【姫路内戦】 謀反者 発狂す

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月12日〜12月19日

リプレイ公開日:2005年12月20日

●オープニング

 播州姫路藩。二年前の政変に裏があり、謀略の藩主・黒松鉄山は罪状を明らかとなった。
 替わって白鷺の城に帰りたるは、謀殺された藩主・池多輝豊の娘・白妙。正統な血筋を迎え、これにて城もさて一安心と云う所だが、現状はそう暢気にも言ってられない。
 帰城の際、戦闘の最中に黒松は手下と共に逃亡し、さらに沖合いに妖怪退治へと出かけていた黒松の腹心・小幡弾四郎たちにも直ちに兵を向かわせたがすでに逃亡した後だった。
 黒松たちが逃げ込んだのは、自分が元々治めていた領地の屋敷。藩主の座を射止めて後は使われてなかったようだが、そうであるが故に逃げ込んでもおかしくはなかった。
 黒松を捕縛せんとただちに城から兵が送られる。逃げられぬよう屋敷を囲み、後は踏み込み取り押さえるだけ‥‥ではあった。
「申し上げます。青山の地にて黒松鉄山らの捕縛。今だ難航しております」
 姫路の大広間にて。上座に座る白妙に向かい、恭しく礼を取ると藩士が報告を告げる。途端、辺りに満ちたのは落胆の溜息。
 黒松の手の者が防御する屋敷。とはいえ、姫路藩士はそれに十分な数で包囲している。実力差があったとしても、数で押せるはずだった。
 が、今だ館には踏み込めず。黒松に手出しできぬままに日だけが重なる。
 それというのも館の周囲に臆病神が居着き、近付く者に文字通り恐怖を与えて混乱させてしまうからだ。恐怖に捕らわれた者は各々勝手な行動に出る。統制が乱れれば隙が出来る。隙が出来ればそこを突破され逃げられる恐れもある。それはまずい。
 臆病神は強い妖怪ではない。が、厄介である事は身を持って実感した姫路藩士たちである。
「ほんの一時の事とはいえ、面倒な。オーラで士気を高めれば多少は耐えられるようだが、絶対とも言えぬ」
「確か黒松が雇いいれた妙な黒装束の一派がおったな。あやつらの仕業か?」
「いや、黒松とは袂を分かったと聞き及ぶ。実際、館にその影は見当たらぬようだ。だが、その置き土産といった所か?」
「だが、臆病神に関してはそれでもよい。問題は‥‥」
 広間に沈黙が下りる。誰しもの顔に苦々しい表情が浮かんでいる。
 臆病神に阻まれ、今は遠巻きに見るしかない屋敷からは夜な夜な悲鳴が聞こえてくる。それは咎人・黒松鉄山が上げる声だと言う。
 それを告げたのは他ならぬ、黒松の子飼だった小幡弾四郎。今は姫路城内の獄にて裁きを待つ身となっている。
 黒松と共に領地に逃げ込んだはいいが、当の黒松はその夜の内に姿を見せぬ妖怪に憑かれ幻覚に怯える日々。その他の手下たちも幻惑の内に妖怪の虜とされたらしい。手下たちが館を守ろうとしているのは黒松の為ではなく、むしろその妖怪に手出しさせぬ為らしい。
 どうにか難を逃れた小幡はその足で追っ手に投降。長年の忠義で黒松に従ったが本意ではなく、今は罪を償いたいと平伏して許しを請い、その証として内部の情報を告げたのだ。
「妖怪に取り付かれるとは、己が業故、同情せぬが‥‥。われらは鉄山を退治するのに、その正体の知れぬ妖怪すら相手にせねばならぬのか?」
「小幡めが何やらの計略を持って告げた可能性もございますかと」
「いずれにせよ、踏み込まねば内情も掴めぬ。はてどうしたものか‥‥」
「妖怪相手ならば‥‥長壁姫さまが何かよい手立てをお持ちでないだろうか」
「長壁姫などおりませぬ」
 弱り果てて漏らした家臣の一言に、黙って聞いていた白妙が即座に切り返した。
「城に妖怪が巣食うなど愚かな迷信に過ぎません。よしんば本当だとしても、これは我らの問題です」
「しかし‥‥」
 まだ告げようとした家臣は強い眼差しに制され、言葉を失う。
「京に連絡を入れましょう。我らよりあちらの方が、妖怪などに関しての知識も対処も心得ておりましょう」
 告げると白妙がすっと立ち上がる。
「京都の冒険者ギルドに連絡を。謀反人・黒松を捕らえるべく妖怪が巣食う館に踏み込むのを手伝ってほしいとお伝えして下さい。
 居ります妖怪は恐れるに足らぬ相手‥‥けれど、いささか厄介な御方ではありましょうね」
 物悲しさを含んだ妖しい微笑を見せる白妙。だがそれもつかの間、ふとその目を伏せた。
「白鷺の城には妖怪が住む。それはわたくしの事かもしれませんね‥‥。所詮、罪を許し人を憎まぬ聖人君子になどなれはしない」
 呟きを解せず、家臣たちは目を丸くした。白妙はただ何も云わず天を仰ぐ。そこには冬空に映える天守閣が鷺のように優美にそびえていた。

