対決再び 兎と亀?
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■ショートシナリオ
担当:からた狐
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:04月08日〜04月13日
リプレイ公開日:2006年04月17日
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●オープニング
京の街には兎が住む。
兎といってもただの兎では無い。人に化けられる化け兎で、うさと呼ばれている。元は江戸に住んでいたのだが、崇拝するお月様を世に広める為、京へとやってきていた。
とある陰陽師の屋敷に潜り込み、日夜、お月様を広げるにはどうしたらよいかと思案する日々。
まず、京都の酒場にお月様を広めて信者を増やす事に成功し(‥‥と思っているだけだが)、寺田屋の影からお月様な品々を食べてる冒険者達をほくそ笑んで見ている時だった。
「見つけたぞ、馬鹿兎!!」
京都中に響き渡るような大声で、呼びかけるものがあった。
何事と店内も通りも振り返る。注目を浴びるのも気にはせず、そこにいた彼は肩を怒らせうさを睨みつけていた。
それは珍しい者だった。
緑の皮膚、背には甲羅、手足には水掻きがつき、とがった口。そしてその頭は綺麗な禿――ならぬ皿を持っている。知る者が見れば、そいつの正体は一目で知れる。
日本ではジャイアントやパラと並ぶデミヒューマン。生活の違いからか会う事は少ないが、それでも確かに傍にいる良き隣人種族の‥‥、
「亀!!」
「河童じゃーーーーーっ!!」
戦慄しながらもびっしと力強く指差して断言したうさに、河童は怒りの訂正を吼える。
「むぅー。緑で甲羅で水掻きは亀なのー。まだ、そんな嘘つく子は悪い子決定! 月に代わっておしおきうりゃ☆」
「うぎゃああ!!」
名乗りそこそこ。傍らの杵を手にすると、うさは亀へと振り下ろす。狙い違わず、脳天に振り下ろされた凶器に緑の亀が青い顔して慌てて飛び退いた。
「ば、馬鹿野郎! 河童に皿は大事なんだぞ! 何かあったらどうすんでぃ!!」
「大事なのかー。大事なのは大事なんだから、大事にしなくちゃ駄目なんだ」
皿を抱えて震える亀に、妙な納得をしてうさは杵を下ろす。
「そんで、亀? 何しに来た?」
「亀じゃねぇ、河童だーーー!! いい加減それを認めやがれと江戸のお山に言ったらお前はいなくて、代わりにいた兎に聞いたら京に行ったって言うんで、探しちまったじゃねぇか、こん野郎!」
「あ、うーちゃんたち元気してたー?」
「ああ、元気は元気だったな。そうそう、爺さん婆さんからこれお土産預かってきた」
「わーい♪」
荷物から包みを出して手渡す河童に、諸手を上げて受け取るうさ。江戸からの土産を大事に抱えてしまい込むのを確認してから、おもむろに咳払いをし、今度は亀の方がうさにびっしと指を突きつける。
「ともかく! ここであったが百年目! 今こそ積年の恨みをいざ晴らし、河童は河童だと認めやがれってんだ!!」
「むーーぅ! 亀は亀なの!! 逆恨みする子は逆さまにひっくり返ってじたばたしてたらいいの!!」
両者、一歩も引かずに睨みあう。
が、やがて鼻息荒く並んで都大路を走り出す。
飛び込んだ先は冒険者ギルド。うさはしっかり途中で見つけた保護者(?)の陰陽師を確保までして、
「「こいつをコテンパンに伸して、泣いて喚いてごめんなさい言いながら間違いを認めさせるのを手伝え!!」」
兎と亀。互いを指差し、きっちり揃った依頼内容。それが気に入らないのか、両者、また面つき合わせて睨み合う。
「‥‥まぁ、事情はよく分からないけど、当人たちの気の済む様にすればいいんじゃない?」
「そうだな。ここで喚かれ続けても困るし」
いがみ合う二人を見つめながら、陰陽師・小町とギルドの係員は疲れた声でそう告げた。
●リプレイ本文
「まず場所を移動しましょう。話はそれからですね」
物見高い周囲からの好奇の目。嘆息つきつつ、藍月花(ea8904)は陰陽師・小町に家を貸してもらえないか交渉して、了承を得る。
場所を借りついでに台所も借りる。茶団子を作り、友達からご挨拶がてらお茶をおすそ分けしてもらい振舞えば、ちょっとした茶飲み雰囲気の団欒を味わう。庭には春を彩る花も咲いており、軽くお花見気分。
一息ついたところでおもむろにヲーク・シン(ea5984)が口を開いた。
