【姫路】 海で会うのは如何なる者か

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月16日〜08月27日

リプレイ公開日:2005年08月25日

●オープニング

「いたーー! いた、いたーーー!!!」
 こけつまろびつ慌てて冒険者ギルドに飛び込んできたのは、姫路在住のチビ少年・小銀太。御年十五。
 全力で駆けてきたのだろう。乱れる呼吸を出された水で一気に飲み込み、ギルドの係員に仔細を話す。
「あの、化け狸たち! 残りの二匹、見つけたんだよ!!」
 以前、姫路にて化け狸と化け兎を捕らえよ、という触れが出されていた。
 その触れに絡んで冒険者ギルドに話を持ってきたのは小銀太だ。結局いろいろあって、化け狸二匹と化け兎一匹は京に戻され、かつ化け兎は江戸に帰される事になった。
 さて、その化け狸たち。
 そもは四匹おり、その全員が姫路に連れてこられたが、二匹が何らかの都合で逸れていた。
 小銀太としては地元の話でもあるし、その「結局いろいろ」の間に化け狸たちにも同情気味で、その後も何とはなしに情報を集めていたのである。
 それで化け狸たちの行方はといえば。
「どうやら、海賊と一緒にいるみたいなんだ」
 播磨国は南が海に面する。海に海賊は付き物と言えるが、姫路の政情不安を察してか、昨今は横行が激しくなっている。
 で、その海賊に化け狸が混じってたらしい。何がどうなっているのか良くは分からないが、海賊として立派に(?)活動しているようだ。
「で、今度その海賊退治に船が出る事になったんだ。藩の小幡弾四郎とかいう侍が筆頭になって、海賊退治に出るやつらを集めてるんだ。
 海賊退治なんてされたら、当然あいつらもまとめて退治させられるよな。どうしよう」
「ま、落ち着け。で、お前はどうしたいんだ?」
「それがどうしたらいいか分かんないから困ってるんじゃないかーっ!!」
 おろおろと泡食ってる小銀太に、係員が拳骨一発、落ち着けせる。
「というか、本当にあいつらの仲間に間違いないのか? 別の化け狸という事は?」
 世に化け狸はごまんといる。それぞれ一匹ずつ識別できるなど、慣れたものでないと無理だろう。おまけに小銀太はあった事すらないのだ。
「そりゃ、俺も考えたけどさー。人間に化けてそのまま素っ裸で胸張って笑う狸なんて、あいつらぐらいじゃねぇのー?」
 納得。

●今回の参加者

 ea2454 御堂 鼎(38歳・♀・武道家・人間・ジャパン)
 ea2495 丙 鞘継(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3363 環 連十郎(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4870 時羅 亮(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

