【京都見廻組募集】 宝物を取り返せ
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:5人
冒険期間:03月23日〜03月28日
リプレイ公開日:2006年03月31日
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●オープニング
「ふえええええーん」
大声で涙を流す幼女一人。その胸に抱いてギルドに姿を現したのは京都見廻組・渡辺綱。
「‥‥旦那の子ですかい?」
「違う。依頼人だ」
首を傾げたギルドの係員に、綱はきっぱりと断言する。が、その答えはあまりに意外でさらに謎を深めただけ。ますます困惑を深めた係員に、説明してくれたのはその幼女だった。
「あのね、あのね。まぁちゃんの大事な鞠をね。鬼が持って行っちゃったの」
まぁ、というのが幼女の名だろう。
しゃくりあげる彼女から詳しく話を聞いてみれば、親からもらった鞠で遊んでいると、数匹の小鬼が現れてその鞠を奪っていったという。
何の変哲も無い鞠だが、幼女にとっては大事な物。そのまま路上で泣いていた時に、たまたま通りかかったのが綱だという。
「数匹の小鬼程度。訳は無いと思っていたのだがな」
幼女から事情を聞き、綱は鞠を取り返すと約束して小鬼を追った。
程無くしてその小鬼達を見つけた。手には鞠も持っている。後は小鬼を倒すなり、退散させるなりして鞠を取り返せば済む‥‥はずだったが。
勘、だろう。何かひっかる物を感じて、綱はそのまま小鬼たちの後をつけた。
するとどうだろう。山を分け入り、しばし行った後に、急に視界が広げる。と、そこに小鬼たちが群れ集っていた――その数二十。いずれもそれなりの武装までしている。常ならざる事が起きているのは確かだ。
息を飲み、身を潜めて様子を見る。
鬼の言葉は分からないが、どうやら小鬼は奪い取った鞠を自慢げに仲間に話してるらしい。賑やかな声が辺りに広がり、他の小鬼たちが騒ぎ立てる。
幼女という力弱き者から奪う事が何の自慢になるのかと憤っていると、唐突に其の歓声が止んだ。
小鬼の集団の中に、巨大な影が姿を現す。その正体を掴んだ時、さすがに綱も目を瞠った。
(「人喰鬼か!!」)
ジャイアントに似ているかもしれない。褐色の肌をした大柄な男。だが、粗暴な顔つきは人ではなかったし何より其の頭上には鬼の角がしっかりと見て取れる。凶暴で凶悪な、人肉を好む鬼。
人にとって脅威となる鬼だが、小鬼たちにもそうなのだろう。静まり返る場に満ちるのは尊敬よりも恐怖が大きかった。
人喰鬼が何事かを話す。口調からしてとても不機嫌だった。
さっと鬼の垣根が割れると、其の只中に鞠を持った小鬼一匹だけが残った。取り残されて小鬼は戸惑っていたが、やがてさっと鞠を捨てるや後ろを向いて逃げ出す。
果たして、それは成功しなかった。
人喰鬼は唸りを上げて手にした金棒を振るうと渾身の力を込めて其の小鬼へと叩きつける。
まさに一撃。吹っ飛んだ小鬼の体は近くの岩に当たって跳ね返り、地面へと転がった。不自然に捻じ曲がった体は、もはや命が無いのは一目瞭然。
汚い物を振り払うように、人喰鬼は金棒を振るった。どんと地に着けた其の先に、こつんと何かが当たる。
それは小鬼が捨てた――つまりは幼女の鞠。
人喰鬼はゆっくりとした動きでそれを拾いしげしげと見つめると、何を思ったか、懐にしまい込む。
「オオオオオオオオオオオ!!!」
「ゴブ!! ゴブ!! ゴブ!!」
「ゴブグ! ゴブゴブゴ!!」
金棒を振るい上げて吼えた人喰鬼に、たくさんの小鬼たちも呼応して拳を振り上げる。
その鬼たちの歓声を聞きながら、綱はまた密かにその場を後にした。
