【龍脈暴走】 鬼騒動
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:6人
サポート参加人数:5人
冒険期間:01月29日〜02月03日
リプレイ公開日:2006年02月06日
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●オープニング
昨年の夏に始まり、今なお続く狐達の陰謀。
江戸を越えて、果ては京都にまで手を伸ばし、着々とその策を巡らす。
江戸を望む山の奥。鬼達が集っていた。
「つまり、直にこの江戸に騒乱が起こると?」
告げたのは山鬼。赤銅の肌に二本の角。どこで略奪したか重厚な鎧を纏い、その手には鋭い槍がある。
「ええ、そうです」
答えたのは狐目の男。愛想良くへつらい、しきりと手を揉み山鬼に頭を下げる。その実、どこか小馬鹿にしたような笑みを浮かべているのだが、そこまでは山鬼には分からない。
「薄学な私には詳細は分かりかねますが、同胞が今まさに地脈を狂わせ地震を起こさんと富士で事を起こしております。この鳴動‥‥お分かりになるでしょう?」
じっとしていると、足元から低く震動が伝わる。先ほどから山の獣達も少々騒がしく、この不穏な空気から逃げ出すかのように鳴きわめいている。
「法がなされれば、日本のそこいらで地変が起こるでしょう。江戸も例外にあらず。先の大火に続いて降り注ぐ地の騒動。そこに貴方様が踏み入れば‥‥、ふふふ、人間達の苦しむ様が目に浮かぶようです」
嬉しそうに男は告げる。
「江戸を震撼させた鬼として、貴方様は人間達に恐怖と共に語り継がれるでしょう。どうぞご存分にこの機会をご利用下さいませ」
恭しく男が一礼すると、配下の鬼達が喜び騒ぐ。だが、頭たる山鬼がそれを制すと、眼光鋭く男を射抜いた。
「‥‥俺の強さを知らしめるのはいいとして。それでお前に何の得がある?」
「これは異な事を。私は人が苦しむ様を見れたならそれで十分にございます。ですが、生憎非力な私ではたとえ混乱した江戸に攻め入っても聊かの煩いともならないでしょう。なので、もしよろしければとお声をかけた次第」
慌てて告げる男。それはどこか芝居がかって見える。
「そうか、それでは特等席で人のもがく様を見せてやろう。お前も我らと共に攻め込むがいい」
「は? しかし、私が同行しても足手纏いになるだけでして‥‥」
目を丸くする男を、山鬼は鼻で笑う。
「構わん。お前如きがいようとさほどの枷にもならぬ」
あっさりとそう告げると、今度は振り返り配下の鬼たちに声を上げる。
「聞いたか皆の者! これより変事に乗じて江戸に攻め入る。あの我が物顔で世に蔓延る傲慢な人間どもに一泡吹かせてやろう」
おお! と鬼たちが雄叫びを上げる。力強い呼応を満足げに聞く山鬼。
「が、しかし。もし計画通りに事がなさぬ場合、お前の首を刎ねる。覚悟しておけ!!」
槍をうならせ、男の首に当てる。刃は肉を切るか否かで止まり、男の顔色が変わる。血の気のうせた男の顔を十分に眺めた後に、山鬼は槍を放すと豪快に笑った。
「さあ、野郎ども! 祭りの時間までまだ間がある! 十二分に準備をせよ!!」
たちまち鬼達が騒ぎ出す。それまでに奪った鎧や武器を整備し、纏い始める。
「ちっ、愚鈍なだけの馬鹿かと思えば、妙な知恵を回しやがる」
まだ繋がっている首に手を回し、憎々しげに男は告げる。辺りで騒ぐ鬼達を見る目はお世辞にも友好的とはいえなかった。
人が来そうに無い山奥で。けれど悪事は成せぬモノだろうか。偶然、山奥へと猟に出ていた猟師がこれを目撃していた。
「もしこれが成せば大変な事になります。富士で何が起きてるのかはよく分かりませんが、あの鬼達を討伐して下さいませ」
