【姫路・番外】 その刃 向かう先

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月23日〜01月28日

リプレイ公開日:2006年01月31日

●オープニング

 播州・姫路藩。
 二年前の政変にて交代した藩主・黒松鉄山はその罪を暴かれ、先の藩主・池多輝豊が姫・白妙により捕らえられ、斬首となった。
 謀略で黒松が簒奪した藩主の座は再び池多の家に戻り、唯一の生き残りである白妙が正式に継いだ。
 正統な藩主が戻っての新年。このめでたきを喜んで様々な恩赦がなされた。
 その恩恵を被った者の中に、小幡弾四郎という男がいた。黒松の腹心といえる男で、黒松が藩主にあった時はその権を借り、様々な事に手を貸していたと言う。
 当然、黒松同様極刑にされてもおかしくはない相手である。が、黒松逃亡の際に逃げ込んだ家屋敷の情報をもたらし、捕縛に一役を買っている。その功が取り沙汰され、結局小幡の家は潰された上、自身も藩からも追放となったものの、命だけはどうにか取り留めたのである。

「仇討ちの手助けを‥‥お願いしたいのです」
 冒険者ギルドに訪れたのは一人の女性。名を花野と名乗る。
「覚えていますでしょうか。夏頃、私は妹の件でこちらに伺った事がございます」
 花野の妹・菊。小幡の邪恋の末、策略による罪を背負わされ、殺された挙句にその亡骸は井戸へと捨てられた。死した後、霊となって小幡に恨みを繰り出すが、当の小幡はそれを喜び菊を囲う。
 その所業を知った花野は、小幡から哀れな妹を解放する為にギルドに依頼を出した。
「あの頃は姫様の事があるので詳しくは申せませんでしたが‥‥。実は菊は、城にあって白妙さまを助ける役を授かっておりました」
 黒松に仕えてその動向を探り、白妙たちに情報をもたらす。敵の動向を知るのは重要であるが、ばれたら命が危ういばかりでなく、当時はまだ潜んでいた白妙たちも危険に晒す事となる。
「菊は危険なそのお役目を懸命に果たしておりました。しかし、あの子の意に反し、小幡の浅はかな企みに貶められ、短い命を終わらせ‥‥、さぞかし無念だったのでしょう」
 花野が唇を噛んで苦しみを告げる。悔しさで泣きそうになるが、それをこらえると睨むように係員に目を向ける。
「私は妹が解放された後は小幡にただ復讐する為、その機を計る為に姫様たちに手を貸しておりました。そして、姫様は無事に御帰城なされ、小幡も処罰を受けました。けれど、あいつはまだ生きております! のうのうと妹の事など忘れたように!! 
 そも、あの子は何の罪があり、死なねばならなかったのでしょう?! ただひたむきに生きようとしたあの子が死に、なのに、あいつはその汚らわしい生を送っているとは‥‥。どうしても許しがたいのです!」
 血を吐くような声音で花野は言い切る。
「小幡は姫路を追い出されて後はここ京に移り住み、洛外にてごろつきとつるみ生きているようです。仇討ちの件は白妙様からお許しをいただいております。ですが、わたくしの腕ではあいつを倒すには足りず、またそのごろつきたちが加勢に入るならなおさらの事。
 ‥‥どうか、妹の無念を晴らす為、この仇討ちにお力添え下さいませ!」
 手の内には懐剣。それをしっかりと握り締めながら、花野は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea0366 藤原 雷太(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4870 時羅 亮(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2041 須美 幸穂(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2704 乃木坂 雷電(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「生きてたんだ、あの人」
 呆れたような驚いたような微妙な声で告げたのは時羅亮(ea4870)。
 姫路にて起きた謀反。謀略でもって藩主の一族を殺害した上でその座を乗っ取った黒松鉄山。その腹心の部下である小幡弾四郎。
 立場的に処罰されてしかるべき相手だ。そして、性格はといえば‥‥、
「見聞するに、甚だ人のする所業で無い事をやっていたようでござる。下世話な相手でござるな」
 藤原雷太(ea0366)が不快そうに嘆息づく通り、ろくでもない御仁ときている。
 同情の余地はかけらも見えない。むしろ今現在も生きてる方が不思議で当然。だが、黒松逮捕の功となったのは一つの事実であり、それを忘れる訳にもいかなかったようだ。
 だが、藩と体面はそれでよくても、やはり納得いかない者はいる。依頼者の花野はその筆頭であろう。
 姫路藩でも苦渋の決断だったようで、花野もその事情を心得てはいる。陰鬱そうにその美麗な顔を俯かせていた。
「まぁいいわ。黒松は長壁姫に先越されてしまったけど。その憂さを彼で晴らさせてもらいますわ」
 拳を握り締めると、藍月花(ea8904)が冷たく言い放つ。
 元の所業も勿論だが、菊の話を聞いた以上、なおさら許せるはずもなかった。
「仇討ちに懐剣一つとは不安だな」
「ええ‥‥。ですが、武芸とは生憎無縁に生きてきましたので‥‥」
 乃木坂雷電(eb2704)の言葉に、言外に、こんな事ならばと苦渋を滲ませる花野。唯一つの武器を堅く握り締める花野に、雷電は軽く笑いかける。
「向こうもよからぬ輩とつるんでいるらしいし、その戦力も見当がつかない。‥‥だったらせめて余計な邪魔する奴の相手くらいは引き受けよう」
 新たな技も覚えたし、武具も揃えたと、雷電が不敵に微笑む。
「‥‥本当は、仇討ちなど行わない方が良いのですが」
「ここまで来たら、それを言っても仕方が無いでしょう。かくなる上は成功させたいものです」
 寂しそうに告げる須美幸穂(eb2041)。似た口調で諭しつつ、けれど山本佳澄(eb1528)は強い口調で思いを告げる。
 花野もまた、寂しそうに冒険者達を見遣る。けれど、その手にした懐剣は力強く握り締めたままだった。

