月夜に浮かれて
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月13日〜09月18日
リプレイ公開日:2005年09月21日
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●オープニング
冒険者ギルドを、こそりと兎が覗き込む。
兎は子供用の着物を着て後ろ足で立っている。物珍しさで目を丸くしたり和んだりしてる人々からはちょいと距離を置き、辺りを見渡していた兎はやがて一点を見つめると、ぴんと耳を立てた。
「お祭りだーーーーー!!」
兎は小さな子供に変身すると、見定めた一点――とあるギルドの係員の元へと陽気に全力で駆け出す。
「あのねー。お月様に会いたいのー。という訳で、会わせろーーーーっ♪」
「‥‥いや、そんないきなり話を振られましても、こちらとしては対応しかねますですな、はい」
一般客おしのけて、浮かれ調子でギルドの係員へと詰め寄った化け兎を前に、係員は思考停止寸前になりながらも何とかそれだけを答えた。
ギルドに現れた化け兎はうさと呼ばれている。不本意ながらも係員とも知らぬ仲ではない。
江戸の近くのとある山に住んでおり、満月の晩には他の化け兎たちと集まって、一緒に歌って踊って餅をつく。近隣住人ともうまくやっており、一応無害な妖怪である。
だが、化け兎に問題無くとも、平穏無事な日々を送っているわけで無い。
昨年の秋には、化け狸たちにその山を占拠された。杵に小突かれたり亀と争ったりもした。そして、月道探索の関わりで月精龍と出会ったり、何故か京都方面まで連れて行かれ一月前に月道を通ってまた江戸に戻ってきたばかりと、結構波乱な人生‥‥ならぬ化け兎生を送っている。
その過程で冒険者とも知り合い、冒険者ギルドの存在も知り‥‥。気付けば、ほいほいと気軽にギルドに現れたりするのが係員の悩みの種。
それを知ってか知らずか、嬉しそうにうさは告げる。
「お山でねー。お月見するのー。今月はね、一番お月様が綺麗に見えるの。だから、みんな集まるのー。だから、来い来い♪」
月見の誘いである。
仲秋の名月。兎と一緒に秋の風情はなかなかいいかもしれない。話によれば、餅や団子の他にも酒も振舞ってくれるので、ただ遊びに行くだけなら別にいい。
‥‥‥‥が、用件はそれだけではない。
「満月の日に小山で歌って踊ればお月様に会えるけど、今まで会えたこと無いの。でもねー、春に人間と一緒に歌って踊ったら、お月様からへびへびが来たのー♪ だから、お月様の一番綺麗な日に歌って踊ったらきっとお月様が来るの。でも、うさたちだけじゃ駄目なの。手伝えーーーっ♪」
腕にすがりついて甘える化け兎に、係員は頭を抱える。
「へびへび‥‥月精龍ですか。いやでもあれは特別な召喚が行われて、それを扱う人もそも必要な道具も無いのですから、もう無理だと思いますけどねぇ」
嘆息交じりに告げると、うんうんと軽く頷き、
「へびへびじゃなくていいの。お月様に会いたいの」
(「分かってない‥‥」)
けろりと告げるうさに、がっくり肩を落とした係員。
「大体、お月様って何なのですか?」
「? お月様はお月様なのー」
無邪気に首を傾げるうさに、ますます係員は肩を落とす。
「まぁ、いいですけど。‥‥そもそもですね、妖怪からの依頼なんて受け付けられませんから!」
だから帰れと追い払おうとした係員だったが、
「わりぃ。一応依頼としてお願いされちゃったさ」
其処に入ってきたのは郵便屋シフール。聞けば、村人たちから化け兎たちのお願いをよろしくと頼まれたようで。
「‥‥まぁ、いっか。対処するのは冒険者たちの役割ですし」
疲れきった様子で係員は、冒険者募集の貼り紙を出した。
●リプレイ本文
兎の祭りにお呼ばれし(?)、冒険者たちは小さな山を登る。
「ずいぶん可愛い化け兎たちだなぁ。ジャパンのお月見は初体験だけど、この子たちと一緒に宴会も悪くないね」
辺りに群がる兎は、ただの兎ではなく化け兎たち。中には人間が混じってるように見えるが、それも単に兎が人化けした姿でしかない。
たわむれにグザヴィエ・ペロー(ea9703)が手近な一匹の頭を撫でると、自分も撫でろとわらわらと近付いてきた。
「うさとも、久方ぶりでござるな。前の祭りではご一緒させてもらったでござるよ」
「むー♪」
冒険者らを呼び出した張本兎であるうさはといえば、久方歳三(ea6381)によじ登って様子を窺っている。知らない人が多くて警戒してる気配がある。
