峠の猿退治

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月08日〜08月13日

リプレイ公開日:2004年08月16日

●オープニング

 その峠は村にとっては重要な峠だった。
 というのも、四方を山に囲まれた村では、その道だけが外部と行き来する為の唯一の交通路であり、その際、峠は必ず通過せねばならない場所だったのだ。 
「なのに。その峠に白猿の一団が住み着いてしまったのです」
 疲れきった表情で、山を越えてきたという青年は冒険者たちに話しかける。
「白猿たちは峠を通りかかる者へ見境いなく襲いかかります。もっとも、その道を使うのは僕らの村に関わる人しかいませんからね。事情を知ってからは、その道を使う者もいなくなり、直接の被害はなくなりました」
 が、それはあくまで白猿から襲われないというだけ。それ以外の被害は十分被っていた。
「というのも。道を使えなければ、外との流通に山を越えねばなりません。重い荷を背負って整備されてない道を行く。山の中には他の獰猛な獣と遭遇しやすく、道を行くよりもはるかに危険なんです」
 実際その青年も、冒険者ギルドに助けを求める為に山を越え、その際熊に追われたりもしたと言う。
「それに、年寄りなどは体力的に山道を行く事が出来ませんし。若い者が山を越えている間、その田畑は誰かに任せねばならなくなります。日数もただ道を行くよりも遥かに時間を喰ってしまいますし‥‥」
 その負担も大きく、長く続けば村全体が疲弊するのは目に見えている。
「なので。どうか峠の白猿たちを退治してはもらえないでしょうか?」
 青年はそう言って深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 ea0489 伊達 正和(35歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2233 不破 恭華(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2789 レナン・ハルヴァード(31歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea3200 アキラ・ミカガミ(34歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea3650 住吉 香利(40歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4638 鞘薙 叶(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「さて、馬はここまで。いい子で待ってるんだぜ」
 伊達正和(ea0489)がタテガミを撫でると、馬はぶるるっと身を震わせた。
 体力はなるべく温存しておきたいので、馬があるなら乗る方が便利。とはいえ、戦闘となれば怖がりな馬は邪魔になるだけ。幸い馬を伴う者が多かった事もあり、適当な所まで馬で近付くと――もっていない者は誰かと相乗りで――、後は馬を繋げて冒険者達は徒歩で村へ続く街道に赴いた。
 八人で隊列を組み、目指すは峠。白猿たちが出るせいで、村の流通がほぼ止まってしまっている。それをどうにかするのが今回の依頼である。
「つまり、ここを塞がれるとゆっくり村が死滅する訳なのね」
 荒神紗之(ea4660)は何とも言えぬ顔で告げる。勿論、村の者がギルドに助けを求められたように、完全に封鎖されている訳でも無い。道を使わずとも山を越えさえすれば物資の補給や作物を他に売り出したりは出来よう。が、手間がかかる分、金もかかる。話に聞く限り裕福とは言えない村だ。困窮した生活がどういう結果を生み出すかは想像できる気がした。
「サルっていつも何かしら事件を起こしてくれるよね」
「所詮は動物。人の都合とかは関係ないからな」