七坐 慶太(eb3155

●リプレイ本文

 海上。播磨灘は本日快晴。海は果てしなく青く、空には白い雲が漂う。
 夏の日差しを受けながら、冒険者たちは船の甲板でその光景を眺めている。
 乗り込んだ船はさほど大きくは無い商船。だが、船蔵にあるのは荷ではなく人。それも武装した人間が詰め込まれていた。
 数としては冒険者を含めて二十名程。後は操船の技師が乗り込んでいる。
 武装の目的は海賊退治。そもはその為に用意された船なのだ。
 播磨灘にはびこる海賊を退治する。姫路藩の侍数名が中心となり、市井からも剛の者を集めて討伐に乗り出していた。
 その市井からの参加者の中に冒険者が含まれる訳だが、彼らの目的は実際の所、海賊退治が主では無い。
「姫路藩‥‥。前々から妖怪を集めて何をしでかしているのでござろうか。よからぬ事ならば阻止すべきでござる」
 というのは阿阪慎之介(ea3318)だし、他の三名に至っては。
「残り二名は海で海賊か‥‥。一体どうやってなったんだ?」
「何故に其処にいるのか。相変わらず突っ込みたくなる奴らだ」
 しきりに首を傾げているのは時羅亮(ea4870)。対し、丙鞘継(ea2495)はもはやそれすら通り越してひたすら感心している。
 彼らが思うのは、姫路で見つかった化け狸たち。
 元は江戸で暮らしていたのが、何故かここ姫路にて追い回されていた。紆余曲折で結局京都へと連れ帰ったが、彼らは四匹で行動していたにもかかわらず、見つけた段階ですでに二匹しかいなかった。
 残りの二匹はどこに‥‥と気に病んでいたら、ひょっこり海賊で出てきたのだ。その間、何があったのか、確かに気になる所。
「まぁ、京都の二匹にそっちで探せばって言った手前、見捨てる訳にもいかないし。こっちも責任持って探さにゃ女が廃るってね」
 艶然と御堂鼎(ea2454)が告げる。
 もっとも、京都に連れ帰った化け狸たちの方は、今一探してるんだか遊んでるんだか分からない生活を送っていたが。
「こっちも友人の頼みで一度関わっただけとはいえ。助けてやらねばな‥‥」
 嘆息付きながら、ちらりと鞘継は船室を見遣る。
 市井の者は勿論、姫路藩の侍も今回は同行している。
 京都の冒険者ギルドは陰陽寮が後ろにある事から、他の都市のギルドと違い、半官半民の性質がある。とはいえ、京から出てしまえば、やはり一個人には変わり無い訳で。姫路にいれば、姫路の法に従わねばならない。
 藩の代表は小幡弾四郎という侍。話によれば姫路藩主・黒松鉄山の腹心らしく。事前に戦略など少々話をしてみれば、確かに腕の立つような感じはした。
 ただ、性格はよろしく無い様子。どこか神経質そうに采配し、異論などは全て一喝で斬り捨てていた。彼の話を集めて見れば、振られた衝撃でさらに性格がねじくれたらしいが、どうなのやら。
 それでも。権は向こうにある。海賊退治に妖怪が紛れ込めば、成敗されて当然で口出しする権すらこちらにはない。それを救うというのは厄介な話だった。
「まぁ、それはやってみなくちゃ分からないさね。‥‥来たよ」
 周囲を見張っていた鼎が、緊張した面持ちでそちらを睨む。
 海の上。一隻の船が見える。それはどこを向かうでもなく、一直線にこちらへと近付いてきていた。
 すぐに船内の侍たちへと知らせに走る。
「‥‥姫路にどのような思惑があるか。気になるでござるが、海賊などという輩も捨て置く訳にもいかぬでござる」
 知らせを受けた船内でも動きが慌しくなる。侍たちを除けば他は腕に覚えありで参加してるのだから、お世辞にも上品とは言えない。その藩の侍にしても、これを気に功を上げようと鼻息は荒い。それを弾四郎が不気味な眼差しで見つめている。
 彼らを見遣り、心中で嘆息しながらも慎之介はまずはオーラエリベイションを唱えた。

