虎の矜持 狼の面目
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:4〜8lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月05日〜11月10日
リプレイ公開日:2005年11月13日
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●オープニング
新撰組一番隊組長・沖田総司が黄泉大神をしとめて早一ヶ月が経過しようとしている。
都を騒がせた黄泉人。その大将を仕留めたとあって新撰組の評価は格段に上がり、対し長く黄泉人討伐に遠征していた平織派の兵たちの評価はその陰に隠れてしまっている。
それだけでもおもしろくないのに、一部の新撰組がその事に慢心し増長した気配を見せている。
それによって前々からけして仲がいいとは言い難かった志士、特に平織派の者と新撰組はさらに険悪になってきている。
「今回、若い隊士たちが捕り物をする事になった」
冒険者ギルドに入ってきたのは黒虎部隊の隊服を来た志士だった。歳や雰囲気からしてどうやら結構上役のようではある。‥‥もっとも隊長の鈴鹿紅葉からしてアレなので、外見だけでは即断できないが、どうやら今回ばかりは係員の勘も当たったようだ。
黒虎部隊の捕り物となると、それは大抵人で無い。そもが妖怪に対抗すべく作られた組織。そんな物があってなお、ギルドにも妖怪退治の依頼が持ち込まれる辺り、京都の闇は深く暗い訳なのだが。
「捕り物といってもたやすい物だ。都近郊で騒いでいた鬼どもをぶち倒す。その程度。だが、その鬼ども、何故か偽志士たちとつるんでいてな」
苦虫を潰したような隊士に、言いたい事を察してギルドの係員も渋面を作った。
最初は単純な鬼退治とたやすく見ていた。なのだが、よくよく調べればその鬼が暴れる界隈、志士と語る輩が護衛と称してその一帯を通る旅人から金品を巻き上げている。鬼どもは彼らが護衛する者には一切手をかけないし、姿を見せてもすぐに逃げていってしまう。志士の威光と触れ回り、実際安全を買えるなら暴利な値段でも払う者は払う。けれどその実態はといえば、なんて事は無い、志士と鬼がグルになって旅人を騙しているだけ。無論、そんな事をする志士がいようはずも無い。
偽志士討伐は新撰組の仕事。嫌な予感で探りを入れてみれば、案の定、四番隊が動いている事が分かった。四番隊組長・平山五郎は新撰組内でも芹沢派に組する。志士と小競り合いを起こすのは主にこの一派であり、当然平山とは話が通じそうにもない。
「鬼の一匹や二匹。普段ならこっちが手を引いてもいいぐらいなんだが、さすがに今はそうも言ってられない。若い隊士にしてみれば、新撰組ごときに後ろは見せられぬ。鬼は勿論志士の威厳をないがしろにするその偽志士共々我らが始末すべきと全く引く気配は無い。俺が今止めたところで、奴らだけで決行しようとするだろうな」
隊士が腕を組み低く唸る。
「かといって、新撰組の方に手を引いてくれと言ってもそれは無理だろう。最近の新撰組は隊の名声を高め大きくしようと躍起になっている。小物とはいえ人に迷惑をかける鬼を退治したとすればよい話となるだろうからな」
隊士、鼻で笑い飛ばす。どうやら彼もまた新撰組を快くは思って無いらしい。
「それでどうして欲しいんだ?」
尋ねる係員に、隊士は大きく頷き答える。
「ひとまずは、鬼狩りに向かう若い隊士たちに同行して欲しい。が、鬼退治の加勢をしろという話では無い。それぐらいの実力は十二分にあるからな。ただ、偽志士と一緒となると、単純に人数負けして手に余る可能性もある。なので、邪魔にならぬようそっちの相手をお願いしたい。その際‥‥」
言いにくそうに言葉を切り、軽く咳き込んだ後、依頼人は目線を逸らす。
「その際、偽志士相手に新撰組が現れた場合は、そちらで対処を頼みたい。また、鉢合わせして部隊と向こうとが険悪になったとしても、第三者が仲裁に入ればもしかすると事なきを得るかもしれない。いや、そうでなくてはならん!!」
力強く言い切る隊士。対して、係員は冷めた目線でその顔を凝視する。
「つまり‥‥厄介事はこっちに押し付けようって訳だな」
「ぶっちゃけ言えばその通りだ!」
下手な隠しをしても無駄と悟ったか、隊士、拳握って断言する。
