そこで転ぶな 二年坂

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月01日〜08月06日

リプレイ公開日:2005年08月09日

●オープニング

「ニャーン」
 暗がりで目が光る。物陰から道行く人を、用心深そうに見つめる瞳。
「ニャ、ニャーン」
 その双眸が一つ、二つと増えていく。それらの目がさもおかしそうにすっと細まる。陰に潜み、影に隠れ、道行く人はそれに気付かない。
 そして、
「ウニャニャーン♪」
「どわあああっ?!」
 物陰から一直線にそいつは飛び出す。その正体は、猫、猫、猫。いや、正確にはちょっと違うのだが、いきなりの事に気付く人は少ない。
 そして、通行人が目を丸くする間に、そいつらは狙い定めた一人の足元へと纏わりつき、
 こすこすこすこすこすこす‥‥。
「うわ、とっとっと‥‥!!!!」
 その足に身をこすり付けるや、体勢を崩して通行人は倒れる。倒れたその体を愉快そうに踏みつけると、あっという間に猫たちは去っていく。
「転んだ‥‥」
「転んだわよ、あの人」
「お気の毒に」
「ねー、本当に死んじゃうのー?」
「しっ! 黙ってなさい!!」
 周りで見ていたその他通行人は気の毒そうに倒れた通行人に目をやり、やがて恐々と足早に去っていく。倒れた人は‥‥痛くてちょっと起き上がれなかった。

 そして、冒険者ギルド。
「二年坂を知ってるか?」
 ギルドの係員は冒険者にそう問いかけた。
 二年坂。二寧坂とも言い、石畳と石段で整備された古くからある坂だ。
「この坂には一つ言い伝えがあってな。曰く、ここで転ぶと二年以内に死ぬ」
 縁起でも無い。が、本当にそう言われてるのだから仕方なし。
 明確に確かめた者はないので勿論真偽は定かではない。単に下が石で舗装されてる為、転ぶと怪我してかなり痛いから転ばないように、と云う教訓を含んでるらしい。信じるにはちょっと根拠が無いが、軽んじるにはちょっと気がかり。
 近くには神社や寺の類が多くある為か、人通りは結構多い。しかし、ここを駆けるような人は稀である。子供でもはしゃいで転ぶような真似は避ける。
「という坂なのだが。困った事に、最近、すねこすりが出るようになりやがった」
 すねこすり。丸々とした猫のような妖怪で、暗い夜道に現れては人の足元に纏わりついて転ばせてしまう。
 転ばせる以外は特にこれといってどうでもない妖怪なのだが、何といっても場所が悪い。縁起を担ぐ者は二年以内に死んでしまうのかと怯える日々。
「と言う訳で、このすねこすりたちをどうにかしてくれって話だ」
 夜道に出ると説明したが、このすねこすりたちは昼夜を問わずで、しかも複数出るらしい。一匹で一人を狙う時もあれば、複数で狙ったり、あるいはその複数で複数の人を狙ったりと行動も予測つかず。
 だがま、放っておくには被害も大きく。うっかり頭なんぞうってはつまらない。
 頼んだぞ、と告げる係員に、冒険者たちは一つ頷いた。

●今回の参加者

 eb0503 アミ・ウォルタルティア(33歳・♀・レンジャー・エルフ・インドゥーラ国)
 eb1362 セラフ・ヴァンガード(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1913 日田 薙木穂(49歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1914 阿坂 透子(31歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2395 夏目 朝幸(23歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3037 白海 闘璽(34歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

