【新天地への扉】 宝物奪還/化兎討伐
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月15日〜12月20日
リプレイ公開日:2005年12月23日
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●オープニング
江戸城地下の巨大迷宮。そこに江戸と京を結ぶ月道があると分かったのが今年の春。
そして、その巨大迷宮にまだ謎が隠されていると知れたのは秋の始まり頃。神剣争奪戦に絡み、たまたま居合わせた陰陽師・安倍晴明はその後も迷宮の調査を進め、ついにはその奥深く隠されたもう一つ月道を知る。
隠された月道を守るは月精霊・かぐや。通じる先は極楽か地獄か、月より彼方のまほろばの地か。とにかく、この世ではない異界へ通じると云う。
月道のもたらす利益は甚だしい。だが、かぐやは江戸の騒乱を憂い、真に月道を開けるべきかを迷う。故にその決断は人々に託された。
――もし開ける意志あらば、その昔恩を受けた陰陽師たちに友好の証として授けた五品を示せと。
京に戻った晴明は月道発見とかぐやの言葉を報告し――いろいろあって、陰陽師たる蘆屋道満が月道開通の為、五品を携えかぐやと会う事となる。
陰陽寮にて五品――仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、龍の頸の玉、燕の子安貝――は由来不明ながらも大事に保管された品々。しかも、かぐやに関わりがあると判明した今、その価値は計り知れない。
故に警備を京のギルドに依頼したが人が集まらず。暇を惜しんだ道満は急遽選抜したごく数名を従え京を発つ。
道中特に難に襲われず、ひとまずは江戸の港まで着く事が出来た。後は江戸城までの僅かな距離を運ぶだけ‥‥のはずだった。
「道満さま‥‥あれは?」
賑やかな港に呆れた声と歓声とが入り混じった。そして皆がほぼ同じ方向を見ている。
示されるまでも無く、道満もそれを見ていた。
立っていたのは色気のある美人だが、真っ青な顔で震えて今にも倒れそうだ。その周囲に子供が数人似た表情で立ち、さらに従う兎たちが数羽。怯えと決意を秘めた目で道満一行をじっと見つめる。
「何だ、貴様ら! 我らに用でも‥‥」
「と‥‥突撃ーーー!」
道満の叱咤が終わる前に、女が震えながらも声をあげた。同時、子供と兎が一斉に跳ね上がると駆け出してきた。
兎たちは驚く道満たちにしがみつくと動きを封じる。その隙に、女と子供たちはすばやく荷に駆け寄り持ち去ろうとした。
「貴様ら!!」
が、警備の者も馬鹿ではない。兎を振りほどくと、持ち逃げ犯たちを素早く捕まえる。
掴まれた女子供が悲鳴を上げる。と、彼らに変化が起こる。掴まえた感触が変化するのは彼らの形が歪んだから。やがて、ひらりと舞った服の下、現れたのは‥‥やっぱり兎。
体型が変わったせいで掴んでいた手から彼らがすっぽ抜ける。そのまま二本足で荷を抱えて走る兎を唖然と見送りかけた警備たちだが、
「何をしているか! 早く捕まえよ!! 姑息な妖怪なぞ始末しても構わん!!」
そんな兎がただの兎のはずがない。道満も印を組むと月の矢が遠く化け兎の身を貫く。
仲間を助けるより大事とばかりに、兎たちは荷を抱えて脚力に任せて走り出す。警備たちがそれを阻むべく魔法や剣を繰り出す。
たちまち港の一角が騒然となった。
最終的に傷ついた兎たちが港に横たわり、彼らが奪い損なった宝物を淡々と一行は回収する。
しかし、取り返せた荷は四品。五品の内、蓬莱の玉の枝は逃げ切った兎たちと共に消えていた。
「ど、道満さま‥‥」
「分かっている」
うろたえる警備と対照的に、道満は憤怒の形相で動けない兎を掴み上げる。
「‥‥不本意だが、どこの化け物かよっく知っておる!
