●リプレイ本文
年の初めは寿ぎに。
眠りの内に見る夢も、新しき年の幕開けを予感させる大事な代物。
しかし、夢を見るかも時の運。もう一度、と願った所で時は返らず、強いて言えば来年を待つより他に無い。
その無念を、せめて他の人の夢話で慰めたい。
そんな老人の願いに、冒険者一同はお宅にお邪魔する。待っていた老人は、冒険者たちの顔を見るや、上機嫌で恵比須顔を作る。
「ああ、よう来てくれた。よう来てくれた。ささ、襤褸家で恥ずかしい限りじゃが、遠慮せずに入って下され。正月の残りもんで悪いが、馳走も用意してある。ほい、土産とな? 気にせんともよいのに。おお、酒ならばもうたらふくあるでな。正月じゃし、こうも寒いとそれぐらいしか楽しみも無いしの。‥‥何と、異国の酒と?! それは勿体無い! いやいや、そんな気遣いはせんでもええ。わしは話が聞けるだけで十分じゃ」
訪問した冒険者たちが気後れしそうになる程の歓迎振りで、流されるままに家へと通される。
言った通りのあばら家にお邪魔して、囲炉裏を囲んで一同揃う。
「さて、どんな夢を見んさったのかね?」
待ってましたと笑顔で問うてくる老人は、期待に胸弾ませる子供のようだった。
●一式猛(eb3463)の戦いの一幕
一式猛です。どうぞよろしく〜。
俺の初夢は、大人になって悪い奴と戦っていたぞ。
大勢の部下を持っていて、俺はその忍者頭‥‥だったのかな? 他にも歴史上の偉い人とか英雄みたいな人とかもたくさんいて、皆一生懸命戦っていた。
敵はどうやら悪の組織らしくて、やっぱり大勢いたな。そいつらを相手に、俺たちは協力し合い連携を取り、押し寄せる奴らから一歩も引かない白熱した戦いを繰り広げていた。
味方も敵も強かったよ。そんな中で、俺もこの忍者刀を引っさげて、たくさんの敵をやっつけてたんだ。倒した相手に止めとばかりに、こう、しゅっと素早く手裏剣も投げたりしてさ。
「ただ‥‥その最中に目が覚めてしまって。だから、その勝負が勝ったのか負けたのか、そこまでは覚えてないんだ」
「そうか。それは残念じゃのう」
ふっと言葉を切った猛に、老人は寂しそうな顔を向ける。が、猛はそんな老人を首を横に振って否定すると、笑顔を向けた。
「でもさ。戦っている奴らは皆、一生懸命だったな。すっごい清々しくていい顔してた。それが一番印象に残ってる」
「そうか、そうか」
誇らしげに胸を張る猛に、老人も笑んで大きく頷く。そのまま、何気ない調子で酒盃を渡そうとする。
「お爺さん。俺、強い酒は飲めないよ」
「ほい。それもそうか。まぁ、しかし、正月じゃしな」
からからと笑う老人に、猛は少々困り顔で手の中に渡された酒盃に目を落とした。
●アルフレッド・アーツ(ea2100)の奇妙な過去から?
僕の初夢は‥‥どうやら、昔の体験に重なったようで、トンボになった夢でした。
それはいつもの日常で‥‥。いつものように酒場で飛んでいたら、いつもよりも自分の体が小さい事に気付いて‥‥。
いつのまにか、僕はトンボになってたのです‥‥。
そのまま飛んでたのですけど‥‥そのうち疲れてしまい、どこかで休もうかと考えていると‥‥。
「この箱にお入り」
そんな声が聞こえました。
え? どんな声か‥‥ですか。そこまでは印象に残ってないですね。
それで、声に促されて自分のすぐ下の卓を見ると‥‥確かに白い箱があったんです。
何故か疑いもせず、僕はその箱の中で休んでたのですけど‥‥そうしていると、突然上からものすごい強い視線を感じたのです!
