仲 違 い

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月24日〜09月29日

リプレイ公開日:2005年10月03日

●オープニング

「お美代! まった、あんたの所の猫だよ! 全く!!」
 そういって怒鳴り込んできたのは、年老いた婆さんだった。そして、怒鳴り込まれた方もまた婆さんだった。
「今月に入ってもう三回目だよ! ああもう、胸糞悪いったらありゃしない!!」
 言って、その婆は手にしたモノを投げつける。
 それは生きた猫。投げた勢い自体はやはり加減されてたのか、猫は綺麗に着地すると投げた婆に向かって毛を逆立てる。
 が、その婆が鋭い目で睨みつけるや、あまりの迫力に恐れを為したか、体を震わせてそそくさと物陰に隠れた。
「そうは言ってもお夏さん。ハルだって生き物なんだし‥‥」
 美代と呼ばれた婆さんは、ハルと呼んだ猫と夏という婆さんに視線を行ったり来たりさせながら、おろおろと弁解を告げる。
「生き物!? だから、それで許されるというのかい?
 いいかい? あんたが猫を飼うのは勝手だよ。けどね、そのハルは、あたしん家に入り込んで柱に爪立てるわ、床を泥だらけにするわ、挙句に池の魚を盗って食うわ! なんぞ、あたしに恨みでもあるのかい?!」
「ある訳無いだろ? 私とあんたは家も隣同士で、古い付き合いじゃあないか」
 鼻息も荒く押し迫る夏婆に、美代婆は押されながらもそう告げる。
「ああ、そうさ。古い付き合いさ。だから、言ってるんだよ。勝手に人ん家に入り込んで、我が物顔に振舞うその傍若無人のなめくさった猫をどうにかしろってね」
「何とかしてるよぉ。けれど、ハルだって遊びに行きたいだろうし、私が目を話した隙にさっさと出かけちまうんだよぉ」
 泣き事のように言い訳をする美代に、夏は忌々しげに舌打ちをする。
「だったら! その猫を柱にでもくくって家から出さないこったね!!」
 吐き捨てるように告げた夏に、美代は目がこぼれるかと云うぐらいに見開いて驚く。
「な、何て事言うんだい!! そんな可哀相な事出来る訳無いじゃないか!!」
「可哀相!? ふん! あんな猫一匹の為に家を目茶苦茶にされるあたしの方を労わる気は無いってのかい!? ああ、それならそれでもいいさ。けどね。あたしだってもう許さないよ!」
 鼻息荒く、夏は足を踏み鳴らしながら美代の家を出て行く。
「今度その猫がうちの塀をまたいでごらんっ! 酷い目にあわせてやるんだから!!」
 最後にしっかりと釘をさす事は忘れない。

 そして、事件は起きた。
 美代の家に。無残な姿のハルが投げ込まれたのだ。犬にでもやられたのか、首筋に酷い噛み跡があった。だが、犬ならばわざわざ飼い主宅に投げ込むような真似はしない。
「ハルーーーっ。私のハルがーーー」
 血まみれの姿に動転した美代も、それが愛猫と分かると後は取り乱したように泣き続けた。
 美代に同情が集まると、同時にだれがそんな酷い事をしたのかという話になる。
 一番考えうるのは怨恨。そして、美代の周囲でもっともそれにあてはまるのは‥‥。

