【見廻組募集】 虎捜索

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月08日〜03月13日

リプレイ公開日:2006年03月16日

●オープニング

 世に動物を飼う人は多い。
 犬猫は勿論、牛馬鳥など実用性を重視した動物まで様々。
 それは時には人間以上の扱いを受けるが、逆におざなりに扱われる事も多い。
 面倒見切れないと放置したり、どこぞの野山に捨ててみたり。
 今まで人間から世話してもらった身では、野生に抗しきれずそのまま命を落す者もいるが、中にはきちんと野性に返って人に迷惑をかける例もある。
 また、そこにいるだけで危険極まりない動物というのもいるし、なのにそれを飼おうという物好きもやっぱりいるのである。

「好事家っていうのはあれだな。どうしてこう面倒なもんばかり飼いたがるのかねぇ」
 冒険者ギルドにて。うんざりと喋るのは京都見廻組に所属する占部季武。ジャイアントで大柄な侍が、卓に頬杖付いて嘆息する様は似合うんだか、似合わないんだか。
「こないだ、闇取引で私腹肥やしてた悪徳商人を捕まえたんだが、そいつがその取引で手に入れた珍しい動物を山奥で密かに飼ってたってんだ。重要な証拠になるし、放っとく訳にもいかねぇから様子を見に行ったら、管理してた奴が俺らに泡食って逃げ出して。まぁ、そっちは小物だから放っといてもいいんだが、そいつ、逃げる際に檻を開け放して、おかげでその動物が逃げ出しちまったんだ」
 檻。その一言で厄介な動物だろうと推測が付く。
「一体、何の動物だったんでさぁ?」
「虎。それも二匹でつがい」
 尋ねた係員の前で、季武が卓に突っ伏す。係員だって同じ気分だ。
「虎ってだけでも厄介なのに。二匹で、しかもつがいって事は下手すりゃ増える可能性がある。唯一の救いは、人里からずいぶんと離れてるんで人が襲われる心配が少ないっちゅう事だが、それだっていつ山を降りてくるか分からんしなー。
 早い所捕まえてぇんだが、現場は山奥だし、早々構ってもられねぇ。なもんで、こっちから人を回して欲しいって訳さ」
 係員が頷く。それで終わりかと思えば、まだ話はあるらしい。妙に改まった態度で季武は続ける。
「実はだな。ここん所、妙に治安も悪くて見廻組の手もおっつかねぇ。新撰組の奴らも何かとこっちにちょっかい出してきて、鬱陶しいしな。
 だから、こっちの方でも人員を増やす事になったんだ。今回、もし希望する奴がいるなら遠慮なく言ってくれ。働きを見た上で問題なければ、俺から推挙してみる。相応の実力ある奴なら黒虎の方に引き抜いてくれるかもしれないぜ」
 にやりと季武が笑う。
 見廻組は志士及び侍で構成されるが、今回はそれ以外からでも門戸を開く。ただし、隊士の中には雑多な浪人をかき集めた新撰組のようだと非難する声も多いので、つらい所かもしれない。
 とはいえ。依頼の内容は虎捕縛であり、これが為しえなければ意味は無い。虎二匹の生死は問わないが、重要証拠でもあるので原型はなるべく留めて欲しいとの事。

●今回の参加者

 ea2448 相馬 ちとせ(26歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6609 獅臥 柳明(47歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0201 四神 朱雀(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1798 拍手 阿邪流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2215 朝瀬 凪(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3824 備前 響耶(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