「こんばんは。初見だけど、仲良くなれるといいな。そうそう、手土産に人参を持って来た。泥つきの新鮮なままで‥‥ぎゃあああああああ!!」
それでも、菊川響(ea0639)が頭を撫でてやると嬉しそうに目を細め、ついで人参を出すと‥‥うさをはじめ、周囲の化け兎が一気に殺到。あっという間に兎の山に響は埋もれ、持ってきた人参は瞬く間に無くなった。
「お祭りなのー♪ いいお月様が登るから、皆で頑張ろう〜。で、お月様に会わせてね〜♪」
人参もらったのが嬉しいのか、響を踏みつけにしたまま、にこにこと笑顔でうさが告げる。他の兎たちも期待に膨らんだ真っ直ぐな目で冒険者を見つめてくる辺り、‥‥かなり真剣だ。
(「やはり。それが一番の問題になるのかな」)
その期待に笑顔を向けつつも、グザヴィエが内心でため息をつく。
「ところで‥‥争った相手は亀決定なんやろか?」
囲む兎に相好を崩すニキ・ラージャンヌ(ea1956)が何気に問う。
「亀は亀なの?」
内心では想像ついてた通り、それが当然で何故に聞き返す? と言わんばかりにうさは首を傾げた。
‥‥実際争ったのは亀でなく、河童なのだが。
「お月見だーーっ!!」
東の空に、見事な満月が昇る。お山の天辺、視界を遮る物は無く、丸い綺麗な姿が視界に入る。うさが声を上げると、周囲の化け兎も喜び勇んでそれに倣う。
「周囲の石塔はかなり古いんだな。まぁ、見栄え程度にはきれいにして置いたけど」
祭りの現場を整備しながら、兎足だらけの響はしみじみと述べる。
飾るススキも持ち込んだ物。揺れる穂先が秋の情緒を醸し出せば、後は‥‥
「月見といえば、コレだよな」
にやりと笑うと鹿角椛(ea6333)が、どん、と買い込んだ酒に肴、団子も広げる。
「むー、負けないぞー」
響も持ってきた酒を置くと、何故か対抗意識を燃やしてうさたちも自身の酒や団子を用意し始め、辺りにあっという間に食が並ぶ。
「余ったら私が全部飲むけど‥‥その心配もないかな」
ひのふのと数えると、化け兎の数も結構いる。虎視眈々と開始を待つ兎もいる辺り、うかうかしてると椛の分も無くなるかも知れない。
「こちらもカレーでも作ろうかと思うたんやけど‥‥あいにく香辛料が手に入らなくてねぇ〜」
残念そうに告げるニキ。故郷の料理を日本で揃えるのは大変だ。今回は諦め、配膳を手伝う事にする。
「じゃあ、お月さまを呼ぼー♪♪」
「うん。それでは」
「桶に水は汲んであるでござる。桶だけに準備おーけーでござるよ」
響が持ってきた盥に歳三が水を張る。響は池でも作ろうかと問うたが、「小さい子がはまると危ないから駄目ー」と断られてしまった。
「ほら、お月様来たよ」
水面に移る月を響が指差す。美しく輝く月を、盥を囲んで兎たちは黙って見下ろしていたが。
おもむろに一匹が水面の月に手を伸ばす。水を掻いた時点で月が揺らぐ。
続けて別の一匹が手を伸ばすが、結果は同じ。次々と化け兎たちが手を伸ばして奮闘し、終いには盥に飛び込んでいき、集団で水を掻き出すも月が捉えられる事は無く、
「「「「会ーえーなーいーーーーーっっ!!」」」」
「えーと、まぁ‥‥。でも、水に映るお月さんも綺麗どすやろ?」
水浸しになって泣き騒ぐ化け兎たちを、ニキが困惑顔で宥めた。
「まぁ、待って待って。こういうのはまず雰囲気が大事なんだ」
恨みがましげに見つめるうさたちを、グザヴィエがやんわりと押しとめる。幻想的な雰囲気を出そうと篝火を焚くが‥‥どうやら化け兎たちを乾かすのにも一役買いそうだ。
「そうそう。まずは場が盛り上がるのが大切でござるかな。元旦に坊主が二人いるので、和尚がツーとか」
「ツー?」
歳三のベタな洒落に、化け兎たちは勿論ほとんどの冒険者らもただ単に首を傾げる。先程の桶もそうだが、どうやら外来語をうまく飲み込めないようで。
「‥‥。まぁ、拙者も上手く言葉は説明できぬでござるが‥‥。ここはなんだ、下手な洒落はやめなしゃれ〜でござるな」
歳三がちゃかして告げた途端、今度はその出来栄えに冒険者一同唖然と口を開け、化け兎はと言えば‥‥大笑いで笑い転げている。
「おもしろーい。他は〜?」
「そう言ってくれるとは。歳ちゃん、感激ーーーーーっっ!!!」
喜んで群がってくる兎たちに歳三、感涙に咽ぶ。つられて泣き出す化け兎たちとがっちり肩を組んだりして、何だか楽しそうではある。