 近付いてきた船は商船に擦る程近接するや、すぐさま鈎付の縄で手繰り寄せられる。そのかかった縄の上を器用に走ってくる狸が二匹。その他数名の海賊に囲まれてちょんと手すりに立つや、人型に変身する。
「はっはっは! おとなしく荷を差し出せ! さすれば命までは取らんぞー‥‥って、あれ、どこぞで見覚えあるような姐さん‥‥」
「五月蝿いよ。少し静かにしてな!」
 開口一番。鼎が化け狸へ走り寄るや、素っ裸でぽかんと口を開けている一匹を早々と海へ蹴落とす。
「うわっ、ぽん兄ぃ!」
「ほれ、あんたも」
 海を覗き込んだもう一匹も容赦なく、泡立つ波へと落とし込む。
「従う気無しか。ならば、悪いが痛い目にあってもらう!」
 後続。海賊船から次々と人が踊り出る。全員の数はこちらとほぼ同等で、軽い防備に手には刀。一部を残して身軽にこちらへと乗り移ると、鼎と刃を交わらせ、他の船員たちにも斬りかかろうとする。
「今だ! かかれ!!」
 十二分に引き付けたのを見計らい、物陰から弾四郎が号を発する。途端、隠れていた侍たちが姿を現し、海賊たちへと切りかかった。
「遅れを取るなでござる! 働きが悪ければ恩賞も得られない。こちらの先制で海賊を倒すでござる!!」
 慎之介が鼓舞に、自然、士気が上がる。
 真実は退治の目を狸たちからごまかす為だが、実際、その言葉は彼らには効果覿面だった。
「おぉっし! 頭はどこだー。俺が首を上げてやる!」
「抜かせ! ワシの方が早いぞ!」
 藩士たちはともかく、他は所詮寄せ集め。腕に覚えのある分、嬉々として我先にと海賊たちへ切り込んでいく。
 勿論、慎之介も負けてはいられない。慌てて武器を構える海賊の一太刀をオーラシールドで防ぐと、素早く切り返す。狙うは武器破壊。オーラパワーも付与した日本刀は相手の粗悪な武器など簡単にへし折ってしまった。
「これ程の武装‥‥罠か!!」
 海賊が声を上げると、交えていた鼎の日本刀を弾く。その拍子に鼎は体勢を崩し、甲板から海へと落ちた。
「気にするな! 落ちた者は生存の見込み無く、助ける必要も無い! それよりも海賊たちを退治すべきだ!!」
 一瞬、討伐隊に動揺が走ったものの、すかさず鞘継が鎮めて海賊たちを指し示す。
 構えた日本刀にはバーニングソード。刃から揺らぐ炎に海賊たちはおろか討伐隊の面々も目を瞠る。
「馬鹿な! 都までが黒松に加担するか!?」
 海賊たちの狼狽は、鞘継が思う以上に大きく。だが、それで攻撃の手を緩めるつもりも無い。
 動揺の隙をつき、脛を切り払っていく。相手の虚をつく動作は斬り込みやすい反面威力が減る。が、まずは相手の動きを止める事が先決だった。
「怯むな! 誰が相手だろうと、我らの目的はただ一人!」
 海賊船の甲板。壮年の大男が大喝する。恐らく彼こそが頭目なのだろうが、気概に溢れた威風堂々たる態度は他の面子と違い、明らかに洗練されていた。
「弓! 撃てぇぇ!!」
 対して、弾四郎の方は彼に目を向けるなり、険しい顔つきで命令を発する。弓を携えていた侍たちが矢を放つ。襲ってくる矢を切り払うと、頭目の身が桃色のオーラを纏わせる。
「黒松の狗が!! ぬしら如きに倒されると思うか!」
 怒りも露わに頭目が船へと乗り込んでくる。両の手に刀を握ると、首を取ろうとした他の討伐手勢をいなして、一直線に弾四郎と斬り合う。
 双方ともに鬼気迫る表情で。オーラを交えて一歩も引かず、互いの首を取らんと殺し合いを始める。そこには技量を差っぴいても、口出しを許さぬ気迫があった。
 だが、それをぼけっと見ている訳にも行かない。
「船を押さえるんだ! 操舵を奪えば逃げられない!!」
「乗り込ませるな!!」
 亮の指示に、すかさず海賊たちが抑えに入る。他の二〜三の手勢と共に船に乗り込めば、すかさず向こう側も斬り結んでくる。
 片手に十手、片手に日本刀。討って来た刀をとっさに十手で弾く。それに取られている間に別の海賊が棍棒を振りかぶってきた。躱せないと感じ、急所だけを外してその衝撃を受ける。傷は負う事に変わらないが、いきなり致命傷などよりかはマシだ。
「ここは一旦お退き下さい! 我らが食い止めまする!!」
 海賊の一人が叫ぶ。
 海賊たちは手練が多く、何より団結力が大したものだった。だが、最初の動作に遅れた分、形勢は海賊側に不利になっていた。
「‥‥撤退するぞ!」
 傷つき倒れる者、海に落とされる者。数が減っていく状況は確かに分が悪い。
 そう判断すると、頭目は叫ぶ。が、その顔は苦渋に満ち、忌々しげに弾四郎を睨みつけている。
 それは弾四郎も同じだった。顔にこそ不機嫌を露わにしている。

