【黄泉人討伐】 爆走! 朧車
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月16日〜09月21日
リプレイ公開日:2005年09月25日
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●オープニング
大和より出で、京の都を脅かし続けた黄泉人の凶行は、夏初めの合戦にてその活動をひとまず阻む事に成功した。
黄泉人たちは南に撤退し――されど、滅びた訳で無く。勢力こそ弱まりながらも、今なお黄泉人たちはその悪しき業を繰り広げている。
京都守護職・平織虎長は今度こそ黄泉人を滅さんと再び兵を率いて大和に赴く。が、疲労を知らず、昼夜を問わずに攻めてくる死人たちには手を焼くばかり。
しかし、先だって陰陽村で発見された資料。その後の調べにより石舞台古墳が彼らの本拠地と推測された。近い内にそこに狙いを定めて、一気に攻勢をかける事となる。
それを察してか。こちらの目を掠め、各地に散っていた黄泉人たちも今再び南の地に集結しようとしていた――途中で、手勢を増やしながら。
「そんな最中に江戸の地にて神剣が見つかったという報がもたらされました」
そう嘆息付いたのは陰陽寮陰陽頭である安倍晴明。ほとほと弱り果てた様子で空を仰ぐ様は、この人物にしては珍しい。それだけ事態が面倒という事か。
「その昔。平将門が神皇家から奪い、それ以降行方の知れなかった草薙の剣。それが江戸にて発見され、現在源徳さまが隠し持っている‥‥という噂があるようです」
噂。あくまで噂である。そも、草薙の剣は神皇家の宝であり大切に保管されているはずなのだ。
が、その噂が万一本当ならば、日本の根幹を揺るがしかねない。草薙の剣は神皇家の証。これを持つ者が日本の最高の権力者である事を意味する。迂闊な者の手に渡れば、黄泉人以上の騒ぎになる。
「神皇家の方でも真偽は現在調査しておりますが‥‥。それよりも、これを耳にした平織さまは酷く激怒され、すぐにでも源徳さまに事の次第を正すべく、江戸へ向かわんばかりの勢いだそうで。
‥‥幾ら平織さまの兵は強者ぞろいとて、要がいるといないとでは士気に関わると思うのですけどね」
ただでさえ、黄泉人との戦いは気が抜けない。拠り所があるのと無いのとでは、さらに微妙な変化がある。それが戦全体に響かねばいいが。
「江戸の騒動も気になりますが、すぐに対処できませんし。とりあえずは、敵の戦力がこれ以上増加される事は阻止すべきです。
いえ、その件がなくとも黄泉人の悪行をみすみす放っておく訳にも参りませんからね」
決戦に向けて。これ以上の悪行を許す訳にはいかなかった。
※ ※ ※
「だあああー! とーまーれーーーーっっ!!」
大和の村。走る牛車に逃げ惑う人々。逃げ遅れた者はことごとく轍に踏み砕かれていく。
そもが、普通の牛車ではなかった。確かに形はそれだが、全体的に朧に霞み、そも牛もいないのに走り回っている。正面に浮かぶのはげに恐ろしき鬼の顔。鋭い睨みで逃げる人を見つけては追い掛けひき殺す。
朧車と呼ばれる妖怪だった。
小さな村は瞬く間に血で染まり。何も動く者がなくなった時に、ようやく朧車は停止した。
「ああ、勿体無い。何で全部殺すかなぁ、お前は」
その朧車から降りてくる者があった。
人に似ているが、人ではない。干物のような外見はそも生きているはずが無い者。そいつは、ひょいひょいと道を歩くと、まだ綺麗そうな死体に近寄る。
手を掴むと、簡単に抜けた。肘から先が無いそれをまじまじと見つめた後に、がっかりと肩を落とし、遠くへ放る。