「そりゃ確かに叫んだよ。酷い目にあわせてやるってね。けど、あんな酷い事するはずがないじゃないか」
 冒険者ギルドにて。真っ青な顔でおろおろとしているのは夏婆さんだった。
 小さな村だ。怒鳴りあってたなんて話、その日の内に村の中では周知になっていた。
「村の皆はね、あたしがそんな事する訳無いって言ってくれてるよ。‥‥半信半疑って所だろうけどね。
 けど、そんな事は別にいいんだよ。問題はお美代だよ」
 夏は何かを振り払うように頭を振ると、恐々と告げる。
「美代はね。この春に息子さん一家を亡くしたんだよ。息子さんたちは大和に住んでてね。ほら、死人憑きとか出てえらい騒ぎだったじゃ無いか。あれに襲われて逃げられなかったそうなんだよ‥‥」
 行方不明と判断される状況が多かった中で、その知らせが聞けたのはまだマシなのか。そして、息子一家を亡くして意気消沈していた頃、家に迷いこんできたのがハルだった。
「美代はね、きっとハルは自分が落ち込まないようにと息子たちが送ってくれた宝物なんだって、そりゃあ大切にしてたよ。実際ハルがいなけりゃ後追っかけてぽっくり行きそうな程意気消沈してたからね。
 本当に馬鹿みたいに猫かわいがりして、おかげで躾らしい躾なんてものしてなくて。だから、あたしもそれはよくないって再三注意した挙句に怒鳴ったりしたんだけど‥‥。
 とにかく、美代にとってはそれぐらい大事な猫だったんだよ。それだけは、あたしにだって分かる」
 その猫が死んだのだ。それも無残に。美代の心中は穏やかではない。その日から美代は誰とも会おうともせず、ぱったりと表に出る事も無くなった。
「もしかして、奥で死んでんじゃないかとか気になって‥‥その‥‥、聞き耳を立ててるんだけどね。動いてる様子はあるから生きてはいるんだけど‥‥」
 と同時に。誰か別の声も聞こえてきた。そいつは告げる。ハルをあんな目に合わせた奴に仕返ししてやろうぜ、と。
「村のもんの声じゃ無かったよ。男か女か、年の頃も良く分からないけったいな声。そいつがね、そうやってぶつくさと言ってるんだよ‥‥」
 たまらなくなってある日、塀の隙間から美代の家を覗いた。
 が、声の主は身あたらず。そこにいたのは毛むくじゃらの犬だけ。何だか犬とは違う気もしたが、少なくとも夏はそう見た。
 そして、その傍。美代が縁側に座っていた。無言で、何かに憑かれたように手にした大きな包丁を見つめていた。
 その美代の尋常で無い様子に、夏は震え上がった。
 ハルを殺した、もっとも疑わしい人物は夏である。もしかすると、美代は夏を殺しに来るのではないかと。
「あたしはやってはいないよ。潔白だよ。‥‥でもねぇ、ほら、悪い事を言うと本当になるから口にするもんじゃないって言うだろう? もしかすると、あたしがあんな事を言ったばかりに、ハルはそれで死んだのかもって‥‥」
 自責する婆をギルドの係員は宥める。
「とにかく。あんたはどうして欲しいんだ?」
 ぶっきらぼうな物言いに、ちょっと目を丸くしたが、夏は軽く息を吐いた。
「美代にね、許して欲しいんだよ。あたしらは何だかんだ言っても昔から一緒だったんだ。もう知り合いもぽろぽろといなくなるばっかなのに、この年でこんな別れ方は寂しいじゃないか。勿論、死んで詫びるとかそういうのは無しで‥‥。ああ、でも。それしか方法が無いなんて言われたらあたしゃどうすれば‥‥」
 取り乱す夏を、やっぱり係員は落ち着かせる。とにかく、依頼は引き受けたと。

 そして、冒険者を前にして係員は告げる。
「美代婆の家に現れた犬だが、もしかすると邪魅かもしれない。犬のような外見で、言葉巧みに人を堕落させるような奴だ。通常の武器は効かないのが厄介だな」
 ただし、依頼人の望みはお隣さんとの関係修復。必要以上にそっちに構って本分を忘れないように。

●今回の参加者

 ea9032 菊川 旭(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1645 将門 雅(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1795 拍手 阿義流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3272 ランティス・ニュートン(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb3572 李 玉葉(27歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