 さて、落ちた鼎の方はと言えば。勿論死んではないし、そもが怪我をした訳でもなし。
 海に落ちた後は泳いでるんだか、溺れてるんだか分からない狸たちを救い上げ、波間をただよっていた板切れへと集める。
「ほら、掴まりな。今は死んだふりしておとなしくしてるんだよ。全く、世話の焼ける‥‥」
 狸らを拾い上げると一旦は船から離れるべく泳ぎだす。戦闘は優位なのだろうか、たまに甲板から海に放り込まれた人が落ちてくる。海賊たちが主だが、討伐隊の面子が降ってくる事もある。
 鼎たち同様板切れに捕まり一命を止める者もあったが、そのまま浮かんで来ない者もいた。
 哀れに思うが、兎角、今は狸たちが優先。後ほど船で回収してもらえるよう手はずを踏んでいる。鞘が友人に頼んで京での連絡をつけている。それまで見つからねば危険はおおよそ無い‥‥はずだった。
 唐突に。鼎の足が掴まれる。驚く間も無く、そのまま力強く海中へと引き釣りこまれた。
 見れば、海賊が足を引っ張っている。深く潜ると、その口にくわえた小柄を鼎に突き立てようとする。
(「冗談じゃないよ」)
 日本刀を突き立てると、さすがに相手も離れる。その隙に海面まで浮上すると、思いっきり空気を吸った。
「おお! 誰かと思いきや、江戸の姐さんではないっすか」
「‥‥今の今まで思い出せないたぁ。薄情だね」
 海中に引き込まれたせいで、少し放された。ひとまず息をついている時に、ぽんと手を打ち狸が得たりと告げる。その拍子に溺れそうになっていたが、それを救ったのは先の海賊であった。
「知り合いか?」
「まぁ一応」
「一応かい」
 その海賊が狸に問う。返された答えに鼎は苦笑するも、海賊は生真面目に鼎を見つめた。
「では、命は助けてやる。こんなでも今は仲間の一人だし‥‥奴らの手にかかるのも哀れだ。それと忠告だ。見た所藩の者ではないようだが、ならば奴らに手を貸すのはやめろ。人道に悖る」
 言うが早いか。海賊は狸らを連れて船へと戻る。
 追いかけたが、さすがに泳ぎは向こうの方が達者だった。見る間に引き離され、海賊船の方に保護されるのを、複雑な思いで見届ける。
 そして、甲板での騒ぎもどうやら決着ついたらしい。海賊船が速やかに動き出していた。

 船による追尾は行われなかった。戦闘の騒乱で破損が出来た上、操船の腕前にも差がある。今は追っても無駄と判断された。
 そのおかげというべきか。鼎も早々と船に助け出されていた。
 港について下船。退治の為の依頼をもらい、海賊たちとの鬩ぎ合いでの活躍や、さらに味方を鼓舞した――と思われたらしい――働きを評され、慎之介は褒美として日本刀を受け取る。
 海賊に逃げられたのは残念ではあった。が、逃がすと決めたのは弾四郎だし、一部の海賊は確かに捕らえられている。そもそも、そっちの方の結果は冒険者らにはなんら問題で無い。
 むしろ。
「狸たちは無事だったんだ。連れ返せなかったのは残念だね」
「うん。せっかく船用意してもらったのに、すまなかったよ」
 出迎えた小銀太に亮と鼎が船代を支払う。嘆息づかれて呟かれた言葉が胸に痛い。
「でも、仕方ないよね。また何かあったら知らせるから」
 慌てて励ますように、にこりと笑う小銀太。だが、その顔がふと強張った。
 何かと思えば、捕らえられた海賊が役所に連行される所だった。
 打たれた傷跡が痛々しく。さらに船室でも何かあったのだろう。船上で見た時よりも傷はさらに増えていた。狸らについて話を聞きたいと思っていた亮だが、それで何故会わせて貰えなかったのかを悟る。もっとも、会えたとしても周囲に人がいては聞きづらい内容だったが。
 藩士たちに引っ立てられて大人しく歩いていた海賊だが、姿勢を崩して転ぶ。縄で縛られていては受身も取れず。無様に倒れた海賊に弾四郎が侮蔑の眼差しを向けるや、鳩尾を鞘で打ち据える。
「さっさと立て!! ‥‥奴らの根城。是が非でも吐いてもらうぞ!」
 暗い怒りの眼差しは、海賊を通してさらに別のモノを見ているようだった。