●今回の参加者

 ea3741 レオーネ・アズリアエル(37歳・♀・侍・人間・エジプト)
 ea4870 時羅 亮(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1822 黒畑 緑太郎(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2704 乃木坂 雷電(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

佐上 瑞紀(ea2001)/ クライドル・アシュレーン(ea8209

●リプレイ本文

 姫路藩西域にある青山村。そこはかつて黒松鉄山が治めていた所領。この窮地に古巣へ逃げ込んだのは当然とも言えよう。
 追ってきた藩士が屋敷を取り囲む。だが、数で十分に勝るというのに彼らの腰は引ける。
 理由は屋敷の周囲に出る臆病神。これの言霊に耐え切れなかった運の悪い藩士は自身の感情がどうあれ恐怖に憑かれてしまう。
「確かに悲鳴とか聞いたら怖くなるよね」
 納得する時羅亮(ea4870)だが、事態はそれだけでもない。
「屋敷で一体何が起きているのか。得体の知れない不気味さに士気が萎えるのもいたし方あるまい。だが、それだけなら我らとて武士。何があろうと命を遂行する意思を持ち合わせておるが、臆病神とやらはそれすら台無しにしてしまう。恐怖に憑かれて仲間が悲鳴を上げれば当然周囲も穏やかにはおれん。その場から逃げ出そうとされれば指揮も乱れる。挙句、恐慌状態で刃物を振り回された日には‥‥」
 嘆息するのは部隊長。その周囲、幾人かの藩士が気まずそうに目を逸らす。
 自分たちに任された事を遂行できずよそ者に託されるのは心中複雑である。特に藩の醜聞を知らせる事にもなるので、他家仕えの黒畑緑太郎(eb1822)などはいい顔されていない。
 為であろうか、臆病神の囮として乗り込む藩士を求めた所、我先にと意気込む者は少なくなかった。
 残る藩士たちには屋敷から逃れぬよう取り囲みを続けてもらう。危惧された抜け道などが確認されない以上、これで相手の退路は無いはず。
「自業自得とはいえ、哀れな者です。ここで終わりにするべく、必ず黒松を捕らえましょう」
 屋敷からは今なお細くされど強い悲鳴が聞こえる。顔を顰めながらも、ミラ・ダイモス(eb2064)が言い放つ。
「勿論。白妙さんが藩主の座に戻って、これで姫路も安心と思ってたんだけどね」
「姫路には長く付き合ってきたんですもの。黒松の捕縛まで何とかしたいですわね」
 レオーネ・アズリアエル(ea3741)が告げると、藍月花(ea8904)もまた苦笑いでそう答えた。
 屋敷内外の見取り図や敵戦力構成などを改めて確認する。
「やっぱ、いざと言う時にぱっぱと動ける様にしておきたいしねー♪」
 根っからの明るい声で告げるのは風月明日菜(ea8212)。軽い口調ながらも、屋敷の見取り図に通す目は真剣そのもの。
「臆病神とあたる事になるかな? 悪いけど、先行お願いするね」
 亮の言葉には同行する事になった藩士数名が重々しく頷く。
 乃木坂雷電(eb2704)と緑太郎がリトルフライで空から偵察。
 月花をはじめオーラ使いが希望者の武器にオーラパワーをかけると、藩士たちが見守る中、屋敷に通じる塀を苦労して乗り越えて進入した。

