化かし化かされ振り振られ

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月01日〜11月06日

リプレイ公開日:2005年11月09日

●オープニング

 神剣争奪より一ヶ月。いろいろと内情は複雑であるものの、剣は無事に神皇の元に戻され、外見的には平穏無事に治まった。
 争奪に辺り、各地の有力諸侯が江戸へと集結した――というか、彼らが集結したからこそあの騒ぎになったとも言える――。江戸に参ったのは諸侯に限らず、幼き神皇自身もこの地に赴き、周囲を大いに慌てさせた――まぁ、神皇が長持に入ってたら、そりゃ誰だってびっくりするだろうが――。
 そして、神皇の相談役として現れたのは京都陰陽寮を束ねる陰陽頭の安倍晴明。御年三十三歳。
 神剣争奪以後は、何故か江戸の郊外にある屋敷でひっそりと帰宅の時までを過ごしていた。
「というのも、女性に言い寄られまして」
 冒険者ギルドにて。ギルドの係員の目の前であっさりとそう言ってのけたのは、当の安倍晴明自身であった。
「野犬に吼えられて難儀していたのをお助けしたら、そのまま御姉妹揃って押しかけていろいろと世話を焼いてくれまして。とはいえ神皇様の事もありますので、あまり大っぴらに侍らす訳にも参りませんから、ひとまず手頃な屋敷を借り、そちらで過ごしていた次第」
「ほぅ。それでその女性たちは京都に連れ帰られるのですか?」
 一度に女性三人を相手。うらやましいぞーと思う係員の一人身の哀愁を、晴明はあっさりと一蹴する。
「それは無理でしょう。都には妻もおりますし、そもその者たちは人でありませんし」
 告げられて、係員は言葉に詰まる。何に突っ込むべきかを悩んだ挙句、
「人で無い?」
 一番無難そうな所にのみ反応する事にした。そんな胸中を見透かしたかのように、晴明はふと目元で笑う。
「ええ、彼女たちの正体は化け狐です。最近、江戸では狐に関わる事件が聞かれますし、もしやそれに絡んで私に近付いたかとしばらく泳がせていましたが、彼女らにまったくその素振りはなく。どうやら、私の噂だかを聞いてからかいに来ただけのようです」
 安倍晴明の噂。係員がすぐに思い出したのは人ではなく、狐の子であるという話。荒唐無稽な話だが、素性の知れなさや類稀なる術の実力などから真実と見る者も少なくは無い。
 他にも無礼を働くと呪われるとか、無礼でなくても気まぐれに呪うとか、烏帽子の中が異次元になっているとか、黄泉人の騒ぎは実は彼が黒幕だったとか、越後屋の福袋でスカばかり引くのも彼の呪いだとか、興味本位で尋ねただけで嘘か誠か分からぬ噂などざかざか出て来るような御仁ではあるが。
 それのどれに化け狐が興味を持ったかは知らないが、確かに面白そうな相手ではある。同時に騙すにはこれ程不向きな相手もおるまい。
 何となく狐の方に同情しそうになり、それを読んだかのように晴明が目を細めた。
「大事に関係ない以上、これ以上は付き合っても無駄です。さほど悪い事もしてないので、無罪放免でもいいのですが、それでこのまま付き纏われるのも困りますし、また私を諦めた所で別の方にご迷惑をおかけしては意味も無く。なので、二度と人間には関わりたくないと思わせるよう、少々懲らしめてやってくれませんか?」
「御自分でされた方が早いのでは?」
 思わず口にした一言。失言だったかと焦るが、相手は気にせず無念そうに嘆息付いた。
「そうしたいのは山々ですが。‥‥何やら江戸に不吉の影があります。放っておくにはどうも大事に至りそうな災いの卦。見極め対処する必要があり、瑣末事にかまけてもいられず」
 なので、冒険者たちに頼むという。
「難しく考えずに、適当に遊んでくれたらいいですよ」
 にこりと笑って告げる陰陽師に、化け狐とどっちが酷いだろうと内心考えずにはいられない係員だった。