「まったく、せめて食事分ぐらいは残してほし‥‥」
黄泉人が落胆の声を上げると同時、朧車がぐるりと向きを変えた。何を、と思う間もなく、近くの民家に朧車が突っ込む。
「ひっ!」
薄い木の壁は簡単に壊れ、家の中が露わになる。倒れた襖の陰。震える子供を庇うように女が恐怖の目で黄泉人たちを見つめる。
「お!」
生きた獲物を見つけて、黄泉人が明るい声を出す。が、それよりも早く朧車が動いていた。
慌てて逃げ出す親子を後ろから追いかけると、あっという間にその上を通過する。
とっさに母親が子供を投げ捨て、子供は草むらに落ちた。全身を血に染めながら「逃げろ」と告げた母だったが、それよりも早くに朧車は子供をひき潰す。
女は悲鳴を上げた。その女も引き返してきた朧車に踏みつけられ、腸をぶちまける。
「だから、俺の獲物分ぐらいは残せよ〜」
肉片が飛び散る現場を前に、何かもう泣きそうな声で黄泉人は告げるが、終わってしまった事は仕方が無い。
「とにかく、今は一刻も早く帰るべきか‥‥」
朧車を南に向けると、黄泉人はそれに乗り込む。
牛のいない牛車はもはや死に絶えた村になど用は無いというように、ゆっくりと場を後にする。
決戦に備え、一刻も早く南へ戻る。そうあるように走らせるが‥‥、朧車はいきなりその向きを変えた。
南とは違う方角を向き、そしていきなり疾走する。
やがて見えたのは人間たちの村。暢気な煙が上がっている辺り、生きた奴らが大勢いそうだ。
「てめぇ!」
黄泉人の口調に怒りがこもる。
「今度こそは、俺の分の獲物を残しておけよ!!」
しかと告げるが、朧車は無言のまま。
ただ、異形を乗せて暴走する妖しの牛車に気付いて悲鳴を上げる人々を、次々と引き殺していくだけ。
そして、冒険者ギルドにて。募集の貼り紙が出される。
――村々を襲いながら南へと向かう黄泉人と朧車を討伐せよ、と。
●リプレイ本文
南に向かう黄泉人と朧車。その暴走を止めるべく、冒険者たちは穴を掘る。
「黄泉人、まだいたんだ‥‥。帰るならいい加減、悪い事やめてまっすぐ元いた所に帰ればいいのに」
遠慮の無い口調で言うのは、テリー・アーミティッジ(ea9384)。
ある意味、元いた所に帰っているのは間違いない。が、テリーの言うように『悪い事やめて』『まっすぐ』は叶ってない。
確かに、大雑把に言えば黄泉人は朧車を駆り、南を目指し直進している。が、その実、朧車は途中途中で人里も求めて大きく蛇行した動きを見せている。彼らが人里に入り込めばどうなるか。それは想像に難くないし、ここに来る途中、たまたま目にした立ち寄り跡を見れば、それが間違いで無かったと証明してくれた。
「なんたる惨状! これは到底許せない也! 天誅也よ!」
「ああ。これ以上の暴走はなんとしても食い止めねばならないでござる」
その時の事を思い出し、スコップを掲げて憤る奇天烈斎頃助(ea7216)に、守崎堅護(eb3043)も深く頷く。
「しかし‥‥もう少し、掘り易い道具があればいいのだが」
向かう先は分かっている。蛇行するとはいえほぼ直線で、その寄り道も条件がはっきりしている。先回りして、罠がはれそうな場所を探すのはそう難しい事でもなかった。
が、肝心の罠が早々簡単には仕上がらない。
朧車を落とし穴に嵌めるべく、頃助を始め幾人かで周辺の地形を探り、易い場所を探しはした。が、それでも穴を掘る労苦には堅護でなくとも不満が募る。
「まぁ、鋤とか鍬みたいな物を借りるという手もあるんやろけど。‥‥それよりあれ、来たんちゃうやろか?」
紅珊瑚(eb3448)が手で示すと同時に、周囲を探っていたテリーもまた知らせに戻ってくる。
