【姫路】 涙の代わりに舞い散る花を

■ショートシナリオ


担当:からた狐

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 24 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月03日〜04月14日

リプレイ公開日:2006年04月11日

●オープニング

 播州姫路藩。
 青山鉄山による藩主乗っ取り事件を終えて数ヶ月。正当なる藩主として池多白妙を迎え、交代劇による後の雑事もひとまずの区切りを迎えていた。
 そんな折に、冒険者ギルドに依頼が届く。それはむしろ招待状というべきか。

「来たる吉日。姫路藩にて花見の宴を開くらしい。先の謀略事件において、冒険者たちからもいろいろと世話になったし、是非出席して欲しいとの事だ。
 もっとも花見と言っても、場所が増衣山と言う事は、実質、先代藩主・池田輝豊の冥福を祈る宴という事だな。なので、あまり羽目を外し過ぎるなよ」
 先代藩主は花見の宴にて謀殺された。時期も場所も合わせたこの宴は、つまりそういう事なのだ。
「――そいでもって、」
 軽く釘を刺してから、ギルドの係員は真剣な顔で、冒険者達を見回す。
「宴の席にて、各地での昨今の情勢についてもいろいろと知りたいそうだ。難しい話でなく、冒険者たちが感じている各地の様子を私見混じり雑談でもいいから聞きたいらしい」
 この所事件ばかりがやけに目立つ。
 大きな所では、京では平織虎長の暗殺があり、また、藤豊の薩摩も裏で何やら画策している模様。また、源徳もお膝元の江戸が実にきな臭い。
 姫路の池多家は長く平織に仕えてきた家ではある。主たる虎長がいなくなろうが、家は続いているのだしこれまでと変わらず仕えるべきなのが武士というもの。
 が、白妙の母は源徳の遠戚に当たり、よってそちらとまるきり無関係でいる訳にもいかない。加えて、山陽道――西貿易の入り口という藩の立地上、経済面では藤豊に頼る所も大きかった。
 謀略騒ぎや藩主の交代劇で藩の力自体が落ちており、その骨子もまだ固まっているとは言いがたい。下手な対応はまた藩を混乱させかねない問題。
 故にどのように身を振るべきか、その対応を計るべく今はあちこちに気を配っている最中。
 またそういう大きな事件は否応無く耳に入ってくるが、その影に隠れて起こる小さな事件は見落としがちになる。そこから姫路にも影響するような何かがあるというなら、それは早めに知っておく必要もあるし、無いなら無いで安心できるという訳だ。 
「勿論、藩でも各地の内情は探っているだろうしな。使者殿の口ぶりでも、むしろその補強となるような話が聞けるようなら重畳程度の気でいるようだ。
 つー訳で。気合い込まずに花見を楽しみながら、雑談の一つでもしてくりゃそれで十分だろ」
 仮にも藩が開く以上、豪勢な宴にはなるだろう。思い思いに楽しんでこいやと、係員は手を振った。

●今回の参加者

 ea1057 氷雨 鳳(37歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3741 レオーネ・アズリアエル(37歳・♀・侍・人間・エジプト)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7814 サトリィン・オーナス(43歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb0084 柳 花蓮(19歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb0971 花東沖 竜良(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4467 安里 真由(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