「それで恐ろしくなって叫びながら箱から逃げ出した所で、目が覚めたのです」
「正月早々、怖い夢を見たのじゃのぉ」
アルフレッドの語りに、老人が大きく身震いする。実直な喋りはともすれば感情に欠けがちで、それが中身とあいまって実際に起きた事のような錯覚すら覚える。なんとなく部屋の寒さが気になって、老人が囲炉裏をかき回した。
「じゃが、逆夢といってな。悪い夢を見ると逆にいい事が起こるとも言うんじゃ。あまり気にせん方がいいぞい」
「そうですか‥‥。そもそも、ノルマンを離れる決心をした夜だから、こんな夢を見たのかなって‥‥」
首を傾げるアルフレッドに、老人ははっとなり、そして寂しげに頷く。
「そうか、郷里を離れるのは辛い事じゃからの。まぁ、住めば都と申してな。京もなかなかいい所じゃぞ」
慰めるように告げる老人に、アルフレッドは感謝を込めて礼を述べた。
●天螺月律吏(ea0085)の世は不思議に満ちて
あけましておめでとうございます。今日は面白い場にお招きいただきありがとうございます。
さて、私の初夢だが‥‥これがまた実にケッタイな夢でな〜。
何やら私は一抱え程ありそうな鉄の箱の前に座り、それを眺めているんだ。
箱の中には私と二人の男性が入っていて、楽しげに会話していた。
‥‥いやいや、箱に詰め込まれているのではなく、何故かその箱に入る大きさに私たちがなっている感じだったな。たまに箱の中いっぱいに私の顔が置かれてたり‥‥といっても生首ではないですぞ。丁度箱を被って喋りつつ箱から外に出る体の部分は消えてるような感じ‥‥だろう、か?
実に不可解。
その話していた男たちも『イケメン』という奴らしいが、その言葉もよく分からなくてなぁ。
さらにその後、どうやら私は新撰組‥‥というよりも岡引のような仕事しているらしく、悪人を追いかけていた。まるで忍者のように高い所を飛んだり降りたり。
手にした武器もまた奇妙で。片手の大きさで鉄の塊のようだが筒があり、そこから飛礫を飛ばす絡繰らしい。
「その悪人を追いかけて夢は終わってしまったが‥‥。全く摩訶不思議な箱だった。あれが玉手箱なのだろうか。イケメンなる言葉も何を表しているのか。ご老体はどうお考えになる?」
「池面とか活け麺とか射毛綿‥‥。はて、ほんに謎ですなぁ」
老人と律吏、顔をつき合わせて考え込む。所詮は夢だ、気にするなと、他の冒険者がそれを笑った。
●ランティス・ニュートン(eb3272)の不思議な冒険
俺の初夢は、不思議な世界の物語。上手く語れたならばお慰み!
夢の中でもやっている事は普段の俺と一緒。いろいろな事件を解決する為、あちらこちらに飛び回り‥‥。
ただ、違うのは場所。
無限の暗闇の中に無数の小さな光だけが煌めく。天も地もどこもかしこも夜空の星の如く。そこを俺は鉄の船に乗り、飛び回っていたんだ。
俺は鋼鉄で出来た人形、透明な容器に入った妖怪、そして獣人をお供に連れて、来る日も来る日も悪党共と戦う日々。腰に差した太陽の輝きを放つ変わった筒と、その世界での魔法の知識が俺の武器だ。
そんなある日、突如として急激な転機が訪れた。冒険中に助けた女性が、実はさる国の王女だったらしい。知らない内に恋に落ち、そうする間にも俺達はいつの間にか大きな陰謀に巻き込まれてしまっていたんだ。
敵の手に落ちた王女を追う俺。敵の城を守る無数の鉄の兵隊たち。そこへ鉄の船でいざ特攻をかけんとし‥‥
「‥‥た所で目が覚めた。起きる前に誰かの高笑いが響いていたような気もするが、あの後はどうなったんだろうね?」
「そうじゃの〜。ほんに何故夢はいい所で終わってしまうのやら」
残念そうに告げるランティスに、老人も同じ表情で頷く。
「それにしても変わった夢じゃの。暗闇を船で移動するとな? 海とか池とか水は無いんじゃろ?」
「ああ。もしかすると星の世界というのはああいう感じかなと俺は思っている。そうそう、敵の城からは青くて丸い玉みたいなモノが見えて、どうやらそれがこの世界らしいんだ。実際にああも丸かったら平らな所が無くて立てもしないだろうが、宝石みたいで綺麗だったな」
満足そうに笑むランティスに、なんとなくうらやましそうに老人は目線を向けた。
●御堂鼎(ea2454)の狸ぽこぽこ
人の初夢を知りたいとは酔狂な爺さんだね。ま、酔狂は嫌いじゃないし、酒があるなら舌も滑らかになるってものさ。
うちの初夢は‥‥暮れ正月だろうと、いつもと変わらず寝酒ひっかけてごろ寝したからかね。変な夢だったよ。
実は、うちは四匹の化け狸と知り合いでさ。またこいつらがおまぬけお馬鹿、人様の迷惑になる事万歳っていうどうしようもない奴らでね。‥‥まだ狸汁にはなってないだろうから元気でやってるだろうけどさ。
夢の中にこいつらが出てきて「嫁さんが欲しい」って言うんだよ。
仕方ないんで、棲家を探って嫁になりそうなモノを探すんだけど。そしたら狸の置物が出てきてね。そいつを嫁にすりゃいいって渡したら「祝言を挙げてくる。ついては生まれてくる子は代わりに育ててくれ」な〜んて言いやがる。
しかも。何故かすでに化け狸が卵を抱えているじゃないか! って‥‥狸は卵から生まれたっけか? まぁいいけど。
そんで狸らは「私は月に帰らなくてはいけないのです」とかぬかして卵を置いて帰っちまうんだ。‥‥置いていくなら酒の一つ二つ置いてけっての! まったく、夢の中まで巫山戯た奴らだよ。
「で、目が覚めたら枕元には卵があったわけさ」
「な、なんと!? 夢が真で、狸の卵が!!?」
「‥‥といっても、越後屋の福袋で手に入れたものだけどね」
慌てる老人に、悪戯げに笑んで告げる鼎。ほっとしたようながっくりしたような表情の老人に、さらに笑いかける。
「卵はくれたけど、何の卵かは教えちゃくれないんだよね。何が生まれるか気になるじゃないか」
「その期待が夢に出たのかの? まぁ、元気な命が生まれてくればよいではないか」
ひょいと肩をすくめる鼎に、したり顔で老人は頷いていた。
●クリス・メイヤー(eb3722)の未来予知?