 愛猫の死。不可解な死因に疑惑が一人の老女に向けられる。
 疑惑の老女・夏はその飼い主である美代が不審な行動を取り出している事を危惧し、冒険者ギルドに訪れた訳だが、
「婆さんの仲なんかどうでもいいよ〜。その邪魅ってヤツ、やっつければいい‥‥ぶわっ、何する!」
「目的は、夏さんと美代さんを仲直りさせる、ですね。‥‥あまり依頼人を驚かさないように」
 不遜に口を開く拍手阿邪流(eb1798)に、拍手阿義流(eb1795)が慌てて口を塞いで奥に引っ込める。阿義流は荒い口調に目を丸くしていた夏婆に微笑みかけると、裏でこっそり弟を窘めてみる。
 外見は良く似た二人だが、中身の方はどうやらまるで違うようだ。
「っていうかさー、夏婆さんが謝りゃ終いじゃねぇの?」
「あたしもね、謝罪というか弁明の一つはしたいさ。けどね、会ってくれないんだよ」
 あっけらかんと続ける阿邪流に、夏は答えて肩を落とす。別に、彼女だけを遠ざけている訳でなく、美代は誰とも会おうとしない。猫が死んで以来、美代婆を見かけた者は全くといっていい程いなくなっていた。
「昔なじみと喧嘩なんて悲しいからね。それに、魔物が関わっていると有れば放っておく訳にはいかない!」
 腕輪を見つめながら、ランティス・ニュートン(eb3272)が強く言い放つ。
「しかし、邪魅とは‥‥。よく知りませんが、厄介そうですね」
 精霊には詳しい阿義流だが、その他に関しては生憎である。分かるのは、邪魅は精霊ではなさそうだ、という事ぐらいか。
「確かに邪魅は厄介だが、依頼の本筋は美代殿との仲直りだ。‥‥美代殿に伝えたい言葉はもう夏殿にはあるのかもしれないな。例えどんな言葉でも、本人の言葉でなければ意味はなさない」
 ハルを亡くした美代にとっても、夏は支えとなる大事な友達。それを思い出してもらえたら‥‥。
 心痛で顔色を悪くしている夏を見ながら、菊川旭(ea9032)はふとそんな事を思っていた。