「近くにはこの幼女の村がある。恐らくはそこを襲撃する為に、集結しているのだろう。あの様子からしてそんなに遠い先の事ではない。一刻も早くどうにかせねばならないが‥‥あいにく、見廻組もそれ所ではなくってな‥‥」
綱が苦々しく告げる。
京都守護職・平織虎長が暗殺されたのはつい先日の事。下手人である新撰組一番隊組長・沖田総司は今尚姿を眩ましたままだ。
頭の欠けた見廻組はその精細を欠く。備中浅尾藩主にして京都見廻組見廻役・蒔田広孝は平織無き後を立て直そうとはしているが、元々お飾り的な要素が強い上に若干十六歳。それなりにがんばってくれているものの、組織としてはまだ狼狽している状態だった。
「だからといって、この事態を放置する訳にはいかない。なので、手を貸してはもらえないだろうか。
‥‥出来れば今回だけでなく、いろいろと手伝ってはもらえないだろうか。人員不足に加えて、平織様暗殺という今回の事態。正直、手はいくらあっても足りぬ所だ」
そして、それは黒虎部隊にしても同じ事。指揮系統などは異なれど、同じ平織に仕えた身。もし、そちらを希望するのであれば、口利きしてもよいという。
「まぁちゃんの鞠ーーー!!」
そして、幼女は泣き喚く。その頭を優しく撫でると、表情を引き締め係員と向き合う。
「京の平和の為、お力お貸し願いたい。‥‥この子との約束も果たさねばならないしな」
言って、綱は頭を下げた。
●リプレイ本文
密やかに、京の闇は迫る。何時の間にやら山の奥にて集う鬼たちの群れは、平穏な村の生活を打ち壊さんとしていた。
それと知った京都見廻組・渡辺綱が冒険者を集めて討伐に乗り出す。知るきっかけとなったのは、幼女の鞠が取られたというほんの些細な出来事で。
「人喰鬼さん、そんなに鞠が欲しかったんでしょうか?」
「そうでも無いとは思うがな」
小首傾げる水葉さくら(ea5480)に、綱は苦笑してみせる。
京都見廻組から依頼。ではあるが、さくらは新撰組に所属している。片や平織派の組織、片や源徳派の組織は世間が見るには敵同士である。
「私はそんなに気にしませんけど‥‥」
「俺も無益とは思うがな。だが、周囲はそうは思わない」
実際、平織派の者は虎長を殺害したのがあの沖田総司とあって、新撰組を含めて源徳に対する糾弾は凄まじいばかり。血の気のある家臣は源徳討伐を口にして、江戸に攻め上る構えすら見せている。それを宥める勢力も勿論存在するが、京の秩序は以前よりもずっと危うい均衡で動いている。
「今更帰れともいえぬし、今回の相手を思えば手は必要だからな。だが、個人の行動を利用して攻め込む口実を作る者とている。周囲に思わぬ迷惑をかけたく無いなら、重々気をつけた方がいい」
窘められて、あやふやながらにさくらも頷く。
「京は本当に物騒なのね。でも今は横において、まぁちゃんの鞠を取り返す為、鬼退治しなきゃね」
軽く肩を竦めた後で、神木秋緒(ea9150)が傍らの童女に笑ってみせる。
「まぁちゃんの鞠〜〜〜」
構われてまた寂しくなったか、幼女の顔が泣き顔に歪む。それを慌てて周囲は宥めて落ち着かせる。
「やれやれ、泣く子は苦手でござるしな。綱殿の約束、御協力致す」
子供を前に弱りきっている滋藤柾鷹(ea0858)に、気持ちは分かると言いたげに同じ表情を作った綱がよろしく頼むと頭を下げる。
そんな冒険者達を、幼女は分かっているのかいないのか、きょとんと見上げていた。
「いい子で待っててね。鞠は必ず取り返してあげるから」
しゃがんで目線を合わせると、レベッカ・オルガノン(eb0451)が優しくその頭を撫でる。幼女は泣きそうな顔をしながらも、力強く頷いていた。