かくて、依頼が出される。江戸に凶を為さんとする鬼達を退治せよ、と。
●リプレイ本文
「江戸はいろいろと大変そうだな」
富士の高みにて九尾が陰謀を進め、日本のあちこちが混乱する中、江戸の山中では鬼の群れが出現したという。ギルドから依頼を聞いたレンティス・シルハーノ(eb0370)は同情するかのような目線で街を見る。
「それで、鬼はどこに出るんだ。噂や目撃情報は?」
とはいえ、放ってもおけない。鬼を見たという猟師から、矢継ぎ早にレンティスはそれを聞きだすと、壬生桜耶(ea0517)が軽く渋面を作る。
「数が多いようですね。その指揮を取っていた山鬼を倒せれば簡単なのでしょうけど」
「なんの上等上等。それでこそ腕の試しがいもあるというものだ」
鷹碕渉(eb2364)は笑うと、腰の霞刀をぐっと握り締める。
「うーん。この国の事情はまだよく分からないけど。失敗すれば大変な事になるんだよね。あまり浮かれない方がいいんじゃない?」
「あ、いや。この所、戦闘とは無縁にいたから、ついな。決して浮かれてる訳ではないんだ」
困惑するように首を傾げるユーシス・オルセット(ea9937)に、渉は慌てて弁解して畏まる。
畏まるが‥‥やっぱりこれからの戦闘を思ってかそわそわと拳を握ったりしている。
「ま、いいじゃねぇか。堅い事は言いっこ無しで。‥‥ふふ、たまには盛大な火花を見せてやろうじゃないか」
アルティス・エレン(ea9555)が無邪気に微笑む。こちらはこれからの事を楽しみにしているのは隠そうとしていない。
「それにしても、その鬼とは一緒にいた男何者なのでしょう?」
ふと桜耶が首を傾げる。襲撃は鬼の意思というよりも、その謎の男の指図らしい。ただし、そんな山中で好んで鬼の集団と接触するなどただの人間のはずも無く。
「考えても仕方ないだろ。男が何者であろうと、この事態、思い通りに運ばせる訳には行かない」
イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)が告げると、皆が一様に頷いた。
渉やレンティスの補佐に来た冒険者も交え、鬼の目撃地点から進行してきそうな道筋を割り出し、その戦いのよさそうな場所で待ち受ける。
傾斜のある高台から鬼の来ると思しき方向を見遣ってしばし。鬼の群れがぞろぞろと近付いてくるのが見えた。
向こうもこちらに気付いたらしく、ざわめきが風に乗って届く。
「てめぇら、何者だ!」
山鬼が声を上げて問うて来る。
「江戸に害を為そうとする者を放っておける訳がない。このまま大人しく引き下がるか、さもなくば」
イェレミーアスがロングソードを引き抜くと、鬼たちがいきり立って声を荒げる。
「ほざけ! かまわねぇ、野郎ども! 江戸を脅かす前にまず奴らを屠ってやれ!!」
山鬼の指示に、配下の鬼達が飛び出す。それと同時、その隙を逃がさず、鬼たちの後ろに控えていた男がくるりと背を向けた。
その姿が歪むと見る間に黒い狐の姿となり、走り出す。
「逃がすか!」
レンティスが大きく振りかぶると、狐に向かってミョルニルを投げつける。金槌が命中するや、狐はあっと声を上げて倒れる。だが、即座に起き上がると後ろを顧みず再び走り出す。
「ゴブ! ゴブゴブ!」
「放っておけ! 今は目の前のあいつらを殺る事にしろ!!」
逃げ出した狐に、鬼たちが騒ぐ。が、それを山鬼が一喝するや、手にした槍の穂先を冒険者らに突きつける。
頭に指示され、奇声を上げる鬼たち。もはや狐の事など忘れたように、嬉々として冒険者らへと迫り来る。
「逃げたか‥‥。追いかけたいがこちらが先か」
鬼と同様、冒険者らもまた狐の逃亡に唇を噛む。ユーシスが口惜しそうに逃げた狐の後ろを見るが、その視線を無理矢理、鬼たちへと戻した。
「さあて、まずは景気良く行かせてもらおうじゃないか!」