ただちに江戸のギルドに連絡を入れよ! 奴らを捕らえてくれる! そこらに転がってる奴も纏めておけ。何のつもりでこのような真似をしたか吐かせた上で、毛皮にでもしてくれるわ!!」
忌々しげに道満は兎を叩きつける。化け兎はぎゃっと泣いてそれきり動かなくなった。
※ ※
お月さまは大事な存在。
何故と聞かれても首を傾げる。そもお月様とは何だと聞いても首を傾げる。それでも化け兎たちにとってお月さまは大事な存在だった。
「そのお月さまがねぇ。江戸の地下にいるんですよ」
お山にやってきたそいつは、化け兎を前にそう告げた。うまく人に化けてはいたが、人ではない。なので警戒していたが、そう言われると警戒も忘れて化け兎は話に聞き入る。
「でもね。人間たちはお月さまをどっかにやってしまおうとしているのです」
そいつは化け兎の態度に同情するような素振りを見せ、大仰に悲しむ。
「でも、大丈夫。ちゃんとお月さまを助ける方法があるんです」
そいつはにこりと笑った。食い入るように化け兎が見入る前で、親切面でその方法を告げる。すなわち、京からの使者が持って来る五つの品の内、一つでもいいから奪う事が出来ればお月さまをどこかにやってしまう事は難しくなると。
化け兎は喜んだ。でも、一匹ではどうにも心許ない。だから手伝ってもらおうと急いで仲間を集めにかかった。
「そう‥‥。江戸に新たな月道など必要ない。予定外の未知の要素は興味深いが‥‥いずれ‥‥様がこの地を手に入れた後に必要なら開けばよいだけ‥‥」
風に乗って、そんな言葉を聞いた気もしたが、慌てる化け兎にはその真偽はどうでもよかった。
「で、唆されて荷を襲撃して何とかいう宝物を奪ったという訳」
冒険者ギルドにて。郵便屋シフールの説明を受けながら、係員は机に突っ伏す。その背後ではすすり泣く声。別に幽霊がいる訳でもないが、人でないのも確か。宝物奪った当の化け兎たちが逃げ込んできているのだ。
「んでね。逃げ遅れて捕まった仲間がいるから、助けてほしいんだってさ」
「自業自得って感じですけどねぇ‥‥?」
呆れて振り返れば、兎たちは物陰から土塗れの顔を半分出して、一生懸命「助けて」と目で訴えてくる。
嘆息付きながらその兎から目線を外し、係員は呻く。
「まぁ、蘆屋さまから宝物奪還で兎狩りの依頼は来てますし。彼に渡すか助けるか、後の処分は冒険者たちに任せましょう。‥‥っていうか、キミたち、宝物はどこに持ってるんです?」
問いかける係員に、化け兎たちは互いに顔を見合わせ、急いで耳を伏せる。
かくて、依頼が出される。蘆屋道満と共に盗人兎を探して宝物を取り返してほしいとの事。
なお、逃げ込んできた化け兎たちについてはこっそり冒険者たちに渡すので、処遇は任せるらしい。
●リプレイ本文
江戸地下迷宮。その月道を開く為にわざわざ京から訪れた陰陽師・蘆屋道満だが、月精霊・かぐやに差し出すべき宝物を化け兎にまんまと盗み取られて怒り心頭。
宝物を探すついで、捕まえた化け兎たちを殺してしまえと怒鳴りつける道満に、待ったをかける冒険者たち。
「道満様。この化け兎達の長が現在京都の陰陽師の元にいるそうで。‥‥もし仲間を道満様に亡き者にされたとなれば、安倍晴明様のお耳に入らないとも限りません」
「ふん、あんな頭でっかちの小童なんぞ、わしが気にするとでも思っておるか」
「しかし、そうなればこのいかにもか弱き幼げな兎達にまんまと蓬莱の玉の枝を奪われたという今回の顛末も知られる事になりましょうね」
子はおろか孫ほどの年齢に見える柳花蓮(eb0084)に、道満は返す言葉無く口をつぐむ。怒りで我を忘れていたようだが、ようやくその事に思い至った感じだ。