夜枝月 奏(ea4319)/ メイリア・インフェルノ(eb0276)/ 太 丹(eb0334

●リプレイ本文

「全く。欲に眩んだ者たちはどこに行っても存在するのですかねぇ‥‥」
「まぁな。綺麗さっぱりいなくなってくれたら、俺たちは仕事しないで金だけもらえて万々歳なんだがなぁ〜」
「‥‥それはそれで別の問題が発生してませんか?」
 遠い空を眺めながら、憂いの言葉を吐くのは朝瀬凪(eb2215)に、京都見廻組・占部季武は生真面目に頷いている。が、その内容を吟味しなおした凪は不安顔を向けた。
 京都の治安を守る組織は多い。源徳配下新撰組、平織直属黒虎部隊。そして京都守護職配下検非違使に京都見廻組。また京の危機を憂う各藩主たちが独自に采配する見廻組などもある。
 それぞれに役割分担は決まっているものの、それを実直に守るような組織も無い。なので互いに牽制しあい、時にぶつかり血花を咲かせたりもする。
 そんなものだから、治安を守る組織が多かれどもその裏を掻いて私腹を肥やしたりする悪党どももいっかな減る気配が無い。
 今回の依頼もまたそれに関わるようなもの。依頼人は京都見廻組。悪徳商人が飼っていた虎二頭が逃げ出したので、証拠物件として捕まえて欲しいとの事。
「とはいえ、虎は厄介だぜ。簡単にでかい猫という奴もいるが、猫と虎とは爪も牙も大違いってな」
 拍手阿邪流(eb1798)がどこか皮肉げに肩を竦めて見せる。以前戦ったという話を聞く事は出来たが、簡単に捕らえられる相手で無いのは確かなようだ。
「虎は大体単独行動を取り、昼よりも夜の方が活動しやすいそうです。それと泳ぎも達者だとか」
 相馬ちとせ(ea2448)が調べた事を告げると、四神朱雀(eb0201)も同意で頷く。
「こっちも知り合いに頼んで仕入れてもらったが、情報は似たようなものだな」
「ってすると、今回の二匹は別行動とってる可能性も高いって訳か?」
 面倒そうに告げる季武に、二人は困惑した表情を浮かべながらもやはり同時に頷いた。
「だが、相手に不足は無い。たまたま武闘大会が無いからギルドに赴いてみただけでしたが‥‥天が俺に『戦え』と言ってるような」
 霞刀に手を置いて、朱雀が口端だけで笑みを作る。
「俺も虎を絵でしか見た事が無いからな。その虎と戦うというのは結構貴重な経験になるかもしれん」
 感慨深く備前響耶(eb3824)が告げる。
「喜ぶのは構わんが、なるべく生かして捕らえてくれよ。最低、原型は留めてくれないと証拠品として役に立たないからな」
「分かってますよ」
 大雑把に告げる季武に、朱雀は軽い調子で返事を返す。
「それでは、そろそろ虎狩りに行くとしましょうか。人里から離れた不便な場所という話なので保存食は必要でしょうけど‥‥越後屋は開かない、棲家は閉め出しくらう。その辺の管理はどうなってるのですやら」
「んな事ぼやかれてもなぁ。大家や越後屋に直接言った方が早いし確実だぞ」
 嘆息つきつつ歩き出す獅臥柳明(ea6609)に、困ったように季武は頭を掻いていた。