「ハルのお墓はお庭に作ってるんやてね。少なくとも、外で見た人はおらへんかったわ」
 皆で美代の家に向かいながら、村で一通り情報を仕入れてきた将門雅(eb1645)が告げる。
「それと、犬の事やけど‥‥美代はんが犬飼ってるなんて話、誰も知らんかったわ」
「一緒にいるんじゃないのか?」
 雅の報告に、旭が怪訝そうに眉を顰める。
「姿を消している可能性はあるだろう。動く時には何かしらの反応はあると思う。護衛は頼んだ」
 ランティスの言葉に旭が頷く。
 やがて美代の家までたどり着き、夏が玄関の戸を叩く。中で誰かが動く気配がした後、ほんの少しだけ戸が開いた。
「こんにちは。ハル殿の為に夏殿がお墓にお供えをしたいと‥‥」
「帰っとくれ」
 旭が穏便に告げた途端、ぴしゃりと素早く戸が閉まりかけ、慌てて阿義流がそれを止める。
「ハルというのは夏さんがつけた名前じゃないでしょうか。その名付け親である夏さんが、ハルをわざわざ殺してしまうものでしょうか?」
「いや、美代がつけたんであって、あたしはさっぱり関係ないさ」
 美代を説得しようと告げた言葉に、あっさりと夏の否定が入る。だが、戸を閉めようとしていた力は少し緩み、阿義流は次の言葉を捜す。
「‥‥。えーと、でも、人の手ではない傷があったのでしょう? きっと、ハルは美代さんを守る為、何か脅威と戦ったのではないのでしょうか」
 戸向こうの気配は沈黙したまま。だが、やがて黙って姿を現した。
「裏庭に埋めたよ‥‥。あそこが一番あの子の好きな場所だったからね」
 素っ気無くそれだけ告げると、後は黙ったまま美代は冒険者たちを案内する。
(「陽気で仲のいい二人だったって聞いたけど‥‥これは重症だな」)
 心密かにランティスは嘆息する。
 雅と同じく、村での二人の評判を聞いていた。欠点があるのも当然だが、総じて人柄もよく、明るい二人だったらしい。夏はともかくとし、今の美代からは考えもつかない。いや、不安そうに後ろをついてくる夏も、その評判からは離れてしまったかもしれない。
「ここだよ」
 素っ気無く告げた美代だったが、ハルの墓は一目で分かった。丁寧に掃除されて、花が添えられている。萎れても枯れても無い花は毎日きちんと参ってる証拠。
 夏がそれに花を添えて手を合わせる。何とはなしに、冒険者もそれに従う。
「危ない!!」
 しばしの黙祷。そして、突然旭が夏を押し倒した。半瞬置いて、夏が居た場所を鉈が過ぎる。
「み、美代! あ、あんた‥‥やっぱり!!」
 すぐに鉈を取り上げて取り押さえられた美代を、夏が真っ青な顔で詰問する。美代はただ唇を噛みしめ、目を伏せている。
「憎しみに捕らわれる美代殿をハル殿はどう思うだろう? よしとはしないのではないか? そして美代殿のご家族も‥‥」
 凝り固まった美代に、旭が静かに話しかける。美代は依然うつむいたままだが、その肩が小さく震えだす。
「美代殿が幸せでなければ、ハル殿の魂もまた安らぐことができないと思わないか?」
 それきり旭は口を閉ざす。長いようで短い時間が過ぎ、やがて沈黙の中に嗚咽が混じりだす。押さえていた手を離すと、そのまま美代は座して泣き崩れた。
 かける言葉を見つける事が出来ず、ただ静寂を持って美代を見守っていた冒険者たち。
「そこ!! 何が隠れてやがる!!」
 阿邪流が声を荒げる。目敏く茂った庭木の陰に不審な影を見出し、駆け寄るとシルバーダガーを振るった。
「くそぉ!!」
 銀の刃から逃れて飛び出てきたのは一匹の犬。いや、犬ならば喋るはずもなし。
 驚く夏と美代を守りながら、冒険者たちがそれぞれ得物を手にする。毛むくじゃらの妖犬は彼らから逃れようと走り、だがすぐに塀にぶつかる。
「ちぃい!!」
 悔しがる犬の姿が歪んだ。見る間に大きな鳥に変化すると、翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。
「逃がしません!」
 阿義流がサンレーザーを唱える。その身が金の光に包まれるや一条の光線が妖鳥を撃つ。失敗せぬよう威力を落とした所為か相手にほとんど傷は無かったが、それでも空中でその姿勢を崩し、飛翔を弱めている。
「もらったで!!」
 そこへすかさず雅が飛び掛る。疾走の術で身軽に跳躍すると、鳥の足を掴み地面へと引きずり落とした。
「ぎゃあ!!」
 悲鳴を上げるそいつを、ランティスが両の手に日本刀で切りかかる。オーラパワーで強化された刃で鳥の翼が破れた。
「畜生、畜生、畜生!!」
 醜くののしりながら、何やら唱え始める。しかし、目的適わず深く咳き込むと、忌々しげに冒険者たちを睨みつけた。
「邪魅やな? 猫のハルを殺したんはあんたか? 何でそんな事するんや!?」
 いつでも飛びかかれる体勢で雅が問う。空気を漏れる音を混じらせながら低く邪魅は笑った。
「そうかい? そこの婆ぁがあの猫を酷い目に合わせるってほざいてただろう。だから、俺が代わりに酷い目を見せてやったんだよ!」
 力強く言い放たれ、夏の顔色が変わる。その表情に満足したか、邪魅はさらに邪笑に顔を歪ませる。
「親切だろう!? だから!!! 代償に友人に殺される姿ってのを見せてもらってもいいじゃねぇか!! 皺くちゃ婆ぁってのが気にいらねぇがな!」
 叫ぶと同時、再びその姿が歪む。翼が消えて体毛が伸びる。現れた姿は巨大な熊。すっくと立ち上がるとその爪を振るう。
 しかし、姿を変えようと傷は残る。すでに手痛い傷を負った身。緩慢な動作はあっさりと冒険者たちに避けられてしまった。
「人心を操り、争いを生み出す魔物が! この腕輪にかけて、お前の好きにはさせない!!」
 対して、怒気を孕んでランティスが斬りつける。それは深々と邪魅の姿を捉えて切り裂く。
「ったく、夜なら離れて攻撃もできたんだろうけどな」
 愚痴りながらも、間合いを詰めて銀の短刀を振るう阿邪流。ま、人様の家に赴き墓に参るなら昼の内の方が良いので仕方が無い。
 各々が武器で魔法で次々と邪魅に攻撃を加える。さほどの時間もかけず、邪魅は最後の言葉無くただ吐息と共に地に倒れ伏す。やがてその姿は消え去り、後には何も残らなかった。

