【姫路】 そして奴らはどこいった

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月10日〜09月21日

リプレイ公開日:2005年09月18日

●オープニング

 播州姫路藩。
 二年前の藩主交代より治安はあまりよくなく。
 最近では、妖怪狩りやら海賊狩りやら何かと騒いでいるものの、騒動を広げているだけ、という見方もある。それでも下手な事言おうものなら、侍方に縄をかけられかねないとかそういう状態である。

 さて、先月行われた海賊狩りは大元を取り逃がしたもののそれなりの打撃を与え、また一部を捕虜として捕らえる事に成功した。
 海賊たちはそれに懲りたか、現在目立つ動きは無い。
「けど、侍たちも何か動く気なさげなんだよな。
 船とか武器とかは調達してるっぽいんだけど‥‥。前に海賊捕まえてんだし、さっさと潰しちゃえとかしないのかなー」
 姫路からたびたび京へとやってくる少年・小銀太が京都ギルドに顔を出し、難しい顔で告げる。
「そんな事を言いに来たのか? 世間話ならさっさと帰れ」
 素気無く追い払われそうになり、小銀太が口を尖らせる。
「違やい、依頼だよ。
 化け狸たちがまだ海賊に捕らわれたまんまなんだろ? だから俺、居場所を一生懸命調べたさ。そしたら、海向こうの島が怪しいって話なんだけど、さすがに細かい所は分かんねーんだよな。今ん所、さっき言ったように侍たちは動く気なさそうなんだけどさ。でも、いつ海賊退治に出るか分かんねぇし。で、どうしたらいいのか相談に来た」
 化け狸。人に化けられる妖怪狸である。
 ありふれた存在だが、小銀太がいっているのは江戸より連れて来られて姫路でバラバラになったらしいとある四匹組の内半分である。残り半分はそれより前に見つかり、京都にて保護されている。‥‥保護といっても悪戯のやりたい放題で関係者を軒並み頭痛持ちにしているが。
「そうか。で、依頼料は?」
「おいら金無いもん」
 えへんと胸張る小銀太に、係員は静かに嘆息する。
「ついに居直りか。‥‥まぁいいだろ。気にかけている冒険者はいるし、無料でもいいという物好きもいるからな。その代わり、人が来なくても泣くなよ」
「誰が泣くかよ!」
 短く返事を聞きながら、係員は冒険者募集の貼り紙を作成する。
「で、さっき言ってた侍方だが‥‥他に何かしてるのか?」
 作成の合間、手持ち無沙汰そうにそう尋ねる。あくまで何気ない‥‥ふりだった。