 荒れた庭に乱雑に生える植え込み。その影に身を寄せながらまずは藩士たちが屋敷にまで進もうとするが、
「う、うわわわわーーーっ」
 庭を半ばまで行かぬ内に一人が頭を抱えてしゃがみこんでしまう。
「いた、あそこにいるよー」
 明日菜が指差す先にふよりと浮かぶ半透明。すかさず南雲紫(eb2483)が走りこむと、霊刀「オロチ」エレメントスレイヤーを叩き込んだ。見事な腕前で、臆病神に深い傷を負わせる。
『ヒィィイイイイ』
 傷を負ったが死んではない。空気を震わせるような悲鳴を上げると臆病神の姿が宙に舞い、一目散に逃げにかかる。
「逃げるか!」
 叫ぶも、追うか捨てるか逡巡する紫。
「放っておけ。脅威が去ったならそれでいい」
 見ていた雷電がそっけなく言い放つ。
「それに、事前の情報だと臆病神は三体。まだ後、二体いるはず‥‥くっ」
 その言葉を言い終わる前に、ミラは何かの声を聞いた気がした。途端、心の奥底から耐え難い震えが沸き起こってくる。だが、それを気力で捻じ伏せると周囲にきっと目を向けた。
「そこか!」
 亮がダガーを投げる。オーラパワーをかけて威力を増した刃が植木の陰に隠れていた巨体に突き刺さった。びくりと震えると、やはり臆病神が転がるように逃げ去っていく。 
「まずいな。騒ぎに気付かれたらしい。人が来るぞ」
 バイブレーションセンサーで周囲を探っていた雷電。告げるや否や、人の気配が近付いてくる。
「城の者か! ここには踏み込ませんぞ!!」
「うわああああああ!!」
 現れた浪人然とした男たちに、囮のはずの藩士が突っかかっていく。が、様子が尋常でない。恐怖に駆られての動きだった。
「すまないが、おとなしくしていてくれ」
 軽い侘びと共に紫がスタンアタックで狂奔する藩士たちを眠らせる。
 その間にも、次々に刀を抜いて元侍たちがかかってくる。
「むさいおっさんと美人のお姫様。どちらに協力するか、私にとっては自明の理。‥‥手向かうなら容赦しないわよ♪」
 言い放つやレオーネが一人と切り結ぶ。かかってきた刀をガディスシールドで受け止めると、危なげなく返す刃が敵の身を裂く。
「黒松に憑いている謎の妖怪について知りたいから、なるべく生かして欲しいんだけど‥‥」
 切りかかって来る相手に十手と刀で応じながら亮は告げる。が、それをやすやすお願いして回れる程にはたやすい相手ではなかった。打ち合うこと数回、そしてその後ろに飛び込んだ明日菜が両手の霞刀とシルバーナイフで斬り付ける。
「うん、でもねー。手早くすませたいしー♪」
 さらに。ミラは潜んでいた木の陰から飛び出すと、不意をついてまた一人を倒しにかかる。相手の武器を破壊した上でその相手すらもハンマーofクラッシュで一気に叩く。重みを乗せた一撃で、相手から骨の砕ける鈍い嫌な音が響いた。
「黒松以外の生死は考慮しなくていいという話ですし、一人二人残せば‥‥後は運次第ですか」
 言って、目だけで紫を示す。さされた紫はといえば、素早く急所をついて気絶させている。
 その騒ぎから若干距離をおいているのは緑太郎。勿論楽している訳ではない。
「余計な事をせずに立ち退いてもらえないかな?」
 見つけた臆病神にテレパシーで話しかける。しかし、相手は少し戸惑ったように動きを止めたが、すぐに知らん振りで身近にいた藩士を恐怖に叩き込んだ。
「仕方ないな」
 詠唱すると、ムーンアローを飛ばす。外れる事無い魔法の矢が臆病神にささると、相手は驚いたように慌てて逃げ出していく。
「この方で表警備は最後のはずですわね」
 止めとばかりに月花が拳を男に打ち込むと、それで動く敵はいなくなった。周囲を見回し、ほっと息をつく月花だったが、唐突にその膝をおった。
 何が、と問うまでも無く、月花の髪が逆立ち目が血の色の変わりかけていた。
「味な真似を!!」
 が、それも瞬時に消える。苦々しげに顔をゆがませると、月花は植え込みの影に威力を込めて龍叱爪を叩き込む。傷を負い転がり出た臆病神を緑太郎がシャドウボムで吹き飛ばした。
「何故です? まさか四体目がいたのですか?」
「逃げた奴が戻ってきたんだろう。ぐずぐずしていると他の奴もまた戻ってくるかもしれない」
 不思議がるミラに雷電が首を横に振る。
「という訳で、時間が無いんだ。さくさくと謎の妖怪に答えてくれないかな?」
「あの方のお側によるなど許さんぞ!」
 気絶していた男を起こして、手短に亮が尋ねる。が、返ってきたのは罵詈雑言。まともな会話は期待できそうに無く、紫が嘆息交じりで再び眠らせた。
「謎の妖怪は気になるところだが、今は黒松捕縛が優先になるわ。ここの騒ぎは向こうも気付いてるでしょうし‥‥急ぎましょう」
 言うが早いか紫は走り出し、他の冒険者たちもそれに続く。レオーネと月花はそれにやや遅れる。二人顔を見合わせた後、何事も無く走り出した。