アルティスが詠唱する。体が赤く輝くや、その手から炎の玉が飛んだ。派手な音を上げて吹き飛んだ地面に、鬼たちは驚きを隠せず、思わず立ち止まり列を乱す。
「数が多い時は、まずは頭を叩くのが効率よさそうだな!」
機を捉えると、戻ってきたミョルニルを手に取り、只中へレンティスは駆け出す。飛び込んできた獲物にはっとなって有象無象に群がってくる小鬼や犬鬼たちを蹴散らしながらも、ほとんど相手にせずに山鬼へと間合いを詰めた。
「あそこの鎧を着ている茶鬼と犬鬼の二体。どうやら、あれが両腕といった所か。奴らも放ってはおけないな」
「犬鬼の方が毒を使う分、要注意ですか。先に倒せればいいですけどね」
さらにイェレミーアス、桜耶もそれに続く。
すり抜けられた小鬼たちは無視された、蹴散らされたと騒ぎたてる。
「騒がずとも、ちゃんと相手してあげるよ」
さすがにここまで来たら嬉しさを隠せず、不敵な笑みを浮かべながら渉が走る。引き抜く霞刀をすばやく動かし、隙を突いての攻撃に小鬼たちは対応できずに、次々と斬られる。急所を狙うあまりに、たまには避けられる事があったが、瞬く間に鬼たちは血飛沫を上げて泣き叫ぶ。
「ゴブ!!」
攻め込まれて犬鬼が、鋭い一撃を加える。避けられずに喰らった剣先は、しかし、傷跡以上に痛みを伴う。
「ちっ!」
数の多さもあいまって、囲まれると危ない。繰り出される剣や斧を潜り抜けると、渉は一端間合いを開ける。
そこへすかさず、アルティスのファイヤーボムが飛んでくる。フレイムエリベイションの効用もあって、実に的確に魔法を仕掛けている彼女。
纏めて吹き飛ばされる鬼たち。‥‥なのはいいが。ついでに、渉も爆風に巻き込まれる。
「危ないよ! 味方も巻き込んでどうするんだよ」
注意したユーシスだが、告げた途端に口ごもる。
「知ったこっちゃないよ! 邪魔するなら皆纏めてやっちゃうから」
答えるアルティスは戦闘に高揚したか、狂化している。髪を逆立て眼を血走らせて、笑いながら詠唱する様はどっちが鬼かと思うほど。
果たして、日本人の目にそれはどう映るのか。気にするように渉と桜耶に眼を向けたが、別に気にして無い――というか、それ所ではなさそうなのを見て取る。
放って置くかと小さく肩を竦めると、ユーシスは爆発に混乱する鬼達へと駆け寄り、シルバースピアを突きたてていく。
暴走するアルティスの魔法に、鬼たちの混乱の度合いは甚だしく。その隙を見計らって突撃すると、銀の槍がぶすりと腹を射抜く。
その不甲斐ない部下たちの態度に、戦士級の三体は苛立ちを隠せずにいる。
「君たちはあの狐の策の片棒を担がされてるに過ぎない。大人しく帰るか、刀の錆になりなさい!!」
「うルさい! 黙レ!!」
桜耶が犬鬼に告げるも相手は聞く耳無く、逆にいきり立って剣を突きつけてきた。毒液が塗られたその一撃をかろうじて躱す。
「どうやら、錆になりたいようですね」
仕方ない、とばかりに息を吐く。霞刀を突きつけると、バーニングソードを施した刃を犬鬼の体に浴びせ掛けた。
茶鬼と対峙するのはイェレミーアス。繰り出される斧は意外に手ごわく、避けきれずに手傷を負う。
「ウギギイイー!!」
傷口を押さえてよろめいたその時に、茶鬼が斧を振りかぶると上段より一気に振り落とす。
「なめるな!!」
しかし、その大降りになった一撃をイェレミーアスは身を捻って避けた。鈍重な凶器は、威力抜群に空気を裂き、大地に突き刺さる。
武器を再び持ち上げる前に、イェレミーアスはロングソードを突き立てた。横薙ぎに掃うと、茶鬼の着込んだ鎧と共に赤いモノが飛び散る。
「くうう! なんという事か!」
数で勝る鬼達。だが、冒険者らに押されがちであり、その様子に山鬼は歯噛みする。
「お前らの力も大した事無いって訳じゃねーの」