 山奥に作られた施設。そこに商人が飼っていた虎が隠されていた。人里から離れているのは単純に人目を避ける為だろうが、虎が逃げた今、被害がすぐに出にくい場所であったのは幸いというべきか。
「山に慣れてる猛獣相手に、索敵するのも骨だ。ここは一つ向こうから出てきてもらう事にしよう」
 言って、響耶はぐるりと辺りを見渡す。うっそうと茂る木々で視界が狭い。虎の派手な模様も身を潜める保護色。おまけに山の動きでは向こうの方に分がありそうだ。そんな相手が潜む山に入るなど、危険極まりない。
「檻は大丈夫ですね。使えそうです」
 その虎を入れていた檻を見つけ、ちとせは念入りに調べる。
 虎は管理を任せれていた者が逃亡する際に敢えて逃がした。ので、檻は無事だろうとの読みは間違いではなかった。二匹別に管理していたようで、檻もきちんと二つある。
「戸はこういう形か。‥‥じゃ、縄はこう巡らせりゃ大丈夫だな。一匹でも入りゃ、それでいいんだし。ま、無理なら落とし穴でも掘りゃ嵌ってくれっだろ」
 言うが早いか、阿邪流は縄を檻の戸に巻きつけ、物陰に隠れながら戸が閉められるように巡らせていた。
「ああ。最低一匹は罠にかけたいな。相手にするのも易くなる。二匹同時はさすがに御免だからな」
 ひょいと朱雀が肩を竦める。
「さて、それでは餌を置くが‥‥皆、準備はいいな?」
 一言断り、同意を確認したうえで響耶と阿邪流が用意してきた保存食を檻の中に置いた。
 途端に、強烈な魚臭が辺りに広がる。匂いの是非はともかく、これだけ臭気が強いと気分が悪くなりそうだ。
「一応周囲を見て回りましたが、他の猛獣や怪物がいる気配はありませんでした。なので、来るとしたらお目当ての相手ぐらいと思いますけど」
 ちとせがやや不安げに告げる。ともかく今は待つしかない。
 油断せぬよう、交代で見張りにつく。響耶の案で、大体二人で組み、三組で順番に様子を見て回る。何時来るか、本当に来るか分からぬ相手をただ待つのはひたすら忍の一文字でしかない。
 やがて日も暮れて、月が昇る。そうして月が沈んで日がまた昇る。その間中、じっとただ待つ。
 山にいるのは虎だけではない。狼や熊も出る。そういった動物を警戒する意味でも、響耶は火を焚く事を進めたが、そうすると虎も警戒して近寄らなくなる可能性もある。どうするべきかさんざ悩んだ挙句、火は最小限に留める事になった。ま、満月も近いし明かりにはそうそう困らない。
 昼は鳥の鳴き声で煩いが、夜は獣の遠吠えが山に響く。それの中に聞きなれぬ声が聞こえないかも、神経を尖らせる。
「おいでなさったぜ」
 そして、その日の陽が沈んでまたかなりたった頃。闇に光る目があるのを見つけ、阿邪流が小声で告げた。
 それからもそれはしばらく木陰の暗がりを彷徨う。やがて、のそりと出てきたそれの正体は、やはり虎。月光の下、その巨体を堂々と晒して歩く姿は、猛獣ながらも美しいと感じずにはいられない。
 出てきた虎は一頭。物陰に隠れたまま辺りを確認するが、もう一頭の姿は無い。
 虎は匂いが気になるのか、周囲を気にしながらも檻へと近付いてくる。やはり元々自分の住処だったからか、中にすんなりと入ってくれた。置かれた保存食へ興味深そうに鼻を近付けているのを見ながら、阿邪流はそっと縄を手繰って檻の戸を閉める。
「鍵、鍵〜っと。‥‥とりあえず縄巻いて止めておくか」
 小さな保存食を苦労しながら食べている虎に冷や冷やしながらも、無事に捕獲が済んで阿邪流は安堵の息を漏らす。
「ご苦労さんっと。後はもう一体だな」
 少なくとも一頭は生け捕りにできた事で、季武は上機嫌だ。
「そのもう一頭がどこにいるかですね。同じ手に引っかかってくれるといいのですが‥‥」
 困ったようにちとせが息をつく。
「どうしました?」
「ああ、柳さん。どうやら、そんなに待たずに住みそうですよ」
 ほっとしている冒険者達とは別に、あらぬ方向を注視している凪に柳明が声をかける。
 隠れるよう身振りで指示しながら、凪が見ていた方向を指差す。その方角、よく見ると巨大な何かが動いていた。
 再び隠れて見る事しばし。現れたのはもう一頭だった。
 虎は、檻やその中の保存食にはさほど興味を示さず、先に捕まった虎に近寄る。その周囲を彷徨い、そして、いきなり邪魔だと言わんばかりに檻を殴りつけた。
 がんっ、と重厚な音が辺りに響く。新しく現れた虎は続けざまに檻を叩くも、中にいる方はたまった方ではない。牙を剥いて唸りを挙げると、その虎に向かい襲いかかる。
「檻、壊れそうだな‥‥」
 ぼそりと季武が呟く。二匹に内と外とで暴れられて、檻はその都度激しく揺れる。すぐに壊れる事は無いが、何かの弾みで戸が開く可能性は高そうだ。そうなると、また二頭捕らえる所からはじめなければならない。
「仕方ないですよね」
 凪が肩を落とすと、物陰に潜んだままで風魔法を詠唱する。掌から放たれた真空の刃が表に出ていた虎を襲う。不意の攻撃に、虎が驚いたように周囲を見渡す。
 その様子に凪は顔を顰める。虎の毛は舞ったが、傷らしい傷など無い。ウインドスラッシュを何度仕掛けても同じ事。虎の変化はほとんど無い。が、さすがに鬱陶しくはあるのか、虎は不服気に喉を鳴らしその場から身を翻した。
 もっとも、逃亡までさせる訳にはいかない。ある程度、檻から離れた所で、回り込んだ冒険者たちが虎の正面で出迎えた。
 不穏な空気を察したか、虎が身を低くしながら唸りを上げだす。むき出しになる牙は、恐ろしく鋭い。
「圧で負ける訳にはいくまいよ。‥‥お前より手ごわい相手と向き合った事もあるしな」
 響耶が忍者刀を抜き、一歩も引かずに睨み返す。その殺気が分かったか、虎がますます声を上げた。
 そして、虎が動く。太い四肢が地を蹴るとすばらしい勢いで冒険者達へと迫る。
 襲い来る生きた凶器をちとせは前に出て受け止める。その爪が叩き込まれるとその肌が抉り取られた。ストーンアーマーを纏ってなければもう少し酷い傷になっていたはず。
「神皇様より賜りしこの地の鎧‥‥。早々と屈する訳には参りません」
 傷に手をやりながら、小太刀を抜いて斬りつける。厚い筋肉に刃が通らず、やはり傷らしい傷にはなってない。それに舌打ちしながらも、負けじとちとせは虎を睨みつける。
「はぁ!!」
 ちとせが引きつけている隙に響耶が忍者刀を叩き込む。皮が切れ、肉が裂けて血が吹き出る。やったと思った途端に、虎がすさまじい目で睨みつけるや力任せに響耶を打ち叩いた。
「がはっ!」
 掻いた爪あとは、自身が与えた傷よりも深い。きっちり返された仕返しを苦々しく思いながらもさらなる攻撃を受ける前に、響耶は立ち上がって避ける。
 その前に素早く虎は距離を詰めて二撃目を放とうとする。その間へと柳明が割って入った。
「ギャオ!!」
 誰がいようと虎は気にしない。その攻撃目標を柳明に変えてただ排除しようと爪を振るったが、振り下ろされた時点で悲鳴を上げた。
 上がる火花に虎は素早く飛びのく。どこか怯えの色を見せた虎。ライトニングアーマーを纏った彼は一歩踏み込むや、小太刀を突き入れる。帯電した刃はさらに威力を増して虎の身へと吸い込まれた。
 さらに悲鳴を上げる虎。そこに畳み掛けるように、朱雀が霞刀を素早く掠めて斬り付ける。
「でえりゃあああ!!」
 気合と共に季武もまた太刀を虎へと奮い立たせる。瞬く間に虎は朱に濡れ、その金と黒の体毛が斑に染まっていくも、倒れる気配はさらさらに無い。
「流石‥‥、人間相手とは違うな」
 常に対している人とは違う間合いに、攻撃の型。そしてなにより野生の体力と強靭さ。それを目の当たりにして朱雀はむしろ感心した声を漏らしていた。
「うっわ、こっち来んなよ!」
 けれど、度重なる危険にさすがの虎も怖気づいたか、その場から逃げようと暴れ始める。が、それをなさせる訳にはいかない。
 たまたまその方角にいた阿邪流が顔を引き攣らせながら、十手で爪を受け止め、陰陽小太刀・照陽で切り返す。
「こっちです!!」
 柳明が声をかけると、虎が即座に反応して振り返る。が、そこには誰も無い。事態が分からず躊躇した虎に向けて、即座に冒険者たちの刃が振った。
 ヴェントリラキュイ。だが、その隙も一瞬の事。攻撃を悟った瞬間には、虎は冒険者を弾き飛ばす。
 倒れた彼らに喰らいつき、骨ごと肉を引き千切ろうとするも、それで牙が封じられている間に別の誰かが斬りつける。
 逃亡ままならず、前に立ち塞がる冒険者たちに次第に虎も苛立ちを募らせ、やがては傷の痛みと血の匂いに狂い、その力を存分に奮い立たせて虎は敵を排除にかかる。
 鋭い爪に太い牙。それらを相手に冒険者たちは奮闘を続ける。
 
