【vs.】 捕らえるべき相手と‥‥
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月27日〜04月01日
リプレイ公開日:2006年04月05日
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●オープニング
「件の内偵が進んでいた商家。どうやら動くようだな」
面白そうに笑う同僚に、京都見廻組・占部季武も笑みを持って返す。
とある商人が斬り殺される事件があった。恨みを買うような人物で無いが、一人だけ例外はあった。その店の評判を敵視していた商売敵である。役人に賂をばら撒いている噂もあり、ろくな人物ではない。
会って話を聞いた心証からしても、恐らくこいつが一件に関わっているのは間違いなかった。が、証拠は無い。灰色に近いが黒でない相手は、弁舌巧みに事をはぐらかし、なかなか尻尾を見せない大狸だった。
そこで一度この件から手を引き、密かに張り込みや聞き込みを続けてきたのだ。結果、どうやらこの一件に味をしめ、また別の商売敵を討ち果たすべく、近日また人斬りと会い、段取りをつけるらしい。
「今までのらりくらと逃れてくれやがったが。その現場を押さえちまえばもう言い逃れはできねぇ。今後こそふんじばって、余罪含めて洗いざらい白状させてやるぜ」
季武は嬉しそうに拳を掌にぶつける。そんな彼を同僚はおかしそうに見つめていたが、
「はしゃぐのは別に構わんがな。だが、気をつけろよ。この一件、どうも新撰組が絡んでるぞ」
真剣な忠告は戯言では無い。危険をはらむその言葉に、季武はぴくりと肩を震わせる。
「その人斬りたち。今回以外にも事件を起こしているようで、その関係だな。下手に現場がかち合えば面倒だぞ」
「とは言っても。その人斬りらと接触したという現場を押さえん事にはまた何とか行って逃げるだろうしなぁ。捕まえたら、賄賂とかの埃がバンバン出せるだろうし。見逃す訳には行かねぇよ」
弱ったように、季武は天を仰ぐ。
「ま、せいぜい注意するさ。‥‥んじゃま、そういう事で暇してる奴、一緒に来てくれ。足りない人員はギルドに頼んで手を貸してもらおうか」
暢気にごきごきと首を動かすと、何でもない事のようにそう声をかけた。
●リプレイ本文
「現状はかの商人の側にいる人斬りたちの方が、数的に有利。その上で、新撰組とも衝突しては、生かして捕らえるという目的達成には困難を極める。人斬りの余罪も追及したいところじゃが、商人を是が非にでも逃がしたく無いなら、戦略的撤退も止むをえんじゃろ」
「いや、しかしなぁ‥‥」
告げるバーバラ・ミュー(eb1932)に、京都見廻組・占部季武は渋い顔を作る。
何か言いたそうであるが、バーバラの表情は揺るがない。
「新撰組の方でも冒険者を集い、事に当たるようです。その方とお話を付けさせていただきました。段取りとしてはこちらがまず突入して商人を捕縛。即時撤退して直後に新撰組が乗り込む手はずです」
安里真由(eb4467)もまた、さらりと涼しげに告げる。
「今回の仕事は、あくまで商人の捕縛。後の汚れ役は新撰組に任せればよろしいのでは?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥仕方ねぇか〜」
問いかける真由に、渋々と承知する季武。確かに、人斬り勢力はともかく新撰組と遣り合うのは得策ではない。
「それで、その集まる予定の寺を少々探ってみたが、人がいなくなって結構経つようじゃの。廃村に行く者もそうおらんで難儀したわい」
バーバラがやれやれと自身の肩を揉むと、横合いからご苦労様と季武が軽く肩を叩く。
「俺の方でも同じようなものですね。で、お寺の内部はそんなに変わらないでしょうし、多分その人数で集まるなら御堂でしょうとの事でした。ティリックさんが集めた情報と合わせてみても、抜け道の類は無いようですね。まぁ、普通の寺なら当たり前でしょうけど」