「それで、うさの性別は一体何なんだ?」
「そっちからか!!」
「とても重要な事だろうが!! 俺の行動理念に関わる一大事だぞ!?」
嘴開いて突っ込む河童に、ヲーク、真面目くさって返答している。
真っ向から睨みあう二人。それをよそに化け兎のうさはずずっと茶をすすり、
「意味はないけど、内緒なのー」
何故か爽快な笑みを浮かべて明るく答える。
「そこを何とか!」
「駄目ー☆」
食い下がるヲークに、うさはぶんぶんと子供らしく大きく首を横に振った。
「男女どころか‥‥化けた見た目が子供でも、実際は恐ろしい程年寄りかも知れねぇんだぜ?」
「えへん」
呆れる河童に胸張るうさ。奥が深いぞ妖怪変化。
「‥‥‥‥とりあえず、お一つどぞ」
「わーい♪ お爺、ありがとう」
ここは仕掛けるべきか否か。非常に悩み苦しみながらも、とりあえず甘い味の保存食で餌付けだけしてみるヲークだった。
「それにしても、前に会ったのが一年以上前‥‥。それでまさか江戸から出てくるとは思いませんでした」
「行動力あるよなー、亀」
「亀じゃねぇえええええ!!」
呆れる御神楽澄華(ea6526)に、ヲークも頷く。
江戸から京まで船だと四日、徒歩だと半月程もかかってしまう。けして楽な旅ではなし、名前の訂正の為だけにわざわざ来るものがいようとは。
「実は喧嘩するほど仲がいいとか?」
「ちっがーーう!! これは誇りと名誉の問題!! いつまでも亀なんぞと言われ続けていては、我ら由緒正しき河童の名折れじゃないか!!」
小首傾げる澄華に、拳握って告げる河童。
「その名誉とやらは、名前を正確に呼ばれる事か。で、そっちも名前は正しく、ね」
まじまじと物珍しげに河童を見ていたウィルマ・ハートマン(ea8545)が、うさを見つめなおす。話を振られて当初の目的を思い出したか、うさがむっと顔を顰めた。
「難儀な話だな。‥‥さて、どうしたもんだ?」
ぺしぺしと河童の皿も叩いてみながら、他の冒険者に尋ねる。そう言われても、急に良案は出てはこない。
「とにかく。お二方とも、相手をコテンパンに伸して泣いて喚いてごめんなさい言いながら間違いを認めさせられればいいんですよね?」
「「うん」」
月花が訊ねると、揃って声を合わせて頷く。確かに仲がよさそうだ。
「では話は簡単。両方を伸してしまえば双方の依頼が無事達成‥‥いえ、冗談ですから」
にっこり笑って告げた月花だったが、両者、即座に各々武器を構えて殴り込みに掛かった。小都葵(ea7055)が慌てて間に止めに入り、月花も冷や汗たらしながら否定を入れる。
「力じゃ解決できませんよ? ちゃんと話し合いで良策を考えましょうね?」
葵に宥められて武器は控えたが、まだ顔つき合わせて睨みあっていたり。
「んーでも、良策といっても、他にはじゃんけんとか‥‥」
「「じゃーんけん」」
考えながら澄華が告げると、やっぱり言われた途端にじゃんけん始める二人。
「ぱー」「ちょきだ」「んじゃ、ぐー」「後出しはずるいぞ、ぱーだ」「そっちはさらに後出しでずるずるなの、ちょき」「だからそう言うのがずるというんだぱー」「亀はずるずるでずるんちょさんだちょき」‥‥‥。
「‥‥止めましょう。とても不毛です」
涙無くしては見れなくなってきた争いをやっぱり葵が止めに入る。
「えっと、それじゃ陣取り合戦とかは如何でしょう? 隠した旗を取り合って指定の場所に先に着けば勝ちとか」
いい加減、澄華の笑顔も引き攣ってきている。それでもがんばって意見を述べてみる。
「でも前に亀はそういうのでズルッケした」
「んだと! お前だって妙な助っ人呼んで手助けしてもらってたじゃねぇかよ!!」
不満そうに指差すうさを、河童はすぐに言い返している。どっちもどっちなのだが、お互い非を認めたがらない。また互いにいがみ合う二人を、笑顔に疲れながらもやっぱり葵が間に割って入る。
「まぁ、ここはあだ名で呼んでもらうちゅうんが一番無難ですやろな〜」
お茶を啜りながら、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)がのほほんと告げる。
「ですね。それで妥協できないなら、本当に勝負が必要でしょうけど」
澄華も頷く。
「待て。それは根本的解決にならないぞ!!」
「まぁまぁ」
否定を入れてきた河童を宥め、うさぎを残して一端部屋の隅へと移動する。
「ほら、うさぎはちょっと口の悪い子やろ? 他の誰が言うてる訳でも無し、そういうもんやと諦めてしまえばそれ程気にならへんもんどすえ。所詮子供のいう事やしねぇ。‥‥実年齢不明やけど」