 虎一匹。始末し終えた時には皆満身創痍だった。体力も尽きて、倒した虎の始末もそのままに、しばし誰もが口も利かずにひっくり返る。
「面倒そうな相手だとは思ってたけどな。これ、二匹相手してたら誰か死んでたなー」
「笑い事じゃねぇだろ」
 やがれおもむろに身を起こし、豪快に笑い飛ばした季武に、阿邪流はちょっと握り拳を作ってみたり。
「はっはっは。わりぃ、わりぃ。ま、治療代ぐらい出してやるからそれで勘弁してくれや」
 あくまで笑い飛ばす季武に、怒るのも疲れて一同倒れこんでいた。
「後、まだこの虎たちを証拠品として持ち帰らねばならないんだな」
 荷車を持ってきておいてよかったと響耶は考える。檻に入った生きた虎を運ぶのも手間なら、死んだ虎にしてもかなりの重量。単に運ぶとなるとまた面倒な事になっただろう。
 十分に休息をとった上で、冒険者たちは虎を麓へと運び込む。
 大半の冒険者はそれでお役御免となり家路についたが、ちとせと響耶の二名は別件でまだ少し待たされる事になる。
「話つけてきた。見廻組に希望した相馬ちとせ、並びに備前響耶の入隊を許可する」
 役所から出てきた季武が、開口一番笑顔でそう告げる。
「ただし、ちとせの黒虎部隊入隊については、まだ力量不足が懸念される為、今回は不可だそうだ」
 黒虎部隊は実戦部隊である為、どうしてもそちらの技量を問われる事になる。
「んじゃま。いろいろとあっけど、これからは京の平和の為によろしく頼むな」
 言って、季武が手を差し伸べる。
「ええ。都を守るは志士の務め。新撰組などには任せておけません」
「京の為に、この力、使ってもらえれば幸いだ」
 ちとせと響耶。笑みを作るとその手に自身の手を重ねた。