【龍脈暴走】 地精蛇暴走

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月03日〜02月08日

リプレイ公開日:2006年02月12日

●オープニング

 江戸の地を騒がせていた狐騒動。京都にもその牙を向けつつ、密やかに動いていた狐の御大・九尾の謀は、ついにその真相を露にする。
 富士の頂上にて、神剣の威を用いての龍脈切断。地脈の狂奔に大地の激震を呼び起こそうというのだ。
 便乗した騒動が各地で起きる中、勿論その企みを阻止せんと多数の者が富士に向かう。
 同時に、龍脈を沈めんと各地で僧侶や神官たちが加持祈祷を行う。

『待て!! お前たち!!』 
 頭に直接響くような不可思議な声に呼び止められ、陰陽寮陰陽頭・安倍晴明とその従者たちは足を止めた。
 やはり龍脈鎮護を願わんと社に向かっていた彼らの前に、地面より巨大な蛇が二匹、水面から浮かび上がるように姿を現す。
「‥‥大蛇。地精霊ですか」
 その姿を認めて晴明が告げる。
 巨大な体に岩が張り付いたような奇怪な蛇。動かずにじっとしていればそれは単なる岩の塊としか見えない。
『お前たち! 何をしている!!』
「地脈の狂いはお気付きになっているはず。これより龍穴に赴きて加持祈祷を行い、地脈の鎮静を行う所存でございます」
 蛇たちの目には明らかに怒りの色がある。頭上はるかに鎌首もたげて聞いてくる相手に、しかし、晴明は堪えず平然と答える。
『黙れ! 人間が!! この気の狂いは貴様らの仕業だろう!! 何故にこのような事をするのか!?』
 訊ねておいて、どういう言い草やら。付き人たちは身を引く中で、一人、晴明は渋面を作る。
『何のと言い置いて、またさらにこの地を乱すか! そうはさせぬ! お前たちの愚かな目論見などここで潰えてくれよう!!』
 言うが早いか。かっと大口を開けて鋭い牙を見せるや、こちらを飲み込まんとする勢い込んで襲い掛かる。
「‥‥どうにも聞く耳無いようですね。困ったものです」
 それをひらりと躱すと、晴明が印を組‥‥もうとした矢先、従者たちが止める。
「お待ち下さい。このような所で余分な時間を割いている余裕などございませぬし、このような輩に無駄な力を使う余力もございませぬ筈。ここは我らが食い止めまする故、晴明さまは先に地場に赴き、地脈の整えて下さいまし」
「そうですか。では」
 頼みました、というが早いか。あっさりと晴明の姿が影へと消える。
 荒れ狂う地の蛇二匹を、残された従者たちは真正面から睨み付けた。

