【姫路内乱】 姫 帰城す
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 95 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:11月23日〜12月04日
リプレイ公開日:2005年12月01日
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●オープニング
「この度は長壁姫復活にご尽力いただき、真にありがとうございました」
「よせ。俺たちは所詮話を仲介するだけだ。礼を述べる相手は別だろ」
冒険者ギルドの奥。人払いを頼んで姫路から来た花野と名乗る女性は係員に頭を下げた。その頭をぶっきらぼうに上げさせる。
ギルドとしてはその他依頼と同様、依頼人の話を聞き入れ冒険者たちに斡旋しただけに過ぎない。実際に事を起して解決に導いたのは冒険者たち以外の何者でもなく。
それでも感謝の念を崩さず、花野は再びの丁重な礼を取った。
「だが、礼を述べる為に来たのでは無いだろう。そちらの方もいささか大変なようだしな」
係員が促すと、途端、険しい顔つきになり花野は頷く。
「お話したいのはその事。先日冒険者たちの活躍により長壁姫が解放され、家島に放たれた妖怪たちを見事に鎮める事が叶いました。これにより手勢をこちらに取られた小幡たちは一旦退くに至り、そして先日、海賊討伐の際に妖怪とつるんでいる事が知れ、纏めてこれらを打つという名目でさらに五十の兵を率いて我らをしとめんと動き出しました」
「妖怪を使い、それが覆るとさらに相手の責任に摩り替えて攻撃か。藩にとってはよほどやましい事があるようだな」
係員の呟きに、花野は一つ頷く。
「ギルドの方は‥‥我らの主君が姫路藩主・池多輝豊が娘、白妙さまである事はご存知でしょうか?」
「いや?」
いきなり告げられ、係員が驚く。一部の冒険者には当然の話ではあったが、姫たちが口外せぬ事を頼みとした為、それを守り表に出る事は無かった。
「二年前の藩主の死。それに続く一族郎党の不運は全て現藩主とされる黒松鉄山が仕組んだ事。姫さまは辛くもその悪意より逃れ、僅かな手勢と共に密かに家島諸島まで逃げ延びました。そこで鉄山を討つべく機を窺っておりましたが、夏の海賊討伐の際に仲間が捕らえられ、恐らくはそこから姫様の事が漏れたのでしょう」
忠臣の存在は勿論、姫の生存は鉄山にとっては死活問題である。その地位を失うばかりか、諸行が明るみに出れば命すら危うくなる。
「姫様の存在が公になっていない以上、鉄山はあくまでも秘密裏に亡き者にしようと焦ってきております。この度、海賊討伐に増員された藩士が鉄山の腹心たちで占めているのがその証。無論、城にはまだ百を越す藩士が詰めておりますが、多くは何も知らずただ鉄山によって捏造された情報を信じる者たち。よって、鉄山自身の手勢は極僅かなはず。
この機を逃さず、姫さまたちは城に戻り、かの一派を一掃する所存でございます」
大事を告げられ、思わず息を飲む係員。花野自身も緊張した面持ちで睨むように係員を見つめていたが、ふとその視線を落とす。
「しかし‥‥。島における攻勢も激しさを増し。予想以上の相手にいささか手をこまねいている状態であります」
妖怪の手を借りてもまだ事態は若干の劣勢。長引けば恐らくは打ち破られかねない恐れもある。それを避ける為に少数で城に登り、頭を抑える必要があった。
だが、そうであるが故に余分な手勢は裂けない。そして、仮にも城には多数の藩士が詰めている。幾ら鉄山自身の手勢は少ないとはいえ、そこに数名で入り込もうというのは不安が残った。長壁姫も鉄山の最期を見届けんと着いてきてはいるが、彼女に暴れられすぎては無用の人死が出るのも確か。
「よって加勢をお願いしたいのです」
すでに長壁姫と城に向かう数名は藩士たちの目を盗み、島を抜け出して本土で隠れていた白妙姫と合流している。後は機を見定めて鉄山と対峙するのみである。
「危険な事とは思いますが、是非皆様のお力添えを‥‥」
言って花野は丁重に頭を下げた。
※ ※
「姫路の内乱ねぇ。やな世の中だわ‥‥」
