化け物道中 月を通りて江戸に行く
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月13日〜08月18日
リプレイ公開日:2005年08月22日
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●オープニング
過日、播磨の国にて江戸から連れて来られた化け兎一匹と化け狸二匹を保護(?)した。
ひとまずは京に留め置き、そして先日いろいろと話し合った結果、化け兎は江戸に戻る所存を告げた。
とはいえ。江戸に戻る、と一言で言ってもそこはそれ。相手は妖怪なのである。そこらの犬猫を運ぶのとは訳が違う。
江戸までの道としては、主に海路と陸路がある。
海路は日数がかからない。妖怪を乗せるなど、拒否されるのがオチ。おまけに肝心の化け兎、連れて来られた時に溺れたのが原因か、海は断固拒否している。これを無理やり乗せたら、船内で暴れかねず。
比べて陸路はわりと簡単だ。下準備も海に比べれば格段にたやすい。が、こちらは日数がかかりすぎる。その間、化け兎の性格からして、ずっとおとなしくしているのだろうか。
不安である。
「だから、月道使えるか頼んでみたの。あれならすぐに向こうに運べるじゃない」
「すげぇな、そいつは‥‥」
真面目に告げた陰陽師の小町に、ギルドの係員は本気でつぶやいていた。どちらかと言えば、呆れる口調で。
月道。
京都と江戸を結ぶそれは今年に入ってから探索がなされ、二ヶ月前に稼動し始めたものの不備も多く。ようやく整備も終わって一般開放と相成ったのだ。
ただし。満月の夜に開く魔法の道は、かの地とこの地を一瞬で繋ぐ。もたらされる利益は計り知れず、であるからこそ国が厳重に管理する。
妖怪の通過など、海路を行く以上にありえない。
「そこはそれ。あたしだってあの月道探索には関わってたからね。顔見知りも出来たし、交渉の手もちょっとはあるわよ」
「何の役にもたたなかった癖に」
「そ、それは運と云うものの差というか何と言うかっ」
係員の突っ込みに動揺し、咳払いをして先を続ける小町。
「と、とにかくね。あちこちに頭下げまくって、どうにか月道を通してもらう許しは得られたのよ。でも、いろいろ条件がついてるわ。平たく言えば、妖怪が暴れないようきちんと檻に入れ、護衛をしっかりとつけて、目立たず騒がず粛々と通過する事」
ま、妥当だろう。
「それで? 護衛として冒険者を雇おうってのかい?」
「それもあるんだけど‥‥」
小町が目を彷徨わせ、言いにくそうに口を開く。
「えっとねー。先に江戸に戻れる事を化け兎に告げたのね。そしたら、すっごいはしゃいじゃって‥‥」
それもはしゃいでるのは江戸に戻れるからでなく、月道を通るからである。
何せ化け兎の月への思い入れは非常に強い。さらに、月道の説明をどう間違えたか「お月様に行く道」と捉えたらしい。これで浮かれない方が不思議である。
「おまけにねー。檻に入ってって言うのが気が引けて、ちょっと婉曲的にお願いしてたら、それこそどう間違えたのか神輿に乗れるんだと思っちゃったのよ」
担ぎ棒がついた箱と捉えたら‥‥あながち間違いでも無い。用途も装飾もまるきり違うが。
「さらにねー。あの子、今、一生懸命餅ついてるのねー。お月様行くのはめでたいから餅撒くんだってー。月道通るのに、神輿に乗って餅をばら撒く化け兎‥‥。可愛いだろうけど、間違いなく通してもらえないだろうし、あたしの首だって飛ぶわよ〜」
化け兎はそれほど攻撃的な妖怪でもない。大型の犬の方が危険だし、凶暴だろう。が、それでも通してはくれない。妖怪の性質云々よりも、その他通行客の心情と安全こそが大事なのである。
「もう、純粋に信じてるから、なんか言い出しづらくなっちゃって‥‥。と云うわけで、納得して通ってもらえるよう、冒険者の方には化け兎の事、全般的にお願いね。その代わり月道代も支払うわ。
ちょうど知り合いが江戸に届けたい荷があってね。ついでにそれを届けるって言ったら、お金出してくれるってさー。なもんで、それもお願いする事になるけど、向こうで待つ人に届けるだけの簡単なおつかいだから大丈夫よ」
責任を押し付けて小町はにこりと笑う。
「そういや、他の妖怪たちはどうするんだ?」
「化け狸らは京都に残るみたいね。ま、あいつらは説得次第ではついてくかも。別にそれでもいいけど、その時は化け兎同様檻に入れて静かにしてもらわなきゃ。
