大事な 大事な 真白い馬

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月20日〜03月25日

リプレイ公開日:2006年03月28日

●オープニング

「どうか助けてくれませんか」
 青い顔して入ってきたのはギルドに入ってきたのは一人の小柄な男。落ち着けと諭して茶を勧めるも、ほとんど口をつけずに係員の顔を見る。
「私はさる御貴族の屋敷に下男として仕えている者です。実はこの度、主人よりお預かりしていた大切な馬を逃がしてしまったのです」
 主家の坊が、元服に際して真白い馬が欲しいと告げた。父たる主人はそれを約束し、方々探して見事な白馬を手に入れたのだ。
 が、それをただ渡すだけではおもしろくない。そこで花見の席を催し、そこで坊に渡して驚かせようと考えた。
 その宴が開かれるまでの間、坊にばれても仕方ない。そこで、屋敷から程よく離れて、かつ馬の扱いにも精通していた依頼人が家で預かっていたのだ。が、ふとした拍子に厩から逃げ出してしまった。
「真白い馬など目立ちます故、場所はすぐにわかりました。が、捕まえようにも迂闊に近寄れば逃げられます故、一向に捕まらず‥‥。じきに宴の日。このまま捕まらず逃がしたとあっては、私は勿論家族もどんなお叱りを受けるか‥‥」
 少なくとも職は失うだろう。主人の機嫌が悪ければ、最悪命も失いかねない。
「ですからお願いです。一刻も早く主人の馬を捕まえてくださいませんか」
 ただしその際、けして馬を傷つけてはならない。大切な馬なので当然だ。驚いた拍子にどこかを怪我したりもしないよう、気をつけて欲しいとの事。
「どうか、お願いします」
 言って、依頼人は頭を下げた。

●今回の参加者

 eb0971 花東沖 竜良(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2215 朝瀬 凪(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3226 茉莉花 緋雨(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3722 クリス・メイヤー(41歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb3773 鬼切 七十郎(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

フィーネ・オレアリス(eb3529

●リプレイ本文

 笑顔で手を振る友にしばしの別れを告げて、冒険者一行は依頼に出る。
 本日の依頼は逃げた馬を捕らえる事。屋敷の主人がその子に送る為に用意した大事な品を預かったはいいが、うっかり逃がしてしまったのが事の発端で。
「子を思う親心か‥‥。馬にとっては関係ないことなのだがね」
「それはそうですけど。お願いします、私どもには死活問題なのです」
「いや、分かってる。馬の事情はどうあれ、お手伝い差し上げる為に来たのだから」
 涙目で告げる依頼人に、茉莉花緋雨(eb3226)は苦笑気味で答える。
「馬にも逃げる理由があったんだろうし、それを捕まえなおすのも可哀想な気がしなくもないけど。これも仕事だからね」
 真っ白い馬はどこにいてもとても目立つ。のんびり辺りを歩き回ってる白馬に、同情を覚えながらもクリス・メイヤー(eb3722)は依頼人に笑いかけていた。
 馬は依頼人の里と付近の山を行ったり来たりしている。気ままな生活は楽しかろうが、依頼人にとっては何が起こるか分からず、はらはらし通しだろう。
「大事な馬なんですよね? 心して捕獲させていただきますよ」
 花東沖竜良(eb0971)が重々しく頷く。
 遠目から見ても、毛並みなど丹念に整えられているのが分かる。見事なまでに白い馬だった。見つけた主人は子の為、よほど気を入れたのだろう。
「とはいえねぇ。駿馬相手なんて骨が折れますね。傷つけるのも駄目となると気を使いそうだし」
 はぁ、と嘆息ついたのは朝瀬凪(eb2215)である。
「何て言うのかしら? 自分の仕事にはきちんと責任持ちなさいね。次はありませんよ?」
「ええ、ええ、申し訳ありません」
 ちらりと優美に横目で睨むと、青い顔した依頼人が恐縮して頭を下げ続けていた。

