【vs.】 狼たちの獲物
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:6人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月27日〜04月01日
リプレイ公開日:2006年04月05日
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●オープニング
「組長、件の人斬りたちの居場所。分かりそうですよ」
壬生の屯所。頬を上気させて探索から帰った隊士が報告を行うのを、新撰組四番隊組長・平山五郎は冷めた目で見つめる。
「郊外の古寺。今度そこで彼らが集結し、次の獲物を狙う算段をするようです。今だ行方の分かってない奴らもいますけど、そいつらも現れるそうです」
「一気に片を付ける好機到来と言う訳か。‥‥奴らの人数は?」
「総勢で八名ほど」
短い簡潔な返答に、平山はふむと顎に手をやる。
「少し、手が足らんな」
「そういえば伍長たちは?」
「別の山を追ってもらってる。呼び返す程の相手でもないな‥‥」
目を閉じて、何かを考える。しかし、その時間は実に短かった。
「冒険者ギルドに連絡を取ってみるか。手伝ってくれる奴がいないか当たってくれ」
「冒険者を、ですか? これまでもさんざ邪魔してくれましたし、おとなしく手を貸しますかねぇ?」
「駄目なら駄目で構わん。所詮は金で雇う連中だ」
あっさりと告げた組長に、平隊士は不満そうにしながらも、ひょいと肩を竦めるだけでそれ以上は言わない。
「ああ、それと。この件、どうやら京都見廻組が絡んでいるようです」
わざとその報告は後に残したのだろう。聞き咎めて動きを止めた平山を、おもしろそうに平隊士は見詰め返す。
「先日、商人が殺される事件がありましたよね? あれもこの人斬りの仕業だったみたいで、それに絡んできてるようですよ。ま、そんなのさっぴいても、小物とはいえ役人も斬り殺してる奴らですから、罪なんて明白。生かしておく必要なんてさらっさら無いってもんですけどねー」
どうなさいますか?
そう問い掛ける言葉に、平山は静かに笑う。
「人斬りの始末は我らの仕事だ。その邪魔をするというのなら‥‥奴らの仲間、となるかな?」
「了解しました。では、そのように」
満足そうに頷くと、平隊士はその場を後にした。
かくて、新撰組四番隊から仕事の支援依頼が冒険者ギルドに届く。
某日に集結する人斬りたちの始末。その際、邪魔となるなら相手が誰であれ切り捨てて構わない、と――。
●リプレイ本文
「各個撃破では途中で気付いて、逃げる人斬りも出てくると思いますの。それに古寺に集まってから仕事の相談を始めるようでしたら、ここに今回の仕事に絡む人斬りが集まったのだと分かります。危険ですけど、出入り口を押さえて戦えば取り逃がしは無いと考えますが――いかがかしら?」
「確かに。利に叶ってるな」
マハラ・フィー(ea9028)の提案に、新撰組四番隊組長・平山五郎は無感動に言葉を返した。
「中の状況にしても、こっちで偵察を出す。その合図を待って突入、中にいる奴は全部切っちまえばいいんだろ?」
気楽に物騒な事を言ってのける拍手阿邪流(eb1798)に、ただ平山は笑って見せる。
「京都見廻組が絡む恐れがあるが、それでもか?」
「は?」
いきなり目で話を振られて、神楽龍影(ea4236)が一瞬戸惑う。
今回の件で、京都見廻組の者と話をつけたのが昨日の事。向こうとて、何も好んで衝突したい訳ではない。
その事を問い正されたのかと思ったが、それ以上は触れてこない。腹の内を読み取ろうにも平山の表情からは特に何も見えず。
何を告げるべきか悩んだ時間は実に僅か。
「対立の激化は神皇様の御心を煩わせる事にしかなりませぬ。私は神皇様に忠誠を誓う身。避けられる衝突は回避していただきたい!」
真正面から向き合ってきっぱりと答える。傍らにいた平隊士たちの方が目を丸くしていたが、平山自身は愉快そうに、ただ視線を外す。
「綺麗事だけで世は収まらんがな。‥‥まぁいい。こちらも人斬りを狩らせてもらえればそれでいい」
「悪・即・斬でござるか? 確かに、都の平穏を乱す人斬りども‥‥捨て置けぬ」
山野田吾作(ea2019)がその特徴的な目をさらに歪ませ、まだ見ぬ人斬りたちへの怒りを見せる。
同じその胸には四番隊――というよりも芹沢派に対する感情もあるのだが、それを表に出すほど野暮ではない。
「商人などにも被害も出ていますしね。早く解決しなくてはいけません」