猫は駄目よ。ようやくあいつも京都に落ち着く気になってるんだし。それに例の襲撃が気がかりみたい。滅多なことでは動きそうにないわ」
話す小町に、係員は気の無い返事を返す。
そんなこんなで依頼は出された。
●リプレイ本文
「やっと会えた、長かったわー」
京都でご厄介になっている寺の境内。
化け兎・うさをぎゅっと抱き締め、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)が喜びの声を上げる。
涙流して喜ぶニキに、うさもとりあえず喜んでひっしと抱き付く。
「お久の依頼! しかもシロと一緒! とにかく俺は嬉しいよ〜」
その隣では、外橋恒弥(ea5899)が感動の笑みを浮かべて二条院無路渦(ea6844)に抱きついているが、
「トノ‥‥長屋一緒でしょ」
当の無路渦は面倒そうに背中をぺしぺし叩いている。
こちらは結構おざなりにあしらわれているようだ。
「お、うさくん。話は聞いてるよ、始めましてだね〜。ほい、握手握手♪」
「あくしゅあくしゅ♪」
そんな扱いにもめげる事無く、恒弥が手を差し出すと、うさは両手でしっかり握って嬉しそうに振り回す。ついでに興が乗ったか、ぶんぶん振り回しながら踊りだしたりしている。
「‥‥浮かれてますね」
らったったと足取り軽く、あちこち跳ね回ってるうさを見ながら、字冬狐(eb2127)は複雑な微笑を浮かべる。
「そういえば、私も月道は初めてのような気がするんですけど」
「一緒一緒」
「う、まぁ。いずれにせよ、ただの通り道ですし、うさ程の思い入れはありませんけどね」
笑顔でぶんぶんと握手されて、御神楽澄華(ea6526)もまた苦い微笑を浮かべる。何だかそれが顔に張り付いてきそうだ。
純粋にきらきらとした目で冒険者らをみつめるうさは、もう喜びいっぱいで。
これから告げる事を思うと胃が痛む。
結論として。
冒険者たちは一切を包み隠さず正直に告げる事にした。
「‥‥行けないの?」
「いやほら。行けたら逆にうさくんのお友達がたくさん月から来ているはずだし、そういう事は無いだろ?」
恒弥がしどろもどろに弁解するも、うさはすでに聞いちゃない。
月道は月に行く道ではない。
そう理解した途端に、元の兎姿になってふらふらと寺の隅っこに歩み寄り、そのままぽてんと倒れてしまった。
「誤解したまま行っても騒ぎになるだけ。とはいえ、ちょっと気の毒しましたか‥‥」
説明した澄華としては胸も痛い。裏の墓場の御住人から、元気出せよと肩を叩かれそうな程の落ち込みぶりは、仕方なかったとはいえ気が咎める。
「‥‥小町が最初にちゃんと説明しておけばよかったのに」
無路渦の指摘、ごもっとも。
皆が見守る中、どっぷりと暗黒面に浸りきっていたうさだったが、おもむろに身を起すと俄然張り切って杵を構える。
「どうしたんだ?」
「お月様まで行けなくとも、お月様の道を通るのは確か。だからがんばって餅まくぞー‥‥という事です」
「めげないなぁ。月にかける情熱は、俺の胡瓜への思いとどっちが上だろ」
冬狐がテレパシーを使ってうさの心中を説明すると、感じ入ったように恒弥が唸る。
とはいえ。餅撒きもちと困るのだ。
その旨伝えると、途端に涙目になってうさがじたばたとひっくり返って暴れだす。
「嫌だー、お餅撒くー、お月様はおめでたいからお祝いするー、とそんな感じで。‥‥気持ちは分かりますが、ここは一つ堪えてくれませんか?」
暴れるうさの手をとって、じっと目を見つめる。チャームをかけといたのが良かったのか、ひとまず落ち着いておとなしくなるうさ。
へしょんと耳を垂れて見つめ返してくるうさを、冬狐は思わずぎゅっと抱きしめる。
「あのですねぇ。月道を通る時は静かにしないといけないのです。なので、粛々と通れるかどうか。皆で勝負しませんか? せっかくの御餅もその勝負で勝った方がもらう、という事で」
申し訳なさげに澄華が諭すと、うさは首を傾げる。
「静かにしとらなあかんから、お餅撒くんは無理ですやろ? でも、せっかくついたんやし。京都でお世話になった人たちにまずお礼としてお届けしたらいかがですやろ」
にっこりと笑ってニキが提案すると、不承不承といった感じでうさがヒゲを揺らす。
「そうだね。狸くんたちともお別れなんだし。最後に思い切ってぶつけてきたらどうだい? 余った奴は村へのお土産に‥‥」