柾鷹が村長と掛け合い、村人への避難をお願いする。言われてすぐに動き出せるものではないが、少なくとも危急時に荷物を持って逃げるぐらいの準備は出来るはず。
「向こうの方が数も多いし、待ち受けるのは不利よね。有利な地形探って待ち受けるのが良さげかしら?」
「そうだな。守りながらよりも気を取られずにすむ」
レベッカに綱も頷く。
彼女や秋緒が猟師などから聞いた周辺情報に、また綱自身が見た際の状況なども加えて検討。
よさげな場所を見つけると、柾鷹始め手伝いに来ていた何人かで罠を仕掛ける。
「鬼毒酒があれば確かに幾分有利にもなろうが‥‥あれはそうそう手に入る代物ではないからな」
レベッカに問われ、無いかと聞かれて綱が申し訳なさそうに告げる。まぁ、無いなら無いで仕方が無い。
「ここは少し不利だな。俺は向こう側に回る」
「ちょっと待った。どこ行くっすか? 勝手な行動は困るっすよ」
辺りを見回していたウィルマ・ハートマン(ea8545)が歩き出したのを、太丹(eb0334)が見咎めて声をかける。
「回り込んで射掛ける。それより、鬼がいくら低脳でも騒いでたら気付かれるぞ」
「‥‥分かったっす。けど、不用意な行動は本当に困るっすよ。妖怪荘の件、自分は忘れてないっすからね」
不満げに口を尖らせる丹に、ウィルマは言いおくとさっさとその場を後にした。
動き出したのは深夜。
静まり返った山の奥よりちらちらと燃える炎が動く。それは数を持ち、密やかに村へと近付いてきていた。
揺れる炎に照らし出されるのは、手に手に武器持ち不気味な笑みを浮かべる小鬼。ひょいひょいと戯れるように群れるその中に、ひときわ大きな鬼がいた。人喰鬼である。
ぎらつく眼差しは炎のせいだけでもなく。これからの殺戮に心躍るのをぐっとこらえている様であった。
その隊列が止まる。なぜか道の中に食料が積まれ。
訝しんだ小鬼一匹がひょいひょいと前に出て、遠目からいろいろとそれを眺める。特に害が無いと判断したか、おもむろに近寄りかけ、
その姿が一気に半分までに消えた。ぎゃっと声を上げた小鬼は深く地面に埋まっている。
「ゴブ! ゴブゴブゴブ!!?」
「ゴゴゴゴ? ゴブゴブ!!?」
驚き騒ぐ小鬼たち。だが、人喰鬼ははっと顔を上げると、左右の高台を仰ぎ見る。
その視線の先、夜の闇の中に淡い緑の魔法光が浮かび上がっていた!
「行きま〜す。ライトニングサンダーーボルトーーー!!」
翳したさくらの掌から一直線に稲妻が飛んだ。群れた鬼たちの只中を電光が駆け抜けていく。
「行くぞ! 囲まれぬよう気をつけよ!!」
「委細承知よ!」
不意の雷に騒ぐ鬼の群れの中へ、綱が刀を抜き放つや斬り込んで行く。それに秋緒始め冒険者たちも遅れずに乗り込む。
「罠の位置にも気を付けるでござる。嵌めるつもりで自分から嵌るのも間抜けでござるしな」
気を入れて士気を高揚させると、柾鷹は慌てる小鬼へ金時の鉞を振り回す。その刃を恐れて慌てて逃げる小鬼たち。さっと割れた道の先、現れた者は‥‥、
「人喰いの鬼が! 山奥にて大人しくしていればよいものを!!」
人喰鬼が金棒を構える。さすがにこちらは慌てる事無く、綱が走り込むと即座にそれを振るってきた。唸る轟音はその一撃にどれだけの重さを加えているのか。
かろうじてそれを避けると綱が一歩を踏み出す。鋭い刃が肉体を貫き、身を引いた鬼へ畳み掛けるように柾鷹が片手に鉞、片手に霞小太刀を握り締め、続けざまに振り下ろす。
鬼に対してはさらに力を発揮する魔法の鉞。小太刀にもオーラパワーを仕掛け、その重みすらも利用した連撃を躱せず、鬼は深い傷跡を身に刻み込む。
してやったりと笑む柾鷹だが、鬼は身を起こすと即座に一撃を加える。それを真正面から喰らった柾鷹が、見事、吹き飛ばされる。