「とはいえ。ぶっちゃけ我らの手に終えるモノでもございません」
 冒険者ギルドにかけこんだその従者はきっぱりとそう告げた。
「力では適わず、かといって穏便に我らが諭そうとも相手は聞く耳を持たず。ますます暴れ狂い、このままでは京の都にすら危害を加えんとする勢いなのです」
 困ったように嘆息一つ。
「我らとて晴明様の補佐し、京の龍脈を鎮静させるという大事なお役目を授かってございます。これ程の広域の地脈をどうにかするなど晴明様でも大変かと思われますのに、このままでは埒が明かず、補佐にも向かえません」
 故に、代わって地の大蛇たちをどうにかしてもらいたい。そう言って、従者は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea2266 劉 紅鳳(34歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea6321 竜 太猛(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7197 緋芽 佐祐李(33歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3272 ランティス・ニュートン(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「京都に舞い戻るのも半年ぶりじゃのお。しかし、相変わらず妖怪の動きがきな臭そうじゃて」
「そうは言いますが。此度の件は江戸が発祥。あちらで抑えてくれていたら、このような事態にはならなかったと思いますよ」
 やれやれと嘆息づいて見せるのは竜太猛(ea6321)。道案内をする従者が口を尖らせる。
 北に比叡山の鬼、南に黄泉人、その他雑多な妖怪たちの噂には事欠かず、それ故、妖怪討伐専門の黒虎部隊まで存在しているような地だ。
 それに加え、今回東の狐まで出て来た訳だ。もっとも、その魔手は京都だけに伸ばされたものではない。
 富士での呪法、神剣による龍脈切断による気の暴走で、東は江戸まで混乱が生じている。
「ともあれ、その龍脈暴走の影響で精霊が暴れだしたとはな」
 厄介な事だと、劉紅鳳(ea2266)が顔を顰める。
「地の精霊であれば早々と倒す訳にもいかないでしょう。言葉は通じるようですから、何とか説得をしたい所ですが‥‥」
 言った途端に緋芽佐祐李(ea7197)が言葉を切った。
 見据える前方――つまりは今から向かう先だが――から腹に響く地響きと、高く舞い上がる土煙を見る。嫌な予感で見つめていると、巨大な蛇二匹が鎌首上げて巨体をくねらせている。鋭い牙を見せつけのけぞる様はどう見ても友好状態にあるとは言えない。
「頭が固くて理解が悪い上に、頭に血が上っているってか。こりゃ、無理な時は力ずくで行くしかねぇな」
 見ているだけで疲れたとばかりにバーク・ダンロック(ea7871)が告げるも、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)は静かに首を横に振る。
「説得するからには、覚悟と誠意は持っとかんと。そもそもが誤解や誰かの策に踊らされての事。しなくて言い争いで傷つけあうのは無意味やし、何者かの企み通りになるだけや思います」
 説法でも聞かせるかのように告げたニキ。
 とはいえ、現場の様子を見ているとそう簡単に為し得られるとも思えなかった。