 とはいえ、たかが馬。されど馬。特に今回の白馬は早く走る為に育てられてきた駿馬である。持続力が無いとはいえ、そこはやっぱり馬の体力。単に走り合いをして敵うのは難しい。
 おまけに逃げた白馬は人の気配に過敏で、近寄ろうものならすぐに逃げてしまう。なので、迂闊に近付けもしない。
 そこで、凪は隠身の勾玉を用意すると、気配を断ち、こそりとその後方へ忍び寄る。何かの弾みで蹴られてはこちらがいらぬ手傷を負うのは必須。その辺りも、ちゃんと考えた上で慎重に近付いていた。
 クリスもまたリトルフライで上空から。こちらはさすがに、妙なのが飛んでるな、とでも言いたげに馬に見つけられている。逃げ出すべきか落ちつかなげにそわそわとしだしているのを見て取り、必要以上に近付くのは控えた。そも射程距離を考えれば、無理に近付く必要も無い。
 合図は、身振り手振りを始めに、目立つようにと赤い布。
 クリスに気を取られていた馬だが、やがて彼がそれ以上は近寄らないと判断すると、またのんびりと草を食んでいる。
 その間にも、追い込む冒険者達が馬を取り囲むように配置につく。
 回り込んだのを確認してから、凪が気配を現した。ゆったりとした気分で佇んでいた駿馬は、不意の接近に驚き、警戒を露にする。
「悪いな。少し我慢してくれ」
 詫びを口に、即座にクリスはライトニングサンダーボルトを放つ。轟音を立てて直線に走る煌びやかな稲妻。馬には直接当てずとも、その派手な効果に驚いた馬は高く嘶き、途端に走り出す。
「前情報では、格別に危険な地帯は付近に無いという話だったが。岩場など無い訳では無いからな。そちらに逃がさぬよう、注意してくれ」
 事前に聞き込みをしていた緋雨が改めて注意点を述べる。
「分かってる。ぴよ丸、行ってくれぇい!!」
 鬼切七十郎(eb3773)は頷くと、傍らの鳥に指示を出す。命を聞くや否や、ホワイトイーグルが翼を広げて羽ばたいた。
 ちなみに七十郎の履いてる韋駄天の草履は長距離でこそ力を発揮するが、短距離だと普通の草履と変わらない。なので、走り出した馬にはなかなか追いつけない。足で追うのは早々と諦め、こちらに来たら他へ行かぬように阻む事とする。もっとも、真正面から馬に走ってこられては蹴り倒される危険もあるので、気が抜けないのは変わりない。
 大白鷲を巧みに操って、危険な場所へと行かないように誘導。
 とはいえ、馬の身の丈すら優に越す猛禽類。野生にあっては人間程度の大きさの生物ですら襲うような相手である。そんなものに空から急速に迫られ、鋭い嘴と牙で威嚇されてはたまらない。真剣に身の危険を感じてか、駿馬は全力で駆け出した。
「そっちには行かないでくれないか!?」
 あちらへこちらへと逃げる馬に対して、クリスもライトニングサンダーボルトで向かうべきでない方向に牽制をかける。高速詠唱の魔法で素早く対応は出来ているが、それでますます馬は恐慌状態で走り出していた。
「なかなか思い通りに進んでくれないな。お前もがんばってくれないか?」
 思うような方向に進まない白馬にじれて、緋雨が自身の柴犬に尋ねる。
 わん、と甲高く一つ吼えると、柴犬は忠義に指示を守って走り出す。滅法に走り込む馬の足元、蹴られれば当然軽傷ではすまない。それが分かっているのか、機敏に回りこんでその動きを牽制しようとしていた。
「笑! お願いしますね」
 凪もまた、自身の鷹に命じると側面から揺さぶりをかける。甲高く鳴いて鷹は飛び、白馬へと迫る。
 概ねよく動いてはくれたが、やはりさらに大型のぴよ丸を見て怖気づいたり、気ままに飛んで行こうとする事もしばし。さらには白馬に爪を立てそうになったので、凪は慌てて鷹を手元に呼び止める。
「動物を使うというのも難しいわね」
 嘆息付いて凪が呟く。その腕で鷹は満足げに鳴き、馬は相変わらず走り回っている。いろいろと追い立ててはいるが、不意に方向を変えたりとなかなか上手く誘導できずにいる。
「とはいえ、ここで手を抜けばどこに行くやらだな」
 ぴよ丸は概ね言う事を聞いてはくれるが、それでも何の弾みでこの巨体がぶつかれば、思わぬ怪我を負わせかねない。指示を出すのも大変だとばかりに嘆息つきつつ、七十郎は天高く舞う大白鷲を仰ぎ見る。
「しめた。罠に近付いてくれそうです」
 クリスの稲妻を避けて、白馬が付近を回りこむ。馬の動きを見守っていた凪が快哉を上げて、竜良に合図を送った。
 続けざまに飛来する稲妻。回りこんでくる犬や、上空からの鳥によって逃げ場を探し、行き場を求めて馬は走り惑う。ようやく設置した罠の方角を向いて走り出した。
 そのまま、方向転換などせぬようさらに注意して追い込み、凪がさっと赤い布を振る。
「これで、捕まって下さいよ」
 必死の形相で迫る白馬を見ながら祈るように呟き、竜良は機を計って綱を引く。
 途端に、仕掛けた網がばさりと馬に被さった。全力で走っていた所に突然の束縛。馬は前足振り上げて嘶くと、体制を保てずに倒れ込んだ。

 網に絡まりもがく馬を落ち着かせると、縄をつけて引き込む。
「ああ、よかった。どこも怪我はないようですね」
 毛並みを丁寧に整えてあげながら、竜良が体の傷を心配する。転倒した時は驚いたが、運が良かったようだ。
 そのまま綱を引くと、馬も観念したのか、大人しく引かれるままに着いては来た。
 が、まだ追い回された恐怖が残っているのか終始緊張気味で、ちょっとした物事でもまた興奮して走り出そうとする。それをまた宥めて押し留めたりしていた。
 気が休まるように緋雨が幼い戦闘馬を添わしていたが、小さいながらもそちらの方がよほど落ち着いていた。
「まぁ、仕方ないな。あれだけ追い回してしまったんだから」
 緋雨が優しく首筋を撫でながら、進化の人参を差し出す。が、そちらには興味を示さずクリスが持っていた飼葉の方に口をつける。――まぁ、迂闊に食べられて妙な成長を遂げられても困るのだが。
「驚かせてごめんな。お腹も空いたろうに」
 飼葉を食べる馬に優しく告げながらクリスも頭を下げる。
 かくて、依頼人の所に白馬を無事送り届ける。ただ、主人の馬なんだから大事に捕まえてくれと苦言を少々言われたりもしたようだ。