 槍を片手にため息つくアキラ・ミカガミ(ea3200)に、レナン・ハルヴァード(ea2789)が苦笑して頷く。
「道幅がけっこう狭いんだな。先に村人からいろいろ話を聞いたのはよかったな。道を外れて山に入れば広さはそれなりだけど木が邪魔になるし」
 一応整備はされているものの。大きくせり出している木々に眉根を顰めつつ、住吉香利(ea3650)が四方に目を向ける。
「そうだな。おまけに猿は木の上の移動も上手い。もっとも、人間大の猿だと枝ぶりが問題になるだろうがな。にしても、挟み撃ちされるか、真ん中に飛び込まれるか。混乱せずに対処できるかだな」
 不破恭華(ea2233)もまた懸念を述べると、低く唸る。むろん、油断をするつもりなどない。けれど、気を張り通すのも厄介な話である。 
 と、幾度目かのブレスセンサーを唱えた紗之が軽く息を詰めた。緊張した面持ちで周囲に目を走らせ、告げる。
「この大きさ、数。やっぱり来てるみたいだね。皆、警戒しなよ。周囲に散って囲んで‥‥」
 言葉の途中で、紗之が顔を顰めた。便利な魔法も紗之の力ではまだ効果時間が短い。急いで詠唱をしようとしたが、それより早く、頭上の梢が大きく揺れた。
「ギャギャギャ!!」
 奇声と共に白い影が降ってきた。振り仰げば一体の白猿が隊列の中央目掛けて飛び込んでくる。振り下ろされた棍棒が香利を捕えるも、その寸前で香利は身軽に回避する。
「来たな。くらえって!!」
 白猿を見て取り、正和がすかさずソニックブームを放つ。ぱっと白猿に傷が入ると、後退した香利と入れ替わり、その横手からアキラが槍を覆っていた布を外して飛び出し、白猿へと突きたてる。
 移動中は戦闘が始まっても互いの邪魔にならぬよう、十分に間隔を開けていた。さらに、香利の案で素早く隊列を入れ替わる練習もしてあり、その成果は十分に発揮されたのだが。
「きゃあ!」
 今度は隊の前方と後方に二体降ってくる。躱した先にさらなる追撃。さすがに今度は躱しきれず、直撃は避けられたが香利の身を棍棒がかすめた。
「ちぃ!!」
 最初の白猿に応じようとした正和も、踏みとどまると新手の白猿に切りかかる。そも刀を抜き身で手にしていた為、対処は早い。振り回される棍棒は洗練された動きではないが、素早い動きで何度も打ち付けてくる。
「後ろからとかは考えましたけど。まずはど真ん中に飛び込んできて、その上で時間差攻撃。サルにしてはいい度胸してますよね」
 残る一体、同じように棍棒を振り回す白猿と切り結びながら、山本建一(ea3891)はどこか感心したように告げる。 
「だが、最初の不意打ちさえ免れれば、数ではこっちが有利。乱戦に持ち込んで、叩きのめしてやる!!」
 組み合う建一と白猿。その隙をついてレナンが構えると、ロングソードを白猿へと振り下ろす。武器の重量も存分に乗せた一撃に白猿は咆哮を上げた。傷みからか、棍棒を辺りかまわず無茶苦茶に振り回す白猿。その乱雑でしかない動きを見定めると、建一は棍棒を弾き飛ばす。
「我が刀のさびになるがいい!!」
 空手になった白猿に、建一は止めとばかりに刀を付き立てようとしたが。
「危ない! 上よ!!」
 紗之が警告を出した。同時に、建一が殺気を感じて飛び退く。開いた空間に別の白猿が棍棒を打ち下ろして降ってきた。
 見た目はそれほど他の猿とは変わり無い。ただ、怒りのあまりか凶暴な猿面をさらに真っ赤にさせ、逆立った毛で身体は一回り大きく見えた。
 襲撃したものの、数で劣勢となっていた白猿たちが慌てて新手の白猿の後ろに逃げ込む。が、現われた白猿自身は逃げるどころか血気盛んに冒険者たちに威嚇している。どうやらそいつが親玉らしい。
「話では、峠に出る白猿は四体。これで出揃ったか」
 小休止、と軽く息をつき、恭華は改めて刀を構えなおす。皆も各々に武器を白猿たちに向けていた。
「グオオオオオオオォオオ!!!」
 異様な咆哮を上げて親玉が動いた。やる気満々な態度に感化されたか、他の白猿も牙を剥いてその後に続く。