 ともあれ、このままでは京都の街にまで害を及ぼしそうな勢い。大蛇たちの暴走は止めねばならない。
 冒険者たちは駆けつけるや大蛇たちと対峙する。
『何だ! お前たちは!!』
 突然の新手に訝る大蛇たち。その隙に従者たちは礼もそこそこ、急ぎ龍脈鎮静を行う為に陰陽頭・安倍晴明の後を追いかける。
 それをめざとく見つけて、大蛇たちが不満げに尾を振る。
『こしゃくな真似を!!』 
 頭に刺さるかのように響いてくる声。蛇の顔色というものはよく分からないが、怒っているのはすぐに知れた。
「待ってくれ! 俺たちは戦いに来たんじゃないんだ!!」
 いきり立っている大蛇たちにランティス・ニュートン(eb3272)が慌てて弁解を述べる。
『戦いに来たのではないと?!』
「そうです」
 訝る大蛇たちに、佐祐李がおっとりと頷いて見せる。
「今回の龍脈の狂いは遠く富士から。すべては質の悪い妖怪狐が仕組んだ所業なのです。富士からの妖気、感じ取れませんか?」
 大蛇たちは顔を見合わせると、彼方へと目線を向ける。遠い霊山はこの地からでは視認しようが無いが、さて、何か感じるものでもあるのだろうか。
「富士は私たち人間にとっても霊峰。現在地脈の乱れを鎮めようと多くの者が動いています。どうかお静まり下さい」
 佐祐李が一礼を取り、丁重にお願いする。
 大蛇たちは何かを考えるように尾を揺らめかせていたが、
『だが、それもお前たちの陰謀では無いという証拠がどこにある?』
 しゅうっと息を漏らすと、真正面から冒険者達を睨みつける。
『我らをたばかる小細工など無礼千万。今ここで打ち砕いてくれようぞ!!』
 その巨体に見合った尾を振り上げると、佐祐李めがけて振り下ろす。
 はっと息を飲む佐祐李。
 しかし、尾の攻撃は佐祐李に届く前に不可視の壁に止められる。
「説得してるから言うて、防御が無いんもなんやしね」
 ホーリーフィールドを張って、ニキがほっとする。
『おのれ、小癪な真似を!!』
 だが、結局大蛇たちの怒りに油を注いだようで。その尾が複雑に揺れるや、その大蛇の身に茶色い光が輝く。
 はっとして二人その場を離れた直後、一直線に伸びてきた重力波が御仏の結界を打ち砕く。
 躱してほっとする間もなく、もう一匹が畳み掛けるように喰らいついてこようとする。
「ったく!! 何故真実を見極めないんだ! あの妖気が何のモノなのか! 気を研ぎ澄ませば分からん訳が無いだろ!!」
 説得は他の人にまず任せ、後ろから成り行きを見守っていた紅鳳。そのまま出番無く終わりになれば、それでよかったのかもしれない。が、案の定というべきか相手は攻撃を仕向けてくる。
 苦々しく思いながら、迫る大蛇の眼前に立ち塞がる。
 鋭い牙の一撃が紅鳳を薙ぐ。が、交差の瞬間を逃さず、彼女もまた龍叱爪での一撃を返していた。
 鼻面を掻かれて大蛇が飛びのく。警戒して間合いを取りながら、また魔法の輝きを帯びる。岩を纏ったような外見が、さらにごつごつとした岩で荒々しくなる。ストーンアーマーだ。
「やむを得ません。応戦するにしてももう少し広い場所に出ましょう」
『逃すものか!』
 疾走の術で走り出した佐祐李。その後を追うかと思いきや、大蛇二匹の姿が地中へと消えた。
 対象を失い、はっとして思わず足を止めた矢先、バークの足元から蛇が迫り出てくる。
「うわっと!!」
 足をすくわれて転倒しそうになる。が、そこは何とか持ち直すと、きっと大蛇たちを睨みつける。
「だから!! 地脈乱してるのは尻尾をやたらに生やした狐どもだって言ってんだろうがこの石頭ども!!」
『何を!!』
 牙を向く大蛇たち。そんな彼らをバークは鼻で軽く笑い飛ばした。
「全く単細胞野郎が! そんなアホだから狐に利用されるんだろうが!」
『言わせておけば!!』
 挑発を受け流せる程器用でなく、大蛇たちは尾で地を叩くと早々と挑みかかる。素早い攻撃は躱しようがなくバークが跳ね飛ばされる。しかし、巨体でぶつかろうと、バークには何の通用も感じていない。魔法も織り交ぜるがどうやらバークの防御はそれらを上回るようだ。
「ふん、俺のオーラボディがそう簡単に破れるかってんだ」
 オーラ技を達人の域まで高めている彼には、当然といえば当然といえる結果。だが、それは大蛇を余計に怒らせている。
「全く、これでは話し合いどころでは無いのぉ」
