金と小鬼と狼と

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月07日〜09月12日

リプレイ公開日:2005年09月16日

●オープニング

「助けてください」
 依頼人は冒険者ギルドに、這這の体で入り込んできた。その顔には見覚えがある。しばし考え、やがて呉服屋の旦那だと気付く。
 それなりの規模の店で、割りにいい生地を扱っている。だが、滅多足を運ばないからそんなに親しい相手でも無い。ましてや、こんな慌てふためく態度など普段の様から想像つかず、すぐには思い出せなかった。
「どうしたんでぇ、旦那。そんなに慌てて」
「助けてください。このままでは、店が‥‥壬生狼たちに壊されてしまいます」
 気を鎮めるよう宥めはしたが、あまり効果はなかったようで。呉服屋の旦那は愕然と膝をつくとそのまま泣き始めた。
「実は。以前、志士と名乗る方々がうちで暴れるという事がありまして‥‥。偽者と察しはついたのですが、何分、他にお客がいて迷惑でしたので、賂を渡してその場を収めたのです。それが耳に入ったらしく、新撰組の方が来られまして、偽志士に渡す金があるのならこちらにも差し出せと‥‥」
 言い渡された金は普段ならば確かに払えない事も無い額ではあった。
 が、京の治安は悪化している。鬼に偽志士、右京の荒廃。死人憑き、黄泉人なる者も出現し始めて久しく、今日ではさらに世の乱れを憂いたか人斬りなる輩まで京を彷徨うようになった。
 そんな治安の悪さといまだ続く黄泉人との合戦と絡まって物流も変わり、呉服屋はこの所の売り上げを落としていた。
 払えないと言えば、偽志士に加担した者として何をされるか分からない。何とか待ってもらい、すぐに金策に駆け回った。申し渡された額は無事に集まり、やれやれと思った矢先、その金を運んでいた者が鬼に襲われたのである。不運な事だ。
「幸い、運んでいた者は命をとりとめましたが、金は奪われてしまいました。新たに金を工面するのはもう無理です。新撰組の方にはやはり偽志士に加担する為我らに払わぬつもりか、あるいは紛失したと見せかけ偽志士たちの活動資金にするのだろうと疑われ‥‥」
 鬼の棲家は分かっている。奪われた金も恐らくそこだろう。だが、取り返そうにもただの呉服屋がどうにかできる相手ではない。新撰組に頼もうとしても鬼退治など畑違いだし、そも真偽が疑われていては何を言われるか分からない。
 なので、冒険者ギルドに駆け込んできたわけだ。
「確かに偽志士と分かっていて金を渡したのですから、罰されても仕方ないかもしれません。が、責は私だけで無く、店の者全員に及びます。偽志士に加担する者を罰すると壊されたり、焼き払われたりした店もありまして。先祖から守ってきたあの店をそんな目にはあわせられません。お願いします、どうか鬼どもから金を取り戻して下さい!」
 言って、呉服屋は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea0053 高澄 凌(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4236 神楽 龍影(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8806 朱 蘭華(21歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9850 緋神 一閥(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3272 ランティス・ニュートン(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 小鬼に奪われた荷を取り返す。
 実にありふれた依頼の内容だ。京の情勢に関わる事無く、どこにでも起こり得る事件。小鬼は小鬼でも戦士といえる程度の腕前を持ってる辺り、強敵と言えなくも無いが、それすらも珍しくも無い。
 珍しいのは荷の方だ。いや、金の詰まった箱なのだからコレも珍しくも無く。その金にまつわる事情が珍しいといえようか。
「乱れた世相とはいえ、大儀を護るべき者が無辜の民から金子を要求するとは‥‥。何とも嘆かわしい事です」
 緋神一閥(ea9850)が大仰に嘆息するのも無理は無い。
 取り返すべき金は依頼人たる呉服屋の物。何故集めたのかといえば、偽志士加担の弁明の為に新撰組に支払う為。
 もちろん、神皇の威信を語る偽志士を許す訳にはいかない。だが、それを狩るべき新撰組のこの所業には、冒険者一同嘆くやら呆れるやら。
「刀しか能が無いのは俺も同じ。とはいえ、どいつもこいつも何考えてるのかねぇ」
「まるで強盗! 威厳を示すならもっと他にする事あると思うんだけど」
 高澄凌(ea0053)に、朱蘭華(ea8806)も頷いてみせる。
「死人や妖狐など明確な脅威があるというのに。人の脅威はなお人というのは残念だ」
 ランティス・ニュートン(eb3272)が嘆息交じりでうんざりと呟く。
「‥‥だからこそ、俺は俺の信念に基づいて動くんだが」
 両の手には日本刀。その感触を確かめると、鬼がいるという山を睨みつけた。
「ここで言っても仕方ないでござる。まずは盗られた金を取り返す。話はそれからでござるよ」
 至極正論ながらも、どこか気欝げに香山宗光(eb1599)が告げる。依頼そのものよりも、出された経緯に問題があるのはやるせないものだ。