「そうだよ。周囲に特に大きな生物はいないみたいだし、多分僕らを目指してるんだろうね。話通りに突っ込んで来るみたいだから気をつけてね」
注意を促すと、テリーは少し離れる。
「何とかこっちの準備も間におうたな。後はやり合ってみてのお楽しみか? ま、武道大会で苦戦した相手が味方になるのはとても心強いな」
将門司(eb3393)が笑いかけると、珊瑚も軽く笑みを返す。
だが、双方共にその次の間には顔を引き締める。
暴走する車はもうそこまで迫っていた。
「こっちや、こっち!! ‥‥もうええ加減に、爆進するんは勘弁してくれへんか?」
疾駆する牛車。鬼の形相が凝視するのは、そのさらに前を走る将門雅(eb1645)。出迎えにいった雅だが手裏剣で挑発せずとも、姿を見せるや否や後を相手は追いかけてきた。朧車に追われながら、雅は全力で駆ける。
そのまま皆のいる場所まで上手く誘導すると、最後の仕上げとばかりに軽々と地面を跳躍する。
着地して振り返ると、丁度朧車が斜めに傾いでいるのが目に入った。
朧車はジャイアントの頃助をも上回る大きさ。さすがにその全てを飲み込む穴は無理だったが、穴に車輪がはまり込み、身動きが取れなくなってしまっていた。
と同時に、穴の底から炎が吹き上がる。頃助のファイアートラップだ。
「この辺で休んでくれへんか? 永遠に」
疾走の術を使っていたとはいえ、迂闊に転びでもすればそれだけで良くて大怪我必須。悪ければ、死。
そんな物に相手に、無事、囮が勤められた事に安堵する間も無く、雅は朧車に対して構える。
上がった炎は一瞬だが、朧車がきしむような音を立てた。そして、その中から干からびた人間が飛び出してきた。
「ちくしょう!! 何へましてやがんだ、このボケがっ」
「黄泉人!!」
叫ぶが早いか、堅護が黄泉人へと桃の木刀を叩き込む。オーラパワーを付与した一撃はアンデッドにはさらに効果が高く、その干からびた体を打ち据えた。
そして、その傷以上に恐怖にも似た何かを顔に浮かべながら黄泉人は慌ててその場から逃げだそうとする。が、それをすかさず堅護が追撃し、また朧車とを阻むべく、間には素早く珊瑚が割り込んでいる。
分断された黄泉人は微妙にその枯れた顔を歪める。だが、
「お前らの所業‥‥これ以上見過ごす訳にはいかぬ!!」
何をしでかす前にさらに堅護は追随をかける。
「ふふ。機動力を優先して封じるのは、戦術の常道也! 車輪がなくては唯の箱也よ!」
一方で朧車の方も、まだ身動きが取れない。そこをすかさず頃助が太刀・三条宗政を振り下ろす。その重さを十二分に加味した一撃を振り下ろすと、さしもの朧車の身体にも深い傷が入った。
「さすがだな。こちらも負けてはられない」
司が両手の得物を叩きつける。さすがに、桃と月桂樹の木刀では効果抜群とまではいかないが、それでも傷を入れ、痛みでもあるのかがたがたと朧車が巨体を揺らす。
「ざけんな!!」
大きく間を開けると黄泉人が苦渋の声で叫び、印を組む。その身が緑の輝きを纏うやかざした手から突風が吹き荒れた。
「うひゃあああああ!!」
風にあおられテリーが飛ばされる。雅もまた耐え切れずに地に転がり、そして、
朧車もまたその身を傾がせた。風にあおられると音を立てて地に倒れる。
「しまった!!」
同時にそれは穴からも抜け出ていた。どういう具合にか器用にまた起き上がると、正面に浮かんだ鬼の顔が怒り心頭と云った視線を冒険者に向けた。
大きな傷を作ったままに、朧車が突進を開始する。助走をつけると一気に頃助へと狙いを定めて突っ込んできた。
「ぐはっ!」
躱せずに頃助の身が宙を舞う。何とか立ちあがりはしたが、その威力だけでかなりの傷を負わされていた。
