【龍脈暴走】 怨霊富士
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:6人
サポート参加人数:4人
冒険期間:02月03日〜02月08日
リプレイ公開日:2006年02月12日
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●オープニング
江戸の地を騒がせていた狐騒動。時に表で騒がしく、時に裏で密やかに、ついには遠く京の都すらも巻き込みつつ繰り広げられていた騒乱はその全貌を見せ始める。
「富士の霊脈を切断か。狐め、小賢しい事を考えおる」
「すでに多勢の冒険者が阻止に向かった他、寺社仏閣でも鎮護を願う加持祈祷が行われているようです」
いかがしますか? と、その従者は目の前の主人に告げる。
その目の前の人物とは、陰陽師・蘆屋道満。京の陰陽寮の陰陽師であるが、江戸の地下迷宮にて発見された月道を開くべく、江戸へと足を伸ばしていた。
その月道は無事に開き、使用するまでの整備なども見届け、さてそろそろ巣穴に戻るかと思い始めた矢先の変事であった。
「他にも狐側の妨害と思しき物の怪妖怪がこの混乱に乗じて騒いでいたりと、騒々しい事この上なく。何らかの手を打たねば被害は広がるばかりと‥‥」
「江戸では、富士信仰が盛んだとか」
不安そうに報告を続ける従者の言葉途中で、唐突に道満は尋ねる。
「え、は? はい。盛んかどうかは分かりかねますが、霊峰富士に参拝する者はおるでしょうし、身体や金銭の都合などから遠出出来ぬ者の為、従来の山を富士に見立てたり、築山を拵えてたりして参拝する者もいるようで」
従者の説明に一つ頷くと、道満は身を翻して歩き出す。
「どちらへ?」
「このような大事に、仮にも陰陽寮に属すわしがむざと見過ごす訳にも行くまい。その見立ての富士を形代に使い、霊峰富士の凶をこちらに呼び込み祓ってみよう。‥‥最も、向こうは九尾に将門が揃っているようだからな。どれほどの助けになるかは分からん。が、やらぬよりはマシだろう。
‥‥お前も何をぐずぐずしているか! 急ぎ支度せよ!!」
「は、はい!!」
強く叱咤されて、従者は慌てて必要と思われる支度にかかる。その様を道満は実に冷ややかな目で見ていた。
そして、冒険者ギルドに。道満付きの従者と云う者が駆け込んでくる。
「江戸の郊外にて、道満さまは富士の災いを払うべく呪法を行いました。築山に富士の凶を降ろし、悪しき気配が周囲に満ち満ちた時、その負の気に魅かれたか多数の侍の怨霊や死人返りたちが現れたのでございます。
今は我らの仲間たちが防いではおりますが、それもどれだけもつやら。
どうか、道満様の加持祈祷の妨げになるこれらを滅して下さいませ」
急いで来たのだろう。まだ息も整わず、青い顔をしたままその者は深々と頭を下げた。
●リプレイ本文
遠く富士の異変。九尾の陰謀が日本を広く揺るがす。
「里への嫌がらせに帰国してみれば、何だか大事みたいですね」
入ってくる依頼人に受けて旅立つ冒険者。それらでごった返すギルドを思いながら、多嘉村華宵(ea8167)は頭を抱える。
勿論、冒険者だけが対処に向かってる訳でも無い。様々な役所機関も動く中、その災厄を少しでも祓い除こうと、陰陽師・蘆屋道満もまたその腕を振るっているらしい。
富士に見立てた築山を、実際の富士の形代に使っての厄払い。しかし、富士に起きた妖気が移りこみそれに惹かれたか、死者たちが集ってきたという。
「ふーむ。時にその道満というのは優秀な陰陽師であるか?」
日本には最近やってきたリデト・ユリースト(ea5913)が、話を聞いて何の気無しに――本当に何の気無しに訊ねてみたのだが。
周囲の反応は実に微妙。勿論、同じく日本に来て日が浅い者はきょとんとしているが、ちょっとでも噂を聞く者は一応に難しい顔をしている。依頼に飛び込んできた道満の従者もまた例外で無い。
「まぁ、優秀ですごい方だとは思うのですが‥‥」
と、苦しそうに答えてくる辺り、あまり突っ込んではいけないのかもしれない。
「とにかくのんびりしていて死霊たちが江戸の町に入ってきては困る。早めに片付けにいくとしますか」
仕方が無いと気持ちを切り替えると、華宵は愛馬・千哉の手綱を引く。
「道は知り合いに頼んで調べてもらったわ。それに従者さんも先導してくれるのでしょう?」
紅千喜(eb0221)が訊ねると、従者が頷く。
「すまんな、ゼット。急いでるのでお前に無理させてしまう」
フィル・クラウゼン(ea5456)もまた馬に呼びかける。軽くその背を叩いてやると、別にいいけど怖いのは嫌ですよー、と言いたげに馬は首を振った。