花東沖竜良(eb0971)が告げると、日本語の離せないティリック・ティルクル(eb3041)にヒンズー語で同じ内容を通訳する。
『もっとジャパン語を勉強しておけばよかったですね。ご迷惑おかけします。昨日も知り合いに決行迷惑かけましたし』
情報収集をするにも、やはり言葉が出来ねば意味は無い。知り合いについてきてもらっていたが、ほとんどそっちが行動していたようなものである。
「気にすんなって。手伝ってもらえて恩の字って奴さ。ま、怪我の無いよう、気をつけてくれな」
恐縮しきりのティリック。話を聞いた途端に季武が豪快に笑ってその背を叩く。いきなりの行動に「???」と顔に浮かべたティリックが、また通訳してもらってようやくほっと笑顔を作っていた。
「それで、占部さま。肝心の商人の人相風体をお教え下さい。捕縛の際に別人を捕まえて、取り逃がしたなんてあっては物笑いの種ですからね」
「ああ、そうだな。もたもたして新撰組に斬りこまれてもつまらないしな」
レナーテ・シュルツ(eb3837)に、季武が頷く。
入れた情報の交換や、作戦の流れ、合図のやり取りなど長々と打ち合わせをする。
決行日を明日に控え、誰もが真剣だった。
当日。見廻組率いる冒険者たちはまだ朝の内から廃村に行き、待機。
人気のない村の中で、もう一度事の次第を打ち合わせる。
やがて日も暮れ、辺りは闇に。新月間近の月はほとんど見えず、光が照る事も無い。
その闇に紛れるように、ふらりと明かりが浮かび彷徨う。足元だけを照らし出す光は、方々からやってきて、迷う事無く古寺の中に消えた。
その数は九つ。
新撰組側の提案で裏門から入ると、静かに人の気配のする方へと急いだ。
古びた御堂。割れた壁穴から中を覗き見る。
極力明かりが漏れないよう工夫をこらしている為、中は薄暗い。腐った床を避けて座る九人。上座には仰々しい男が一人と、その横には明らかにその場にそぐわない妙に羽振りのいい着物を来た男がいる。それが今回の得物である商人であった。
「それで、今回やって欲しい相手なのですが‥‥」
全員揃った事を確認して、両手を握り合わせにやけた笑いをする商人。だが、それを傍の男が片手で制した。
「止めだ。――わざわざ足を運んでくれて恐縮だが、妙な奴らがここを探っているらしい」
唾を吐き捨てる男に、周囲で聞いていた輩も腰を浮かせる。商人もまた、事態がまずい事には気付いたのだろう。おろおろとせわしなく動き出す。
「しかし、それでは! か、金はどうするんだ?」
「金より命のが惜しいんでな。次の機会を待つか、何なら他を探すんだな」
だが、それ以上に自分の利が惜しいらしい。食い下がる商人を、男は煩そうに払いのけた。
「お前らも、さっさと逃げるんだな。当面は会合もなしだ。‥‥いや、遅いか」
ふと、男は周囲を見回す。
目があった気がして季武が小さく舌打ちする。行くぞ、と手で合図すると同時、立て付けの悪いお堂の扉を思い切り蹴破っていた。
「何だ!!」
「京都見廻組だ! そこの商人! 殺しの依頼の現場、確かに見させてもらった! 大人しく縛につけ!!」
「しゃらくせえ!! 殺っちまえ!!」
名乗りを上げるや、いきなり周囲が暗くなった。明かりを消したのだ。
闇の中で、人斬りたちが一斉に刀を抜くのが分かった。人斬り八名に対しこちらは六名。しかも半数が女性名上、内一人は高齢である。敵では無いと踏んだのだろう。
「貴方がたに用はありません! そこを退いて貰いましょうか!!」
レナーテがすらりと小太刀を引き抜くと、即座に刀が打ち合わさる。
『気をつけて下さい。囲まれると厄介ですよ』
軍配で刀を受けた隙に、竜良は霞刀を振るう。
『大丈夫です。それより早くあの悪徳商人さんを捕まえるようお願いします』
ティリックは右手に日本刀、左手に小太刀を構えると、容赦なく峰で手の甲を叩きつけた。小さな悲鳴を上げる人斬りから武器を叩き落すと、即時に使われぬよう、蹴りつけて遠くへと飛ばす。
「ああ、もうどけってんだ! お前らに用はねぇ!!」
刀を結び合わせると、季武もまたがなりたつ。