「うささんは思い込んだら定着してしまうようなので、勘違いを訂正するのは難しいと思います。ここは河童さんが大人になっていただけませんか?」
「う。ま‥‥まぁ、そういう事なら仕方ないかもしれないが‥‥」
小声でひっそりニキと葵からお願いされて、河童も少し考える。
「そういえば。河童さんのお名前は何と仰るので?」
肝心の事を聞き忘れていた。月花が問いかけると、厳かに河童は胸を張り。
「ああ、俺の名前は聞いて驚け!」
「亀!!」
間髪いれずに、気配を察したか待つのに飽いたのか。うさが口を挟んでくる。
‥‥しばしの沈黙。
「俺の名前は!!」
「亀! かめ亀カメか〜〜〜〜〜め〜〜〜〜!!!!」
さらに声を荒げた河童に、負けじとうさも声を張り上げる。
「だーれーが、亀だーーー!! いい加減、名前をちゃんと覚えようという気にはならんのかこの馬鹿うさぎ!!」
「馬鹿は狸で十分だもん!! 間違いを認めない亀が悪い子!!」
きっとにらみ合い、怒鳴りあう。もう何回目になるのか馬鹿らしくて数えてもいられない。
「うっるせえええええ!! 少しは黙れ!! 終いにゃおまえらまとめて皮剥いで血抜きして燻製にするぞ!!」
取っ組み合おうとした両者に、ウィルマが矢を番えて引き絞る。口元は笑っているが、目は結構マジだ。
「まぁ、気の済むまで喧嘩するのもまた良しですかしらねぇ。他に被害だすようなら両方簀巻きですけど♪」
月花も縄を取り出し、にこりと微笑む。
「あの、えーとですね。呼び名の話に戻しますけど。かっちゃんと言うのはどうでしょう?」
「‥‥‥‥。それって亀の『か』か?」
葵の提案に河童は少し不満そうにしている。
「でも、河童の『か』でもありますし。歩み寄らないと妥協は出来なさそうで、ずっと亀と呼ばれてしまいますよ」
「うーん、しかしなぁ」
説明するもまだぶちぶちと文句たれてる河童。
「それじゃ、『たーくん』ってのはどうだ?」
横合いからヲークが口を出す。
「なんで『たーくん』なんだ?」
首を傾げている河童。
「たったかたったったー?」
「‥‥そんな愉快な名前、ヤダぞ」
「いや、そうじゃないけどな」
同じく疑問に思ったうさが首を傾げて告げると、河童が気難しそうに告げた。
タートルの『たー』だが、それを正直に話せば臍を曲げるのは目に見えている。
「とにかくだ! 仮の名にしたってもっと河童らしい素晴らしい名前をつけてもらわないと!!」
「んじゃエロガッパ」
「何でじゃああああああ!!」
即座に言い切ったヲークに、河童が叫びを上げる。
その大声をさらりと無視して、ヲークはさわやかな笑みを浮かべた。
「俺の国じゃ有名だぞ。カッパとは露天風呂で女湯を覗く素晴らしい種族だと」
「んな訳ねーだろ! んな事するのはごく一部でその他はちゃんと川辺で子供を捕まえて投げ飛ばしたり、尻に触ったり、胡瓜盗んだり、厠で待ち構えてみたり!!」
「それも駄目じゃないですか」
列挙された数々に澄華が頭を抱える。ちなみにそんな事するのも当然だが極々一部だけのはず。
とはいえ、河童はそんな呟きももはや耳に入らない様子。緑の顔を歪ませて地団太踏んでいる。
「一体、どこの国のもんだ!! そんな事を言ってやがるのは!」
「イギリス。ちなみに江戸から月道で行けるぞ」
してやったりと心で舌を出すと、何食わぬ顔で餞別とばかりにヲークは交通費を渡す。
「よろしかったらこれもどうぞ」
葵が竹筒に入った水も渡す。皿が乾いた時用に用意していたのだ。
「くー、ありがたいねぇ。‥‥見ておれ、イギリス。手前らの間違い、とくと思い知らせてやるうううう!!」
優しさに触れて涙を流すと、きっと顔を上げる河童。気合も十二分に溜めると、恐ろしい速さで小町宅を後にしていった。
「‥‥行ってまいましたなぁ」
土煙上げて遠ざかる緑を見送りながら、ニキがぽつりと呟く。
「やっぱりというべきか。まともな決着つかずに終わっちゃいましたね」
澄華が凝りを解す様に肩を動かす。これまで通りといえばこれまで通りなのだが。
「結局、この依頼って何だったんだ? あいつ、何しに来た訳?」
「さあ?」
疑問を口にするウィルマに、冒険者始め、うさまで首を傾げて答えている。
「まぁ、いいじゃないですか。最近死体だの浮気だの、殺伐とした話ばかりでしたからね」
たまにはこういうのがあっても。
言って、月花は静かにお茶を飲む。
確かに。何だかとても平和だった事は間違いない。