おいらの初夢は、リトルフライで空を飛んでたんだな。すぐ傍を鳥の群れが通って、楽しそうなんで一緒に飛んで行ったんだよ。
けど、リトルフライじゃ、そんなに速く飛べないから段々と引き離されちゃって。仕方が無いから周りを見渡すと、知らない森に辿りついてたんだ。
こんな所にこんな森あったっけ? とは思ったんだけど。どうにも疲れてたし降りてみたんだ。そしたら、森の番人がいて、声をかけたら夢みたいな国に入らせてもらえたんだよ。
本当に夢みたいな眩しい国でさ‥‥って、本当に夢なんだけど。そこで楽しく暮らしてたら、ある時、モンスターが攻撃してきたんだ。
おいらも立ちあがって戦おうとした所で、
「目が覚めた、と」
「残念じゃったの、というべきか。むしろ怖い思いをせずにすんでよかったと言うべきか。最初は楽しそうな夢じゃったんじゃしな」
気鬱に嘆息つくクリス。老人は慰めるように肩を叩く。
「それはもう。夢の国なんて、本当にあるならあんな国に行ってみたいと思う程だったな。‥‥でもそれ以上にあのモンスターが気になるんだ。どうにもたかが夢のはずなんだけどね」
予知など出来る訳でなく、やはり夢でしかない。けれど、気になるものは気になる。
「大丈夫じゃよ。正夢なんぞ、そうそうに起こらんて。それにもし起きたとしても‥‥お前さんがたが助けてくれるんじゃろ?」
ついは塞ぎがちになるクリスに老人が笑いかける。問われてクリスは一同を見回し、肩の荷が降りたように笑みを作った。
「これで‥‥皆が語り終わり‥‥。どうだったでしょう? 満足して‥‥いただけましたか?」
アルフレッドが訊ねると、至極満足そうに老人は頷いた。
「そうじゃの。さすが、若いながらもいろいろ経験を積んでるだけあって、面白い初夢を聞かせてもろうた。わしは初夢を見れなんだが、代わりにこれだけの初夢を聞かせてもろたんじゃ。今年はいい年に出来るだろうさ」
言って、からからと笑う。
「そう言って貰うとありがたいな。いや、俺の夢は面白くはあったが、縁起物とは程遠いからな」
笑う老人に励まされ、ランティスがほっと息を落とす。
「縁起物かどうかといえば、おいらの夢もかな。あのモンスターが何を意味しているのか」
「あまり考え込むな‥‥とは私も言い辛いな。玉手箱に謎の言葉。確かに気になるからな」
考え込むクリスと律吏。真剣な態度に、周囲はただ苦笑するばかり。
「それじゃあ気分転換に味噌汁でもどうだろう? 皆、お酒飲んでばかりだったしね。台所借りちゃったけど」
「ああ。お客人にそんな気遣いをさせるなど、申し訳ない」
味噌汁を椀に装う猛に、老人がわたわたと慌てる。
「‥‥そうだ。化け狸らに会わなくちゃ。勝手に人の初夢に出てきた文句を言ってやらないと」
「おやおや。その狸たちにとっては新年早々大変な事じゃの」
配膳する味噌汁を目にしてふと鼎が呟く。耳にした老人は、顔を和ませて朗らかに笑いたてる。そこには憂いの表情など一片たりとも無かった。