「頭数を減らすのは基本ね。お猿たちは生きる為だろうけど、人様にも峠が必要。悪いけど、殲滅する気でいくよ」
 最も傷ついている白猿を見極めると、紗之はウインドスラッシュを詠唱し、放つ。掌から生み出された真空の刃は狙い違わず白猿一体に傷を入れ、怯んだそいつに向けてさらに香利が矢を二本番えると、早々と打ち込んでいく。
 矢衾になった白猿はまだ息はあるようだが、転倒しロクに動けずにもがき、自身の血溜りの中に深く沈みこむように赤く染まっていく。
 それを見て親玉が紗之たちに迫ろうとする。咄嗟に紗之が刀に手を伸ばすが、その前に正和が踏み込みソニックブームで親玉の足を切りつけた。
「ありがと。直接当たるにはちょっと不安があったのよね」
 ほっとしたような、その実残念なような。微妙な口ぶりで礼を述べる紗之。
「どうって事はねぇよ。それより援護は頼んだぜ!!」
 親玉は悲鳴を上げている。傷ついた足に体制を崩しながらも、切りかかる正和の二撃目を避けてぱっと手近な木にすがりついた。
 するすると木を登る白猿。逃げるのかと思いきや、枝で弾みをつけると冒険者達の真ん中に飛び込んできた。
「本当に、いらん猿知恵ばかり使ってくるな」
 苦々しく告げるアキラの頬を白猿の棍棒が掠める。と、同時にアキラは素早く相手に槍で切りかかっていた
「ギャアアア!」
 素早い反撃に、悲鳴を上げて飛びのく親玉。そこへさらに正和が火の点いた松明を投げつける。
 間近で燃える炎に親玉は驚いて、即座に払いのける。姿勢が崩れた隙に正和は間合いを詰めると、日本刀を打ちつけた。
 日本刀での峰討ち。決まると、親玉は声も無く、どうぅ、と倒れた。
「猿は火に弱いもの! 猿取り名人、伊達正和。ボス猿召し捕ったり〜」
「猿じゃなくても、火を投げられれば大概驚くと思いますけど‥‥」
 勝どきを上げる正和に苦笑しながら、建一は草木に燃え移ったたいまつの炎をウォーターボムで消す。
 真似して冒険者に襲い掛かっていた子分らは、親玉が倒れたのを知り、身を竦ませる。
「下手に逃がすと厄介だ。手負いだと危険だしな」
「後顧の憂いになるのはまずい。‥‥徹底的にやるべきか」
 明らかに士気を消失し、怯んで及び腰になった相手。いささか罪悪感を感じながらも、恭華とレナンが子分らに切りかかる。すでに先の戦闘で相手は十分傷ついている。その上で覇気も乏しいとなれば組し易い。が、臆したその分躍起に逃げようとする白猿を阻むのも結構面倒だった。多少の手間はかかったが、それでも冒険者たちは白猿たちを退治し終える。
「さて、この親玉はどうする?」
 肩で息をしつつ、矢を引き抜き回収していた香利が倒れた白猿を指し示す。親玉は気絶しているだけでまだ息はある。
「そりゃ、もちろん生け捕ったんだから‥‥」 
 どうやらまだ使えそうなので回収したたいまつを片手に、正和が答えようとした時、
「離れてください!!」
 建一が叫ぶや否や、正和も気付いて親玉から間合いを開ける。同時、気を失っていた親玉が目を覚ますと即座に起き上がり、手近にいた正和へと爪を立てようとする。
 日本刀で正和がその一撃を受ける。二撃目が繰り出される前に香利が手裏剣を投げつけた。
 悲鳴を上げて仰け反った親玉に、レナンが大きく構えてロングソードを振り下ろす。構えた一撃は武器の重さを損なう事無く威力に変えて親玉を大きく切り裂く。深い傷からはどっと血が吹き出し、引き攣ったように親玉は身を震わせると、膝を付き、そのまま地面に倒れ込む。
「少々詰めが甘かったか。名人にはまだちょいと手が届いてないかなー?」
 正和はそう嘆息すると、倒れた親玉に向けて刀を振り下ろした。

「あんたらが酒を飲むかは分からないけどね。せめてもの手向けだよ」
 倒れた四体を葬ると、紗之はどぶろくを手向ける。
 その後、報告の為に冒険者達が村へ赴く。事の顛末を話し終えると、村人たちはほっと息をつき、深々と頭を下げた。
 報酬も受け取り、礼を述べる村人達に別れを告げる。
 憂いを取り払った峠を越えて、冒険者たちは江戸へと帰っていった。