冒険者ギルドにて。一応関わった身としては気になるのか、姫路の話を聞きに来ていた陰陽師・小町が顔を顰める。
「ああ。内容が内容だから、貼り出すまではくれぐれも内密にはしといてくれよ」
「分かってるわよ。まぁ、あたしがどうこうする話でも無いしね」
貼り紙作成で筆を滑らす係員に、小町は軽く頭を縦に振る。
「なぁ。その城攻めだけど、例の黒子党の奴らも関わってるのか?」
それまでの話と貼り紙作成を黙ってみていたのは猫と呼ばれる異国の青年。
「あ、ああ。何でも海の方でも数名姿を見せているが。鉄山の警備としても何名かいる可能性はあるだろうって話だったな」
尋ねたのは異国の青年。人のように見えても立派に人間で無い。名前も無いのでただ猫と呼ばれる。
いい加減承知しているとはいえ、こうも堂々とギルドでくつろがれると何やら複雑な心地になる係員だ。
「なるほど‥‥海か城か。まずは手堅い方で行くのもいいかなぁ‥‥」
「何考えてんのよ?」
何やらぶつぶつと考え込んでいる猫に小町が怪訝そうに尋ねる。
「いや。これなんだと思う?」
「韋駄天草履よね。どうしたのよ、そんなもの」
「娘の傍若無人な我がままに耐えてくれてありがとう。粗暴な子だがいい所も無い訳で無いのでもう少し遊んでやってくれないかと、お前の親父さんから涙ながらに渡された。まぁ、子守の賃金みたいなもんか」
懐から出した草履をぶらりと見せると、それを俄かに履きだす猫。何をしているのか今一分からず、思わず見届ける小町と係員。
「‥‥と云う訳で。あの程度で腹の虫が治まるかってんだっ! 黒子野郎どものツラ、ぶっ叩いてやる!!」
言うが早いか、駆け出す猫。飛び出してきた人影にギルドの前で軽い悲鳴が上がるも、それもつかの間猫はあっという間に通りを駆けていく。
「ちょっとーっ! 親父さまの暴言もだけど、子守とは何よーーーっ!!」
「問題そこかな上に反応鈍いぞ」
遠さかる人影を確認して小町が叫ぶ。係員は軽く頭を振るって見送ると、もう一度ギルドに戻って貼り紙作成の続きにかかる。
依頼の同行者。白妙姫と妖怪・長壁姫、その供の家来衆数名。ついでに化け猫一匹かもしれない。
●リプレイ本文
播州姫路藩。黒松鉄山が不正で手に入れた藩主の地位で支配する地。
血に沈んだ縁者同胞に応えんと、その偽藩主に弓引くは前藩主の娘・白妙にその家来。姫路の城に住むと言われる謎の妖姫・長壁。
そして‥‥何故か猫が一匹。
猫といってもただの猫ではない。何故か日本を彷徨っている猫獣人であり、姫路藩の影で動いている謎の黒子たちに捕らえられていた経歴を持つ。
「お会いしたかったです〜〜♪ ご無事で何より〜♪」
目を潤ませ飛びつくティーレリア・ユビキダス(ea0213)を猫は軽く躱して、そこに新たに加わった冒険者一同を見つめ返す。
「何とつれない男じゃの。こんな愛らしい女子を袖にするとは」
「いや、単に面倒臭いだけだし」
「酷いですうう〜〜」
困ったように告げる猫。叫びを上げるティーレリアを長壁姫がおざなりに慰める。
「猫さん、突っ込まないでと前に言いましたのに‥‥。マタタビお渡ししようと思いましたけど、没収にします」
「酷っ! そこは少し憂慮すべき所だと思うぞ、俺は!!」
「って、私よりマタタビの方が大事なんですか〜〜?!」
小都葵(ea7055)が微笑んで意地悪すると、慌てて猫が弁解する。そして、ティーレリアが泣く。
「でも、猫の行動もちょっとだけ分かるかな? 難しい事は分かんないけど、黒子は拳固で殴りたいし」
頷いて聞いていた二条院無路渦(ea6844)だが、それから少し考え込み猫を向く。
「戦闘に入ったら纏めてふっとばすかもしれないからよろしく」
「あーー。分かってるよ、お前はそういう奴だよなあああ」
最初から謝っているのに猫の顔は険悪である。
「ともあれ、黒子も城内にいる可能性があるし、共に討ちたいなら猫殿も来られる方がいいだろう」
丙鞘継(ea2495)が告げると、猫が頷く。
「しかし、姫路に通いつめて幾星霜‥‥。よもや仇討ちの手助けをする事になるとは、な」
「確かに不安な噂が絶えない所だったけどね‥‥。これで姫路は変われるかな?」