 荒れた庭を整備しなおし、もう一度きちんとハルの墓に花を供え直す。
 その間中、ずっと美代は消沈したままだった。いや、美代だけでなく、夏もまた。
「猫を殺したってのは結局あの邪魅の野郎だった訳だ。犬の噛み跡があったって聞くが、あの姿からしても間違いはねぇだろ?」
 夏とは目もあわそうとしない美代に、阿邪流は嘆息しつつも諭してみる。
「奴らは、心の隙間につけ込んでくる。
 ‥‥辛い気持ちは分かる。安らぎを求めハルを可愛がったその気持ちもな。あなたの周りにハルが居た。そして、夏さんもだ」
「でも、結局ハルを殺したのはあたしさぁ。あいつの言葉を聞いたろう? あたしさえ、あんな事言わなけりゃ、あんな奴にハルが殺される事は無かったんだよ‥‥」
 美代に話しかけていたランティスに、横合いから夏が口を挟む。俯いた表情のまま、生気の無い表情で呟かれた言葉に、冒険者一同、はっとして言葉を呑んだ。
「お夏さんのせいじゃないよ‥‥」
 どう言葉をかけていいか分からず、まごつく冒険者たち。その横合いからぽつんと美代からその言葉が飛び出した。
「お夏さんはハルを‥‥私を思ってきつい事を言ってくれてたんだろ? ハルが可愛くて‥‥甘やかしてしまったけど、それは駄目だって本当は分かってたさ。分かってて放っといたんだから、やっぱり私が悪いんだよ」
 訥々と話続けると、美代は顔を上げた。曇りの無い視線でまっすぐに阿義流を見つめる。
「ハルはねぇ。春に来たからハルなんだよ。単純だろう? でも、お夏さんもいるし並んで丁度いいって思ったんだ。あんたに言われて、思った事を思い出したよ」
 そして、また項垂れる。
「‥‥でもねぇ、どうしてもハルがいないのが悲しくて。唆されて、お夏さんが悪いんだって思い込む方が楽だったんだ。‥‥いいや、私がそんな奴だったから、あいつなんてのがやってきちまったんだよ‥‥」
 硬く握り締めた拳が細かく震える。言い終わる前に、声が震えると再び美代は泣き顔を見せた。
 その様を、ただ黙って見守る冒険者たち。先のようにかける言葉が見つからないのではなく、もう必要ない事は十分感じていた。
 夏は何も言わずに、その肩に手を添える。美代は夏に寄り添うとその腕で泣き崩れた。
 老女たちの涙が乾く時、見られるのはきっと双方の笑顔だろう。その確信が冒険者たちにはあった。