「はっはっは。いいざまだな、やっちまえ!!」
「この!!」
珊瑚が唇を噛むと、笑い転げる黄泉人の足元へと滑り込む。足をかけられ、黄泉人はあえなく転倒。そこへさらに忍者刀を素早く掠めるように斬り付ける。
事前に刀には堅護からオーラパワーをかけてもらっている。黄泉人の姿が見る間に傷だらけになる。
「面白半分に皆殺しまくりやって!! 許さへんでぇ! 地獄におちぃや!!」
「はっ! その力はあるってのかい? 力を手にした途端に、俺らを封じた大昔と全く変わっちゃいねぇな!」
立ち上がるや否や、黄泉人の爪が珊瑚を掻いた。鋭い爪は皮膚を裂き、血を吹かせる。
「神に手をかけようとする愚か者! 呪われるべきはどっちだ!!」
黄泉人が悲痛にも似た叫びを上げた。睨む目線は憎悪を宿す。
「何であろうと! お前らの所業をこれ以上見過ごす訳にはいかん!!」
堅護が間合いを詰めると、黄泉人の動きが鈍る。堅護の右手を忌々しげに見つめ顔を歪めると、それを振り払うように大きく爪を振るった。
鈍い動きは傷のせいだけでは無いだろう。だが、黄泉人にはさほどの力は残されてなかった。その爪を左手の十手で受け止めると、その程度かと堅護が鼻で笑う。
「その程度では拙者は倒れん! 堅護の名、伊達ではござらん!」
桃の木刀を叩きいれると、黄泉人が深い悲鳴を上げた。
「向こうも大変なようやし。さっさと逝ってもらうわ!」
泣き喚く黄泉人に不快を露わにしながら、珊瑚はさらに素早く刀を斬りつけて行く。黄泉人は悲鳴を上げながら、やがてはそれを細くし、そして途切れ、倒れた。
死人が死に還っても、それでもまだ安心は出来ない。
車輪を傷つけられ、朧な姿も霧散しそうな程に痛めつけられていたが、それでも、朧車はまだ元気に活動していた。
「こっちや、こっち! どこに行きよるんや!!」
機敏な動きで雅が翻弄すると、司がその隙を縫って攻撃を仕掛ける。
「ちぃと見ん間に強うなりおって‥‥。嫁には行けんぞ」
「大きなお世話や!」
機敏に朧車と渡り合う妹に、兄はそっと呟く。だが、軽口叩く暇も有らばこそ、その二人に朧車が突っ込み弾き飛ばす。
奔放に走りまわる牛車に、やや冒険者たちは押されがち。ではあったが、突然、その動きが鈍った。
「やっとかかったぁ!!」
上空でテリーが両手を上げて歓喜を告げた。
さっきからずっとアグラベイションをかけ続けていたものの、やたらに抵抗されていた。朧車の抵抗力が高かったのか、単に運が強かっただけなのかまでは見定める事などできない。それでも悪運が尽きたのは確かだ。
抑制されながらも、乗り手もいない牛車は珊瑚へと向く。直進する牛車に珊瑚は真っ向対峙すると、その攻撃を十手で流す。受けきれずに体当たりを食らい、酷い痛みがあった。それでもそのすれ違いざまに叩き込んだ忍者刀を素早く動かすと、朧車の車輪がさらに大きく奇妙な形に歪んだ。
「頃助はん、司はん‥‥後は任せたで!」
胸元を押さえて珊瑚が呻くと、場を退く。
「大丈夫。任された也よ!」
いまだ動き回ろうとする朧車に頃助が太刀を入れる。大きく蛇行しながらも向かってくる朧車に、頃助は大きく太刀を斬りつけていた。
横倒しになってからからと轍を回す朧車。それ自身で動き回る奇怪な牛車だったが、もはや起き上がる事は無い。
それを確認すると、ほっと座り込む冒険者たち。怪我が無いのは少し離れていたテリーぐらいで後は大なり小なり傷を受けていた。
「またこれを飲めるな」
傷の治療をしている冒険者の傍ら、司は軽く笑いながら手持ちの酒を開ける。
結局の所、まだ黄泉人一体とその連れを排除したにすぎない。それでも、黄泉人との戦いが終わりになる日もそう遠くないはずだ。