尾花 満(ea5322)/ 逢莉笛 鈴那(ea6065)/ 鹿角 椛(ea6333

●リプレイ本文

「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
 姫路藩での花見の宴。満開に咲いた花の下、居並ぶ姫路の藩士たちと、彼らに囲まれ静かに佇む姫路藩藩主・池多白妙。
 仰々しい雰囲気の中で、招かれた冒険者たちは礼を述べる。
 白妙に抱きつきたかったレオーネ・アズリアエル(ea3741)だが、藩士たちの目がある。無礼打ちされてもつまらないので、ここは涙を飲んで席に座していた。
「このような場所まで足を運んでいただき、嬉しく思います。――少年も、お元気そうで何より」
 最後の言葉は冒険者たちにでなく、彼らと共に座す少年に向けて。
 姫路に住む少年で、名は小銀太。彼もまた先の姫路に関わった一人。なので、これも縁と誘った所「んな堅苦しくて大変そうな所、ヤダ」と一蹴。――したので、レオーネが拉致って来たのだ。
 庶民には縁の無い場に列席して、おかげで今は緊張でがちがちに固まっている。白妙に微笑みかけられて真っ赤になり、息も絶え絶えに礼を述べていた。
 他にも姫路動乱で関わった者は多い。多くは京に住む彼らを、柳花蓮(eb0084)はそれぞれに誘ったのだが、都合つかずに生憎ここに姿は無い。
「こういう席で大っぴらに楽しむ事は出来ませんが。故人の為にも少しは楽しんだ方が、先代も喜ぶと思います。無作法でない程度に楽しませて頂きますね」
 微笑して用意してきた花束を渡す花東沖竜良(eb0971)に、白妙も笑みを持って了承する。ただし、その笑みはどこか寂しげに見える。
 それも当然か。宴は、故人を偲ぶ物でもあった。
 ここは先代藩主であり白妙の父である池多輝豊が、逆臣・黒松鉄山によって討たれた現場。数年前の惨劇の日も、やはり桜は静かに散り、降り注いでいたのだろう。
「私は異国の僧侶でありますし、先の動乱には関わってませんが。故人となった藩主さまにささやかですが、祈りを捧げたいと思います」
 亡き恩師の姿を胸に抱いて、サトリィン・オーナス(ea7814)が黙祷を捧げる。
 厳粛な雰囲気から宴は始まりを告げた。
 
「これがサクラか‥‥。儚そうだが、綺麗だな」
 蒼天に映える薄紅の花は、はらはらと花びらを舞わせる。繊細なその動きに目を向け、アラン・ハリファックス(ea4295)は静かに感想を述べる。
 今回の冒険者には、最近日本に訪れた外国人も多い。桜に限らず、花見自体が珍しいようで終始物珍しげに花を見上げていた。
 藩の方で用意された酒や料理が振舞われ、冒険者たちも持参した土産を差し出す。安里真由(eb4467)が酌をしてまわり、竜良も茶道の腕前を振るったり。
「何か芸を持っていればよかったのですが‥‥故郷の話でも喜んでいただけるでしょうか?」
「是非に。異国の話は興味深いです」
 ユリアル・カートライト(ea1249)が、促されてキャメロットの話を披露。遠い世界の話を、藩士たちは物珍しげに聞き入っていた。