「兎は月に関りが深いですよね? これからお会いする月精霊・かぐや様は、月道を開く為、血を流したとお知りになったらどうされるでしょう? 悲しまれて月道を開かないなどと言い出されては、道満様の名に傷がつきかねません。どうかここは一つ穏便にお願いしたく」
「いや、しかし‥‥」
北天満(eb2004)もまた丁重に頭を下げると、道満の顔がますます渋りだす。だが、その心中はかなりぐらついてるのは見て取れる。
ちなみに、先んじてかぐやに会いたいという満の意見は却下された。
会えば、宝を持って来ない訳を問われるだろうし、そうすれば宝を盗まれた事も話さなくてはならない。失態を知られる不利益とそれを正直に話す利益。どちらか得となるかで結構悩みはしたようである。
しかし、結局の所、そのかぐやのいる迷宮の最奥までの道はまだ不整備であり、満一人では危険が多い。かといって、一刻も早く宝を取り戻さねばならない以上共に行く為の人員を裂く訳にもいかない、という事情で落ち着いたのだ。
いささか残念ではあるが、神剣争奪の折には焔法天狗なんて者まで出た場所である。その代わりにか、説得の方に満も力が入る。
「そもそもです。彼らは何故この事を知ったんでしょう?」
何食わぬ顔でそれを確認した後に、顔色一つ変えずに満はさらに言葉を紡ぐ。
「何者かが入れ知恵をしたと思いますよ。ならばこそ、兎を開放する事が今後の為になるかと」
わざとらしいまでに恭しく頭を下げると、道満も不承不承に頷く。
「確かに、この馬鹿どもだけで全て計画したというのはいささか考えにくくもあるな。本当に裏があるなら殺してしまっては手がかりも消えよう。だからといって開放する訳にはいかん。本当の事がどうなのか、この馬鹿兎どもから厳しく聞かねばならんからな」
忌々しげに掴まった化け兎たちを睨みつける道満。縄で縛られた上で、五羽が小さい檻にぎゅうぎゅう煮詰められている。それでもさらに縮こまり、身を寄せ合っていた化け兎たちがきゅうと震え上がった。
「それでしたら、私に任せてもらえないでしょうか?」
今にも危害を加えかねない気迫に、アル・アジット(ea8750)は手助けすべく進み出る。
「博識な道満さまなら、私がどういう存在かご存知でしょう。故国では色々しておりまして、尋問には経験がございます。ただし、革は使えなくなるやもしれませんが」
三度傘を脱いで一礼するアル。やや尖った耳が種族を示し、それを道満は無表情に眺める。
「まぁいいだろう。革が駄目でも鍋にならできよう。幸い、先の大火で飢えた民も多いだろうしな」
災害を軽く扱う道満を不愉快に思うが、それも表面には出さない。
「ありがとうございます。ああ、尋問の場にはどうかおいでなさいますな。道満様の品位を汚す事になるやも」
「そうか、では尋問は任せる。だが、全部を一時にやる必要もあるまい。逃げた兎たちの足取りを追う為、二羽ほどこちらに連れて行く。いいか、くれぐれも逃がすなよ」
アルの言葉が返ってよかったのか、満足そうに頷くと道満。檻から話した通り二羽連れ出すと、その場を後にする。止める間も無かった。
残った兎たちが恐怖の目線で冒険者を見る。それに気付いた一條北嵩(eb1415)が刺激しないよう、にっこりと笑いかけた。
「大丈夫、心配するな。君たちが仲間の所に帰れるようにしてやるよ。痛い事とか絶対にしないと約束するから、もう暫く我慢してくれな?」
笑顔のまま手を差し出す。兎たちは縛られたまま、困ったように北嵩を見つめていたが、やがておずおずと擦り寄ってきた。ふさふさの毛をひとしきり撫でる。