 弾四郎の現状を花野から聞くと、冒険者の中にはさらに仔細を調べるべく聞き込みなどを行う者がいた。
「小幡を含めて総勢九名。行動は大体バラバラなんだが、概ね、昼の内は遊び暮らして、夜に寝に戻るくらいかな。博徒とつるんで用心棒と称したカツアゲまがいの事をしているみたいだ」
 亮は弾四郎を見張って行動を確かめた結果を報告。
 掘っ立て小屋のような家が並ぶ中、さらにぽつんと外れてあるその小屋は元々荒くれ者が住み着いていたらしい。最近その仲間入りした弾四郎だが、ごろつきなどとは腕の差が違う。胡散臭い用心棒家業でも結構やってはいけてるようだ。
「小幡の生活は真面目といえば、真面目だね。女も博打も興味ない感じ。酒もたしなむ程度だし。だから、大体決まった時間にはあの家にいる」
 ふぅ、と嘆息づく亮。真面目なのは時間割ぐらいで、行動自体はどうしようもない荒くれ者‥‥いや、腕が立つにもかかわらず無力の人間を平気で脅すのはどうあろう。
「今は家にいる。見張ってもらってはいるけど‥‥」
「ええ、小幡は動いてはいません」
 何もない所から声がしてぎょっと冒険者たちは身を竦ませる。が、よく見れば声のした風景が歪んで見える。と、幸穂が姿を現した。インビジブルだった。
「外から聞き耳を立ててましたが、もう、小幡は出かける様子は無いようですね」
 情報はきちんと仕入れたにも拘らず、幸穂の顔は微妙に残念そうで。
 弾四郎に対して一つの疑問がある幸穂としては、近付いた隙にその答えを探りたかったのだが。あばら家の内はごろつきどもがうろついている。姿を透明にしても分かる者は分かるし、迂闊に近付けばばれる危険があった為に、外から聞き耳を立てるぐらいしか出来なかった。
「魔法の効果も切れそうだったので、一度戻りましたけど。その際、帰ってきた下っ端が酒を分捕ってきたと喜んでました。これから酒盛りだと騒いでましたし、今夜辺りがよさそうでは?」
「そう。おじさん、やってくれましたね」
 予測通りの結果を知り、満足げに月花が微笑する。
 ごろつきの生活など想像に難くない。酒が入れば飲むに違いないと、月花はごろつきがよく出入りする酒場に酒を渡しておいたのだ。
「それじゃ、決行は今夜で‥‥、だけど。その前に、花野さんに聞いておきたい事がある」
「? 何でしょう」
 改まって訊ねてくる亮に、訝しげに花野は首を傾げている。
「妹さんの敵討ち。それに僕らは手を貸すだけだ。‥‥キミは小幡弾四郎の命をとる覚悟は持っているね?」
 真剣に訊ねる亮に、花野は思わず息を呑んだ。驚いたような表情を見せた後に、やがて気を引き締めると、
「はい」
 と、はっきりと口にする。
「本当に、ですね。半端な覚悟で仇討ちなどはできませんよ」
 重ねて訊ねてくる幸穂に、花野はきっぱりと告げる。
「ええ、勿論です。あんな輩の命で、妹の不幸が贖えるとは思えませんが‥‥。許してなどおけません!」
 花野は弾四郎がいるあばら家へと鋭い視線を投げかける。
 その目に迷いはなかった。