「それでは。故人の安らかな眠りを祈り、笛と舞をご披露させていただきたいと思う」
 氷雨鳳(ea1057)と月代憐慈(ea2630)、そして花蓮が宴の中央に進み出る。
 奏者は鳳。憐慈は片手で弄んでいた扇子を握りなおすと、気を引き締めて構える。
(「そういえば、去年もこれくらいの時期に桜の下で舞ってったけな‥‥」)
 懐かしさに笑みを見せながら、鳳の静かでゆっくりとした笛の音に合わせて鎮撫の舞を舞い始める。花蓮がファンタズムで蝶の群れを作ると、――ファンタズムでは動かないのが難であったが――雰囲気とあいまってその場にいた人の目を強く惹き付けた。
「見事な技の数々、見事でした。父たちもきっと喜んでいるでしょう」
 軽く伏せた目を押さえると、白妙は顔を上げてねぎらいの言葉を渡す。
「ありがとうございます。‥‥不躾ながら、その後の姫路の御様子はいかがなものでしょう? 動乱に関わった友人が気にしていたものですから‥‥」
 畏まりながら花蓮が告げる。
「今の所はつつがなく。まだ及ばぬ所はありますが、何とか落ち着きは取り戻せたかと思っております」
 答える白妙に、影でこっそりと小銀太が頷く。以前は活発だった妖怪や悪党も取り締まりが強化され、少なくとも市井では安心して道を歩ける程度にはなったとの事だ。
「ただ――、姫路はどうにか治まりましたが、藩の外は何やら落ち着かないですね」
 周囲の情勢は気になる所。冒険者を宴に招いたのも、ある意味それを聞き出さんが為。きっかけを掴んで、暗に訊ねてくる。宴の砕けた雰囲気を装いながらも、周囲の藩士たちも注意深く、冒険者たちの言動に耳を傾けている。
「そうですね‥‥江戸は大火で荒廃しましたが、次第に復興してます。向こうの冒険者たちもいろいろと活躍しているようですし、庶民もたくましく生きてますね。私も向こうでところてんなる物を作るお手伝いをいたしましたし」
 首を傾げつつ、花蓮が告げる。
 江戸の大火が起きて数ヶ月。数万の民が死にその十倍の人数が焼け出された未曾有の惨事は、この冬にも一万を越す餓死者・凍死者を出したりと今だその影響から抜けられない。その現状から逃れるべく、武蔵を離れる者も相次いでおり、屋台骨はぐらついたまま。
「市井が活気付くのはいい事です。ただ、それ程の大事の支援となると源徳さまも大変でしょうね」
 金は無尽蔵ではない。出資すればどこかで徴収せねばならない。市井からのそれは望めぬ以上、さてどうなっている事やら。
「江戸は大変そうだな。京都も京都で大変だが」
 真由にちょっかいだそうとすると、それとなく竜良が間に割ってくる。その竜良に絡んでたりもしていたアランだがさすがに飽いてきたか、話に加わる。
「生業の方で少々噂を聞く事もありますが。雑多にいろいろありますね。」
 山本佳澄(eb1528)が聞いた話を幾つか述べる。
「まぁ、大きな物は決まってくるがな。――宴の席だ、一つ詩で御披露させてもらおうか」
 アランが咳払いを一つすると、見事な歌声を披露する。事前に知り合いからの手解きを受けたりして、その詩は淀み無い。