 ※  ※

 晴明に言い寄る狐は三匹。三姉妹と云う名目で名はお松にお竹にお梅。‥‥どこまで本当か分からない名である。 
「ってかさー、あの男。マジ鈍っ? あたし程の女が言い寄ってるのに手も触れないなんてっ」
 晴明の留守中。ざかざかと庭で箒を振り回しながら愚痴を垂れるのはお竹。竹の箒の柄が曲がらんばかりに力を入れており、おかげで庭の枯葉も掻き散るばかり。
「お竹は〜ちょっと乱暴ですから〜。同性だと思われてるんじゃないですか〜」
 間延びした喋りはお梅。口調同じくゆったりとした調子で裁縫をしているが、その目はさっぱりと増えない。‥‥糸が抜けている事に気付いてないのだ。
「何だってぇーっ。そういうあんたはただのガキんちょだろ。いつぞやの料理なんざ塩と味噌を間違えるなんて大ボケかますしっ」
「そ、それはちょっとしたお茶目ですのぉ〜。殿方にはそれぐらいの方が可愛いと思われますのよぉ〜。ゴキブリ掴んでも平気な竹には分からないでしょけどねぇ〜」
「へんっ、あいつはどうも普通じゃないからな。むしろ変わった行動のが興味を引くってもんなんだよっ」
 売り言葉に買い言葉。竹と梅が睨みあう中、松がすっと割って入る。
「二人とももうおよしになれば? 言っておきますが料理裁縫掃除その他諸々完璧にこなし、加えてこの美貌。彼を落とすのはわたくしに決まっておりましてよ」
 自信たっぷりにそう言ってのける松。竹と梅は顔を見合わせ、数瞬後、同時に盛大に吹き出した。
「そう言って夜の床に忍んで、あいつが来る前にグーグー朝まで眠り込んだのは誰でしたっけねぇ」
「あの時は楽しかったですよねぇ〜。追い出された晴明様と朝まで飲んで騒いでぇ〜。勿論、だ〜れかさんはいらっしゃらなかったですけどぉ〜」
 けたけた笑う二人に、見る間に松の顔が真っ赤に染まる。羞恥か憤怒か。いや、その両方か。
「と・に・か・く。あの男をわたくし達の誰が落とすかが今回の勝負ですわっ。落とせなかった者は落とした相手の命令を一つ聞く事。良いですわねっ」
「賭けは覚えてるよ。‥‥けど、今回の男。都の陰陽師だとかいろーんな噂あったけど、大した事ねぇよな。こっちの正体にも気付いてないお間抜けだし」
「ちょーーーとというか、かなり朴念仁みたいですけどぉ。その方が賭けのやりがいもありますですよねぇ〜」
 女三人、くすくすと笑う。
「もしも〜し、どなたかいらっしゃいませんか〜。ご注文の油と味噌と醤油をお持ちいたしましたよぉ」
 その時、
「「「は〜い、いつもご丁寧に」」」
 ころりと態度を変えて、応対に出る三人。いや、三匹。そうしてる様はまさに普通の女性にしか見えない。
 やに下がる商人を艶美に応対しながら、獲物(と思っている)の男が帰るのを今かと待ちわびていた。