「気を取り直し。月見のお誘いへの感謝とお月様に会いたい祈りを込めて、ちょっと弾かせてもらうか。楽器は色々用意してきたから、好きに使ってくれ」
響は琵琶「檜皮雅」を手にするとおもむろに奏でだす。拙いながらも心のこもった音色に、化け兎たちもそれぞれに楽器を手にして賑やかに伴奏を始めた。
それに合わせてグザヴィエも踊りだす。椛から千早を借りており、それが故に巫女舞にも見える。男が着ていいのかと迷いはしたが、やはり化け兎たちは気になどしていない。冒険者側の反応は‥‥まぁ、それぞれだろう。
「拙者も踊るでござる」
お月見前に兎たちに習った踊りを歳三も披露するが、やはりグザヴィエの踊りには幾分見劣りする。しかし、真摯に踊る様は決して負けては無い。
「ほら、おまえたちも踊りなよ」
周囲でうずうずとしている化け兎たちをはやし立てる様に追い払うと、おもむろに椛は息を吸い込む。
音色に合わせて歌いだすと、化け兎たちもさらに喜んで踊りだす。
「それじゃ私も」
言うが早いか、ニキが数珠を手にして祈る。その姿が黒い輝きに包まれると、兎の姿に変わる。ミミクリーでは大きさまでは変わらず、うさたちよりもずっと大きい姿だが、それでも兎たちは喜んで一緒に輪になって踊りだす。
その様子を見て、グザヴィエがそっと合図を送る。少し離れた場所では、ミリート・アーティア(ea6226)が待機していた。
合図を受け、ミリートが厳かに歌いながらゆっくりと姿を現す。
「この丘の上 呼んでいる声 私のまだ見ぬ女神よ‥‥
振り仰ぐ夜空(そら) 目にしみる月 心の雲を祓って‥‥」
突然の登場に目を丸くしている兎、歌に聞きほれ耳を動かす兎、なりゆきを期待する兎。
反応は様々ではあるが化け兎一同興味津々にミリートを見つめている。好奇の視線を一心に受けながら、ミリートはにっこりと穏やかに微笑む。
「こんばんは、良い夜ですね。突然で驚かせてすみません。私は月の精霊。皆さんの歌と踊りに惹かれて来てしまいました」
ぽかんと口を広げる化け兎たち。そのまま固まってしまい、どう受け止めていいか分からない。ミリートは向けた笑顔を崩さぬままだが、もしかして下手したかと心臓が早鐘を打ちだす。
「お月様だーーー!!」
「おつきさま来たーーー♪」
が、化け兎たちの顔が一斉に綻ぶと、ミリートの傍へと駆け寄る。ひとまずは満足してくれたようで、ミリートをはじめ冒険者たちは内心でほっと息をつく。
「此処に来たのも縁。私も唄わせてもらいますね」
ミリートが告げると、目を細めて兎たちが頷く。
伴奏が入り、ミリートが歌いだす。
日本の歌詞は歳三に教えてもらっている。日本語が堪能とまでは言えぬものの、それは元の歌唱の高さで補って余りあるものだった。
お月さまなミリートを中心として、祭りは賑やかに進んだ。喋っている内に襤褸が出そうになる事もあったが、そこはグザヴィエたちが酒を勧めたりして、酔った勢いでどうにかごまかしていた。
やがては西の空に満月は沈み、東の空が明るくなる。
「それではそろそろお暇させて頂きますね。これからも良き夜があらん事を‥‥」
一足お先に立ち去るミリートを、名残惜しそうにずーっと見送る化け兎たち。姿が見えなくなってもじっとその後を見つめている。祭りの後の物悲しさもあいまって、肩を落とす後姿がいと哀れに思え。
「あー、飲んだ喰った歌った騒いだ。さすがに疲れたなぁ、帰るとするか」
重苦しくなる雰囲気を吹き飛ばすかのように、椛が大声を上げる。
「帰るのー?」
どこか寂しげに見つめるうさたち。その頭を撫でてやりながら、椛が懐から小さな何かを取り出す。
「生業の筋からもらってきたものだが‥‥。こいつはお月さまの落し物っていわれてるらしいんだ」
小袋から取り出したそれは水晶の玉。朝の光を反射して、椛の手の上で綺麗に輝いていた。
「もしお月さまに会いたくなったら、こいつを眺めてみな。多分、落ち着くぜ」
元気に笑ってうさに握らせる。兎たちは身を寄せ合ってまじまじとその石を見つめていたが、
やがて、顔を上げると一斉に満面の笑顔で笑って見せた。
「は〜、流石に疲れたよ〜」
帰りの道中、人目を気にしつつもミリートが思う存分に手足を伸ばす。一晩中、礼服着込んでかしこまっていたので無理は無い。
「しかし。今回はやはり無理でござったが‥‥、本当にうさたちをお月様に会わせたいでござるな」
歳三がお山を振り返る。平和な山では、今頃宴会疲れの兎たちがお月さまの夢を見ながら、眠り込んでる事だろう。