「思ったよりかは元気そうですね。食べ物を持ってきましたが、いかがでしょう?」
花蓮が人参や餅を差し出すと、涙ぐんで化け兎たちが喜ぶ。
「山に行く必要はあるな。一緒にお月様を守るために行こうな」
北嵩が告げると、勢いづいて兎は大きく首を縦に振った。
「さーて、ご機嫌な月夜だ。ここはちょっくらお月見といこうじゃないか」
お山の天辺、まん丸な月を眺めて鬼切七十郎(eb3773)が陽気な声を上げ、モードレッド・サージェイ(ea7310)が運んできた荷物を並べる。
満月の下で兎たちはお月さまを讃えて歌って跳ねて踊る‥‥ものだが、さすがに今夜はそんな気分ではないらしい。ギルドに逃げ込んだ三羽は、宴の用意に一瞬目を輝かせたが、すぐにしょぼんと肩を落とした。
「ほら、そんな顔せんと、団子でも喰いねぇ。甘酒もあるからな」
半ば無理やりに七十郎が勧めてようやくもそもそと口に運ぶ。それを見て七十郎は少し肩の力を抜いた。
「なぁよぉ。お月さんは天にあってあんなに綺麗じゃねぇか。どこのどいつが吹き込んだか知らねぇが、あの綺麗なお月さんが地下に在って、しかも無くなるなんて事、ある訳ねぇだろぅ?」
「でもぉ」
優しく諭すが、化け兎たちは消沈したまま。それを見ていたモードレッドが盛大に落胆の息を溢した。
「口出しは控えようと思ったが‥‥。お前達が今どうにかしたいのは、月か? 捕まった仲間か? それをはっきりすべきじゃないか」
思いがけず、強いモードレッドの言葉に化け兎たちははっと顔を上げた。
「宝物を教えた奴のせいで、仲間がヤバい目にあってんだ。仲間の命より、お月さんが大事だってんなら、見上げた根性だが少なくとも俺はお前らを助けようとは思わねぇ。月はな、人間なんかがどっかにやっちまえるもんじゃねぇんだ。俺たちよりもずーっと長く月を見てきたお前らなら、よっく分ってる事だろ?」
真正面から向き合いそう諭すモードレッド。化け兎たちはまじまじと彼を見詰め返して話を聞いてはいたが、
「「「いじめるーーーーーーっ!!!」」」
いきなりそう言って泣き始めた。
化け兎三羽、会話が出来るように人化け中。二匹は子供の姿であり、どうやら纏め役らしい化け兎にいたっては艶やかな女性の姿。それが外聞憚らぬが如く大泣きするのだ。幸い山の中で人目は無いのだが、モードレッドは勿論、七十郎まで焦ってしまう。
「お月さま、無くなっちゃうもん。朝になったら山の向こうに隠れんぼするし、夜になる度にちょっとずつ細くなって夜になっても出ない事あるもん」
「月は沈むし欠けるしってそれは当然の事だし。大体、どっちもちゃんと後で顔出すだろう」
「出ないかもしんないもんっ!」
七十郎が口添えするも、化け兎はぶんぶんと首を横に振って否定する。
うるさく泣き騒ぐ彼らに二人して手を出しかねる。
その様をどこかから笑い声が届いてくる。
「何だか、大変そうだな」
見ると北嵩と花蓮がいる。そして、捕らわれた化け兎たちも。
目を輝かせて寄って来る化け兎を、しかし、北嵩は制止した。
「この子達を帰しにきたよ。何もしないから心配しないで。だけど君達が持ち去った宝物を返してくれないと、君達を捕まえるぞーって怖い大人たちが一杯やってきちゃうんだ」
目線を合わせて、丁寧に北嵩は言い説く。何かを教える事に関しては十二分に心得がある。外見がどうあれ、中身は子供。そのつもりで接した。
「そのお月様を教えてくれた者は何者ですか? 人相風体は? 人、では無かったのでしょう? その者こそ恐らくお月さまの元に先に辿り着き、手に入れようと騙したのだと思います」