●今回の参加者

 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2557 南天 輝(44歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0160 黒畑 丈治(29歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「御免下され。安倍晴明さんはいらっしゃいますかな?」
「「「はーーーい」」」
 刀根要(ea2473)が断りを入れて戸口を開けると、屋敷の奥から華やかな女性達の声が返ってきた。
 駆けてくる音は複数。しばし置いて、三人の女性が現れた。
 歳は微妙に違うし、雰囲気も違うが、概ね美人ぞろいが相手なのを見てとり、南天輝(ea2557)は少し満足げにそっと頷く。
「申し訳ございません。生憎、晴明さまはまだ帰ってきておりませんので‥‥」
 きちんと指をついて畏まる彼女たち。代表して告げたのは、晴明から聞いた話からしてお松だろう。後の二人も彼女より一歩引いた位置で丁寧な礼を取っている。出迎えとしてはなかなかである。
 が。
「指のつき方が甘いでござるーーっ!!」
 スパーーンと小気味いい音が屋敷中に響いた。景気付けに床を叩いただけだが、いきなりの事に三人娘は目を見開いて飛び上がる。その顔をじろりと意地悪く眺めて、久方歳三(ea6381)が簗染めのハリセン片手に仁王立つ。
「拙者は久方歳三。晴明殿のお相手の見極め役としてあなた方を審査しに参ったでござる」
「み、見極めって‥‥」
「平たく言えば、姑役でござる」
 言うが早いか。障子に目を走らせると、桟に指を滑らせふっと息を吐きかける。
「‥‥塵が積もってるでござるな。どなたが掃除したでござるか」
「ちょっとちょっと! いきなり現れて何ケチつけようってんだい! あたしの掃除に文句あるってんなら‥‥」
「言い訳するなでござるーーー!!」
 竹が啖呵切るや、歳三がハリセンをばしばし振るう。叩かれる竹を見て、梅はきゃあきゃあ言いながら慌てて逃げ、松は微笑を崩さぬながらも手を出しかねておろおろとしている。
「まぁまぁ、今はそのぐらいでいいでしょう」
 見かねて要が止めに入る。輝の意向を汲んでもあるが、あまり相手を脅かしては彼自身の目的にも障りがあるかもしれない。
「実は俺たちは晴明と酒を飲む約束していたんでな。‥‥帰って来るまで待たせてもらっていいだろう?」
「そ、そういう事でしたら」
 どぶろくを見せながらにこりと笑う輝に、歳三に気圧されながらも松は客間に案内する。