「鬼はここ数ヶ月ぐらいで住み着いたようね。件の洞窟は結構広いらしいけど、戦闘出来るほどではないらしいわ」
「とすると、やはり外におびき出す必要がありましょうな」
 周辺の村で聞いた事を蘭華が説明すると、神楽龍影(ea4236)もまた神妙に頷く。
「鬼はとにかく寄ってたかっての戦闘が好きらしいな。多少手練のようだが、洗練された戦闘法とはちと遠い感じだ」
 ここに来る前に依頼人たちに小鬼たちの事等を尋ねていたランティスが口添えた。
 山の中の洞窟。まずは蘭華と龍影が近付く。
「ゴブ? ゴブゴブ」
「ゴブゴブゴブ、ゴブゴブガー」
 二人に気付き、奥からにやけた笑みを浮かべながら二匹の小鬼たちが出てくる。盗んだモノなのか、体格とはやや合わないがいっぱしの鎧を身に着けていた。
 そして、さらに奥からもう一匹。のそりのそりと威嚇するかのように歩み出る。
 恐れるように、二人はゆっくりと後ろへ――洞窟から遠くなるように歩き出す。
「ゴブゴブ、ゴブゴブゴーー!!」
 それを逃げと取ったのか。一匹が下卑た笑いで身を振るわせながら、号令を上げる。残る二匹も歓喜の声を上げると、一目散に二人へと襲い掛かってきた。
 だが、その接近を騒がず、間合いを測ると龍影は起してあった火を魔法で操り、小鬼へと仕掛ける。
「ゴブ!? ゴブゴブ?」
 ありえない動きをする炎に、小鬼たちは思わず足を止め、それに注視してしまう。
 途端。
「ギーーーーーー!!!!」
 一匹が悲鳴を上げた。その背後、回りこんだ一閥が日本刀で斬り込んでいた。
「この腕輪に誓い‥‥、人々の平和は俺が守る!」
 ざっくりと開いた傷跡に吹き出る血。ランティスが両の刀を振るう。素早く掠めるような動きは、瞬く間に小鬼の全身に傷を入れる。
「ギ、ギギイイイイ!!」
 怒りの声を上げながら、小鬼が棍棒を振るう。軽快な足裁きでそれを躱すと、宗光は小鬼の隙をつきながら太刀で斬りかかった。
「まとめてかかられるのは厄介でござる! 確実に一匹ずつしとめるでござるよ」
 三匹の内、一匹を皆で相手にしながら宗光は告げる。
「助太刀とかされるのも困るからな。‥‥おまえさんは俺が相手してやるよ」
 その間の引きつけとして、別の鬼に凌が挑みかかる。仲間をやられて気が立っている小鬼は、やたら滅多らに棍棒を振り回す。さすがに危険と感じて間合いを開けた途端。その間合いをいきなり詰めて、小鬼は棍棒を振りかざした。
「ぅおっと!!」
 狙いは凌の日本刀。だが、凌は当たる直前に素早くそれを引き逃れる。力任せの一撃はむなしく空を切っただけ。
「けれど‥‥なかなかやりますね」
 ぶんぶんと棍棒を振り回してくる小鬼を引き寄せつつ、蘭華は軽い足裁きで見事に躱す。龍影の援護もあってか、その動きに危なげも無く、時折牽制代わりに金属拳を握った左手で殴る。オーラパワーを付与してある分、威力も高い。
「これで終わりかしら。バオ・フー‥‥」
 蘭華が身構える。
「チャン!」
 不可視の気が鎧を通して小鬼に直接殴りかかる。ぐぅ、と低く呻いた小鬼が体勢を崩してよろめいた。
「もらったでござる!」
 その隙を捉えて、宗光が一閃。悲鳴を上げる小鬼の傍らでは、すでに動かぬお仲間の遺骸があった。

 小鬼退治は、てこずりはしたものの何とか大した怪我も無く、三匹すべてを片付ける事ができた。小鬼たちの始末もそこそこ、冒険者たちは洞窟の奥へともぐりこむ。
 盗られた品の数々によりそこは宝の山が作られていた――鬼たちにとっては。
 ガラクタがほとんどだったが、中にはそれなりの品もあった。それらに混じり、無造作に置かれた箱一つ。教えられた呉服屋の印を確認し、中身も手付かずな事を確認する。
「金子は依頼人に渡すのは当然。名が分かりそうなのも持ち主に返すとして‥‥他のよく分からない品はどうするの? 依頼主に渡せばいいかしら?」
「いや。ギルドに頼めば元の持ち主に返すよう便宜を図ってくれるでしょう」
 馬に荷を積み上げながら尋ねる蘭華に、一閥は首を横に振る。ギルドに渡しても検非違使に頼むぐらいだろうが、被害届けなり紛失届けなり出てるなら、そこからまた持ち主に連絡がいくかもしれない。
 宗光は珍しい武具は買い取る気でいたが、正直懐の内が心許ないし、持ち主に返る可能性があるならばと今回は諦めざるを得なく。 
 都に戻って、店に顔を出して金を依頼人に渡すと、ほっとしたような顔で丁重に頭を下げられた。
 かくて、依頼は無事成功。
 ――ではあるのだが。そこで終わりにしないのも冒険者の性と言えるだろうか。