呆れ半分に係員は嘆息付きながらも、係員は冒険者募集の貼紙作りにかかった。
●リプレイ本文
黄泉人の恐怖が終われば、人斬りの横行。鉄の御所に住まう鬼たちは依然都の脅威になりえるしと、心安らかとは程遠い京の都。
そんな乱れた世を正すべく、京には幾つもの組織が存在する。例えば冒険者ギルドもその一つではあるのだが、今回問題となってるのはそれらの中でも特に名を馳せる黒虎部隊と新撰組の二つである。
「京の民にしてみれば、どっちもどっちよね」
平織方の志士と源徳方の浪士組とあれば、衝突の土台は堅固に作られている。そして、その通りに今や犬猿の仲とも言える組織同士なのである。
朱蘭華(ea8806)がぼやくのも無理は無い。庶民の目で見れば確かにその通り。
「互いの存在で、心技体を高めあえれば喜ばしい所なのですが。面子ばかりが先に立っているようでは遺憾としか言いようがありませんね」
緋神一閥(ea9850)も苦笑するばかり。
努力に対して正当な評価を得たいというのは悪い事ではない。だが、似たような事をやっているのに、片一方ばかりが評価され持て囃されるようでは、面白くは無いだろう。特に組織となれば、無償奉仕こそ喜びとするような聖人君子ばかりではない。
「僕は気にしたことはないけど、名声って大事なんだね」
時羅亮(ea4870)が困ったように告げる。
必要でない時は必要ではないが‥‥やはりそれを必要とする場合もあるのである。
鬼が出るという界隈。やはりその噂が祟ったか、道を行く人影は猛省鬼姫(ea1765)ぐらいである。
どうしたものかと彷徨い歩く内に、四人の一応身なりの立派な若者たちから声をかけられた。
「もしかして、志士さま方でありますか?」
「おう、そうよ。姉ちゃんは一人か? ここは鬼が出るっていうからな。一人旅は危ないぜ。なんなら俺たちが護衛をしてやろうか。‥‥もっとも、こっちも命張るんだ。もらう物貰えなきゃ割があわねぇがな」
鬼姫が声をかけると、相手は平気で頷き商売を持ちかけてきた。粗野な態度からして、聞いた偽志士に間違いなく。
「お願いします。お金は家にありますが‥‥取りに行くにはここを通らねばなりません。無事につけたら代金は必ずお支払いいたします」
「ふーーん」
楚々として訴える鬼姫を、頭から爪先から嘗めるように見た後、不躾に市女傘に手をかけて顔まで覗き見てくる。思わず拳を握った鬼姫だが、今は依頼中だと我慢する。
「結構筋張ってるし背もあるけど、まぁいいだろう。金が揃わない時は別の物でいただくとするか」
「あ、りがとう、ございます」
無理やりに笑顔を作り、別の行動取りたがっている身体を力任せにお辞儀の方向へともっていく鬼姫。
(「馬鹿野郎! こちとら鍛えてんだから普通の女よか丸みねぇのは当然だろ!! 金払わんかったらどうするってんだ! 助平な事考えたか、どっかそういう所に売り飛ばす気だってんなら容赦しねぇぞ、うらぁ!!」)
帯にはナックルが仕込んである。相手は四人いるが、そんなに強そうでも無い。不意をつけば自分一人でも案外どうにかできるかもしれない。
「けれど‥‥、こちらは家宝の品で大切な仏像ですから。鬼たちからの護衛でも大切に扱ってくださいな」
しかし、今はそれを胸の内にとどめて偽志士たちに対応する。
「任せておけ! 俺たちがいれば、鬼など屁でも無い!!」
鬼姫の演技はぎくしゃくとしたものだが、それをどう受け取ったのか。誇らしげに笑うと偽志士たちは高らかに宣言。その野卑な顔に一発お見舞いしてやりたく思いながらも、鬼姫は引きつった笑顔で承諾した。
拠点の廃村はといえば、当然ながら実に閑散としたものだった。
人っ子一人どころか、鬼の姿もまた見当たらない。
「先程、誰かがいたようでござるが、今は人型が呼吸する感じは無いでござるな。鬼ではなさそうでござったが‥‥」
困惑顔で藤原雷太(ea0366)が考え込む。
ブレスセンサーで村の様子を探ってみたが、今は応答が無い。初めに合った気配は姿を確認する前に遠ざかったようで、確認できなかったのが悔やまれる。
一応、見咎められてもいいように商人の格好で非武装の姿。それで仕掛けてこなかった事からして偽志士でもなさげではあったが‥‥。
「村を一通り回ってみたけど、怪しい姿は無いわ。偽志士たちは護衛詐欺に出かけたようだし、鬼たちもどこかに出かけたんじゃ」