「坊主は気付いて無いが、姫路の情勢を聞く限り、侍の方でもちゃくちゃくと海賊討伐に向けた動きをしているようだな。案外すぐにでも動き出すかもしれない」
 集まった冒険者を前に、係員は注釈をつける。
「もっとも一般人の不慣れなガキにしちゃよく集めた方だよ。惜しむらくはそれに気付いて纏め上げる目がまだねぇって事だな。‥‥ま、姫路藩にしても海賊たちに事前に情報がばれて逃げられるのを恐れて隠密行動って所かね。それより問題は狸らだな」
 海賊といるなら共に討伐されてもおかしくは無いのは変わらずな訳で。
「とはいえ、海賊側の動きもよく分からんし。拠点も島っぽいとはいったが定かで無い以上、どうしたもんだか」
「「おう、それなら任せとけ!!」」
 そっと嘆息ついた係員の前に、堂々と笑う影二つ。
 年の頃は十代で、顔もそこそこよかったりするが、何故か一糸纏わぬ素っ裸。褌すらもつけてない。
「いい加減、人前で服を着る事を覚えんかい! この馬鹿狸どもが!!」 
 事情を知らない依頼人やらが冒険者やらが悲鳴を上げると同時に、係員がすばやく殴り飛ばす。
 出てきた二人。実は二匹、が正しい。京都に連れて来られた化け狸たちなのだ。
「むっ! 我らが珍しく親切をしようと云う前に無体を強いるとはげに嫌な奴だな、お前。どこぞの和尚を思い出すぞ」
「ああ、ポン十郎よ。あの化け兎といい、話を聞かない奴にはろくな奴がいないな」 
「えーい、人の事言う前に自分らの所業を直さんかい!! それより、お前ら何しに来た? 親切とか抜かしてたが何するつもりだ? 事の次第によっては俺が実費で成敗依頼を‥‥」
 いけしゃあしゃあと言ってのける化け狸たちに、歯を喰いしばって係員が拳を握り締めている。
「つまりだ。我らが兄弟を探したいが、手がかりが無いという話だろ」
 机の上でどっかり胡坐かいて話す化け狸に、係員はひとまずは怒りを治めて頷く。
「ならば、話は早い。我らが共に赴けば、炎より熱く山より気高く海より深い愛と勇気と友情と食べ残しの絆で即座に知れようぞ!!」
 がっつりと腕を組んで意気揚々と告げる化け狸たちだが、係員の顔は渋い。
「嘘くせぇ‥‥。大体食べ残しって何だ?」
「食べ切れなかった食料の余りに決まってるだろ。ボケだな、人間」
「はーなーせー。あの脳天勝ち割ってくれる!!!!!」
 臆面無く答えた化け狸に、顔を朱にして係員が卓を掲げると、周囲の冒険者が一応慌ててそれを押しとどめる。
「‥‥だが。まぁ、いいだろう。どの道冒険者も一緒なのだから、悪戯をしてもすぐ止められるし、何ならその場の処分してもいい訳だしな」
 肩で息しつつ、係員は判断する。絆云々は嘘臭いにしても、同族の匂いとか何とかに気付くかもしれない。そもは、元は奴らが探すべきなだけで、依頼で無ければ探す必要とて無い相手なのだし。
「おっし、そうとなれば、早速準備にかからねば」
 とりあえず、承諾得たりと化け狸が笑う。
「まずは獲物の確認。足は十本か八本か。わかめと昆布の違いとやらも確かめねばな」
「網と縄と釣り針に、篭もいるか‥‥。果たしてわしらだけで事が成しえるのか‥‥」
「だがしかし!」
「「食べてみたいぞ、海の幸いいいーー!!」」
「何しに行くつもりだ、このド阿呆どもーーーーーーー!!!」
 唱和して笑う狸たちに、係員の強烈な蹴りが炸裂。かくて、狸たちは京都の空に消え、二度と姿を現さなかった‥‥ら、一部の人間は間違いなく幸せになれただろうに。

●今回の参加者

 ea2495 丙 鞘継(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea8428 雪守 明(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

鬼堂 剛堅(ea8693

●リプレイ本文

 阿阪慎之介(ea3318)の友人が出際までたっぷりと遊んで躾けた結果、実に半刻もの間、化け狸たちは大人しかった!!
「‥‥というか、あれだけ動き回った挙句に服従するとしかと頷いたであろうに、どうしてそれだけの時間しか持たないんでござるかね」
「所詮、ノリだけで生きてるような奴だからの」
 街道にて。さっそく、素っ裸で道行く人にお披露目してまわってる――何を、とは聞いてはいけない――化け狸二匹に、慎之介は呆れた声を出し、マリス・エストレリータ(ea7246)は冷ややかな言葉を投げかける。
「おまえらなぁ!! 騒がしくしたら、海の幸どころか姫路の連中に海の藻屑にされると、さっきから言ってるのが耳に入ってないのか!!」 
「‥‥聞いた事は覚えてるぞー。なぁ、ポン五郎」
「おー、ポン玉。ただ従う気が無いだけで」
「なお悪いわっ!!」
 化け狸の頭をがっちり捕らえて丙鞘継(ea2495)が大喝するも、当の狸らはどこ吹く風で。縄で捕まりぶらぶらしている。
「だから、一匹だけで良いと言ったのに」
「いやいや。二匹必要だ。是非ともな」
 縄で縛った張本人、藍月花(ea8904)が頭を抱える。が、雪守明(ea8428)はそれに何だか底知れぬ笑みで笑って答えた。