 受け渡しまで時間があると聞いた後で、ぶらりと都を歩くのはランティスと龍影。
 もちろん、ただの散歩ではなく。金を要求しているのは四番隊と聞くに及び、他の隊に話をつけようというのだ。
「巡回してるなら、どこかで会えるだろう」
 と、やや気楽にランティスは構えていたが、その通りで。ほどなく、浅黄色の特徴的な隊服の一団を見つける。
 率いているのは天才剣士と名高い沖田総司。一番隊の面々だった。
「失礼と思ったんだが、少し話を聞いて貰えないかと思ってね。一人なら止めに入れたが、依頼人を護ろうとすると派手な対立も出来なくて。民を護ろうとする想いと志は、騎士も武士も同じだと思っていたのだが?」
 苦笑混じりでランティスが事情を説明すると、何だか似たような表情で沖田は肩を竦めた。
「四番隊といえば平山さんだね。‥‥とすると、芹沢さんの関わりかぁ。別に金策云々をどうこうする隊規は無いけど、そういう事なら話をしてみるよ」
「いっそ何らかの処分を為されては如何でしょうか? それとも、小を生かして大を殺されますか‥‥?」
 声を潜める龍影。暗に処分を仄めかすが、
「そういう事も含めて近藤さん次第だね」
 沖田はくすりと笑う。あっさりとそれをいなすと、笑顔のまままた職務に戻っていった。

「確かに。約束の金だな」
「勿論でございます。いささか手違いがあり、ご迷惑をおかけいたしましたが、わたくしどもの真摯なる心がけをお受け取り下さいませ」
 店に入り込んできたのは誠を背負う集団。
 平伏して金を差し出す呉服屋の店主から、四番隊組長・平山五郎は満足そうにそれを受け取る。その背後には、黒山の人だかり。凌が何気を装い呼び集めた結果だった。
「時に、現れたという偽志士の方はどうなってるのでしょう?」
 蘭華が疑問を口にすると、他の組のものがすでに捕縛し事は済んでいる、と呉服屋の旦那が答えた。
「でも。そういう事なら、店を新撰組の巡回路に組み込んでもらって、偽志士から守る度に礼を払うとしたらどうなんだ? これなら正当な契約だろ。京の治安を守る使命にに金まで入るなら文句は無ぇだろ?」
「あいにく、ここだけに構う訳にも行かぬ。黄泉人やら何やらのせいか、人斬りなんてものまで出始めているからな。それに、新撰組は冒険者ギルドなどとは違う。いちいち要求に応えていては、そもの仕事が成り立たん」
 凌の申し出にも、平山はにべ無く言い返す。
「ならば、こういった事はこれっきりにしてもらいたい。今後一切、呉服屋や他の商人たちに強請り集りのようなまねはしないでいただかこうか」
 去ろうとする平山に、一閥が強い口調で告げる。流石に平山も不快そうに顔を顰めるが、それも一瞬。
「偽志士に金を渡す以上、その仲間と見られても文句は言えまい。口先だけで仲間ではないと言い放った所で、信用などできぬ世なのでな。これはそうで無い事を証明する為の金子であり、店主らの誠意の証だ」
 鼻で笑って傲然と言い放つと、踵を返して店から出る。複雑そうな眼差しを向ける市民には委細構わずそのまま立ち去ろうとしたが、
「お待ち下され」
 店から帰りかけた平山に、龍影は声をかける。
「この前、お会いした時、隊士募集の話をされてましたな。四番隊への入隊は希望出来ますかな?」
 龍影に、平山は無表情で見つめ返す。一つ頷くとおもむろに腰の日本刀を外して投げ渡した。
「構えろ」
 短く言いすえると、自身も脇差を抜く。龍影が刀を手にするや否や、直ちに踏み込んできた。
 上段からの一撃。回避も受けも取れず、ただその刃が身に迫るのをどこか他人事のように龍影は見る。しかし、その刃が届く前に、ぴたりと平山は動きを止めた。軽く息を吐くと、あっさりと刀を納める。
「組でやっていくにはまだ技量不足だな。‥‥少しは腕を磨かねば、志士としての立場が無いのではありませんかな」
 見下すように告げると、呆気に捕られてる龍影から刀を取り返し、他の面子を従えて金と共に去っていった。