感慨深げに告げる鞘継に、時羅亮(ea4870)が深く頷く。
その横で夜風に当てられたか、馬が静かに震える。鬣が動くさまを見ながら、亮はふと思い出す。
「その前に、馬を預けておかないとね。さて、どこに居てもらうか‥‥」
「それなら小銀太に頼んであるよ。ケータに連絡頼んだら、料金はサヤ持ちだってさ」
「何!!? うわ小金減ってる?!!」
あっさりした無路渦の一言に、鞘継が慌てて財布を確かめる。その様子がおかしかったか、白妙が軽く吹き出した。
「かかる諸経費など、事が成し終えたら立て替えます故、ご安心を」
「だが、事が無事に終わるかどうかはこれからの働き次第。すまぬが‥‥よろしく頼む」
武蔵と名乗った偉丈夫が仰々しく頭を下げる。それを見て、冒険者たちは引き締まった心地で頷く。
「まどろっこしいのぉ。わらわならば敵も味方も吹っ飛ばせように手を出すなと‥‥」
「無駄な殺生は控えて欲しい。そも、味方はふっ飛ばさないでくれないか」
不満げに呟く長壁に、鞘継が頭を抱える。
「うさの事、頼みたかったけど、頼まん方がええんかな」
ニキ・ラージャンヌ(ea1956)が不安になりながらも、一応話はしてみるが、
「ほぉ、化け兎か‥‥。鍋にすると美味いものではあるな」
嬉しそうに舌なめずりをしている。連れてきたら喜んで食しそうである。冗談かもしれないが‥‥あまりそうとも見えず。
「それじゃ。オサベ、若いツバメ好き? 猫を手玉にとか‥‥」
「うぉら! 何考えてるんだ、お前は」
無路渦の問いには、聞き捨てならじと猫が頭を拳骨でぐりぐりする。
「それにしても、本当に長壁さまは何者ですかな? 月魔法を使われまするがえらく元気のよろしい事で」
「それは秘密じゃ!」
首を傾げるマリス・エストレリータ(ea7246)の問いに、長壁は高らかに笑って答えた。
姫路の中枢に位置する白鷺城。囲む堀の一角に問題の抜け道は存在していた。変事あらばそこから水路で逃げられる算段である。
「道の先は居館のすぐ裏手に出ます。ただ、城の中とはいえ警護の者はおりましょうが‥‥」
悩む白妙。
城の配置などは、武蔵などは防衛上あまり教えたくないという意志が垣間見えたが、そのような事態でないと諭す白妙が諭す。
通路内は変わった事も無く。
長い長い、単調な通路を潜り抜けると、やがては外に出る壁へと行き当たった。
「取り立てて音は無いようですな。情報が聞けないのはコマリモノですな」
鞘継の肩に乗っかってうーむと唸りを上げるマリス。
「すぐ傍には人の気配はおへん。ほな、この壁開けさせてもらいます」
デティクトライフフォースで気配を探った後に、ニキは告げられた壁を押す。
壁は上手く石垣の一部のように見せかけてはいたが、その実隠し扉になっている。僅か開いた隙間からニキがミミクリーで蛇になって周囲の様子を覗うと共に、鞘継もまたインフラビジョンで様子を見る。
静まり返る夜の城。踏み出せばすぐ目の前に館が見えた。幾重もの守りに囲まれた藩主の居館。その中に、狙う黒松がいるはず。
積年の恨みが思い出されたか。瞬きもせずに白妙はその屋敷を睨み付ける。
だが、
「危ない!!」
はっと面を上げると葵が白妙を押し倒す。一拍置いて、白妙が居た場所に針が刺さっていた。
「いやがったか、黒子!」
針の飛んだ先、目を向けた猫がどこか楽しげに告げる。土塀の影で黒装束の男が動くや、瞬時にして眠りを覚ます呼子が吹き鳴らされた。
たちまちに騒然となる周囲。武器を手に迫ってくる一団があったが、まずは先手とティーレリアがアイスブリザードを吹きかける。
「少し頭を冷やして、まずはこちらの話を聞いて下さい!」
ティーレリアが促すと、武蔵が大喝して藩士に告げる。
「皆の者、静まれ!! 我らが藩主・池多輝豊さまがご息女、白妙さまの御帰還である!」
名乗られて、傍らに居る女性が何者かに気付いたのだろう。場はさらに別種の騒然とした空気に包まれる。
「馬鹿な! 二年前に死亡したはず!?」
「よもや幽霊か? いや、しかし‥‥」
「先の変事。あれは黒松どもの謀略なり! 殿を始め多くの者が陰謀に臥したが、幸いかな! ここに姫はおられる!」