地面に投げ出され、倒れた横合いから嬉々として顔の小鬼が棒を目一杯振り下ろしてくる。
慌てて避けると、柾鷹は間合いを開けて呼吸を整えた。
周囲の小鬼たちを気にしながらも、柾鷹と綱は人喰鬼に構え直した。
飢えた目で彼らを見返す鬼。だが、そのつけられた傷は深い。遠からず決着を付けられるのは想像に難くない。
むしろ手を焼いているのは周辺の小鬼たち。何せ数が多い。
あまり散らばらず回り込まれぬよう地形を選んだが、それでも集団でかかってくる相手は次々と沸いてくる。
「雑魚とはいえ、こうもいると鬱陶しいわよね」
苛立ちながらも慎重に秋緒は日本刀を構える。後ろからの攻撃を気にして常に木などを背にしている。
「ゴブゴブゴー!!」
嬲る相手に顔を綻ばせ、小鬼は棒を薙ぎ払う。小鬼にしては修練された動きではあったが、秋緒はそれを確実見極めて躱す。目標に避けられ、空振りの武器は背にしていた巨木を大きく砕いた。破砕された木片を浴びながらも、秋緒は踏み込み、小鬼へと刀を振るい出す。
「ギャへ!!」
奇妙な声を上げて倒れる小鬼。その後ろからさらに別の小鬼が踊りかかって来る。ひっきりなしの攻撃に辟易しながらも、秋緒は次々と小鬼に一刀を振るっていく。
「ギャーーっす!!」
そして、悲鳴を上げるのは小鬼たち‥‥ばかりで無く、後ろから殴られて丹が悲鳴を上げている。とっさに後ろを振り返ると、素早く横合いからぼこぼこと。数に任せて小鬼たちは丹を取り囲んでいた。
「よくもやったっすね! 怒ったっすよーー!!」
振り下ろして来た棒切れを、十手で受ける。止められて驚いている小鬼を力いっぱい殴りつけると、体制崩した小鬼がもんどりうって倒れる。さらに横手の小鬼に蹴りを入れて空間を広げると、開いたその場に力強く踏み込み、さらに手近な小鬼へと拳を叩きつける。オーラで威力を高めた拳に、小鬼の不細工な顔はさらに潰れて地面に転がる。
その様を見て怯んで後退りをしていた小鬼の首根っこをむんずと捕まえると、そのまま力任せに放り投げる。奇妙な声を上げて空を飛んだ小鬼は、その他群がっていた小鬼たちにぶつかって落ち、仲良く目を回していた。
さくらはストームで近寄る小鬼を吹き飛ばす。暴風に見舞われ、盛大にころころと転がる小鬼はまとまった数がいる為、余計な怪我さえこしらえている。
離れた場所から魔法で攻撃するさくらではあるが、詠唱中は隙も出来る。
「きゃあ、鬼は外です〜」
密かに回りこんで来た小鬼に、追儺豆をぶつける。レベッカの鳴弦の弓で動きを制されていた小鬼は、さらに豆をぶつけられて動きを鈍らせた。
その間に体制を立て直してシールドソードを構えると、小鬼の武器破壊を試みる。打ち立てた刃に小鬼の棒がきつい物音を上げるが、多少の歪みを見せただけで完全に破壊とまでは至らない。
「うう、そう易々とは行きませんか?」
力任せに殴りかかってきたのを盾の部分で受け止め、そのまま押し返すと素早く距離を置き、詠唱を開始する。その間にも小鬼たちはさくらへと迫り来るが、不意にその一体の首にぶすりと矢が突き刺さる。
ぎょっとして立ち止まった途端にさくらの魔法が完成。吹き飛ばされた小鬼たちがまたあちらこちらに倒れ込む。
矢を放ったのは、ウィルマ。鉄弓の射程を十分に取った遠距離からの攻撃は、反撃出来ようはずも無い。ただ、夜闇で視界が悪いのと乱戦で対象があちこちに動きまわる為に、なかなか狙いを付けづらいのも確か。うっかり味方に射掛けても笑い事では済まされない。
「まぁ、こちらまで来る気配はなさそうだし。ゆっくり脳天を狙わせてもらおうか」
言って、きりりと弓を引き絞り、人喰鬼へと照準を定める。
「いい加減に、退きなさいって感じよね!」