蘭華も頷いて応じた時、ふと雷太が呼吸を感知して言葉を制す。慌てて二人で隠れて様子を覗っていると、間も無く山鬼たちが現れた。
「どうやら出かけていたようですね」
続けて声をかけてきたのは、通りを覗っていた一閥。鬼の登場を知り、一応その動向を追いかけ確認に来たらしい。
「新撰組の気配はなし。やるなら今の内でござるな」
雷太の言葉に、皆が頷く。
「黒虎部隊の方に戻ってこの事を伝えてくるわ」
「ではそれまで通りの方を見張っておきましょう。そっちは引き続き他の奴が入り込まないか、探って下さい」
告げるが早いか。蘭華が村から抜け出し黒虎部隊が待つ方へと走り去る。一閥も来た道を少しだけ戻り、通る者が居ないかの警戒に当たる。
「さてさて、このまま無用な衝突は避けられればよいでござるが‥‥」
黒虎部隊が来るまで、まだ少しはかかろう。その間に厄介事が出ないか、心配になる雷太だった。
「あれ、こっちだったかしら? あっちの気もするし‥‥」
街道を偽志士たちを護衛に歩きながら、鬼姫はゆっくりと歩を進める。元々、偽志士を引き剥がす役目。なるべく彼らが拠点に戻るのが遅くなるよう、ありもしない方向へと誘導していく。
「おい、姉ちゃん。もしかして俺らの事からかってるんじゃないか?」
とはいえ。うろうろとうろつく鬼姫の案内に偽志士たちもいい加減疲れてきているようだ。最初こそは愛想よく応対していたが、終いには粗野な言葉遣いのまま、態度も荒くなってきている。
「いえいえ、ちょっと妙な場所に家にあるものですから。あ、こっちですわ」
わざとらしく笑って鬼姫が進もうとするが、偽志士たちはその歩みを止めた。
「待ちな。俺たちはこの界隈にゃちょっと詳しいんだ。そっちに家の類はねぇ‥‥。本当に勘違いしているのか、それとも何か別の目的でもありやがるのか?」
偽志士たちが不機嫌そうに鬼姫を取り囲む。目線に殺気がこもり始めているのを感じ、鬼姫は帯に手をやったが‥‥。
「ぐはっ!!」
ざっと茂みが揺れると、次の瞬間傍にいた偽志士が血反吐を吐いて倒れた。
「な、何ぃ!!」
斬った相手は浅黄の段だら羽織を纏っている。背中の誠の一文字が何も語らずとも相手の素性を明らかにする。
仲間の死に、突然の新撰組。他の三人が状況を理解するまでの一瞬の空白。次々と隊士たちが姿を現すと、あっという間に残りも斬り伏せてしまった。
さしたる時間も掛けずに偽志士たちはその息の根を止められただ無残な躯を晒すのみ。手早い作業にさすがの鬼姫も息を飲んだ。
「助かりました。この人たちに酷い目に合わされ‥‥あたたたたたたた!!!!」
淡々と血糊を拭いている中、一人の隊士が鬼姫に歩み寄るやいきなりその腕を捻り上げる。
左目に特徴的な火傷跡。四番隊組長・平山五郎その人だった。
「大人しく奴らに従うような娘には見えんな。拠点の方にも何やら見知らぬ顔がうろついていたらしい。‥‥言え、何が目的だ」
眼光鋭く。容赦なく捻り上げた腕に力を加えると、平山は静かにそう問いただした。
「鬼だけか‥‥」
蘭華たちの報告を聞き、黒虎部隊の志士たちは微妙に顔を歪めた。
鬼が一番の目的なのだが、ついでに偽志士も始末したい。偽志士は本来任務外を思えば、鬼退治のどさくさで殺ってしまいたい腹なのだろう。不満なのが窺い知れる。
「まぁまぁ、隊員の皆はん。目の前の事もよう片さんのに先の事言うんは鬼も笑うで」
「いや、しかしだなぁ」
将門司(eb3393)が宥めに入る。あえて礼儀を横に砕けた口調で話しかけるが、黒虎たちはその事自体は咎めはしない。が、言われた事にはまだ納得いかないように、顔を顰めている。
「まず山鬼と偽志士の分断。これは仲間の方が上手くやってくれて現在そうなってます。その上で山鬼から退治し、確実に黒虎部隊の名声を得る事がまずは必要なんじゃないかな?」
和やかに亮が諭すと、司も大きく感じ入ったように頷く。
「鬼を退治してそれから偽志士退治すれば、新撰組の面目が潰れるやん。黒虎隊の強さを世に知らしめる為にも、早よ鬼を始末せなあかんわ」
そうまで言われてようやく若い黒虎たちも了承する。不承不承なのは変化無しだが。
それでも行動するとなると早いのは流石というべきか。準備を済ませるとただちに廃村に向かう。
「ご苦労様です。今の所、この通りを通った人影はありません」