 呆れたように首を振り、太猛が大蛇たちを見遣る。両腕の龍叱爪を構えてオーラをこめると、気付いた大蛇がしゃあと鎌首を上げて、
「攻撃するんはあきまへんて!」
 そして、両者の間にニキが飛び込む。太猛が踏鞴を踏んで立ち止まる先、ニキが尾で叩かれて吹っ飛ぶ。
 わざわざ攻撃の間合いに、しかも無防備に出てくる者がいようとは大蛇たちの方も想定してなかったらしい。叩いたその格好のままで硬直し、唖然とした様子でニキを見ている。
『何を考えてるんだ?』
 訝る声に、よろめきながらも立ち上がったニキが胸を張る。
「説得するからには、半端な心構えでするもんや無いどす」
『それであえて攻撃を受けるか? 阿呆か? 頭から飲むぞ?』
「何と言われ様と考えを変える気はありません」
 きっぱりと告げるニキに、毒気が殺がれたかしばし怒りも忘れて大蛇同士顔を見合わせている。
「大蛇たちに聞く! お前たちは俺たち人間が地脈を乱していると言うが、何故そう思うんだ!!」
 ひとまず気が逸れたのを見て取り、その隙にとランティスが叫ぶ。はっしと大蛇たちの目を見つめ、その心の奥まで響かせるかのように訴える。
『こういう事をしでかすのは大体において人間たちに決まっている。実際、この騒ぎに応じて有象無象に動き出しているではないか!』
 鼻を鳴らして断言する大蛇に、佐祐李が静かに首を振る。
「違います。再三申しておりますが、今回の龍脈の狂いは狐の仕業です。私たちが動いているのは、その狐の陰謀を阻止せんが為。決して龍脈を乱す為ではございません」
「大体のぉ。地脈を乱した所で利になる事なぞ何も無いじゃろ。わしらとて、迷惑を被っておるんじゃ」
 太猛も支援するように頷いてみせると、ますます不可解気に大蛇たちは顔を見合わせている。
「地脈の乱れはその上にいるもの全てに影響を及ぼすそうじゃないか。自ら滅びの道を歩もうとする程人間も馬鹿じゃない。‥‥それに、だ。感じないか? こうしている内にも地脈の乱れが鎮まってきているのを」
 ランティスの訴えに、周囲を見回すようにゆっくりと大蛇たちは頭を動かす。
 長く何も言わなかった。身動きもしなくなった蛇たちに冒険者たちはじっと視線を注いでいたが。
『確かに‥‥。地脈の乱れを押さえ込んでいる。これは先に会ったあの者の仕業か‥‥?』
 静かな声に、ランティスは大きく頷く。‥‥内心では、根拠の無いハッタリが外れてなくてほっとしていたのだが。
「ああ、先に向かった仲間たちがやってくれたんだ。‥‥これでもう無駄な争いは止めにしないか?」
 無駄な争い、と聞いて、明らかに大蛇たちの機嫌が悪くなる。彼らは彼らの考えがあって暴れていたのだから。
 それを見た紅鳳が軽く肩を竦めた。
「ここで派手に暴れてたら地脈の乱れが収まるってんなら、いっくらでも相手してやるよ。でも違うだろ?
 そもそもあたしらは戦いたくて来た訳じゃない。あんたらが成すべき事は他にあるはずじゃないのか?」
 どうだ? と問い返す紅鳳だが、返答は無い。痛い所をつかれたか、言葉に詰まっている。
「詳しい事情は分からぬが。ここは一つ、酒でも飲んでじっくり話そうではないか? 皆で用意して来ておるのじゃぞ」
 ともあれ、どうやら争いは避けられそうな気配である。顔を綻ばせて頷くと、太猛は酒瓶を見せる。
『酒‥‥か』
 大蛇たちは特に感慨も無く瓶に鼻つけて中身を確認している。
「おや、ジャパンの蛇は皆酒好きではなかったのかい?」
 驚くランティスに、大蛇たちはただ首を傾げていたが。
『まぁいい。確かに我らの思慮が足りなかったとも考えられる。お前たちの考えを聞くとするか』
 ひょいと酒瓶を加えると、落ち着ける場所へと移動していった。

 その後の話し合いも、お世辞にも簡単に終わったとは言い難い。
 何せ、有態にいえば相手の頭が悪い。言葉一つで相手と一触即発になったり、それを宥めたりしながらどうにか納得させる。
 とにかく乱れの原因は彼方の地でありその対処も行っている。今はこの地で気を揉んでも仕方ない、と言う事を理解すると、大蛇たちはまた何処かへと帰って行った。
 竜脈鎮護の祈祷自体はそれから数日続き、それはすなわち富士での攻防もまたそれぐらい続いた事を語る。
 具体的に何が起こったのかはわからない。
 それでも陰陽寮に晴明の姿が戻り、京が何事も無くまたいつもの日常を迎え始めると、最悪の事態は避けられたのだと知る事は出来た。