頬を上気させて将門夕凪(eb3581)も頷く。もっとも、彼女の場合先ほどまで平隊士たちと手合わせをしていたせいもあるが。
「寺の周辺を調べてもらったが、抜け道の類は無い。まぁ、古いからその気になればそこら辺から逃げられかねないのが要注意って所だな。それと、罠もついでに仕掛けてもらっているので、掛からぬ様注意して欲しい」
マハラが書いた寺の図面に、アルディナル・カーレス(eb2658)は注意すべき場所を書き加えていく。
「それと、新撰組の羽織を貸していただけないかしら? 仲間と確認しやすくなりますもの」
マハラが訊ねると、考え込んでから平山が頷く。
「‥‥分かった。ただし、しばしといえども組の姿をとる以上、新撰組の名を汚すような振る舞いは慎んでもらおうか」
その言葉、そっくり返したい。
そう思った冒険者は少なからずいた。
そして、当日。陽が沈めば新月間近の空は暗く、廃村の中明かりなど無い。闇に目が慣れるのに時間がかかったが、夕凪は月を見て狂化する危険が少ない為、少しほっとしていた。
古寺の表と裏に冒険者は別れ、見張りと同時に待機。平山と他二名の新撰組隊士は表で待つ事となった。
やがてちらりほらりと寺へと提灯の明かりが集まる。
「御堂に集まってるわね。まぁ、集まれて逃げやすい場所となると妥当かしらね」
裏門にて。マハラが火の動きからそう推測する。
もっとも、裏と言ってもこちらから入って来る者もいるので油断なら無い。
間を置き、あちらこちらから人が集まってくる。数を数えているとそれは九つで終えた。人斬りは八名と聞いていた以上、無用な者がいる。
その無用な者が問題な訳で。
逆にそちらを目当てにすっと闇夜を動く者たちがいた。それは人斬りでもなく、かといって新撰組の者でもなく。
浅黄よりも暗い羽織を着た者を先頭に、京都見廻組の面々が裏門から入り込むのを、冒険者たちはただ肩を竦めるだけで、制止せずに黙認する。
人斬りの中に捕縛すべき商人がいる。そいつをまず確保する為に、見廻組が裏から進入。事を成し終えた後、人斬りたちを倒すべく彼らが突入する手筈になっていた。
だから、今は手を出さない。しかし、突入した後でもぐずぐずと居座っているようなら容赦する気など無い者も多かった。
息を潜め、乗り込む機会を今か今かと待ち続けながら事の成り行きをただ見守る。
騒ぎはすぐに起きた。喧騒と刀の打ち合う音。即座に飛び込めるよう、誰もが得物に手をかける。
だが。ちょっとまずい事が起きた。捕縛すべき商人が混乱に乗じて逃げ出したらしい。これでこちらに向けてかけてくればまだよかったかもしれないが、よりもよって表側へと走り去っていった。
即座に見廻組がその後を追ってはいたが、
「厄介にならねばいいがな」
アルディナルが低く呟く。もっとも言葉の割にはあまり心配した風ではなかったが。
表から裏から人斬りたちが寺の中に入って行き、やがて人の足は絶えた。表門に張り付き、後は乗り込む合図を待つのみ。
着崩して尚堅苦しさを感じる隊服に辟易しながら、阿邪流もまた寺を注視する。いや、堅苦しさを感じるのは服のせいではなく、共にいるのが新撰組の隊士だからかもしれない。
その平山が唐突に動き出した。阿邪流が戸惑う矢先に、表の門ががたがたと揺れる。
無理矢理といった感じで門を開けて出てきたのは、妙に上等な着物を着た男だった。後ろだけを気にし、前をさっぱり見ていないそいつに、平山は容赦なく刀を引き抜いた。
はっと男が気付いた時にはすでに遅く、平山はその刀を振り下ろしていた。
哀れ男は刀の餌食。と思いきや、その寸前、滑り込んできた見廻組の大男が平山の刀を刀で受けていた。
「横から仕事かっさらうたぁ、いい度胸だな、おい!」
怒気と喜々を半々にしたような笑みで、男は告げる。大きいのも当然、ジャイアント種族のようだ。
「‥‥それはこちらの台詞だと思うがな」
言って弾くと、素早く間合いを離す。
「組長!」
「手を出すな!!」
平隊士に短く言い置くと、今度はその間合いを詰め、見廻組と打ち合う。
手を出すも何も、下手に手を突っ込めば逆にこちらが斬られかねない。突発的なこの状況を、どうしたものかとただ黙って見ている。
「わしらの用はこれで終わりじゃ! これにて引き上げる!!」
その間にも、見廻組のパラが先の男に縄をかけていた。彼女が叫ぶと同時、二人は互いに刀を捌いて大きく距離を取った。
肩で息をしながら、睨みあう二人。やがて、見廻組が不満げに後ろを見せると腰を抜かした先の男を抱え、もう一人と共にその場から去る。
「いいのかよ?」
平山は即座に後を追おうとした平隊士をまた止めて、その姿を見送る。