「言っても仕方ないかもしれないですが。人を呼び捨てにするのはどうかと思いますよ」
 案内された客間にて、出された茶を啜りながら、要が輝を注意する。
「まぁ、いいじゃないか。それよりそっちこそ。存外美人ぞろいの狐たちだが、色香に迷うなんて事は許さんからな」
 言い返す輝に要が分かってるとばかりに、頷く。恋人持ちとしては裏切るようなまねは出来ない。
「にしても。適当に遊んでくれたらいいで後は任せた状態‥‥。あの人、意外といい加減なのかねぇ」
 どうやら戦闘はまだと見て、九竜鋼斗(ea2127)ものんびりと首を傾げる。思い出すのは依頼人の姿。そこらはちょっと分からない。というか、何考えてるのか今一つ読めぬ御仁である。
「すみませーん。晴明さま、まだお帰りにならないようですぅ。あのあの、お茶の御替りは大丈夫でしょうかぁ」
「うん、大丈夫だ。心配かけてすまない」
 すっと障子を開けて、梅が顔を出すと、輝が愛想良く振舞う。自然顔が笑むのは、何と無しだが妹に似ている部分があるようで。
 それをどう誤解したのか。松が二人の間に割って入った。
「申し訳ないですわね。いつもならそろそろ帰宅される頃ですのに。よろしければ、帰られるまでわたくしがお話し相手でも‥‥」
「いきなり客に色目を使うなでござる」
 輝にしなだれかかる松に、容赦ない歳三のハリセンが飛ぶ。
「まぁったく、色ボケさんは嫌ねぇ。拙僧無しなんだから」
「本当ですぅ。お客様の対応としては間違ってますよねぇ」
「なぁんですってぇ!!」
 くすくすと笑う竹と梅に、松がいきり立つが、
「そこ、くっちゃべるなでござる!」
 やっぱり即座にハリセンが飛ぶ。
「だああー、いい加減にしやがれ!!」
 ぽんぽんとはたかれ、ついに竹が勘弁ならぬと言わんばかりに歳三に詰め寄る。
「晴明の知り合いと思って下手にでればいい気になりやがって! 人を注意する前に見知らぬ奴をぱかぱか殴るおのれの振る舞いを注意しろってんだ!!」
「口答えしなーーーいでござる!!」
 拳握り締めて怒鳴りつける竹だが、それもむなしく歳三は一喝してハリセンをお見舞いする。
「全く。お梅さんは糸を結ばずに裁縫するような注意力欠如。お竹さんは掃除は勿論、その他の振る舞い全般で乱雑でがさつさが目立つ。お松さんは完璧に近いと思っていたでござるのに、肝心の所が抜けている上に色ボケなんて事が分かるとは残念至極でござる。これでは晴明殿の嫁などまだまだまだまだ」
「きいいーー。むかつくーーっ」
 わざとらしく指まで振って否定する歳三に、三匹揃って不満の声を上げる。
「っていうかぁ。無礼なお客から家を守るのもぉ、家に居る者の役目ですよねぇ」
「異議なし。よく考えたら晴明さまのダチってのも怪しいもんだよな。ああ、これは確かに迂闊だったさ」
「そういう訳ですし。悪いですけど、お引取り願えますか!」
 三匹揃って意見を共にし、歳三に詰め寄るが、
「‥‥そうだな。茶も終わった事だし、茶番も終わりにするか」
 上がった声は三匹にとって想定外の場所から。はっと身を強張らせた三匹に対し、鋼斗は厳かに湯飲みを置くや続けざまに素早く日本刀を掴むと抜刀した。
 抜いた切っ先は三匹を狙う。その瞬息の動きに避ける事もできず、斬られた松が悲鳴を上げてひっくり返る。
「や、やだやだ何〜〜」
 突然の剣劇に、驚いた竹と梅が慌てて外に逃げようとする。だが、庭まで逃げた時点で突然梅が足を止めた。青い顔のまま顔を引きつらせ、目だけが驚いたように瞬かせている。そこからしても、彼女が自分の意思で止まった訳で無いのは十分に知れた。
「梅! ぎゃあ!!」
 足を止めた梅に驚き、自身もまた立ち竦んでしまった竹。その前に黒畑丈治(eb0160)が逃亡阻止せんと立ち塞がる。
「案じなさいますな。コアギュレイトで動きを止めただけです。残るは貴女一人――いや、一匹。抵抗するなら容赦はいたしません」
 殺気をみなぎらせて詰め寄る丈治に、竹は青い顔で後じさり。そこを冒険者一同が一斉に捕まえたのだった。