「転ばせているのはジャパン特有の猫さんですか?」
 普通にそう尋ねるのはアミ・ウォルタルティア(eb0503)。ある意味、それは間違ってない。
 すねこすりはジャパンでしか見ない。が、猫に似た姿ながらも猫ではなく、実際は妖怪なのである。
「猫みたいな妖怪‥‥。なんか、ちょっと‥‥かわいいかも」
 少々頬を緩ませて笑みを作ったセラフ・ヴァンガード(eb1362)ではあるが、次の瞬間にはすごい勢いで首を振る。
「ああ、駄目だ駄目だ! まずは依頼だ! 不気味な坂の言い伝えはともかくとして、転んで怪我した人も出てるなら、何とかしないと!」
 自らの邪念を振り払い、力強くそう告げるセラフ。
「転ばすだけで、命に関わるような悪さをする訳じゃないみたいだけど。確かに転ばす場所が問題だなぁ。単純に坂から転げ落ちるだけでもただじゃすまなそうだし」
 坂の様子を聞いて、白海闘璽(eb3037)は渋面を作る。
「仕方ない。とっつかまえて、もう少し害のなさそうな所へ放り出すか」
 言って、ジャイアントの巨体を重そうに動かす。
「そうですねー。早く二年坂に現れるすねこすりさんをもふもふして‥‥じゃなくて、皆さんの迷惑にならないようにするのですー」
「きっと寂しいんでしょう。会えたら一緒にじゃれあって遊ぶですね♪」
 朗らかに宣言する夏目朝幸(eb2395)と共に、アミもまた大きく頷く。
 ‥‥猫に浮かれてるのはどうもセラフだけではないようで。

 出るとされる二年坂に昼の内から訪れる冒険者たち。一応透子が光源を借り受けられたものの、それでは心もとなく。
 ここで転ぶと二年以内に死ぬと言われている不思議な坂。
 とはいえ、その言い伝えの真偽は不明で、信じるか否かは人による‥‥はずなのだが。今は一応に通行人の挙動はおかしい。終始目を辺りに配らせている。
 すねこすりは体当たりして人を転ばす妖怪。信じなくても気にはなろうし、それを放っておいても下は石畳。転べば普通に痛い。
 なので、
「最初から転ばないようになればいいと思うでーす」
 嬉しそうに匍匐前進で坂を進みだすアミ。道行く人が奇異の目で彼女を見ようと、まるきり気にせず、その格好のまますねこすりを探し出す。
「見当たりませんね。少し歩けば出てくるでしょうか?」
 言って、朝幸が元気よく歩き出す。
「そうだな。歩けば誘われて出てくるだろう」
「ちょっと待って。相手は一応猫っぽい妖怪って言うじゃない。マタタビを買っておいたわ。効果あるかしら?」
 セラフもそれに習いかけると、阿坂透子(eb1914)が呼び止め、マタタビの粉を渡す。
 その上で、坂の入り口にも粉を詰めた小袋を置いていた。
 セラフと朝幸。二人それぞれで何度か坂を往復していると、
「ウニャン!」
「うわっ!」
 物陰から何かが飛び出てくるや、朝幸の足元めがけて走りよってくる。体当たりされて朝幸が尻もちをつくが、仕込んでおいた座布団が衝撃を吸収。
「出ましたですよー! すねこすりですー」
 おかげで痛みはなかったが、相手はその間にさっさと逃走を図っている。朝幸が声を上げる頃にはまた別の物陰に隠れようとしていたが‥‥
「ウニャ? ニャニャニャン??!!?」
 毛を逆立ていきなりじたばたと立ち止まって暴れだすすねこすり。
 否。
 炉辺に生えた雑草が、すねこすりの足元にがっちりと撒きつき絡んでいる。プラントコントロールだ。
「あまり悪戯ばかりしてるから、そういう罰があたるんや」
 スクロールを広げたまま、日田薙木穂(eb1913)がすねこすりを叱り付ける。
「ふふふ。ほーら、捕まえましたよー」
 暴れるすねこすりを、朝幸は嬉しそうに抱きしめる。
「きゃあ!」
 セラフの足にもすねこすりたちは体当たりして来た。不意を衝かれてセラフがすっ転ぶ。うまく手をついたし、武器の類も念の為に持ってきてはなかったので怪我こそ無いが、痛いものは痛い。
 だが、痛みの甲斐はあった。
「ギャウ! ウギャア!」
 セラフは脛にトリモチを巻いていた。それに見事すねこすりが引っ付いている。
 毛をモチに粘り取られ、逃れようとぎゃあぎゃあわめく。自身の肌にはつかないよう細工してあるのだが、こうまで暴れられてはその甲斐も無くなりそうで、慌てて押さえにかかった。
「おとなしくして‥‥。っと!」
 トリモチまみれのすねこすりをまず一匹押さえてる最中、その足に別の一匹がこすりついてきた。
 丁度、座っていたのでさらなる転倒はまぬがれた。そして、トリモチにへばりついたままごろごろ言ってる二匹目を捕獲する。
「こちらは、効果ありのようね」
 それを確認し、透子は置いた小袋に目を向ける。坂の手前に並んだそれらには、普通の猫に混じってすねこすりも姿を見せていた。
 坂に姿を見せると言う六匹の残り三匹。透子が手を伸ばすと、簡単に触れたりも出来る。猫に似ている、と言われるだけあって、やはりこういう所も似ているのか?
 ただ、マタタビでおとなしくなるようなすねこすりばかりでもない。酒癖ならぬマタタビ癖の悪いのもいるようで、一匹、ギャアギャア鳴き散らしながらそこら辺中を走り回り、上機嫌で手当たり次第に脛こすり出す。
「うわわわ」
「危ない!」
 通行人の足元をすねこすりが掠める。よろめいたその人物を、闘璽が受け止めかけるがそれを見計らったように、別のすねこすりが突進してくる。
 相手を選ばぬすねこすり。目についたら誰でもいいらしい。
 見事に脛に直撃されたが、そこは流石と言うべきか、どうにか転倒を免れる。投網と外套の簡易座布団を拵えてあるとはいえ、近くに人もいる以上、迂闊に転んで巻き添えにする訳にもいかない。
「そっちに逃げたぞ!」
「はい!」
 アミが返事するが、なまじ転倒予防に腹ばいになっていたせいで、起き上がろうと身を起してる間にひょいと身軽にすねこすりから踏んづけられる。
 が、その逃走劇もしばしの事。植物に絡め取られた所を、アミが力いっぱい抱え込む。
「捕まえたですー」 
「やれやれやね」
 ニコニコと笑う彼女とは違い、薙木穂は軽く肩を竦めていた。