「花野殿を入れてこちらは七名。大して向こうは九名と若干不利でござるな。ごろつきの実力は大したことなさそうでござるが、油断は禁物でござる」
 雷太の注意に皆が頷くと、冒険者たちは速やかにあばら家に迫る。
 中では手にした酒を楽しんでいるらしく、大きな笑い声や馬鹿話が古い壁を通り抜けて聞こえてくる。見張りのような者もなく、この騒ぎだと近寄るのに苦労はなかった。
「総揃いだな。寝ている感じの奴もいるが‥‥騒ぎ出したら起きてくるだろうがな」
 騒いでるとはいえ、時間は夜。詠唱の際の光でばれぬよう注意をしながら、バイブレーションセンサーで雷電は中の様子を探る。
 家の様子はすでに掴んでいる。逃げられそうなのは玄関口と縁側ぐらいで、庭の方に亮と雷電が回りこむ。
「向こうの方が人数多いですし、味方を盾に逃げるかもしれませんが。‥‥今回の目的は敵討ちの手伝いであり、殲滅は二の次。皆様もお忘れなきよう」
 佳澄が告げると、分かってると冒険者達が笑う。
 その笑みもつかの間、月花が扉の前に進み出ると大きく深呼吸した。
 笑みを消し、扉を睨み付けるや拳を叩きつける。ぼろい木製の扉はさほどの苦労無く吹き飛び、中への行き来が自在となった。
「てめぇら!! 何者だ!!」
 突然の襲撃に、祭り騒ぎはぴたりと止まる。顔が赤いのは酒気か怒気か。誰何する声に、花野が進み出る。
「菊!! ‥‥い、いや。違う! お前、何者だ!!」
 花野の顔を見た途端に、弾四郎の顔に狼狽が走る。手にした酒盃を落とした事にも気付かず、青ざめた顔で見つめる弾四郎を、花野は恨みを込めて睨みつける。
「小幡弾四郎! 我が妹・菊に恋慕し、自分のモノにならぬと知れば、あらぬ罪を着せ無情に殺害した事! たとえ誰が許そうともこのわたくしが許しませぬ!!」
「菊の、姉‥‥だと! そうか!」
 弾四郎の表情が緩む。と、何がおかしいのか肩を揺らして失笑し、やがては大声で笑い出す。
「馬鹿な女だ! ただ俺の女になっていれば贅沢が出来たものを!! 一介の下働き風情が俺をコケにするから、あんな目にあうんだ」
「何を!!」
 腹を抱えて笑う弾四郎に、花野の顔色が変わる。悔しそうに歯を噛み締めて、弾四郎を見据えるや、衝動的に刃を構えて飛び出そうとした。
 が、その前に邪魔が入る。
「おいおい。物騒な物出してくれんじゃねぇよ。人ん家に入る行儀ってモノを弁えろよ」
 下卑た笑いで花野を捕まえようとし、こっぴどくその手を打たれる。
「お下がりなさい! 貴方がたに用はありません!!」
 手酷く振られて、男達の顔色が変わる。
「構うことはねぇ! やっちまえ!!」
 おお、と声を上げるや、男達は得物を手にした。
 広さを確保する為か、それとも逃げ出そうとでも考えたのか。がらりと縁側の戸を開けた男の動きが止まる。
 すらりと日本刀を抜く雷電と亮。
「悪いけど。用があるのはそこの小幡だけ。痛い目に会いたくなかったら死んだふりでもしていてよ」
「ほざけ!!」
 激昂したごろつきが亮へと切りかかる。その刃を右手の十手で受けると、左手の刀で切り返す。
 オーラを付与した一撃は切れ味も鋭く、ごろつきを断つ。
「ちぃ!!」
 実力の差を感じたか、ごろつきが戸を閉めようとする。それをすかさず雷電が押しとめる。
「せっかく技名を考えたが‥‥どうやら破断撃はお預けのようだな」
 がっかりする雷電。相手が着の身着のままなので、わざわざ鎧を砕くような技を使う必要も無い。
 やれやれと嘆息づく様を隙と見たか、ごろつき一人がかかってくる。
 唸りを上げて刃が迫る。だが、雷電はそれを躱すや、即座に相手へと日本刀を叩きつけた。刀の重みを乗せた返し技は、ごろつきの胴へと吸い込まれ、血反吐を吐かせる。
「獄門砕。これはうまくいったな」
「そういう暢気な事を言ってる場合でもないでしょう」
 目に付くごろつきを殴り飛ばしながら、苦笑する月花。勿論、雷電も手を抜いている訳ではない。
「風の志士。山本佳澄、参る!!」
 気合を入れて叫ぶや、日本刀を抜いて佳澄が家の中に踏み込む。阻もうとするごろつきたちだが、ライトニングアーマーを纏った彼女に攻撃を加えるや、その手が鋭い音と共に弾き飛ばされる。