――諸侯 大義を捨て おのが野心の赴くがまま 天下への邪心露わにす
  浅葱 虎の血に浸り紅に染まる
  紅紫 地の底で芽吹き 天下に根を張らんとす
  下天 黄泉者迫るもなお人争う なんと嘆かわしや――

 浅黄の比喩に、十番隊の隊士である鳳が少し顔を顰める。虎長を討ったと新撰組に対する非難の声も大きいが、結局の所、その日に何があったのか詳しくは分かってはいないのだ。
「後、もう一つ。友人から聞いた話では、新撰組三番隊隊長はお触りが好きだとか」
 とぼけたアランの一言に、場にいた者が一斉に吹き出す。
 所属する隊は違えど、同じ新撰組の話。鳳だけが軽く目を逸らしている。ま、飲んだ時限定の話らしい。
「耳が痛い‥‥。私もその諸侯の一人にはなりえるのですから。‥‥ただ、平織さまが討たれ、その死の疑いが源徳さまに向けられている以上、この混乱を収めるに足る力を持つのはもはや藤豊さまぐらい。さすれば、その膝元である薩摩の力が増すのはいたし方の無い事かもしれません」
 問題は薩摩の真意はどこにあるのか、だ。本当に邪心故なのか、それとも正義を信じての行動なのか。それを判別するのは難しい。正義ゆえでも己と相容れなければ、また悪と判じかねず。
「心配しなくても、大丈夫♪ 実はね、私、黒虎部隊に入ったの。上司の人が面白いおもちゃ‥‥もとい人でねー」
 弾んだ調子でレオーネが告げる。平織直属の精鋭部隊の名に、白妙はおろか藩士たちもほぉと感歎の声を上げている。
「江戸だって元気にやってるわよ。私が江戸に居た頃、芸達者なカワウソと親しくしていたの。彼が今度、動物劇団を作ったそうなのよね。一度興行に呼んだらきっと面白いわよ♪」
 にっこり微笑むレオーネに、白妙もまた笑みを向けたのだった。
「私はこっちに渡って日も浅いけど、気になったのは鬼の話かしら。以前私のいた欧州から流れ着いた誰かが暗躍しているのだとか」
「知ってます。ノルマンから来た楽士だとか‥‥。鬼に知恵をつけて悪しき行いをなす者。質の悪い魔物かも知れませんので、十分に用心して欲しいものです」
 サトリィンに真由が頷いてみせる。
「鬼が悪さするのはよくある話ですが、そのような者がいるのですか。‥‥京の闇は深いですね」
 困惑しきりに白妙が息を吐く。人による権謀術数もだが、妖怪の跋扈もまた京を悩ます問題の一つ。
「外国人の仕業というなら、私も関わってますね。と云っても伊勢の話でまた別件ですが」
 前置きを入れてから、ユリアルが話し出す。
「正体も変魔と分かってます。イギリス人のウィザードに姿を変えて殺人を犯し、罪をなすりつけていたのです。そんな事をした理由は不明ですけど、どうもそのウィザードの行動が邪魔だったのではと推測されてます。
 伊勢は他にも雪女が出ましたね。春が近いというのに、山を雪山に変えて雪狼を従えて。かなり手強く、追い払うだけになりました。また姿を現すかのような雰囲気だったので、要注意です」
 伊勢、の二文字に憐慈の顔が非常に甚だしい歪みを見せた。
「ギルドで伊勢の妖怪退治みたいな依頼を見た気がしてたけど、それか? 俺も伊勢はちょっと関わってて、江戸から巫女装束を運んだんだが‥‥」
 うっかりその時の事を思い出したのだろう。憐慈の動きが止まる。表情も凍りつき、目は虚ろに宙を彷徨う。
 告げないながらも、何かそら恐ろしい事が起きたのだろうと推測できよう。
「伊勢、ですか‥‥。妖怪が出るなどどこにでもある話ですが、かの地は信仰の地。大事でなければよいのですが‥‥」
 伊勢神皇家とも関わりが深く、庶民にとっても信仰の場である。心の支えとなりうる地。そこが荒れるのは、庶民の心にも影を落としかねない。
「しかし、世の中そんなに物騒な話だけでもない。例えば、京でもいろいろと事件は起こるが、冒険者たちの間では動物を飼う機会が増えている。店で売ったりもしているが、卵から育てるのが一般的かもしれないな。私も卵から育てて、鴎にまで成長した」
 鳳が告げる。
 確かに、今回訪れた冒険者たちも、全員何かしらの動物を飼っている。犬猫の愛玩から実務的な馬などいろいろと。中には、海馬を持つ者までいたり。
「知人からの話によると、もしかしたら鴎じゃなくてさらに別の何かかもしれないのだが。もしそうなら何になのか楽しみだな」
「確かに。何かいろいろと凄いものが誕生してますしね」
 噂などによれば、実にとんでもない物までいるらしい。
 本当に嬉しそうに告げる鳳に、真由はその事を思い出す。
「その動物を売り出しているのは越後屋さんだとか‥‥。あの商売上手な所は見習いたいものです」
 白妙もまた別の意味で頷く。
 既存の動物の範疇からも超えたペットも続々登場。そういうのを売り出す越後屋の謎は深まるばかり‥‥。
「気分を変えて。ここらで一杯どうかしら? この杯にお酒を入れると何故かとても甘くなるそうよ」
 何となく沈黙が降りた宴に、こほんとサトリィンが注意を引く。飲みすぎには注意してね、とスウィルの杯を差し出すと、珍しい魔法の道具を藩士たちは興味深げに見回していた。


 その後も雑多な話で、宴は続いた。酒を飲んだり飲まれたりと騒ぐ事もあったが、全体の雰囲気としては終始厳かだった。窮屈とまではいかないが、気軽に楽しめたかと言うとそうでもなく。
「ま、羽伸ばしにはなったかな」
「ええ、たまには静かな宴もいいものです」
 背筋を伸ばす憐慈に、竜良も描いていた手を止める。真由が覗き込んだ一枚、宴の風景が描かれていた。降る桜の下、どこか憂いの表情を見せている白妙の姿も‥‥。
「本当に美しいわね。ジャパンではこの散り行く様を見て春の宴を催すものなのね」
 サトリィンが翳した掌に、桜の花びらが舞い落ちてくる。
 儚さ、可憐さ、潔さ。桜の象徴するものは多い。
 その桜の下での会合が、今後に何かをもたらすのか。それは誰にも分からない。