花蓮の言葉に、化け兎はびっくりと目を見開く。
「その者にはまだ宝は渡してないのでしょう? だったら手に入れようとやって来る筈。‥‥宝を守らないと、お月様が危ないかもしれませんわ」
「大丈夫、お月様はどっかにやらないって俺達が約束するよ。じゃあ、俺の大事な物を預けよう。それで約束‥‥ね」
微笑みながら北嵩は腰の刀を地面に置く。化け兎たちは困ったように冒険者たちを見回す。
「だから言ってるだろ? 大丈夫だって」
悪びれぬ笑顔で七十郎が告げると、化け兎は思いきったように刀を北嵩に返す。どうやら、宝を返す気になったらしい。
これでひとまずは一安心と一同が安堵した時、
「そこ、何かいる!!」
木陰で動くモノを見つけ、モードレッドが声を上げる。
即座に七十郎が駆けた。日本刀を鞘走らせるや、その場所を素早く切り裂く。
見事な一線で枝葉が宙を舞い、そして、鳥が一羽空へと飛び出した。
「鳥? いや、そんな物には見えなかったけどな‥‥」
訝しむモードレッド。即座に北嵩がグリーンワードを使用する。
ここに来るまで最近訪れた謎の人物について尋ねてきたが、あいにく個体識別出来る程草木は賢くない。また、時間もそれなりにたっている為、さっき入ったばかりの冒険者の事だったり、あるいは近所の老人たちの話だったりとあまりいい話は聞けなかったが‥‥。
「さっきまでここに隠れていたのは何だ?」
『狐』
明確に返ってきた答えに、顔を顰めない者はいなかった。
「宝物を奪うってのはあながち冗談ではないかもしれません。急いで宝を回収しましょう」
言った途端に花蓮が盛大にくしゃみをする。彼女に限らず、冬の最中、防寒着無しでは寒さが堪え、震えが来る。
それを見て取った化け兎たちが慌てて甘酒を渡す。心配そうに見てくる化け兎たちに、一同はほんのりと笑みを返した。
化け兎の案内で、宝の在りかを探しに行く。どこにあるかと思いきや、冒険者ギルドのすぐ裏手。なんとそこから土台の下まで穴を掘って隠したらしい。ここに置いておけば何かあった時、冒険者が助けてくれると思っていたようだ。
蓬莱の玉の枝は大切に布に包まれていたおかげで、宝物自体には傷は無く、精緻な細工と見事な輝きで冒険者たちの目を十二分に楽しませた。
が、それをすぐには道満に届けない。見つかったとも告げずにモードレッドが再び交渉を行う。
「宝が見つかるのと引き換えに、化け兎たちを無傷で解放してやって欲しい。兎に出し抜かれての搬送の失態。化け兎たちは人ともよく接するようですし、いなくなったら原因を探る者も出ましょうね」
「‥‥好きにするがいい。ただし、宝が見つかればだ!」
再三再四に冒険者たちから脅され、道満は忌々しげに答える。内心してやったりと笑うモードレッド。
かくてきちんと宝を返還し、化け兎たちも無罪放免でひとしきり喜びあったのだが。
「狐ね‥‥。確かに、同じ臭いだったのね」
「うん」
花蓮が訪ねると、纏め役の化け兎が大きく頷く。確かに出会った相手と、あの時隠れていた奴とは臭いが同じだったらしい。リードシンキングで探ってもみたが、嘘は無いようだ。
やはり思考を読みながら化け兎から現れた男の情報を手に入れる。細い目をしてなにか媚びた様な笑顔を見せる男で、言葉には北の方の訛りがあった。
人で無いなら探すのは難しいが、それでも注意は必要かも知れない。
「それにしても、せっかく宴の準備までしたのに放っておくのも勿体無い。君たちは素敵な踊りを踊れるって聞いたことがあるんだけど、教えてくれないか?」
北嵩の言葉に化け兎たちは頷く。ようやくの、憂いの無い笑顔だった。