「雑魚が何人いても鬱陶しいだけでござるが‥‥、さて、小幡の奴めはどこに消えたでござる」
 後ろからの攻撃も、即座に反応して切り返す雷太。死角無く動きまわり短刀・月露を切り結ぶ彼だが、ふと弾四郎の姿が無い事に気付く。
 恐れをなしたか、何人かが慌てて外へと飛び出している。が、そこはそこで前もって月花の仕掛けていた引っ掛け罠にかかり、地べたに嫌というほど顔面を打ち付けている。
 彼らは身を起こすと一目散に逃げていく。冒険者達もそっちは追う気は無い。
「逃げようと隠れようと、逃がしませんよ」
 幸穂がムーンアローを詠唱。その軌跡は一直線に弾四郎を打ち抜く。
「ちっ!」
 それとは別方向へこっそり逃げようとしていた。弾四郎は射抜かれた患部を押さえる。
 居直り、詠唱を組むとその身がオーラに包まれた。
「黒松を叩けなかったので、次はあなたの番です。覚悟してください!」
 月花が歩を進めると、弾四郎へとその拳を振るう。しかし、その拳がぎりぎりで躱されると、日本刀で突いてきた。
 鋭い一撃が月花を傷つける。浅い上、オーラボディの守りもあるが、決して油断していい傷でもない。
「やはり、そこいらのごろつきとは違うようですね」
 慎重に間合いを取って対峙し、月花が倒れているごろつきたちに目を向けた後、弾四郎に龍叱爪を向ける。
 弾四郎は鼻で笑うと、改めて刀を冒険者達へと構えた。
 すでにごろつきたちは地べたに転がっている。その数が足りないのは逃げた者がいるからで。どの道、用は無い。
 冒険者たちはそれらに構わず、ただ弾四郎と向き合う。
「それでもね。折角、生き残ったところを悪いけど、死んでもらうから!」
「ほざけ!!」
 亮が十手を構える。弾四郎の日本刀が閃くと、佳澄の雷の鎧が火花を発する。月花は拳を繰り出し、雷太が月露を返す。
 退路を断つのは雷電。そのさらに後ろから幸穂が援護で月の矢を放つ。
 さすがは腐り果てても藩士というべきか。軽い身のこなしで冒険者達の攻撃を躱し、的確な一撃を加えてくる。オーラにも精通したその動きは無駄が無く、ごろつきのようなたやすさは無い。こちらの攻撃は避けられる事があるというのに、向こうからの攻撃はほぼ確実に当てられる。
 一対一ならば負けていただろう。が、そうはならない。さすがに大勢は捌ききれず、所詮はその力量ともいえる。
 足を取られ、転んだ弾四郎に佳澄が圧し掛かる。駆け巡る電流に弾四郎が悲鳴を上げた。
 十分弱らせた所で手を離すと、弾四郎は抵抗も失せ、ぐったりと倒れ込んだ
「花野さん、とどめを‥‥」
 静かに月花が促す。
 花野は懐剣を抜き放ち、その刃を弾四郎に向けたが、
「その前に小幡に聞きたい事があります。菊さんは白妙さまの為に城に留まり動いておりましたが、それを察した上での凶行だったのでしょうか」
 幸穂が訊ねると、弱々しくけれど馬鹿にした表情で弾四郎が笑う。
「初耳だな‥‥。だが、そういう事なら‥‥、はっ、ますます俺の女になるべきだったんだ。あいつが望むなら黒松の所業、たっぷりと話してやったのに‥‥」
 寝所でな。
 そう言って、くつくつと下卑た笑いを浮かべる弾四郎。
「貴様! まだ抜け抜けと!!」
 花野が悲鳴のように叫ぶと、その懐剣を突き立てる。
 ぐっと、弾四郎の息が詰まる。押しとどめるようにすぼんだ口からは赤い流れが見えた。
 花野が懐剣を抜くと、あたり一面に血の花が咲く。血反吐を吐きながら、己の海の中に、弾四郎はゆっくりと沈み行く。 
「‥‥菊‥‥‥。今‥‥、行‥‥‥く‥」
 あるか無きかで告げられた声。だが、それを花野は制止する。
「いいえ、あなたは地獄に行くの。何を血迷おうとも極楽に‥‥妹の所になんて行ける訳が無い」
 吐き捨てる言葉に恨みを込めて、もう一度懐剣を捻り込んだ。
 弾四郎の体が衝撃で震える。どことも知れぬ空に笑いかけると、そのまま息を引き取った。
「うわ、うわああああーーーーっ!!」
 残っていたごろつきたちもその凄惨な現場を目の当たりにして、這這の体で逃げ出す。
 逃げるごろつきは放っておき。それよりも冒険者の視線は唯一つに向けられる。
 横たわる死体の傍で、血の雨に濡れて座り込む花野。懐剣を抱きしめただ泣きじゃくる彼女に、言葉を掛けられる者は誰も無かった。