 播州姫路藩。海賊討伐に乗り出すらしい藩が動く前にと、海賊と共にいる狸たちを探す事にする。
 舟を調達して、拠点があると言われる播磨灘に浮かぶ群島へと向かった。
 道中、縄で繋いでるとゆーのに狸が海に飛び込もうとしたり、暴れて舟を揺らしたりと、やはり一筋縄でいかず。
 それでもどうにか上陸して、人目につかぬ岩陰へと舟を寄せてもらった。
「ポン蔵」
 上陸して、即座に飛び出そうとしていた化け狸たちに、明が呼びかける。
 一つの名前しか呼んでいないのに、振り返ったのは二匹ともだった。まぁ、明確な名を持たない以上は当たり前と言えば、当たり前で。
 明としても狸の名に呼び名にこだわる訳で無い。が、二匹とも振り返ったのは少々いただけなかった。
 それでも、判断を下すのは実に早かった。次の瞬間、手近にいた方の狸の股間を力の限り蹴り上げる!
「――――――!!!!!!!!!!」
 声にならない悲鳴を上げて、狸が転がる。
「ポン友ーーーっ! 無事かーーっっ!!」
 青い顔して身を引いてるもう一匹に、明は容赦なく告げる。
「おっと、ちょっと待て。‥‥いいか、こいつを助けたければ、海賊にとっ捕まった残りの化け狸二匹を必ず見つけて戻ってくるんだ。いいな!?」
「まぁ、なんでござるか? 狸殿の友の絆を信じぬ訳でないのでござるが。故に、向こうの二匹に惹かれて戻らなくなるかも知れぬので、その防止としてでござるな」
 慎之介もまた口添える。
 さすがの狸も青い顔をして震えていたが、やがておもむろに顔を上げると、
「分かった、ポン介の介! 海の幸は必ずたらふく喰ってくるから達者で暮らせーーっ!!」
 泣きながら、脱兎の如く海岸線を走り抜けていく狸一匹。
「‥‥絆なんてあるのじゃろうか」
 ぽつりと呟くマリスに、さすがに明も不安になって来た。ともあれ、今は信じて舟で待つ事にした。

 島の暮らしは質素なモノだった。一言で言えば、貧乏っちい。
 交通の便からしても滅多に外部の者が来る事などあるまい。村に踏み込んだ冒険者たちを好奇と警戒の眼差しが迎えた。
「失礼。海賊の話や、素っ裸な奴で走りまわっている奴を知らないか?」
「海賊‥‥はよぉ知らんがな。素っ裸ならほれ」
 作業中の漁師はひょいと指差す。鞘継が目を向けると、島の子供が素っ裸で海に飛び込んで遊んでいた。おおらかな事だ。が、目的の者でないのは明らか。
 しばらく村をうろつき、目につく者に尋ねるも確証を得る答えは返ってこず。
 さて、どうしたものかと思う矢先、俄かに狸が走り出した。
「見つけたぞーーーーっ、海の幸ーーーっっ!」
 帰港したばかりの小さな漁船にすばやく乗りあがると、魚篭に入っていた巨大な一匹を手にする狸。
「とったどーー!!」
「「ずるいぞ! 貴様ーーーっ!!」」
 魚を手に喜ぶ素っ裸に、どこから現れたか別の素っ裸が抗議の声を上げる。
「この魚はなかなか食べられんのだぞ、なぁポン爺ぃ!!」
「おうよ、わしらが近付くと何故かほこほこ殴られて食わせてもらえん。けち臭い」
「よし、ならば今の内に捕獲するのだ、大漁だーーっ!」
「なるほど。頭いいな、お前♪」
「ってか、盗ってどうするんぢゃ!! つうか、なんぞ数増えとるしー!??」
 魚篭の魚をひっくり返して奪い合う裸の少年三人に、漁師が喝を入れる。
「‥‥見つかった、わね?」
「‥‥友の絆とはやはり少し違うようでござるが?」
 その様子を月花と慎之介が思わず目を点にして眺めている。とはいえ、ずっとそうする訳にもいかない。放っておくと漁師道具を壊しかねない狸らを三人で慌てて取り押さえる。
「失礼。この狸らを知っているのか?」
 大事な獲物が無事だったか、心配顔で魚篭を除く漁師に鞘継が疑問を投げかける。
「え、いや。その‥‥」
 あからさまに動揺する漁師。だが、それだけで答えは明らかだ。
「いかにも。二匹を拾ったのはわしらだが」
 太い声は漁師のモノではなかった。振り返ると、そこに男が立っている。その顔を見て、鞘継と慎之介がはっとする。先日出会った海賊の頭だった。
 気付けば、周囲も取り囲まれていた。村民と思しき顔の中には、明らかに刀剣を構える方が似合ってそうな者も混じっており、
「ようするに。明様も心配されてた通りに、村ぐるみで海賊に協力をしてたという訳ですな」
 淡々と告げたのはマリスだが、その場所はといえば海賊たちの手の中。縄で縛られ身動きできない状態。狸探しついでに、海賊に会いたいと村長宅に当たりをつけて赴いたはいいが‥‥ちょっと当たり過ぎだったらしい。
「向こうにも仲間がいたな。‥‥何しに来た」
 眼光鋭く睨みを入れる海賊に、慎之介がとっさに身構える。
「狸たちを探しに来ただけだわ。そっと連れ帰れたならそれでいいのよ」
 その動きを月花が制し、海賊と向き合う。
「先日は失礼した。あそこにいるのは京都で保護していた、そちらの知る狸らの仲間だ。別場にいる奴も同様。先日の依頼は、彼らを救う為の策であった」
 鞘継が頭を下げると、ほんの少しだけ、辺りの緊迫した空気が和らいだ。
「まぁ、狸たちも仲間を心配しているようでそうでも無いような気がしていたのはやはり間違いなかったという事で、私としてはどうでもいいのですが。何やらこの場所もばれて藩の方でも討伐準備が進んでおるようですぞ」
 縛られたままマリスが告げると、周囲の人垣がざわめく。
「落ち着け! 先日、小幡の首を取りそこなった以上この流れは必定! 皆には迷惑をかけるが‥‥忍んでもらいたい」
 海賊が大喝すると、それで辺りも静まる。不安そうにしている者はまだいたが、異論を唱える様子は無い辺り、ずいぶんと信頼されているようだ。
「もし、よろしければ事情を話しいただけないですか? 力になれる事も無いかと思いますぞ。‥‥海の幸次第では」
 マリスが告げると、海賊は苦笑する。そのまま、彼女の縄を解くと追い払うように手を振った。
「狸らは連れていってくれ。こちらとしても助けたはいいが手を焼いていたからな。事情も奴らに聞けば大筋分かるだろう。‥‥ただし、その内容は他言無用とし、狸らの言も戯言として処理してもらえたらありがたい」
「そうですか。‥‥姫路藩がおかしいのは他国者の私でも分かります。私たちの方ではここの居場所は口外しません。もし何か御用があるなら、ギルドに御相談下さい」
 肩を落とし、一礼しかけた月花だったが、
「良いではありませんか」
 穏やかな声がかけられる。途端、人垣が見事なまでに二つに割れて、その人物の姿が露わになる。
 長い黒髪のまだ年若いその女性は、およそこのような村には不釣合いな雰囲気をかもし出していた。物腰からしてかなりの教育を受けていたのが良く分かる。
「ひ‥‥いや、その」
 明らかに動揺してみせる海賊。その場でひざまずこうとしたが冒険者の目を気にして止め、ならばどうすればいいかでひたすらにうろたえている。それに構わず、その女性は憂いた笑顔で冒険者たちに一礼した。
「お初にお目にかかります。わたくしは姫路藩主・池多輝豊が娘、白妙と申します‥‥」