レンティスが軽口を叩くと、山鬼が鋭い目線で睨み付けて来た。
槍を握る手に力が篭り、一撃、二撃と繰り出してくる。
その刃先をレンティスは捕らえてライトシールドで阻む。そして、攻撃してきた直後を狙い、すかさずミョルニルを打ち出した。
「喰らえ!!」
唸りを上げて戦神の金槌が山鬼へと振り下ろされる。その重さを過分無く乗せ、さらには桜耶から炎の加護も受けている一撃。
山鬼の身がひしゃげると、骨の砕ける音が響き、潰れた肉から傷が裂けるとじわりと血が流れ出した。
「ぐはっ!!」
槍を持つ手に力も篭らず、山鬼が膝を負った。
「何だ、本当に大した事はねぇじゃん」
あっさりと告げるレンティス。そのレンティスを恨めしげに山鬼は睨み付けている。
「おのれ‥‥!!」
「悪いんだけど、まだ他が残っているんでね。早々と決めさせてもらうさ!」
躊躇無く、レンティスは同じ威力を山鬼の脳天めがけて振り下ろした。固い頭部が盛大に歪むと、血と共に脳漿が飛び散る。
どぅっと山鬼の巨体が倒れ伏す。その様を見た下っ端たちが、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。
「ホブホブ! ホブホーブブ!!」
「コブコボブ! ブコボ!」
茶鬼と犬鬼が静まるように諭すが、
「よそ見してる暇はあるのか!」
狼狽しているのはやはり彼らも同じ。目線を外した犬鬼に、桜耶は容赦なく霞刀を入れる。
「敵は一体ではなく、周囲に気を配る必要があるのは確かだが。だからといって、目の前の獲物から意識を逸らすのはどうかと思うな」
イェレミーアスも嘆息つきながら、確実に茶鬼を切り刻んでいく。
「のこのここっち来るんじゃないわよ、お馬鹿さん!! 焼き払ってあげるんだから!!」
混乱する戦場。逃げ出すように道を行きかけた鬼達に、アルティスは笑って叫ぶ。
と、道の前方に炎の壁が吹き上がる。突然の事に立ち止まれず、突っ込んでしまった犬鬼が火達磨になって地面に転がった。
「まったく、数だけ揃って鬱陶しいな!」
渉が救い上げるように刃を上げると、小鬼の腕を切り落とす。
「後はこいつらの掃討かぁ‥‥。でも、いつかは‥‥」
ちらりと山鬼の死体に目を向け、嘆息するユーシス。決意を新たに胸に刻むと、破れかぶれで殺気立っている犬鬼達へと突進して行った。
「加勢の必要は無かったですね」
すべての鬼を叩き伏せて、刃の血を拭い去ると桜耶が肩を竦めてレンティスを見遣る。
山鬼が弱すぎた訳ではない。が、さすがに相手が悪すぎたのだろう。
「気になるのは逃げた男だよな。あの狐、またぞろ何か企んでくるのか」
桜耶や渉の知り合いがそれぞれ狐の後を追ったが、途中で巻かれてしまったらしい。企みを吐かせるつもりだったレンティスとしては少し残念でもある。
「今回は鬼の討伐が一番だ。あれの確保に人数裂いて鬼に失敗していたらいい笑い者だったからな」
渉が諭すと、アルティスもまた頷く。
「そうそ。一応顔は覚えたから、ギルドに報告しておけば警戒はしてくれるでしょ」
戦い終わって気が済んだか、また元の姿に戻ったアルティスが実にあっさりと告げる。そもそも、九尾が富士で陰謀を巡らせている最中に江戸に置いていかれているのだ。それ程、重要な奴でも無いだろう。
その時、足元が小さく揺れた。わずかな振動とは言え、それが何を意味するかを考え、冒険者達は息を飲む。
「こちらの陰謀は何とか潰えた。しかし、大元は今何が起きているのだろうな」
イェレミーアスの呟きに、自然冒険者達は西の方を見る。
「富士という所で、九尾というモンスターが暴れているんだね。そして、この日本を荒らしまわった妖怪へと立ち向かっている人たちがいる‥‥」
焦燥と憧れの眼差しを向けながら、ユーシスは呟きスピアを固く握り締めた。