 黒松がいるという部屋は、探さずとも分かった。低く重く、苦痛の悲鳴が届いてくる。一体、何が起きているのか。臆病神の仕業でなくとも、不気味さを感じずにはいられない。
 入り込む前にいったんオーラをかけなおす。部屋の外で待ち構えていた男たちを、まず隠身の勾玉を使用して気配を消せる者が不意打ちをかけると、元々の人数の差もあり、勢いはいや増す。
「黒松の部屋はここだな」
 狙うは謎の妖怪。警備たちは他に任せて、亮が緊張をはらみながら戸に手をかける。壊さんばかりの勢いで一気に開くと、中にいたのは、年老いた男と、艶やかな女が一人。
 男は明らかに気を病んでいた。遷ろう目線にしまりの無い口元。白髪の頭に肌は生気無く張りも無い。
「黒松鉄山だな! ご同道願う!!」
 それでもその老人――年を考えるとまだそこまではいってないはずだが、その場ではそういう風にしか見えない――に聞いた特徴を見て取り、緑太郎が声を張る。
「あなたは‥‥」
 女の姿を認めて亮が軽く目を見開く。月花が息を飲み、レオーネは顔を綻ばせた。向こうも気付いたのだろう。冒険者たちににっこりと微笑みかけると、
 月の輝きに身を包むや否や、冒険者も黒松側の警備も関係なく纏めて吹き飛ばしたのだった。