 舟に戻ると、抜き身の霞刀を片手に口から泡吹いてる素っ裸男を鬼の形相で踏んづけていた明が待っていた。その様子からして、どうやらこちらは何事も無く平和だったようだ。
「「誰かと思えば、ポン汁とぽん兵衛ではないか。久しぶり」」
「「はっはっは。ぽん太とぽん小も元気そうではないか」」
「今、気付いたのですか」
 マリスがじと目で睨むも当の狸たちは関係なし。暢気に挨拶を交わす傍で、留守役になった明が事情を聞く。
「つまり。先代藩主の池多の姫様とその残党が海賊の正体、という訳か」
「ま、ありがちなオチだ」
 狸らの話も交えて明が結論を出すと、鞘継も率直に意見を述べる。
「手勢も少ないし、姫様の居場所を知られる訳にはいかないから今まで表立って動けなかったのね。‥‥姫様にしてみれば、ギルドに頼み事があるようだったけど、例の海賊に止められてね。折り合いがついたら、改めて依頼が出るかも知れないわ」
 月花が軽く肩を竦める。事情が事情である以上、いきなりあった程度では信頼されないのも無理はあるまい。
「多くは語らなかったので仔細は分からぬし、そもその姫の話が真実かの確証も無いでござるがな。そういう事情なのでくれぐれもこの事は他言無用とは釘を刺されたでござる。まぁ、話が本当なら確かに姫路藩の耳に入るようなまねは避けるべきでござるし‥‥口止め料ももらってしまったでござるしな」
 ちらりと慎之介が目を向けるのは、籠に漏られた海鮮一山。渡された時は単なる土産としか言ってこなかったが、内容の豊富さからしてもそういう意味だろう。
「ま、今回報酬無しですし。これくらいの役得はあっても良いかと思いますのじゃ」
「生だからすぐに食べねば腐るな」
「「「「ちょっとマテー、何お前らだけで食事に取り掛かろうとしている!! その食事は俺たちの働きがあったらばこそ!!!!」」」」
「なら、あんたらを探す報酬としてもらって丁度良し、だな」
「って事で、あなたたちはコレでも食べてなさい」
 面倒なのでやっぱりぐるぐる巻きにした狸らに、月花が若布を放り込む。とりあえず、それで狸らは納得したようだ。