ざわめきは広がっていく。誰もがどうしたらいいか分からず、動き出せずにいた。
「何事か、騒々しい!」
そこへさらに割って入る声。寝衣装ながらも贅を凝らした着物を纏い、刀を手にして出てきた壮年の男が一人。
「鉄山‥‥」
血を吐くような恨みの声で白妙がその名を告げる。
そして、その鉄山の後ろにさらに控える者がいた。
「白妙姫とはまた妙な事を。池多の血筋はすでに絶えたと聞き及ぶ。狐狸の類か、はたまた悪党どもの戯言か」
「紫暮か」
鞘継が呼ぶと、聞えたのか紫暮はくつくつと笑う。
「いずれにせよ、もはやこの世におらぬ者を騙った所で何となろう。――何をしている! この池多さますら愚弄する狼藉者たちを早く始末せぬか」
紫暮が告げるや、事態を見ていた藩士たちの中から何人かが飛び出てくる。いずれも白妙たちに向ける刃に迷いは無い。鉄山たちを守る鉄の意志を見せて立ち塞がると、一斉に襲い掛かってきた。
「止せ! と言っても止めないか」
素早く鞘継が詠唱する。噴き上がるマグナブロー。灼熱の大地が迫り来る藩士たちを吹き飛ばす。
亮が十手を両手に鉄山へと迫る。だが、その前にはさすがに戸惑いながらも藩士たちが阻みにくる。
「何をしている! その者たちは敵にはあらず!!」
「しかし!?」
武蔵が口出すも、状況がなし崩しで動きどう振舞うべきかどうにも判断しかねている一般藩士たち。
「ええい、構わん! やってしまえ!!」
「‥‥いいのか?」
困惑で混乱する中、業を煮やしたか、武蔵が亮にそう告げる。もっとも言われるまでもなく、亮は十手を振るう。鉄山側の藩士たちには待ったなんて聞くはずも無い。
振るわれてくる刀を十手で受ける。が、受けて身動きとれぬ隙をつき、別の藩士が胴を薙ぎ払ってきた。
「ぐ!」
とっさに体でその刃を受ける。急所を庇いはしたが、旅装束の下、熱い血が流れ出る。
「本当に、余裕なんて無いね」
リカバーポーションを飲み干して治療に当てる。オーラを込めている藩士に、空になった瓶を投げつけると、その傍から別の誰かが切りかかってくる。
「本気で行くよ!!」
その刃を受け止めると、開いている十手を相手の喉元へとつきたてた。
「んー。しぶといな」
近寄らせまいと、鞭を振るう無路渦。撓る鞭は時に絡まり相手の行動を縛るが、同時にそれは自分も動けなくなる。その気を逃さずに迫ってくる藩士に、無路渦を鞘継が庇って太刀を抜き払う。
「全くだ。用があるのは黒松と残り少々。他は黙ってろ!!」
構える刃は炎を纏う。威力を増した太刀で斬りつけても、相手の方にも効果は薄い。どうやらオーラで防御を高めてるようだ。
キリリと弓を絞る音がすると、空を切って矢が飛んだ。戦場をかける矢は白妙を射んとするもその手前の何かを打ち壊す。
「やっぱり、私のホーリーフィールドでは威力不足言うた所やろかね」
ニキが唸る。まだ軽い攻撃は防げても全力の攻撃となると心許なく。続く二矢、三矢を慌てて白妙を物陰へと避難させると、それでもないよりはマシなのでニキは結界を形成する。
なおも白妙を執拗に狙う射手だが、その脇で不意に物音がする。驚いてそちらに振り返り身構えると、そこを無路渦が鞭で絡め、ついでにディストロイで吹き飛ばす。
「気を散らす事ぐらいはできますぞ」
「ってか、黒子どもどこ行った!」
ひょこりと姿を現すマリスに猫が告げる。
その黒子はといえばやはり姿を見せている。闇の衣装を夜に溶かし、後方から忍術で打って出ていた。
「気をつけて下さい。猫さんだって怪我されてますし‥‥」
「だああ、鬱陶しい!!」
白妙を狙って刃を向ける黒子を猫が殴りつける。が、その刹那に振るわれた刀を躱しきれずに胸元に赤い一文字を描かれる。
通常武器では怪我などしない身でも、魔法なら論外ではあるし、また黒子始め魔力を帯びた武器を携帯するものもいる。猫とて無傷ではすまない。
見ていて心配になる葵ではあるが、猫は自分勝手に回復してはいる以上、他の面子の治癒だけを専念する。
「おのれ、何をしている! その不逞の輩を捕らえよ!! 報奨に糸目はつけん!」
「控えなさい! その者たちこそ我が父たちの仇にして、姫路に仇為す不忠の輩。彼らに従うのは愚の行いぞ!」