見廻組と人斬りが揉み合う中、肝心の商人はといえば戦火を逃れ、及び腰でその場からの離脱を図る。
「占部さん! 商人が逃げます、急いで!!」
新撰組への合図の為に、やや離れた場所にいた真由が目ざとく見つける。
「ちぃ!!」
喰らいついてくる人斬りを蹴り倒すと、早々に季武とバーバラがその後を追った。
「ひ、ひぃ!!」
追われている事を悟り、なりふり構わず商人が走り出す。
「! まずいの、そっちに行ってはならん!!」
焦る商人は単純に逃げやすい方向――すなわち表側へと走っていた。気付いたバーバラが声を上げるが、聞くはずも無く。
追っ手を気にしながら、商人は震える手で表の門扉を開けた。開いてほっとしたのも刹那。外には人が立っていた。
左の目に傷を持つ、浅黄色の羽織を着た男。振り上げた得物は、闇にも光る鋼の色で。
商人は呼吸をするのも忘れて、ただその刃が振り下ろされるのを見ている。
風を切る短い音とほぼ同時。夜目にも明るい火花が散った。
ぺたんと尻餅をついた商人の前で、季武と新撰組四番隊組長・平山五郎が組み合っていた。
「横から仕事かっさらうたぁ、いい度胸だな、おい!」
「‥‥それはこちらの台詞だと思うがな」
言って、弾く。即座に双方足を運ぶと間合いを詰めて数撃叩きあっていた。
「ひぃ、ひぃいいいいいいーーー」
情け無い声を上げて、這這の体でとかくその場から逃れようと商人があがく。だが、寺の隅へと這った所で、何故かそこにあった罠にはまり、身動き取れなくなっていた。
ひぃひぃと煩い商人に閉口しながら、バーバラが素早く縄を巻く。
「わしらの用はこれで終わりじゃ! これにて引き上げる!!」
叫ぶと同時。刀の打ち合うすんだ音が辺りに響く。刀を弾きあい、交差して止まった両者。共に大した怪我は無い。肩で息をしているものの、しっかりとした足で立ち上がる。
睨みあう事しばし。不機嫌を隠さないままに季武が後ろを向くと、商人を抱えバーバラと共にその場を離れる。
「撤収ですか!? 急いでください!!」
斬りつけてきた刀を弾くと、レナーテは声を荒げると同時に裏門へと走り出す。
「逃がすか!! 虚仮にしやがって」
頭に血が上ったか。苦さじと人斬りたちもついて来る。とっさに妙な方向へ走りかけたティリックに裏門へ逃げるよう示唆すると、竜良は改めて人斬りと対峙する。
「何があっても彼らを助けます。手出しはさせません!!」
「大丈夫。皆、外に出ました。退いて下さい」
そこへ真由の声がかかる。牽制で刀を振るうと即座に身を翻し竜良は裏門へと走る。後ろを見せた竜良に即座に人斬りは追いかかろうとした。が、そこへすかさず炎の玉が飛んできた。着弾するや轟音上げて四散。派手に火の粉があちこちへと飛ぶのを見、人斬りたちは慌てて騒ぐ。
「この人で最後。後は任せました」
竜良が門を潜り抜けてきたのと同時に、真由が指示する。
待ってましたとばかりに新撰組の隊服を来た面々が寺の中へと飛び込んでいく。
背後から聞こえる悲鳴に振り返ることも無く、彼ら+一人はその場を後にしていた。
「思えば運のいい奴だぜ。俺たちがいなけりゃ、まとめて殺されてて当然だったんだから」
役所まで戻り、まだ青い顔している商人に、季武は笑いかける。やはり衝撃が大きかったのか、がくがくと震えてしゃべる事もまだままならない。
その様を横で見ながら、ひとまずは無事に依頼が終えた事を冒険者が祝う。
「人斬りは赦せませんが‥‥今はこうして無事で皆さんと平和な一時を過ごせる事に浸りたい気分です。人は、絶対に幸せな一生を終えなくてはいけないと思いますから───」
後に残された人斬りたちがどうなったかはまだ伝わってこない。が、お世辞にもいい目にはあってないだろう。
そうある事が果たしていい事なのか。それを思うと複雑になりながらも、笑みを浮かべる竜良に、季武が力強く背中を叩く。
「いい事言うじゃねぇか。‥‥という訳で幸福の為に、いっちょこっちの質問に答えてくれないか」
言って、季武は商人に詰め寄る。
がっくりとうなだれる商人が、全てを白状するのも時間の問題だろう。