 捕らえた三匹を逃がさぬよう客間に連れ込み、冒険者一同で取り囲む。若干怪我をしていた者たちを丈治がリカバーで癒すと、さて、とばかりに狐たちに詰め寄る。
「有体に言えば。お前たち三人の正体が狐だって事は分かってるんだ。俺たちはそれで晴明から頼まれてきたんだからな」
 多少詫びも兼ねて、軽く肩を竦めながら輝が告げる。事情を説明し、晴明もここには戻らない事を告げると、狐三匹、思いもしなかったと言わんばかりにそれぞれ珍妙な顔で驚いている。
「そもそも、晴明殿は妻帯者でござるしな」
「‥‥知ってますわよ、それぐらい! そうでなければ賭けの対象として面白くないですもの」
 歳三が口添えると、不機嫌そうに松が顔を背ける。からかわれていたのが知れて不愉快至極といった表情。
 その顔に苦笑しながら、凪里麟太朗(ea2406)が言葉を続ける。
「では、安倍殿には狐の子という噂があるのは知っているか? 奥方もやはり狐の縁者であるそうだ。妖狐にも各々の領域を持っているだろうが、邪な気持ちで安倍殿に近付くと都の妖狐たちを敵に回すぞ」
 平然と告げる麟太朗に、さすがに三匹思う所があるのかぐっと息を詰まらせた。
「で、こっちとしても妖狐の戦に人が巻き込まれるのを恐れている。禍の種を芽吹く前に排除したい訳だな」
「え、ちょっ、ちょっと待ってよぉ。まさか、私らをここでスパーーっとやっちゃったりしないよ‥‥ね?」
 にやりと笑う麟太朗に、青い顔で梅が恐る恐ると尋ねる。
「無益な殺生は好みません」
 丈治がきっぱりと言い切る。三匹それぞれほっとしたように息をついたが、
「しかし、生憎ながら私は悪を改心させる方法は知りません。なので、人に迷惑を掛ける悪党は滅ぼすのみ!!」
 殺気みなぎらせ力強く金属拳を嵌めた拳を見せる丈治に、三匹はさっきの倍以上の悲鳴を上げて遠ざかる。そんな彼女たちの騒ぎにいささか辟易しながら、輝がどうにか宥める。
「落ち着けって。無益な殺生はしないさ。金毛とも関わりは無いって事だしな」
「当然ですぅ。私たちは何も悪い事してませんよぉ〜」
「そうですわ! そ‥‥そりゃちょっと人をからかう事はいたしますけど、決して殺めたりした事はなくってよ!!」
「大体、その金毛ってのはどっかに封じられてて復活したって言う華国の奴だろう? そいつについて何かいろいろやろうって奴もいるだろうけどさ。あたしらはそんなよそ者に従うなんざごめんだね」
 口々に声をそろえて弁明しあう狐たち。女三人寄ればと言うが、それぞれが勝手を解さず主義主張する姿は実に五月蝿く、冒険者揃って耳に指で栓をする。それでもまだ声が脳天に突き刺さりそうで。
 それだけ向こうも必死なのかもしれないが。
「とにかく。あなたたちは金毛については何も知らないのですね。それに従う他の奴らについても」
「しつこいですわね、知らないものは知りませんわ。大体、わたくしたちは人間で遊ぶのが好きですの」
「あまり騒がれちゃ迂闊に遊べなくなるしさぁ」
「どっちかといえば、迷惑してるですぅ」
 要の問いにも不満たらたらに答える。どこまで信じていいかは分からないが、一応嘘はなさそうである。関わり無かったのは喜んでいいのか、それとも手がかりが消えて悲しむべきか。
「にしても。人を化かすなど言語道断です。そんなに化かして遊びたいのならいっそ私で我慢なさい」
 ぎろりと丈治が睨みつけると、揃って竦みあがり首を横に振っている。殺気漂わせる相手はさすがに怖いと見える。
「遊び足りないなら、俺が付き合ってやるって。大体、江戸は今狐騒動で過敏になってるしな。下手に遊ぶと怪我するぞ」
「あ、お兄さんならちょっといいですかぁ?」
 ころりと態度を変えてまんざらでなさそな三匹に、言った輝の方が少々目を丸くする。それ見て麟太朗はどうしようもないという風に首を振る。
「全く、懲りない方々だな。安易に人に関わると大変な目に合うぞ」
 印を組み、詠唱する麟太朗。近くの明かりから炎が大きく燃え上がり、三匹に襲い掛かる。
 悲鳴を上げて三匹は逃げ回る。観念したのか、正体表すや生垣を突き破り、四足で超特急で走り去っていく。
 麟太朗としては延々追い駆けたかったが、馬の方が火に怯えて騒いだので断念する。まぁ、あの慌てっぷりでは当分人に手を出そうとは考えないだろう。
「無事に逃げろよ〜。遊ぶのは程ほどにするんだぞ。そんで、またいつか遊ぼうな〜」
「狐だけに、もうコンと思うがな」
 去り行く狐らに気軽に手を振る輝に、妙に生真面目な口調で鋼斗が告げる。自信の言葉に感じ入る鋼斗とは対照的に、しばしその場が凍りついたのは‥‥まぁ、気にするまい。
「いやはや。あいつらよりも人の方がある意味恐ろしいでござるよ〜」
 遠ざかる狐たちと冒険者を見比べつつ、歳三は乾いた笑いを向ける。自分だってハリセンでどつきまわしていたという事実は、ひとまず横に置いたらしい。