ここで殺っても非は無いだろう。暗にそう言い含んで、阿邪流は問い正す。
「殺り合うには少し手がかかりそうだ。それで人斬りどもを逃がしても詰まらん話だしな。それに、お前たちはそうならぬようにこそこそ動いていたのだろう? 手を貸せと頼んだ以上、その意向も組んでやらんとな」
「‥‥‥‥案外、甘いんだな」
呆れた阿邪流に、平山もまた皮肉げに笑う。
そして、裏手から轟音と共に華麗な火花が見えた。
「新撰組だ! 神妙にしろ!!」
見廻組たちが引くや否や、浅黄色の一団が乗り込んできた。
先の輩は捕縛が目的だった。しかもその対象は人斬りたちではなかった上、積極的に攻めてくる気配も無かった。
数の上でも人斬りたちが優勢。その事に図に乗っていた彼らは、自分達を殺す意思も明確に切り込んできた相手に浮き足立った。数ももはや優位といえない。見廻組との戦いの最中で武器を落とされ、丸腰の者までいるのだ。
「散れ! 闇に乗じて逃げるんだ!」
頭と思われる者が果敢に指示する。
「そうはいかぬ!!」
怒りも露わに龍影が詠唱する。見廻組の合図で使われたファイヤーボムでくすぶっていた火を増長させると、逃げようとしていた人斬りたちに向かって動かす。
「人斬り如き、恨みは無いが‥‥。さっさと地獄に落ちろ!!」
不運にも火に巻かれ苦しむ一人に、龍影は容赦無く日本刀を振り下ろす。普段の冷静な彼からは考えられない行動だったが、咎める者も今は無い。
「もはやこの場には敵しかおらず。‥‥手加減はおろか確認なども無用でござるな」
一人頷く田吾作に、人斬りが斬りかかる。その軌跡を身に受けながらも、日本刀の重みを利用した力強い一撃を即座に返す。
痛みで顔をゆがめながらも構える相手に、さらに打ち込むと田吾作は人斬りの持つ刀を打ち砕いた。
丸腰となり、青い顔でよろめき逃げようとした相手へ、すぐに阿邪流が足を払った。見事にすっ転んだ人斬りに、ためらう事無く小刀を差し入れた。
「おらおら、斬られたい奴は前に出な! ‥‥ま、出なくても斬るけどよぉ」
振るってきた刀を十手で受け取めながら、阿邪流は楽しげに挑発していた。
「この感覚‥‥久しく忘れていた。欧州の戦場を思い出すな」
「感慨に浸っていると、獲物を失うぞ」
呟くアルディナルに平山が笑う。この場合、逃がすという意味ではなく、単に他の人にやられていなくなる事を示している。
実際、人斬りたちは敵ではなかった。最初の甘さと浮き足立った体勢を立て直せず、次々とあの世に送り込まれている。
軽く笑うと、アルディナルは切り込んできた相手を小太刀・備前長船で受け止めると、右手の日本刀・相州正宗で薙ぎ払う。唸りを上げた一撃は胴に吸い込まれ、派手な血飛沫を上げていた。
「所詮は油断を突くだけの臆病者。正面から戦えないのでは、幾ら強くても雑魚ですね」
マハラは鞭で動きを制すると、その首に手裏剣を突き立てた。経巻を広げてサイコキネシスで自在に手裏剣を飛ばせば、夜の炎の明かりだけでは捕らえづらい。
多量の血を見て狂化しており、髪を逆立て目を血走らせて戦う様は、まさに鬼のようだ。
「無理はするなと抱き締められましたし‥‥。よかったですね。私相手では取り合えず生き延びますよ」
にこりと笑みを作るや、夕凪はその喉元に容赦ないの無く拳を叩きいれていく。よろめいた相手にさらに手刀を一撃。その手から染み出す毒で一気に人斬りは昏倒した。
あちらこちらに築かれる屍の山。返り血浴びて汚れてはいるが、冒険者たちにはたいした傷は無かった。
「それでどうしますか?」
夕凪が倒れた男を指し示す。蛇毒手は相手を麻痺させる技。故に、相手はまだ息があった。
一つ頷くと平山は男の腕を取り、ためらいも無く捻った。
途端、鈍い音が冒険者の耳を打った。腕を折られたのだ。
「念の為に聞いておこう。今ここにいる者以外に仲間はいるか? 答えないなら別の場所を折る」
悲鳴を上げて苦しむ相手に、何事も無いかのように平山は告げる。相手は、呂律の回らない舌で何とか動かし、これで全員だと告げる。
その答えに承知すると、平山は手を離した。と、同時平隊士が動く。地面に転がり呻く男に、刀を突き立てたのだ。
それで動く人斬りは誰もいなくなった。
「御苦労。これにて任務終了だ」
重々しく告げた平山にマハラは鼻で笑ってみせる。
「噂の新撰組と言えども大した事無いのですね。この程度の輩に私たちの手が必要なんて」
辺りは血の海。マハラの狂化は収まらず。
「何だと」
「すみません。こういう習性なんです」
聞きとがめた隊士たちが刀を抜こうとするのを見、慌てて夕凪が説明に入っていた。