澄華が絶叫したのは無理も無し。
表にまで聞こえそうな程の怒声に罵声に歌騒乱はいいとして。
屋敷の中、辺りに散乱する小物類。破れた障子に襖に、踏み泣かれた床やら穴の開いた天井やらも。こぼれた墨が点々と黒い染みを作り、そして何より。
酒臭い。
「いえ何かこう、済崩し的に飲み会になってまして。で、荒れてるのは酔って暴れた狸をすっかり目が据わってる小町さんが怒って小物投げつけたせいで、墨は無路渦さんが寝てる所に落書きしようとして狸が手を滑らせたせいです」
とかく淡々と幸穂が説明している。が、内心呆れているようだ。
片隅を見ると、確かに黒ずみになって無路渦が倒れている。寝ているだけのようだが、ヒゲやら目玉やらいろいろ書かれてひどいものである。
「ま、いーじゃん。お前も飲めつーのっ!」
「ちなみに猫さんはマタタビでできあがってます。絡んでくるので気をつけて下さい」
澄華の手を引く猫に、幸穂がやはり注意を入れる。
「いいなー、お酒。うさにも頂戴♪」
ごろごろと転がってる酒瓶を見つけ、うさがひょいひょい飛び跳ねて駆け寄る。
「へ、お前なんぞにやる酒は無いさ!」
「おうよ、これが欲しければ三遍回ってワンと‥‥」
「いけずしないで、渡してあげなさいってばっ!」
「そうだね。ここはけちけちするんじゃないよ。ほら、あんたも一杯やんな」
「ってか、酒ねぇぞ〜。と云う訳で買い出し行くぜいっ」
「待て、どさくさで逃げる気か?! もうちょっと付き合え。誰かに行かせりゃいいだろ」
「わたくしが行って参ります。というか、ちょっと胸焼けが‥‥」
「私も行きますです〜。さすがに頭がくらくらと‥‥」
「ZZZZZZ〜」
「‥‥‥‥で。話し合いはどうなるのでしょう?」
飲んで騒ぐ者、寝込む者。酒宴で割を喰うのは素面の人である。
そんなよく分からない酒宴はそれから遅くまで続いた。
なお、翌日の午前中は二日酔いで倒れる人とその介抱に明け暮れたという。
まぁ、もろもろの結論からすれば、兎はひとまず江戸行き決定。狸たちはどうやら京に残るようだが、話いかんではころりと江戸に行ったりもするだろう。
猫は小町の家に滞在。調査に協力するかは「気が向けばな」との事。
そして、始終話に上がった姫路や黒服の関係についてはやはり情報が少なく。奴らの動きを見るしか今の所手が無いようだ。