「やっぱり長壁姫さまだったのね♪」
 一心不乱に見つめながら嬉しそうにレオーネが告げる。実際の状況は、彼女ほど嬉しくも無い。
「シャドウボムか。威力は私でも出せる程度ではあったが」
 どっと疲れた様子で緑太郎はへたり込む。
 吹き飛ばされたどさくさで警備たちを取り押さえる事は出来たが、無論冒険者たちも無傷ではすまない。心得のある者たちで手当てをして回りようやく一息ついた所。幸いな事に怪我の治療代は後で立て替えるとも言ってくれていたのだが。
「シャドウボム‥‥ということは、やはり彼らはチャームで?」
 縄で縛られて隅に転がされている警備たちを紫が指すと、長壁姫がころころと笑う。
「益体も無い連中ではあるが、小うるさい者どもを払うには丁度よいのでな。ついでに言えば庭に転がしておいた臆病神どもも同じじゃ」
 小うるさいとは外を包囲している藩士や乗り込んできた冒険者たちの事なのだろう。当人たちを目の前にしているのに、悪びれる気は全く無い。
「何をしたのですか?」
 白妙帰城の際に、亮は立会いその際に鉄山を見ている。まるでその日から一日で一年を過ごしたかのように様変わりしている。
「幻を見せたまでよ。この者が殺した先の藩主たちが殺されるのと同じ境遇を、その者たちが吐き出す恨みの言葉を体感させていたまで」
 日毎、夜毎。繰り返し見せられる悪夢に心が持たなかった。所業を思えば同情する余地は無いが、まるきり無視をするにはあまりに長壁姫は楽しそうで。
「それはやはり、報復の為? でしたら、後は白妙様の分に残してあげて下さい。悔しいのは長壁姫様だけではありません。
 人の世の裁きを受けさせる事で彼の名声を落とさせ、二度とこのような事を起こそうと考える者をなくすようにするのも肝要かと」
 月花が頭を下げる。ここで説得できなければいささか厄介な事になる。一同、固唾を飲んで長壁姫に視線を向ける。
 真摯な視線を意にも止めず、長壁姫は月花を見やっていたが‥‥いきなり吹き出すと、後は爆笑したのだった。
「連れて行きたいなら行くがよい。元より誰ぞが辿り着くまでの戯れぞ。もっとも、もう少し長く遊ばせてもらえるかと思うておったが、‥‥はてさて、新しき藩主殿はなかなか難しいお方じゃ」
 目に浮かんだ涙まで拭って、長壁姫が告げる。
「新しき藩主とは白妙さまの事ですか? もしかして、この事はご承知だったのですか」
 ミラが尋ねると、長壁姫が頷く。
「捕らえれば切腹か斬首か。どのみち死罪は免れようも無い。だが、あっさり死なせたぐらいでこれまでの無念が晴れようはずもなし。それで、逃げている間だけわらわが手を下す事にしたまでよ。分かっていると思うがこの話は他言無用ぞ」
 計画して断られてもやるつもりだったのは長壁だが、それを聞いて口をつぐんだ時点で白妙もまた同罪といえる。
「恨み言一つ表に出さないような聖人君子が国を治めて人が着いてきますか。むしろ君子でないのが分かっているなら暴走する事もないだろうし、もうちょっと自分に素直になればいいのに」
 帰ったら絶対白妙に言ってやろうと、レオーネがぐっと硬く拳を握る。
「でもー。だったら、ちょっとぐらい言ってくれてもよかったのにー。せっかく着替えたのになー」
 さすがの明日菜も口を尖らせる。魔法少女のローブで鉄山なり妖怪なり動きを止めようとしたが、結局使わぬままである。
「さて、遊びはこれで終わりじゃ。わらわは帰るとするかの。そこの塵は大切に持って参れ。城の者が待ち望んでおるでの」
 軽やかに庭先に進み出ると、長壁の姿が月影に消える。
「なーんか、疲れちゃったねー。早く京都に帰りたいかなー。来る時はお見送りしてくれたけど、お出迎えはさすがにないよねー。お弁当美味しかったけどー♪」
 明日菜の明るい声につられて、冒険者たちが笑う。それすらも耳に入らぬように、鉄山はここではないどこかを見ながら薄ら笑いを続けるのみだった。
「本当に‥‥あの時捕まっていたらよかったのに」
 嘆息交じりで亮は、哀れな老人を見つめた。