鉄山、白妙、共に声を張り上げる。
互いの主張が真っ向から対立し、事情を知らぬ者たちはただおろおろと場の行く末を見つめる。白妙に手出しはしないものの、黒松に手出しするのもどうかで、畢竟、動く邪魔者たちになっていた。
従う者たちは拮抗状態。葵がリカバーで傷を治しにかかる分、白妙側の負担は少ないが、立っているだけの藩士たちも一応消極的に邪魔に入るのでなかなか近寄れずにいる。
オーラに魔法、忍術が交錯する中。マリスはふと気付いてあたりを見渡す。
「そういえば、黒松はどこに行ったのでしょう?」
マリスが告げるや、ムーンアローを放つ。矢は乱戦にあっても間違いなく、館の奥に隠れようとしていた相手に向かって飛ぶ。が、命中する前に、一瞬紫暮の身が銀に輝くと鉄山の手前で月の矢が阻まれた。
「術師でしたか」
「まぐれでもわらわを押さえた輩ぞ。あれぐらい出来んでどうする」
「いや、それを今言われましても困りますが」
何故か胸を張って応える長壁に、マリスは頭を抱える。
そのマリスの腰にしゅるりと長い物が巻かれる。黒子忍者が召喚したのだろう。大ガマがそこにいた。
「げっ!!」
顔を引きつらせるマリスだが、飲み込まれる前に長壁がその舌を掴む。その手に鋭い爪が生え揃うや、舌を引き抜きその面を一閃。痛みがあるのかは知らないが、大蛙は慌てて長壁から離れる。
「有象無象が! 下らぬ手出しなどするではない!!」
睨み付けるや、その身が銀光を帯びる。と、同時にガマが吹き飛び、ついでに周囲にいた何人かも吹き飛ぶ。
「長壁さま、見境無く吹き飛ばすのはやめて下さい! どうしようもないなら、姫様にも凍ってもらいますよ!」
「ほっほっほ。やれるならやるがよい。おめおめとやられはせぬぞ」
「いや、だから、そういう話でも無いんですけど〜」
頭を抱えながらもティーレリアは、白妙配下と交戦していた黒子に忍び寄り、アイスコフィンを唱える。確実に成功させるには射程が短く、射程を取れば成功が少々不安になる。抵抗されても無駄なので、戦闘にあっては使いどころが若干苦慮するが、それでも隙を見つけては挑みにかかる。
「何をぐずぐずしておる! 黒松を逃がすな!」
「行かせるか! 殿の危害を加える輩を逃してはならぬ」
紫暮と共に黒松が姿を消す。逃げても居場所はムーンアローである程度探せるも、押しとどめる手は容赦が無かった。
「申し訳ありません!!」
日輪の中。庭に揃った藩士一同が、一斉に平伏する。その向かう先は白妙姫。壮観なる姿なれど、疲れきった様子で冒険者たちはその光景を見ていた。
「急いで、鉄山一派を探し捕らえなさい。また、沖に出た海賊退治も直ちにやめ、その主格たる小幡弾四郎とその一派を捕らえよ!!」
口早に白妙が指示を出すと、直ちに藩士がそれに従う。
「白妙にこれといった怪我が無い事や、黒子三名と鉄山の部下十数名と大半を捕縛した事は良しとして‥‥、黒松本人を捕らえられなかったのは悔しいね」
命に従う藩士たちを見送りながら、亮は悔しそうに告げる。
混戦の最中、長引けば分が無いと悟ったか、黒松たちは早々と何処かに逃亡していた。鉄山たちが引けば命令を出すものはおらず。困惑する藩士たちも白妙たちの話に耳を貸し始め、その場は収束する。しかし、事態を飲み込めてない外回りの藩士などはなおも鉄山を助けんとし、白妙たちの動きを阻んだ。
藩士たちが、ようやく全ての事態を飲み込めたのは結局それからかなりの時間を要していた。
「逃したものは仕方ないでしょう。確かに口惜しさは残りますが、こうして城には戻れました。皆様にはご尽力いただき、感謝の言葉もございません」
「御意」
にこりと微笑み頭を下げる白妙に、武蔵も頷き皆に礼を取る。
「そういえば‥‥オサベはどこ消えた?」
「天守閣に戻られたようです」
姿が見えないもう一人の姫に無路渦は周囲を見渡す。白妙に告げられ見上げてみれば、毅然とそびえる天守閣の上、愉快そうに長壁が笑うと中へと入った。
「これで姫路もひとまずは元通りか‥‥。しかし、この後はどうなるか」
鞘継が告げる。
白鷺に救う闇は逃げ去ったが、払えては無い。これから彼らがどう出るか。それはまだ予測もつかなかった。