弓での抑制も限界と判断し、レベッカは大脇差・一文字を引き抜くと小鬼の群れへと飛び込む。即座に勇んで殴りこんできた小鬼を軍配で止めると、大きく素早く薙いで切り込む。
人喰鬼は形勢が悪くとも、退く事を知らない。さらに吼えて小鬼たちを鼓舞して攻撃を命じる。小鬼たちの中には逃げようとする者もいたが、人喰鬼が怖いのか、やぶれかぶれと言った感じで突っ込んできた。
柾鷹と綱も人喰鬼にかかろうとするが、小鬼たちがその邪魔をする。そちらに手を取られている隙に、小鬼たちの後ろから人喰鬼は攻撃を浴びせてくる。完全に小鬼たちが盾代わりになっていた。
「お二人とも、少し下がって下さいな!」
さくらは告げるとライトニングサンダーボルトを人喰鬼へと放つ。鬼が怯んだその隙に、丹が牛角拳で殴り込むと、周りの小鬼をレベッカが薙ぎ払う。
「ウググググググ――!!!!」
よろめき血反吐を吐きながらも、鬼の闘志は一向に消えぬ。金棒を杖にしながらもまだ立ち上がり、戦おうとする。
そして、その首筋に矢が刺さる。が、もはや何でもないように無造作に引き抜く。
血だらけの体がさらに朱に塗れる。失血で足など震えているのに、それでも怨みがましい目を向けながら金棒を振り上げてきた。
戦慄すら覚えながら、同時に柾鷹は二度と立ち上がれぬようにと思いと共に刃を叩きつけた。
吹き上がる血飛沫。呻き、そして吼えた人喰鬼の首を綱が一刀の元に断ち切っていた。
頭が抜けると後は烏合の衆。浮き足立った小鬼たちを軽くいなすと、倒れるようにその場に座り込み、傷の治療と体力の回復を行う。
「向こうで見つけたけど、探し物はこれじゃないのか?」
飛ばした矢を回収していたウィルマが差し出したものは、幼児用の小さな鞠だった。
「最初の内に懐からこぼしたのでござろうな。あまり汚れて無いのは幸いでござる」
子供に返すのに、壊れているのは勿論だが血糊べったりもいただけない。汚れをふき取りつつ、柾鷹が安堵して告げる。
村に戻ると、冒険者たちの帰りを今か今かと村長が待ちわびていた。挨拶そこそこ首尾を問われ、無事に済んだ事を告げるとようやくほっと肩の荷が降りたように村長はへたり込んでいた。
そして、もう一人。彼らの帰りを待ち侘びていた者がいる。幼女は帰ってきたのを知ると物怖じもせずに走りよってきた。
「ありがとう。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
見つけた鞠を綱が手渡すと、幼女は満面の笑みをたたえて鞠を抱え込んだ。
「見廻組について、神木殿は問題無い。これからよろしく頼む。オルガノン殿は黒虎希望との事だったが‥‥。話は付けてみたが今回は見送って欲しい」
入隊への希望を出したのは二人。内、秋緒へは律儀に頭を下げた綱だったが、一方でレベッカをやや困惑気味に見遣る。
虎長がいなくなり黒虎部隊も混乱している。虎長がいてこそ優遇されていた面も確かにあり、消えた今ではいろいろと支障が出ていた。その立場すら微妙になり、故に血統を重んじる周囲との摩擦を避けるべく外国人の入隊はかなり慎重になっているようだ。
ただ力量は問題無い。なので、後は時期さえ見れば入隊は許されるだろう。
「次善でとの事だが、見廻組所属は問題ない。ただ黒虎への腰掛気分で事に当たられるのは困るがな」
「勿論。鈴鹿さんの力にはなりたいけど、京都も何とかしたいものね」
肩を竦めるレベッカに、綱は静かに笑みを向ける。
「京都の不穏な空気はいや増すばかり。大切な人を守る為にも、力になりたいわ」
秋緒もきっぱりと告げる。
京都の春はどこか血の匂いを含んでいる。それは鬼などよりもある意味脅威かもしれなかった。