 捕まえたすねこすりたちを縄で縛り付ける。
「ところで、これはどこに引き渡すべき?」
 今だマタタビでごろごろ言ってるすねこすりたちを見遣り、透子が問いかける。
 ギルドに持っていっても、あそこは仲介屋なので困るだろう。役所に届けるにしても、さてどこの管轄になるやら。それに‥‥。
「人を殺めた訳でも無いし、退治しちまうってのも忍びない。血を流す事は好きじゃな‥‥ぅおっと!」
 縄に縛られたまま、器用ににじり寄って脛に体当たりしてこようとしていたすねこすりから闘璽が慌てて逃げる。まったく、油断も隙も無い。
「でも、転んで怪我しちゃった人とかいるから、この坂にそのままにしておくことは出来ないな。かといって、人に襲い掛かってどうのって訳でも無いし‥‥」 
 一匹を拾い上げると、セラフが抱きしめる。酔って寝込んだ姿は大人しい限りだが、一応実害もある以上、放置する訳にもいかない。そんな事をしてもまた転倒を繰り返すだけで、何のために自分たちがココに来たのか分からなくなる。
「そうですね。ココには置いておけないですね。人のいない所に連れて行く方が、お互いにとってもいいと思うです」
「うーん。すねこすりさんもたまには脛をこすりたいでしょうから、人里に近い方がよろしいかと思いますが‥‥」
 仰向けに転がっていた一匹の腹を撫でながらアミが告げると、困惑気味に朝幸も意見を述べる。
 結局は適当な近くの山を見繕って、すねこすりたちを放す事とする。
「もう二年坂に戻ってきちゃ駄目ですよー」
 アミが一匹ずつ頭を撫でながらやさしく諭す。これで最後かとセラフもしっかりと抱きしめて感触を楽しむ。 
「ほら行き。もう悪さしたらあきまへんぇ」
 薙木穂が怖い顔して諭すと、すねこすりたちの縄を外して一斉に追い立てる。
 すねこすりたちは、ふらふらの足取りでのたのた歩き出すと、
「ニャーン」 
 軽く鳴き声を上げて、やがて山の中へと一斉に走り出した。