「山鬼二匹。今はあそこの廃屋にいるでござる。寝てはないようでござるがさっきからずっと動かずにいるでござるし、すっかりくつろいでるようでござるな」
一閥と雷太が状況を説明する。一つ頷くと、隊士たちは毅然と鬼のいる棲家を睨みつける。
「必要なら、鬼たちと戦いやすい場所に誘導しますが?」
廃村だけあって人の気配は無いし、ずっと傍の街道を見ていても誰も近付く気配は無い。馬が退屈して鳴く声が響かないかの方が心配になるほど。
だが、一閥の申し出に彼らは首を横に振る。
「ありがとう。だが、ここで構わない。‥‥それと山鬼退治は我々の仕事だ。きみたちは手を出さないようにしてくれ」
「構へんよ。俺は頼まれて来てるだけやし。荷物は持つから頑張ってや」
司が軽く告げると、ほんの少し黒虎たちは笑い、そして一気に廃屋へと襲撃を掛けた。
崩れかけた戸を蹴破ると、中で酒を飲んでいた鬼たちを刃にかける。
どうやら戦闘になれた山鬼たちのようで、虚を衝かれたもののすぐに体勢を建て直し、槍を振り回して乱入者たちを刻みにかかる。が、山鬼二体に黒虎部隊は四名と数の上では有利。加えて連携も取れ、精霊魔法も駆使して戦う様は全く危なげが無い。
「流石は黒虎の実力って所だね。この分だと手助けどころか、こちらの防御する必要も無いみたいだ」
「こっちはそうでござるが‥‥どうも無粋な客たちが来た様でござるよ」
手にした十手を軽く振り回しながら、亮は安堵して戦闘を見遣る。対して、雷太は顔を顰めてあらぬ方向に目を向けている。
そう話している間にも、山鬼たちは膝をつき、血に転がり、そして首を斬り飛ばされる。
勿論戦った方も無事ではすまない。だが命危ぶむ程の傷は無いし、自身らで手当てをしている。
戦いの後の休息。だが、それもすぐに終わった。
雷太が険しい目で見つめる先から、新撰組の一派が姿を現す。その中には不機嫌を露わにしている鬼姫の姿もあった。
「妙な商人風の若者が現れたと知らせは受けていたが。何事かと思えばこういう事か」
一歩進み出ると、一同を見回し平山が告げる。厳かな口調だが不愉快な心情が微妙に混じっていた。
「妙な商人でござるか」
「ただの商人が魔法など使えるはずはあるまい?」
あっさりと言い返され、雷太は頭を掻く。そちらには一時目を向けただけですぐに平山は黒虎部隊の方へと向き直った。
「偽志士たちは我らが狩った。ついでに山鬼風情、お手を煩わせるまでもなく我らで狩り取ろうと思っていたが。存外黒虎部隊とやらは暇な御仁が多いらしい」
「何を!!」
見下して告げる平山に、聞き捨てならぬと黒虎たちが刀に手をかける。
「はい、ちょっと待った」
睨み合う両者の間に冒険者たちが割って入る。
「悪いけど、今のは言葉が過ぎるんじゃないかしら。鬼退治は黒虎部隊の役目、偽志士狩りはそちらの役目。単にその役目を果たしただけにすぎないでしょうに」
蘭華が真っ向から告げると、気色ばんで平山が彼女を見据える。
「ほんまにええ加減にせいや。庶民の英雄である黒虎部隊、新撰組が下らん事で揉める必要あらへんやろ。庶民をがっかりさせるんがお前らの仕事か? 違うやろ? 格好ええ姿を見せなあかんのとちゃうんか!?」
嘆くように司が告げる。黒虎部隊の方はそれではっとしたようにうな垂れるが、
「別に庶民の為に諸悪を掃っている訳ではない。神皇家の御世を守らんが為、結果的にそう見えるやもしれんがな」
平山の言葉は素っ気無い。
「それにしたって互いに良い大人同士なんだから。取り合いで揉めるなんて情け無いね。これでは世間から低く評価されても仕方ないよ」
呆れて亮が告げると、さすがに平山も何も言わない。
「今日はそちらの顔をたててやる。互いに互いの仕事は為し得たのだ。異存はあるまい」
言うが早いか踵を返して新撰組たちは去っていく。一瞥くれてから立ち去る態度は明らかに不満があるけど飲んでやったと言わんばかりに。
黒虎部隊の方も不服げに睨み返してはいる。が、さすがに去る者を追っかけてまでどうこうしようとする真似は無い。
危機は回避できたし、依頼は成功といえるだろう。
が、両者の中は依然険悪。これから先の治安が思いやられる。
「黒虎部隊に新撰組‥‥。ギルドの方に御迷惑かからないといいのだけれど‥‥」
うんざりしながら、蘭華は天を仰ぐ。
澄み切った空だけが今の和みだった。