「うわ、この何しやがる!!」
恒弥の言葉が終わるより早く、うさが御堂でだれていた狸らに餅を投げつけている。
月に行けぬ鬱憤を晴らすかのごとく。わざわざ乾燥させて硬くなった餅を選び、剛速球ならぬ剛速餅で次々と狸らへと投げつけていく。その迫力ぶりには今更冗談さ、と笑い飛ばせず。
「そういえば、猫の京都残留は異論無いけど、狸らは結局どうするの? ちょっと事情が変わったし、今戻してもねぇ」
面倒臭そうに狸らを指差す無路渦に、考え込む藍月花(ea8904)。
「江戸に帰って向こうの和尚に監督していただくのが良いとは思いますが。なにやら残り二匹が海賊になって見つかったというお話ですし、気にはなりますが今はうさ優先でしょう」
どうか無事で、と月花は祈る。祈るが、別に大丈夫という気もしてきていた。
うさの投げた餅を、引き抜いた卒塔婆で打ち返すなんて罰当たりな事をしでかす狸のふてぶてしさ。これと似たり寄ったりの奴が、そう簡単にくたばるとも思えなかった。
そして、十五日。満月が天高く昇れば、それで月道が開く。
「じゃ、こっちがうさを通してもらう許可証。で、こっちが向こうへ届ける荷物。手荒に扱っても大丈夫だけど無くさないでね」
「あ、忘れてた」
間の抜けた声を上げて荷を受け取った恒弥を、陰陽師の小町が軽く睨んでいる。ま、気にかけた分だけましともいえるが。
「それでは、うささんはこちらにどうぞ。腕によりをかけて作らせてもらいましたお神輿ですよ」
晴れ晴れと笑って月花が神輿を披露。‥‥といっても、その真相は装飾した檻なのだが。
さすがに工作の腕が立つだけあって、見事な仕上がりになっている。うさが素直に喜んで、何を言うまでも無く自分から中に入り‥‥。
「うぎゃっ!!」
短い悲鳴の後、転がり出てきたのは無路渦。顔にしっかり兎の足型がついている。
「シロ‥‥。中で寝てたな」
何があったか推測ついて恒弥が頭を抱える。当の無路渦は相変わらず気にせず、気にせず。
「どうやら気に入ったみたいですね。良かったです」
と言いつつ、冬狐の顔は若干浮かない。
もし入るのを渋るようなら一緒に入っていろいろと〜、と目論んでいたが。神輿が気に入ったのか誰も入れてくれない。ちょっと寂しい冬狐である。
今月より、月道は一般開放される。通常料金を払えば誰でも月の道を利用できるとあって、月道待ちはそれなりの人で賑わっていた。
これから行く地や商談についてなど、あちこちで騒がしく、活気があった。
商業用なのか大荷物を持った団体も結構いたが、さすがに神輿担いでいる者は無い。檻の装飾はうさが入った時点で取っ払っているが、それでも何かと注目を浴びていた。
それが分かるからか、うさも檻の中には入ってくれたがずっとごとごとと動きっぱなし。
「疲れて寝てくれるかと思てたんやけど、甘かったわ〜」
連日餅作りに餅配りに餅投げと、なるべく体を動かすよう仕向けたニキだったが。どうやら、楽しい事には普段より早起きして早々と準備し周りをせかす部類のようだ。人化けしていないから喋らないだけまだマシか?
「うささん。お月様の下ではお月様に失礼だから静かにしていなければなりませんよ」
月花がたしなめると一応静かにはしていたが、それでも檻の中でそわそわしているのが気配で分かる。
「月の力を借りる以上、静かにするのが礼儀。さもなくば力を借りられないですから」
嘆息づき、澄華がきつく注意を入れると、途端に動きが止まる。さすがにお月様に迷惑はかけられないらしい。
もっとも力が借りられないのは月ではなく月道の管理者からである。わざと取り違えさせる為に黙っているが。
やがて月道が開き、人が動く。江戸に行く人、京都に来る人。開いた僅かな時間を利用して一斉に彼方と此方とを駆け抜けていく。
まさしくあっという間に。冒険者たちは京都から江戸へと移動した。
月道を無事に潜り抜け、人様の迷惑にならないと判断できる場所まで運び出すと、檻神輿を下ろす。
「うさ、静かだったでしょー。一番♪」
出てきた途端、悪びれなくえへんと胸張るうさに、冒険者一同苦笑い。
その後、小町のお届け物を相手に渡し、物はついでと故郷の山までうさを送り届ける。
山の方ではうさがいない事にはさほど気を止めてないようだったが、さすがに事情を話して京に行っていた経緯を知らせると驚嘆していた。
改めて月花が注意を述べ、冒険者たちは江戸へと戻る。
これにて、無事に依頼終了。うさはお山に戻った。