それを和んだ目で見ていた高村綺羅(ea5694)だが、その眼差しを厳しいものに変える。
「この戦い、必ず成功させないとね。‥‥江戸の為でなく、日本の為に」
混乱は各地に及ぶ。少しでも、その収束を手伝えるのなら。
見送りに来た綺羅の知り合いから励ましの言葉を受けて、冒険者たちは道を急ぐ。
現場に近付く程に人家は少なくなり、そして、さらに進むとそこはかとなく寒気立つ気配がする気がした。
おびえる馬は適当な場所で待たせて、さらに近付くと現場が見えてくる。
群がっているのは侍たち。とはいえ、体が透けていたり、肉の部分が無かったりと明らかに人で無いのが分かる。
築山を前に祈りを捧げる道満。それを従者数名が補佐しつつ、侍たちの攻撃が道満に及ぶのを防いでいた。見ているだけで大変そうなのが分かる。
「まずは、あそこまでたどり着かねばならないんだね」
綺羅は小さく息を吸い、印を組めばどろんと煙が沸き起こる。足の調子を見てすぐに走り出した。同じく華宵も術を組むと走り出す。
共に使うのは疾走の術。素早い動きで華宵が死霊の群れの中に飛び込むと、側面に回りこんだ綺羅がさらに現場を混乱させる。
不意の乱入に死霊たちは慌てる事もせず。どころか、それが獲物であると感知するとおおおうと泣くような音を上げて刀を構えなおす。
華宵はティールの剣で侍たちを切り払う。綺羅は日本刀・九字金定で向かってくる者を捌く。それをアゲハ・キサラギ(ea1011)たちが援護しつつ、素早く道満たちを背に回す。
「さて、ここからが本番。こっちはこちらで対処しますし、そちらもちゃんとお願いしますよ」
素早く華宵が告げると、防戦していた従者たちはお願いしますと挨拶もそこそこ、本腰入れて祈祷を始める。
それがどう行われて本当に効果があるのか。多少気にはなるが、それをゆっくり吟味する時間は無い。
ゆらりと死侍たちが進み出る。虚ろな眼差しは一体何を思うのか。
天に向かって白刃を振り上げた怨霊侍を、千喜は霊剣ミカヅチとシルバーナイフで切り刻む。霞のように姿が揺れぼやけると、ようやく危険な相手と知ったか、恐れをなしたように少しだけ身を引く。
「あなた達。本当に成仏したいならよそへいってらっしゃい。あたしのは、ほんの間に合わせに過ぎないんだから」
その切っ先を向けると、千喜は宣言する。
最も、その言葉ももはや理解できない相手。警告とも挑発とも指摘とも受け取らず、ただ無造作に踏み込み切りかかってくる。
「まずは露払いといきますか」
華宵は剣を振るうと怨霊侍へと刃をかける。空気を相手にするようなほとんど手ごたえの無い感触。だが、魔法の剣は確実に敵を傷つけている。
「あまり前に出ないようにね。甘く見ていると危険だよ!」
身軽に相手の攻撃を躱しながら、綺羅もまた怨霊侍を葬っていく。
「本当に、うざったい‥‥きゃあ!!」
そんな彼らを後方からサンレーザーを撃っていたアゲハ。だが、いつの間に忍び寄ってきたのか、いきなり怨霊侍が間近に現れる。
振り上げた刃がアゲハの体を貫く。ばさりと斬られたアゲハだが、傷らしい傷は無い。不透明の刃はまた幽霊の一部であるもの。とはいえ、無害という訳でなく疲労したかのように体が重くなる。
体制を崩しかけたアゲハに再びの剣撃。
「御冗談を!」
それを喰らう前にアゲハは持っていた清らかな聖水を振り掛ける。ただの液体のように見えるが、浴びた途端に怨霊がのけぞった。
姿が揺らぐその隙に距離を置くと、詠唱する。
「喰らいなさいよ!」
太陽光の湾曲。熱波が怨霊を貫くとさらに歪みが激しくなる。そこにすかさずリデトがピュアリファイをしかければ、浄化の魔法が不浄のモノを形も残さずに洗い清める。
「大丈夫であるか?」
「うん、大丈夫。足手纏いになんて早々簡単にはならないからね」
ついでリカバーをかけるリデトにアゲハは元気よく頷く。それを見て大丈夫と安心するリデトだが、
「さてさて数が多いであるな。知り合いからいろいろと注意を聞いたが、それを守る余裕もあるものであるかな。魔力とて節約して使わねないと後々響きそうであるな」
リデトも間を縫いつつ、ピュアリファイを掛けていく。止めを刺された怨霊が瞬く間に消滅していくが、それでもまだまだ数は減らない。
「少し遅れたが。その分の挽回はさせてもらおう!」
遅れて現場に辿りついたフィルが、混戦の只中に飛び込む。道満たちやそれを守る冒険者達に気を取られ、背を向けていた死霊侍に向かってばっさりと太刀を振るい落とした。
大きく振った太刀の重さ。それを十二分に威力に乗せると、骸骨の骨が一気に砕け散る。からりとか細い音を上げて死霊侍が倒れる。わずかにもがく骨にさらに太刀を叩き付けると、それはまた元の死の状態へと返った。
ほっとする暇も無く、新手が押し寄せる。
浮かび上がる怨霊侍。すかさず太刀を繰り出すが、むなしく刃は幽体をすり抜けるのみ。代わって突き込まれた相手の刀は奇妙な感覚でフィルの身を害する。
「やっぱりこっちには効かないな」
慌てて場から離脱し間をおくと、太刀の代わりに大脇差・一文字を抜いた。
獲物逃さじとばかりに、不気味に迫ってきた怨霊侍に刀を振るう。先と同じくと取ったか、無防備にそれを受け入れた怨霊侍の姿が途端に歪んだ。
奮闘する冒険者たち。だが、わらわらと。わらわらと死霊たちはとり囲んでくる。
「うー、やっぱり僕の腕前じゃ歯が立たないよ」
間近に寄られてアゲハはシルバーナイフを抜いたものの、斬りつけた相手は全く堪えた様子が無い。斬りつけてきた刃を辛くも受けると、横に流して急いで距離を置く。
数が多い分、詠唱中の無防備さが気になる。下手に囲まれると、身を守る事すら危うくなる。
「‥‥援護する」
「ごめん」
音も無くいつのまにかそこにいる怨霊たち。それから距離を置こうとあがくアゲハに、綺羅が盾に入る。
広い戦場を俊足で走り回り、綺羅は的確に支援が必要な仲間の下へと赴き、刀を閃かせる。
そんな彼女に小さく謝るとアゲハはその場を抜け、十二分に距離を置く。
サンレーザーの射程は長い。一度距離を開ければ早々と詰められる事は無い。どの道、幸か不幸か最低の威力だと幽霊にも骸骨にもさした傷にならないのだ。専門的にかける以上は、この際うんと離れても差し支えないだろう。
安心できる場所まで離れると、アゲハは早速詠唱を開始。
「すまぬである。こちらもリカバーをかける暇も無いのであるな」
骸骨という実体を持つ死霊侍はともかく、姿の無い怨霊侍は自由に飛び回る。空の高みに逃れても、ともすれば囲まれそうになる中を、どうにかリデトは飛び回る。ピュアリファイは射程距離が短くはあるが、こちらは高速詠唱も使えるので一応何とかなっている。
「お気になさらず。薬は持ってますのでね」
華宵が死霊侍に剣を入れると素早く蹴倒す。よろけて体制崩した相手を、綺羅はすかさず両断する。
「近付く者に容赦はしないわ。大人しく勝手に成仏してくれたら楽なんでしょうけどね」
道満たちを背に、千喜は両の手に霊剣と銀の小刀を握ると次々と振るっていく。
「相手も無尽蔵では無いからな。そろそろ数も減ってきたし、もう一踏ん張りといった所か」
ふと一息つくとフィルは辺りを見回す。それぞれの活躍でかなり見晴らしはよくなってきている。
が、油断も出来ない。
眼前に飛び出てきた死霊侍。驚きのけぞった先をぼろぼろの刃が素早く振るわれる。
「この国での初戦相手としては上出来か? 少なくとも遠慮する必要は無い。‥‥ビザンツ戦士の力、ジャパンの死霊どもに見せ付けてやる!」
歯を鳴らして死霊侍が素早く刃を掠めてくる。その鋭い切っ先をミドルシールドで阻むと、フィルは新たに一体の死霊を両断した。
戦闘は単調に。されどゆっくりと終わった。怪我はそれぞれ魔法や薬で治すと、後戦いの疲れをゆっくり癒す。
だが、死霊たちが消え去ったにも関わらず、道満たちの祈祷も終わる気配は無く、場にはまだ鳥肌立つような薄気味悪い気配が漂っている。あるいはこれが富士の気配なのかもしれない。
「富士が鎮まるまではまた出るかもしれないであるし。休める内は休むのである」
がんばろう、と声をかけて回るリデト。他の冒険者たちも気を緩めずにその場を見守る。
結局、再たる襲撃は無かったものの、祈祷が終わるまで数日を要した。すなわちそれが富士の異変の経過なのだろう。
「邪悪な気配は消えた。もう富士は大丈夫だろう」
邪気が祓われ、また元通りとなった一帯。ようやく祈祷を終えた道満は満足そうに告げる。
何日も祈祷に費やした為か、その顔は憔悴している。そんな道満にリデトは素直に感心の眼差しを向けていた。
「まぁ確かに大したものですけど。それにしても死霊が出るという状況予想は出来なかったんですか? 最初から冒険者を雇うなりして置けばいらぬ手間を掛けさせる事無く祈祷に専念できたでしょうに」
皮肉たっぷりに笑って告げる華宵を、道満は鼻で笑う。
「わしのやる事に問題は無かった。あいつらが現れたのは補佐したこいつらの力不足が原因だろう。確かにそんな輩を選んだのは失態だったかもしれぬが、この江戸で他に人を見つけるのも難しいし。こやつらの失敗であるからには、こやつらが手間を惜しまぬのは当然だろう」
きっぱりと言い切る道満に、従者たちの方が苦虫を潰している。
その言葉がどこまで真実を示しているのかは分からない。従者に問うた所で道満を慮って口を閉ざすだろうし。
ただ今は、富士と江戸も無事だという事実があればいい。